照-teru- 魔法編 episode of side-IF 作:ホーラ
入学式会場まで摩利は照を連れて行く。手を繋ぐことまではしなかったがついてきてるか随時確認したので再び照が迷子になることはなかった。
「入学式会場はここだ。入るぞ」
第一高校の校門を通り過ぎ、少し進むと入学式が行われる場所である講堂にたどり着いた。後ろの照は黙って頷いて摩利の後をついてきた。
「ここまでくっきり分かれるとはな」
入学式が行われる講堂はどこに座ってもいいはずなのだが前半分が一科生、後ろ半分がニ科生という風に綺麗に分かれている。
それは入学式前から一科生とニ科生、明確な線引きされているのがわかる光景であった。
摩利はエリート思考に染まっておらず、逆にそんなこと気にすることはないのだろうと思っているのだがそんなことをここで言っても仕方がない。
摩利は後ろのやつはどんな反応をしているのだろうかと興味本位で振り返ったのだがまた後悔することとなった。
照は構内を見回していた。いや顔を動かしていたわけではないからこの表現は不適切かもしれない。だが摩利は見回していたという表現が正しいように感じた。彼女の目は最初に私を見た時の目。会場全体の生徒を推し量ってるような様子であったのだ。
そんな目もまたすぐに収まった。
「座らないの?」
「あ、ああ。そうだな」
気圧されてしまっていたので摩利の返答は淀んでしまっていたが、照は気にすることなくトコトコと歩いていき真ん中より少し前の席に座る。空気の読めないやつかと思ったが、案外空気の読めるやつなのかもしれない。
摩利が照の横に座ると、照が話しかけてきた。
「そういえば、入学式の新入生総代の挨拶はあなたがやるんだと思ってたけど、違うみたいだね。てっきり魔法ができる人に見えたんだけど成績悪いんだ」
「私たちの代には十師族直系が2人いるからな。そのどちらかが新入生総代なのだろう」
成績悪いっていう言葉に少しカチンときたが、馬鹿にしてる様子はないので、それは彼女のトップ以外は皆悪いという価値観なのであろう。
摩利は実際百家末流の渡辺家の娘であり、そこまで渡辺家は強い魔法力を持つ家ではない。だが祖先返りといえばいいのだろうか。摩利は一族の中では突出した強い魔法力を持っている。
摩利自身、入学試験時の魔法の実技は十師族の2人とそんなに変わらないと感じていたので理論の方で差がついたのであろう。
そんなことを考えていると驚愕の質問が投げかけられた。
「十師族って何?」
十師族とは日本最強の魔法師の家系であり、魔法界のトップ。古式魔法師も現代魔法師も十師族を頂点にしたコミュニティーに存在し、十師族の当主の名は日本の魔法師にとって知ってて当たり前の一般知識。
非魔法師でも知っている十師族を、魔法師でありながら十師族を知らないことに摩利は驚き呆れたのだ。
「お前そんなことも知らないのか…」
十師族の簡単な説明を照にする。なんでこんな説明を入学式にしてるんだか。
照は本当にとことん変な奴だ。
「ふーん、そんなに強いんだ…」
「お前も魔法師として生計を立てていこうとするなら知っておいた方が…ん?どうした?」
「ううん、なんでもない」
なんか照の目の光が暗くなったのを感じ取って、そう尋ねるがはぐらかされてしまう。
なんとなく気まずい雰囲気になってしまい、そのまま入学式が始まってしまう。
次に口を開いたのは驚くことに照。
それは司会進行に紹介され私の代の新入生総代・七草真由美が壇上に現れた時であった。
「へえー…あの人が」
「さっき言っていた十師族の七草だな」
壇上に現れたのは少し小柄な女子生徒。髪型は黒髪の巻き毛ロング。柔らかい笑みを浮かべているがなんとなく摩利にはわかった。彼女は小悪魔な性格であると。
そんな壇上に現れた真由美は一瞬ひるんだように見えた。十師族とはいえ多数の人の前で話すことに緊張でもしてるんだろうか。
横の照は興味をもう失ったのか壇上ではなく別の方向を見ていた。
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真由美は答辞を終え、生徒会役員の人との話もそこそこに1人で考え込んでいた。
真由美は新入生総代としての答辞をするという大役を務めたにもかかわらず平常心を保っているように見えるが、実はそんなことはなかった。
摩利が予想したように真由美が答辞を緊張したとかそういうことではない。
彼女の心を占めていたのは驚愕と原始的な恐怖。
真由美は見られることに慣れている。十師族の直系であり、それだけでも注目される立場にあるが、それに加え真由美は可愛らしい容姿をしているのでそれはなおさら増幅されるのであった。
答辞の時に向けられた目線はほとんどがいつもの目線。羨望や嫉妬、そんな目線は慣れっこである。
しかし、今日向けられた目線の中にあったのは異質なもの。観察という言葉が一番近いかもしれないが少し違う。家のパーティーでは七草家の長女として値踏みされるような視線を受けることも多いが多いがそんな視線とも違った。
言うならば、何か自分の大切な物を見抜かれるようなそんな視線。敵と認識された瞬間にその視線の主は自分の弱点を既に知り尽くしており対応されてしまう、そんな気がしたのだ。
真由美は答辞を読んでいる最中、その視線の主を探すために真由美自身が持つ先天性のレアスキル『マルチスコープ』を発動させた。
マルチスコープとは実対物を様々な方向から近くする視覚的な多元レーダーのようなものであり、こういう人を探す場合にはその人に気付かれず探すことができるのでぴったりな魔法だ。
視線が飛んできた方にレーダーを向けるとすぐに視線の主は見つけることができた。
今まで見られてきた目とはやはり違う目。視線の主の女子生徒はそんな目で壇上の私を見ていたが、突然視線の方向を変えマルチスコープ越しに目が合った。
当然マルチスコープで私がどこから見ているかというのは知りようがない。たまたまこっちに目線を移したと考えるのが妥当だ。しかしマルチスコープで見る場所を少しずつ変えているのに視線は付いてくる。マルチスコープ越しに見られているとしか思えない。
恐怖で今すぐ壇上から逃げ出したかった。しかし、そんなことをすることはできない。真由美は気合を入れて答辞を読みきったのだ。多少顔が強張ったのは仕方がないことだろう。
「なんなのあの子…」
そんな思わず出た真由美の呟きに答える人は同じ控え室にはいなかった。
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やることがなく暇だった入学式を終え、今日はIDカード交付を終わらせれば今日は帰ることができる。その交付場所へ入学式会場と同じく案内してもらった私は疑問に思ったことを隣の同行者に訊ねる。
「あの体格がいい大きな人も十師族?」
「ああ、あいつは十文字克人。第十研由来の家で障壁魔法を」
「得意としている。固有魔法はファンランクスっていう魔法。ありとあらゆる魔法を防ぐことができるんだよね」
「あ、ああ…そうだ」
私は相手が言うだろうということを先回りして言う。返答内容は肯定的内容であったが、 声色は疑問を持っているようであった。
「この学校はすごいんだね。十師族の直系の人が同じ世代に2人もいるなんて」
「この学校は国際魔法ランクに重点を置いているから、9校の中でもトップクラスにレベルが高い。それに七草と十文字は関東を中心に活動している家だ。一高に来るのは普通のことだな」
「親切な人も関東出身なの?」
「そうだ。お前もか?」
「ううん、私は長野出身」
「長野出身なら魔法工学を重視してる浜松の四校はともかく、金沢にある第三高校の方が近いんじゃないか?」
「なんとなく第三高校は嫌だったから」
「日本海側は雪もすごいしな」
「長野もすごいよ」
そんな話をしていると私たちのID交付の番になった。学生コードが入ったカードと共に自分のクラスも発表される。当然その話になるわけで
「宮永、お前は何組だった?」
「私はA組、親切な人は?」
「c組だ」
親切な人と違うクラスになってしまったが、1科生だけでも4クラスあるので同じクラスになる可能性は低い。仕方がないことであろう。
「違うクラスだけどよろしくね」
「ああ、よろしく」
こうして私の高校生活が幕を開けたのだった。