ヒロアカIF~可能性の波紋~   作:総員一人自警団

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第一話 『始まりの出会い』

”人は生まれながらに平等ではない”

 

 これが齢四歳にして知った社会の現実、と彼は言った。

 それに対して私は深いため息と共にこう返す。

 

「”個性”という名の超常が日常と化した、こんな糞みたいな世界で何を今更言っているのかね?」

「く、糞みたいなって……」

「過去の常識など役には立たんよ、いい加減学習したまえ」

 

 彼の主張を私はバッサリと切り捨てる。

 

 しかし、それと同時に彼の語った昔話を脳裏に思い返していた。主に学生時代を中心に起きた様々な事件──本来であればほとんど関わらないはずなのに、嘲笑うかのように巻き込まれたあの時代。

 その時に被った苦労を考えれば、目の前の彼を仕事で忙殺するくらいは当然の権利と言えなくもないだろう。

 

 うむ、私は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 最初の出会いは偶然だった。

 

 地元の町をふらふらと散歩していた時に通りがかった公園で、何やら騒がしい声が響いてきたのだ。人より多少聴力に優れてはいたので、その喧騒がおそらく子供の喧嘩であると推察……一応そこらにいる普通の子供程度であれば、後れを取ることはないくらいの身体能力はあるので介入してからの鎮圧は可能。

 

 しかし、あまりやらかし過ぎて育ての親に迷惑をかけるのは御免蒙りたい。

 

 私は別に正義のヒーローなどではないし、そもそも法的措置が色々と面倒な世界になっているので動きにくいのも事実である。子供だからといって何処まで許されるかのラインも曖昧なので、尚更行動に移しにくい。

 それよりも孤児だった自分を引き取ってもらった恩があり、その人の持つ”個性”から世間体や立場の重要性は非常に高いのだ。いくら養子扱いとはいえ、身内として早々に不祥事を起こすわけにはいかない。

 

 かといって、完全にスルーするほど薄情にもなれなかった。

 

「……なのであまりに大事になりそうなら介入、かね?」

 

 まあ流石に”敵”が出没しているわけでもないし……と公園内の木々に隠れながら近づいていくと、まもなく喧騒も収まったようだ。

 

 隠れているこちらに気づくことなく、前方から三人の少年が笑いながら通り過ぎて行った。

 羽を生やしたり指を伸ばしているのはまあいい、だが一人だけ掌を爆発させている少年の姿を見かけると私は顔を顰める。

 

(変化形の二人は別に……良くもないが、爆破っぽい個性の彼は特に危ないな。子供だから威力はまだ低いだろうが、衝撃力に手加減が効かないだろうし……)

 

 彼らの興味は完全に収まったようで、問題の現場に戻ってくる様子もない。

 ならば早急に駆けつけて適切な処置を施すまでだ。

 しばらく進むと、公園の遊具の近くに一人の少年が倒れていた。

 

「……彼もおそろしく運がないな、周囲に人影すらないとは」

 

 だからこその先の三人の蛮行だろう。

 

 少なくとも人がいる場所であんなことを強行するメリットはない。一応法律として個性で危害を与えてはいけない、と決まっているからだ。なのでこの倒れている少年がもしそれを訴えれば、普通は彼らに何らかの罰が与えられるはずである。

 ただ現在の風潮としては、所詮は子供の喧嘩であると軽んじられる可能性は高い。もちろん良くない風潮ではあるが、強い個性を伸ばしヒーローを目指すというのが最近の流行でもあるし、その為の尊い犠牲と切り捨てられるだろうと私は思っている。

 

 そもそも三対一で当然のようにやられている時点で、この少年の立ち位置は相当低い。周囲もそれを厳格に咎められない空気なのだろう。

 

(おそらく個性が平凡なものなのだろうね、したがってさっきの爆発小僧君の優越感を浸らせるに何とも都合のいい生贄というわけだ)

 

 まあ、そんな下らない社会の闇はどうでもいいとして。

 

 倒れている少年に近づき、簡単に状態を診察する。

 

 養ってくれた人が医療関係であり、かつ私の個性も治療が”可能”だったこと……それにプラスして特殊な事情から、四歳にしてそれらの知識を使うことに問題はなかった。私の知っている一般世間の常識的には大問題でしかないが、そこは超人社会ということで流しておく。

 

 意外にも傷は浅く……いや、深くても困るけど。この程度であれば、公園で遊んでいてちょっとはしゃぎ過ぎたといえなくもない。ただかなり手馴れている犯行なので、この少年は結構長く上手くいじめられているようだ。

 つまり、精神的にも彼らを訴えることはできない状況でもある。

 

「とりあえず、擦り傷等は簡易の治療を施しておくとして……」

 

 第三者として何処まで干渉するか。

 

 本格的に”治療”するのであれば、間違いなく少年の家庭環境まで切開する必要がある。個人的にはここまで見てしまった以上は放っておけないが、傍から見れば余計なお世話でしかないのもまた事実。

 少年が自然に目を覚ますには少し時間がかかりそうだし、申し訳ないが育ての親に連絡して判断か許可を貰うことにしよう。

 

「──もしもし?今少し時間いい?」

 

 

 

 

 

 

 かっちゃん達に殴られて気絶した僕が目を覚ますと、地面ではなく公園のベンチに横たわっていた。

 

「──あれ?痛……くない?」

 

 爆発する個性を手加減ありとはいえ何回か当てられたのに、体のどこも痛みを訴えてはいない。日が落ちていないことからも、そこまで時間が経過しているわけでもない様子だ。

 

「一体何が……?」

「気が付いたかね?」

 

 状況把握に戸惑っていると後ろから声をかけられた。

 

 驚いて振り返ると、長い黒髪の少女がこちらにミネラルウォーターを差し出している。僕は困惑しつつも、つい反射的にボトルを受け取ってしまう。

 そしてこちらが何か言おうとする前に、少女が目の前に手をかざす。

 

「まずは水分補給をするといい──そして、飲みながらでいいので質問にいくつか答えてくれると助かるよ」

 

 そう言うとかざしていた手でピースサインを作る。

 

 この指は何本に見える?など、まるでお医者さんのような対応に戸惑いつつも少女の真剣な態度に押されて、僕は分かる範囲で質問に答えていった。

 どうやら少女にとっては僕が質問に答えられる状態かを確認したかったようで、一通りの診断を終えると満足そうに微笑む。

 

 ああ、そういう顔も出来るんだと僕は意外にも驚いていた。

 

「……では最後に、君の名前は言えるかな?」

「……みどりやいずく」

 

 それが僕と少女の始まりの出会い。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで私は今、少年の家の前にいる。

 

(ふむ、表札には”緑谷”か……”いずく”ってどう書くんだろう?)

 

 善意の診断からの誘導尋問で名前を聞き出したので、例え少年が断ったとしても住所を調べることは私の持つコネで十分に可能だ。先程養い親からの許可も出てるので、これからの私の行動は一応合法の範疇である。

 まったくもって余計なお世話でしかないが、私の心情がスッキリしないのは論外なのでそれに関しては諦めてもらう。

 

 まあ、少年はそこまで深く考えられずに私を連れてきてしまったが。

 

「じゃあ、お母さん呼んでくるから──」

「あら、出久?おかえりなさい……ってどうしたの?」

 

 玄関を開けようとした少年より先に扉が開き、いかにも主婦っぽい女性が出てきて声をかけてくる。おそらく少年の母親で間違いない。

 私という連れがいた為に、ドアの外でモタモタしていたのに気づいたのだろう。

 

「あ、お母さんただいま!」

「うん、おかえり出久。今日は少し遅かったけど大丈夫?」

 

 公園からここまでの距離を考えると、やはり少年が気絶していた時間は普段の行動から若干オーバーしていたようだ。

 

 こちらを見る少年に不安の色が浮かぶ。

 

 おそらく三人の少年達にいじめられていたことは、親に内緒にしておきたいのだろう。彼の中で解決方法が無い以上、素直に話しても悲しませるだけと判断したわけだ。

 こちらとしても何でもかんでも切開したい訳ではないので、少年に対しフォローを入れることにする。

 

「どうもはじめまして、緑谷さん」

「は、はじめまして……?えっと、どちら様かしら?」

 

 息子と同い年くらいの見た目な私に、彼女は動揺を隠せないらしい。

 

 私はとある事情から、四歳としては明らかに精神に異常な早熟性を持っている。孤児院でもかなり浮いていたのは自覚しているが、こればかりは自分でも上手く修正出来なかったので諦めて慣れてほしい。

 まあ、年頃の少女の振る舞いが出来ないことに関しては、今の育ての親にも本当に申し訳ないと思っているが。

 

「なあに、ただの通りすがりの少女ですよ」

「は、はあ……(何なのかしら、この子?)」

「そこまで長居する予定はありませんが、状況説明が必要なことなので少し上がらせてもらって構いませんか?」

「……え、えっ!?」

 

 と言いながら、隣でキョドってる少年を促して緑谷家にお邪魔するとする。

 

 あきらかに強引な御宅訪問に戸惑うばかりの少年の母親に、少年がぼかしてほしいイジメのことを端折った説明を行う。

 簡単にまとめれば、公園で遊んでいてうっかり転んだ少年のケガを通りすがりの自分が治療系の個性で治した、という形だ。特殊な事情で個性の使用許可は下りているのだが、患者の適性によっては効果が異なる可能性があるので経過の確認は怠れない。

 

 リビングテーブルにて出されたコップの水を飲み、一息入れる。

 

「……まあ、そんな感じです。転んだ擦り傷程度なので水洗いでも良かったのですが、緑谷くんがだいぶ痛がってましたので放っておけませんでした。申し訳ないのですが、二・三日は様子を窺ってもらえると助かります」

「いえ!こちらこそ出久が本当にお世話に……」

「お母さん?何でそんなに個性を使うことが大変なの?(幼稚園ではかっちゃんの個性がヒーロー向きって褒めてたのに?)」

 

 そこで少年が首を傾げた。

 

 その態度に母親の顔色が急に悪くなり、私は一つの仮定が頭に浮かぶ。戦闘寄りな個性を持ついじめっ子に平然と絡まれてしまった辺り、この少年は個性の特性についてあまりにも知らなすぎる。

 まるで個性を元から”使ったことがない”かのような反応だ。

 

「え、え~っとね……?」

「基本的に個性というものはその能力の部分しか注目されていないが、私としては副産物の方が重要としているかな」

「副産物?」

 

 個人的には何故それが問題になってないかが疑問で仕方ない。

 

「例えばだけど、羽の生えた異形系の個性持ちがいるとする。世間では周囲を含め本人は”空が飛べるんだ、すごーい!”としか思わないが、私が注目するのは本来ない器官を違和感なく動かせる点だ。つまり、脳や身体がそれに普通に適応している……その事実はかなり恐ろしいことだと私は思う」

「……どういうことでしょう?」

 

 難しい単語が出てきたので少年は少しついてこれず、代わりに母親が疑問を返してくれる。

 

 本来であれば人は羽なんて生えてないし空も飛べない。

 

 しかし、個性という能力を介して様々な法則を無視して可能にする……それは世界の理を壊すということに他ならないと思う。超人社会とはよく言ったものだが、私としてはいつ世紀末でヒャッハーな世界と化すか不安でたまらない。

 どこかのヒーローは平和の象徴を謳うが、あまりにその一人が突出し過ぎている。その結果として個性に一方的な憧れが募り、その存在に依存しすぎる世界というのは何か間違っているのではないだろうか?

 

 一人の英雄に頼り切った社会など、所詮砂上の楼閣なのではないかと愚考する。

 

 その上で一個人ではなく、きちんとした組織による平和の象徴……例えば警察の下部組織ではなくヒーローによって独自に構成された『ヒーロー協会』や、もしくは警察組織の中で対超常犯罪に特化したヒーロー課(もちろん個性の使用可)のようなものを設立していかなければならない……というのが将来を見据えた自分の展望だ。

 抑止力にしても個人の力量に左右されるのではなく、きちんと法律として市民を守るものでなければ意味がない。

 一少女の自分が考えなければならない程に、現状の法律は個性による犯罪に対してあまりに無策過ぎる。ふと湧いた超常に即座に適応しろだなどと無茶は言わないが、職業ヒーローというあやふやな存在にいつまでも依存しているものではないと思う。

 

 流石にこの辺に口を出すには、年齢も実績も足らなすぎるが。

 だが、いずれは考えていかないといけないことだろう……平和の象徴とやらが不滅でない限り、未来に降りかかる当然の問題なのだから。

 

「人間一人が空を飛ぶエネルギーを余分に持っている、と考えればそれは力の格差に他ならない。他人より優れたものを持つという優越感、自覚し溺れればあっさりと”敵”に落ちぶれるでしょう」

 

 そういう意味では、少年をいじめていた三人は要注意人物と言える。

 

 羽の生えた少年や指を伸ばしていた少年はまだマシだが、やはり危険度が高いのはあの爆発少年だろうか。爆破という衝撃を物ともしない身体は頑丈に、そして衝撃を外に向ければ圧倒的暴力兵器と化す。

 

 緑谷少年には悪いが、”敵”認定の最優先候補としか思えない。

 

「……なので、基本的には日常で個性を行使することはあまり推奨されてない。悪戯に使うなど論外……何故ならヒーローと呼ばれる資格保持者以外は管理外で個性により何らかの危害を出した場合、規則違反として厳しく罰せられるからね」

 

 愉快犯で済まされる問題ではない、ということだ。

 

 全ての人間が百%個性を制御できるならともかく、そうでない以上リスクを下げていくのは保身として当然のことだと思う。

 だから少年が知り合いだからとぼかしたことは、世間一般的に見てもあきらかに異常なのだと提言しておく。

 

「……っ!?」

「あくまで危害を与えなければいいだけのことだけど、様々な個性が何にどう作用するかなんてわからない。個性が発現したばかりだと、碌に制御も覚束ないことも多々あると聞きます。特に私の個性は治療に関わるものなだけに、うっかり暴走したなんてことは許されないわけで……」

「い、出久と同年代なんですよね?そんなところまでしっかりと……」

 

 こちらとしては当たり前のことを言っているだけなのだが、目の前の二人は驚きを隠せないようだ。まあ四歳の少女がいきなりこれだけの薀蓄を語り始めたら、一般的に考えれば驚くし気持ち悪いかもしれない。

 これは少し話の展開を急ぎ過ぎたかもしれない、と私は反省する。

 

「……ん?ああ、微妙に認識がすれ違ってるっぽいと思ってましたが、先にこれを提示するべきでしたね申し訳ない」

 

 白衣の内側のポケットに入れてあるカードを取り出す。

 

「こちらが”ヒーロー活動許可仮免許証”になります。ちなみに医療活動優先なのでヒーロー名はまだ無くて、本名は『修繕寺リサ』と……一応”リカバリーガール”の養子って扱いです。立場的には”相棒(サイドキック)”に近いものとして認識されてますね」

「えぇ!?──ね、年齢制限とかは!?」

「もちろんあります、が……かなり汎用性の高い医療個性に分類されたので、特例として政府が許可を出しました。既に何人かの患者を、医療系ヒーローの立ち会いの元に治療した”実績”もありますよ」

 

 多くの指摘された疑問に対する実績による証明、非常に簡単でわかりやすい解答と言えよう。

 

 とはいえ死者蘇生などは不可能だし、重症患者の治療なども流石にまだ無理があることから主に担当したのは整形外科と呼ばれる分類だ。個性を特殊な呼吸法と合わせることで生命エネルギーを生み出し、それを治療に使うことで相手を治すことができる──”波紋法”と呼ばれた能力。

 

 軽度の骨折なら即時に回復させる光景は、医者達の心境をさぞ複雑にしたことだろう。

 

 おそらく私の特殊な事情の一つである”前世の記憶”から、鮮烈に残っている記憶がこの世界で個性として具現化したものと考えられる。生まれた当時はその原作の世界なのかと戦々恐々としていたが、どうやらそうではないらしい。

 もしくは記憶と同じように何か原作のある世界かと勘繰ったりもしたのだが、少なくとも私の知る限りの記憶にはこの世界の知識は存在しなかった。

 まあ超人社会などから考えるに、あまりまともな世界ではないと諦観もあったが。

 

 ちなみに医学界との折衝も考え、利権等はなるべく手にしないようにしている。対処した患者からの治療費は規定通りもらうが、生活費等を除いた多くは医学界に献金する形ということだ。あくまで個性による恩恵の実績なので、私一人で出来ることは当然ながら限りがあり、それ以外の医療技術の進化進展は必要不可欠なのだから。

 

 聞いたところによると……高齢のリカバリーガールや四歳の少女だけに負担を強いられるかと、医学界ではかなりの情熱で盛り上がってるとか何とか。

 

「というか労働基準法は一体……」

「あまり言いたくはないですが、超人社会ですよ?希少な特例で無問題です」

 

 まあ当然ながら、かなりの無茶は通してある。

 

 ヒーロー側としては四歳児からそんな責務を負わせるわけにはいかないと反対意見が多く、政府側としては一分一秒でも早く治療が可能ならそう成してほしいと多くの賛成意見が出されたようだ。

 現在最高峰の医療系ヒーローであるリカバリーガールの個性は治癒能力の活性化、高い効果を期待するならそれだけ多くの体力が必要となる。とあるゲーム風にいうならリジェネであり、緊急時に要求されるのはやはりケアルという直接の回復魔法なのだ。私の個性なら限定的ではあるがそれが出来るし、伸びしろの成長という将来性もある。

 実際リカバリーガールが各地を飛び回ってる現状……回復系個性の発現は滞っており、彼女の年齢を考えても後継の育成は急務。養子という立場からも後継候補に近い自分の存在は、国としても希少で貴重ということだ。

 

 最終的に今を苦しむ患者に最低十年は待ってほしいなど言えず、私の体調管理を最優先という形でヒーロー側が折れることになる。

 

 ちなみに限界まで個性を使用したとしても、最低でも三日以上休養すれば特に後遺症は発生しない。限界のサインとしては生命エネルギーをガンガン使うので、黒髪が白髪へと変異していく。完全に白髪化した状態でさらに使用すると、おそらく死に至るだろうと推測する。

 というレポートを白髪化した状況でまとめてみると、四歳児に何をさせるのかと双方で問題になりかけた。

 だが自分でも限界を知るのは大事だし、そういう風に動いてしまいかねないということで政府側もかなり慎重な対応になったのだから結果オーライとしておく。もちろん白髪化は時間と共に回復し、元通りの黒髪に戻ると付け加えておこう。

 

 そういう意味で、現状私の立場はかなりのVIPと言える。

 

「……えっと、そんな立場で出歩いていて大丈夫なんですか?」

「手持ちの携帯はGPS完備ですし、この件に関しては上司(育ての親)にも許可はとってますし大丈夫ですよ」

 

 さて、こちら側の話はこの辺にしておこう。

 

「──ところで提案があるのですが、緑谷くんを私の計画中のカリキュラムに参加させてみませんか?」

「「えっ!?」」

「何となく察していただけると思うのですが、私の教育環境は通常と違い過ぎるので独自にカリキュラムを組むことが決定していまして……”個性”に対する教育もそれに含まれてます」

 

 一人黙々と勉学に勤しむのも悪くはないが、大人達としては特例を認めてしまったとはいえ人とのコミュニケーションの機会を絶やすのは良くないとしている。ヒーロー側もこれには積極的で、私と同年代の子供がいる者が参加予定とのことだ。

 

「もしそれらに興味がありましたら……せっかくの縁ですし、そちらが良ければご一緒にどうかなと思いまして」

 

 私の提案を聞いた緑谷親子は揃って俯いてしまう。

 何か不都合なことでもあるのかと首を傾げていると、少年が震えながら顔を上げた。

 

「──僕、”個性”が無いんだって……でも、そんな僕でも参加してもいいの?」

「出久っ!」

 

 なるほど、やはり少年の問題点というのはそこか。

 ”無個性”という世間ではハズレの代名詞、超人社会の弊害とも言える格差問題……少年がいじめられていたのも納得というものだ。汎用性のない地味な個性でさえ下に見られることが多いのに、ゼロならばなおさらである。

 

「ふむふむ、無個性ね……」

 

 しかし、そんなことは私にとって全く関係なかった。

 

「別に構わない……というか個性の有無なんてカリキュラム参加の条件にないよ?四歳の子供の特別教育課程にまず格差問題を突っ込んでくるとか、そんな役人のクビが存在するとでも思う?」

 

 いくら超人社会とはいえ、流石にそれはないと思いたい。

 例えあったとしても、計画の主導者として断固潰させてもらう。能力がいくら高かろうが、人間性が最底辺過ぎるのはとても許容できない案件だ。

 

「むしろ個性が無いというのなら、尚更よく学んでおいた方がいいよ。何か事件があった時に、それに巻き込まれないように避難できるくらいにはね」

 

 どちらかも何もヒーローというのは事件が起きた後にしか動けない。当然先にぶん殴るのは犯罪に当たるし、後の鎮圧もやり過ぎると過剰行動としてヒーロー活動を免停処分になったりもする。

 

 だが、個性の制御もできない奴が急に暴走したら?

 

 近場のヒーローに相性が悪すぎる敵が暴れたら?

 

 誰もが防御に特化した個性を持っているわけでもないので、巻き込まれた場合の危険度は予想以上に高い。事件が起きた時に即座に近くの住民達が避難するならともかく、今の風潮では鎮圧しに来たヒーローを見るために嬉々として野次馬で群れる始末。

 そんな危機感も民度も低い状態で、巻き込まれた無個性の人間がどうなるかなど明白だろう。

 まるで人権などないかのように捨て駒にされるか、そうでなくとも優先度の順位が相当低くなるのが目に浮かぶようだ。

 

 もちろん何事もないのが最善ではあるが、公園での件といいこの少年は少し運が悪い。

 

 個性の有無もその一つではあるが、将来的に少しでも生存確率を上げるための努力はしておいた方が良さそうだ。親子間の仲は良好そうなので、あまり心配をかけない方向性でいきたい。せっかく知り合った同年代の子が、気付いたら亡くなってたなんて洒落にもならない話である。

 

「そういう勉強も検討してるので、もう少し緑谷くんにとって糧になる環境を提供できると思うのですが……」

「は、はあ……どうする、出久?お母さんとしても、出久の将来の安全の為になるなら考えてもいいけど」

「……えっと、今の幼稚園はどうなるの?」

 

 参加に賛成寄りっぽい緑谷母の言葉に、少年は当然の疑問を口にした。

 

「一応は諸事情により退園という形に……義務教育は優先されますので、約二年間の参加の後はそちらの地域でお好きな小学校へと進んでいただければ。以降は学習塾のような形に変化しますので、地元のお友達と疎遠にならないよう気を付ける次第です」

 

 少年の言葉に私は一抹の不安を覚える。

 

 普通であれば、公園で見かけた三人のような粗暴な連中からは素直に離れたがるかと思ったのだが……予想以上に縁が深かったりするのだろうか?

 かなり好意的に考えるのなら以前はそうではなかったが、個性の発現と共に関係性が拗れてきたといった所か。厳しい教育環境ならともかく、そうでないなら普通に増長して傲慢な性格になってしまいそうなものだ。ましてや近くに無個性といった格好の生贄がいるのならなおさら悪化の一途を辿るだろう。

 

 少年には悪いが、ここはやはり一時的にでも距離を取った方がお互いにとって最善だと考える。

 

「……そっか」

「だ、大丈夫よ、出久!修繕寺さんもこう言ってるし、私も近所の交流は続けるからお友達の話も聞いておいてあげるわ」

「うん、僕頑張ってみる……!」

 

 

 

 

 

 

 緑谷母の後押しもあり、少年は何とか決意を固めてくれたようで何よりだ。

 

 細かい所の調整はまた後日するということで緑谷家を後にした私は、近くの道路に止めてあった黒塗りの車に近づく。

 

「──お勤めご苦労様。悪いね、手間かけさせて」

「……そう思うのでしたら、是非とも次からは自重していただきたい」

 

 ドアを開けて後部座席に潜り込むと、運転席の黒服を着たグラサン男に声をかける。

 表情は見えないが、深いため息をつかれたことからお疲れのようだ。

 

「検討はしておくよ、”リカバリーガール”は何か言ってました?」

「好きにしな、とのことです。よほど奇怪な動きをしないのであれば、政府側としても異論は挟まない姿勢ですよ……」

 

 四歳の少女が育成カリキュラムを独自に組んで、その人員を自力でスカウトすることは奇怪な動きには含まれないらしい。

 

 というよりは、これくらいで狼狽えていたら精神が持たないという意味でもある。

 

 個性を発現させてから一年も経たずにこれなのだから、上役としては下手に押さえつけて暴走されるよりかはある程度のフリーハンドを与えて御したいのだろう。私としてもその方が楽なので、是非ともこの関係性を維持したいところだ。

 

「ふーん……まあ、損はさせないよう気を付けるさ」

 

 車内にグラサン男のため息がまた一つ響いた。

 

 

 

 ──これがとある少年少女達の”可能性”の道が拓けた始まりの日。

 

 

 




↓は第一話で主人公と緑谷親子との会話シーンのイメージ。


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