瑞樹総理の会見はまだ続いている。今は質疑応答の時間だ。
『朝陽放送の松永です。総理の仰ったそのポケットモンスター?について詳しい人物についてもう少し詳細な情報をお願いします』
『はい……かの人物につきましてですが、この方は公人ではありません……プライバシー等も加味しまして詳細な情報は差し控えたいと思います』
『にっこにっこにー動画の森田といいます。総理、総理が捕まえたその、ポケットモンスター、ですか、それはどうやって総理は捕まえられたんですか?』
『はは……この子はですね……ちょっと会議を中座して私の執務室に戻ってきたときに私の執務机の上にいたんですよ……それでどうもこの子、非常に人懐っこいようでして仲良くなっちゃいましてね……それで秘書のモンスターボールを借りて捕まえた……いえ、ゲットしたわけであります』
『日日新聞の竹井と申します。話は戻りますが、総理。総理の仰るその人物がポケットモンスターを生み出したということはありませんか?』
『それはございません……その方は普通の会社に勤める普通の一般の方ですから』
『しかし、我々の取材ではその人物だけがポケットモンスターが出現した今日よりもずっとずっと前にそのポケモンのことを知っていたんです。これは如何にもおかしいとは思いませんか?』
『確かに腑に落ちないこともあるかもしれません……しかし、その方は科学者でも何でもない……それに今日になって突然日本全国に現れたということは、それまでどこかで生み出してそれを僅かな時間で全国に解き放ったことになる……そんなことが人間に可能でしょうか』
『しかし』
『あなたばかりが質問を独占するわけにもまいりません……ほかの方どうぞ』
「大丈夫だ、彰君。我々はキミに無理を強いた。しかし、だからこそ我々はキミを全力でサポートしたいと思う。それが政治家の責任でもあり、このようなことに巻き込んでしまった我々の贖罪でもある」
「伯父さん……」
総理が、伯父が、そして他にも様々な人が僕のことを思って庇ってくれる。それだけでも僕は胸の温まる思いを抱いた。
「とりあえず一度下りますね」
「よろしく頼む」
そうして僕たちは会見もそこそこに、かつ官邸に向かう前に寄り道をすることにしたのだ。
というのもそれは先程先生から来た一報が関係している。
『妻がポケモンを2匹ゲットしたのだが、なんだかポケストップに少し変化が出たらしい。恐らくだが1匹捕まるごとに何らかの変化が出てくる物と思われる。私の方でもポケストップが少し変わったのを確認した』
こういった内容の連絡をつい先程もらったのだ。
確かめるためにもポケストップがありそうなところに向かう。ついでにポケモンも捕まえられればいうことなしだ。
高速は元々川沿いを走っていたので、下りたところも川沿い。ちょうど水タイプのポケモンとかもゲットしたかったから、ちょうどいい。
そうこうしているうちに、川の河川敷と洪水時の被害に備えた調節池でできた自然公園の駐車場に車を止める。この公園は川沿いなのに、木々も生い茂っているエリアがある。つまりは、うまくいけば、川、
そして前世と同じく当然ながら、こういうところにもポケストップはある。というよりもこういう大きなところはいくつもポケストップがあるので助かる。
というのも……――
「そこそこ人がいますね」
三枝さんの言葉通り、10人は居ずとも、5人程度の人がポケストップの周りに集まっている。朝からの騒ぎに、今やってる記者会見の影響が既に出ているということだろうか。
「仕方ありません。とりあえずまずは2人のトレーナー登録とモンスターボールを受け取りましょう」
「そうだな。よろしく頼むよ」
「お願いね」
そうしてポケストップにて2人のモンスターボール等を手に入れた。
「先生は何を捕まえます?」
「そうだねぇ。中々悩むな」
「私はかわいい子がイイですね。あ、この子なんて素敵かも!」
2人は楽しそうにタブレットを片手に相談している。たぶんあれって僕が描いてアップしてたサイトだよね。
そして最後に僕もポケストップにアクセスする。んんっ、まあかっこいいこと言ってみたけど、ただ単にスマホ持ってポケストップに通しただけなんですが。
「おっ?」
「ラル?」
僕の反応に、僕の頭に手を置いて右肩に乗っていたラルトスが首を傾げる(ちなみに彼女の奮闘により、定位置はそこに決まったらしい)。
おめでとうございます!
あなたは共に歩めるポケモンを1匹をゲットすることに成功しました!
そのお祝いとしまして技マシンをランダムで1つ進呈します!
またそれに伴いポケットモンスターの一部機能の更新を行いました!
アプリポケットモンスターにてご確認ください!
それでは、ポケモンと人とが共に歩める良きトレーナーライフをお送りください!
おめでとうございます!
ポケモンを所持するポケモントレーナーの総人数が100人を超えました!
そのお祝いとしまして商品の値下げを行います!
それでは、ポケモンと人とが共に歩める良きトレーナーライフをお送りください!
おめでとうございます!
ポケモンを所持するポケモントレーナーの総人数が1000人を超えました!
そのお祝いとしまして商品の値下げ、並びに一部商品の制限の解除を行います!
それでは、ポケモンと人とが共に歩める良きトレーナーライフをお送りください!
まるで履歴のような感じのホログラムが目の前に表示されている。
「ほう。まるでスイッチを入れたときに出るスマートフォンのお知らせみたいな感じだな」
「ですね」
僕の声に反応してか脇から覗き込んでくる2人。三枝さんは記録用にとスマホでパシャリと記録を撮っている。
それにしても制限の解除に値下げに技マシンが貰えると。中々に興味深い。
「とりあえず値下げと解除ってなんだ?」
ということで、購入画面に移る。
「お、なんか全体的に必要歩数が下がってるな」
『モンスターボール』が90歩、『キズぐすり』が45歩などとなっていて最低限必要そうなものは全体的に大凡10%ほど割り引かれている。『いいキズぐすり』とか『スーパーボール』なんかはそれでも800歩や1000歩とそれでも中々手が出しづらい歩数だ。
そして制限解除、つまりは新規開放だが、これはどうやらきのみが該当するらしい。『オレンのみ』や『モモンのみ』とかが灰色や棒線表記から白色や歩数表示がなされて開放されている。歩数は『どくけし』などよりも少し高めに設定されていて、ここはゲームとの逆転現象が生じている。
あれか。考えられるとすれば、ゲーム内では道具は人の手で作っていたから人件費等の面から道具の方が高かったが、ここではポケストップが自動で生成してくれるから(?)それは発生しない。おまけに道具は人間にしか使えないが、きのみはポケモンでも使えるからという理由もありそうな気もする。
「ふーむ、我々のときとは違うな」
「ですね。彰くんのログから判断してポケモンの数、ポケモンを所持するトレーナーとやらの数、制限されている機能を解放するには他にもいろいろな条件がありそうですね」
覗き込んだり、スマホでパシャパシャ記録を撮る2人。とりあえずわかったことは、それらのために今後はポケモンのゲットとポケモントレーナー数の拡大が急務だろう。僕ももっとポケモンをゲットしようか。……世話が大変かもしれないけど。
そうして今回は何も買わずにポケストップを閉じて、今度は技マシンの確認だ。アプリで確認しろとのことなので、自分のスマホで『ポケットモンスター』を起動する。すると“道具”の項目に『New』と表示されている。
「ん? 技マシン貰っただけでなんでこんな表記があるんだ?」
ともかく“道具”の項目をタップする。するとそれの意味がようやく分かった。
「なるほど! カテゴリが分けられたのか!」
初代では『じてんしゃ』や『かいふくのくすり』、『ハイパーボール』などアイテム類は全てごちゃ混ぜになって表示されていた。金銀以降からそれらのアイテムのカテゴリ分けがされていったのだが、それと同じことが起こったようである。
新たに出来たのが『きのみ』と『技マシン』の項目らしく、『きのみ』には何も表示されていなかったが、『技マシン』には1つ、表示があった。
「ほうほうほう! いいなこれ。こんな初っぱなでこれか!」
当たったのは『わざマシン24』のようだった。『わざマシン24』には『10まんボルト』という技が収録されている。『10まんボルト』は電気タイプの特殊技で威力命中共に高い水準にある技だ。ゲームならこの技マシン入手は早くても中盤以降なので、ポケモン1匹しかいない最序盤で手に入れたら無双も容易なほどのポテンシャルを秘めている。廃人施設なら電気タイプ最強技の『かみなり』よりは十中八九ほぼ確実にこちらが選ばれるだろう。
そしてこの技はラルトスもしっかり覚えられるので、今ここで覚えさせようか。
「ラルトス、ちょっと降りて」
「ルラ」
ラルトスも僕が何をしようとしたのか分かるのか、ピョンと僕の前に飛び降りてこちらを見やる。
「えーっと?」
モンスターボールを出したときみたく、『技マシン24』の項目をタップ。すると、DVD -ROMのような物体がスマホを持つ方と反対の掌に収まった。
その様子に三枝さんはタブレットを慌てて操作した後、それを僕に近づける。
「あの?」
「録音よ。念のためにね。で、彰くん、これはなに?」
「えーっと、これは技マシンと呼ばれる物です」
「ふむ、技マシン、かね」
初めて聞くだろう言葉にやや首をひねる2人。技マシンについてはさっきのログで初めて見かけたような言葉だから、これは説明が必要か。
「ポケモンが技を覚えるのはある一定のレベルに上がったときなんです。レベルが上がったから常に覚える物ではないんです」
ホントは進化したときなんかも覚えることがあるけど、これらは後に回しておこうか。進化について話してたら、本題から外れることになるし。
「一方、この技マシンというのは、使えばそういうのは一切関係無しに直ぐさま技を覚えさせることが出来るんです。その技が覚えさせようとしているポケモンに適合すればの話ですが」
第5世代、いわゆるブラックホワイト以降はそれまでの使い切りではなく、無限使用可能なものに変わったので、それまでのように慎重にタイミングを見定めるのではなく、取ったらすぐ使うというのが主流になったと思う。これもアイテム欄に回数指定がなかったからたぶん無限タイプのやつだろう。
「んー。しかし、どう使うか。あ」
何気なくヒョイッと裏返してみたら【使い方】というものが御丁寧に書かれていた。
「うわ、なんかアナログだな」
ちなみに後から分かったが、“トレーナーパス”がきちんとそこら辺も解説付きで説明されていた。この言は後に撤回することになる。
「じゃあコレ通りにやってみますか」
使い方は結構簡単。
DVD-ROMをポケモンの頭上に
ただコレだけらしい(苦笑)。
「いやいや、お手軽すぎでしょ!」
「というよりも、DVDがポケモンの頭上に浮いてることが信じられんのだがね」
「しかもなんかキラキラ光ってますし」
そう。ラルトスの頭上に独りでに浮かぶDVD-ROMから何だかキラキラとした光がラルトスの上にシャワーのように降り注いでいく。ラルトスはそれを上を見上げながら不思議そうに見やっていた。
やがて、ひときわ大きな光が一筋ラルトスの脳天に突き刺さる。それによってそのシャワーは止むことになった。
「これで、いいのか?」
不思議に思いながらも、技マシンを回収してそれをスマホに
ちなみにスマホの画面にはきちんと『わざマシン24』と記載されている。ゲームでは世代が上がれば技名や威力命中なんかも表示されてたけど、ここではそれがない。ただ、今回みたくアップデートで何かしら変化が出てくるのかもしれないが。
「相変わらず不思議な現象だな。」
「ポケモンもそうですが、これも質量保存の法則を完璧に無視してますからね。仕組みが解明出来ればノーベル賞ものですよ」
「そして恐らく他にもブレイクスルーが起こるだろうな」
そんなことを言っている2人はそこそこにラルトスの方はというと。
「ラル、ラ。ラル!」
手を開いたり閉じたりした後、うんと頷いた。
そして周囲の適当なところに狙いを定める。
「ル、ラル、ラー!」
両手を思い切り開いて胸を張るとすさまじいまでの黄色い電撃がラルトスから立ち上った。それはそのまま、Uの字を描くようにして草の地面に突き刺さる。
「す、すごい……!」
僕も含めて3人とも着弾地点に釘付けだった。そこはちょっとした落雷があったかのように焦げ付いている。その周囲には微かにまだ放電現象が走っており、微かに焦げ臭いのとオゾンのような臭気が漂っていた。
「……とんでもないですね」
「ああ、こりゃあポケモンを犯罪にでも使われたりでもしたら不味いぞ」
「早急な対策を講じる旨を加えておきましょう」
……できればそんなことは起きてほしくはないな。ポケモン好きとしてはそんなのあまりにも悲しいし。それにそれはポケモンのせいではなくて結局はトレーナーの責任なのだし……。
「ラル♪」
ラルトスが胸を張ってドヤ顔を披露している間にそんな胸中にもなった僕たちだったが――
「クラ! ナックッ!」
地面から這い出てきたソレによってそれらは強制的にお開きとなった。
ニックネームについてですが、「つけた方が良い」という意見が多かったのでつけることにします。
私はニックネームをつけるセンスが皆無だと思うので、アンケートを取りたいと思います。栄えある1匹目はラルトス。サーナイトでも通じるようなものをお願いします。案がありましたら、活動報告の「ニックネームのアンケート1」の方にコメントお願いします。
よろしくお願いします。
次回、おっさんの初ゲット回。おたのしみに?