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「えー!? なんでナックラーがこんなところに!?」
ラルトスの『10まんボルト』によって一部焼け焦げたところから這い出てきたのは、ありじごくポケモンという分類の割にはカメのようにしか見えないポケモン、ナックラーだった。
「あ、そういえば」
この世界、ポケストップがあるからポケGO要素的になにかあるのかもしれないと思ってスマホをナックラーに向けてみた。するとどうだろう。ポケGOでポケモンが出現したときの画面と似た感じの画面が表示されていたのだ! 大きく違うところといえば、
「あれもポケモンかい?」
「そうですッ」
「んー、あ、これじゃないですか?」
三枝さんがタブレットで操作して伯父さんに見せる。2人してタブレットとナックラーを交互に複数見やる。
「ほうほう。なるほどなるほど」
感心するように声を上げているが、ナックラーはやる気満々のようだ。さっきの『10まんボルト』で怒ったのか? でも、キミ地面タイプで電気無効だよね?
「ラル!」
ラルトスが前に躍り出る。サートシ君がアルセウスの映画で言ってた「売られたバトルは買うのが礼儀」というやつだろうか。……何となく売っちゃったのはこっちのような気もしないでもないけど。
「ナックル! ナックルー!」
ナックルが70cmくらいあるその体でラルトスに迫ってくる。しかし、如何せん、ナックラーの素早さ種族値は驚きの10。素早さ種族値ランキングで下から数えた方が圧倒的に早いこの数値。レベル差はあれどこれでは技は当てられ――
「クラッ!」
「ラル!?」
「うそぉ!?」
なんといきなりナックラーがラルトスの目の前に出現、そのままの勢いでラルトスに衝突した。
「あ! そうか! 『でんこうせっか』か!?」
そういえばナックラーはタマゴ技に『でんこうせっか』がある。それを使ったのだろう。
「こりゃ油断出来ないな。ラルトス、大丈夫か!?」
「ラ、ラル!」
ラルトスは首を振るっていた。思ったよりもダメージがあったのか。
「そういや、ナックラーって素早さ激遅のわりに攻撃が結構高かったよな」
たしか攻撃種族値は100だったはずだ。タイプ不一致+威力もそんなに高くはない技とはいえ、レベルは上な上、ナックラーの攻撃の高さとラルトスの防御とHPの低さならいいダメージが入ったのかもしれない。
「よし! 気合い入れていかないとな!」
「ラル!」
自分に言い聞かせたつもりがラルトスからは力強い返事が返ってきた。
僕もラルトスもやる気十分! 野生とトレーナー、違いをとくと味わわせてやる。
「ラルトス、まずは『あやしいひかり』だ!」
「ラル!」
そうして放った技はは再度
「ナック、ナックラ~」
ナックラーは見事に混乱した。
「よっしゃ! そのまま『ねんりき』や『かげうち』で攻撃! 混乱が解けそうならもう一度『あやしいひかり』だ!」
「ラッル!」
そうして混乱状態でフラフラなナックラーに向かってラルトスの攻撃技が飛んでいく。
ターン制? 交互に技を出し合う? ここはゲームじゃないんでそんなのは関係ない。ついでにいえば野生戦と対人戦の違いは状態異常や補助技などを使った搦め手の有無だ。野生戦は、使ってくれば「そのターンたまたまダメージを受けなくて運がいいね」レベルの頻度でしかないが、対人戦ではほぼ全ポケモンにそれが搭載されていてそれらが頻繁に飛び交うのだ。そんな対人戦を「お前は、今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」並に前世で
「い、意外にえげつないのね、彰くん」
「攻めるときは一気に行くのがコツですよ」
「ふむ、それはよくわかるよ。ところで彰君、物は相談なんだが、いいかね?」
やや引き気味の三枝さんを余所に伯父さんがススッと前に出る。
「あのポケモン、私がほしいのだが構わないかね?」
え? あのナックラーを? え、いやぁそりゃあ――
「あー、元々僕は捕まえる予定がなかったので、別に構いませんけど……」
「そうかそうか!」
すると伯父さんのテンションがみるみる上がっていったのがわかった。
「あの、新居高先生?」
「三枝君、さっき色々と2人で見ていただろ? あの中で私はあのナックラーが一番最後に変化するという姿がいいと思ったのだよ」
あー、フライゴンね。うん、まあジラーチの映画ではかっこよかったし、いいかもね。バトル性能はどうなのかわかんないけど。
「フライゴン目当てなら、ナックラーはいいかもですね。ただ、進化までは大変ですよ? そこまで育てきれますか?」
ナックラーの進化レベルはレベル35、そこでビブラーバに進化する。そしてレベル45で目標のフライゴンに進化する。進化レベルが高い上に、いい技はナックラー時代に覚える、さらにはナックラーの素早さが低すぎるので、初心者にはなかなか厳しいポケモンだろうに思う。
「大丈夫だ。私は飼った生き物については常に彼らを看取ってきた。その生に恥じないだけの幸せを彼らに感じてもらえるように尽くしてきた。そういう自負があるのだよ」
……まあそれは知ってるんですが、果たして頑張れるのか。
いや、これは僕も支援していくしかないか。
「わかりました。ではナックラーは伯父さんということで。モンスターボールを出してください」
「うむ。む、これか」
そうして伯父さんの手に赤白のボールが収まった。
「伯父さん、僕がいいと言ったらそのモンスターボールを投げてください」
「了解だ」
そうして伯父さんはいつでもボールを投げられる態勢を整える。
一方ナックラーの方はラルトスの攻撃でかなりのダメージを負っているようで、混乱無しでももうフラフラだ。
「ラルトス、引いて! 伯父さん、いま!」
その合図でラルトスはレベルアップの光に体が包み込まれながら、テレポートで僕の元に戻る。その代わりとして伯父さんの投げたモンスターボールが弧を描くようにしてナックラーの元に飛んでいく。
ナックラーはそれを避ける素振りを見せず、ボールがナックラーに当たった。
赤い光と共にナックラーがモンスターボールに吸い込まれる。
「よし!」
「先生やりましたね!」
「まだです! まだ動かないで!」
聞けば官房長官は一度このときにノーコンしたらしいので、そうならなかったのは良かった。ただ、ボールに入ったことだけで喜びを露わにした2人には悪いが、まだ全然安心は出来ない。
そのまま雑草生い茂る地面に落下したモンスターボールはボールスイッチを赤く点灯させながらも小刻みに揺れ続けている。
手で制された2人は僕の雰囲気に当てられたのか、固唾を呑むようにして揺れ続けるモンスターボールを見守る。
一度。
「まだです」
二度。
「まだ」
三度。
そして四度目の揺らぎが始まろうとしたときに、ボールスイッチの点灯が収まった。同時に揺らぎも起こらない。
「……よし、OKです!」
伯父さんはそれを聞いて走ってモンスターボールに駆け寄るとそれを拾い上げた。
「いやー! 緊張したけど実にいいな! ポケモンの捕獲というのは!」
「伯父さん、ゲットです」
「うむ! ゲットだったな!」
「ついでに、「○○、ゲットだぜ!」って叫ぶと気持ちいいですよ?」
「うむ! たしかナックラーと言ったかな?」
「そうです」
「では
ナックラー ゲットだぜ!Θ(^O^)v
」
ボールを突きだしてピースサインまで決める伯父さんの顔には眩しいばかりの笑顔をのぞかせていた。やっぱ、年齢とか関係なくポケモンっていい物だと思うよ。ゲームやアニメの世界で大人もポケモンに夢中になっているのが分かる気がするよ。
そんなことを思っていたら、肩をチョンチョンと叩かれる感触を覚える。ラルトスかと思ったがラルトスは僕の足元から頭の上に移動していたので、違う。伯父さんは今あそこでルンルン気分ではしゃいでいる。
とすると――
「んーん♪」
振り返ると超ニッコニッコな笑みを浮かべて三枝さんが佇んでいた。てか距離が20cmも離れてなくて超近いんですけど。
「みーこーがーみー、くん?♪ らーるーとーすー、ちゃん?♪」
さらに一歩近づかれて距離が詰まる。一歩下がろうとしたら、いつの間にか両腕をつかまれていて下がるに下がれない。てかなんか知んないけど力強いよ、力! 超痛いんだけどいやマジで!
「わ・た・し・も、ポケモン、ほしい、なぁ~あ?」
び、美人に凄まれては嫌とはいえませんなあ……(震え声)
「よ、よろこんで……」
「ラ、ラルラ……」
……元々協力するつもりだったけど、改めて僕とラルトスは彼女のポケモンゲットに協力することを誓わされた。
ナックラーの回復を終えて次のポケモンを探しに行こうとする僕たち。
「私たち、意外に注目の的だったみたいですね」
三枝さんが言うのも、僕たちのバトルは周囲の人たちに結構見られていたらしい。ナックラーゲット後、僕たちに声を掛けてきた人たち、とりわけ伯父さんが国会議員だと知って声を掛けてきた人たちから話を聞くには、ポケモンを見つけたはいいが、モンスターボールを投げても弾かれてしまい、ゲットが出来なかったという。
「ああ、それはですね」
ポケモンは弱らせてからゲットするという僕が事前にレクチャーしていた話を、さも知っていたかのごとく周りに話し聞かせていたりしていた。そんな様子を「議員ってこういう強かな部分がやっぱり必要だよなぁ」なんて思ったりしながら眺めていたりしたけども。
ちなみに伯父さんはラルトスがボールから出ているのを真似してみようとしたが、ナックラーは歩くのが遅かった。「じゃあ抱えてみようか」と言って抱えようとして、持ち上げることは出来ても、フラフラで持ち歩くことは到底無理そうな感じであった。結局泣く泣くモンスターボールにしまっていたりした。
まあ、ナックラーって15kgぐらいあるから50をとっくに超えた伯父さんの年齢くらいだと厳しいと思うんだ。……やり手の国会議員のハズだったんだけど何だか妙に子供っぽいところが出始めている気がする。
そんなこんなで有権者へのアピールを振りまきつつも回復も終えてポケモン探しを再開する僕たち。
「そういえばさっきはナックラーがいることに不思議がったようだが」
ゲットしてみたいなぁというポケモンを伯父さん以外の2人で物色しながら辺りを見回していたところで、伯父さんが問い掛けてきた。
「ああ、ナックラーは本来砂漠みたいな乾燥した地域にしかいないポケモンなんです。鳥取砂丘とかならまだ分かる感じがしますけど、こんな東京の、雑草生い茂る広場で姿を現すようなポケモンじゃないんですよ。しかもここ、一応川沿いですし」
ゲームではホワイトフォレストを除いて砂嵐吹き荒れるエリアや砂漠エリアにしか生息していないポケモンだった。それがこんな水に近いところにいるのが不思議でならない。
……あれか。ポケモンGOだと「いや水辺関係ないじゃん」ってところに水系ポケモンがいたりしたこともあったから、そこまでは節操がなくても、ある程度元の生息地とは違うようなところでも出てくるポケモンがいるということだろうか。
「ねえ、あれ!」
三枝さんが声を張り上げた先に見えるもの。
「うわ! ありゃあマズいかも!」
辺りには「ブブブブブブブブ」と不快気な翅音が響き渡る。その正体はなんてことはない。ポケモンだ。空を飛ぶはどくばちポケモンのスピアー。だが、違うのはここから。今朝僕が倒した単独ではなく、集団。1mを超える見た目スズメバチの群れ、それが10匹以上、ある一角を中心に飛んでいるのだ。
僕たちはその一角を見やった。
「あれは大変だぞ!」
スピアーが囲んでいる一角、そこには大小3匹のポケモンが佇んでいた。彼らはあのスピアーの大群と相対しているようだ。
この状況は伯父さんの言うとおりで、3対10以上など多勢に無勢もいいところだ。しかもマズいことに、今そのうち1匹のポケモンがグッタリと体を横たえ始めた。あれはスピアーのことだから毒状態かあるいは戦闘不能のどちらかか。
「彼らを助けましょう!」
ポケモンとはいえ自然の摂理には逆らえないとアニメではあった。自然の摂理とは弱肉強食。ここで僕たちが介入するのは間違いかもしれない。でも、こんな、こんな!
「そうしよう!」
「彰君、私はどうすればいい!?」
伯父さんはモンスターボールを取り出し、三枝さんはポケモンを持ってないので、補助をするつもりのようだ。伯父さんはもちろんのこと、三枝さんにもやってもらうことはたくさんある。
「伯父さん、ナックラーの技確認したいからスマホ出して! 三枝さんは今から僕が出すアイテムを渡すから!」
そうして僕は伯父からスマホを引ったくるようにして奪い、その間に僕のスマホから出した回復アイテムを三枝さんに投げ渡した。
「――……よし、わかった!」
僕はスマホをザッと眺めるとナックラーの今覚えている技、そして一応さっきバトルをしたので、ラルトスの方も頭に叩き込んだ。正直訳分からない不思議なことが起きているが、この際それは後にしよう。
「作戦を立てます! 指揮は僕が執るということでいいですね!?」
「任せる!」
「了解!」
「ラル!」
2人の力強い返事を背にザッとの流れを思い浮かべると、それを指示して僕たちはあのバトルの中に駆けだしていった。
Q.なんでスピアーって敵役チョイスが多いん?
A.それはねポケモンアニメの伝統なんだよ
スピアーのファンの皆さん、申し訳ありません。
あと50代半ばの中年おっさんのゲットシーンは楽しんで頂けましたか?(ゲス顔)
そしてナックラーと瑞樹総理のリーシャン(チリーン)のニックネームも、よろしければお願いします。
例によって活動報告の方へ。