架空の現代にポケモンが出現したら   作:kuro

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



ポケモンのタマゴ

「さって、そういうことなら私もゲットしようかな」

 

 そうして三枝さんはスマホをいじってモンスターボールを取り出した。

 

「フォァァゥ」

 

 ただ、ラプラスの方は三枝さんの服の肩の部分の端を加えるとどこか引っ張るような合図をしている。

 

「え、え? ラプラス、なに?」

「ひょっとして付いて来てほしいと言ってるんじゃないかな」

 

 伯父さんの言にコクリと頷いたラプラス。

 ならばということでラプラスを先頭にほんの少々歩く。

 するとラプラスは草むらに頭を突っ込み何やらごそごそとやっている。

 やがて、ラプラスはそれを止めて、頭を出した。そこには先程まではなかったあるものが口に銜えられている。赤や青の三角や四角模様が描かれた30~40㎝くらいの楕円形のようなシロモノ――

 

「って、まさかそれ、タマゴか!?」

 

 思わぬものの登場に僕は驚きから声を張り上げてしまった。

 

「タマゴ?」

「いったいなん、まさか?」

「ええ、ええ! あれ、ポケモンのタマゴです! だよなッ、ラプラス? それにそのタマゴって君のか?」

 

 その言葉にラプラスはそれを口に銜えたまま、タマゴを地面に落下させないためにか、それまでと違って軽く首を縦に揺らしてその後横に振った。ということはラプラスが親ではなく、どこかにあったヤツをこのラプラスが世話していたということなんだろうか。

 

「まさか、ポケモンって卵生だったの?」

「ううむ。哺乳類みたいなものかと思っていたので意外だな」

 

 あ、そこ疑問に思うんだ。

 正直ポケモンがタマゴ産むのなんか当たり前すぎる感覚で、一切疑問に思わなかったわ。

 

「ポケモンのタマゴ、これも貴重ね」

 

 三枝さんはボールをポケットにしまって代わりにスマホでパシャパシャと画像を撮っている。

 

「フォァァ」

 

 ラプラスは三枝さんに歩み寄るとそれを突き出すような格好で保持する。

 

「え? ひょっとしてこれ、私に?」

 

 するとラプラスはコクリと頷いた。

 

「……そのスマートフォンを貸したまえ。記録は私が撮ろう」

「そうですね。ラプラスが受け取ってほしいと言っているわけですから、三枝さんが受け取るのがいいと思います」

「でも……」

 

 三枝さんは視線をラプラス、タマゴ、そして僕たちにやっていまだに逡巡している。

 

「おそらくですが、スピアーはこのタマゴを狙ってたんじゃないかと思います。で、ラプラスがこのタマゴを守っていた。そしてヒトカゲたちがラプラス側に加勢した」

 

 あるいは、最初からヒトカゲやモグリューがラプラス側だったのかもしれないが、大まかな感じでは間違ってはいないはずだ。実際ラプラスを見やれば先程と同様軽く首肯している。

 

「三枝さんがラプラスをゲットすればこのタマゴの守り手が居なくなります。ラプラスはそれを嫌っているのでしょう」

「それにポケモンをタマゴから孵すというのもなかなか貴重な資料になるだろう。臭い話で済まないが、是非に受けるべきだ」

「そうですよ。ポケモンのタマゴが今後も出てくることは大いにあり得ますから」

 

 むしろ廃人にしてみれば多々産ませるなんて、人がトイレに通うことと同意義なほど当たり前な事象であった。まあ、さすがにここでそんなことをやるつもりはないが、タマゴグループが合致したオスとメス、あるいはメタモンがいればタマゴが産まれることはもはや必然だ。タマゴを現実で孵すにはどういうことをすればいいのか、その貴重なサンプルとなるだろう。

 

「僕も少しはお役に立てるかもしれませんし、どうですか? タマゴの世話、やってみませんか?」

 

 とりあえず、ポケモンを連れ歩く以外には人間の胎教みたいな感じでいいか。たしかアニメでもそれと似たようなことをやっていた気もするし。

 

「わかりました。不肖、この三枝幸香、全力で頑張ります!」

 

 こうして三枝さんはラプラスゲット、そして併せてタマゴもゲットという事態となった。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 全員がポケモンをゲットしたし、もうそろそろ戻ろうかということで、ポケモン探しを切り上げて一度ポケストップに寄ることにした僕たち。ポケモンのゲット数でポケストップのアップデートが行われるというのは条件として確立されたようなものなので、一人ずつ記録を取りながら行っていくことにした。

 

「あら、これは」

 

 2人目、三枝さんのときに何やら変わったログが現れた。

 

 おめでとうございます!

 あなたは初めてポケモンのタマゴをゲットしました!

 そのお祝いとしましてタマゴ孵化装置を進呈します!

 アプリポケットモンスターにてご確認ください!

 

 それでは、ポケモンと人とが共に歩める良きトレーナーライフをお送りください

 

 ほうほう! 孵化装置か! ポケモンGOでもあったやつみたいだな。

 

「孵化器いいですね。すぐ出してもらえます?」

「そうね。あ、ちょっとタマゴ持っててもらえる?」

「あ、了解です」

 

 そうして三枝さんはいったんポケストップを閉じてタマゴを僕に預けると、スマホを弄りだす。すると次には彼女の腕の中にポケGOで見慣れたあの孵化装置が現れた。尤も、きちんと自立できるように土台がしっかりしているところに少し違いが出ているが。

 

「おわっ、っと!」

 

 いきなり大きなものが現れたので、落としそうになったところを慌てて抱え直す三枝さん。

 

「あ、あんまり重くないのね」

「それは他の女性でもそうですかね?」

「そうなんじゃないかしら。あと彰くん、今の質問、どーゆー意味、なのかなー? かなー?」

「あはははー」

 

 うん、どうやら重さとしても女性でも問題なく持てるものらしい。

 

「彰君、三枝くんにあまり迂闊な物言いをしてはダメだぞ? もちろん他の女性に対してもだ」

 

 タマゴをゲットしてから記録係が変わっている伯父さんに小声で注意されてしまった。しかし、小声で言ってくるなんて伯父さんも彼女に対して何か身に覚えはあるのだろうか。

 

「お2人ともなにか?」

 

 うっわ、花が咲き誇ったかのような満面の笑みがチョー素敵な笑顔ですね!

 

「いえいえ、なあんにも」

「ですです。あ、その孵化器にタマゴを入れましょう」

「……まあいいでしょう。で、どこを開ければいいのかしら?」

 

 ……よし!

 

 で、三枝さんは孵化器の上蓋を取ろうと回したり引っ張ったりしているけど、ビクともせず。

 

「うーん、あ、ひょっとしてこう?」

 

 今度は上蓋についている大きなボタンのようなものポチッと押してみた。すると、ガラス側面と上蓋がセットでわずかに動いたのが見えた。三枝さんは要領を得たと言わんばかりに側面ごと取り外す。孵化器は土台とそれの2つのパーツに分かれた。

 

「これ、上蓋とセットのようですね」

 

 土台は置いておいて、もう一方を持ち上げたり透かして見たりと観察している。

 

「じゃあ、このタマゴいれますね」

「ええ、お願い」

 

 そうして僕は当たり前だけど、タマゴの頭部を上にして丁寧に孵化器の土台の方にタマゴをのせる。土台の方に敷かれている何かがほのかに暖かかったのが「ああ、これが孵化器なのか」と実感が持てた。

 そして三枝さんが手にしていた上のパーツを土台にかぶせる。

 

「んー?」

 

 すると、カチッという音が孵化器の方から鳴った。三枝さんが孵化器の蓋を持ってみると、土台までしっかりと付いてきて全体が持ち上がる。

 

「今のは?」

「被せた後ちょっと押しただけよ」

 

 なるほど。案外簡単なシロモノであるらしい。

 

「それで? 孵化装置とやらはどのようなものかはわかったが、一体どうやってこのタマゴを孵化させるのかね?」

 

 たしかに伯父さんの言う通り。あとはどうやって孵化させるかなんだけど。

 アニメなら孵化器に入れてしばらく様子見したりでも孵ることはあるみたいだが、大抵はポケモンを連れて持ち歩くことでの孵化になる。孵化歩数なんて言葉があったぐらいだしね。

 

「一応確認してみましょうか。三枝さん、アプリ起動して“トレーナーパス”って項目を開いてください。そこが取説にもなってるらしいんで、確認できるんじゃないかと」

 

 ということで、探してもらうことに。そこは初めて開いたせいか、『New』のマークがやたらと表示されていたらしいが、ようやっとお目当てのものを見つけることに成功する。

 

 ~タマゴの孵化に関して~

 タマゴは、あなたがタマゴと共に元気なポケモンを連れ歩いているとき、その元気なポケモンからパワーをもらうことで孵化します。

 たくさん歩いて元気なポケモンを孵化させましょう。

 また特性『ほのおのからだ』『マグマのよろい』を持つポケモンと一緒に歩くといいことがあります。

 

 

「えー……」

 

 この解説初めて見たんだけどさ。

 いや、動画付きの解説があるのは結構なんだよ?

 でも、どうしてポケモンがSD絵で人間がヨダ絵なのか。そして頭とおんなじぐらいの大きさのタマゴ片手で抱えて、サイホーンに括りつけられたリードに引っ張られるというアニメーションはどうにかならなかったのか。これ、『タマゴと共に元気なポケモンを連れ歩く』を表現しているんだろうけど、もうちょい何とかならなかったのかねぇ。

 

 ま、まあそれは一先ず置いておくか。

 これはあれだな。説明文からすれば、孵化歩数なのか距離なのかはさておき、ゲームと同じ感じと見て間違いないだろう。どちらかといえばゲームよりなのか? というのも特性『ほのおのからだ』『マグマのよろい』が関係するのはゲームのことであり、ゲームではこれらの特性によって孵化歩数が半減するという効果があったからだ。尤も、ポケGOとゲームが程よくミックスしている有様なので検証の必要性も十分にあるだろうが。

 

「なるほど、常に携帯するのか」

「えぇ、これ持ち歩くのは難儀ですよぉ」

「仕方ないだろう。諦めなさい」

 

 うん。そこは諦めてもらうしかないね。しかし、ゲーム内とかだったらどうやっていたのか。ここと同じだったとしたら自転車に5個孵化器括りつけて走ってたりとかしたのだろうか。……ちょっとシュール(笑)。

 

「とりあえずこれでタマゴの問題も一通り目途が立ったか」

「ですね。あ、でもこれ何が孵るんだろ? 彰くんわかる?」

「いやいや、親がわからんのに何が生まれるかなんてわかるわけがないだろう」

 

 いやまあ伯父さんの言うことの方が正しいっちゃ正しい。解説動画のタマゴは、ゲームやポケGOで見たのと同様、薄い黄色地に薄い緑の丸い模様が描かれていたものだったので、たぶんこれがタマゴのデフォルトなんだろう。

 それでいま三枝さんの手元にあるタマゴ。その模様だけど、これは先の模様ではない。あるポケモンと同じ模様のタマゴである。

 だから、こと今回に限っていえば『何が生まれてくるかわからない』ということの例外に当たるだろうなと。

 

「そうですね。おそらくって言葉をつけておきますが、トゲピーじゃないですかね」

「「え?」」

 

 2人はまさかわからないだろうという態で話していたようで、僕のその言及に思わず2人して互いを見合った後、こちらを見据えてきた。

 

「わかるのか?」

「ホントに?」

「ええ。でも、今回だけの特別ですよ」

 

 そうして僕は自分のスマホで絵をアップしたサイトを呼び出して見せる。

 

「ほら、このポケモンです。タマゴの柄とかソックリでしょう?」

 

 2人にグイッと見せる。2人はそれを覗き込み、そして三枝さんの手元を覗き込む。

 

「本当だ」

「え、この子が生まれるの?」

「おそらくですがね。ちなみに最終進化形はこの子ですよ」

 

 そうしてまたスマホを操作、今度はトゲキッスのページを見せる。

 

「個人的には結構かわいい上に強い。そしてフライゴン同様、空も飛べる。水上を移動できるラプラスと併せて、三枝さんのポケモンは相当当たりなんじゃないですかね」

「……私、お世話と歩くの頑張るわ。絶対トゲピーを孵化させる。そしてこのトゲキッスに進化させるのよ!」

 

 拳を天高く突き上げて叫ぶ三枝さんなんだけど……。

 あれー、この人こんな面白い性格してたっけなー?

 

「うーむ、三枝君が羨ましいな。しかし、私もナックラーを育て上げてフライゴンにしなければならない。むむむ」

 

 そして彼女を羨みながらも悶々と考え込む伯父さん。

 とりあえず僕はそんな2人を置いてポケストップでアップデートを行うことにした。


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