この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「…………ぅ。……うー、ん。ねむ。ふあああ」
けたたましいスマートフォンから流れる目覚まし時計のベルが眠りからの覚醒を促す。今日は土曜日。昨日までは会社だったが、幸いにも土曜日は休み。生活リズムを崩さないためにも、休みの日も平日のときほどとはいわないけれども、そこそこ早く起きる習慣をつけている。起きれなかったら500円貯金という罰ゲームを付けて始めたことだが、最初は毎週枕元の貯金箱の体重が増えていったことも今は昔。片手の指で数えるほどの小銭しかないので、貯金箱の重量も増えておらず、きっと彼(?)も自分の体重が増えずに喜んでいることだろうことは想像に難くない(?)。
さて、これからは軽く朝食を作って食べて着替えてマッタリしつつポケモンの絵でも描いていこうか。とりあえずはいつも通りの土曜日の始まりだ。
「――ラル!」
そう、いつも通りの土曜日――
「――えっ?」
ふとまだぬくもりの残るベッドに腰掛ける。空耳かと思ったが念のため、その音がする方を見やった。
「ラル。ラルラ!」
そこには真っ白い服の裾を引きずっている人間の幼児がいた。いや、ウソ。如何せん青い帽子をかぶっている幼児ならまだしも、青の頭部から2本の赤い突起状の角が生えているなんて人間にはあり得ない。
「ていうか、そもそも幼児がウチにいるわけねえだろうが! ワイはまだ独神ならぬ独身や! いたら犯罪だわ!」
一人セルフ突っ込み、しかも関西弁になってしまうほどの衝撃が駆け抜けた後、今一度その物体を見る。
「ラルー?」
……コテンと首を傾げる姿がなんとも愛らしい……。
「ってそれも違う! えっ!? なに!? どういうこと!?」
駆け抜けた衝撃は第二波第三波として未だ身体中を巡っている。
そこには、10年以上僕が恋い焦がれたもの、いや生き物。
ポケットモンスター。
彼らの中の一匹、エスパー・フェアリータイプを持つラルトスの姿があった。
ちなみに超珍しいことに色違いだ。
「ラルー」
上目遣いで此方を見やるため、青い頭部から僅かに覗く赤いつぶらな瞳が見え隠れする様に僕は第四の衝撃を味わった。
このラルトス、実に人懐っこい。
脇の下辺りに手を入れて軽く持ち上げてみるとキャイキャイと楽しそうな様子を見せるのだ。試しに下ろしてみたらどうなるかと思い、それを実行してみる。
「ラル! ラル!」
すると「もっとして! もっとして!」といった感じで両腕を上げてせがむのだ。
もうホント、かわいいったらありゃしない。
だから、何度かそれを繰り返した。ただいつまでもそうしているわけにもいかないので、ラルトスを下ろすとお勝手に向かい朝食の支度をし始める。
ラルトスは僕の後ろをヒョコヒョコと付いてきた。まるでカルガモの子が親に遅れまいと必死に追いかけるかの様子に僕はまた心を射貫かれた。
「ラルトス、よかったら僕の肩に乗る?」
少し左肩を下げるようにして問いかける。
「ラル! ラッル!」
するとラルトスはこれまた花が咲いたような笑みを浮かべて嬉しそうに
「ん? お~!」
そう、
ラルトスはエスパータイプであり、『ねんりき』という技は早い段階から習得するラルトスの基本技といってもいい存在だ。つまり、ラルトスは自身に『ねんりき』を使い、僕の肩に飛び乗ったのだ。
「これがポケモンの技かぁ。いやー、すごいなぁ」
ものを動かすなんてことはない、しかも基本威力も低い技かもしれない。それでも僕は前世を含めた今までの人生においてポケモン、そしてポケモンの技というものを、液晶画面越し以外での、生のこの
「ラル、ラ、ラル」
僕からはよく見えないけど、頭に触られている感じからどうやら、ラルトスは僕の肩と支えとなる両手を置くための頭のベストポジションを探しているらしい。その様子にさらに僕の心がキュンキュンと鳴る。
「でもこれ明らかに軽いけど子供なのかな」
ラルトスの重さはたしか6.6kgだったはず。しかし、肩に感じる重さはそれよりも圧倒的に少ない。荷物の入った肩掛けのバッグをかけたぐらいの重さしか感じない。思えば、6.6kgの物体がいきなり肩に飛び乗ったら、脱臼か最悪鎖骨辺りが骨折していてもおかしくない。これは前世の「オレにボルテッカーだ!」に浸食されすぎていた認識を早々に改めないとまずい。
「ラル!」
「え? お、おおおお!」
ちょっとした浮遊感とそれまで感じていた足の裏ごしでの床の感触がしなくなったので、思わず足元を見てみれば、なんと僅かではあるが宙に浮いている!
「く、空中浮遊だ! うおおおお! すげえええ!!」
体感したことのない無重力に僕はまたまた初めての感動を覚えた。
「あ、そうか。これラルトスの『ねんりき』?」
「ラル!」
そうかそうか! 何だか不思議の力というか感覚につかまれている気がする感じ。これだったら、たまにはやってもらいたい気もする。思えばコレがあれば階段とか楽に昇れるし、空も飛べるんじゃないか?
「ラル!」
すると、目の前にラルトスがふよふよと浮かぶ。
「ラルラル!」
そして力強く胸を叩いて頷くようなことをしてくれた。それの理解するところといえば。
「それってもしかしてやってくれるってこと?」
「ラル!」
ほー! いやいや! そいつは是非ともやってほしい!
……ん? でも僕、今そんなこと口に出したっけ?
「うーん……あ、ひょっとして」
たしかラルトスは頭の角で人の気持ちを感じ取るという設定があったはずだ。イラスト投稿サイトにアップしたときに基本的な情報としてそのことも書き加えていたような気がする。
「ラル!」
するとラルトスは「当たり!」と言っているのか、その小さな腕を賢明に使って
いやはや、どうしてあなたはそんなにも僕の心を射貫いてくれる仕草をしてくるのでしょうか。
あざとい。流石ラルトスあざとい。
そんなことをツラツラ考えているとスマートフォンが鳴り出した。おっと、この着信音は電話か? もうすぐ7時というこんな早い時間にいったい誰が掛けてくるのやら。
「あ、先生」
スマートフォンのディスプレイに映る名前はカウンセリングで僕の主治医だった先生、新出先生だ。完治した後でも、たまに伺って診察という名目の近況報告なんかをやっている。ちなみに男性のイケメンさんで、美人な奥さんと娘さん2人という円満な家庭を築いている。一応断っておくけど、僕に彼に対する恋愛感情はない。
「ラルトス、ちょっと待っててね。あとできれば静かによろしく」
ラルトスが「うん」と頷くのを確認して僕はスマートフォンのディスプレイの応答部分をタッチして耳に当てた。
「はい、御子神です。おはようございます、先生。どうかされました?」
『おはよう、御子神くん。とりあえずテレビをつけてくれないか。君に確認したいことがあるんだ』
やや威圧感を覚えるような味のある渋い声が耳に届く。しかしそれ以上に、常には感じられない焦りが含まれるような声の調子に、僕は違和感を覚えた。
「テレビ、ですか。えーと」
居間に移動してリモコンを探す。テーブルの上に投げ出されていたそれを取り上げると、電源ボタンの上に指を置いた。
「――! なんだこれ?」
そこには今までとは決定的に違うものが映されていた。
見やすさ親しみやすさ重視で算数字と漢数字を混ぜて使ってみましたが、いかがでしたかね?
不評であれば漢数字に統一します。
新出先生のCVは中田譲治さん(ボソッ