架空の現代にポケモンが出現したら   作:kuro

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


ポケモンの道具は

 プオオオオオオ! プオオオオオオ!

 

そろそろ官邸に戻ろうかといったところで、SLの汽笛のような音声が辺りにつんざいた。

 

「あ、僕のスマホですね」

 

 ポケットから取り出して液晶画面を見るに、新出先生からの本日3回目の着信。周りに一言断ってから電話に出てみると――

 

「お疲れ様です、先生。どうしました?」

『御子神くん! 助けてくれ!!』

 

 なにやら穏やかでない状況のようだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「いっけぇ、モンスターボール!」

 

 目の前には下の方の我が娘汐莉が両手で2つのモンスターボールを投げている。辿々しさが妙に愛らしい。それと両方の手で同時に投げたこともあって投げたボールは5mも飛んではいないが、それらはきちんと2匹のポケモンに当たる。小刻みに揺れた後、スイッチが消灯して無事に我が娘はポケモンをゲットできたようだ。

 

「やったぁ! パパ、ママ、お姉ちゃん、やったよ!」

「うんうん良くできたね~、汐莉ちゃん」

「汐莉ぃ、すごいぞ~」

 

 妻の美波に上の娘の朱莉が『よしよし~』と頭を撫で褒め称えると、汐莉もニコッと年相応の笑顔を浮かべる。実に微笑ましい光景だ。

 

「これであとはママだけだね~、ポケモン持ってないのは」

「そうねぇ。出来れば朱莉の子よりもかわいい子がいいわ」

「えー、お母さん、私のポケモンかわいいじゃん」

「いや、お母さん朱莉のその美的センスは女の子としてはどうかと思うのよね」

 

 娘よ、実は私も少なからずそう思っているぞ?

 

「お姉ちゃんのポケモンなんだっけー?」

「んっふっふー! この子よ!」

 

 そういった心持ちは朱莉に伝わることはなく、当の朱莉は喜々として自分のゲットしたポケモンを外に出した。

 

「モン、モンモジャ」

 

 青い草の蔓で全身を覆われているポケモン。蔓の影で目元もハッキリとしない中、真っ赤な靴がアクセントとして際立つポケモン。

 

「モンジャラ~♪」

「モ、モジャ~♪」

 

 朱莉はガシッとモンジャラに抱き寄り、モンジャラも自身を覆うその蔦を幾重も伸ばして同様の行動を取る。

 

「うわぁ、なんかエイリアン系の映画で人が取り込まれて吸収される絵面にしか見えないわ……」

 

 妻の言い分は非常にわかる。正直その通りにしか見えないのだ。下手に他人が見たら警察とか呼ばれる事態にもなり得るかもしれん。

 

「ん~、なんかお姉ちゃんポケモンと仲良さそう。汐莉もポケモン出すー!」

 

 まあ仲が良いというのはよく見て取れるので、汐莉も真似をしたくなったのだろう。汐莉は朱莉に結構懐いているからな。

 そうして汐莉は先程ゲットした2つのボールを投げ上げる。

 

「ニド、ニドー!」

「ニードー」

 

 出てきたのは兎のような2匹のポケモン。片方は角が長くて体色が全体的に紫、もう一方が角はないに等しく、体色は薄い青。まだモンジャラというポケモンよりはかわいらしい。あー、名前は――

 

「ニドランですって。オスとメスのペアみたいよ」

「早いな。どうやって調べたのだ?」

「“図鑑”って機能があるでしょ? それでよ」

「なるほど」 

 

 そうして我々が目を離した隙だった。

 

「ちょっ!? 汐莉どうしたの!?」

 

 朱莉の切羽詰まったような声に思わずスマホ画面から顔を上げた。

 

「汐莉!? どうしたの汐莉!!」

「汐莉!!」

 

 駆けつけてみれば先程までとは一転して力なく俯せに倒れ込む娘の姿。

 抱き起こして顔を見れば額は玉のように発汗して血の気も失せ、呼吸もやや浅い状態。なのに脈は明らかに早い状態。このままでは非常に拙い。

 

「美波! 救急車だ! 急げ!」

「わ、わかったわ!」

「朱莉! AEDの場所分かるか!?」

「う、うん! おとうさんがいつも言ってる『日本全国AEDマップ』だよね!」

「そうだ! 頼むぞ!」

「任せて!」

 

 そうして妻と娘が駆け出していく音が聞こえた。

 

「さてどうする? 毒っぽい症状だがどういう毒なのかが見当もつかん」

 

 心臓はどうやら動いており、心臓マッサージは必要なさそうだ。呼吸も一応はしているので、一先ずは横向きに寝かせ窒息を防ぐ。尤も止まる可能性もある。そして呼吸困難の症状だが、うちの娘は心身共に健康でアレルギーも喘息もない。つまりは持病ではない。原因は――

 

「ニ、ニドー……」

 

 ――申し訳なさそうにしているニドランの様子が視界に入った。

 

「そうか! ポケモン! ならば!」

 

 私はすぐさまこの事態に一番に対処出来そうな人物にコールを入れた。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「なるほど。状況は分かりました」

 

 新出先生の下の娘さん、汐莉ちゃんがニドランに接触して、おそらくだが毒状態になったようだ。そしてこの通話の内容は三枝さんの指示でスピーカーとテレビ電話状態にして聞いていた。

 朱莉ちゃんや汐莉ちゃんとは新出先生のお宅にお邪魔したときには必ずと言っていいほど遊んであげた仲だ。是が非でも助けてあげたい!

 

「先生!」

 

 人間にポケモンの道具が効くのかはわからない。しかし、試してみなければ何も始まらない。そこでダメ元とばかりに、毒状態を治すことの出来る道具を片っ端から挙げてみることにした。

 

『どくけしなら持っている!』

「なら、それを出してください! 見た目はどんな感じですか!? スプレー式ですか!? それとも別の何かですか!?」

『オレンジのスプレータイプだな! 中は……液体が入っている! どうする!?』

 

 やっぱゲームと同じスプレー式! ポケモンだったらたぶんそれを吹きかければ……いや待て、どこに吹きかけるんだ? 毒だったら全身を蝕んでるだろうし。口から飲ませるのか?

 

『待て! 容器の外に使い方が書いてある!』

 

 そういわれて僕も実際にどくけしを取り出してみることにした。

 容器はどこかにありそうなスプレーボトルのデザイン。スプレー部分が白っぽい以外は半透明のやや薄いオレンジの塗色で、中の液体が揺れ動いているのが、鮮明にではないけど見て取れる。

 で、その使い方とやらは確かにボトル部分に書いてあった。

 

「飲ませても全身に吹きかけても良いようですね!」

『そのようだ! ならばまずは飲ませてみることにする! 幸いどくけしはもう1本ある! こちらは万が一の全身用にするとしよう!』

 

 スマホは地面に置かれたようで、映像は見られないので、僕たちは向こう側の音声に注意を払う。受話口からは焦らず落ち着いた声で汐莉ちゃんにどくけしを飲ませているだろう先生の声と弱々しいながらも汐莉ちゃんの声が聞こえる。意識ははっきりとしているようだ。

 

『どうだ? 汐莉?』

『……うん、なんかさっきよりラクになったかも……』

「先生、汐莉ちゃんの様子は!?」

『ああ、今見せる』

 

 そうして急に液晶画面が明るくなり、汐莉ちゃんの様子が映し出される。

 見れば疲れは見せているものの、先程の苦しそうな息継ぎは影も形もなく、僅かだが笑顔も浮かんでいるようであった。

 

「うっそ」

「マジかよ……。さっきまで重病人みたいな感じだったのに」

 

 周りの反応に大いに頷きたいところもあるが、何にせよ、無事っぽそうな感じが見て取れた。

 

『呼吸も落ち着いたし、顔色も赤みが差している。脈拍もさっきよりは大分正常に戻った。念のため検査してもらうが、一先ずは大丈夫だろう』

 

 

 ――ありがとう、御子神君。汐莉は助かった

 

 

 精神科医とはいえ医者であるし、直に見ている先生のその安堵したような声と言葉で思わず僕も緊張からか力んでいた力が抜けた。思わずアスファルトに尻餅を付いてしまったほどだ。三枝さんたちの纏う緊張感も呼吸で肺から空気が抜けていくように霧消していった。

 

「いやー、良かったです。モモンのみか、あるいは食べやすさ的にいかりまんじゅうやミアレガレットなんかの食べ物系でもあれば良かったんですが。実は正直な話結構賭けだったんですよねー」

 

 まあアニメでは人間がどくけしで毒が回復していたけど、それが果たしてこっちでも大丈夫なのかはわからなかったわけだし。

 

「あ、そうだ。ついでにキズぐすりも飲ませるかスプレーしてあげてください。一応体力を回復させる効果があるので」

「わかった。それに賭けとはいうが君はそれに勝ったではないか。運も味方したということもあるだろうが、ギャンブルなど勝てばよかろうなのだよ」

「いやまあそういうの宝くじぐらいしかやったことはないので」

「今度一緒に行こうじゃないか。なんにせよ、今回は本当に助かった。ありがとう」

 

 救急車のサイレンも聞こえてきて、これから念のため病院に行くそうだ。ちなみに電話を切る直前に、キズぐすりを飲ませてもらって疲れも消え失せたのか、汐莉ちゃんにも「彰にーちゃんありがとう」と礼を言われたりもした。

 

 

 

「さて、彰くん、今のこと総理始め関係各所に報告するけどよろしい?」

 

 周りは公安に自衛隊。テレビ電話にスピーカー状態だったので、当然それを只聞いているだけでなく、録音録画したり、メモに取っている状態であったりする。というか断ったところで無意味な話だ。

 

「もちろんです。むしろ今みたいな、ポケモンの被害に遭った人たちを助けることにも繋がりますし。できれば早急に会見開くなり何なりで積極的に広めてほしいですね」

「OK! そういう要望も含めて報告しとくわよ」

「人助けになりそうなのは結構ですが、変な勢力に流れると厄介そうで、公安としてはポケモン以外も懸案事項が増えた気がしてなんともはやですな」

うち(自衛隊)もそうなりそうな気もしますね」

 

 武藤さんとあと自衛隊の人が軽くため息もつくも、雰囲気的にはそれが本心というわけでもないだろう。なんにせよ、ポケモンの道具が人間にも効くということが分かったのは行幸だろう。

 

 ちなみに今回のは毒だったが、他にも状態異常は麻痺と火傷、睡眠もある。まあ睡眠はさておき、他の2つの対処法も併せて伝えておいたのは言うまでもない――

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

『……ポケモンの被害に遭われました国民の皆様方におかれましては……お近くのポケストップにて……――』

『……この方法にて疾患者1名の治療に成功いたしました……――』

『……またこれらの薬には、全く未知の……新たなる治療薬の可能性も感じております……そういった意味も踏まえまして……今後関係機関と協議を重ねていくことといたします……――』

 

 ということでそれから少しの時間を置いて。

 こんなような会見が的井吉乃内閣官房長官(女性初の内閣官房長官)によって行われることになる。




ということでポケモンの道具が人間にも効果があるという状況。
これ毒はどんな毒でも毒消し1つで治り、どんなにひどい火傷でも火傷治し1つで治り、身体の麻痺も麻痺治し1つで治るとてつもない状況なのでは?

AEDの場所がわからない場合、「日本全国AEDマップ」で検索かけるとお近くのAED設置場所が地図でわかるサイトに繋がります。知っていて損はないと思います。AEDマップでもそのサイトがトップに出ます。

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