架空の現代にポケモンが出現したら   作:kuro

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


引き起こされる異変

 満月の浮かぶある夜。

 いつもはもう少し遅い時間に一度は目が覚めるのだが、その日はたまたまそれが満月がちょうど南中に浮かぶ頃合いだった。

 

「ああ。素晴らしい。綺麗ですね」

 

 その日は心なしか満月の大きさも普段よりは大きく見えた気がした。いや、思い違いではなく、実際本当に大きく見えていたのだ。

 その様子に思わず、窓を開けて天を見やる。弄月をしようにも、4月の真夜中は春とはいえど、まだまだ身に震えるほどの気温。

 早々に肌が粟立つ感覚を覚え、開けた窓を閉めて寝室に戻ろう。

 そうして窓に手をかけたときだった。

 

「おや? 何でしょう?」

 

 ひらり ひらり ひらり

 

 そんな擬態語で表されるかのごとく、舞い落ちてくるものが視界の端に映る。

 思わず、両手を差し出してその舞い落ちるものを受け止めた。

 

「これは……」

 

 それは今まで見たこともないシロモノだった。

 自身が魚類学者であるから、他の生物学においては不案内ではあるが、それでも学会誌には目を通すことを常に続けてきた身としては、こんなことはあり得なかった。

 

「……七色の……羽? いや、抜けた羽であるのになぜ温もりを感じるのでしょう……? それになぜこの羽は自発的に光を放っているのだ……?」

 

 もはや普段の口調も忘れてこの不可思議な羽をまじまじと見つめてしまう。

 

「……明日は時間の許す限り、書庫に篭もりましょうか」

 

 明日の公務、いや、もう既に今日となってしまった日付の公務を思い浮かべ、もう一度寝直そうと思いながら、目覚めた後のことを思い浮かべた。

 

 

 このとき、だれもが気づくことはなかったが、空には夜なのに、虹が浮かんでいた。

 

 

 それは日本列島に異変が起きた当日未明のことだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「で、状況はどうなっていますか?」

 

 ここは総理大臣官邸の地下にある内閣危機管理センター。シン○ゴジラでもちょくちょく出てきていたアレだ。

 そして、その幹部室の末席の一席を汚させてもらっている僕がいる。

 

(いやいや、どう見てもここにいちゃ拙い系なんじゃないの!?)

 

 秘書官の1人と思わしき女性に案内されてここに座らされたんだけど、ここってマジモンのマジに日本の中枢でしょ!? そんなところに一介の一般人がいるのはおかしいと思うんだですのよさ?

 

「まず沈没した中国船籍の船舶についてですが、中国人民解放軍の軍艦です。残骸はまだ一部漂っているようですが、大抵は沈んでしまったようです。しかし、乗組員全員は海上保安庁および近海の漁船員に救助されています。大多数が意識が混濁としている重体のようですが、死者行方不明者はおりません」

「そうですか。それでは彼らの回復に全力を挙げてください。それからロシア空軍の方はどうなっていますか?」

「こちらも同じく海保が4名全員を救助しています。こちらは4名とも怪我等もないそうです。現在、いずれの当該海域も海上保安庁と海上自衛隊が警備に当たっています」

「そちらも結構。まずは無事で良かったです。そして日本国を守るその行動、大変ご苦労様です」

「ついでに日本国の人間が救助したこともね。これが中国ロシアの救助だと、少し厄介なことになっていた」

 

 その間に、マイクで発声される報告を的井官房長官が聞き、中河財務兼金融担当大臣が相槌を打つ。

 そして今後ろから小声で説明してくれている女性の方(さっき僕をここに連れてきた女性)。耳元で囁かれている感じなので、ちょっと幸せ(*´︶`*)

 ちなみに内容は救助の名目で尖閣に上陸されたりなどの不逞行為をされないようにするためらしい。ちなみに今、瑞樹総理は会見の準備、眞柴副総理兼外務大臣は駐日中国大使を呼び出してその辺のことをきっちり釘刺しているらしい。

 

「船員の治療および引き渡しについては後程にしましょう。で、原因は何だったのか、わかりましたか?」

「ロシア戦闘機につきましてはまだ不明ですが、尖閣につきましては見慣れない飛行物体が付近を徘徊していることがわかりました。おそらくこの物体が原因に関わっているものと推測されます。正面モニターの方をご確認ください」

 

 会議室正面中央に備え付けられている大型モニターには分割して様々な映像が映し出されているが、その一言でモニターいっぱいの映像に切り替わった。

 

 映し出された映像。

 

 そこには揺れる海面。船舶の残骸。救助の船やヘリコプター。そこまでは不自然さは全くない。しかし、その中で1つだけ、圧倒的にその場にあってはいけないものが底に存在していた。

 

「なんだあのピンクのやつは……?」

 

 そう。今誰かが言ったモノ。もっと具体的にいえば、幾何学模様の描かれた蓋付きの壺の中に全身が真っ黒な少女が入ったような姿のようなナニカである。少女と表現したのは蓋を被った頭部のところから長めの髪のようなものが出ているからだ。

 

「……まさか、カプ・テテフ?」

 

 思わず呟いてしまった言葉に後ろにいた女性がピクリと反応した。

 すぐさまその女性は僕の前に乗り出すと、(おもむろ)に僕の目の前のマイクのスイッチを入れた。

 

「官房長官、発言失礼いたします」

「ええ、どうぞ」

「ここにいる彼、御子神彰さんがその映像に映っている飛行物体に心当たりがあるそうです」

 

 ちょっ!?

 

(この人なにしてくれてんのーーーーー!?)

 

 内心そう絶叫してしまうも、その場にいた全員の視線が自分に注目ししてしまったのがわかった。

 

「御子神君、あなたはこの物体が何だかわかるのですか?」

 

 全員の疑問を代表してか、的井官房長官が問い掛ける。

 正直、カプ・テテフが今回の件に関係しているのかはさっぱりわからない。だけど、あのポケモンに関しては知っているし、一日本国民として現状の緊迫した状況を何とか出来る手伝いが出来るならその一助を行いたい。

 

「……はい。あれはポケモンです」

 

 その一言に議場内がざわざわとしだした。

 何人かが慌てて外に出て行く。

 

「あれも私のチルッチちゃんと同じポケモン、ですか」

「はい? あ、はい」

 

 は? チルッチちゃん?

 

「あ、私が捕まえたチルットです。今度ゆっくりお話ししましょうね」

「あ、はぁ」

 

 何だか微妙に力抜けたな。で、どこまで話したんだったか。

 

「ああ。えー、あのポケモンですが、厄介といいますか、面倒といいますか」

「というと?」

 

 正直伝説とか幻とかウルトラビーストとかはもっと世間が落ち着いてから詳細を話そうと思っていたが、もう今現在いるのであれば、言うしかない。

 

「あのポケモンの名前はカプ・テテフ。“伝説のポケモン”というものにカテゴライズされているポケモンです」

「かぷててふ? 伝説のポケモン?」

「はい」

 

 するとここで先程出て行った人たちが何やら書類の束を抱えて戻ってきた。それらを議場内にいる全員に1部ずつ配っている。

 

「伝説のポケモンは世界そのものに様々な影響を与えて、あるいはそれらを司る特別なポケモンのことです。神話や伝説に登場するようなポケモンばかりですので、強さや能力なんかが非常に強力なんです」

「神話や伝説というがキミ、そんなものは今まで聞いたこともないぞ」

「ですな。そのポケモンなるもの自体今日初めて世の表に出たモノばかりだ。その発言には理解出来かねるよ」

 

 数人の閣僚がそんなことを言ってくるが、そう言われても設定的にはそうなんだからどうしようもない。

 

「まあまあ皆さん、今はそのことはおいておきましょう。それで、続きをお願い出来るかしら?」

「はい。で、その伝説のポケモンであるこのカプ・テテフなんですが――」

 

 的井官房長官の助けに乗って、とりあえずのカプ・テテフの説明だけはしきる。

 

「無邪気で残酷な守り神――」

「面白半分に自らの特殊な鱗粉を撒き散らす――」

「鱗粉は体を活性化させて、怪我や病気を治す効果を持つ――」

「一方で、浴びすぎると体がその変化に耐えきれなくなり、逆に危険――」

「大昔に起こった戦争で争いを鎮めるために、鱗粉で治癒を行い和解させたという伝承があるが――」

「しかし、実は鱗粉の力で暴走した人々が全員死んでしまったために争えなくなった――」

 

 とりあえずわかっている範囲での僕のカプ・テテフの説明は終わったが、議場では僕の説明と、渡された資料(僕にも来たので見てみたら、自分でサイトにアップしていたポケモンのデータのコピーだった)に書かれていることを比べて唸っている人が多い。

 

「官房長官、ひとまず今のことを現場に伝えて不用意にそのポケモンに近づかないようにさせましょう」

「同感ですね。これは海保や海自隊員の命に関わることです。総理にも至急お伝えしておきますので、それで動くようお願いいたします」

「はい」

 

 そうして上村防衛大臣と官房長官のやり取りの後に秘書官?が1人出て行き、防衛大臣は隣に座る自衛隊の制服を着た人間(おそらく統合幕僚長?)に向き直る。

 

「では」

「ええ」

 

 その短いやり取りで統幕長は後ろに座る人間に声を掛け――

 

「総理、入ります!」

 

 突如議場内にその声が響き渡った。

 すると全員が椅子を引いて立ち上がる。

 

「周りと同じくお願いします」

 

 僕もそう言われて同じようにして立ち上がる。

 すると瑞樹総理に続き、眞柴大臣や秘書官ら、さらには自衛隊の制服姿の人も2人、入室した。

 そのまま総理が着席すると、併せて周りも座り始め、自分もそれに倣う。

 

「どうされましたか、総理?」

「ああ、会見を一時中断しました。いろいろと状況が変わってきたみたいですのでね。じゃあ、改めて報告お願い出来ますか?」

 

 すると総理は今入って幕僚長の後ろの座席に座った自衛隊員2人の方に顔を向ける。

 

「はっ。報告いたします! 北海道オホーツク海沖での墜落事故についてですが、まず墜落した残骸は海流に乗って我が国の排他的水域内に流れ込んでいます。続いて、撃墜の原因と思わしき飛行物体をこちらでも確認致しました」

 

(アレ? 何だろ? 何となくこの状況、既視感を覚えるぞ?)

 

 そう思っているのは僕だけではないようで、この議場内の大体が僕の方に視線をくれている。

 

「映像出します。ご確認お願いします」

 

 そして出た映像。

 そこには()()()()()()()()()()――

 

「総理失礼します」

「どうぞ、的井さん」

「御子神君、アレがなんなのか、知っていますね?」

 

 うわぉ。今の明らかに疑問系じゃなくて確認系のトーンだったな。

 映っている物体とやらの特徴は、黒い身体と2本の角に、砂漠でサボテンが被ってそうな赤柄の帽子、手の蹄、白い鼻輪、尻尾の部分の黄色いカウベル。

 間違いなく――

 

「カプ・ブルルですね」

「かぷぶるる? 何だかカプ・テテフと似てますね。ということは?」

「お察しの通り、カプ・テテフと同じく伝説のポケモンです」

 

 物臭な性格で、尻尾の鈴を鳴らして自分の存在を周りに伝えて無駄な接触や争いを避けるのが常だが、敵と見做した者には一切容赦無く徹底的に攻撃を加えて叩き潰す激しさも兼ね備えている守り神。攻撃方法としては大木を引き抜いてブンブン振り回したり、草木を操って敵を縛り付けて、自身の角で一突きなど。

 

「なるほどなるほど」

「しっかし、またポケモンかい。こりゃあ今後何か問題ごとが起こったときは全部ポケモンに関係してそうだねぇい」

「はは。それも困りものですが、我々には強力な助っ人がおりますから。ねえ?」

 

 ……総理と眞柴大臣の期待の視線のプレッシャーがデカいです。

 

「それと気象庁と自衛隊の連名で報告があるそうですね。お願い出来ますか」

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「うーむ……」

「そんなバカな……」

「こんなことがありえるわけがない……」

 

 議場はまたもやざわざわしている。それだけ先の報告にも劣らないインパクトが今のものにはあったのだから。

 

「気象庁、国土交通省、念のため聞いておきますが、何もない海洋上にほぼ()()()()()()()()()()()()なんてありえますか?

 

 そう。太平洋の南鳥島と沖ノ鳥島を結ぶ線を三角形の底辺とする直角二等辺三角形の頂点に当たる付近(日本本土側ではなくパプアニューギニア側)に4つの島が、そしてその三角形の重心付近にもう1つの島が突如出現したのだ。気象庁の5分刻みで天気を記録するレーダーで見ても5分前には影も形もなかったところに、突如島が出現している。

 総理に問われた2人の回答は当然――

 

「ありえません」

「前例のないことです」

 

 きっぱりと否定する。まあ総理も当然わかっていたと言うべき苦笑いの状況だ。

 航空自衛隊の偵察機によると、重心の方の島は分厚い悪天候の雲に覆われていて、詳細はわからないが、他の4つの島は周囲が晴天に恵まれていて偵察映像がはっきりと撮ることが出来たようだ。それによって判明したことで、さらに驚くべきこととは――

 

「見たところ島の植生がもはや意味不明です」

「たしかに。現代の植生では考えられないようなものです」

 

 報告の2人が口にした植生。それは何と――

 

「いやはや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ですか」

「非常に興味深い」

 

 農水大臣は呆れ果て、環境大臣は興味津々という視線でモニターに映る映像を見ている。いや、その2人だけでなく議場内の全員が同じ空気を醸し出している

 

「御子神さん、何か心当たりは?」

「御子神くんよぉ、あれどう思う?」

 

(すいません。なんで2人はそんな楽しそうに聞いてくるんですかねーえ)

 

 いや、ぶっちゃけると確証が持てないのよ。

 仮にこれらがポケモンに関係していたとする。

 

 上空2万5千メートル以上にも昇るほどの異常な大きさの積乱雲が島の周囲を囲う。しかもそれが地球の自転による偏西風に乗らずに1ヶ所に滞留し続ける。

 とするとこれって……ニューアイランド?

 

 つまりは――ミュウツーの逆襲?

 

 扇子の要部分に1つの島、そして両親骨(おやぼね)の先端と天の中央をそれぞれ、炎に包まれている島=火の島、電気に包まれている島=雷の島、氷に閉ざされている島=氷の島と見立てれば――

 

 要部分の島はアーシア島であり、つまりは――ルギア爆誕?

 

 といった仮説を立てることも出来るのだけども――

 

 

(確証が持てない……)

 

 

 どれもそれっぽいと言えるだけで、さっきのカプ神のように断言は出来ないのだ。

 とりあえず、今回は苦笑いでお茶を濁すことにしたが、その前に特大の爆弾が落とされることになる。

 

 

「失礼します! ただいま皇居御所にて正体不明生物が出現! 陛下の御前にて出現しました! 両陛下は無事とのことですが、予断を許しません!」

 

 




この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


ということで、どっかが引き金を引いてしまったせいで一気にカオスになってしまった伝説のポケモン編。
それと一応南鳥島と沖ノ鳥島の位置関係です。
何となくこんなところに4つの島があるんだなとイメージしていただければ。
(
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次回も続きます。

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