ストックが切れそうです。
さて、今回はいろんな意味での初バトルになります。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
現在の状況だけど、ポケモンの初ゲットをショーみたいな感じにしていて、ゲットし終えたところで閉幕かと思ったら、続けざまになんと第2部が開始されたような、そんな状況である。
空を見ればなぜかまっすぐこちらに向かってくるポケモン。両手とお尻には大きな針を持ち、腹部に黄色と黒の警戒色が施された蜂型のポケモン、スピアーのご登場である。ちなみにあの針は毒針であり、刺さるととても危険だ。
「みんな! しゃがめ!」
僕のその声に何事だと、僕の視線の先を見やる群衆。そしてそれを理解した瞬間にパニックに陥った。まあ、1mはあるオオスズメバチなんて見たら普通は発狂してもおかしくはない。僕もあれがオオスズメバチであれば発狂する自信はあるが、あれはポケモンである。ならば話は別だ。丁重にお帰り願おう!
「ラルトス、『ねんりき』以外で遠くを攻撃する技ってあるか!?」
「ラル!」
ラルトスは力強く頷き返す。直後ラルトスの陰が動き出し、それが超スピードと言うべき速さでスピアーに向かっていった。
「まさかあれって『かげうち』!?」
「ラルル!」
そうだと言わんばかりのラルトス。
スピアーは『かげうち』と自身スピードによる相対速度のために『かげうち』をよけることが出来ず、僕たちは計らずもクリーンヒットを先制で与える形になった。
「ラル!」
「今度は『あやしいひかり』か!」
何色と表現していいのか分からない不気味な光がラルトスから放たれる。それは『かげうち』によって結構手痛いダメージを負ったのか、片手を頭にやって首を振っていたスピアーにもろに突き刺さる。そしてそのまま自分を殴り始めた。
「よし! 『あやしいひかり』の影響で混乱したな! ラルトス、トドメの『ねんりき』だ!」
「ラ、ルールルー!」
混乱による自傷ダメージと弱点を突かれたことによる効果抜群のダメージ。今の『ねんりき』の攻撃によって混乱が回復したのか、スピアーは一目散に逃げていった。尤も、飛んでいく姿はフラフラで現れたときの俊敏さは見るべくもなかったが。
「ふう、やれやれ。なんとか追い払えたか」
そう思ってるとラルトスが淡い光に包まれた。
「ラルトス?」
「ラ、ラルラ!」
疑問に思って問い掛けたら、ラルトスがこちらに向き直って両腕で力瘤を作るような状態を作った。
「それってー……あ! 強くなったってこと?」
「ラルラル!」
すると「伝わった!」とばかりに強く何度も頷いてくれるラルトス。
なるほどな。今のがレベルが上がったって合図か。そういやゲームとかでも似たようなエフェクトを出してた世代もあったような気がするな。スピアーならそこそこ経験値もらえるはずだからコイツはおいしい。
なにはともあれ。
危険な虫ポケモンも追い払ったので周囲を見渡してみると、誰もが口を呆然と開けて僕を見入っていた。これは解決したってことをわかりやすく示した方がいいか。
「みなさん! 今みたいに危なくなっても、この子たちがいればこんな感じで追い払ってくれるんです! とても頼もしい子たちなんですよ!!」
その声で静寂だった周囲が、止まっていた時が一気に動き出したかのような爆発的な歓声に包まれた。
「――ええ、はい。そうです。わかりました。ありがとうございます。じゃあまたあとで」
ポケストップを見つけたらしい新出先生と再度電話をしていた間に家路についた僕たち。
とりあえずまだ何も食べていないので、コンビニに行ったついでに適当にいくつか買っておいたそれを居間のテーブルに置く。
「うーん」
他に何かなかったかと冷蔵庫の扉を開けた。
「ラル」
ラルトスが興味深そうに僕の肩に乗りながら、僕と同じように冷蔵庫の中を覗き込む。
「ラル!?」
身を乗り出していたからか、冷蔵庫の冷気を急に浴びてしまったようで、いきなり寒くなったことにラルトスはピクリと体を跳びはねさせた。
「食材とかを保存しておくために冷やしてるんだよ。ちょっと冷たくてビックリしちゃったね~」
「ラル~」
ラルトスも一度分かれば、「あ、そうなんだ」といった感じで驚くことなく、むしろより興味深そうに中を見やる。
う~ん、とりあえず昨日の夕食の残りを。
「ラル! ラル!」
「うん?」
ラルトスが何かを見つけたのか、「これ! これ!」と指差している。
「ああ、イチゴジャムね」
小瓶に苺の絵が描かれたジャム瓶を取った。
「ラル! ラルラル!」
精一杯腕を伸ばして「貸して! 貸して!」とやる様にホッコリとしつつも、ちょっと迷う。
「人間の食べ物をそのままポケモンが食べても大丈夫なのか?」
人間には問題なくても、例えば犬にはネギやカカオ類はダメだし、猫もネギや乳製品、塩分の多い物はダメなんてこともある。ジャムなんか糖分が相当高い。果たしてそのまま与えて良い物なのか。
ポケモンの食事関係はポフレなんかの菓子系以外はアニメでポケモンフーズが登場しただけで、ノータッチだ。知らないで食べさせて何かあったらまずいだろう。幸い、ポケモンフーズは手に入ってるんだし。
「ゴメンね。ちょっとコレは食べさせてあげられないかな」
「ラ!? ラルー……」
うっ! そんな目に涙が浮かんでるのが分かるようなそんな声を出すのはやめてほしい……! こっちは万が一を考えての苦渋の判断なんだから……!
――あっ。
「そっ、そうだ!」
そうして代わりに野菜室から違うものを取り出す。
昨日の安売りで買っておいて本当によかった……!
「なあ、ラルトス。あれはダメだけど、これなんかどうかな?」
取り出した物は苺パックに入った、瑞々しいばかりの赤い苺。
「ラ? ~~~! ラル、ラルッ!」
良かった。少しは機嫌が良くなったみたいだ。
そしてとりあえずラルトスはポケモンフーズとデザートとして苺を何粒か。僕は買ってきたパンを頂いて、朝食を済ますことにした。
食べた後はちょっと伯父さんと相談しよう。
「――なるほど。やり方はわかった。なにか分かったらこちらからも連絡を入れる」
『ありがとうございます。じゃあまたあとで』
「うむ」
電話の音が途絶え、眼前の光景に意識が持って行かれる。
駅から徒歩1分にあるこの噴水公園、そこにはポケストップとやら囲むようにして警察官が2名立って警戒を行っている。駅に近いことからおそらくは交番の警察官を応援に派遣したのだろうか。そしてその周囲を野次馬が取り囲んで見守っている。
「パパどうなの?」
隣には小学校に上がったばかりの次女。私に付いてきたいとどうしても愚図るので仕方なしに連れてきたのだ。他の子たちは家にいる妻が見ていてくれている。
「ああ、何とかなりそうだ」
「ホント!?」
嬉しそうな声を上げる娘だが、しかし、これだけは言いつけておかなければなるまい。私は娘の視線の高さに合わせるために膝をついた。
「もう一度だけ言う。パパが「いい」というまで決してパパから離れずに、パパの言うことに絶対に従うこと。いいかな?」
「パパしつこい!」
「これだけは絶対に聞きなさい。でなければ私は帰るぞ。もちろんお前を連れてだ。決してあそこには連れていかない」
私はポケストップを指差しながら、娘に告げる。
何度も言い聞かせてきたおかげか娘は渋々ながらもきちんと返事をしてくれた。
「よし」
御子神くんからは安全だと聞いてはいたが、私は何があっても娘だけは守る気概を再度確認するために声を上げた。
「やったぁ!」
娘はどうやら違うように解釈したらしいが。
そうして私たちは手をつなぎながらポケストップに歩み寄った。
「ああ、危ないですから下がってください」
警察官から制止の声が掛けられる。
「問題ない。そもそもこれは人体に全く無害なシロモノであり、現状の混乱を収める唯一と言っていい鍵となる物だ」
御子神くんの方でも動画撮影をされたというから、私の方でもそれをやってもらおうか。御子神くんのいい避雷針になるだろう。
「ここにいる諸君に告げておきたい。私がコレの――名をポケストップというが――使い方を説明しよう。ああ、動画を撮影する場合は娘を絶対に映さないようにしてくれ」
すると野次馬連中は慌ててスマートフォンを構える。フフ、どうやらほぼ全員だったようだ。
「では始める」
そして私は御子神くんから聞いたやり方をそのまま実践する。
「いかがだったかな? これがこのポケストップの使い方だ。続けて――」
そうして私は自分のスマートフォンを操作して手のひら大の大きさになったモンスターボールとやらを取り出す。
「こいつ、このモンスターボールの使い方を説明しよう」
さて、モンスターボールは今世間に溢れているポケットモンスターなる生き物を捕獲するための道具であるらしい。不思議な生き物ということらしいので、ここらでは見たことがない生き物ならば、まず間違いなくポケットモンスターであろう。
とりあえず遠距離で攻撃出来るよう小石をいくつか拾う。
「ふむ、あれでいいか。ああ、警察の方、少しの間娘をよろしく頼む」
そうして私は娘を彼に預けた後、ちょうど空を旋回している1匹の鳥に狙いを定めた。そしてモンスターボールをスイッチを押してポケットに放り込むと、右手に持つ小石を振りかぶる。
「ピジョ!?」
私の投げた小石は狙い違わず、あの鳥に直撃した。
鳥は墜落してくる。貫通はしないように手加減は加えた上、見たところ1m以上の大きさなので、生命力もそれなりなハズだ。死んだということはないだろう。
「ピジョ! ピジョジョジョ!」
鳥は地面に激突することは避けられたようだが、どうやら激しくお怒りらしい。かつ誰が攻撃したかも分かっているようだ。鳥らしく中々目がいい。おまけに思った以上に元気が良いようだ。手加減を少々誤ったやもしれん。
「来い」
私は左手を軽く突き出して右手を同じように緩く胸の前に構える。脇はきっちりと締めた。
「ピジョジョー!」
鳥は翼を広げて突進してくる。
私は右手の内の小石の1つを指先で弾いた。すると小石は鳥の右の翼に当たったようで、突進のスピードが失速する。
そして時期を見計らう。ここぞというところで右足を引いて半身になった。鳥は急に視界が開けて避けられたことに動揺しているだろうが、私はそれに構わず、左手の人差し指と中指の2本を立てて、その手刀を鳥の後頭部に落とす。
「ピゲッ!?」
鳥は今度こそ、目を回しながら土の地面に墜落した。
「ポケットモンスターの捕獲にはこうして弱らせるのが確実らしい」
そのまま私は左のポケットにしまってあったモンスターボールを丸いスイッチを押しながら取り出す。500円玉くらいの大きさだったそれが一気に野球ボール大の大きさにまで変化した。
「ぬん!」
「グゴッ!?」
勢いよく振り抜いたそれは見事一直線にあの鳥に突き刺さる。変な声を上げた気がしなくもないが、まあ仕方ない。捕獲、たしかゲットだったか、をするためだ。捕まえたら詫びとして後でキズぐすりと妻のおいしい手料理をくれてやる。
「ふむ、こんなものか」
ボールの揺れとスイッチの点滅が収まったことを確認し、私はボールを回収した。
「諸君、このようにしてポケットモンスターの――縮めてポケモンというらしいが――捕獲、ゲットを行うのだ。そのままこのモンスターボールを投げてもゲット出来るらしいが、弱らせると捕獲率が上がるそうなのでな。今回はこんな感じでやらせてもらった。さて諸君いかがだったかな?」
「うわぁ! パパかっこよかったよー!!」
――ふむん。娘の賛辞しかないのが些か解せんが、まあ良かろう。
さて、家路につくとしようか。ボディーガードとしても情操教育としてもポケモンは優秀らしいから、家族のために早めにゲットしてやらねばな。
次女「パパかっこいい! パパ大好き!」
※新出先生のCVを中田譲治さんにしてたから、愉悦道に落っこちる前のどっかの神父にすっごい似てきた気がする。
てかやってることはガチでZeroのときのあの神父並みなのでは(^_^;)
てかポケモン初ゲットってもっと感動する場面だと思うんですけどねー
先生のインパクトが強すぎて「え?」という感じになってしまう……
次回、一度やってみたかった掲示板回です。