架空の現代にポケモンが出現したら   作:kuro

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

ちなみに私は関東圏に住んでいるので、他の地方でどうなってるのかいまいちわかりません。なので関東基準で行きます。



総理官邸記者会見

 201云年 〇月△日土曜日 12:00

 

 春にしてはやや肌寒さを感じる今日日。

 日本国総理官邸記者会見室。日の丸が立てられたこの一室は今日もたくさんのマスコミによって席が温められている。いや、今日は常以上がそこに押し掛けて(ひし)めき合っていた。

 理由は主に2つだ。1つは官房長官ではなく、総理自身が会見を行うこと。そしてもう1つ、決定打となったのは、今日になって突然巷に溢れ出した奇妙な生き物について、政府の調査により判明したことを発表するということを事前情報として伝えられたことだ。

 未だ発見後丸一日とて経過していない上で果たしてどの程度の情報が齎されるのか。マスコミ各社各人は疑問に思うものの、今の政府は極めて正確な情報しか発信しないことは日頃現政権に対して批判的なメディアでさえも十二分に承知しているので、それはそれで自分たちや読者視聴者たちから集めた情報の補完程度にはなると考えていたりする。

 ちなみにこの会見、昼のニュースや再放送ドラマを取り止めて放送するところもあれば、会見の情報をL字型画面やワイプ(テレビ画面の小窓)で映して通常の放送もやっているところなどもある。もちろん、それらを一切『我関せず』とばかりに通常放送を通常通りに流すという我が道を行くスタイルを貫く放送局もある。主にテレ東とか。

 

 さてここで「みなさまの公共放送」がスローガンであるNHKをクローズアップしてみる。当該チャンネルの画面には左上に時刻、右上に大きく字幕で【総理記者会見中継】と映し出されていた。

 個人の自宅から家電量販店、ワンセグやカーナビに至るまで、多くのテレビがこの会見に視線を注ぐ。

 

『えー、時間になりました。これより瑞樹内閣総理大臣による記者会見を始めます。冒頭、総理から発言がございます。総理お願いします』

 

 その会見の進行係の案内が響き渡ると、総理が壇上に上がって国旗に一礼、併せてカメラのフラッシュが焚かれ始める。

 

『……えー、本日未明より日本各地で確認された未確認生物につきまして……国民の皆様におかれましては……心胆寒からしめる事態も起きているということで……この度政府調査により判明した事実を……国民の皆様に対して、ご報告申し上げます……』

 

 はきはきと、通常より心なしゆっくりとしたスピードで総理は話す。それは国民すべてに語り掛けるような、そして国民すべてに安寧を齎したい、そんな思いが透けるような語り口であった。

 

『……まずこの未確認生物につきまして……既存のどの生物とも異なる全く未知の生き物である、ということがわかりました……これは……緊急で開かれた有識者会議、また連絡の取れた有識者等からの意見の聴取を行った結果……その全員が、全会一致の結論を得たことから……間違いはないものといえます……』

 

 その発言に集まった記者らからは「やはり」という思いに駆られると共に、それを一国の総理が断言したことで、フラッシュの量が一段と多くなる。この総理の一言で、それは紛れもなく公式見解となり、日本政府の見解となったのだ。

 果たしてこれが世界にどれだけの影響を齎すのか。記者たちはそれに身震いを起こした。

 

『……私ども政府としましても、この度のことは前例のない事態であり……また、被害の報告もあり……予断を許さない緊急事態と認識し、事態の収拾に奔走しておりました』

 

 ふとここで瑞樹が壇上の水差しからコップ1杯の水を手元に備えられていたコップに注ぎ、それを半分ほど呷る。

 

『……その最中、我々政府はこの緊急事態に対し……我々よりも深い知識で以て……今回の件に対処可能であると、判断するに足る人物と……接触することに成功、しました……』

 

 その発言に会場は大きくどよめいた。

 

「おいおい、どういうことだよ?」

「あんなのを解決ってどういう?」

「……ひょっとしてアレか?」

「なんだよ、アレって」

 

 そんな囁きが聞こえる中、瑞樹は構わずに進める。

 

『……記者の皆さん、そして国民の皆様におかれては……既にご存知の方もおられるとは思いますが……実はインターネット上にて、この未確認生物について非常に詳しく書かれた記事がございます……』

 

 瑞樹のその言葉に「やっぱりアレか!」という小さな声が所々で上がる。知らない記者もいたようで、声を上げた記者の近くでは彼らに耳を寄せる記者らの姿が散見された。

 

『……(くだん)の人物はそれを書き上げた人物であり、我々よりも遥かに……この未確認生物に対しての理解を示しており……実際の対処の仕方についても我々に教授してくれました……』

 

 そうして瑞樹は懐から丸い物体を取り出す。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「あ、瑞樹総理がモンスターボール持ってる。ってことは何かポケモンをゲットしたんですかね?」

「一応そうした方が会見での説得力が増すから、できるだけ捕獲を試みるとは仰ってはいたな」

 

 今僕たち、僕・ラルトス・伯父さん・三枝さんの4人は、三枝さんの運転する車で首相官邸に向かうために首都高速を走っている。テレビ会議もそうだが、身振り手振りや実際に見ながら伝えたいこと、また何かの事態が発生したときにすぐさまが初動が取れるようにと、総理に要請されて向かっているのだ。ちなみに今やっている会見は後部座席のカーテレビで伯父さんと2人で見ている形だ。ラルトスはというとさっきとは比べ物にならないほどの速さで後方に流れていく景色にもう夢中で、さっきから窓に噛り付きっぱなしである。

 

『これをモンスターボールと言いまして……あの生物を捕獲するための道具となるものです……』

 

 ゲームでいうアイテムみたいなものですとか付け加えるとかあの人って意外とオチャメなんだな。

 

『さて、このモンスターボールですが……』

 

 そうして瑞樹総理が軽くモンスターボールの説明をする。ピンポン玉くらいの大きさから野球ボール大の大きさに変化させたときなんかは、記者たちの驚きとノートパソコンをタイピングする音がより大きく聞こえてきたほどだった。

 

『……さて、このモンスターボール……この中には今まさに、わたしが捕まえた――かの人物が表現するには『ゲットした』というそうですが――あの未確認生物が入って、おります……』

 

 どよめき、フラッシュ、タイピング音といった会場内のボルテージが駆け上がっていっているだろう中で、総理は満を持してモンスターボールの口を開けた。

 

 

『シャン! リー、シャン!』

 

 

 それは丸い鈴の形に小さな手足を持ったポケモンだった。後頭部に太くて紅白模様の鈴紐がある。

 

『リー、シャン♪』

 

 宙に浮遊し、跳ねるたびに綺麗な鈴の音のような音を響かせる。

 

「へえ! リーシャンを捕まえたのか!」

 

 一国の総理がリーシャンとかなかなか面白い気もする。それにリーシャンも進化形のチリーンもなかなかカワイイし。

 

「ほう、あのポケモンはリーシャンというのかい?」

「ええ。リーシャン、エスパータイプですね。特性は『ふゆう』で、十分に懐いている状態で夜にレベルアップするとチリーンに進化します」

「ふむ。中々複雑だな」

「確かに。懐きに指定時間帯での成長ですか。細かい条件もあるものですね」

「まあ最初はそうかもしれませんが、慣れちゃえばなんてことないと思います」

 

 そう返した僕の言葉に伯父さんと三枝さんは一様に苦笑いを浮かべた。

 その間にも画面内では目が眩むほどにフラッシュが焚かれている。その様は総理自身が白く発光しているのではないかと見紛うほどの有様であった。テレビの画面には『フラッシュの光にご注意ください』とのテロップが流れるが、最早注意するどうこうの話ではない気もする。

 

『すまないね、一度戻ってくれるかい?』

『シャン!』

『ありがとう』

 

 そうして総理はリーシャンに向けてモンスターボールを翳すと、モンスターボールのボールスイッチから赤いレーザー光がリーシャンに向かって伸びる。それが一瞬でリーシャンを包み込むとアッサリとリーシャンの姿が消え去った。モンスターボールにリーシャンが収納されたからだ。今の様子を見た限りでは、総理とリーシャンの間の関係は中々に良好なようだ。

 

 そして『ええええええ!?』なんていう記者の声が聞こえてくる。まあいきなり20㎝くらいの生き物が突然現れて、そして突然消えたらばそういう反応にもなるだろう。

 

『静粛に! 静粛に願います!』

 

 流石にそれらは看過できなかったのか、進行係の人からの注意が入った。

 そしてややあって、また総理が話し出す。会見場はまだガヤガヤしているようだが、総理自身はそれが許容範囲内に収まったと判断したのだろう。

 総理がさっきのモンスターボールをボールスイッチを見せるように改めて顔の横に掲げた。

 

『……さて、我々政府としましては……このような道具で以てこの生き物をゲットして制御することに成功、しました……もちろんこれらは、どなたでも出来ることにございます……彼らは、とても理性的で、とても賢く、そして、とても優しい……彼らと接して私はそれを強く実感しました……また彼らは進んで私たちの力になってくれようともしました……ですので、わたしは思いました……彼らが私たちと一緒にいてくれれば……私たちは更なる幸福を享受できる……私は、そう確信するにも至りました……!』

 

 総理の言葉に段々と力強さが増してくるのを感じる。

 ポケモンを排除することは難しい。人間にはない力を持つ彼らを武力で以てそれを行おうにも限界はあるし、後々大変なしっぺ返しが来ることに間違いはない。

 

 ならば共存共栄を図っていこう

 

 そうした思いを強く感じるような言葉だと僕自身は思った。

 

『……そしてこの生き物はゲットしてしまえば、どんなに大きなものでもポケットにすら入ってしまう生き物です……我々は、かの人物が提唱した言葉、それをそのままこの生き物に当てはめることに、しました……』

 

 そうしてここで、総理はコップに残っていた水をすべて飲み干した。

 そして一息入れて間を取る。

 

 

 ――我々はこの不思議な不思議な生き物を

 

    ポケットモンスター

 

    縮めて ポケモン

 

   そのように呼称することを決定しました!――

 

 総理がそう力強く断言したことに、僕は不覚にも目頭が熱くなる思いを抱いた。

 




この会見により『ポケットモンスター』の存在が公式見解となりました。
それにしても記者会見結構難しかった。
稚拙な表現で申し訳ありません。

次回はまた御子神くんサイドに戻ってあれやこれやです。

※ニックネームと現実にポケモンがいたら何が起こるかのアンケートを活動報告で実施しています。
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