「霖之助さん、この見慣れないカメラに似た道具はなんですか」
魔法の森の入り口に位置する薄暗い香霖堂の店内で、天狗の少女……射命丸文は店主である森近霖之助に問いかける。
「君なら真っ先にそれに目が行くと思っていたよ」
店の奥から出てきた霖之助は、彼女が手に持つカメラに似たものを見ながら微笑む。
「それは『ビデオカメラ』というものらしい、先日拾ってきたんだ。」
「カメラ……? では私が持つ『
文は瞳をキラキラと輝かせる。
「ああ、撮影するという点ではカメラと同じだ。ただ一つ違う点があってね」
「違う点、人の心の内部を写せるんですね、これはいい記事が書けそうです……」
ニヤリ、と文が何かを企んだ顔をする。
「そんな道具を外の世界の人々が作れると思うかい?」
カメラと同じ、ということは外の世界から流れ着いたものだ。
「それもそうですね、では『違う点』とは何ですか。勿体ぶらずにささ早く早く」
ハッとし我に返る文。
「聞いて驚け、なんとこの道具は……」
くいっと眼鏡を上げる霖之助。
「通常、カメラは一枚の画として物を記録するが、このビデオカメラは動く画として、しかも音も記録できるんだ!」
「それはつまり記録した者が見たままを他者に伝えられる、ということですね」
ニヤリと文は再び何かを企む。)
「まあ、そういうことになるね」
「買います、これ買います!」
爛々と赤い瞳を輝かせる文。
真実のみを記事にするという信念を持つ、彼女にとって『ビデオカメラ』という道具はカメラ以上にその信念に基づき情報を伝達できる道具である。
「いや、これは非売品でね。それにこの道具はこれだけでは意味を……」
非売品、そう霖之助が告げた瞬間埃っぽい店内に突風が吹き荒れる。
突風が止んだ店内に、少女の姿は無く代金であろう札が散らばっていた。
「ビデオカメラだけじゃ録画した画は見れないんだが……代金は頂いたし、まあいいか」
霖之助は散らばった代金を拾い集める。
「って……壱円札だけじゃないか」
せっかく手に入れた珍しい道具を僅か拾数円で手放してしまったことに、霖之助は深くため息をついた。
◇
「霖之助さんっ! 記録した画が見れないんですけど」
それから半刻もしないうちに文は案の定香霖堂に戻ってきた。
「最後まで話を聞かない君の自業自得だ、そのタイプのビデオカメラは単体で記録した画を見ることはできない。これが無いとね」
霖之助は香霖堂の奥から大きな箱のようなものを持ってくる。
「このテレビという道具とレコーダーが画は見れないんだよ」
「そ、外の世界の道具が無いと見れないんですか!?」
「ああ、そういうことだ」
やれやれと首を振りながら霖之助は続ける。
「おおよそ、このビデオカメラを使って新しい事業でもやろうと考えていたんだろうが、幻想郷に画を見るのに必要な道具を持っているのは極わずかだ」
文はしばらくうつむいていたが、何かを思いついたのか突然顔をあげる。
「これ返品しますっ!」
「却下だ、さっきも言っただろう自業自得だ」
「そんなあああああああ」
文の悲痛な嘆きが香霖堂に響く。
それにしても、文は何を記録したのだろうか。
霖之助は文が机に置いたビデオカメラから記録媒体を取り出し、レコーダーに挿入する。
そこに写っていたのは……。
『どうも皆さん、清く正しい射命丸文ですっ! 私は今、霧雨の魔理沙さんの家に来ていますっ……』
魔理沙の私生活を写した、いわゆる盗撮映像と呼ばれるものであった。
そしてそんな最悪のタイミングで。
「おっす! こーりん遊びに来た……ぜ?」
魔理沙が現れた。
「ち、違うんだ魔理沙。こ、これは射命丸が……。射命丸も何か言ってくれって……いない!?」
赤面し取り乱した魔理沙に話は通じない。
「マスタースパークッッッ! 」
その日、香霖堂は半壊した。
修羅場からささっと抜け出した文は。
「結果オーライですね、いいスクープも撮れましたしっ」
半壊した香霖堂を写真に収め、皐月の青空に飛び立つ。
翌日、『香霖堂半壊! 店主の盗撮が原因か』という見出しの新聞が幻想郷中にばら撒かれたのであった。