カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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先週は忙しくて投稿できませんでした。その分、今後の展開を考える時間ができたので、リーグ開催の前に一話挟むことにしました。タイトルからもお分かりでしょうが、他の人たちです。


9〜10話

「ユイさん、どうして一緒に特訓しようだなんて言ったか分かってます?」

「ええっ? そ、それは………打倒ヒッキー、だから?」

「そうですね。確かに打倒ハチマンという思いは同じ。でもそれだとイロハたちも呼ばないと公平じゃないでしょ」

「そ、そうだよねー………たははっ」

 

 ハチマンの誕生日。

 その日、あたしはユイさんを鍛え上げることを宣言した。

 フレア団事件のせいで旅が途中になっていたユイさんたちが、ポケモンリーグに参加するためにもう一度ジム戦巡りをすることになり、今度はあたしもジムリーダーとしてバトルしたことはいい思い出である。というかハチマンって本当に何者なの? なんでいきなりカロスポケモン協会の理事になってるの? もうリーグ開催まで三か月ないってのに、全く分からない。

 で、現在。

 ジムバッジを八個揃えたユイさんを鍛え上げるためにシャラシティに来てもらっている。

 や、ポケモンリーグにあたしたちジムリーダーが参加できないわけじゃないけど、手持ちが六体もいないし、本選への切符を握っている砦の一人だしで、参加する気にならなかったのだ。でもハチマンを倒したいのは事実。あの腹立つニヤケ面を崩させたい。だから今こうして布石を打っているわけだ。布石はユイさんだけじゃない。エックスというハチマンを子どもの頃に戻したような捻くれた少年も参加させることにした。あっちはメガシンカを使いこなしている。正直、五体同時のメガシンカの話を聞いた時には驚いた。だけど、それだけの実力を持っている。だからそっちにも賭けることにした。

 

「ね、あたしの仕事は?」

「ジムリーダーでいいんだよね。仕事って」

「うんうん、それじゃあ専門タイプは?」

「かくとうタイプ」

「うんうん」

「……えっと、それが何か関係あるの?」

「あるよ、大有りだよ! ユイさんにはかくとうタイプの技を伝授しようと思ったの」

 

 なんでそこまで来て答えにたどり着かないの!?

 

「えっと、コルニちゃん? あたし、かくとうタイプなんてマロンとシュウだけなんだけど。他の子達は特訓してくれないの?」

「チッチッチッ。甘い、甘いですよ! ユイさんのポケモンはブリガロンにルカリオ、グラエナ、ドーブル、ウインディ、そしてブルー。どれもかくとうタイプの技を覚えることができるポケモン。加えてハチマンのポケモンは気づけばあくタイプが割と多い。かくとう技を磨かない理由がないですよ!」

 

 イロハ、コマチ、ユイさんの三人の中からユイさんを選んだ理由。それは彼女のポケモンが皆何かしらのかくとうタイプの技を覚えるからだ。あたしの専門はかくとうタイプだし、ハチマンに挑むには全員を鍛え上げても足りないくらい。それにイロハやコマチのバトルスタイルはあたしには合っていない。教えられそうにもないのだ。それよりもまだバトルスタイルが確立していない、だけど実力はどんどん上げているユイさんになら、あたしも教えられることがある。だから鍛えるのだ。

 

「そ、そうなんだ………」

「と、いうわけで! 早速バトルしますよ!」

「え、ええ〜」

「………ハチマンに勝ちたくないの?」

「……わかった、やる………」

 

 ハチマンに勝つ。どうやら彼の周りにいる者は一つの目標になっているようだ。ハチマンの誕生日にはユイさんだけじゃなくて、コマチやイロハも修行をしてくるって言ってたし。だからこそ、ユイさんがハチマンとバトルするまで勝たせるように鍛えなければ。いや、優勝を絶対視するくらいの気持ちでやらないとハチマンには勝てないか。だって、人の夢に割り込んでこれるような奴だし………。

 ああああああああっーーー!!!

 思い出したら恥ずかしくなってきた。なんなのさ、なんなのさ! あんな、あんな………。

 ………誰も信じられなくなって、「内側」に閉じこもってたあたし一人の世界にあっさりと入ってくるとか、そんなのずるい。ずるすぎる。

 

「コルニちゃん? 顔赤いよ?」

「だだだ大丈夫っ! ちょっとハチマンのニヤケ面を思い出してただけ!」

「あー、ヒッキーのニヤケ顔ってキモいよねー」

 

 キモいよねー、とか言いながらも絶対にキモいとは思ってなさそう。というかハチマンの場合、目がアレだからちょっとキモいくらいで今更なのかもしれない。

 

「ルカリオ!」

「ルガッ」

「ルカリオ………、最初から本気なんだね。ルカリオはかくとう・はがねタイプ。マロンかクッキー……波導に要注意だから、ここは素早いクッキー、行くよ!」

 

 自分も連れているポケモンだからか、しっかりと知識を蓄えているみたい。

 うんうん、やっぱりユキノさんが育てただけあるよね。

 

「ルカリオ、グロウパンチ!」

 

 まずは挨拶。

 

「クッキー、ニトロチャージで躱して!」

 

 対してユイさんはウインディに炎を纏わせ加速させてきた。

 

「だいもんじ!」

 

 反転して態勢を整えたウインディがルカリオの背中目掛けて大の字の炎を繰り出してくる。

 バトルが流れるように展開してきた。初めてバトルした時よりも、自信? みたいなものを感じる。

 

「ボーンラッシュ!」

 

 振り返るルカリオに武器を持たせる。短い骨だが二刀流でクロスさせて大の字を叩き斬った。

 

「はどうだん!」

「クッキー、ほのおのキバ!」

 

 あ、ここは躱すと思ってた。

 なんかハチマンみたいな対処の仕方だ。

 

「ルカリオ、波導を強めて!」

 

 波導を圧縮して作り出した弾丸をウインディが大きなキバで受け止めている。そこにさらに波導を送り込み弾丸を膨らませた。

 

「く、クッキー?!」

 

 何とか食い止めていたウインディだったが、力押しには敵わなかったようだ。よし、やるならここだ。

 

「ルカリオ、インファイト!」

 

 吹き飛んでいったウインディに一気に詰め寄り、両手両足にパワーを溜め込ませる。

 連続で殴りつけ、一部の反撃の隙も与えない。それがかくとうタイプの真髄、インファイトである。

 

「クッキーィィィ!?!」

 

 メガシンカしなくとも相手を戦闘不能にしてしまうこともある強力な技。これをユイさんにも教えようと考えたのだ。調べたらグラエナとブリガロン以外は覚えるんだとか。覚えないグラエナとブリガロンも他のかくとう技を覚える。だからあたしの知識をすべて教えるつもりだ。

 

「ユイさん、この技、インファイトを伝授してあげる。フルパワーで攻撃するから使った後は隙が生まれるけど、その部分の対応もしっかりと考えてあるから」

「コルニちゃん」

「あたしのすべて、受け取ってよね!」

「うん!」

 

 これでいい。これであいつのニヤケ面を崩せる。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 コマチは今、カヒリさんという女性に鍛えてもらっている。何でもアローラ地方で強いトレーナーらしい。まあ、それだけだったらコマチはこの人に鍛えてもらおうだなんて思わなかった。

 カヒリさんはなんとZ技という技を強化する手法を持っているのだ。しかも極めつけはゴンくんーーカビゴンの真の力を引き出す手段を知っていると言い出したのだ。そんなのついていかないわけないじゃん。なんて思ってたら、イロハさんもユイさんもそれぞれ鍛えることになっちゃってるし。みんなもやっぱり本気なんだって実感した。

 というかお兄ちゃんってばいつの間にかポケモン協会のトップになっちゃってるし。

 カロスに来てからお兄ちゃんがどういうトレーナーだったのかようやく見えてきた気がする。別にお兄ちゃんの旅の話を聞いたことがないわけではない。だけど、聞いたのはどんなバトルをしたとか、リザードンがどんな技を覚えたかとか。お兄ちゃんのことだから人とのつながりはないと思ってたし。なのに、それはお兄ちゃんの記憶がなくなっていただけの話で、有名人たちと知り合いだった。つまりは記憶がなくなるほどの力を使ったということ。

 想像しただけで怖い。フレア団とのお兄ちゃんの戦いっぷりを見てきたから余計に怖い。折角旅の途中に思い出した記憶も全部忘れちゃってるし。あ、ハルノさんがチャンピオンだった時のバトルは思い出したとか言ってたっけ。

 まあ、永久的に記憶が戻らないわけじゃない。コマチとの思い出もいつか思い出してくれる。だけど、それじゃあダメな気がする。

 もっともっと強く。お兄ちゃんを守れるくらい強くならないと、あの捻デレは一人で何とかしちゃう。また一人で背負わせることになっちゃう。だからコマチも含めて、みんなポケモンリーグに参加するつもりだ。

 

「コマチ、早速これ、使ってみて」

「これは………」

 

 なんて意気込んでいたらカヒリさんがキレイな………石? を出してきた。台座のようなところにはひし形の結晶のようなものがはまっている。確かサキさんが持っていたような………。

 

「Z技を使うのに必要だから、あなたにあげるわ」

「い、いいんですか?」

「ええ、そのつもりだったから。わたしはカビゴンを連れていない。そのクリスタルを持っていても仕方ないわ」

 

 カビゴンを連れてないからって理由でこんなものをくれちゃうとか、この人すごすぎだよ。

 

「……早速、バトルしましょうか」

「はい!」

「ドデカバシ」

「ゴンくん!」

 

 早速Z技を使ってみよう。

 あ、もうメガシンカの時みたいに暴走させたりはしないから。ちゃんとカメくんがハイドロカノンを撃てるようになってからメガシンカさせたし、コルニさんからのお墨付きももらった。今ではプテくんもメガシンカを安定してできるようになっている。大変だったけど、その分達成感はすごかったよ。

 だからZ技も絶対使いこなしてみせる! どうやって使うのか知らないけど!

 

「って、寝ちゃってるよ………」

 

 はあ………、たまにボールから出してもずっと寝てるのがゴンくんの難点なんだよねー。これ、ほんとにどうすればいいんだろうね。一応、寝ながら攻撃できるように技を覚えさせたけどさー。酔拳的なやつ。でもやっぱり起きてバトルしてくれた方がコマチとしてもありがたいんだけどなー。

 

「ドデカバシ、タネマシンガン」

 

 およ、早速攻撃してきた。

 種がゴンくんの柔らかいおなかに当たって弾いちゃってる。

 

「ゴンくん、いびき!」

 

 ひゃーっ………。

 いつ聞いても耳が痛いよ。もう、ぐっすり寝ちゃって。ゴンくんのバカ、ボケナス、ハチマン!

 

「ドデカバシ、いやなおと」

 

 うひゃー、この人相当強いよ。

 いびきがかき消されちゃった。

 

「くちばしキャノン」

「ゴンくん、ねごと!」

 

 ねごとは寝てても攻撃ができる。寝ぼけたように技を使うから、何を使うかは分からないところが扱いの難しいところだ。

 

「すでに覚えていたのね。覚えさせる手間が省けたわ」

 

 ギガインパクト。

 ゴンくんが寝ぼけて出した技は、最強の技だった。

 もう、なんで寝ながらそんな技出せちゃうかなー。それよりもちゃんと起きてほしいよ。

 

「躱して攻撃よ」

 

 ど、ドデ………なんだっけ。

 ま、いいや。鳥ポケモンがあっさりとゴンくんの猛突進を上昇して躱しちゃった。それだけでなく、がら空きの背中を狙って突っ込んでいく。くちばしで突こうとしてるのかな………。

 

「ゴンくん、裏拳でかみなりパンチ!」

 

 うーん、やっぱり無理か………。うつ伏せのまま寝ちゃってるよ。

 今日はバトルする気分じゃないんだろうなー。

 

「ンガァっ!?」

 

 くちばしによる連続攻撃。

 あんな技あったんだ。

 さすがのゴンくんも目が覚めたみたい。

 

「って、また寝ちゃうの?!」

 

 二度寝とかやめてよ!

 

「ゴンくん、本気を出しなさい!」

 

 ゴロゴロと転がってきたゴンくんのお腹をぺちぺちと叩く。うーん、反応ないや。それなら………。

 

「よっこいせ」

 

 仕方がないので、ゴンくんのお腹によじ登った。弾力があって気持ちいい。………じゃなくて、ちゃんと起きてもらわないと。

 

「起きて、ゴンくん」

 

 お腹の上で仁王立ち。げしげしと足でお腹を踏んでみても反応がない………?

 

「ンガァ!」

「うひゃっ!?」

 

 なんでこんなに時間差があるのさ。

 おかげでバランス崩しちゃってこけ………ちょ、ほんとにこけそう!

 

「あわわわわっ!」

 

 なんかバランスを立て直そうと変なポーズを取っちゃってるよ。お兄ちゃんがいなくてよかった。絶対笑われてたよ。

 

「えっ?」

 

 何とか耐えきったら、さっきカヒリさんがくれたキレイな石が光っていた。

 えっ? なに? なんなの?

 

「ンガァァァ!」

「ゴンくん?!」

 

 むくりと起き上がるゴンくん。ちゃんとコマチを掴んで地面に降ろしてくれた。

 どしちゃったの、ゴンくん。いきなり紳士的すぎない?

 

「ドデカバシ、私たちも」

「バーシ!」

 

 カヒリさんが変なポーズを取り始めると取りポケモンの方も同じようにポーズをとっている。あ、これZ技だ。カヒリさんの腕のキレイな石が光ってるもん。ってことはゴンくんが起き上がったのもZ技なの?

 

「ファイナルダイブクラッシュ!」

 

 よーし、だったらこっちも本気でやっちゃえ!

 

「ゴンくん、ほんき出しちゃえー!」

 

 こんなゴンくんじゃない、と思っちゃうくらい身軽に突進していき、急停止したかと思うと急上昇していった鳥ポケモンを追いかけるように地面を蹴り上げた。

 わーお、巨体がジャンプしたよ。

 

「ギガインパクトみたい………」

「ギガインパクトよ。ギガインパクトを覚えたカビゴンだけが使えるZ技。なぜ特定の技を覚えていないと使えないのかは解明されていないけど」

 

 そっか、だからカヒリさんはコマチにZ技を使えるようにしてくれたんだ。というかZ技にも特定の条件とかが必要だったりするんだね。

 うん、でも。

 これでまたコマチも強くなれる。お兄ちゃんがまだ使ったことのない? Z技をコマチはモノにしてみせるよ。

 待っててね、お兄ちゃん。コマチ、みんなと強くなって帰るから! だから帰ったらいっぱいキスしてね!

 

「カヒリさん、もう一度お願いします!」

「ええ、何回でも相手してあげるわ」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ピンチっす!

 なんかいきなりピンチっす!

 クリムガンが三体同時に出てくるとか聞いてないっすよ!

 ポケモントレーナーが修行のために訪れる山だって聞いてきたってのに。野生のポケモンが強すぎっす!

 

「ストライク、シザークロス! ヘラクロス、メガホーン!」

 

 ひとまず応戦してるっすけど、無理っす。俺にトリプルバトルとか無理っす。ダブルバトルが限界っすよ。マジで誰か助けてくださいっす!

 

「ストライク、ヘラクロス、逃げるっすよ!」

 

 二体のクリムガンが怯んだ隙に逃げに徹してもまだあと一体いるんすよね。

 

「ヘラクロス、戻るっす。サーナイト、ねんりき!」

 

 捕まえてまだ日が浅いヘラクロスをボールに戻し、キルリアから進化したサーナイトをボールから出したっすけど、なんかリフレクターが効いてないっすよ。

 

「ストライク、シザークロス!」

「クリガァァッ!!」

 

 尻尾で受け止められて、逆に吹き飛ばされてきたっす。

 って、ストライクやられちゃってるじゃないっすか!?

 

「や、ヤバいっす。後ろの二体も起きてきたっす………」

 

 ああ、俺ここで死ぬかもっす。姉ちゃん、ごめん………。

 

「うわぁぁあああああああっ!? 戻れストライク! サーナイト、リフレクター!」

 

 いやっす、いやっす! 俺はまだ死にたくないっす!

 

「なんでそこで壊れるっすかー!? サーナイト、もう一度ねんりき!」

 

 リフレクターがいとも簡単に砕かれたっす。

 それにしてもあの三体のクリムガン、コンビネーション良すぎるっすよ。なんなんすか、あの動き! 一番前が攻撃を防いで二番目が道を開いて最後の一体が飛びかかってくる。それのローテンションとかもう誰かに命令されてるとしか思えないっすよ!

 

「あ、灯り………って、誰かいる」

 

 こっちに気づいてないみたいだし………。このまま進んでいけばあの人も巻き込んでしまうっす。お兄さん、こんな時どうすればいいっすか!?

 って、お兄さんがいないから聞いたって無駄っすね。

 

「あ、そ、そこの人、逃げるっす! クリムガン三体が追いかけてきてるっす!」

 

 俺にはもうどうすることもできないっす。唯一できるのはこの人に注意を喚起して、一緒に逃げることくらいっすかね。

 

「デンリュウ、ヤドキング」

 

 えっ?

 

「えっ? ちょ、何してるっすか?!」

 

 その人の横を走り抜けようとするといきなりポケモンを出してきたっす。しかもこの声、女の人。

 ………まさかこの人やるつもりなんすか?

 

「レールガン」

 

 デンリュウとヤドキングがボールから出てきて早々、電気を溜め始めたかと思うと、一閃を描いたっす。なんか見たことあるようなないような技っすね。

 クリムガンたちに命中したらしく、土煙が上がり、それでもまだ一体のクリムガンが土煙の中から出てきたっすよ。この人もすごいけど、あのクリムガンも相当の強者っす。

 

「フカマル」

 

 いつの間に出したんすか?!

 と思ったらどこにもいないっす。

 

「フガッ!」

 

 あ、地面から出てきたっす。

 まさかあなをほるで地面に隠れていたとは………。

 そのままフカマルは腕を振り上げたクリムガンに突撃していき、天井にクリムガンの身体を突き上げたっす。まだ進化前のポケモンなのにあのクリムガンをやすやすと怯ませるなんて、すごすぎっすよ。

 

「サーザッ!」

「ンバーン!」

 

 ひぇぇ、また新しい野生のポケモンが出てきたっす。今度は退路を塞がれたっすよ! どうするんすか!

 

「へー、ここって野生のポケモンが超攻撃的なんだ。これはちょっとヤバいかも。少年くん、逃げるよ」

「へっ? に、逃げるってどうやるんすか!?」

 

 こんな状況でどうやって逃げる気なんすか。お兄さんじゃあるまいし。や、お兄さんでも無理………はないっすね。あの人なら出てくる野生のポケモンを全部倒してもおかしくないっす。

 

「デンリュウ、ヤドキング、戻って。フライゴン」

 

 デンリュウとヤドキングをボールに戻すと、女の人はまた新しいポケモンを出してきたっす。

 フライゴン、ということは背中に乗れってことっすか?

 

「フカマル、少年くん、いくよ!」

「フガッ!」

「は、はいっす! サーナイト、戻るっす!」

 

 女の人に促されて、差し出された手を掴んでフライゴンの背中に跨ると、サーナイトをボールに戻す。

 

「フライゴン、りゅうのいぶき。フカマル、りゅうのいかり」

 

 行く手を阻むのはさ、さささサザンドラ!? マジっすか!? それにオンバーンまでいるっす!

 ひぇぇぇ、こんなとこくるんじゃなかったっす!

 

「少年くん、出口見えてきたよ」

「えっ?」

 

 身を丸めていたらいつの間にか出口にたどり着いていたみたいっす。

 すげぇ、この人すごすぎっす。あの有象無象が蔓延る中を淡々っと切り抜けてきちゃったっすよ。

 

「って、あれ………? もしかして、カワサキ先輩の弟くん?」

「へっ? あっ! お兄さんのとこにいた!」

 

 顔を上げて彼女の顔をよく見てみると、なんと!

 見たことある顔っす!

 お兄さんのところにいた、ヒキガヤさんのお友達の………名前なんだったすかね。思い出せないっす。

 

「か、カワサキタイシっす!」

「イッシキイロハだよ。よろしくね!」

 

 うっ、この人かわいすぎっす。なんなんすか、この可愛さ!

 で、でも、俺にはヒキガヤさんという太陽のような女の子が……………ああ、でもこの人も眩しいっす。

 

「って、また囲まれてるっすよ!?」

「ふぅ、しょうがないね。さ、降りた降りた」

「こ、今度はどうする気なんすか!?」

 

 洞窟の外に出てこられたっていうのに、いつの間にかオニスズメやオニドリルに囲まれてたっす。なんなんすか、ここは! 次から次へとポケモンが攻撃してくるとか超危険なとこじゃないっすか! こんなところで修行しようとか思う人の心が理解できないっすよ!

 

「まあまあ、お姉さんたちの実力を見てなさいな」

 

 ヒキガヤさんに聞いた話じゃ、この人もヒキガヤさんと同じ初心者トレーナーのはずっすけど。いや、でもさっきの実力を見る限り、すでに俺を超えてるっす。というかトレーナー歴三年でもこんな場所は危険だと思うのに、どうしてこの人は平気な顔をしてるっすか。そっちの方がなんか怖いっすよ。

 

「フライゴン、フカマル、りゅうせいぐん!」

 

 二体のドラゴンが上空に流星を打ち上げた。片や上空で弾けて群となり、片や流星のまま落ちてきた。

 って、そのまま落ちてくるとかどういうことっすか!? ちょ、このままだとこっちに落ちてくるっすよ!?

 

「あちゃー、フカマルは今日も失敗かー。マフォクシー、サイコパワーで流星を操って!」

「フォック!」

 

 また新しいポケモンが出てきたっす。今度はマフォクシーっすか。ほのお・エスパータイプのポケモンっすね。

 

「お、おおー、失敗した技でもあんな使い方ができるんすね!」

「先輩見てると、これくらいできなきゃ勝てる相手じゃないなーってつくづく思うんだよね。なんかまだやっと扉が一つ二つ開いたって気分だよ」

「お兄さんってほんとに何者なんすか…………」

 

 ついこの間まで初心者トレーナーだった彼女をこんなすごいトレーナーに育て上げ(たのがお兄さんなのかは知らないっすけど、少なくとも強い影響を与えてるってことだけは分かるっす)、それでもまだまだって言わせてしまうお兄さんの実力を知りたいようでなんか知りたくないっす。

 

「あ、まだ追いかけてきたっすか。洞窟の中じゃないなら俺も戦うっす! ニドキング、どくづき!」

 

 さっきのオンバーンとサザンドラが洞窟の中から出てきたっす。まさかここまでしつこく追いかけてくるとは。もしかするとクリムガンたちも追いかけてきたりしてないっすよね? 考え出したら自信なくなってきたっすよ。

 

「フライゴン、ばくおんぱ! フカマル、ドラゴンクロー!」

 

 オニドリルたちを一掃したイッシキさんはそのままサザンドラの方へと二体を向かわせた。

 爆音で耳がいたいっすけど我慢っす。

 

「ニドキング、オンバーンにとどめ行くっすよ! ヘドロばくだん!」

「マフォクシー、ブラストバーン!」

 

 地面に叩きつけたオンバーンにヘドロの爆弾を放り投げた。紫色の爆弾に飲み込まれ、オンバーンは気を失ったみたいっす。

 それよりもこっちっすよ! なんなんすか、これ。マジでお兄さんを思い出すから、怖いんすけど!

 

「さ、サザンドラが呆気なく戦闘不能になったっす…………」

 

 おかしいっす。サザンドラってもっとこう強いイメージだったのに、なんかイッシキさんが相手にすると全く怖さを感じなかったす。となるとお兄さんが相手の場合は遊んでいるようにしか見えないってことなんすかね。うわっ、なにそれ、超怖いっす!

 

「ふぅ、これでひとまずは大丈夫かなー」

「っすね。すいませんっす。俺のせいで」

「いいよ、いいよ。私もここがどういうところか実感できたし」

 

 なんでこの人はこうも明るくいられるんすかね。今の今まで大ピンチだったっていうのに。

 

「あ、そうだ。弟くん、しばらく私のバトル相手になってよ。ここにいるってことは修行してるんでしょ?」

「え、あ、や、まあ、そうっすけど………。でも俺はまだここに来るべきじゃなかったんすよ。見てたでしょう、今の。俺にはまだまだここの野生のポケモンに立ち向かう勇気も実力もないんすよ。なので………」

「じゃあなおさらだね。先輩のスパルタ教育よりはラクショーだよ」

「へっ? お兄さん、スパルタ教育だったんすか?」

「そ、主に心のね」

「あ、なんか納得っす」

 

 やっぱりお兄さんが仕込んでたんすね。それならこの強さも理解できるっす。

 うーん、そうなるとここでイッシキさんも認める強さを手にすればお兄さんだって認めてくれるはず………。そうなればヒキガヤさんとも………。

 

「分かったっす! 俺も強くなりたいっすから! よろしくお願いするっす!」

「うん、じゃあよろしく」

 

 こうして俺の密かな思惑が動き出したっす。

 


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