カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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ちょっと遅れましたけど。


12話

『さあ、いよいよBブロック! まずは一戦目のバトルはこの二人だっ! 夢は兄に勝つこと、ヒキガヤコマチ!! そして、ポケモンスクールの元教師、ヒラツカシズカ!!』

 

 消え入るようにフィールドを後にしたイロハに変わって、コマチとヒラツカ先生が登場した。コマチはイロハと交代だったし、フィールドの整備の時間もあったから、その間に何か話したのだろうか。あまり話しかけられそうな空気でもないような気もするが。

 

『プラターヌ博士、シズカ選手の方は博士の助手をしているんだとか』

『ええ、今は僕の研究所で手伝ってもらっていますよ。主にメガシンカの研究を、ですが』

『ということは彼女もまたメガシンカ使いだと?』

『もちろん、彼女はアグレッシブなバトルをしてくれます。今回もどういうバトルを組み立ててくるのか楽しみですよ』

 

 なんか先生が名前で呼ばれるのって不思議な感覚だな。呼ぶのってハルノさんと博士くらいだし。

 …………さっきの今でときめいてるとかないよな?

 

『コマチ選手の方は三冠王とともにカロスを旅していたと伺っていますが』

『ヒラツカ先生に呼ばれてカロスに来た時にプラターヌ博士の研究所で会いまして。最初は一人で回るつもりだったのですが、彼女たちに誘われて一緒に旅をすることにしました』

『なるほど、これは期待できそうな選手ですね』

『期待、という点でいえば、イロハ同様半年前にトレーナーなったばかりの新人ですから、ここまで来れた実力が楽しみですね』

『あの子って確か四天王に就いてくれた彼の妹よね?』

『し、四天王の妹なのですか………?!』

『そうですけど、それで彼女を評価するのは間違ってますよ。彼は別格ですから』

『………未来の旦那の評価は絶対的ね』

『なんのことでしょうか?』

 

 なにやってんだ、あいつら。

 目が笑ってない笑顔のやりとりが怖いんだけど。

 実況の男性も二人が怖いのか、未来の旦那発言に突っ込もうとしないし。や、それでいいんだけどさ。突っ込まれると余計にややこしくなるし。

 

「これより、ヒキガヤコマチ選手対ヒラツカシズカ選手のバトルを始めたいと思います! 双方、準備は?」

「いつでも」

「いつでもいいですよー」

「それでは、バトル始め!」

「いくよ、カーくん!」

「ハリテヤマ!」

 

 まずはカマクラとハリテヤマか。ハリテヤマの平手打ちでカマクラが吹き飛んでいきそうなほどの体格差だな。というかやっぱり先生が捕まえるポケモンってかくとうタイプなのか。俺の代わりに四天王とかやらないかな。

 

「カーくん、サイコキネシス!」

「ハリテヤマ、ねこだまし!」

 

 ふっ、これがほんとのねこだましってか。

 おいこら、初っ端から何遊んでんだよ、あの人は。

 

『おおっと、ニャオニクス! ハリテヤマの一拍手に怯んで技を出せなかった!!』

 

 音がね、パアンッとね。

 そりゃビビるって。特にカマクラとか耳いいし。

 

「カーくん、気を取り直してもう一度サイコキネシス!」

「ふっ、次も使わせるものか。ハリテヤマ、バレットパンチ!」

 

 ダッと地面を蹴り出したハリテヤマが一瞬でカマクラの前に現れた。

 

「カーくん、切り替えて! リフレクター!」

 

 咄嗟に技の変更をさせるが最初の一発が入ってしまった。続けて打ち出してくる拳を何とか壁を貼って抑えたが、それでも壁にはヒビが入ってしまった。

 やべぇ、あのハリテヤマ強ぇ。

 

「はたき落とせ!」

「カーくん、リフレクター十枚張り!」

 

 鉄になっていた拳を開き、大きく振りかぶって平手打ちが襲いかかってくる。そこにリフレクター十枚を挟み込み勢いを殺すと、くるりとハリテヤマの平手の横をスイスイと抜けていった。

 

「サイコキネシス!」

 

 今度こそサイコキネシスが使えた。自分の何倍もあるハリテヤマを超念力で持ち上げ、宙で振り回し始める。

 

「たたきつけちゃえーっ!」

 

 コマチの一言でカマクラはハリテヤマを地面に叩きつけた。なんて痛そうな音なんだ。砂煙が巻き上がるくらいには衝撃波があったみたいだぞ。

 

「バレットパンチ!」

 

 ヒラツカ先生が砂煙の中に呼びかけると、勢いよくハリテヤマが飛び出してきた。その足はそのままカマクラの方へと向かっている。

 

「カーくん、リフレクター!」

 

 リフレクターを張り、鉄拳の高速パンチを受け止めていく。

 

「ばくれつパンチ!」

 

 だが、急にパンチの種類が変わった。振り降ろされた拳は壁を破壊。そのままカマクラを隔壁へと吹き飛ばした。

 

『ばくれつパンチが決まったぁぁぁああああああっ!! ニャオニクス、壁に激突してクレーターを作りました! なんという破壊力! コマチ選手、ハリテヤマの猛攻をどう攻略していくのでしょうか!!』

「反撃の隙はやらん。とどめだ、ハリテヤマ。バレットパンチ!」

 

 あ、あの人ちょっとスイッチ入ったな。決めポーズまで取り始めたぞ。

 

「ーーカーくん、ふいうち」

 

 目の前に現れたハリテヤマに一切動じず、高速パンチを躱し、背後に回って殴りつけた。

 混乱とかしてねぇのかよ。ばくれつパンチはその衝撃の強さで相手をしばらく混乱させてしまうんだぞ。何気にリフレクターが衝撃を殺していたってことなのか?

 

「はたき落とせ!」

 

 隔壁のクレーターの前で踏みとどまったハリテヤマが、踏ん張る力を利用してカマクラにとびかかった。

 

「カーくん、リフレクター二十枚張り」

 

 おう………、さらに枚数を増やせるのか。というか、壁を囮に後退してるじゃねぇか。ハリテヤマもさぞ嫌な気分だろう。律儀にすべて壊していく方も行く方だけど。

 

「チッ、さすが兄妹ということか。段々とその嫌な逃げ方が兄貴と似てきている」

「でも、お兄ちゃんはこんなことしませんよ? カーくん、サイコショック!」

 

 いつぞやのイロハが見せたレールガンの乱れ撃ちのごとく。

 壊れた壁の無数の破片をハリテヤマに襲いかかる。これもサイコショックという技であるからして、効果抜群。

 ハリテヤマにとってはかなり痛手となっただろう。

 

「今度はイッシキか。つくづく人の真似をするのが得意な奴だな。だが甘い」

 

 一拍手。

 ハリテヤマが先生と合わせるように両掌を打ち付け、音を鳴らした。

 それだけで、壊れた壁の無数の破片が地面にパラパラと落ちていく。

 

「先生もかなり戦略を練ってきてるというわけか」

 

 あれは恐らくねこだましの応用。カマクラに使っても一度受けているため効果はないに等しくなっているが、技に対して使う分には効果は健在らしい。

 

「バレットパンチ!」

 

 うっ………、なんか急に日差しが出てきたな。

 眩しい。横に座っているトツカがキラキラしているからではない。そんなのはいつものことなので今更な話である。眩しいのは太陽の光がだ。誰かがにほんばれを使ったわけでも特性ひでりのポケモンがバトルしてるわけでもないのに。天気というのは実に気まぐれである。

 

「カーくん、リフレクター!」

 

 またしてもカマクラは防御態勢。

 

「なにっ!?」

 

 だがハリテヤマの拳は空を切った。

 一体どういうことだ? 今の今まで真っ直ぐにカマクラに迫っていたというのに。

 

「くっ………、っ!? なるほど……、光か」

「あ、そういうことか」

「………どういうことだよ」

 

 先生の呟きにトツカが反応した。

 光? 確かに日差しはきつくなってきたが、それと何か関係があるのか?

 

「光の屈折だよ。リフレクターは半透明の壁でしょ。コマチちゃん、というかカマクラの方がかな、リフレクターの角度を計算して、照りつける光をハリテヤマに反射させたんだよ」

 

 ほー、あの壁ってそんな使い方もできたのか。ただ殴りつけるような代物ではなかったんだな。

 

「カーくん、そのまま殴りつけちゃえー!」

 

 お返しと言わんばかりにカマクラがリフレクターでハリテヤマを打ち上げた。どこからそんなパワーが出てくるのか甚だ疑問ではあるが、打ち上げられてしまうハリテヤマもどうかと思う。体格差ありすぎなくせに何打ち上げられてるんだよ。

 

「とどめだよ、サイコショック!」

 

 バット代わりにした壁を吹き飛んで行ったハリテヤマの方へと飛ばし、上から叩きつけた。

 エスパー怖い。何このバトル。色々と間違っている気がするんだけど。

 

「ハリテヤマ!?」

 

 ドサッと巨体が地面に叩きつけられ、衝撃で風が吹いた。先生の声が風に逆らいハリテヤマの方へ飛んでいくが反応はない。

 

「ハリテヤマ、戦闘不能!」

 

 返ってきたのは戦闘不能の判定だけ。

 まずはコマチが一勝か。

 

「ご苦労だった、ハリテヤマ。ゆっくり休むがいい」

『まずはコマチ選手が一歩リード! シズカ選手、巻き返しなるか!!』

『いやー、日を追うごとに強くなっているね。シズカ君も元教師としての威厳を見せないと巻き返せないかもねー』

『なぜそこで先生を挑発するような発言をするのかしら。そこは無難な言葉でいいと思うのだけれど』

『だって、彼女はまだまだ本気じゃない。僕が知ってる彼女は熱い魂のこもった力業ですべてを薙ぎ払っていくような人なんだよ』

『言いたいことは分からなくもないですが』

『ねえ、彼女は一体どんなトレーナーなの?』

『元来、生徒思いな先生ですよ。私もいろいろと支えられてきた身ですから』

『わたしはカントーでフィールドワークをしている時に出会った少年に教えてもらいました。「俺を調べるよりももっと個性的な人がいる」って言われまして。そして向かった先が彼女の務めるスクールだったというわけです』

『……確かに個性的な人にさらに個性的な人がいるなんて言われたら、興味は沸きますけど。その言葉の後に「だからさっさと帰れ」くらいのこと言われたんじゃないですか?』

『はっはっはっ、まさにその通りだよ』

『はあ………』

 

 高らかな笑いに、重いため息を吐くユキノ。

 分かる。分かるぞ、その気持ち。ウザイよな、あの変態。まるでトベだ。

 

「ゴロンダ、頼むぞ」

 

 次に出てきたのはゴロンダというポケモン。主にカロス地方に生息するポケモンである。なぜ生息地を知っているのかといえば、以前ユキノが熱く語ってくれたからだ。

 進化前のヤンチャム。彼女のお気に入りのポケモンである。理由は…………顔を真っ赤にしてきたから聞けなかった。代わりにこんな無駄知識を捲し立てられたが。

 論理的結論として、リーグ戦に向けたパーティーには合わなかったらしい。取り敢えず、リーグ戦が終わるまではお預けなんだとよ。

 

「ゴロンダ………、確かあくタイプだっけ?」

 

 ヤンチャムがかくとうタイプだし、あくタイプが付くなら、かくとう・あくじゃね?

 タイプまでは聞いてないから知らんけど。逆にヤンチャムについては嫌ってほど聞かされた。あいつ、どんだけ好きなんだよ。

 

「カーくん、戻って。クーちゃん、出番だよ!」

 

 クーちゃん?

 新しいポケモンか?

 

「チート!」

「クチートか……」

 

 クチート。はがねタイプであり、フェアリータイプでもあることが確認されている。すなわりフェアリータイプの弱点であるはがねタイプの技が効果抜群ではないというわけだ。

 ついでに特性はいかくのようだ。思いっきりゴロンダを威嚇している。

 

「クチートはね、結局行けなかった輝きの洞窟ってところで捕まえたんだよ」

「へぇ」

 

 輝きの洞窟か。

 確か化石掘りに行くぞー、的なことを言ってて向かっている道中にフレア団に襲われたんだっけ?

 ユイたちと三人で改めて旅をしている時に行ってきたんだな。まあ、化石研究所に寄ったついでなんだろうけど、あそこの研究員に案内されたのかね。

 

「ふっ、ゴロンダ、ビルドアップ!」

 

 初っ端からゴロンダが肉体美を見せてきた。そうか、あいつもそっちに行ってしまったか。エビナさんのゴーリキーを思い出してしまう。先生のカイリキーも使ったりするのだろうか。

 

「クーちゃん、ものまね!」

 

 クチートもゴロンダを真似してビルドアップ。だが、なぜだろう。クチートがやると可愛げがある。ごつくないからだろうか。まあ、あの角は怖いけど。

 

「ものまねか、ならこれならどうだ。ゴロンダ、じしん!」

 

 ゴロンダが地面を殴りつけ、揺らし始めた。

 ただ、揺れているのはフィールドだけ。というのも会場の改修に免震工事を取り入れたからだ。全て提案はユキノシタ建設からであり、観客の安全を考慮すると是が非でもやっておいた方がいいということだった。確かにこれなら安心して見ていられる。

 

「クーちゃん!」

 

 翼があるわけでも身軽な動きができるわけでもないクチートは、振動にじっと耐えるしかなかったようだ。

 

「お返しだよ、クーちゃん! メタルバースト!」

 

 ま、そこら辺はしっかり対策を立ててきてたみたいだな。飛べるわけでも身軽なわけでもない、耐えることしかできないクチートには打って付けの技である。カウンターも覚えることができるが、メタルバーストの方が返せる技の範囲が広い。

 クチートは耐えている時に蓄積したパワーを一気に解放させた。角が変形した顎から放出された鋼色の光がゴロンダを襲った。

 

「ゴロンダ!?」

 

 吹き飛ばされて、頭から地面に落ちたゴロンダはそれでもまだ起きる力が残っているようだ。ぐぬぬっ、と腕に力を込めて起き上がってくる。

 と、口から枝のようなものが落ちた。というかあれ枝だな。何のために咥えていたのかは知らんが、咥える力も落ちたということだけは分かる。………キモリも枝を咥える習性があったな。

 

「ものまね!」

 

 続けざまにクチートは拳を地面に叩きつけた。激しい揺れに起き上がろうとしていたゴロンダがバランスを崩し、四つん這いになった。

 

「反撃だ、ゴロンダ。アームハンマー!」

 

 激しい揺れに耐えたゴロンダは拳を強く握りしめ、一気に立ち上がるとそのまま一飛びにクチートの正面に移動し、頭上から振り下ろした。

 

「クーちゃん、じゃれつく!」

 

 だが、クチートはその拳をよじ登るように伝っていき、ゴロンダの身体中を這いまわり始める。突然のことにゴロンダも反応できなかったようで、ガクンと姿勢を崩し膝をついた。

 

「ッ!? ゴロンダ、お前……………」

 

 するとクチートは攻撃をやめ、コマチの元へと戻っていく。

 そして、先生は何かに気づいたようだ。審判に首を横に振り、何かの合図を送った。それを確認した審判はゴロンダの方へと駆け寄っていき、顔を覗き込んだ。

 

「ゴロンダ、戦闘不能!」

 

 あ、マジか………。

 ぶっ倒れてないからまだいけると思ってたが。

 気絶してなお、まだ戦う姿勢を見せていたのか。なんて奴だ。

 

「よくやった、ゴロンダ。ゆっくり休め」

『ゴロンダ、戦闘不能!! コマチ選手、連続でシズカ選手のポケモンを倒したぁぁぁああああああっ!! これが四天王と同じを血を持つ者の実力なのかぁぁぁああああああっっ!!』

 

 別に四天王の血と同じ血が流れているからって強いわけではない。それを言ったら、俺の両親はどうなるんだ? 親だから二人ともチャンピオンなのか? んなわけねぇだろ。もう少し、言葉を選びやがれ。

 

『同じ血が流れているからといって強いわけではないですよ。それを言い出したら、私の両親は何冠王になるのかしら。ハヤマ君の親だってそうね。あら、そういえばここにはカロスチャンピオンがいましたね。カルネさん、あなたのご両親はチャンピオン歴があったりするのでしょうか?』

 

 うわーっ、実況者に向けての嫌悪感がふつふつと伝わってくるんですけど。ユキノもいろいろ言われてきたんだろうな。

 ハルノさんの妹だから、チャンピオンの妹だから強いのは当たり前だ。ユキノシタユキノは特別なのだ。

 馬鹿馬鹿しい。最初がどんなトレーナーだったか、そこからどんな経験をして、どんなことを学んできたのか。それを知った上で人は語れないだろうに。

 

『あ、え、そ、そんな、ことはないけれど…………』

 

 突然話を振られたチャンピオンも驚いている。まあ、横で嫌悪感丸出しにしていれば驚かないわけがない。

 

『まあまあ、それだけ四天王という役職はすごいものだって認識されてるんだからさ。それに君の未来の旦那は四天王なんかで収まるようなトレーナーじゃないんだしさ。もしかしたら、コマチちゃんが将来四天王になってるかもしれないよ』

『……………』

『ね?』

『………わかりました。ここは博士の顔を立てることにしましょう』

『いやー、話が分かってもらえて嬉しいよ』

 

 あれー………?

 いつもの捲し立てはどうしたんだってばよ、ユキノさんや。

 なんか顔赤くないですかー? ここからでも赤く見えるって、相当じゃね?

 

「………ゆきのん、未来の旦那発言に顔真っ赤だ」

「でもユキメノコは怒るんだね。実況の人に冷気を吹きかけてるよ」

 

 トツカの言う通り、いつの間に回復したのか、ユキメノコが実況の男性に冷気を吹きかけていた。凍るほどではないにしても極寒の寒さを感じていることだろう。ざまぁみろ。

 

「ヒキガヤ妹。ユキノシタがすんごい怒りのオーラを出してるぞ? 愛されてるなー」

「コマチにとってもユキノさんたちは実の姉のような………、近いうちにほんとにお義姉ちゃんと呼ぶ日が来るでしょうからね。コマチだって、みんなのこと大好きですよ!」

「ったく、これくらい素直だったら、あいつももっと楽な人生を歩めただろうに」

 

 あいつって誰だよ。心当たりがありまくりで胸が痛んだけど。

 

「さて、次へ行くとしようか。そのクチートは私のパーティーにとっては厄介者だからな。次で倒させてもらおう。出てこい、バシャーモ!」

 

 えー、次に出てきたのはバシャーモみたいだわ。いつの間に捕まえたんだ? カロスに生息してたっけ?博士経由でホウエン地方から取り寄せたとか、そういうパターン?

 

「ブレイズキック!」

「シャモッ!」

 

 一足跳びで一気に距離を詰めてきた。

 恐らくクチートが受け止めたとしても今度は耐え切れないだろう。だからといって躱せる状況じゃない。どうするつもりだ?

 

「クーちゃん、バトンタッチ!」

「チート!」

 

 後ろに飛んだクチートの横を白い光が通り過ぎた。その時にタッチを交わし、ビルドアップで上昇した能力を引き渡したようだ。

 そして、クチートはそのままコマチの持つボールへと戻っていく。

 

「プテくん、こうそくいどう!」

 

 交代で出てきたのはプテラ。

 出てきて早々、高速で移動し始める。

 

「ほう、じゃれつくを覚えていながらさっさと使わず、回りくどいことをしていたのはこのためか。この戦法はミウラだったな。まったく……、『真似る者』と呼ばざるをえないな」

 

 真似る者、か。

 確かに、オーキド博士が図鑑所有者たちにつけている二つ名をコマチにつけるとしたら、『真似る者』になるだろうが。

 そもそもなんでそんな話を知ってるんだよ。

 

「バシャーモ、加速しろ」

「シャモ!」

 

 低空飛行でバシャーモを挑発するように飛び回っているプテラの動きに合わせるように、バシャーモも走り出した。

 

『は……、速い、速いぞバシャーモ! 高速で移動しているプテラの動きに追い付き始めました!!』

 

 さっきのユキノの言葉が刺さったのか、ユキメノコにいじめられたからなのか、少し発言に戸惑いの色が見えた。

 あれ、絶対トラウマになるだろうな。オンマイクで観衆のいる前で非難されたんだからな。

 

「プテくん、上昇!」

 

 追いついてきたバシャーモを危険と判断したのか、コマチは空に逃げるように指示する。

 つか、バシャーモの特性ってもしかしなくても、かそくだったり? またレアな方を………しかもエルレイドと同じく進化前は可愛いポケモンじゃねぇか。進化させるのにすげぇ躊躇ったんだろうな。

 

「バシャーモ、ブレイブバード!」

 

 上昇していくプテラを追いかけるように、バシャーモも上昇し始めた。

 

「うっそーっ!?」

「翼を持つ者だけが空の支配権を与えられたわけではないのだよ」

 

 あ、あれ絶対、決まった、って思ってる奴だ。かっこいいけど、残念臭がすごい。

 

「プテくん、反転してゴッドバード!」

 

 プテラは身体を地面に向けて急停止すると、一気に下降し始めた。

 そして、鳳を纏い上昇してくるバシャーモへと突っ込んでいく。

 交錯した衝撃で爆風が起き、俺たちの髪が靡いた。

 バシャーモは煙の中から何事もなかったかのように地面へと降り立ち、プテラもコマチの方へと戻っていった。

 

『プテラとバシャーモ! 一歩も譲らない! 両者、互角の戦いを見せています!!』

「さすがはバトンタッチだな。この半年で集中的に育てあげたバシャーモと互角に戦うとは。どうする、ヒキガヤ妹! バシャーモはプテラを捉えたぞ!」

「そんなの決まってるじゃないですか! このためにバトンタッチをしたんですから!」

「だろうな。私の専門はかくとうタイプだ。ひこうタイプであるプテラが今回君のキーポケモンとなることは見越していたよ。だからこそ、こっちも全力でいかせてもらう!」

 

 先生は白衣のポケットから輝く石を取り出した。

 キーストーン。

 恐らく今からメガシンカバトルになるのだろう。

 

「バシャーモ!」

「プテくん!」

「「メガシンカ!!」」

 

 コマチもキーストーンを取り出して、プテラをメガシンカさせた。

 両者白い光に包まれると、徐々に姿を変え始めていく。

 プテラは爪と翼に棘ができたような印象となり、俺のリザードンのメガシンカ、メガリザードンXに近いものを感じる。対して、バシャーモはやはりメガシンカができたのかという思いだ。これまでジュカイン、メタモンによるラグラージのメガシンカした姿を見てきたわけだが、ここまでくればバシャーモもメガシンカできてもおかしくはないと考えていた。だからこうしてバシャーモのメガシンカした姿を見られたことは俺の仮説が正しかったという証明になったわけだ。

 

「さらにギアを上げていくぞ。バシャーモ、かみなりパンチ!」

「くるよ、プテくん! ものまね!」

 

 一気に距離を詰め、目の前に現れたバシャーモの拳を真似し、電気を纏った拳でバシャーモの拳を受け止めた。だが、やはりそこは飛んでいるポケモン。踏ん張りが利かなかったようだ。

 プテラはパンチの衝撃でコマチの方にまで押し返され、バシャーモにフィールドの中央を取られてしまった。

 

「ゴッドバード!」

「バシャーモ、ブレイブバードで上を取れ!」

 

 メガシンカポケモン同士の高速戦闘が始まった。実況なんかすでに追いつけていない。俺たちも交錯したであろう衝撃波が見えるだけで、今どんな展開になっているのかさっぱりである。果たして、あの二人は今どんな展開なのか把握できているのだろうか。

 

「バシャーモ!?」

 

 お、先に根を上げたのはバシャーモか。交錯後に真っ逆さまに落ちてきた。だがまあ、そこはバシャーモ。着地はしっかりと持ち直した。

 

「プテくん、ものまね!」

 

 そこへバシャーモを突き落とし、旋回して戻ってきたプテラがものまねでブレイブバードを発動してきた。到着までコンマ数秒。

 

「バシャーモ!」

 

 瞬間。

 プテラの突撃が成功した。

 

「尻尾を掴め!」

 

 かのように思われた。

 だが、当たったのはバシャーモの分身。本体は即座にプテラの背後に現れ、止まることのないプテラの尻尾を掴み取ると遠心力を利用して、上空へと投げ上げた。

 

「かみなりパンチ!」

 

 そして、一直線にプテラへと大ジャンプしていく。

 

「プテくん、ギガインパクト!」

 

 これが最後の交錯。

 競り勝ったのはーーー。

 

「ーーープテラ、戦闘不能!」

『メガシンカポケモン同士のバトルを制したのはバシャーモだっ!』

 

 メガシンカが解けたのはプテラの方だった。

 これで一気に流れは変わることだろう。

 

「プテくん、お疲れさま」

 

 コマチはプテラをボールに戻し、次のボールに手をかけた。

 

「さて、ここからは私のターンだ」

 

 絶賛ザイモクザ化している人がいるが、気にしない。気にしないったら気にしない。

 

「カーくん、もう一度お願い!」

 

 再度カマクラか。

 メガシンカを失ったコマチに無双状態のバシャーモを止めることができるのか見物だな。

 

「カーくん、サイコキネシス!」

「バシャーモ、ブレイズキックで弾き飛ばせ!」

 

 右脚の回し蹴りによりサイコパワーが弾かれた。そのまま左脚で地面を蹴り、一気にカマクラへと詰め寄ると、踵落としのごとく脚が振り下ろされた。

 

「ふいうち!」

 

 バシャーモの右脚が当たる直前に小さな身体をサイコパワーで加速させ、背後へと回り込む。

 

「甘い!」

 

 だが、これまでに上昇していた能力を見せつけるように時計回りの回し蹴りがヒットした。

 不意を突いてもそれを上回る動きで対応してくるとは。メガバシャーモ、パネェわ。

 

「ニャオニクス、戦闘不能!」

『ブレイズキックが決まったぁぁぁああああああっ!! 今度はシズカ選手が立て続けに戦闘不能に追い込みました!!』

 

 このまま全抜きもあり得そうな勢いだな。

 そうでなくとも、まだエルレイドやカイリキーといった強敵が控えている。対してコマチはメガシンカさせたプテラと器用な戦い方をするカマクラが倒された。控えているのはカメックスやカビゴンたち。カビゴンは起きているかも怪しいくらいだ。

 

「カーくん、最後までありがと。ゆっくり休んでね」

 

 何が言いたいかといえば、コマチが不利な状況になっているということだ。数の上ではコマチが勝っていても控えているヒラツカ先生のポケモンが悪い。慎重にいかなければすぐにでも全抜きされてしまうだろう。

 

『急に流れが変わってきましたね』

『そうですね。まさかコマチさんがあそこで先生の挑発に乗ってくるなんて。メガシンカさせたのは少し早かったかもしれませんね』

『でも、あそこでシズカ君だけメガシンカさせていたら、もっと一方的な展開になっていたかもしれないよ?』

『それはそうですが………。やはりメガシンカを失ったというのに笑っているあの目を信じるしかないでしょうね』

『おや? 君はコマチちゃん派なんだね。僕はシズカ君派だよ。もっともっと彼女の強さを見てみたい』

『私は………二人ともをもっとよく知りたい、と言いたいところですが、どうしてもあの笑顔の意味が知りたいです。トレーナーになってまだ半年ばかりの子がこんな大舞台で切り札を失ったというのに笑っているんですもの』

 

 や、別にコマチはいつもそうだし。ピンチになればなるほど燃え上がるタイプだから。Mっけを感じなくもないが、多分俺の悪影響なのだろう。

 ごめんな、コマチ。こんなお兄ちゃんで。

 

「カメくん、暴れちゃって!」

「ガメーッ!」

 

 今度もタイプ相性を考えて出してきたか。次でバシャーモを落とさないと、いよいよもってピンチだぞ。

 

「ほう、カメックスか。最初の頃よりだいぶ顔つきが変わったではないか」

「そりゃ、あれから半年経ってますからねー。コマチもカメくんたちも変わりますって」

「いいことだ。変わることを恐れていたあのバカの妹とは到底思えん発言だな」

「あんな兄ですからねー。みなさんのおかげで段々変わってきてくれて嬉しい限りですよ」

 

 どうも、あのバカです。

 や、人ってそんな簡単に変わるんじゃアイデンティティというものがないんじゃないかって思うじゃん。それに働きたくないという確固たる信念をもって、ブレない心でいなかったら、俺の場合精神崩壊しててもおかしくないレベルだぞ?

 

「さて、続きだ。バシャーモ、かみなりパンチ!」

「みずのはどう!」

 

 一気に詰め寄ったバシャーモの電気を纏った拳は、水の壁に阻まれた。

 そして、水の壁は変形していき、ゲッコウガに変わった。

 

「……おいおい、見たことがあるぞ。まさかあいつまで真似ることができるのか」

 

 うん、まあ、だよな。

 あれ、絶対ゲッコウガの戦法、というか一発芸だよな。まさかそんなところからまで引っ張り出してくるとは。

 

「ゲッコウガだ………」

「………あんた、妹に何させてんの?」

「俺は何もしていない。あいつが勝手に覚えただけだ」

 

 教えた記憶もない。他ができるなんて思っちゃいなかったくらいだし。コマチのやつ、カメックスのメガシンカを暴走させて以来、皮が何枚も剥けたって感じだな。

 

「躱せ、バシャーモ!」

 

 おいちょっと待て。みずしゅりけんまで再現できるのかよ。

 もしかしなくてもメガシンカはコマチの切り札ではなく、戦略の一つに盛り込まれてしまっているのか?

 そうだとしたら、ものすごいことだぞ。半年強でメガシンカに頼らない戦略を練っているなんて、そもそもメガシンカを成功させられるだけでも異例だとかいうほどなのに。

 どうした、コマチ。どこかで頭でも打ったのか?

 

「カメくん、みずのはどうだん! 〜みずとかくとうのイリュージョン〜!」

 

 何その料理名みたいな技の命令。

 隠したいのか隠す気がないのかいまいち分からんのだが。

 

「バシャーモ!」

 

 うわー、それでもバシャーモのやつ、全て見切ってるよ。

 早すぎてよく見えないが、当たった気配がない。

 

「なっ!?」

 

 と、躱した一つの弾丸が停止し、バックを始めた。あれが本物のはどうだんね。

 

「後ろだ、バシャーモ!」

 

 前と後ろを弾丸に挟まれたバシャーモ。さあ、この状況をどう乗り切る? まず乗り切れるのか?

 

「シャモ!」

 

 まるでブレイクダンスを踊るかのように、前宙二回転ひねりで弾丸を弾き飛ばしてしまった。

 

「あ………」

 

 気づけば、上空にすげぇ水が溜まってた。あれ全部飛ばしたみずのはどうだんだな。これも見たことある気がするんだけど。

 

「さすがは、兄妹、だね………」

「ヒッキー見てるみたい」

「………ハチマンが………二人に………」

 

 なぜ一人怯えた目で頰に手を当ててるんだろうか。可愛くないからやめようね、ザイモクザ。キモいぞ。

 

「お兄さん………俺自信なくなってきたっす」

 

 んで、こっちにはバトルの前からドヨーンとした空気のクズ虫がいる。

 揃いも揃って野郎どもはダメだな。

 トツカ? トツカの性別はトツカなんだから、野郎でもない。断じてない。野郎だろとか言ったやつ、許すまじ。

 

「ガメーッ!」

 

 風呂桶がひっくり返ったかのような大量の水がバシャーモを襲った。

 さすがのバシャーモも躱せる状態ではなく、水に呑み込まれていく。

 

「バシャーモ!?」

 

 水は地面に吸い込まれていき、残ったバシャーモはメガシンカを解いて、膝から崩折れた。

 

「バシャーモ、戦闘不能!」

『バシャーモ、ついに倒れたぁぁぁああああああっっ!! 勝てない素早さを追尾機能で補い、誰にも止められないと思われたバシャーモの動きを捉えました!! 実に見応えのあるバトルです!!』

「戻れ、バシャーモ。よくやった、ゆっくり休め」

「ふぅ……、カメくん楽しいね!」

「ガメッ!」

 

 楽しい、か。

 それは何よりである。

 ポケモンバトルは楽しむことが前提だ。勝ち負けにこだわりすぎては却って自分の実力を出し切れなくなってしまう。

 今のコマチのコンディションが丁度いいと言っても過言ではない。

 

「まったく、随分と兄貴に似てきたじゃないか」

「まだまだですよ。コマチにはまだお兄ちゃんを倒せませんから。一方的なバトルにしかなりませんよ」

「それはどうかな。君のその真似る実力を持ってすれば兄貴を追い込むことだって難しくはないと思うぞ」

「ほえー、そんなことは考えたこともなかったですね」

「ま、それも私を倒せたらの話だがね。エルレイド!」

 

 出てきたか、エルレイド。対リザードン用に育てあげたというその実力。メガシンカしなくとも脅威でしかない。

 

「カメくん、みずのはどう!」

「かみなりパンチ!」

 

 出たな、テレポート。

 一瞬でカメックスの背後に現れ、電気を纏った拳をカメックスの頭に叩き落とした。

 

「次は下から!」

 

 またしても一瞬で移動し、カメックスの懐に潜り込むと、掬い上げるようにカメックスの身体を拳で持ち上げた。天井にぶつかりそうな勢いで上昇していったが、幸いにして天井に当たることはなく、エルレイドを見据えて態勢を整え、背中の砲台の照準を合わせてくる。

 

「カメくん、ハイドロカノン!」

 

 そして放出された大量の水が螺旋状に絡み合い、エルレイドを襲った。

 

「エルレイド!」

「みずのはどう!」

 

 テレポートで躱す暇もなかったらしく、防御姿勢で究極技を受け切ったらしい。

 そして、またしても一瞬にしてカメックスの背後に現れた。

 

「かみなりパンチ!」

 

 カメックスに拳を叩き込んだが、カメックスは弾け、水に戻った。

 

「上だ!」

 

 偽のカメックスを攻撃してしまったエルレイドは背中にカメックスの砲台が添えられた。

 おそらく至近距離からの究極技だろう。

 

「ハイドロカノン!」

「リーフブレード!」

 

 エルレイドは躱せないと悟ったのか、腕の刃を後ろに伸ばし、砲台からは大量の水が勢いよく噴出された。

 二体は仲良く地面に落ちていく。

 

「カメくん!」

「エルレイド!」

 

 カメックスは背中から落ちて起き上がる気配がない。だが、エルレイドの方はぐぬぬと起き上がろうとしている。まだ意識があるみたいだ。

 と、そこに審判が現れてカメックスを見遣った。

 

「カメックス、戦闘不能!」

『おおっと、ここでカメックスダウン!! 競り勝ったのはエルレイーーー』

「………エル」

 

 やはり無理だったか。

 起き上がろうとしていたエルレイドだったが、とうとう力が尽きてしまったようだ。

 

「エルレイド、戦闘不能!」

『エルレイドも倒れたぁぁぁああああああっっ!! 二体とも戦闘不能!! なんという激しい攻防なのでしょうか!!』

 

 これで先生のポケモンはカイリキーとサワムラーか。ポケモンを変えていなければ残っているのはこの二体だろう。対して小町のポケモンはカビゴンとクチートとあと一体。タマゴから孵ったキバゴはあれからどうなったのだろうか。

 

「ご苦労だった、ゆっくり休め」

「カメくん、よく暴れてくれたね」

 

 メガシンカが二人ともすでに出してしまっているため、この後の展開が全くと言っていいほど読めなくなっている。それは観戦客全員の思いだろう。カロス地方はホウエン地方と並んでメガシンカの宝庫。こんな大きなリーグ戦をやれば、勝ち上がってくるのはメガシンカ使いばかりだと思っていてもおかしくはない。チャンピオンがメガシンカを使えるのは知ってるだろうし、さっきのおばさんのおかげで四天王もメガシンカを使ってくると分かったことだ。

 だが、どのバトルでもメガシンカが鍵となると思われた直後にこれだ。これからどんな展開になるのかさっぱり掴めないことだろう。

 

「サワムラー、全て蹴り飛ばしてしまえ」

「キーくん、出番だよ!」

 

 やっぱりサワムラーか。ということはカイリキーもいるんだろうな。

 んで、コマチはキバゴ………じゃなくね?

 

「オノンド………」

 

 進化したのか。

 まあ、半年も経ってるし進化しててもおかしくはない。いくらドラゴンタイプだからってタマゴの時から一緒にいたトレーナーだ。気難しい性格にはなってないだろう。

 

「サワムラー、メガトンキック!」

 

 自在に伸び縮みする脚を使い、大股でオノンドへと駆け寄っていく。

 

「キーくん、躱してりゅうのいかり!」

 

 ビヨーンと伸びてきた脚を躱し、竜の気を飛ばした。形を変えて竜の頭になった気は、そのままサワムラーに噛み付いた。

 

「まわしげり!」

 

 長い脚を伸ばして遠心力を起こすと、竜の気を払いながら、オノンドを蹴りつけた。横からきた脚には対処しきれず、オノンドは隔壁に衝突した。というかこっちにきた。

 

「うわっ、びっくりしたー……」

「強烈な回し蹴りだね」

「蹴る専門のポケモンだしな」

 

 蹴りの代表といえばサワムラーだろう。自在に伸び縮みする脚とか反則すぎるだろ。首の長いナッシーみたいである。そんなサワムラーが蹴りの代表の座を奪われたりしたら、立つ瀬もない。

 代表の座を奪われないように頑張れよ。

 

「キーくん!?」

『立ち上がりました、オノンド! しかし、目が赤くなっている! 一体どういうことだ?!』

 

 何かする前触れなのだろうか。

 俺もどんなポケモンなのかは詳しく知らないし、何とも言えないな。

 

「キーくん、暴れまくっちゃって! げきりん!」

 

 なんと。

 げきりんを覚えているのか。

 初手がりゅうのいかりだったから、てっきりドラゴンクローとかドラゴンテール辺りを覚えているとみていたんだが、そうでもなかったらしい。

 

「………なんかさっきと気勢が違うね」

「うーん、これなんかヒッキーがたまにタイシ君に飛ばしてる感じと同じ気がするんだけど…………」

「ふっ、男の嫉妬というものは醜いものよ」

 

 やめて! 俺のハートをいじめないで!

 それにタイシに向けてるのは嫉妬じゃなくて……………なんだろうな。俺に説明できる材料がなかったわ。ぼっちの弱点だな。

 

「えー、でもなんか愛されてるーって感じしない?」

「愛が重たいでござる」

「…………だからモテないんじゃん」

「ぐふっ!」

 

 君たちなんか仲良いね。

 ザイモクザも普通に女子と会話できてるし。ユキノやハルノさん相手にはいつもビビってたりするけど、ことユイやイロハに関して言えば普通だよな。なんなの、その差は。

 

「………そうそう、これこれ……ってハッチー!? すっごい黒いオーラ出てるよ!?」

「は、ハチマン! 嫉妬の念が出まくってるよ」

 

 ヒキガヤハチマン、十七歳。割とチョロインだった件。

 誰がチョロインだ。

 

「あ、そうか。そういうことか」

「姉ちゃん、どうかした?」

「ん、あのオノンドの特性、恐らくとうそうしんだよ」

「とうそうしん?」

「そのまんまだ。相手が同じ性別だったら無性に腹が立って攻撃したくなるんだよ。逆に相手が自分と性別が違うと攻撃に躊躇ってしまう。そんな特性だ」

「うわー、もろ感情的な特性っすね」

 

 とうそうしん。そのまんま闘争心。オスならオス相手に技の威力が全て上がるという同性殺し。要は媚びたいんだろうね。

 

「けど、無理っぽいすよ。全然届いてないっす」

「いや、大丈夫。そう見えるだけであって、攻撃を受ける際に、脚にダメージを与えている。その証拠にサワムラーの脚が段々と赤くなってきた」

「うお、ほんとだ………さすが姉ちゃん。よく見てるね」

「あんたもよく見ておきな。多分、コマチはまだ何か仕掛けてくる」

「とびひざげり!」

 

 カワサキもそう思うのか。

 俺も感じてたところだ。

 なんかずっと余裕なのだ。数的有利とかではなく、まだ切り札と呼べるものが残っているような、そんな目をしている。

 

「オノンド、戦闘不能!」

「ありがとう、キーくん。これでクーちゃんの一発が効いてくると思うよ」

 

 ………?

 ほんとに何をしようとしているんだ?

 

『ついに両者のポケモンが残り二体になりましたっ!! さあ、バトル終盤! 最後の追い込み、白旗を上げるのはどちらなのでしょうか!!』

「クーちゃん、もう一度お願い!」

 

 再度クチートの登場。

 ゴロンダ戦で相当消耗していると思うんだが………。

 

「あ、そうだ、いかくが再度発動するんだったな」

 

 ボールから出てきて早々、威嚇しているクチートを見て思い出した。いかくは戦いの場に出る度に発動する。ということはこれでサワムラーの攻撃力が下がったということだ。これならば何とかなるのかもしれない。

 

「サワムラー、ブレイズキック!」

 

 効果抜群を狙って、炎を纏った脚を伸ばしてきたか。

 だが、恐らくはこれが誘いなのだろう。

 

「脚を掴んで、クーちゃん! ………メタルバースト!」

 

 遠心力を使った横殴りの蹴りを、角が変形した顎で受け止め、口からは鋼色の光が放出され、逃げることのできないサワムラーに直撃した。

 なるほどな。オノンドはこれで倒すための体力削りを行っていたというわけだ。

 これで一対一に持ち込める。運よくクチートが耐えれば儲けもん。そんな考えなのだろう。

 

「サワムラー、戦闘不能!」

 

 返し技の前ではサワムラーといえど、どうにもならなかったようだ。

 さて、クチートはっと。

 

「クーちゃん、ありがとう」

 

 よろよろっとした動きでコマチの方へ戻っていったクチートは、コマチに抱きつくと力が抜けるように倒れた。コマチは審判に対して首を横に振って合図を送る。

 

「クチート、戦闘不能!」

 

 今回クチートはよく働いていたと思う。ゴロンダを倒し、プテラの起点となり、サワムラーを倒し。

 うわっ、こうしてみるとクチートの参加率が高いな。

 さて、ここからは一騎打ち。ボールを取り替える二人はどう戦略を立ててくる?

 

「カイリキー、最後だ。一思いに暴れてくれ」

「ゴンくん、出番だよ……って、寝てるし………」

 

 うわー、案の定カビゴンは寝てたよ。ぐーすかいびきをかいてるわ。

 

「まったくもう、気持ちよさそうに寝てるんだからー」

 

 コマチは腕につけたアクセサリーをいじり、寝ているカビゴンの上によじ登っていく。

 おいおい、バトル中だぞ? 危ないじゃねぇか。

 

「ッ!? あのポーズ! まさか?!」

 

 一足先にコマチの意図に気がついたさーちゃん。

 えっ? なに? どゆこと?

 

「あ………」

 

 うん、俺知ってる。

 あれ、見たことあるわ。主にさーちゃんが使ってるのを。

 

「ゴンくん、本気を出しなさい!」

 

 コマチが変なポーズを取っていくと腕のアクセサリーからエネルギーと思しき光がカビゴンを包み込んでいく。

 そしてむくっと起きたカビゴンはコマチを持ち上げると元の位置へと降ろし、カイリキーを見据えた。

 

「ゴンくんの本気見せちゃえーっ!」

 

 こんなのカビゴンじゃねぇ………。

 身軽過ぎんだろ。

 いきなり走り出したかと思ったら、急停止して地面を蹴り上げた。

 わーお、巨体がジャンプしたよ。

 

「なっ…………!?」

 

 呆気に取られてしまった先生たちは、もう戦意すら失っている。

 や、そりゃあんな巨体が軽々とジャンプしたんだから驚くだろうよ。

 

「Z技………、コマチあんたいつの間に………」

 

 えー、とうとう妹に先を越されてしまいました。多分………。ダークライのは知らん。似てるけど知らん。

 

「か、カイリキー………」

「リ、キー………」

 

 無理でした。

 カイリキー、何もできないまま、退場。

 

「カイリキー、戦闘不能! よって勝者、ヒキガヤコマチ!」

『なんだ今のはぁぁぁああああああっっ!! コマチ選手、見たこともない技で次のバトルへと駒を進めたぁぁぁああああああっっ!!』

 

 Z技という新たな切り札を携えて俺の妹は帰ってきたやがった。

 一体誰と特訓してきたんだよ。

 

 

 

 それにしても。

 イロハが戻ってこなかったな………。




行間(バトル使用ポケモン)

ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ
・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん
 特性:するどいめ
 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん
 持ち物:カメックスナイト
 特性:げきりゅう←→メガランチャー
 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン

・カビゴン ♂ ゴンくん
 特性:めんえき
 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと

・プテラ ♂ プテくん
 持ち物:プテラナイト
 特性:???←→かたいツメ
 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、、ギガインパクト、こうそくいどう

・オノンド(キバゴ→オノンド) ♂ キーくん
 特性:とうそうしん
 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん

・クチート ♀ クーちゃん
 特性:いかく
 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ


ヒラツカシズカ 持ち物:キーストーン(研究所からの借り物) etc………
・カイリキー ♂
 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

・サワムラー ♂
 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック、まわしげり

・エルレイド(ラルトス→キルリア→エルレイド) ♂
 持ち物:エルレイドナイト
 覚えてる技:テレポート、サイコカッター、かみなりパンチ、インファイト

・ハリテヤマ ♂
 覚えてる技:ねこだまし、バレットパンチ、はたきおとす、ばくれつパンチ

・ゴロンダ ♂
 覚えてる技:じしん、アームハンマー、ビルドアップ

・バシャーモ ♀
 持ち物:バシャーモナイト
 特性:かそく←→かそく
 覚えてる技:ブレイズキック、ブレイブバード、かみなりパンチ、みがわり

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