カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

18 / 46
13話

 今日最後のバトル。

 今しがたバトルを終えたコマチとヒラツカ先生が帰ってきたのだが。イロハが帰ってこない。

 さて、どうしたものか。

 

「イロハさん、どこいったんだろ」

「コマチも会ってないのか?」

「バトルの前に交代して以来、見てないよ。声掛けづらかったし」

「一人になりたいのだろう。しばらくすればふらっと帰ってくるさ」

 

 そういうもんかね。

 

「お兄ちゃん、心配なんだ」

「や、別に心配とかじゃなく、変に自分を追い詰めて自暴自棄になったりしねぇかなーって」

「それを心配してるって言うんじゃん………」

 

 うっ………。

 

「相変わらずの捻デレだね」

「うーん、まあ、大丈夫じゃないっすかね。愚痴でも言いにあのポケモンのところへ行ってると思うっすよ」

「あのポケモン?」

「名前は知らないっす。ただ、俺たちが山籠りしてる時に会ったポケモンで、イッシキさんに懐いたんすよ。素直じゃないっすけど」

「ほー、どんなポケモンなんだ?」

「炎と水を使う珍しいポケモンっす。リーグ戦に連れてくれば勝ってたと思うんすけどね。残念ながら野生のままっすよ」

 

 炎と水を使う珍しいポケモン。

 相反するタイプの組み合わせのポケモンってことか? まあ、一つ分かるのは俺がまだ知らないポケモンであるということだな。

 

「ヒッキーのあの黒いポケモンとかディアンシーみたいな感じなのかな」

「恐らくな。その話が本当ならイロハは大丈夫だろう。そいつ、強いんだろ?」

「かなり強いっすよ」

 

 なら、今頃はそのポケモンを相手にバトルしているのかもしれない。

 今回のバトルはイロハにとっていい勉強になっただろう。俺やユキノ以外にも強い奴はいくらでもいる。自分だけがフィールドを支配できるわけではない。負けたというショックはデカいと思うが、それを乗り越えてこそ真の強さと言えよう。

 

「………これで伝説とか幻とかを連れて帰ってきたりしたら、俺泣くな」

 

 俺がイロハに課した課題以外にもトレーナーの強さを計る要素はいくつもある。一番見て分かりやすいのが、伝説に名を残すポケモンを連れている奴らだ。伝説のポケモンの扱いにくさはドラゴンタイプの比じゃない。はっきり言って俺の周りにいる伝説のポケモンがどうかしてるんだ。ダークライとかディアンシーとか。エンテイは一度ボールに収めているし、今回もボールに入ってくれたから、他のポケモンたちと同じ手順を踏んでいるが、ダークライとディアンシーは野生のままだからな。異色なのは見て取れる。

 そう言えば、ユキノはクレセリアを扱いきれているのだろうか。ユキノ自身はまだクレセリアの能力を全て引き出せているわけではないって、以前言ってたが。

 逆に何でハルノさんには伝説のポケモンが寄り付かなんだ?伝説のポケモンですら恐れ戦く魔王様なのか?ゾロアークがその位置に一番近いが、あれは伝説に近いレアなポケモンってだけだ。

 ハヤマですら、操られている時に捕まえて扱っていたに過ぎず、ハヤマ自身の力というわけではない。

 こうしてまとめるとルミルミの異常さが浮き彫りになってくるな。これでイロハまで伝説のポケモンを連れて帰ってきたら、どういう基準で懐かれるのか甚だ疑問である。

 

『さあ、本日最後のバトル!! 初日から迫力満点のバトルが続いておりますが!! 今日は本当に豪華ですよ!! まずはこの人! 四天王、ガンピ!!』

 

 確かに豪華だな。

 このリーグ戦の看板であるユキノ以外、あみだくじで決めたのだが。初日に豪華なメンツが揃い過ぎてしまった。やり直すなんてこともできないので、このままの状態であるが、明日以降大丈夫なのだろうか。初日しか盛り上がらなかったら、マジでどうしよう。

 

『そして、四天王に挑むのはこの人! 電気の船乗り!!』

 

 全身鎧を身にまとった男と……………。

 

「ぶほっ!?」

「ちょ、お兄ちゃん汚い!」

「や、だって、あれ、ダメだろ………」

 

 黒のタンクトップと迷彩柄のズボンに金髪のサングラス。その後ろにはエレキブルが。

 見たことあるですが、ありまくりなんですが。

 何やってんの、あの人。

 

「どっからどう見てもマチスじゃねぇか………」

 

 電気の船乗り。

 少し考えれば分かる仮名称じゃん。

 でんきタイプのクチバジム、ジムリーダー。

 軍隊出身とか言ってるが、実際はロケット団の元三幹部。

 何しにきてんだよ。

 つか、あんた船乗りだったっけ? 船のイメージはあるからまあいいか。

 

「クチバジムのジムリーダーだよね。僕もバッジをもらったけど、激しいバトルだったなー」

 

 と、知らない者からすれば攻撃的なバトルをするただのジムリーダー。

 イメージ操作がお上手なようで。

 

『カルネさん、四天王ガンピ選手はどのような選手なのでしょうか』

『彼ははがねタイプの使い手です。硬い守りと隙を突いた強力な一撃が見所ですよ』

「我がはがねタイプの真髄、とくと味わうがよい」

 

 鉄の甲冑を着けた四天王の男の専門タイプははがねなのか。見たまんまだな。ザイモクザと気が合いそうだ。

 

『………うちにも一人、似たような人がいたわね』

「お、我か?」

「お前だろうな」

 

 どうやらユキノもそう感じたらしい。ため息混じりにザイモクザの話を出してきた。

 

『へぇ、強いのかしら?』

『強い、と言えば強いのでしょうね。はがねタイプを連れているかと思えば、でんじほうばかり撃ってきて、しかもロックオンで当たるまでずっとついてくる。バトルこそしたことないですが、見ているだけで戦いたくないと思ってしまう相手ですよ』

 

 へぇ、やっぱユキノでもザイモクザとバトルするのは嫌なんだな。一芸を極めた奴の恐ろしさは尋常じゃないし、それをザイモクザが体現してきたんだから、嫌にもなるか。

 

『でんじほう、といえばさっきのイロハ選手も使ってたわね。速さが異常だったけれど』

『彼女にでんじほうを教えた張本人ですから』

『あら、それは楽しみだわ』

『先に言っておきますが、彼は出ていませんよ? こういう大会には興味ない人ですから』

 

 興味ない、こともないが恐らく………。

 

「いつかハチマンやユキノシタ嬢とバトルするになることを思うと最初から出ない方がマシである」

 

 でしょうね。分かってたさ。

 

「どこぞのゲームセンターの景品を育てて俺に挑んできたくせに、自分の技で自滅したもんな」

「ぐふっ、それは言わない約束ではないか……。というか覚えていたのか…………」

「悪いな、俺の記憶はたまにはっきりと思い出す仕組みになってるんだ」

「………お主も面倒なポケモンに憑かれてるのう」

「嫌な思い出しかないからいいんじゃね? ま、最近の記憶は忘れたくないが」

「捻デレた!?」

 

 コマチちゃーん?

 捻デレたってどういう意味なの?お兄ちゃん、コマチ語が増えてきてよく分からなくなってきたわ。

 

「………なるほど、そういうことか。我は今ようやく謎が解けたぞ」

「何の謎だよ」

「お主の謎である」

「ヒッキーの謎って?」

 

 何かあったっけ?

 俺の存在か?確かに謎だわ。どうして人は寄り付かないのにポケモンは寄り付くのかさっぱり分からん。

 

「お主らは知らない方が身のためである。我ももう少し調べ直さなくては何とも言えぬのだ」

 

 というお巫山戯は通らないか。多分、未だ戻らないシャドー脱出後からの記憶に関係してるんだろうな。

 

「………ザイモクザ」

「なんだ?」

「いや、何でもない。無茶なことだけはするなよ」

「抜かりない。我は疲れることはしたくないのだ」

「それヒキガヤと同じじゃん」

 

 だってぼっちですもの。基本一人なのだから自分のやりたいことだけをやっていればいいし。

 

「それでは双方、準備は?」

「いつでもよい」

「いつでもいいぜ」

「バトル、始め!」

「いでよ、クレッフィ!」

「いけ、レアコイル!」

 

 まずはクレッフィとレアコイルか。

 クレッフィは鍵を集める習慣があり、よく分からない鍵を拾ってくることがあるんだそうだ。

 

「まきびしである!」

「ソニックブーム!」

 

 おっと、クレッフィの方が速かったか。

 画鋲のようなトゲトゲしたものが地面に吸い込まれていく。

 ソニックブームも少し掠っただけで、これといったダメージにはなっていない。

 

『いたずらごころ、だろうね』

『フィールドに仕掛けをするまきびしは否応無く先に出せる特性、というわけですか。クレッフィの特徴を生かした戦法ですね』

『ええ、ガンピは相手の隙を誘い出すことも念頭においてますから』

 

 何というか、きっちりと足元を固めてくるタイプなのだろう。真面目というか、だからこその強さというか。

 

「ラスターカノン!」

「躱せ!」

 

 鋼色の光線をレアコイルは分離することで躱した。

 

「ほうでん!」

 

 分離した中心に電気が集められると、フィールド一帯に無作為に放出された。これではクレッフィに逃げ場はなく、ピンボールのように弾き飛ばされていった。

 

「一発じゃ倒れないか」

「だが、痺れは残ったようだぞ」

 

 ほうでんの追加効果でクレッフィは麻痺状態になった。痺れで動きが鈍くなっている。

 

「自分の技で倒れな、レアコイル、ラスターカノン!」

 

 レアコイルの六つの磁石から鋼色の光が集められ、クレッフィへと放たれた。

 痺れで身動きが重たいクレッフィはまともに受けてしまい、軽い体は甲冑男の前で地面に伏した。

 

「クレッフィ、戦闘不能!」

 

 早速、勝敗が決まった。

 

「辱い、我の力不足である。ゆっくり休んでくれ」

 

 クレッフィをボールに戻すと次のボールに手をかけた。

 

「いでよ、ダイノーズ!」

 

 二体目はダイノーズか。マジでザイモクザみたいになってきたな。

 

「へっ、誰が来ようが同じだ! レアコイル、ほうでん!」

「ダイノーズ、こちらもほうでんである!」

 

 無作為に放たれる電撃がこっちに飛んでこないか心配なくらいバチバチしあっている。

 これ、終わるのだろうか。

 

「チビノーズよ、そのままほうでんである! ダイノーズ、だいちのちから!」

 

 あ、反則紛いのことを四天王がやり出したぞ。

 三体のチビノーズとかいうちょろちょろ動き回っては技を出してくる厄介な存在。ダイノーズを相手にするということは自ずと四体のポケモンを相手にするという感覚でいなければ、すぐにやられてしまう。ザイモクザを見ていてそう感じた。

 そして、チビノーズの相手をするのに手一杯なレアコイルの足元? から地面が割れ、膨大なエネルギーが襲った。

 

「チッ、卑怯な」

「レアコイル、戦闘不能!」

 

 マチスは悪態を吐きながらも意識を失い、地面に仰向けで倒れているレアコイルをボールに戻した。

 

『早速、両者一体ずつが倒れました! 四天王の相手をしている選手の登録名、これは肩書きなのでしょうか! 電気の船乗り、その名の通りでんきタイプで攻めてくるのでしょう! 四天王ガンピ選手、これからどういったバトルを展開していくのでしょうか、楽しみです!』

 

「洒落せぇ! サンダース、蹴り飛ばせ! にどげり!」

 

 ボールから出てきた勢いをそのままに、サンダースがダイノーズの背後に回りこみ、後ろ足で蹴り上げた。

 まきびしのダメージを受けているだろうに、全く表情に表れてこないのはさすがジムリーダーのポケモンといえよう。というか単に攻撃的で防御は御構い無しだからかもしれないが。

 

「やるではないか。ダイノーズ、パワージェム! チビノーズたちはそのままほうでんでサンダースの動きを止めるのである!」

 

 もう反則判定でいいよな?

 

「チッ、硬ぇじゃねぇの。サンダース、そのままチビを蹴散らせ!」

 

 硬い………確かにはがねといわの組み合わせを持つポケモンだからな。防御力も高い。つってもサンダースのにどげりを受けてまだ立ってるし、特性も関係してたりするのだろうか。そうすると特性はがんじょうが妥当か?

 サンダースは電撃にお構いなく、まずはチビノーズたちを潰しにかかった。撃たれても電気を無効にしているのか、次々とチビノーズを蹴り上げていく。

 ダイノーズが飛ばしてくる細かい岩も、その素早い身のこなしで全て躱していった。

 

「お返しだ! サンダース、10まんボルト!」

「ダイノーズ、ほうでん!」

 

 効いていないのが分かっていないのか、はたまた分かってはいるが有効な手段がないからなのか、サンダースに電気技で対応してきた。

 

「チビノーズたちよ、サンダースを捕らえるのである!」

 

 またしてもチビノーズたちを使ってきたか。

 今度は技を使わせることなく三体同時にサンダースを囲い込み、磁力か何かで動きを封じにかかった。

 

「だいちのちから!」

 

 サンダースの足元が割れ、エネルギーが放出された。

 効果は抜群である。

 

「10まんボルト!」

 

 ほんと守ることをしない。

 最後の最後まで攻撃に専念するとか、よくそれでポケモンの方もついてくるなと思ってしまう。元来ポケモンたちの方も防御なんか二の次な性格なのか?

 

「………なんと、まだ倒れぬというのか………」

 

 だいちのちからで吹き飛ばされていったサンダースは奇跡的に立ち上がる素振りを見せた。

 運がいいのか、読んでいたのか。

 

「へっ、さすがだサンダース。一気に倒すぜ、でんこうせっか!」

 

 立ち上がったサンダースは地面を蹴り出し、素早い身のこなしでダイノーズの正面に現れた。

 チビノーズたちはさっきの10まんボルトで痺れて動けないようだ。

 

「そのまま蹴飛ばせ!」

 

 体当たりをカマし、宙返りの際に後ろ足でダイノーズを蹴飛ばした。勢いに飲まれたダイノーズはそのまま後方へ下がっていく。

 

「マグネットボォォォォォォムッ!!」

「でんこうせっか!」

 

 うわっ、なんか叫び出したし。

 ダイノーズが地面に衝撃を与えて、その衝撃波がサンダースに襲いかかる。だが、サンダースはまた素早い身のこなしで躱していき、正面でジャンプした。

 

「パワージェム!」

「10まんボルト!」

 

 細かい岩がサンダースを襲い、電撃がダイノーズに降り注がれる。

 防御なんか無視したバトルは双方をフィールドの端にまで追いやり、そのまま倒した。

 

「ダイノーズ、サンダース、ともに戦闘不能!」

 

 ふむ、二体目は引き分けか。

 四天王といえど、ジムリーダー相手には一方的なバトルはできないか。ジムリーダーだって実力者なんだし。マチスなんかは元ロケット団の三韓部になるようなやつだ。強くて当たり前だ。

 

『二体目はお互い引き分けに終わったぁぁぁああああああっっ!! 本日最後のバトル、四天王相手に一歩も引かない電気の船乗り選手!! カルネさん、いかがでしょうか!』

『見事なバトルです。ガンピにここまで食らいついてくるなんて私が見たバトルの中では初めてじゃないかしら』

『うーん、マーベラス! 本当にこのリーグ戦を開いてよかったと思いますよ! 初日から立て続けにこんなレベルの高いバトルが見られるのですから。わたしもエントリーしておけばよかったと思うくらいです』

『…………博士はエントリーしなくて正解だったと思いますけど』

 

 まず本戦に出場できていたかすら危ういよな。

 そもそも博士ってそんなにポケモンを連れていたっけ?

 

『何を言うんだい。僕は君たちを見ていてまたトレーナーを目指そうかと思ってるくらいなんだよ? その証拠にこの半年間、ポケモンたちを僕なりに育てているのさ』

『リーグ戦には六体揃えなくてはいけませんけど、博士は何体連れているのかしら?』

『…………そうだね、数が足りなかったね。くぅぅっ、このバトルに魅了されて昂っている僕の若き日の思い出。誰かに受け止めてほしい気分だよ』

 

 やはりいなかったか。

 コマチに選ばれたカメックスーーゼニガメと一緒に出されたフシギダネがフシギソウに進化したとかは言っていたよな。手持ちがそれだけとは限らないと思いたいが、どうしても博士がバトルに勝つイメージが湧かない。

 

『博士もトレーナーを目指したことがおありなのですね』

『ええ、ただバトルは奥が深くて中々いいバトルができませんでしたよ。だから早々に諦めてポケモンたちを研究することにしたんです』

『何事も諦めが肝心、なんて考えでは強くなんてなれませんよ。足掻いて踠いて、それでも手が届かなくて、悔しい思い、それこそ絶望すら感じてそれでも諦められなかった。だから今の私があるんです………って、なぜそこで涙をこぼす必要があるんですか』

『いや、一途で健気な美少女がいるなーと』

『若いっていいわね』

『ッ!?』

 

 急に惚け話をしだしたユキノに解説の二人だけでなく会場一帯が暖かい何かに包まれている。

 何これ、超恥ずいんだけど。

 遅れて気づいたユキノも顔が真っ赤だし。

 

「うひゃー、ユキノさん遠慮がなくなってますね」

「もう、何あの可愛い生き物。今すぐ抱きしめたい!」

 

 ユイー、ゆるゆり程度にしとけよー。ガチゆりはちょっと困るぞー。

 

「次だ次。出てこい、マルマイン!」

「うむ、次も力強いバトルをお頼み申す。ナットレイ!」

 

 ナットレイ?

 すげぇトゲトゲしたポケモンだな。

 もう片方ツルツルの真ん丸。

 また極端な奴らが出てきたな。

 

「なあ、カワサキ。あのポケモンってどんなやつなんだ?」

「ナットレイ? 取り敢えず直接触ると怪我するようなポケモンだね。特性にてつのトゲっていう触ってきた相手にダメージを与える効果を持ってるし、加えてくさ・はがねタイプ。硬い防御力を相手にせず、離れたところから焼くのがオススメだね」

「まあ、そのタイプの組み合わせなら焼くのが一番だな」

 

 くさ・はがねタイプか。

 弱点となるタイプは…………ほのおとかくとうくらいか? 少ないな………。

 

「エレキボール!」

「ジャイロボール!」

 

 マルマインが電気を弾丸状に圧縮し、ナットレイが高速回転を始める。

 マルマインがエレキボールを放つと同時にナットレイが飛び出し、一直線に突き進んだ。そしてエレキボールはナットレイに呑まれ、マルマインを弾き飛ばした。

 

「チッ、マルマイン、シグナルビーム!」

 

 ゴロゴロと転がり、元の位置に戻ってきたマルマインが、点滅色の光線を吐き出した。

 動きの襲いナットレイは躱すことができず、直撃を余儀なくされる。

 

「ナットレイ、タネマシンガンである!」

 

 お返しと言わんばかりにナットレイが次々と種を飛ばし始めた。マルマインは転がりながら躱していくが、それでも限界があるようで、後半は身動きを取れなくなるくらいの種を打ち付けられた。加えて最後の一発は種が爆発し、マルマインへのダメージが相当蓄積されたのが分かった。

 

「マシンガン、いいじゃねぇか。マルマイン、エネルギーを溜めろ!」

 

 挑発的な目をしているマルマインは自分の体内にエネルギーを蓄え出したようだ。でんきタイプの技の威力を大きく上げる技にじゅうでんがあるが、マルマインが行っているのもじゅうでんなのだろうか。

 

「ナットレイ、ジャイロボール!」

「引きつけろ!」

 

 さっきの今でまたジャイロ回転を受けてしまえば、さすがのマルマインでも戦闘不能だぞ。何を企んでいるんだ?

 

「へっ、回り込め!」

 

 引きつけたところを背後に回りこみ、外して地面に身体を突き刺してしまったナットレイの上を取った。

 トゲが刺さって痛そうである。

 

「これがこいつの本来の役割だ。マルマイン、じばく!」

 

 …………あー、そういやこういうやつだったっけか?

 けど、相手ははがねタイプだぞ? 効くのか?

 

「………チッ、クソ硬ぇ。やりづれぇったらねぇな!」

 

 じばくでもナットレイは倒れなかった。

 結局マチスが一体戦闘不能にしてしまっただけである。

 

「マルマイン、戦闘不能!」

『ナットレイ、マルマインのじばくを直で受けてなお、立っています! おおっと、そればかりか今の爆発で地面に突き刺さった身体の自由が解かれました!』

「戻れ、マルマイン」

 

 ボールにボール型のポケモンが入っていくとかちょっとシュール、なんて思ってみたり。

 

「ライチュウ、一発で決めろ。きあいだま!」

 

 マチスの四体目のポケモンはライチュウか。

 出てきて早々、エネルギー弾をナットレイに当てやがった。

 

「ぬぅ、やりまするな」

「ナットレイ、戦闘不能!」

 

 審判の判定を受けて、ナットレイをボールへ戻す甲冑男。

 またしても両者引き分け状態か。

 

「シュバルゴ、いくのである!」

 

 四天王の四体目はなんか殻に覆われたポケモンが出てきた。

 

「なあ、今度も悪いがあれは?」

「あれはシュバルゴ。むし・はがねタイプのポケモンで、アギルダーってポケモンと対をなすポケモンだよ」

「オスとメスとかの関係性じゃないよな? プラスルとマイナンのような感じか?」

 

 ポケモンの中には伝説のポケモン達以外にも対をなすポケモン達はいる。オスとメスで違うポケモンであるニドキングとニドクインやバルビートとイルミーゼ。特性で対称性が出てくるプラスルとマイナンなど、探せばいろいろいたりする。ポケモン研究の一つの分野といってもいいかもしれない。

 

「近いけど、こっちはもっとカラクリがあってね。アギルダーの進化前にチョボマキって殻に覆われたポケモンがいるんだけど、そのポケモンが進化する時に剥がれ落ちた殻を、シュバルゴの進化前であるカブルモが身につけることで進化するっていう密接な関係があるんだよ。あたしは結構この二体の関係性は好きだね。生き物らしくて面白いと思う。ってかあんた、イッシュ地方で登録されたポケモンについてはからっきしなんだね」

「行ったことないんでな。自ずと調べることもしなくなった」

 

 なるほど、シュバルゴとアギルダーか。帰ったら調べてみよう。なんか面白い関係性である。

 

「ま、あんたの今までを考えるとこれくらいの知識は必要なさそうだけどね。ゴリ押しでなんとかしちゃうでしょ」

「あー、まあどうせはがねタイプだろ? 焼けばいいんじゃね? って感じの思考回路で終わるだろうな」

「単純なのにそれで勝っちゃいそうだから怖いよ………」

「ユイさん、お兄ちゃんが変わってるだけですから。他の人たちはそんな簡単な理屈で動けませんって」

「うむ、我も取り敢えずレールガンで試してみるな」

「ここにもいたよー。うぅ……コマチちゃーん!」

「おーよしよし、ユイさん自信持ってくださーい」

 

 ザイモクザも取り敢えずレールガンだもんな。じめんタイプとでんきタイプが相手じゃなけりゃ、麻痺状態にできてしまうし。そうすれば後の展開も楽になってくるからな。理にかなっているといえば理にかなっている。

 

「シュバルゴ、ドリルライナーである!」

「ライチュウ、でんこうせっかで躱せ!」

 

 うわっ、ガチなポケモンだった。

 ドリルライナーでしっかりライチュウの弱点を突いてきて、素早く逃げ惑うライチュウを追い掛け回している。ダイノーズの時といい、見た目に反してやることがえげつないな、あの四天王。

 

「かみなりをぶっ放せ!」

 

 走りながら電気バチバチさせて雨雲を呼び出す。

 後ろからはシュバルゴが迫っており、止まることはできない。

 

「うぉらぁっ!」

 

 突然左に切り返したライチュウの動きに合わせられず、突き進んだシュバルゴに頭上から雷撃が撃ち落とされた。

 

「まだまだなのである!」

 

 かみなりが撃ち付けられたというのにシュバルゴは再びライチュウを狙い出した。さすがのライチュウも驚き足が竦んだようで、その隙を突かれてシュバルゴの二本のドリルで弾き飛ばされてしまった。

 

「伊達に殻を付けているわけではない。シュバルゴ、とどめばり!」

 

 一方的に突き飛ばされたライチュウの前にはすでにシュバルゴが移動していた。

 

「チィッ、ライチュウ、きあいだま!」

 

 即座にエネルギー弾を作り出し、シュバルゴの二本のドリルを受け止めた。

 

「ドリルライナー!」

 

 再度ドリルを回転させてきあいだまを霧散させると、二本のドリルでライチュウを突き飛ばした。

 なんて奴だ。

 これは勝ち上がって当たった時には焼く以外考えない方がいいな。近づくのは危険だ。

 

「ライチュウ!?」

 

 おお、あのマチスが驚きを見せているぞ。なんか新鮮だ。

 

「ライチュウ、戦闘不能!」

『なんとマチス選手! 一方的に攻撃されてしまったぁぁぁあああっっ!! さあ、次は五体目のポケモン! 四天王のシュバルゴをどう攻略するのでしょうか!』

「実に不愉快だぜ。出てこい、ジバコイル!」

 

 ライチュウをボールに戻して、五体目として出してきたのはジバコイルだった。

 レアコイルを連れてなおかつジバコイルかよ。

 専門タイプを持つというのも大変だな。種族が同じポケモンでも使い方の違いを知る必要があるとか面倒極まりない。

 

「でんじほう!」

 

 おお、出た。取り敢えずでんじほう。ザイモクザが感動してるぞ。

 

「ドリルライナー!」

 

 うわー、もうあのドリルマン鬼畜すぎんだろ。そんな動きが速いわけではないが、直撃した技も受け止めちまうあのドリルが脅威でしない。初心者トレーナーがあれで全ポケモンを戦闘不能に追いやられたとしよう。………うん、トラウマでしかないな。

 

「でんじほうも弾くのか………」

 

 初心者トレーナーでなくとも嫌気がさすのは変わらないみたいだ。

 マチスも唸り声を上げている。

 

「ジバコイル、でんじふゆう!」

 

 でんじふゆう。

 すでに浮いているジバコイルが使っても意味があるのかと思われるが、一応じめんタイプの技を全て無効化にする効力があるのだ。どういう理屈なのかは知らないが、浮くだけでなくじめんタイプの技を無効化する何かが出ているのだろう。

 ほんとポケモンは技一つを取っても不思議な生き物である。

 

「なんと、地面技を封じてこられたか。シュバルゴ、ジバコイルを追いかけるのだ!」

 

 スイーっと上昇していくジバコイルを追ってシュバルゴも上昇し始めた。はがねタイプって何気浮いているポケモンが多いよな。

 

「チィ、撃ち落とせ、かみなり!」

 

 再び雨雲を呼び出すとすぐに雷撃が落ち、ジバコイルの真下にいるシュバルゴに突き刺さった。

 

「だましうち!」

 

 だが、そこにいたはずのシュバルゴはいつの間にかジバコイルの足元? にへばり付いており、二本のドリルを突き刺していた。

 

「いわくだき!」

 

 そのまま二本の腕を広げて、鋼の身体に傷を入れていく。

 

「ジバコイル、エレキフィールド!」

 

 あのマチスが攻撃を捨てた………?

 フィールド一帯に電気が張り巡らされた。

 

「もう一度、いわくだきである!」

 

 そして、最後の一発が決まり、ジバコイルは地面に投げ落とされた。

 

「ジバコイル、戦闘不能!」

「………全くついてねぇぜ」

 

 今回のリーグ戦、マチスにとってはあまり気乗りのしなかったことなのか?

 それならなぜ参加しているのだと問いただしたくなるが。

 

「エレキブル、最後に思いっきり暴れちまいな」

「む? そのエレキブル、そなたの切り札とお見受けするが」

「ま、そんな感じだ」

「うむ、ならばわれも切り札で挑むのが、せめてもの敬意であろう」

 

 やっぱそういうところは律儀なんだな。

 騎士様って感じがする。

 

「戻るのだ、シュバルゴ。大義であった。ハッサム、われらと共に熱いバトルを繰り広げてくれた者に敬意を示そうぞ!」

 

 ハッサム。

 こいつがあの甲冑男の切り札なのか。ということはこいつがメガシンカすると見ていいのだろう。

 

「エレキブル、ほのおのパンチ!」

「我が鋼の真髄、解放せよ! ハッサム、メガシンカ!」

 

 早速かよ。

 最強を以って最強を打ち破るというスタンスなのか。まさに見たまんまの人だな。

 

「メガ……シンカ………」

 

 白い光に包まれていくハッサムと甲冑。

 甲冑で光が反射して無駄に眩しいんだけど。

 

「まるでここは魔窟じゃねぇか」

「ハッサム、つるぎのまい!」

 

 ……………あれ?

 なんかあんなポケモンいなかったっけ?

 ほら、宇宙から飛来した………隕石の…………。

 

「まるで、デオキシスのようであるな…………」

 

 あ、やっぱり?

 ザイモクザもそう思うのか。

 俺だけじゃなくてよかった。

 

「デオキシス?」

「宇宙にいるポケモンだ」

「宇宙にもポケモンがいるんだ?!」

 

 そうなんだよ。宇宙にもポケモンがいちゃうんだよ。

 異空間にいたりするし、一体ポケモンとはなんなんだろうな。

 

「ワイルドボルト!」

「バレットパンチ!」

 

 全身に電気を纏い突進していくエレキブル。

 だが、ハッサムがそれをあっさりと躱して背後から連続でパンチを繰り出した。技の相性では効果がいまひとつではあるが、ハッサムは初手につるぎのまいを使っている。メガシンカも合わさって、無敵状態だ。

 

「ほのおのパンチ!」

「バレットパンチ!」

 

 何度腕を振り回そうがーーー。

 

「10まんボルト!」

「バレットパンチ!」

 

 何度放電しようがーーー。

 

「ワイルドボルト!」

「とどめである! シザークロス!」

 

 何度突進を仕掛けようがその度に躱され、隙を突かれて攻撃を受けてしまった。

 しまいにはとどめを刺される始末。

 

「エレキブル、戦闘不能! よって勝者、四天王ガンピ!」

『決まったぁぁぁああああああっっ!! なんという一方的なバトル!! これが、これが四天王の実力なのかぁぁぁああああああっっ!! 果たしてこれから勝ち上がってくる選手に彼を止められて者は現れるのでしょうか!!』

 

 本日最後のバトル。

 専門タイプを極めた者同士のバトルを制したのは四天王の方だった。

 

『それではみなさん! また明日お会いしましょう!!』

 

 初日としては最良。

 逆に二日目からが心配なくらいの迫力のあるバトルばかりだった。これならば提供元の企業が出している販促グッズも売れ行き良好であろう。取り敢えず俺の顔は綺麗なままというわけか。

 

 

 何事もないといいんだが。

 取り敢えず、イロハを探すとしよう。

 




行間(使用ポケモン)

ガンピ 持ち物:キーストーン
・ハッサム ♂
 持ち物:ハッサムナイト
 特性:???←→テクニシャン
 覚えてる技:バレットパンチ、シザークロス

・クレッフィ ♂
 特性:いたずらごころ
 覚えてる技:ラスターカノン、まきびし

・ダイノーズ ♂
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ほうでん、だいちのちから、パワージェム、マグネットボム

・ナットレイ ♂
 特性:てつのトゲ
 覚えてる技:ジャイロボール、タネマシンガン、タネばくだん

・シュバルゴ ♂
 特性:シェルアーマー
 覚えてる技:ドリルライナー、とどめばり、だましうち、いわくだき


マチス(電気の船乗り)
・エレキブル ♂
 覚えてる技:ほのおのパンチ、ワイルドボルト、10まんボルト

・ライチュウ ♂
 特性:せいでんき
 覚えてる技:きあいだま、でんこうせっか、かみなり

・レアコイル
 覚えてる技:ソニックブーム、ほうでん、ラスターカノン

・ジバコイル
 特性:じりょく
 覚えてる技:でんじほう、かみなり、でんじふゆう

・マルマイン
 覚えてる技:エレキボール、シグナルビーム、じばく

・サンダース
 特性:ちくでん
 覚えてる技:にどげり、10まんボルト、でんこうせっか

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。