カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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無事中編になりました。


0〜4話 中編

 コマチちゃんに新しい仲間ができた。

 ドラゴンタイプのキバゴ。ちっちゃくてかわいい。

 そしてあたしにも昨日新しい仲間が増えた。

 22番道路に一人でいたリオル。じっとあたしの胸を見てきたかと思ったら、いきなり触ってくるんだよ?! びっくりして、思いっきり転んじゃった。しかもその拍子にモンスターボールがリュックの中から落ちちゃって……………入っちゃったの………。カチッて、カチッてなっちゃったんだよぉ…………。

 それからことあるごとにあたしの胸を触ろうとしてくるの!

 あたし、どうしたらいいの?!

 こんなんじゃ、絶対ヒッキーに笑われるし! それだけならまだしも「俺にも触らせろ」なんて…………言って……きたり…………ハッチーの変態! スケベ! ハチマン!」

 

「ユイせんぱーい、顔赤いですよー」

「……気にしないでイロハちゃん」

「そうですねー。確かに先輩に胸を触られる想像とかしてたなんて、忘れてほしいですよねー」

 

 えっ…………?

 

「…………声に出てた……?」

「そりゃもう。ばっちりと」

「うぁぁぁあああああああああああああっっっ!?!」

 

 やばいやばいやばいやばいっ!

 これじゃただの変態だよぉ。

 妄想癖のある痴女だよぉ!

 あー、うー、もうそれもこれも全部ヒッキーのせいだ!

 

 

 ヒッキーことヒキガヤハチマン。

 あたしの初恋の人。

 目つきがキモくて猫背で捻くれた人だけど、あたしはこの人が大好きだ。

 自覚したのは彼がトレーナーズスクールを卒業する頃。ほんと久しぶりに話して、いろいろあってこれが恋心なんだと自覚した。

 最初にあったのはスクールに入りたての頃だ。人見知りだったあたしに声をかけてくれたのがキッカケ。今の彼からは想像もできないことだけど、事実なのだから怖い。人ってすごく変わるもんなんだね。

 それからも度々話すようになって、彼と話すようになってからはようやく他の子たちとも喋れるようになった。そしたら、なんて言ったと思う?

 

『お前はあっちにいるべき存在だ。俺は一人でも構わないから、みんなと仲良くしてこい』

 

 だよ!

 バカじゃんバカじゃん!

 それに乗ってしまったあたしはもっとバカじゃん!!

 うぁぁあああああああああああああ、ヒッキーごめんねー! もっとあたしがかしこかったらその言葉の意味を理解してあげられたのにー!!

 あ、でもだからと言って音信不通ってわけでもなかったよ。一日に一回くらいあいさつくらいは交してた。

 でもそれも四年に上がるくらいまでだったかなー。その頃くらいからヒッキー、スクール来るの遅くなったし、帰るのは早いし。

 声をかけるタイミングなんてほとんどくれなかったんだよ。

 そんなこんなでいつの間にか五年になってて。でも、あたしが何も知らなかっただけなんだよね。ヒッキーはもう立派なポケモントレーナーになってたの。

 あれはほんとたまたま。帰り道、久しぶりに一人になった時に野生のポケモンに襲われたの。どんなポケモンだったかな………。今じゃ思い出せないや。

 で、それを助けてくれたのがヒッキーだったの。

 ただね、悲しいことにあたしの顔、忘れちゃってるんだよ? そもそも名前も知らないみたいだったし。………まあ、あたし自己紹介した記憶ないんだけどね。で、でもだよ! 五年も同じ教室にいるんだよ? 普通覚えてると思うじゃん!

 それからもまた話すタイミングがなくて。

 あれは確かヒッキーが卒業するって話になる一ヶ月くらい前かなー。

 ポケモンの触れ合いイベントがあって、そこに家族でいったんだー。そしたらね、ヒッキーもいたの。妹ーーコマチちゃんらしき子がニャオニクスをねだっててさー。あれが今のカマクラなんだろうね。

 で、なんと!

 あたしはあたしでサブレに会ったのである!

 ポチエナの頃のサブレがかわいくてさー、あ、今のグラエナのサブレもかっこいいよ!

 でもサブレが新しく家族になったからといって、あたしはポケモントレーナーになったわけじゃない。バトルなんてさせたことないし、第一まだお世話くらいしかできなかったから。一応ママがトレーナーのポケモンだし。

 でもあれだね。どうしてあたしよりヒッキーに懐いてるんだろうね。ずっとお世話してたのに、ひょっこり出てきたヒッキーにあっさりその椅子をとられるってなんかフクザツ………。助けてもらったから何も言えないんだけど。

 助けてもらったで言えば、ヒッキーの卒業試験。

 あの時はほんとにあたし邪魔ばかりしてたかも………。

 で、でもさ、やっぱ心配じゃん?

 一週間くらい前にはゆきのんのオーダイルに二度も切られてるんだしさー、ゲンガーが教室に来た時は身体が勝手に動いちゃったよ。

 けど、そんなお邪魔虫なあたしを律儀に助けてくれちゃうあたり、ヒッキーらしい。普段減らず口ばっかり叩くくせに、ああいうピンチの時は絶対に助けてくれる。

 あたしにとってヒッキーはヒーローだ!

 本人が聞いたら、「いや、ないから」って言いそうだね。でもさー、バトルしてる時のヒッキーはかっこいいんだよ?

 

「ユイせんぱーい。帰って来てくださーい」

「おーい、ユイさーん」

 

 わはー、思い出したらヨダレたれてきちゃった。

 やっぱりヒッキーはやるきを出すと目がキリッとなるんだよなー。あーもー、かっこいいなー、このこのっ!

 

「あ、お兄ちゃん」

「えっ? ヒッキーッ?! どこどこ?!」

「あ、帰ってきた」

「ユイせんぱーい、ハチマンくんならいませんよー」

「えっ? 嘘なの? そんなー………」

 

 なーんだ、嘘だったのかー。ヒッキーのこと考えてたら会いたくなっちゃったよ……………。ヒッキー元気かなー。一昨日見送られたのが最後だもんなー。会いたいなー。

 ん?

 ハチマンくん?

 

「ねえ、イロハちゃん?」

「はい?」

「ハチマンくんってなに?」

「やだなー、先輩のことじゃないですかー。私もいつまでも先輩呼ばわりじゃただの後輩でしかありませんからねー。帰った時に度肝を抜いてやるつもりです」

 

 今はその練習〜、とイロハちゃんが何か言っている。

 えっ? あ、なんか新鮮すぎて頭が追いつかないや。

 なんだろう、あたしも名前で呼んだ方がいいのかな………。

 

「いいじゃないですかー。ユイさんもユキノさんもハルノさんも名前呼びですし、イロハさんもそのままゴーですよっ」

「やっぱり〜? いやー、後輩キャラってのも私の特権みたいなものだけどさー、やっぱり不意をついて名前で呼んだらどんな反応するのかなーって思ったわけよ」

「あのお兄ちゃんですからねー。そりゃ楽しい反応をしてくれちゃうと思いますよ」

 

 ヒッキー、ハッチー………うーん、結構特別な呼び方なんだけどなー。

 名前で呼ぶとしたら………ハチマン? うーん、ゆきのんたちとかぶるなー。ハチマンくん………はイロハちゃんが仕掛けるみたいだし………。

 ハチくん?

 うん、あたしじゃないな。あたしのキャラじゃない。

 やっぱりヒッキーとハッチーでいいや。

 

「そういえば、三人ともリーグ戦のルール知ってるの?」

「ルール?」

「まず今の手持ちじゃ参加できないわね。六対六のフルバトルだもの」

「うぇっ!? マジですか………?」

「マジよ、大マジ」

 

 そっか、みんなあと一体捕まえないと参加できないんだね。というか参加資格ってあったんだ………。あ、だからヒッキーがジムバッジをうんぬんかんぬん言ってたのかなー。

 うーん、リオル、もといシュウは予定外だったからなー。何気に強かったから驚いたけど。というか今もスカート引っ張ってきてるのはなんなのかなー。

 あ、ちょ、ほんとにやめてよー。

 

「そのリオル、ユイちゃんにベッタリだね」

「これはベッタリとかのレベルじゃないですよっ!」

「確実にオスですね」

「だね」

 

 うわーん、誰か止めてーっ!

 

「さて、ユイちゃん。バトルしよっか」

「その前にシュウを取ってー!」

 

 ヒッキー、ゆきのん。

 あたし、絶対強くなるからね。もっと強くなって、その時は二人を守って見せるんだから!

 それとヒッキー! このお団子はヒッキーがほめてくれたからしてるんだからね! いつかちゃんと気づいてよ!

 

 

 あ、スカートがっ!?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ハヤマ君たちと同じ飛行機で帰った僕は早速、フスベジムに向かった。

 なんかハチマンがね、『トキワジムは鬼畜なジムリーダーだからフスベジムを先に攻略した方がいい』って言ってたの。そんなにトキワジムって鬼畜なのかな。そりゃ強かったし、コテンパンされちゃった経験あるけど………。

 あ、そうそう。帰ってきてからまだ四日しか経ってないけど、実は新しい仲間が増えたんだー。その名もマンムー! フスベシティの北にある洞窟で捕まえたの。手持ちいっぱいになっちゃったからハピナスは家でお留守番。ごめんね、ハピナス。帰ったらいっぱいいっぱいバトルのお話しするからね。

 これなら絶対勝てるよね。だって、相手はドラゴンタイプだもん。ニョロボンもハチマンに鍛えてもらったし、絶対勝ってみせるよ!

 

「それでは、これよりジム戦を始めたいと思います! 使用ポケモンは四体。技の使用は四つまでとします! 交代は挑戦者のみ自由とします!」

 

 四対四のバトルか……。

 前に戦った時は三対三だった気がするなー。一体増やしたのかなー。

 

「準備はよろしいですか?」

「はい!」

「いつでもいいわよ」

「では、バトル始め!」

「いきなさい、ギャラドス!」

 

 最初はギャラドスか。

 あっちでミウラさんのギャラドスを見て勉強してきたんだ。大丈夫、いける。

 

「いくよ、トゲキッス!」

 

 特性の威嚇をしてくるけど、トゲキッスは打撃系の攻撃はあまり覚えていない。今回使おうと思っているのも遠距離系。まずはギャラドスの特性を無効にすることに成功だ。

 

「ギャラドス、ハイドロポンプ!」

「トゲキッス、でんげきはで電気分解!」

「キィッス!」

 

 トゲキッスが身体から放電させ、迫りくる水砲を気体へ分解していく。ハチマンもよくやってた戦法。

 

「ギャラドス!」

「ッ!? トゲキッス、躱して!」

 

 うそ、あれでもまだ全力じゃないんだ。水圧を上げてきたよ………。

 そう、だよね。ハチマンも言ってたじゃん。最初から自分の手札をすべて晒すのはバカがやることだって。

 

「ちょっと掠っちゃったか………。トゲキッス、でんじは!」

 

 右の翼に攻撃を受けてしまったが、トゲキッスの羽毛が抑えてくれたみたいだ。

 体勢を立て直したトゲキッスがでんじはを送り、ギャラドスを痺れさせた。

 

「あなた、以前ジム戦しにきたのよね。これは対策を立ててきたと見ていいのかしら?」

「対策、というほどのものじゃないですよ。ここに帰ってくるまでにいろんな人たちと再会したんです。その中には僕のあこがれの人もいて、その人の背中から学んだだけです」

「そう、その人いいトレーナーなのね」

「はい」

「それじゃ、わたしも全力を出さないと。ギャラドス、りゅうのまい!」

 

 気合を入れなおしたイブキさんが、ギャラドスに竜の気をまとわせた。

 ハチマンたちもよく使ってた技だ。

 

「トゲキッス、マジカルシャイン!」

 

 一瞬でも目くらましになればいい。

 麻痺は急激な動作の転換ではよく発動するらしい。

 

「たきのぼり!」

「でんげきは!」

 

 竜の気を帯びた水をまとい、突っ込んでくるギャラドス。

 だが、その攻撃は失敗に終わり、電撃がギャラドスを襲った。

 よし! 効果抜群!

 

「麻痺……ッ!?」

 

 痺れで動きの止まるギャラドス。

 

「トゲキッス、もう一度マジカルシャイン!」

 

 再び身体から光を迸らせ、体勢を立て直そうとするギャラドスの視界をさえぎった。

 

「くっ、はかいこうせん!」

 

 やっぱジムリーダーのポケモンってすごいね。目をつぶっていても正確に狙ってくるんだもん。

 

「躱してでんげきは!」

 

 でも、今の僕たちならやれる!

 

「ギャラドス?!」

「ギャラドス、戦闘不能!」

「やった!」

 

 トゲキッスははかいこうせんを躱せるようになったもん。あれだけのことがあればちょっとやそっとじゃ驚かないもんね。

 

「戻って、ギャラドス」

 

 判定を下されたギャラドスをイブキさんはボールに戻した。

 

「強いわね。一戦目から悔しいわ」

「いえ、僕はまだまだです。上には上がたくさんいますよ」

「兄者より強い人がいるとは思えないけれど………」

「兄者、が誰のことか分かりませんけど、ハチマンは誰にも負けないくらい強いですよ」

「……ハチマン!?」

「僕のあこがれの人です。……知ってるん、ですか?」

「………そう、あの、あいつの知り合いというわけね。人を散々小ばかにしたようなバトルばかりして! 挙句最後にはーー」

 

 一体ハチマンはこの人に何をしたんだろう。

 というかいつここに来たんだろう。もしかして卒業していった後なのかな。

 すごいなー、ハチマンは。僕らが卒業して旅に出るころにはもう頂に立ってたっていうんだもんね。そりゃ、有名人にもなるよね。

 

「……まあ、いいわ。あなたがどういう人かはさておき、あいつの知り合いというのであれば本気の本気で行かせてもらうわ」

 

 あれー、なんかそれってとばっちりなような気がするよー。ハチマーン、助けて―。

 

「ハクリュー!」

 

 イブキさんの二体目はハクリューか。これもミウラさんが連れてたっけ。あの長い体を使った攻撃には注意が必要なんだよね。

 

「トゲキッス、あんまり近寄らないでね」

「キッス」

「ハクリュー、アクアテール!」

 

 こっちが近づかないと知ればあっちから動いてきた。

 尻尾に水のベールをまとい、長い体をうねらせてくる。

 

「マジカルシャイン!」

 

 光を迸らせ、再度目くらまし。

 それでも今度は尻尾を振り下ろしてきた。

 

「トゲキッス!」

「ハクリュー、でんじは!」

 

 お返し言わんばかりにトゲキッスが痺らさせられてしまった。どうしよう………あっ!

 

「トゲキッス、戻って。ゆっくり休んでてね」

 

 一度トゲキッスをボールへと戻した。そして、新しいスーパーボールを取り出す。

 

「お願い、マンムー!」

 

 そう、マンムー。まさかこんなにも早く出番が来るとは思わなかった。だけど、一番タイプの相性がいい。

 

「でんじはを使わせないつもりね。いいわ、ハクリュー。りゅうのいぶき!」

「マンムー、こおりのつぶて!」

 

 地面を蹴り上げ衝撃を生み出し、一気に空気を凍らせると、牙で飛礫を送り込んだ。ハクリューの技が出る前に当たり、効果抜群の技の影響からか、攻撃は失敗に終わっていた。

 

「とっしん!」

「ムゥーッ!」

 

 ドッシドッシかけていくマンムー。大型のポケモンを使うのは初めてだけど、絶対使いこなして見せる!

 ………ハチマンだったら、どんなバトルをするのかなー。

 

「ハクリュー、躱してアクアテール!」

 

 うねうねと身をよじってマンムーの突進を躱すと、ハクリューは再び尻尾に水のベールを巻いた。

 遠心力を使って振り下ろされた尻尾がマンムーの頭に直撃する。

 

「ムゥーッ?!」

「マンムー!?」

「そのまま巻き付いてげきりん!」

「ッ、のしかかり!」

 

 マンムーの身体に巻き付いてきたハクリューを地面に転がり込んで、押しつぶしていく。ハクリューは押しつぶされながらも竜の気を暴れさせているのだからすごい。

 たぶん、このままだどマンムーの方が押し切られそう。何かもう一攻撃いれないと………。

 こういう時、ハチマンだったらーーー。

 

「つららおとし!」

 

 ハクリューを背中でゴリゴリ押しつぶしているマンムーが、一本の氷柱を打ち上げた。打ちあがった氷柱は引き寄せられるように落ちてくる。

 

「………今だよマンムー!」

「なっ?!」

 

 ギリギリまで氷柱を引き寄せ、マンムーが重たい体を転がしてハクリューの上から逃げると、一瞬重さから開放されて飛び上がったハクリューに氷柱が突き刺さった。

 

「ハクリュー!?」

 

 でも、まだ戦える余力が残っているみたい。

 すっごくしぶといなぁ。

 

「勝ちなさい!」

「マンムー、こおりのつぶて!」

 

 ハクリューが最後の一撃に出た。だけど、早いのはこっちだよ。

 突っ込んでくるハクリューに対して、地面を蹴り上げ、一瞬で空気を凍らせ、牙で飛礫を撃ち込んだ。

 

「ハクリュー、戦闘不能!」

 

 防御なんてものを無視して突っ込んできたため、全部当たっちゃった。

 当然ハクリューは戦闘不能。

 

「よし、これで二勝!」

「くっ、あの避け方、あいつを思い出すわ」

 

 あいつってのはハチマンのことかな。

 一体ハチマンはどんなバトルをしたんだろう。今度聞いてみよう………記憶ないんだった…………。

 全く気にする素振りを見せないもんだから、すぐ忘れちゃうよ。

 ばかばか、もう僕のばか。ハチマンが記憶を代価にしてまでみんなを守ってくれたのに、そんな大事なこと忘れちゃうなんて。こんなんじゃ、友達失格だよ。

 

「マンムー、お疲れ様。ゆっくり休んでてね」

「あら、マンムーの出番はおしまいなの?」

「無理はさせたくないので」

「それが仇にならないといいわね。クリムガン!」

「大丈夫ですよ。いくよ、ニョロボン!」

 

 イブキさんの三体目はクリムガン。…………あれってもしかして色違いなのかな。クリムガンって青かったような気がするんだけどなー。

 

「クリムガン、りゅうのいかり!」

 

 口を大きく開いて咆哮。

 それと同時に竜の気を帯びた衝撃波が流れてくる。

 すごい咆哮だ。こんなの初めてかもしれない。

 

「こっちも負けてられない。ニョロボン、れいとうパンチ!」

 

 ダダッと駆け出したニョロボンが拳に氷をまとわせて、腕に大きく勢いをつけていく。

 

「きりさく!」

 

 寸でのところで拳と爪が交差した。ギチギチと嫌な音が軋めいている。

 

「グロウパンチ!」

 

 空いている左拳で勢いよくクリムガンのお腹を殴りつけた。

 あ、なんかニョロボンが拳を痛めたみたいだ。どういうこと………?

 

「ドラゴンテール!」

「ニョロボン、躱して!」

 

 拳が痛むことですぐに危機を感じたのか、命令と同時にニョロボンは動いてくれた。危うく追撃されるところだったよ。

 さて、今のはどういうことなんだろう。クリムガンを攻撃したら、逆にニョロボンにダメージが入った。かと言ってクリムガンにダメージが入っていないわけではない。だからカウンターとはまた違うのだろう。

 あーん〜〜、ハチマンだったら、すぐにピンと来てるだろうに。

 ………ダメだ、こんな時までハチマンに頼ってちゃ一人前のトレーナーになんかなれやしない。

 捻り出せ、僕がこれまで培ってきた引き出しを全部開くんだ。

 

「ニョロボン、さいみんじゅつ!」

 

 ニョロボンがお腹の渦を見せてクリムガンの目を回した。ふらふらとした足取りで地面に倒れると、クリムガンはそのまま気持ちよさそうに眠り始める。

 しばらく寝ててね。

 よし、その間に考えてしまおう。

 まずは持ち物。何も持ってない、と。

 次、特性。クリムガンの特性は………なんだったっけ………?

 ………………………でもごつごつした体付き………あっ、さめはだだ!

 そっか、だからニョロボンが痛がってたんだ!

 

「だったら直接触らなければいいんだよね。ニョロボン、拳に氷を集めて!」

 

 まずはれいとうパンチを昇華させないとね。ハチマンに教えてもらったこの技を直接触れない形に………。

 

「クリムガン、起きなさい! 寝ている暇なんてないのよ!」

 

 眠ったクリムガンを起こしにかかるイブキさん。

 もうちょっとだけ寝ててほしいなー。

 

「その調子だよ、ニョロボン」

 

 ハチマンはバトル中に新しく技を覚えさせたって、ユキノシタさんやユイガハマさんが言っていた。彼女たちが知っているということはスクールの時の話のはず。つまり、ハチマンはあの頃からすごかったってことだ。しかも初めて覚えてるタイプの技を覚えさせた。

 僕にはそんな真似はできない。できないけど、やってみたいとは思った。大技じゃなくていい。新しいタイプじゃなくていい。今ある技を使ってそれっぽい技ができれば充分だ。

 

「ニョロボン、その氷の弾から手を引っこ抜いて!」

 

 集まった氷は次第に拳に覆うように球体になっていく。そこから一気に拳を引っこ抜き、氷の弾を完成させた。

 ハチマンの妹ーーコマチちゃんならこの技の名前を何て呼ぶんだろうか。僕が意識したのはアイスボールだから………、ほんとのアイスボール、かな。ふふっ、コマチちゃんもみるみる強くなってるからなー。さすがハチマンの妹って感じだよ。

 あ、ちなみにアイスボールは自分が氷を纏って転がっていく技なんだけど、それじゃ直接触れることになるからね。どこかでニョロトノが氷の弾を投げていたし、こんな形でもいいと思うんだー。

 

「せーの!」

 

 思いっきり氷の弾をクリムガンに投げつけた。

 

「クリムガン、ドラゴンテール!」

「あっ」

 

 でも先にクリムガンが起きてしまっていた。竜の気を帯びた尻尾で氷の弾を弾き返してくる。

 

「きりさく!」

「れいとうパンチで受け止めて!」

 

 やっぱり強い。ジムリーダー、それも最後の砦とされているジムリーダーなんだ。これくらいじゃ倒れるわけないか。

 

「ニョロボン、アイスボール!」

 

 爪を拳で受け止めていたニョロボンに次の命令を出した。

 拳の氷はみるみる膨れ上がり、クリムガンの爪をも凍らせている。

 

「クリムガン、ドラゴンテール!」

 

 氷の弾を作っていると、クリムガンが尻尾でニョロボンを叩きつけてきた。

 

「ニョロボン?!」

 

 怯んだところに腕を振り回されて、そのまま僕の元へと戻って来るニョロボン。

 ドラゴンテールの効果と思いたいところだけど………。

 

「キッス?」

「トゲキッス! よかった………」

 

 クロバットかホルビーが出てきたらミミロップが出せなくなるところだったよ。

 危なかったー。

 

「ごめんねトゲキッス。もう少しだけ頑張って!」

「キッス」

 

 休んでいたとはいえ、痺れの効果がなくなったわけではない。

 今でも耐えているはずだ。

 

「トゲキッス、マジカルシャイン!」

 

 体内から光を迸らせて、クリムガンの視界を奪う。

 

「クリムガン、きりさく!」

 

 だけど、そんなの関係ないと言わんばかりに差し迫ってくる。

 

「はどうだん!」

 

 光が効かないなら波導の塊をぶつけることにした。でもすぐに真っ二つ人されてしまう。

 

「躱して!」

 

 間違えてここで攻撃しようものなら確実に爪が入っていた。

 まったく、しぶとい相手だね………。

 

「トゲキッス、もう一度はどうだん!」

「キィッス!?」

 

 うっ………、やっぱり痺れが………。

 

「クリムガン、連続できりさく!」

 

 痺れで動きが一瞬止まったところを逃がしてくれるほど相手は甘くはなかった。

 瞬時に見抜き、ここぞとばかりに連続で攻撃を続けてくる。

 トゲキッスの方は痺れで思うような動きがとれず、躱すこともできないでいた。

 

「くっ………どうしたら………」

 

 戻す………?

 戻しても、次誰を出せば………。

 やっぱりもうミミロップを出すしかないのだろうか。メガシンカを使わないと勝てない相手なのだろうか………。

 

「キゥ………」

「ううん、迷ってる暇はない。トゲキッス! 戻って!」

 

 メガシンカをしてこない相手にメガシンカを使うということは対等では戦えない?

 そんなプライド、トゲキッスが痛めつけられているのを前にそんなこと言ってられないよ!

 

「ミミロップ!」

「ミィ!」

 

 僕の最後の切り札。

 相手が切り札を出してきていないけど、これは出し惜しみをしている暇はない。

 トゲキッスもマンムーもニョロボンも頑張ってくれたんだ。それに応えなきゃ。

 

「いくよ、ミミロップ。メガシンカ!」

 

 リストバンドに付けたキーストーンがミミロップのペンダントと共鳴し始める。光と光が絡み合い、次第にそれはミミロップへと集まり彼女の姿を変化させていく。

 

「メガ、シンカ………?」

 

 あれ……?

 メガシンカってこっちじゃ有名じゃないのかな………。

 でもメガシンカという現象自体は知ってるよね?

 

「これが、そう………なのね………」

 

 どうやら初めて見るみたいだね。

 そっか、それは確かにこんな反応になるはずだよ。僕も初めて見たときはそりゃもう驚いたもん。

 

「ミミロップ、シャドーボール!」

「ミィッ!」

 

 藍色の塊をクリムガンへと投げつけた。

 クリムガン自身、ミミロップのメガシンカに戸惑っていたのか、イブキさん同様反応が遅れていた。

 

「はっ、クリムガン、げきりん!」

「グロウパンチ!」

 

 一瞬で懐に潜ると耳を使ったダブルパンチが炸裂した。

 吹っ飛んでいったクリムガンはまるで動かない。

 

「クリムガン、戦闘不能!」

「………これが、メガシンカの力………。なんてパワーなの………」

 

 意識を失ったクリムガンをボールに戻しながら、今なお驚いているイブキさん。

 やっぱりすごいものなんだね。メガシンカって。

 あっちではハチマンたちが強かったから、例えメガシンカが使えたとしてもそこからがスタートラインだったからちょっと麻痺してるかも………。

 

「キングドラ!」

 

 とうとうイブキさんの切り札が出てきた。以前バトルしたときはこのキングドラに全員倒された苦い経験がある。それをミミロップも思い出したのか、構えを低くしていつでも攻撃をいなせるように態勢を戦闘モードへと移行した。

 

「ミミロップ、くるよ!」

「こうそくいどう!」

 

 は、早い………。

 僕の目はもうキングドラを捉えきれていない。ミミロップの方はどうなんだろう。

 

「ミミロップ、こっちもこうそくいどうだよ!」

「ミミッ!」

 

 僕は追いつけなくてもいい。ミミロップ、頑張って!

 

「りゅうのいぶき!」

「躱して!」

 

 さすがドラゴンタイプ専門のジムリーダー。素早い動きの中でも正確に狙ってくる。

 それを何とかミミロップが躱しているみたいだけど、僕も何か指示を出さなければミミロップがやられるのも時間の問題だ。

 

「………ミミロップ、地面にグロウパンチ!」

 

 どうせあの動きの中では直接触ることができない。

 だったら、障害物を作るのも手だと思う。実施にハチマンたちもよくやっていた。何も攻撃することだけが攻撃じゃない、といわんばかりに。

 

「ハイドロポンプで薙ぎ払え!」

 

 地面に衝撃を与えてクレーターを作り、一瞬だけ破片を浮上させる。

 それをすぐにかき消そうとキングドラが動き出した。

 意識は、破片に向けられている。

 

「シャドーボール!」

 

 細長い口から水砲撃が飛び出す前に目の前の破片の隙間でシャドーボールを破裂させた。衝撃で破片は散り散りになりキングドラに襲い掛かる。当然、無作為に飛んでくるためミミロップも襲われている。

 

「ミミロップ、こうそくいどう!」

 

 今度はこっちから仕掛けることにする。素早い動きで水砲撃を躱し、キングドラの懐へと潜り込んだ。

 

「げきりん!」

「スカイアッパー!」

 

 こうそくいどうで躱してくるものだとばかり踏んでいた。

 だけど、竜の気を暴走させるげきりんで自らを守りながら攻撃に転じてきた。

 さすがだよ。やっぱりこの人は強い。

 ミミロップの掬い上げた拳がキングドラの顎にヒットしたが、尻尾で蹴り上げられてしまい、もう一発打たれて吹き飛ばされてきた。これでこちらにも相当のダメージが入ったのは間違いない。

 

「ミミロップ!」

 

 お互いに一度距離を取り、態勢を立て直す。

 

「キングドラ! いきなさい!」

 

 キングドラはまだ竜の気を暴走させている。

 どうする…………?

 このまま真っ向から立ち向かうか………ハチマンだったら間違いなく搦め手を入れて回避するはず…………。だけどユキノシタさんだったら「真っ向から叩き潰してこそ勝利というものよ」なんて言いそうだなー…………。

 

「うん、でもここは勝ちに行くよ。ミミロップ! こうそくいどう!」

 

 まずは高速で移動してキングドラの目を撹乱。

 

「グロウパンチ!」

 

 そして、四方から連続で拳を叩き込む。

 キングドラは強い。あのまま真っ向からいっても、よくて相打ちくらいだ。下手したら疲弊した他のみんなを出さなければならなくなる。それはかわいそう、というか僕が見ていられない。だから、最小限のダメージで勝つ。

 

「キングドラ、もう一度!」

 

 キングドラは反転して、背後を取ったミミロップに突っ込んでくる。

 よし、今度こそいける。

 伊達にグロウパンチを使ってないんだ。今の攻撃力ならいけるはず。

 

「ミミロップ、スカイアッパー!」

 

 一瞬身体をさげて、キングドラの懐へと再度潜り込む。

 そして右拳を掬い上げ、キングドラを真上へ突き上げた。

 

「キングドラ!?」

 

 キングドラは天井にぶつかるとしゅーっと何の反応もないまま落ちてきて、地面にまで身体を叩きつけた。

 

「キングドラ………戦闘不能! よってこの勝負、挑戦者の勝ちとします!」

「やった! 勝った! 勝ったよ、ミミロップ!」

「ミミィ!」

 

 やった、これでジョウト地方のバッチがそろった………。後はカントーに戻ってトキワジムを攻略するだけだ。

 それもこれも全部ハチマンたちと……僕に力を貸してくれたミミロップたちのおかげだよ。みんなありがとう。

 

「くっ………、ほほほほらっ! ありがたく受け取りなさい! こここ今回ばかりはわたしの負けを認めてあげなくもないわ! でもだからと言って今度はそう上手くいくと思わないことね! 今度は負けないんだから!」

 

 あ、はい………。

 捲し立てられながらも差し出してきたバッジを受け取った。

 ジョウト地方のバッジケースに入れて並べてみる。

 うん、壮観だなー。すごく気持ち良い。

 

「ありがとう、ございます………」

 

 この人あれだよね。なんというかサガミさん、みたいな人だよね。

 確かハチマンの前じゃこんな態度だったし。でも別に怒ってるわけじゃないんだもんね。

 

「えと、その……勝った僕から言われるのは嫌かもしれませんが、イブキさんは強いですよ。以前負けているのが何よりも証拠です。先回も今回も良い勉強になりました。ありがとうございます」

「うっ…………、次いっても頑張りなさいよ…………」

「はいっ」

 

 うん、やっぱりいい人だ。

 それからイブキさんに見送られてフスベシティを後にして、トゲキッスに乗ってクチバシティに帰ることにした。

 

 

 あ、帰ったらハチマンに結果報告しよーっと。ふふっ。

 




行間

トツカサイカ 持ち物:キーストーン etc………
・ニョロボン ♂
 覚えてる技:ハイドロポンプ、グロウパンチ、どくづき、さいみんじゅつ、れいとうパンチ、カウンター、アイスボール

・トゲキッス(トゲチック→トゲキッス) ♀
 覚えてる技:マジカルシャイン、つばめがえし、てんしのキッス、ゆびをふる、はどうだん、サイコショック、はがねのつばさ、でんげきは、ソーラービーム、やきつくす、でんじは、にほんばれ、ひかりのかべ、あさのひざし

・クロバット ♂
 覚えてる技:クロスポイズン、ねっぷう、エアカッター、アクロバット、ギガドレイン、しねんのずつき、はがねのつばさ、ブレイブバード、わるだくみ、あやしいひかり

・ミミロップ ♀
 持ち物:ミミロップナイト
 特性:じゅうなん←→きもったま
 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん

・ホルビー ♂
 覚えてる技:マッドショット、あなをほる、ワイルドボルト、でんこうせっか、とびはねる、こうそくいどう、かげぶんしん

・マンムー ♂
 覚えてる技:こおりのつぶて、とっしん、のしかかり、つららおとし

控え
・ハピナス ♀
 覚えてる技:タマゴうみ、ちいさくなる、いやしのはどう


イブキ
・キングドラ ♀
 覚えてる技:りゅうのいぶき、ハイドロポンプ、げきりん、こうそくいどう

・ギャラドス ♀
 特性:いかく
 覚えてる技:ハイドロポンプ、たきのぼり、はかいこうせん、りゅうのまい

・ハクリュー ♀
 覚えてる技:アクアテール、りゅうのいぶき、げきりん、でんじは

・クリムガン(色違い) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:りゅうのいかり、きりさく、ドラゴンテール、げきりん


今作品では公式バトルの描写が前作よりも増えることでしょう。
というわけで、主にバトル展開しかない話の後書きには行間をつけていきます(最後にもいつものようにまとめて載せますので悪しからず)。


思った以上に天使のリベンチマッチが長くなってしまいました………。
まあ、次回もこんな割合なんですけどね。バトルじゃないけど。

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