カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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大会二日目でバトル祭りの再開、と思ったらほぼバトルがなくなっちゃいました。


15話

 はあ…………。

 なんでこんな朝早くに目が覚めてしまうんだ………。

 まだ五時前だぞ。もう少し寝かせろよ。

 って、まあ昨夜を思い出せばそれも無理な話か。

 ハルノさんが元ロケット団で俺は人体実験の被験者。さらにそのロケット団のボス様がカロスに来ていらっしゃる。前半だけでも調べる必要があるというのに、現在進行形で問題を起こしそうな奴がそこにいる。落ち着いて寝てもいられないわな。

 

「はあ………」

 

 仕方ないので外の空気を吸いに行くことにした。

 しばらくゲッコウガもいない。代わりに残されたヤドキングも姿がない。どこかにいるのだろうが、まあ放っておこう。

 リーグ戦二日目の今日は俺の出番はない。色々調べたいことだらけだが、何かあった時のために会場にいなければならないしな。責任者というのも面倒な仕事である。

 

「フシギソウ、はっぱカッター!」

 

 ん? この声………。

 

「続けてつるのムチ!」

 

 庭の方で。

 変態博士がガブリアス相手にバトルをしていた。

 バトルといってもただ技を受け止めてもらっているだけ。まだまだバトルとは言い難い戦いである。

 

「お粗末だな。あんたも一度はトレーナーを目指した端くれだろ?」

「おや、ハチマン君。いやー恥ずかしいところを見られたね」

 

 声をかけるとようやく気づいたようで、照れ臭そうに頬を掻いた。

 俺はなぜか寄ってきたフシギソウの頭を屈んで撫でてやる。

 

「ポケモンバトルはただ技を出せばいいわけじゃない。ポケモンの特性、特徴、攻撃技を出すのか状態異常にさせる技を出すのか、何なら技を出すタイミングからそれまでの駆け引き、果てには技そのものを根本から理解しないといいバトルはできないもんなんだ。あんたの場合、研究者としてポケモンについての知識は豊富に培ってるだろう。だが、経験が足りない」

「そうだね、それは僕も痛感しているよ。早々に諦めた身だからね。仕方ないことさ」

「そんな諦めた身の奴が何でまた………」

「一つは君だよ。いや、君たちか。僕も研究という面からポケモン達と向き合うだけじゃなくて、トレーナーとしてポケモンを育ててみたいと思ったんだ。見ているだけじゃ分からないこともあるんだって教えられたからね」

 

 ま、確かに育ててみないと分からないこともあるわな。ゲッコウガのあの現象だってトレーナーがいなかったら成り立たなかったんだし。

 

「一つ、ということはまだあるのかよ」

「………前にも言ったようにフレア団の件で僕も戦える力があればと思ったんだ。エックスたちにはポケモンを渡してそのまま戦火へ放り出したようなものだからね。僕がトレーナーとしてもあればもう少しあの子達の負担を軽くできたと思うんだよ」

「そりゃねぇな。いくらあんたがトレーナーとしてあろうが、あんたはフラダリがフレア団ボスだということを一度は否定したんだ。その時点であんたは戦力外だ。誰も頼ろうとはしない」

 

 トレーナーであろうがなかろうが。

 あの時、あの時点で立場は二極化したのだ。

 もれなく戦力外通達された奴がトレーナーだったら、なんて言ったところで結果は変わらない。

 

「………そう、だね………」

「だが、あんたはトレーナーでもあるべきだとは思うぞ?」

 

 だが、博士がトレーナーとしてあるべきかどうかはまた別の話である。

 

「励ましてくれるのかい?」

「いや、それはない」

 

 あんたを励ますとかないな。絶対にない。

 

「ないんだ………。はっきり言うね………」

「視点がずれてるんだよ。あんたがトレーナーとしての力をつけたところで、例えば俺たちが相手をしている奴らを倒せると思うか?」

「………無理だろうね」

「だろ? だったら、せめて俺たちが手を回さなくてもいいように自分の身は自分で守れるようにしとけばいいんじゃねぇの」

「自分の身は自分で守る、か………」

「名の知れた研究者の研究資料が狙われるのはよくあることだ。あんたはその確率が高い」

 

 オーキドのじーさんも狙われた過去がある。あの人はトレーナーとしても優秀だが、老いには成す術もなくあっという間捕まったらしい。

 ま、そんな感じで研究者が狙われることだってあるんだ。トレーナーとしての腕も磨いて自分の身は自分で守ってもらわないと困る。ぜひ面倒事を増やさないようにしてもらいたいものだ。

 

「確かに君の言う通りだ。僕が今更トレーナーとして磨き上げたとして君たちには敵わない。助けるなんて痴がましいくらいだ。けど、どうだい? 僕のバトルはお粗末なのだろう? 自分の身も自分で守れない気がしてきたよ」

「んじゃ、等価交換と行こうか」

 

 まったく、そうやって俺に言わそうとするなよ。

 

「おや、僕にポケモンバトルを教えてくれるのかい?」

「そう言わせようとしてたのはどっちだよ」

「あはは、それで何が望みだい?」

「あんたの記憶」

「えー、まさかダークライに記憶を差し出せってのかい? それは勘弁してほしいな」

 

 食う記憶は基本的に俺のだっつの。後は敵さんとか。

 誰から食うわけじゃないみたいだぞ。

 夢にして食う記憶にも美味い不味いがあるのかもしれない。

 ………うん、俺の記憶ってのはそんなに美味いのかよ。というかあいつの好みに適しているって表現の方がいいよな。

 

「そうじゃねぇよ。あんたは以前、俺と会ってるんだろ? その時のことを詳しく教えろ」

 

 ダークライは今回お預けだ。

 俺に要望はこの耳で実際に当時の話を聞くことだ。

 レッドプランやそこに繋がるヒントが絶対その時期にあるはずだ。

 なんせ俺の記憶はカントーを旅した時とシャドーを脱出した後からが全く戻っていない。カロスに来て少しずつ戻り始めていたこともあるが、その二つの時期だけは一度も戻っていないのだ。まあ、全部またパーになって一から戻ってきているわけだけど。それでも一度も記憶が戻らないということはそこに何か重大なことがあったということだろう。要するに俺の本能が当時を思い出したくないと拒否している証拠だ。だから聞くしかない。

 

「おや、まさか君が過去を気にするとは」

「今回は記憶の中にヒントがあるように思うからな」

「つくづく君はトラブルに愛されているね」

「嬉しくねぇよ。愛はあいつらのだけで十分だ」

「おっと、まさかここで惚けられるとは。困ったね、僕には返す言葉が見つからないよ」

「十二分にパンチを出してきてると思うんだが?」

 

 俺としたことが。

 なにさらっと恥ずかしい台詞言ってんだよ。最近の俺はどうもおかしい。リア獣発言がさらっと出てきてしまう。言った後で内心恥ずかしくなっているのは内緒な。絶対に誰にも言えん。

 

「何のことだい? 僕には分からないな」

「だったらそのニヨニヨした顔やめろよ。気持ち悪い」

「いいよ。前回は何も出来なかったからね。今回は僕を好きなだけ使うといいさ」

「そうかい。だったらバトルしながらでもどうだ?」

「だったらフィールドの方へいくとしよう。その方が気兼ねなくできるんじゃない?」

 

 仕方がないので、バトルをしにムカつく笑顔について行った。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「さて、僕はフシギソウをどう育てたらいいのかな?」

「んじゃ、まずはフシギソウが、あるいは進化したフシギバナがどんなポケモンか全部思い出せ」

「いきなりハードなことを要求するね。えーっと、フシギソウ、というかフシギダネからフシギバナにかけて一貫して言えることだけど、成長とともに背中の種が蕾に、蕾が花に成長していく。その変化に合わせて進化も行われていくっていう実に生物的なポケモンだね」

「へー、それは初耳だわ。まあ、流れからして進化に関係してるんだとは思ってたけど。で、他には?」

 

 実際、確かめたことはなかったからな。フシギダネ系統を連れているやつなんて俺の知っている限り、レッドとメグリ先輩だけだし。今近くにいるメグリ先輩に聞けばよかったんだろうけど、忙しくてそれどころじゃなかった。というかそんなことを考えたこともなかったから、今思い出したって感じである。

 全く、記憶ってのはあっても思い出せないんじゃ役に立たないんだよな。ないのと同じようなものだし。けど、それでもないよりはマシ。きっかけがあれば思い出すこともできるのだから。ない記憶はいくら思い出そうとしても絶対に思い出せない。

 いやはや面倒なこった。

 

「タイプは一貫してくさとどく。特性はしんりょくと稀にようりょくそを持っていることがあるね」

「そのフシギソウはどっちなんだ?」

「この子はどっちなんだろうね。まだ特性が発動したことがないんだよ、残念ながら」

 

 まあ、バトルする機会も少なかったから確かめられなかったってことにしておこう。

 

「ふーん、んじゃ攻撃の持ち味は?」

「そりゃやっぱり蔓を使った幅広い攻撃じゃないかな」

「そうだな。上手く使いこなせば防壁にだってなり得るだろうからな。攻撃以外でも汎用性が高い」

「だとは思ったんだけどねー。どうにもタイミングが掴めなくて困ってるんだよ」

 

 躱すタイミングか。

 そういえば、カロスに来た時ユイも俺の真似をして技を躱そうとハリマロンに仕込んでたよな。根本的に間違ってるからやめさせたが。

 ………ああ、なるほど。そこか。

 

「それはあんたが躱すタイミングを命令してるからとかじゃねぇの?」

「ダメなのかい? 躱すのもトレーナーの腕の見せ所だって聞いてたんだけど」

「間違っちゃいないが、何にでも限度ってもんがあるだろ。逐一トレーナーが命令を出してたんじゃ、トレーナーの動きにしかならない。ポケモンにも直感ってものはあるし、戦っているのはポケモンだ。バトル中の感覚はポケモンの方が上なんだよ」

 

 これはゲッコウガと意識や視界が繋がった時にはっきりしたことだ。何か仕掛けようって時にはこっちで躱すタイミングを命令してもいいが、そうでなければポケモンに任せた方が上手く躱してくれる。

 

「それだと勝手な動きに繋がっちゃうんじゃない?」

「アホか。何も勝手な動きで躱させるんじゃねぇよ。あんたはトレーナーだろ? ちゃんとポケモンを育てねぇといけないだろうが」

「ふむ………、つまり?」

「躱し方のバリエーションを増やしてやるんだよ。それがトレーナーとしての回避に関する介入の仕方だ」

 

 まず回避に関しては、トレーナーが口を挟むことはない。だが、それだと博士の言うように勝手な行動に繋がってしまう。それはポケモンを調子付けてしまい、力に呑まれて暴走を引き起こすことにも繋がってくる。そうならないためにもトレーナーがしっかり命令を出す必要があるのだが、それでは全くの矛盾でしかない。

 そこでトレーナーが回避についてとやかく言ってなおかつポケモンを制御するには回避の技術を目一杯叩き込んでやるのだ。どれか一つでも上手くいけば、トレーナーに対しての信頼感を持ってもらえるだろう。それを積み重ねていくことで勝手な回避をしても勝手な動きには繋がらなくなる。それが俺の持論である。

 

「ああ、なるほど! そうか、そうだね………、確かに君のバトルを思い出してみるとそんな感じだった気がしてくるよ。ただ横に躱すんじゃなくて、受け流すとか色々やってたよね」

「そういうことだ。で、フシギソウはどうやって躱す?」

「そりゃもちろん。汎用性の高い蔓を使わない手はないでしょ」

「正解だ。飛び込んできた相手には蔓を巻きつけて遠心力で躱したり、足に絡ませて転ばせたり、いくらでもバリエーションがある。それをフシギソウに叩き込めば、まずやられることはない」

「でも勝てないんじゃない?」

 

 こいつは何を言っているんだ?

 負けないんだぞ?

 

「ばっかばか、何も強力な技を撃って勝つことだけが勝利じゃねぇんだよ。時には負けないということがアドバンテージになることだってあるんだ。例えば相手の攻撃を全て躱したとしよう。技を連続で出せばいずれ疲労で隙が生まれる。そこを一歩つ狙えばあっという間、なんてこともあるんだよ。真っ向からぶつかることが全てじゃない」

「………うん、実にハチマン君らしいバトルだね」

「それにトレーナーの方にもイライラが蓄積して、判断ミスを呼び寄せることにもなるんだ。想像してみろ。相手が自分の攻撃を全て躱してくるんだぞ。何をしても当たらない攻撃。イライラするわ見透かされているようで怖いわ、不安定になる材料が次から次へと生まれてくる。嫌な相手だろ?」

「………想像をしたくないくらいには嫌な相手だね。まるでハチマン君だ」

「いや俺が使ってるんだからどうしても想像したのが俺になるのは当たり前だろ」

 

 何を今更なことを。

 

「んじゃ、まずはそれを踏まえてバトルだな。リザードン、フシギソウに突っ込んでみてくれ」

「シャア!」

 

 リザードンをボールから出すと話は聞いていたようで、すぐに意図が伝わったようだ。

 

「おっと、フシギソウ! 蔓を使って回避だ!」

 

 博士の命を受けたフシギソウは突っ込んでくるリザードンに蔓を巻きつけたかと思うと、流すように押し出し、自分はリザードンの横をすり抜けて、自分とリザードンの立ち位置を入れ替えた。

 

「………なるほど。こういう風になるわけだ」

「ああ、後はもう少し蔓の使い方を細かく指示したり、色々とやり方はある」

「いやはや、恐れ入ったよ。トレーナーとは実に奥が深い」

「だろ? トレーナーを舐めてると足元すくわれるんだよ」

「うん、なんかハチマン君の凄さを今改めて感じたよ。なるほど、回避か………」

 

 さて、そっちの要求はやったんだ。

 今度はこっちの要望を聞いてもらおうか。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「で、なぜイロハがいないのかしら?」

 

 博士との朝練の後。

 朝食をとっていると静かに睨まれた。低血圧なのか、不機嫌なもんだから余計に怖い。

 

「炎と森のカーニバル………じゃなかった炎と水を操るポケモン捕まえてくるってよ」

「あ、タイシ君が言ってたポケモン!」

 

 ユキノの横でパンを頬張るユイが思い出したかのように手を叩いた。

 

「………そんなポケモンいたかしら。いえ、ドラゴンタイプであれば、それも可能でしょうし、そうでなくてもほのおタイプとみずタイプの技を覚えるポケモンなんてたくさんいるけれど。そういうことではないのでしょう?」

「もちろんちがうっす! あのポケモンはタイプがほのおとみずなんす。水の砲弾を打ち出してきたかと思えば、炎を撒き散らしてきて、しまいには水蒸気を発生させて目くらませまでするんすよ。めちゃくちゃなポケモンっす」

 

 高らかに説明していくタイシ。

 無駄に朝から元気な奴だな。

 カワサキは弟を放っておいてケイカと一緒に食べてるし。

 

「へえ、面白そうなポケモンがいるんだね。お姉さんも欲しくなっちゃったかも」

「やめておけ、ハルノ。お前は伝説のポケモンにさえ怖がられるだろう?」

「えー、シズカちゃんひどーい。こんな一途で純真無垢な私を怖いだなんて」

「純真無垢なやつは自分で自覚してないから純真無垢なのだ。ゾロアークがお前についてきているだけでも喜ぶんだな」

「うわっ……、伝説のポケモンどころか男も捕まえられないアラサーに言われるなんて………」

「………ほう、どうやらその減らず口を強引に塞いでほしいようだな」

「え、ちょっと、私そっちの気はないよ………?」

 

 なんかすごいイケメンがいます。女性ですが。まったく惚れ惚れしい限りである。

 ハルノさんなんか勘違いしてるし。

 

「ま、まあまあ、二人とも。なんか会話が噛み合ってきてませんからその辺で、ね?」

「チッ、仕方ない。シロメグリに免じて許してやろう」

 

 ふぅ、とため息を吐くと先生はモーモーミルクをぐびっと一気に飲み込んだ。

 飲み方一つを取っても男らしい。

 

「姉さん、これ以上問題ごとを増やさないで頂戴」

「ぶー、ユキノちゃんも冷たい。ねえ。ハチマーン」

 

 まったく、なぜそこで俺に話を振るかね。いじめたくなるだろうが。

 

「…………素直にイロハが心配だって言えばいいじゃないですか」

「ッ…………」

「…………どこかの誰かさんに狙われるかもとか言い出してきて、イロハが俺以外受け付けないからって俺に泣きついてきたくせに」

「ッッ…………………」

 

 はい撃沈。

 ハルノさんは顔を真っ赤に染め上げてテーブルに顔を突っ伏してしまった。

 ユキノ以外は何が何だか分かってない様子。

 しばらく無言でプルプル震えていたかと思うとガバッと体を起こして立ち上がった。

 

「べ、べべべ別にイロハちゃんのことなんか心配してないんだからね! メグリ、行くよ!」

「あ、ちょ、はるさん、待ってくださいよ~」

 

 ツンデレ乙。

 皿を片付けておけよ、と言わんばかりに放置し、さっさと行ってしまった。

 メグリ先輩、なんかすんません。

 

「容赦ないわね。現場を見ていただけに…………」

「ああでも言わないとまた無茶しでかしそうだしな」

 

 未来予知で自分の未来が見えないから身を投げ出すなんて前科があるし。

 おかげで時間旅行することになっちまって。まあ、あの時はついでみたいなもんだったんだろうけど。でもまた無茶されちゃ、時間旅行する羽目になるから勘弁してほしいわ。

 

「あなたがそれを言うのはどうかと思うのだけれど」

 

 うっ…………。

 

「………まったく、昔のハルノが見てたら自分を殺しにかかりそうだな」

「そうですね。昔の姉さんならこんな姿絶対に見せませんでしたし」

「つくづく人をダメにする男だな」

「まったくです」

 

 ちょっとー?

 いつから俺の悪口になったのん?

 二人して俺の顔をじっと見てきたかと思えば溜息吐くとかやめてくんない?

 

「お兄さん、Sっすね」

「ばっかばか、んなわけないだろ」

「えっ? じゃあお兄ちゃんドMなの?!」

「アホか! なんでそうなる!」

 

 誰がドMだ。

 痛いのとか嫌いだっつの。あんなので喜べるとか変態でしかないだろ。

 

「俺はいたってふつーのノーマルな人畜無害だ」

「人畜無害………」

「あ、おはよう人畜くん!」

「誰が人畜だ。つか、聞いてやがったな。ルミ、お前の母親をなんとか…………」

「お母さん、気持ち悪い」

「ぐはっ………!」

 

 朝っぱらから背中に抱き着いてきたツルミ先生が、娘の一言が効果抜群だったらしくそのまま項垂れてくる。

 ルミルミ、お前も一撃必殺を使えたのか………。

 

「じー………」

「なんだよ」

「いえ、別に。大きい方が好きだものね」

 

 じとーっとした目でユキノが見てくるので聞いてみたら、含みのある言い方をされた。

 そして、左を見て右を見て、自分の胸にそっと手を当てて深いため息を吐く。

 どうやら先生とユイの胸を見て、余計に悲しくなったみたいだな。

 

「ユキノちゃん、大丈夫だよ。人畜くんはオールマイティーだから」

「………それだとただの変態ですね」

「何言ってるの、変態くん。変態くんは変態くんじゃん」

「変態変態連呼しないでください。無駄に耳元で言いやがって。嫌がらせが過ぎるでしょう」

「なーにー? 顔が赤いよー?」

「カイリキー、そろそろツルミをお仕置きしてやってくれ」

「リキ」

 

 さらりとボールからカイリキーが出てくると背後から先生の頭を掴んだ。俺の頭のすぐそばでやるもんだから俺もやられるんじゃないかってドキドキが止まらない。

 

「頼んだぞ」

「リキ」

「え、ちょ、先輩?! カイリキー!? た、たすけてー、ルミー、ヒキガヤくー!!」

 

 最後まで言わせてもらえないままカイリキーに担がれて、ツルミ先生は消え去った。

 ふう、ようやく嵐どもがいなくなったな。

 

「………ごめん、なんかお母さんが」

「気にするな。あの人は昔からああいう人だ」

 

 自分の母親の見たくもない姿を見てしまったルミルミはいたたまれない気持ちになっていることだろう。俺だって嫌だわ、母ちゃんがあんなんだったら。

 

「それよりルミ、お前もパンでも食ったら?」

「ん、そうする」

 

 無駄に広いキッチンの方へ行き、ゴソゴソと漁り始める。

 俺は食事の続き………も終わったので、ぼーっとすることにした。

 

「ヒントはなしか………」

「お兄ちゃん、なんか言った?」

 

 ……………博士と俺との出会いにレッドプランに関するヒントらしきものはなかった。

 まず俺たちが出会ったのはハナダシティ。ハナダのどうくつを覗きに来ていた博士が野生のポケモンと戦っている俺を見つけたのだとか。バトルの仕方を面白いと感じたらしく声をかけたところ、無視されたんだとよ。まあ、普通だろうな。見知らぬ人にいきなり声なんか変えられたら、気持ち悪いに決まっている。知らない人についていかないとか俺超優秀。

 

「およ? お兄ちゃん? 聞いてるの?」

 

 で、無視されたからといって引き下がらなかったのがあの変態らしい。

 野生のポケモンのように俺の目の前に飛び出し、リザードンに焼き払われ、の繰り返しだったんだとか。

 バカじゃねぇの? ストーカーと一緒だな。よく通報しなかったな、過去の俺。あ、通報したらしたで警察と話さないといけないからそれが嫌だったのかも。うん、その可能性が一番高いな。

 その後オツキミ山を通ってニビシティ、トキワの森、トキワシティへと向かったんだとか。ついてきてたのが恐怖でしかない。

 まさかこいつのせいで記憶回復を拒否してるとかじゃないよな? 有り得そうで悲しくなるんだけど。

 

「お兄ちゃん?」

 

 と、そうだ。最後に気になることを言っていたな。

 俺たちはオツキミ山で出会った男性と三人でトキワシティに向かったらしい。おそらく博士の方が捕まえてきたのだろう。

 

 

「お兄ちゃんってば!」

「んあ? ああ、なんか言ったか?」

 

 おっと。

 いつの間にかコマチに呼ばれていたようだ。呼ばれていることに気づかないなんて相当トリップしてたようだな。

 

「言ったのはお兄ちゃんじゃん。いつも通り変だけど、なんか今日は特に変だよ?」

「妹にいつでも変って言われたらそりゃ変にもなるだろ」

「んもう、そういうことじゃなくてさ!」

「まあまあ、コマチちゃん。きっとヒッキーも運営の仕事で疲れてるんだよ」

「甘いですよ、ユイさん。このごみぃちゃんはこういう時こそ何をしでかすか分かんないですから」

 

 ぷりぷりと起こるコマチも可愛い。

 実に可愛い。

 

「ハチマン、今のあなたは犯罪者の目をしているわ」

「お、おう………それはさすがに気をつけるわ」

 

 ユイに宥められるコマチを観察しているとユキノに釘を刺された。さすがに犯罪臭が出ていちゃ困る。何が困るってここにはルミやケイカがいるんだ。もし二人でいようものなら即通報されてしまう。ただでさえこんな目なのに、さらに犯罪臭がすれば即アウトである。

 

「さて、今日も一日頑張りますか」

「あなたはただ見ているだけでしょうに」

「はい、すんません…………」

 

 今日はやけにユキノの言葉が胸に突き刺さるな…………。

 




来週からはリーグ戦再開します。
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