カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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さすがにレインボーロケット団は考えてなかったですね………。


18話

「ロケット団………」

 

 空へ昇るとサカキを始めとするロケット団の三人がいた。

 

「………ロケット団?」

「昨夜ぶりだな、ハチマン」

「今度は何の用だ。イロハなら遠出中だぞ」

「ふっ、別にあの娘に用はない」

「だったら………」

 

 ハルノさんが言っていたようにイロハたち実力のある敗北者たちを攫うのが目的なんじゃないのか?

 だったら、何しに遠路はるばるカロスまで来てやがるんだ?

 

「穴が閉じるぞ」

「ッ!?」

 

 くそっ、こいつと話している間に空の裂け目が閉じ始めたじゃねぇか。

 何も分からないまま帰れってのか。冗談じゃない。

 

「……………」

 

 奥は暗い。

 何というか別世界に繋がっているような、しかしダークホールのような、それでいてワープホールのような、なんとも形容しがたい穴である。

 

「……………」

「………ポケモン?」

 

 ん? エックスには何か見えたのか?

 

「……………エックス、何が見えた」

「赤くて細い何かが………一瞬だけ………」

 

 赤くて細い………?

 

「ふっ、やはり図鑑所有者というのはどこにいこうが特殊な奴らしいな」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。オレが見てきた図鑑所有者はどいつもこいつも変わり種だ。いつでも問題の渦中にいる」

「その問題とやらを起こしているのはアンタらだろうが」

「そうだ。図鑑所有者というのはオレたちの計画を邪魔しにやってくる煩わしい人間だ」

「ボス、折角だから今の彼が使いものになるのか、試してみてはどうかしら?」

「ッ!? さっきオレとバトルした………」

「あら、坊やのことは聞いてるわ」

 

 黒長髪の女性、ナツメがエックスを舐めるように見下ろした。そして、満足したのか何を投げてきた。

 

「受け取っておきなさい」

「ジム、バッジ………? えっ………?」

 

 ジムバッジ………。なるほど、今でもジムリーダーとして活動しているのか。そして、エックスのことを認めたってわけだ。

 イッシュ地方で女優として活躍しているとか言っていたが、本業もそのままらしい。

 

「カントーヤマブキシティジムリーダー、それがその女の正体だ」

「さすが忠犬ハチ公ね。私との面識なんてジム戦くらいのはずだけれど。それも何年も前の」

「伊達に忠犬ハチ公なんて呼ばれてねぇよ」

 

 ロケット団についての情報は恐らく俺が一番持っているのかもしれない。『今の』ではなく、『過去の』俺だが。

 未だ欠けている記憶を抜きにしてもロケット団との縁はよくあり、そのほとんどがサカキとの絡みばかりだ。内部の情報も聞かされたりしているし、あながち間違いではないのかもしれない。

 

「さて、ハチマン。貴様の実力を計らせてもらおうか」

「断る。さっさとカントーに帰れ」

「ほう、生意気なことを言うようになったじゃないか」

「俺はいつでもこうだと思うが?」

 

 悪党に遠慮する必要なんてないんだし。

 逆に悪党に対して遠慮なんかしてたらバカとしか言えないだろ。

 

「ふっ、まあいい。その足りない記憶でどこまで対処できるのか楽しみだな」

 

 ッ!?

 こいつ、俺の記憶が一部欠けていることを知っているのか?

 サカキならありえなくもないが、なら尚更………。

 

「やれ」

 

 サカキは自分のボールを投げると、次々とポケモンを出してきた。空中にいるのに、飛んでいるのはスピアーとパルシェンのみ。後は全員空中で止まっていた。

 

「ニドキング、ニドクイン………それにボスゴドラにドサイドンまで……………」

 

 エックスは厳ついポケモンたちに囲まれて一瞬たじろいだが、そこは図鑑所有者。すぐにボールに手をかけ戦闘モードへと切り替えやがった。

 

「はあ………、いつの間にか穴は閉じてるし、結局何だったのか判らず仕舞いだし。………エックス、下がってろ」

 

 サカキたちと話してたら、いつの間にか空の穴は完全に塞がってしまっていた。何の穴なのか、誰が作り出したのか、何も手がかりはない。唯一、エックスが一瞬だけ見えた赤くて細い何かがいるってことだけだ。これだけでは余計に混乱してしまい、情報としては意味をなさない。

 

「よっと」

 

 リザードンから飛び降りると黒い足場が出来上がった。

 

「えっ、浮いて………?」

「ふっ、さすが生まれてくる時期や場所が違えば図鑑所有者になっていた男だ。まだ『そいつ』を飼いならしているようだな」

 

 そいつ、とはダークライのことだろう。

 

「………リザードン、かえんほうしゃ」

「がんせきふうじ」

 

 リザードンの炎をニドキングとニドクインが岩を飛ばして防いだ。やっぱそう簡単にはいかないか。

 

「リザードン、半分任せた。使えるもんは好きに使ってくれ」

 

 空中戦とかリザードン以外できないし。ナツメが足場を用意してくれるわけでもないし。というかそっちに頼ればいつ落とされるか分からんし。それにエンテイを出すわけにもいかない。最初から伝説のポケモンに頼るのはお門違いだ。ダークライ? いいんだよ、あいつは。そういう契約らしいから。

 

「は、半分………? ってまさか?!」

「好きに使えって言ったが、俺にボスゴドラとドサイドンの相手させるのかよ」

 

 リザードンはすでにニドどもの方へと行ってしまい、残されたボスゴドラとドサイドンの相手を俺がすることになってしまった。いくらいわタイプに弱いからってお前ね………。

 いや、毒も嫌だけどさ。これはこれで怖いものがあるのよ?

 

「おっと」

 

 腕を振り回されるだけでも怖いんだけど。

 

「大人しく寝てろ」

 

 左腕をボスゴドラに向けると黒い穴が現れ、腕を振りかぶってきたボスゴドラを呑み込んだ。

 

「危ねっ」

 

 次いで右腕をドサイドンに向けると黒いオーラが形を成し、剣へと変わった。アームハンマーだと思われる衝撃を黒いオーラがすべて吸収してしまい、俺の腕への負担は一切ない。代わりにドサイドンを押し返し、もう一度左腕を向けるとドサイドンの背後に黒い穴が現れ、後退するドサイドンを呑み込んだ。

 

「ほら、全部吸っちまえ」

 

 手を貸してくれたダークライにボズゴドラとドサイドンを穴から出させて、眠っている二体の夢を食わせた。

 

「スピアー、ダブルニードル」

「つばめがえし」

 

 もう一体、忘れられているかもしれない奴が、俺の横を通り過ぎ背後に現れたスピアーを切り付けた。そいつは足場がない空中に着地し、二撃目を入れるために片足で方向を変えると、一気にスピアーへと詰め寄っていく。

 

「ほう、そのジュカイン、お前のだったか。スピアー、メガシンカ」

 

 また唐突な………。

 メガシンカの光でジュカインを押し返すなよ。

 

「パルシェン、れいとうビーム」

 

 おうおう、そっちからも来るのか。フルでポケモン出しやがって。

 

「ジュカイン、屈め!」

 

 スピアーへと走り出したジュカインに向けて、サカキを乗せたパルシェンが冷気を吐き出してきた。

 

「ふん!」

 

 黒いオーラを屈んだジュカインの頭上を走らせ、冷気を受ける壁に作り変える。

 

「こうそくいどう」

 

 ああ、もう。次から次へと。ほんと容赦ない奴だな。

 

「リザードン、ジュカイン、メガシンカ!」

 

 リザードンの方も直接触ると危険なため使える技が限定されてしまい、しかも空中戦であるため一撃必殺も使えず、苦戦していた。どうしてこうサカキのポケモンってのは会うたびに強くなっているのだろうか。

 なんかムカつく。

 

「ユンゲラー、テレポート!」

「ッ!?」

 

 俺が持つ二つのキーストーンとリザードンとジュカインのメガストーンが光を発し始めた瞬間。

 リザードンの懐にユンゲラーが現れ、リザードンの首に巻きつけてあるちょっとオシャレな首輪をテレポートさせてしまった。

 当然、石のないリザードンはメガシンカできず、ジュカインだけが姿を変えていく。

 

「ダブルニードル」

 

 いきなりのことでリザードンは反応できず、スピアーの攻撃を受けてしまう。腕の針から毒でも盛られたのか、みるみる顔色が悪くなっていく。

 

「おい、メガストーンをどうするつもりだ」

「さあ、どうしようかしらね」

「シャ、ア…………」

 

 くそ、こいつらの狙いは何なんだ?

 リザードンのメガストーンを奪ってどうするつもりだ。

 

「ジュカイン、こうそくいどうでスピアーからリザードンを守ッ!?」

 

 ぐ、はっ…………。

 な、なんだ、血が、血の流れが………。

 

「はあ、はあ、はあ……………」

「あ、あの、大丈夫、ですか………」

 

 後ろからエックスが話しかけてくるが応えられるほど余裕がない。

 どうする、これかなりヤバいぞ………。

 

「へい、ボス。もう一発ってところか」

「だろうな」

「オーケー。エレキブル、リザードンに10まんボルト!」

「エーレッ!」

 

 くそっ、声が出ない。

 ジュカインもスピアーと高速戦闘をしていて、それ以上を求めるのは無理だろう。

 

「ッ!?」

「なんだ?!」

 

 ああ、もう一体いたな。

 よく遠くから狙えたもんだ。おかげでエレキブルの電撃は相殺されたよ。

 

「おそらくアレね」

 

 俺も視線を向けると会場の屋根にヤドキングがいた。アレはイロハのヤドキングである。ついでにジュカインが空中戦を行えるのもヤドキングが足場を作っているからだろう。いつからナツメのポケモンと同じことができるようになったのやら。

 

「サラメ、やきつくす!」

「パルシェン、ハイドロポンプ」

 

 おい、バカ!

 何勝手に攻撃してるんだ!

 それじゃ逆効果だぞ!

 

「………手、を………出す、な…………」

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!」

「ぐぉがあああああああッッ!!!」

「カイッ!?」

 

 ヤバい、マジでヤバい。

 リザードンの力が暴走し始めやがった。特性もうかに呑まれたとかいう次元の話じゃない。もっと別の、死の危険すら感じる力が、リザードンには秘められていて、それが表に出ようと暴走している感じだ。ゲッコウガがメガシンカを習得するために俺と視覚・感覚を同調させていたように、急に視界が変わり、俺にも力に呑まれる感覚が伝わってくる。

 だが、一つ言えるのはゲッコウガの時とは明らかに違うということだ。リザードンの暴走に合わせて俺の血も活性化し、俺の中でも暴走を始めているような感じがある。はっきり言って今の俺は自分とリザードンの暴走を一つの体で受け持っている状態である。

 俺、死ぬのかね………。

 

「な、にが、起こって………」

 

 ああ、エックスには悪いことをしたな。また引きこもりに戻らなければいいが。

 

「ボス、あいつ生きてられるのか?」

「さあ、どうだろうな」

「フンフフフ、お困りのようですね、サカキ様」

 

 誰、だ…………また、新しい、のが、来た、のか………?

 ぐぉぁっ!

 

「サキ………」

「サキ………?! なるほど、これが裏切り者ね」

「裏切り者とは酷い言われようだ、ナツメ。私は当初より私の目的のために動いていただけにすぎん」

「フン、ちょうどいい。お前をここで殺すとしよう。オレをコケにした報いを受けるがいい」

「フンフフフ、それはまた物騒ですね。ダークライ、この者たちを排除なさい」

「スピアー、ダブルニードル」

「ユンゲラー、フーディン!」

「エレキブル!」

 

 サキ………?

 カワサキ、のことか…………?

 いや、あいつは、こんな話し方、はしない。

 というか、ダークライ。テメェ………なに俺以外の奴の言うことを聞いてんだよ。

 

「うおっ?!」

 

 な、なんだ?! 急に身体が下に引っ張られるような………。落ちてる、のか…………?

 

「おっと、危ないですね。スターミー、サイコキネシス」

 

 あ、急に身体が軽くなった………。

 くそ、痛みに慣れてきたが、意識が朦朧としている。視界も安定しないし、何よりリザードンが見えない。ただ、ダークライが全面的に俺から離れたことは理解した。

 

「あなたは………?」

「申し遅れました。私はSaque。彼の右腕にございます」

 

 はっ?

 何を言っているんだ、こいつは………。

 俺の両腕はユキノシタ姉妹だぞ。誰かも分からん奴を右腕にしたつもりはない!

 エックス、騙されるな!

 

「あの者たちはカントーを、世界を支配すべく活動している悪の組織、ロケット団にございます。あの者たちは力を持つために最恐のポケモンを生み出し、最恐のポケモントレーナーを作り出そうと計画しております。そしてその被験者こそが我が主というわけにございます」

 

 何を言っている………。

 そんなわけ、あるはずが………。

 ッ!? こいつ、俺を落ちないようにすると見せかけて、身体の自由まで奪いやがったのか?!

 口は開かないし、身体も動かせない。

 空で磔の刑とかマジかよ………。

 

「エレキブル!?」

「ユンゲラー、フーディン!?」

「………なるほど、だからボールには決して入らないのか。いや、だがそれ以前に八幡の元にいたとも聞いているが………」

「それはもちろん。いくら扱いきれないポケモンだからと言って、一度はボールに収めたポケモン。今でもダークライのボールは持ち歩いていますよ。フンフフフ」

 

 ダークライのボール、だと?

 確かにあいつは一度たちともボールに入ろうとはしなかったが。

 

「シャアッ!?」

 

 ぐはっ!?

 今度はなんだ!?

 リザードンと感覚が同調してるんだから同じようにダメージがくるんだっての!

 

「水の手裏剣?!」

「一体、どこから飛んできやがった!?」

「まだ何かいるということですか。ダークライ、さっさとスピアーも始末なさい」

「ライ」

 

 水の、手裏剣、だと………?

 それってつまり………。

 

「………ッ」

 

 またしても視界が変わった。今度は懐かしい感覚である。力に呑まれるわけでも痛みがあるわけでもない。

 段々と血流も正常に戻り、心拍数も安定していく。

 

『ゲッコウガ、いきなりどうしたの!? メガシンカしたりして! キリキザンも驚いてるよ?!』

『コウ、コウガ』

 

 この声は、イロハか。

 

『そう? もういいならいいけど。それよりバトルの再開だよ! 絶対あの子をゲットするんだから!』

『コウガ。コウガ、コウコウガ!』

『でもまさかゲッコウガがトレーナーになっちゃうなんて………。先輩、驚くだろうなー』

『コウガ』

 

 はい?

 ゲッコウガがトレーナーになった?

 んなバカな。

 

『コウガ、コウコウガ』

 

 まあ、何にせよ、ありがとよ。

 おかげで助かったわ。

 

「ふぅ………」

 

 それにしてもまさかこの状況でゲッコウガが反応してくるとはな。

 態と以前のように俺と意識を同調させて、リザードンの上書きをしてくるとは。タイミング良すぎだろ。

 おかげで正常に戻れたわ。

 

「………くくくっ」

 

 それにしてもありゃないだろ。ポケモンがトレーナーにとか。あれ、本当なのか? 本当だったらマジで伝説のポケモンになるぞ。

 ………ああ、おかげで頭が冴えた。

 リザードンの方もみずしゅりけんのおかげで暴走が止まったようだし、ゲッコウガ様様だな。

 

「さすがだよ、ゲッコウガ」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 おいおい、そんなに驚くなよ。

 いくら俺が元の状態に戻ったからってそりゃないだろ。

 

「来い、リザードン!」

 

 俺とリザードンの意識が何故同調したのかは分からない。ただ俺たちの中に何かあるのは確かだ。これまでも記憶の断片にリザードンと意識を共有した時がある。時間は短くとも、同調は同調だ。

 これがハルノさんが言っていたレッドプランと関係があるのかどうかは知らないが、まずはこいつらにお返しするとしよう。

 

「シャアァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 リザードンの咆哮。

 今度は暴走してるわけではない。

 それでも意識は再びリザードンと同調されていく。

 へぇ、どうやらさっきので何かがリザードンの中でも目覚めたらしい。

 腕には常時電気を纏っており、翼は鋼になっている。

 

「ブラストバーン!」

 

 中から溢れてくる力も合わせて、炎を吐き出した。

 

「バリヤード!」

「ジバコイル!」

 

 どうやらギリギリ防がれたようだ。

 ま、今それでもいい。

 

「えんまく」

 

 それよりさっさとここから立ち去るのが先決だ。今の状態ではまともにやり合うのもキツい。

 

「エックス、逃げるぞ!」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 はあ、はあ…………。

 ひとまず、これで一息つけるか。

 リザードンもかなり消耗しているし、これ以上のことが起きてもボールからは出せないな。

 

「改めて、我が主。お久しぶりにごさいます」

「………アンタ、誰だ」

 

 現在、ミアレタワーの中に避難。

 人がたくさんいるため、ロケット団もこの中じゃ表立って行動はしてこないだろう。

 

「ああ、なんという。私のことをお忘れになってしまうとは。これも全部ロケット団の仕業なのですね………」

 

 それにしても目の前のこの女。

 すげぇ胡散臭い。

 俺に敬意を払っているつもりなのだろうが、ポーズが大きすぎて胡散臭すぎる。忠義なんてものを全く感じられない。というかやめて! 周りからの危ないものを見るような視線がこっちにまで突き刺さってくるから!

 

「記憶、ないんですか?」

「どうだろうな。ただ、俺はアンタを信用できない。俺にはすでに両腕がいる。そこに右腕を名乗る奴が出てきても信用できるはずがないだろ」

「では、信用していただくためにも何なりと質問なさいませ。全てお答えしますわ」

「………それはつまり、アンタは俺の命令を全て聞けると解釈していいのか?」

「ええ、何なりとお申し付けを。我が主の命とあらば不詳Saque、命を賭してやり切る所存です」

 

 うわぁー………。

 今時こんなこと言う奴いるんだな。しかも俺より歳上の奴が。いや、歳が上の方がそういう傾向が残っていると言った方がいいのか。

 

「なら、今日はもう帰ってくれ。情報が多すぎてアンタを相手にする余裕がない。頭の中を整理する時間をくれ」

「かしこまりました。では、最後に一つだけ。裂空より来る訪問者、裏側より来る支配者、狭間より来る異形者。この者たちにお気をつけを」

「何のことだ」

「いずれ判ることにございます。それでは後ほど、近いうちに」

 

 だからその胡散臭いポーズはやめろって。

 ったく、ようやく消えてくれたか。

 すげぇ胡散臭いのを相手にしているから肝が冷えて仕方ない。

 

「すげぇ胡散臭い奴だったな」

「あなたも十分胡散臭いですけど」

「お前ね………」

 

 この少年ったら毒舌すぎない?

 なんか昔の俺と言葉の返しが似ていて、胃がキリキリするんだけど。

 

「………あなた、本当に何者なんですか」

「何者、か………」

「オレはあなたからフレア団、フラダリと同じ匂いがした」

「…………間違っちゃいねぇな。裏社会で生きているのは確かだ」

 

 フラダリと同じ匂いか。

 なんかやだな、あいつと同じ匂いとか。

 …………加齢臭とかそっちの匂いじゃないよね?

 俺、この歳で加齢臭とかごめんだぞ?

 

「………メガシンカ、複数同時にできること知ってたんですね」

「まあな。キーストーン一つに対してメガストーンが一つ反応するんだし、その考えに行き着くだろ」

 

 ……………。

 一つの話題が短すぎない?

 俺が答えたらその先が全くないんですが………。

 

「……………」

「……………」

 

 とうとう会話の内容も尽きたようだ。

 ま、俺から話すことなんてないしな。エックスも昔の俺に似ていると誰かさんから評されているくらいだし、人との会話なんて苦手なんだろう。

 分かる、分かるぞその気持ち。

 

『サイカ選手、とうとう残り一体になってしまったぁぁぁあああああああああ!! 強い、強いぞ四天王!!』

 

 中央にある柱に取り付けられた大画面の液晶画面にはトツカが映し出されていた。

 その画面の左右の柱にも液晶画面が取り付けられており、四天王と思われる相手選手を映し出している。

 おそらく反対側にも画面があり、柱の四面にそれぞれ二つずつトツカと四天王を写しているのだろう。会場に入られなかった人たちへの配慮かね。

 

『お願い、ミミロップ!』

 

 トツカの最後の一体はミミロップか。まあ、メガシンカを使えるんだし、切り札だよな。

 

『ミミィ!』

『いくよ、ミミロップ。メガシンカ!』

『おおっと、ここでメガシンカ! サイカ選手、巻き返しなるか!』

『メガシンカ………いいでしょう。四天王として、その実力を受け止めるとしましょう。戻りなさい、ブロスター。カメックス!』

 

 カメックス?

 四天王の切り札がカメックスなのん?

 

『最初から芸術的なメインディッシュを味わっていただきましょう。カメックス、メガシンカ!』

 

 そうみたいだわ。

 これはあれだな。カントー御三家のメガストーンってのは至る所に転がっているってことなんだろうな。ということはフシギバナのメガストーンも結構あるということか。誰かフシギバナ連れてる奴はいないのかね。こっち来てからメグリ先輩のフシギバナしか見てないぞ。

 

「あ、あの変態博士が育ててたな………」

「変態博士………?」

「プラターヌ博士だよ」

「………なんで変態なんですか。まあ、分からなくもないですけど」

「多分その想像であってると思うぞ」

 

 あのしつこさは変態の領域に達してると思う。

 

『ミミロップ、グロウパンチ!』

『カメックス、こちらもグロウパンチ!』

 

 どちらも一進一退の攻防を繰り広げている。

 

『お次は私から参りましょう。カメックス、ロケットずつき!』

『ミミロップ、おんがえし!』

 

 殻の中に籠もったカメックスが発射し、それに向けてミミロップも走り出した。

 二諦の衝突とともにカメックスの頭が現れ、ミミロップの身体と押し返し、弾き飛ばした。

 

『ミミロップ、かげぶんしん!』

 

 飛ばされながらミミロップは影を作り出し、カメックスを取り囲んでいく。

 

「どう思う、このバトル」

「………別に、何とも。まだどこが悪いかとかは。初めて見るバトルですし」

「なら終わった後にでも感想を聞かせてもらおうか」

「随分と上からですね」

「チャンピオンよりも偉いからな」

 

 だって実際に偉いし。その分、責任とかすげぇ重たいんだからな!

 

『カメックス、ハイドロポンプ、連射!』

『ガメースッ!』

 

 背中と両腕の砲台を駆使して、ミミロップの影を次々を消し始めた。

 

「あの、結局さっきの黒いポケモンってなんだったんですか?」

「黒いポケモン? ああ、ダークライのことか」

「ダークライ………?」

『りゅうのはどう!』

 

 影に紛れて飛ばされたところとは対面の場所に移動していたミミロップに、カメックスの背中と両腕の砲台から撃ち出された三色のエネルギー体が絡み合い、竜を模した形に変わった波導が正確に突き刺さった。

 

「シンオウ地方に伝わる伝説に名を残すポケモンらしい。いるだけで寝ている奴に悪夢を見せるんだとよ。あいつ自身、苦労してるみたいだぜ」

「なんでそんなポケモンを普通に連れてるんですか」

「俺が初めて旅に出る前に会ってな。それ以来の付き合いだからもうかれこれ六年以上は付き合いがあるな。一度たりともボールに入れたことはないが」

「でもさっきの人はあの黒いポケモンに命令を出し、過去にはボールに抑えて、そのボールを今でも持っていると言っていた」

「ああ、そうだな。さすがに俺も驚きで顎が外れるかと思った。あいつのことは今までずっと野生のポケモンだろばかり思ってたからな。まあ、でも。これでボールに入ろうとしない理由は理解できたさ」

『いかがでしょう。特性メガランチャーによる強化されたりゅうのはどうは』

『くっ………強い』

 

 さすがは四天王。一撃の重さが段違いである。

 

『ミミロップ、突っ込んで!』

『カメックス、迎え討ちなさい。ハイドロポンプ!』

『かげぶんしん!』

 

 体勢を立て直して走り出したミミロップに向けて、背中と両腕の砲台を一点に集中させるように中央へ押し出し、水砲撃を発射した。連続で撃ち出される水砲撃を影を囮に躱していき、距離を詰めていくが、近くなるほど躱すのも限界が近くなってきているようで、時折肩に掠めているのが画面に映し出されている。

 

『ミラーコート!』

 

 とうとう躱しきれなくなったタイミングで、まさかの返し技を選択。

 恐らくこれを狙っての突撃だったのだろう。

 威力が二倍になって返ってきた水砲撃に飛ばされていくカメックス。自分の技で吹き飛ばされるというのはどんな気分なんだろうか。

 

『な、なんと、ミミロップ! 近距離からのミラーコートでカメックスのハイドロポンプを押し返し、カメックスを吹き飛ばしたぁぁぁあああああああああっっ!!』

「………なるほど、近距離からのミラーコートか。あの距離なら反応は無理だ」

「どうだ? お前はまだやったことのないバトルスタイルだろ?」

「はい、オレのポケモンはあまりああいうのは得意じゃないので」

 

 やっぱこいつも図鑑所有者である前に一人の少年なんだよなー。

 自覚はないみたいだが、さっきから目がキラキラしてるぞ。

 

「俺もやったことはないな。あれはトツカが武器にしている戦法だ」

「あの人、知り合いなんですね」

「まあな。今回の大会には俺の仲間がこぞって集結してるんだよ」

「あなたが裏で手を引いたんじゃないですか?」

「バッジも集められず予選敗退で終わるようなら、本戦に出たところで何もできないまま終わるだろうが。そういう奴らが出てきてないってことは俺は裏から手を回してない証拠だ」

 

 俺が手を回さない限りは本戦で雑魚が出てくるようなことはない。今の所誰も雑魚と判断されるような選手は出てきていない。

 まあ実際、裏から手なんて引いてもいないんだし、いるわけないよな。

 

「………でもこの勝負。四天王の方が勝ちますね」

「どうしてそう言える?」

「今のでカメックスが戦闘不能になっていない。なら、負けたも同然でしょ。後にはまだ二体、ブロスターともう一体が控えてますし」

「………さすがはメガシンカの申し子だ。さて、帰るか」

 

 バトルが終わる前からすでに展開は読めるのか。

 かつてジュニアチャンピオンに上り詰めたって話もじじいらが言ってたっけ。

 バトルの先を読むことくらい朝飯前ってか。けど、それは公式戦に限る、ってのがつくんだろうなー。

 

「見ないんですか?」

「ばっかばか、見たいに決まってんだろ。けど、ジュカインを回収しに行かねぇと」

「そういえば、さっきスピアーに突き落とされてましたね」

「だろ?」

 

 今頃ジュカインはどうしてるのだろうか。

 はっきりと覚えてはいないが、スピアーとの戦闘に負けたのは知っている。

 リザードンが暴走して、俺も一緒に呑まれた時に気を取られて、その一瞬を突かれたのだろう。

 

「……………やっぱり、オレはあなたを全面的に信用はできないですね」

「今はそれでもいいさ」

 

 




行間(使用ポケモン)

トツカサイカ 持ち物:キーストーン
・ミミロップ ♀
 持ち物:ミミロップナイト
 特性:じゅうなん←→きもったま
 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん


ズミ 持ち物:キーストーン
・カメックス ♂
 持ち物:カメックスナイト
 特性:???←→メガランチャー
 覚えてる技:ハイドロポンプ、ロケットずつき、りゅうのはどう、グロウパンチ

・ブロスター ♂

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