『おい、こらバカやろう!』
げっ、ヤドキング………。
人混みに紛れながら会場の方に戻ると、ヤドキングが待ち伏せしていた。その傍らにはジュカインがぐったりとしている。どうやらヤドキングがジュカインを回収したらしい。
「んだよ、俺も結構ヤバいんだぞ。今にも倒れそうだ」
『さっさとボールに戻せ!』
「はいはい。お疲れさん、ジュカイン。遅れてすまんな」
ヤドキングに急かされながら、ジュカインをボールへと戻してやる。
「どうした、エックス」
『ポッポが豆鉄砲くらったような顔をしているぞ』
「あ、いや、ゼルネアス以外にも会話のできるポケモンがいたんだなって」
………いや、ゼルネアスと会話してることの方が驚きだわ。
ちゃんと見たことないが、ゼルネアスとやらもテレパシーが使えるんだな。
「エスパータイプの中にはテレパシーを習得してる奴もいるからな。伝説のポケモン以外にもテレパシーを使って会話をできるポケモンは結構いる」
…………あれ? ゼルネアスってエスパータイプだっけ?
『うむ、オレっちもイロハと話したいがために猛特訓したのだ』
「お前の動機なんか聞いてねぇよ。なんだよ、その下心満載な動機は」
こいつは…………。
どこまでも欲望に忠実に生きやがって。
『いいではないか! オレっちの未来の主と話してみたいと思うのは普通のことだろうが!』
「はいはい、ペドキングだもんな」
『オレっちをロリコン扱いするな!』
「ほら、エックスが引いてるぞ」
『さっさと誤解を解け! オレっちはイロハがいいのであって、ロリコンなのではない!』
「それはそれでって感じの目をしてるぞ?」
『ぬぁぁぁっ!? どうしてくれるんだ!』
うん、ヤドキングをいじるのは楽しいな。
こうやってポケモンと会話するというのも新鮮で、ネタがポンポン思いついてしまう。
「まあまあ、落ち着けペドキング」
『イロハぁぁぁああああああっっ! 助けてくれぇぇぇっ!!』
「何をやっているのかしら、あなたたちは」
「「『……………』」」
……………………………まあ、そう長くは続かないよな………。
背中がめっちゃ冷たいんですけど!
「帰る人たちの邪魔になるから他所でやってくれないかしら?」
ヒュォォォオオオオオオオオオッッ! と雪山に吹きそうな風が吹いたような気がした。
「あ、エックス! もう、いきなりどこ行ってたのよ!」
「………別に」
「ヒッキー! 全然帰ってこないんだから! 心配したんだからね!」
「お、おう、すまん」
冷風に煽られていると今度は俺もエックスも取材班に囲まれた。
「というかお兄ちゃん、なんかボロボロになってない?」
「あ、あー、まあ、いろいろあったからな」
「ハチマン、この喋るヤドキングなに?」
『なにとは失礼な! どこからどう見てもヤドキングだろうが!』
「あら〜、校長のヤドキングじゃない。イロハちゃんはどうしたの?」
『一時待機なのだ!』
「…………エッP、この人たちは………?」
「………三冠王とそのお仲間さん」
「でも中心にいるのって………」
「明日になれば分かるよ」
さて、こいつらどうしたものか。心配させたのは悪かったが、一体何をどう話したものやら。説明しないなんて選択はないだろうし。言わなきゃ吐かされる。
「エックス………?」
幼馴染ズに質問責めにあっていたエックスが何故かフラッと俺のところに流れてきた。
「コルニさんたちの話も含めて、あなたが敵ではないことは分かりました。でもオレはあなたを全面的に信用することはできない」
え、なに? それを言いに態々きたわけ?
「別にそれでいいんじゃねぇえ………のっとと」
うおっ、なんか急に足の力が抜けやがった。
「大丈夫か?」
「すんません、ちょっと疲れることがありまして」
ヒラツカ先生がいなければ変な体勢で地面に倒れてたぜ。骨折もありえたかもな。
「…………無茶すると死にますよ」
「そうだな」
先生の肩に腕を回され担がれるように立ち上がる俺にエックスが忠告してきた。
今回は本当に無茶をすると俺は死ぬかもしれない。あのリザードンの暴走が然り、ロケット団が然り、サキの言うどっかからやってくるという奴らが然り。
フレア団の方が幾分か単純だったように思えてくる。それくらいには何かとてつもないものが一気に押し寄せてきそうで、正直怖い。
「それじゃ」
言うだけ言ってエックスは言ってしまった。他の四人もエックスを追いかけるように走って行ってしまう。だが、その先にはなんか見覚えのあるローラースケーターが手をブンブン振り回していた。横には老人もいる。
「あいつら、こっちに来てるのかよ。ジムの仕事しろよ」
「あははは………、コルニちゃん相変わらずだね」
一行が歩き出すと何故か振り向いてあっかんべーと喧嘩を売ってきやがった。
「ほんと、相変わらずね………」
それにはユキノも呆れたようで、こめかみに手を当てている。
「………アンタ、顔色悪いね」
うおっ!?
いきなりなんだよ。びっくりするだろ。
ってか誰だよ。
「あ、さっきバトルしてた人!」
「お花屋さん、だっけ?」
「あたしが作ったオレンと七種の実の特性ジュースをやるよ」
ほれっとボトルに入ったジュース? を投げてきた。
えっ、これ何入ってるわけ………?
毒とか入ってないよね?
「…………その赤いフード………もしかして…………」
「マグマ団ね」
………毒か、毒入りなのか!?
メグリ先輩の驚きに、ユキノが静かに答えた。
「へぇ、あたしのこと知ってんだ。つっても今のあたしはマグマ団じゃないけど。バトルといったらこの衣装だし、カロスならマグマ団を知る奴もいないと思ってたけど、予想は外れるもんだね」
プーと口から風船のように何かが膨らんで出てきた。
風船ガムか?
それにしても中々のプロポーションである。マグマ団の団服らしいが長スリットから覗く生脚が妙にエロい。フードも摂ればかなりの美女だろう。
「俺たちはカントー出身だからな」
「なるほど、そりゃ知っていてもおかしくはない………のかね………。あたしは………この格好だしカガリと名乗っておこうかな」
「カガリ………ッ!?」
これまで驚きを見せなかったユキノが急に反応を示した。
パックの蓋を開けて特性ジュースとやらの匂いを嗅いでみる。特に異臭はない。
「ゆきのん、知ってるの?」
「ええ、ホウエン地方に陸を増やそうとして失敗し、大災害をもたらした組織の幹部の名前よ」
「マグマ団、聞いたことがあるな。それに似たような組織もあったはずだ」
おっと、先生もマグマ団を知っていたのか。まあ、ホウエン地方を始め、世界中に大災害をもたらしかけた連中だからな。
「それってアクア団のこと? あたしらマグマ団がアクア団と同時に大災害をもたらしたのは事実だよ、ま、それを止めるために奮闘してあたしは死んだ、はずだったんだけどね。どうしてか生き残っちまったよ」
思い切ってぐびっと一口飲んでみた。………うん、悪くはない。というかサッパリしている。
………ホウエン地方で活動していたマグマ団の幹部、ねー………。
「ホウエン地方………、マグマ団………アンタ、ホウエンのバカップルって知ってるか?」
「あっはっはっはっ! まさかそのフレーズが出てくるとはね。いや、うん、もちろん知ってるよ。こうしてあたしが生きてるのもルビーのおかげだろうしね」
どうやら旦那の方とは面識もあるようだ。
「それで? そんなアンタが俺たちに何か用か?」
「別に、ただアンタが今にも倒れそうなくらい顔色が悪かったから声をかけただけだよ」
「そりゃどうも」
礼を言いながらぐびぐびジュースを放り込んでいく。じんじんきたきたーっ、的なことはないが、体の中がサッパリしていくのが分かる。これ、意外とすげぇ飲み物なんじゃ………。
「んじゃ気をつけなよ。見たところ、アンタも『ルビー』と同じ体質のようだし」
「『ルビーたち』、じゃなくてか?」
「ルビーはトラブルに巻き込まれる上に女泣かせだろ?」
「「「ああ………」」」
「なぜそこでお前らが頷く」
俺も女泣かせって言いたいのか?
そんなことない…………ことも………。
「あら、心当たりがないなんて言わせないわよ?」
「いや、まあ唐突に動いたのは悪かったけどよ。何が起きてるのか確認しねぇと立場的にもダメだろ」
うん、心当たりがすげぇありまくる。今さっき言われたところだし。
「確認だけなら誰も咎めないわよ」
「そうだよっ! 確認しに行ってボロボロになって帰ってきたら、そりゃあ誰だって心配するよ!」
ちょいおこなユキノに服の裾をがっちりつかんでくるユイ。
どうしようか…………。
「トツカ、ヘルプ!」
「あーあ、ハチマンに僕のバトルを見ていてほしかったなー」
「ぐはっ!」
やめて!
その目が一番ダメージデカいのよ!
「だから、罰として何があったのか全部教えてね」
「イエスマム!」
「………ハチマン、キモい」
「んぐ………」
ルミルミ辛辣。
だって、仕方ないだろ。トツカだぞ? 天使だぞ? 天使の言うことは絶対なんだぞ。
「さて、負けたことだし、帰ってコンテストの準備でもしますかね」
それだけ言ってカガリは立ち去ってしまった。
この特性ジュースのレシピを教えてほしかったんだがなー………。
「…………」
うーん、さっきから何か違和感を感じる。いつもだったらちょっかいを出してきては引っ掻き回す誰かさんが……………。
「………姉さん?」
ユキノも違和感を感じとったらしい。
当の違和感の正体は一人距離を開けて立っていた。今日は早く終わったのかまだまだ日が高く、夕日を背景に、なんては言えない情景だ。
「おい、ヒキガヤ………?」
先生の肩から腕を解き、ゆら〜りゆら〜りハルノさんの前まで歩いていく。
ま、どうせボロボロになった俺を見て昨日のことを連想したんだろう。相手としては間違っちゃいないが、目的はどうやら違うようですよ。
「………色違い 瞳の奥の 伝説や 嘘か真か 幻影の覇者」
ふと思い出した詩歌。
自分が見ている世界が本物なのかという問いかけを、ハルノさんも連れているゾロアークで比喩した詩歌である。
「………な、なによ、急に」
「いえ、別に。ただ、ハルノさんには現実が見えてるのかなと」
この歌をハルノさんが知らないことはないだろう。そしてこの歌の意味することも。
「失礼ね。見えてるわよ」
「そりゃ、よかった。なら帰りましょうか」
「………もう、フラフラじゃない。肩貸してあげるからしっかり歩きなさい」
俺に顔を見られないような絶妙な動きで腕を掴まれ、肩に回されていく。そのまま歩き出したハルノさんだが、耳が真っ赤である。
「ありがとう、ハチマン。でも、ごめんね………」
消え入りそうな声は、波乱の予感がした。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「さて、みんなに話す前に何があったか洗いざらい吐いてもらおうじゃない」
「ねぇ、なんで俺は壁ドンされてんの?」
「やってみたかっただけよ」
「躊躇ねぇな………」
えー、あれからリザードンとジュカインを回復させるべく、みんなとは別れてポケモンセンターに来たわけなのだが。
リザードンたちの回復が終わると何故かユキノに壁ドンをされているというね。待っている間に俺も自称カガリからもらった木の実ジュースを飲んで復活を遂げた。あ、なんかこう言うとかっこいい。
ちなみにハルノさんとメグリ先輩は今日の戦績の記録を取りまとめる作業が残っているということで、俺とユキノをポケモンセンターに残してポケモン協会の方へ赴いている。
「………あまりときめきがなかったわね。やっぱり私はハチマンに壁ドンされる方が嬉しいわ」
「ねぇ、よくこんな公衆の面前でそんなこと言えるな。俺はさっきから周りの目が怖いんだけど」
うーん、と深く考え込みながら歩き出したユキノを追い、外へと出る。
ようやく肩を借りなくても一人で歩けるまでには俺も回復した。
「あら、周りなんかどうでもいいのよ。私たちには私たちの世界があるんだから」
「ちょっとー? 危ない人みたいな発言やめてくださいますー? 本当に危ない人としてしょっ引かれるぞ」
スタスタと歩くユキノの横に並んだけど、これちょっと距離あけた方が身のためではなかろうか………。
「それで、体の方はもういいの?」
「ああ、さっきの元マグマ団には感謝だな。あの木の実のジュースのおかげで力が湧いてきた」
「………全く、心配するこっちの身にもなって欲しいものだわ。毎回心臓に悪くて、いくつあっても足りないくらいよ」
「へいへい、俺が悪ぅございました。俺も何がなんだがよく分かっちゃいねぇ………」
「あなたが分からないことなんて、私にも分からないわよ」
「そりゃそうだろ。俺が上手く説明できないんだ。ユキノが理解できるとは思えない」
ほんと、マジであれはなんだったんだろうな。
「………それでも聞くわ」
「説明に文句は言うなよ」
くわっと顔を上げてきたその目には何かを覚悟したかのような色が見えた。
ここまで言われたら、俺も言わざるを得ないので仕方なく新高給を始める。
「すー……はー………、リザードンが暴走してゲッコウガのように俺と視界を同調させてきたが、なんか俺まで暴走しかけた」
「えっ………?」
スタスタと歩いていたユキノの足が急に止まった。急に止まるからちょっとビビった。
「ほら、やっぱ「もう一回言って」り………、だからサカキのスピアーに攻撃されたリザードンが暴走して、ゲッコウガがメガシンカを習得するために俺と視界を同調させたように、リザードンも視界を同調させてきたかと思ったら、俺まで暴走しかけたんだって」
「うそ………、でしょ……………また、あの力が………」
「はっ? えっ、なに? お前、知ってる感じ?」
わなわなと震えだすユキノ。
なんか思い当たる過去があるらしい。
「おーい」
「…………………」
トリップを始めたのか、全く反応がない。
「ユキノさーん?」
「………まさか『レッドプラン』って…………」
「はい?」
「ハチマン、その力に呑まれちゃダメよ。あれはいずれ二人の身を滅ぼすわ。次は、記憶だけじゃすまないかもしれないのよ」
………ん?
記憶………?
最終兵器吸い取った反動で記憶の大部分を失ったが、それ以前に記憶がなくなってたのって………。
「………それ、ハルノさんは知ってるのか?」
「ッ………姉さん、まさか!?」
「お、おい」
「ハチマン、急ぐわよ。姉さんがバカな考えを起こす前に止めないと」
急に走り出すなよ。
「俺まだロケット団に襲われたって言ってないんだがな………」
「昨日の今日よ。タイミングが良すぎるわ。あれだけ警戒していた姉さんなら、ロケット団に結びつけてもおかしくないもの」
「そんな単純な人だったか?」
「………何があったのかは分からないわ。でもロケット団に対して異常なまでに反応を示してる。しかも自分の作った計画が悪用されて被験者となった人が目の前にいるのよ。その被験者や私たちが狙われるともなれば、いくら姉さんでも罪悪感や責任感を強く感じてしまうでしょうね」
まあ、ボロボロな俺を見て静かだったからな。
「………分かった。取り敢えずポケモン協会だな」
「ええ」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「メグリ、退きなさい!」
「いやです!」
「私に逆らうつもり?」
「今のはるさんは私の上司じゃありません!」
「そう、だったら力尽くでもいかせてもらうわよ! カメックス、バンギラス!」
「フシギバナ、エンペルト、お願い!」
「カメックス、あまごい!」
「エンペルト、バンギラスにアクアジェット!」
「バンギラス、かみなり!」
「フシギバナ、はっぱカッター!」
おいおい、どうなってるんだ?
ポケモン協会に戻ってきてみれば、通路でなんかバトルが始まってんだけど。今は誰もいないし来ないだろうけど、客がいたらいい迷惑だぞ。
「はるさん、さっきヒキガヤ君に嘘つきましたよね。遠回しに忠告してたのに」
「そんなこと、分かってるわよ。そういうところに鋭いのがハチマンだもの。でも今回ばかりはそうもいかないわ。またハチマンを巻き込んでしまえば………」
「顔を向けられない何かがあるのは分かりますよ! 何年の付き合いだと思ってるんですか!」
「だったら、黙って行かせなさい! ハチマンが死ぬ可能性だってあるのよ!」
「だからこそじゃないですか! ヒキガヤ君の凄さは私よりもはるさんの方がよほど知っているはずです!」
「知っているからこそよ! 無自覚だけど彼は他人を優先に考える生き物だわ。そのハチマンが今回はターケットなのよ!」
「何を証拠に言えるんですか! まだヒキガヤ君から何があったのかも確かめていないってのに!」
「証拠ならあるわ! 今カロスにはロケット団が来ているのよ。それに見たでしょ、ボロボロのハチマンを。ハチマンはロケット団のボス、サカキのお気に入りよ。………もう分かるでしょ!」
「それこそ本人に確かめるべきじゃないですか」
「できるわけないじゃない! 全部私が悪いんだから!」
「それじゃ半年前と同じじゃないですか! 結局、何もかもを自分のせいにして、勝手に責任を感じて! 一人で突っ走って!」
「同じでも同じじゃなくてもこれは私が解決しなきゃいけない問題なのよ! ハチマンだけじゃない。ユキノちゃんにだって関わってくることなんだから!」
「はるさんの分からず屋! 行くよ、フシギバナ。メガシンカ!」
「カメックス、こっちもメガシンカよ!」
うわー、とうとうメガシンカまでしちゃったよ。
というかユキノさーん? 体力ないにもほどがあるだろ。しかも無駄に俺に寄りかかって息を荒くして。こんな時でもなければ思わず抱きしめちまうだろうが。他では絶対やるなよ。
「フシギバナ、ハードプラント! エンペルト、ハイドロポンプ!」
「カメックス、じわれ! バンギラス、はかいこうせん!」
げっ!
ここでそんな技ばかり使われたら建物がいくつあってもありねぇっての!
「ダーク………チッ、いないか。エンテイ、せいなるほのお!」
くそ、こんな時に限ってダークライはいねぇし。まあ、トレーナーが現れたんだからそれが普通か。逆に今までなぜ俺といたのか不思議でしかない。
「「えっ!?」」
突然のことに驚くお二人さん。
「やるならせめて外でやってくれませんかね」
「ハチマン!?」
「ヒキガヤ君!?」
炎に飲み込まれて意気消沈しているポケモンたちを他所にトレーナー二人がこっちを向いてきた。
「って、おい、ユキノ?」
すると俺の腕の中からするっとユキノが抜け出し、スタスタとハルノさんの方へと行ってしまった。
そしてパチンッ! と。
頬を叩いた。
「ッ………、なに、するのよ」
「なにするのよ、はこっちのセリフよ」
あ、オニノシタになってるわ。
今度は姉妹ゲンカに発展するのかなー。やだなー、怖いなー。
「勝手な妄想で動かれてはこちらもいい迷惑だわ」
「妄想じゃないわよ!」
「ええ、そうね。確かにハチマンを襲ったのはロケット団。サカキよ。それに恐らく姉さんの言う『レッドプラン』なるものが深く関わっている可能性だってあるわ」
「だったら!」
「だったらなぜ止めるのか、かしら? そんなの当然じゃない。姉さんも結局ハチマンと同じよ。自分の身を汚して、省みないで突っ走る。半年前と何も変わってないわ。駄々をこねるその姿、醜いだけよ」
「ッ!?」
「ほら、やっぱり現実が見えてないじゃない」
「あうっ!?」
相当頭に血が上っているのか、いつもの冷静さが全くなくなっている。ユキノの口撃にも過剰に反応をしているし、およそユキノシタハルノとは思えない姿を醸している。
だからなのか俺が近づいても一向に気付く気配がなく、後ろからチョップを入れることができた。
「痛い痛い痛いっ、あうっ」
二発三発四発とまるでリズムを刻むように繰り返し、最後にデコピン。
「なん、なのよ〜」
デコピンが効いたのか、後頭部を抑えてこっちを向いてきた。
目はすでに涙目である。
「全く………、狙われる本人よりも過剰になりすぎでしょ。危機感とかのレベルを通り越してるぞ」
「ふぇっ」
覇気も抜けてしまったハルノさんを胸の中へと引き込んだ。
「なあ、ハルノ。昨日も言ったけど、俺は別にこんな体にしたハルノを見捨てる気は毛頭ないぞ?」
「………だからじゃない。こんな優しくされたら、余計に………苦しいわよ」
ぎゅうっと俺の背中を掴んできた。
ーーああ、そうだ。罪悪感とか責任感ってのは優しくされればされるほど、膨らんでいくんだったな。悪いことをしたやつに罰を与えるのは、その均衡を保つため。俺は逆に罪悪感や責任感を増幅させちまってったってことだ。
「だったら罰でも受けてもらおうか」
「………今更罰なんて………」
「ハルノの人生は全部俺のものな」
「「「えっ?」」」
誰だよこれ。
絶対俺じゃない。俺じゃないったら俺じゃない。こんなハヤマが言いそうな言葉を俺が言う日がやってくるとか…………。
「そ、それって………」
「あわ、あわわわわっ」
「一生俺に奉仕するんだ。どうだ、重い罰だろ?」
「………重いにもほどがあるわね………。要はそれ結婚じゃない」
「ばっかばか、メイドという選択もあるだろうが」
「姉さんの目を見てそれ言える?」
「……………」
無理だよ。メイドという言葉に今にも泣きそうになっているし。というか罰なのに喜ばせるって、もうそれ罰じゃなくね?
「それに正妻である私には一度も言ってくれたことないじゃない」
「はっ? だって言う必要ないだろ。ユキノは俺の正妻なんだろ?」
「…………意味が分からないわ」
「だから、ユキノはすでに俺の嫁になってんじゃん」
「ぁぅ……………」
ユキノ、轟沈。
「で、だ。夫婦ってのは隠し事はない方がいいと聞く」
「卑怯よ………それ」
「だって罰だし」
これからは俺も二人に隠し事が出来なくなるわけだ。まあ隠すようなことなんてもうないんだが。覚えてないんだから話しようもないし。
「………もう好きにしなさいよ。私の負けよ、バカハチマン」
ハルノ、轟沈。
「そんじゃ、まずはその口で約束してもらいますかね」
「「な、なにを言わせるつもり………?」」
「決まってるだろ。『もう勝手に一人で動いたりしません』って」
「だったら、あなたも約束しなさい。じゃなきゃ言わないわ」
「ああ、いいぞ。と言っても今回みたいなのはどうしようもないが」
「まあ、今回のようなケースは見逃してあげるとしましょう」
「………なんか、俺が誓わされる形になってない?」
「気のせいじゃないかしら」
「この正妻、恐るべし………」
なにこの有無を言わせない圧力。さっきまで顔を真っ赤にして轟沈してたくせに復活早すぎるでしょ。ハルノなんかまだ俺の胸に顔をぐりぐり押し付けてるぞ。
「勢いで嫁が二人できましたけど、どうしましょうか。メグリ先輩」
「本気のヒキガヤ君がいろんな意味で怖いよ………」
ひとまず、これからのことを話す前に誓いの言葉を言うことになった。
こうでもしなや、俺もハルノも一人でやっちゃうタイプだからな。言ったところで一人で動く可能性すら否定できないし。
ええ、ええ、極力善処しますとも!