カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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あけましておめでとうございます。

大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。
色々と話すことがありますが、後書きで。


23話

 うわー、恥ずっ………。

 公衆の面前でこんな格好とか。

 いつ以来だよ。

 マントって………マントっておい…………。

 

『さあ、いよいよ本日最後のバトル! 新四天王の実力は一体どれほどなのか!! 皆さん、期待が膨らむ一方でしょう!!』

『いよいよだね』

『ええ、いよいよです』

『私も実際にこの目で確かめたわけではないもの。興味深いわ』

 

 今日で本戦出場者全員が初戦を終えることになる。そのトリが自分たちだっていうのだから、気が重い。まあ、ユキノと俺の対戦日はハルノが決めてしまったんだがな。俺たち二人を除いた二十二人をランダムで決めたのだ。どうしたって俺はこの期待の眼差しを受けることは決定していたわけだ。

 やだやだ。

 

「双方、準備は?」

「いつでも」

「こっちも大丈夫です」

「それでは、バトル開始!」

 

 審判の合図でいよいよバトルが始まった。

 

「ショコラ! いくよ!」

「出たい奴、早い者勝ちだぞ」

「ヘゥガッ!」

 

 切り込み隊長はヘルガーが行うらしい。リザードンもジュカインも昨日散々暴れたから別に出る気がないのかもしれない。というか昨日の疲れが残ってるんだろうな。まあ、なんにせよヘルガーに頑張ってもらおう。

 

「こわいかお!」

 

 ユイの一番手はグランブルか。

 グランブルはフェアリータイプ。元々ノーマルタイプに分類されていたが、フェアリータイプを提言したことでそちら側に属するようになったポケモンだ。

 そもそもノーマルタイプというのが曖昧な定義である。一言でいえば他のタイプに属さないもの、分類できないものが一貫してノーマルタイプに振り分けられる。覚える技も幅広く、タイプにバラつきがあるため、定義が難しいらしい。

 

「目を閉じろ」

 

 こわいかおで恐怖心を煽り立て、硬直させようという算段らしいな。

 だが、見なければ効果はない。

 

「ショコラ、今のうちにインファイト!」

 

 なるほど、目を閉じた瞬間を狙って高速で打ち出す技を合わせてきたのか。

 これは恐らくコルニの入れ知恵だろう。それにあの腰に巻いた黒い帯。威力を高めるものかもしれない。注意しておくべきだな。

 

「バク転二回からのアイアンテール」

 

 飛び込んでくるグランブルをバク転で躱し、二回目で距離を取ると、着地の踏ん張る力を利用し地面を蹴り上げ、一気に近づいていく。

 

「ストーンエッジ!」

 

 グランブルはヘルガーが躱してスカした両腕を地面に連続で叩きつけ、盛り上がって出来た岩が次々と襲いかかってきた。

 技と技の間に無駄がない。失敗しようが次の展開に持っていけるところまで成長したってことか?

 あるいは全て先に練られていた展開であるか。

 どちらにしても判断を下すのはユイだ。トレーナーとして見極めることが出来なければ上手く流れが掴めない。その点からいけば、ユイはこの半年でかなりの成長を遂げている。

 

「………へぇ、随分とバトル慣れしたじゃねぇの」

「そりゃコルニちゃんやみんなに鍛えてもらったもん」

 

 ヘルガーが鋼の尻尾を盛り上がった岩に叩きつけ、粉砕していく。

 

『さ、最初から息をするのも忘れてしまうような激しい攻防! 相手が四天王だとは思えない白熱したバトルとなっております!! カルネさん、最後の四天王はどのような方なのでしょうか!?』

『申し訳ありませんが、私も余り彼のことは知りません。師匠やコルニがいたく気に入った人物ではあるのだけれど。実力がいかほどなのか私にも分からないのです。私よりもこっちの二人の方がよくご存知かと』

 

 俺の紹介が入りそうなため、ユイが「どうする?」というジェスチャーを送ってきた。俺は解説席の方を親指で指して「聞いてろ」と合図を送っておいた。

 

『では、三冠王にお聞きしたいと思います!』

『彼は………そうね、他の四天王の方たちみたいに専門タイプはありません。………ないというより全てのタイプが専門と言ってもいいでしょう。彼はどんなポケモンでも力を最大限引き出してくれます』

『す、全てのタイプが専門、ですか………』

『あれ? でもほのおタイプが専門だから選んだんじゃなかったっけ?』

『ええ、まあ。割とほのおタイプのポケモンが多いですし、最初のポケモンもほのおタイプですし、そういう意味では彼の専門タイプはほのおタイプと言ってもいいでしょうね』

『いやー、ほんと彼は面白いからね。ポケモンと同じくらい研究してみたいよ』

『………斬られても知りませんよ?』

『あっはっはっ! 斬らないよ、彼は。縁は切られそうだけど』

『誰も上手いこと言えとは言ってませんから………』

「ちょっとゆきのん! いつ再開すればいいの?!」

「長ぇよ………」

 

 折角待ってやってるってのに………。ユイの紹介もしてやれよ。思わずツッコミを入れてるぞ。

 

『それにしてもあの子、そんな相手によく物怖じせず向かっていけるわね』

『私の親友ですから。どんな相手でも立ち向かっていけるよう叩きこんであります』

『あら、三冠王を師に持つなんて』

『師は私だけじゃありませんよ。あそこにいる変なマントとハットを着けた全くカッコよくない男も師の一人です』

『お、久しぶりの罵倒だね』

 

 やっぱこれダサいよな………。

 着たくて着てるんじゃないから許して………。

 

「なあ、ユイ。これ放っておいたらずっと続くぞ」

「あははは………、ゆきのんよく喋るなー」

 

 流石のユイでもフォローはできないらしい。

 ユキノさーん、いつもより暴走してますよー。

 

「んじゃ、再開といきますか。ヘルガー、アイアンテールで尻尾を地面に擦らせたまま、フィールド一周だ」

「ヘゥッ!」

 

 俺の指示に軽く返事をすると、ヘルガーは円を描くようにフィールドを走り始めた。

 

「ショコラ、ストーンエッジ!」

 

 ヘルガーを追いかけるように地面から岩が突き出してくる。

 

「尻尾で薙ぎ払え」

 

 円の上に来た岩を鋼の尻尾で砕き、再び走り始めた。

 

「もう一度ストーンエッジ!」

 

 それを追いかけるようにまたしても岩が地面から突き出してくる。

 今度は何の命令もなしにヘルガーが自ら同じ対処を行った。砕けた岩の破片が描いている円の周りに落ちていく。

 

「行かせないよ! ショコラ、こわいかお!」

 

 なんてやっていたら、グランブルがヘルガーの前に立ちふさがった。誰とも言えない顔が睨みつけるオーラを出し、威嚇してくる。

 

「ヘルガー、もっと怖いもんを見せてやれ。あくのはどう」

 

 尻尾で円を描きながら、黒いオーラを解き放った。

 

「ひっ?!」

「ブルォ!?」

「尻尾で薙ぎ払え」

 

 怯んでいる隙にヘルガーがグランブルを横薙ぎに払った。そしてすぐさま円の続きを描いていく。

 吹き飛ばされたグランブルは自分が盛り上げた岩に激突し、少なからず追加ダメージが入ったらしい。

 

『一体ヘルガーは何をしようとしているのでしょうかっ?! 円を描くことに拘るかのようにグランブルの攻撃を次々といなしていきます!!』

『何か分かるかい?』

『いえ、私にもさっぱり。ただ、何かあるのは確かですね』

 

 ユキノもまだ意図は掴めてないか。

 なら、完成したときに驚くがいい。

 

「ショコラ、まだいけるよね! 岩にインファイト!」

「ヘルガー、次は大の炎を地面に流せ」

 

 お互い次の攻撃の準備に入ったというところか。

 はてさて、ユイは何を狙ってくるのやら。

 

「マジカルシャイン!」

 

 体内からエネルギーを放出させ、光を迸らせると、その衝撃で砕いた岩の破片がヘルガーに向けて飛ばされてくる。さすがに尻尾で弾き返せるような量ではない。

 

「だいもんじで壁だ」

 

 自分の目の前に「大」の字型の炎を作り出し、その炎を回して飛んでくる破片を燃やし始める。

 

「今だよ、ストーンエッジ!」

 

 なるほど、俺が何かしようとしているのは判っているってことか。それを実行するためにもここは防御に専念すると見たのだろう。その隙を突いて攻撃してくるのは、まあ妥当だな。

 

「だがまあ、それが発火装置になるんだがな」

「えっ?」

 

 地面から次々と岩が盛り上がって出てくる。だが、その岩の一つが描いた円の線上に達したとき、その岩から炎が噴き出した。その勢いは岩をも砕き、まるで火山の噴火のようである。

 

「って、ストーンエッジの威力出すぎだろ………。こっちまで飛んでくるじゃねぇか。ヘルガー、あくのはどうでだいもんじを覆え!」

 

 ここまでストーンエッジの威力が高いとなるとやはりあの黒い帯が要因だろう。恐らくは達人の帯。効果抜群の技の威力を高める道具だ。

 

「ショコラ、マジカルシャイン!」

 

 一か所から始まった噴火活動は次々と円状に発生し、火山岩のように吹き飛んだ岩々が誰彼構わず襲い掛かってきた。

 ユイの方に飛んでいってないだろうか………。

 ちょっと不安になってきた。

 

「ヘルガー、すまんがユイの方にも頼む」

「ヘゥッ!」

 

 大の字を黒いオーラで円形に囲ってできた壁を置いて、ヘルガーはユイの方へと走っていく。身軽な身体は降り注ぐ岩々を掻い潜り消えていった。

 

「ヘ、ヘルガー?!」

 

 どうやらユイの下へたどり着いたらしい。

 ヘルガーが自分を守っていることに驚いているようだ

 

「これはさすがに威力があり過ぎるな………………」

 

 試しにやってみたが、これは公式戦で使うような戦法じゃないな。下手したらこの会場がぶっ壊れそうである。

 

「ショコラ!?」

 

 ようやく噴火活動も収まり、立ち昇っていた黒い煙が晴れると、散りばめられた岩々の中にフラフラと起き上がろうと踏ん張っているグランブルの姿があった。

 だが、それも虚しくドサっと突っ伏した。

 

「グ、グランブル、せ、せせせ戦闘不能!」

 

 いやー危なかった。

 出す技全てがヘルガーの弱点を突いたり、その補助になったり、相当分析されているのが分かる。先にバトルのシナリオを考えた奴がいるのか、ユイが自ら練り上げたのか。定かではないがどちらにしても半年前のユイには到底無理な話だ。シナリオを再現するにもバトル慣れしていなければならないからな。

 

『………な、ななななんだったのでしょうか、今のは!! フィールド上で火山が噴火したような、そんな大技が放たれましたっ!! 新四天王、とんでもない実力者だったぁぁぁああああああっっ!!』

「お疲れさま、ゆっくり休んでね」

『………なにっ、今の!?』

『はあ………、また新しい技を創り出したりして………』

『いいねー、いいよー! これだよこれ! 彼といえば、こういう大技だよっ!』

 

 それにしてもよくここまで育ったもんだ。最初は結構酷かったってのに。一体ユキノはどんな教え方をしてきたんだか。あとコルニもか。ジムリーダーが一トレーナーに肩入れするのも珍しい事である。

 

「………あーあ、やっぱり強いなー」

「そりゃ俺とお前じゃトレーナー歴が全然違うんだから、強くて当たり前だろ」

「コルニちゃんといろいろ作戦立てて、上手く仕掛けるまではできたのに、あんな大技を作り出すなんて聞いてないよ」

「………使いどころがなかったんでな。ユイが鍛えてる間、俺だってこいつらの攻撃パターンを編み出したりしてたんだぞ」

 

 フレア団の事件以来、俺たちももっと攻撃パターンを増やさなければならないと、いろいろ練ってきた。リザードンやゲッコウガはすでにいろんなパターンの攻撃が可能であるが、ジュカインやヘルガーにはバリエーションがあまりなかった。しかも公式戦ともなれば技の使用制限もかかってくる。いかに少ない技で大技に変えるか、それが今日までの課題としていたのだ。

 そしてできたのが、あの噴火擬きというわけだ。

 

「だよね………。ヒッキー! 手加減なんかしないでよ! 今のあたしがヒッキーにどこまで通用するのか試したいから!」

「それは構わんが、またあの噴火活動とか起こすかもしれんぞ?」

「逆にあれを超えられればヒッキーを倒せる確率も上がるってことでしょ!」

「はあ………、前向きなのはいいことだが、俺を見くびってもらっちゃ困るな」

『いやー、最初から全開だね』

『少なくともユイは、ですけど』

『……あれでまだ本気を出してないっていうの?』

『ええ、恐らくまだ序の口です』

「まずはヘルガーを倒すよ、クッキー!」

 

 ユイの二体目はウインディか。同じほのおタイプをぶつけてくるとは。

 だが、ヘルガーの特性を忘れているのだろうか。こいつの特性はもらいび。炎技を受けることで強くなるんだぞ。まあ、あっちも特性がもらいびなんだが。炎を当てなければどうってことはない。

 

「しんそく!」

 

 よかった、一応は理解しているようだ………。まあ、ユキノのスパルタ授業を受けてきたんだから、俺たちのポケモンくらいなら知識として残っているか。

 

「つーか、速ぇよ」

 

 一瞬でヘルガーの前に現れて体当たりしてきたぞ。

 トレーナーの俺が反応できなかったわ。

 

「へへっ、まずは一発!」

「ヘルガー、生きてるかー?」

「ヘゥッ!」

 

 突き飛ばされたヘルガーはまだまだやる気なようだ。なら俺もそれに応えなきゃな。

 

「ヘルガー、だいもんじで壁だ。それから波導で覆え」

「ヘッガッ!」

「クッキー、りゅうのいぶき!」

「ウィッ、ガァァッ!」

 

 目の前に大の字の炎を作り出し、それを黒いオーラで覆っていく。

 さっきも作りだした壁が完成した。これで時間稼ぎにはなるだろう。

 

「ヘルガー、波導を集めろ」

 

 赤と青の息吹きを大文字壁で受け止め、その間に黒いオーラを頭上に球体へと練っていく。

 

「クッキー!」

 

 もっと! という合図を受け、ウインディが出力を上げてきた。どんどん炎が消えていく。

 

「纏えっ」

「ヘェッ、ガァァァアアアアアアッッ!!」

 

 頭上の黒い球体を自分に落とし、衝撃で破裂した黒いオーラがヘルガーの白い体毛に吸い込まれていく。体毛は黒く染め上げられ、まるで悪魔のように禍々しくなり、寒気のする風が吹いた。

 これぞダークポケモン。黒い波導をダークオーラと見なし、一時的にダーク化に近い状態へと持っていく、一度ダークポケモンになったヘルガーだからこそできる芸当だ。

 

「ダークストーム」

 

 体毛から吸収した黒い波導を口から吐き出し、竜巻のように回転させて、ウインディへと解き放った。

 

「ク、クッキー! 押し返して!」

 

 襲い掛かる黒い竜巻に若干怯みながらも、ユイが指示を出した。それに応えるかのように赤と青の息吹きの形を変えてきた。

 

「………さすがはでんせつポケモン。息吹きを波導に昇華させてきたか」

 

 竜を模した波導へと変化し、黒い竜巻に噛みつかれた。噛まれた黒い波導は霧散し、再集結していく。

 

「呑み込め」

「クッキー、しんそく!」

 

 黒いオーラが再度ウインディを吞み込もうとするも一気に駆け抜け、今度はオーラ全てを霧散させてしまった。

 

「へへっ、いいよ、クッキー! 振り返ってりゅうのはどう!」

 

 三歩のステップを踏み、向きを変え、竜を模した波導を放ってきた。

 

「波導には波導だっ」

 

 どうやら俺も気持ちが高ぶってきたらしい。

 段々攻撃に遠慮がなくなってきた。やりたいことが構わずやれるって感じだ。それもこれもユイがかなり成長し、俺のバトルについてこれるようになったからだろう。それが分かったから俺も思う存分やれるってわけだ。

 

「もう一度しんそく!」

「アイアンテールでずらせっ」

 

 竜を模した波導と黒い波導がぶつかり、オーラが弾けた。煙幕よろしくフィールドに広がり、視界を塞いでいく。そんな中、一直線に突っ込んでくる影。それを鋼の尻尾で弾いて躱し、逆に背後を取…………れなかった。

 

「ヘルガー!」

 

 スカしたことで変な体勢となり、そのまま地面に身体を叩きつけた。

 何故外したのか原因を探るためにウインディを見やると鱗粉のような、粉のようなものが周りに舞っていた。そのせいでウインディの姿が一瞬ぼやけて見えてしまう。

 

「ダークストーム!」

 

 再度黒い竜巻を作り出し、ウインディを背後から呑み込んだ。

 今度は当たった。

 ぐるぐると竜巻に回され身動ぎもないまま天へと打ち上げられ、重力に引っ張られ急下降してくる。

 

「クッキー! しんそく!」

「ヘルガー、メガシンカ!」

 

 もう使っても大丈夫だろう。

 俺はポケットからキーストーンを取り出し、ヘルガーに持たせたメガストーンと共鳴させた。

 石から解き放たれる光と光が結び合い、ヘルガーの姿を変えていく。同時に眩い光が一瞬で消えたウインディを目の前で、透明で薄い壁でもあるかのような状態で行動を遮っていた。

 

『ここでメガシンカだぁぁぁああああああっっ!! 新四天王もメガシンカの使い手! これで四天王全員がメガシンカの使い手であることが判明しましたっ!! この大会、今後荒れることは確定でしょうっ!!』

「そのままインファイト!!」

 

 強引に突破しようという試みだろうか。

 血気盛んなのはいいことだが、少々強引すぎるような………。

 

「はっ?」

 

 なんかマジで突破されそうな勢いがあるぞ。どういう育て方をしたらそうなるんだ。

 

「ヘルガー、ダークストーム!」

 

 だったら押し返すまでだ。

 黒い波導を操り、再三に渡り竜巻を起こすと、目の前にいたウインディを呑み込んだ。だがそれでも連続打撃は止まらない。四足を高速で動かしているため小さな風が起き、竜巻に小さな穴が生じ始めた。

 

「りゅうのはどう!」

 

 とどめとばかりに竜を模した波導が黒い波導を突き破った。

 

「ヘルガー、アイアンテールで地面を叩きつけろ!」

「ヘゥガッ!」

「クッキー、しんそく!」

 

 前宙で鋼の尻尾を地面に叩きつけ、さっきの噴火活動で出てきた火山岩を宙に浮かした。

 

「岩を黒い波導で操れ!」

「インファイト!」

 

 それを黒いオーラで包み込み、ウインディに向けて撃ち出していく。だが、神速状態からさらに高速で四足を突き出し、飛んでくる岩を次々と砕き始めた。

 

「いっけぇぇぇえええええええええっっ!!」

「ダークストーム!」

 

 会場に響くユイの咆哮。

 ヘルガーは時間稼ぎをしている間に集めた黒い波導で巨大な竜巻を作り出し、ウインディに襲いかかった。

 

「ッ!?」

 

 な、なんだっ?!

 また外れた?!

 というか外すように仕向けられてる?

 それにまた鱗粉のようなものがウインディの周りを舞っている。

 ……………粉、技が当たらない………何か、そんな道具があったような………。

 

「………ああ、そういうことか。まさかユイがそんな道具を使ってくるとは」

 

 ウインディがどこに身につけているのかは知らないが、恐らくあの鱗粉のようなものは光の粉というものだ。持たせていると自分の周りに粉が舞い、光の屈折を生み出し、焦点をぼやかしてしまう効果がある。そんな道具をユイが持たせてくるとか全く想像してなかったぞ。つか、どこで手に入れた。

 仕方ない、これもユイの策の一つだ。一本取られたのは認めないとな。けどまあ、やられてばかりでは終わらせんよ。

 

「ヘルガー、みちづれだ」

 

 ヘルガー、四つ目の技。

 こんなこともあろうかと一枠使わずにバトルを進めていた。その分、あくのはどうのバリエーションを増やしたってわけだ。

 リザードンもゲッコウガも独自の技を持ってるし、ヘルガーもこれくらいやらないとな。

 

「ヘルガー、戦闘不能!」

 

 ヘルガーはメガシンカを解き倒れていた。反対にウインディは立っていたのだが………。

 

「クッキー?!」

 

 ドサッと力尽きたように地面に伏した。

 

「ウインディ、戦闘不能!」

 

 いやはや、まさかユイにヘルガーを倒される日が来るとは。

 

『両者戦闘不能!! ついに四天王のポケモンが倒れたぁぁぁああああああっっ!! しかし、しかしっ!! ただでは倒れない! ヘルガー、ウインディを道連れにしましたっ!!』

『見た目に反してパワフルな子ね。力押しでメガヘルガーを倒しちゃうなんて。でもやっぱり彼は上手いわね。みちづれでペースを維持したわ』

『まさかここまで強くなっているとは思いませんでした。これは私も負ける日がくるかもしれませんね』

『いやー、ポケモンを渡した身としては嬉しい限りだね』

 

「お疲れさん」

「ありがと、クッキー。初めてヒッキーのポケモンを倒せたよ」

 

 うん、初めてユイに負けたわ。

 連戦だったとはいえ、半年前のユイなら不意をつかなければ俺のポケモンを追い込むこともできなかった。コマチやイロハの成長スピードが速かった分、ユイが諦めないか心配だったが、着実に経験を積んでいたようだ。

 

『ところでプラターヌ博士! ヘルガーは技を五つ使っていたように思うのですが………』

『五つ?』

『アイアンテール、だいもんじ、あくのはどう、ダークストームとかいう技、そして最後のみちづれ。確かに五つ使っているように感じますが、実際は四つで規定違反ではありません』

『………どういうこと? 確かにダークストームなんて技、聞いたことがないけれど。でもまだ私たちが知らないだけで他の地方にはある技かもしれないし』

『そうですね、カルネさんの仰る通りです。ダークストームという技も元はオーレ地方の技でしょう。オーレ地方ではある組織がダークオーラと呼ばれるものでポケモンをダーク化し、凶暴なポケモンへと変化させる事件がありました。そしてそのダークポケモンたちが使う技にダーク技というものがあります。彼はそこからヒントを経て、黒い波導ーーあくのはどうでダーク技を再現した、そんなところでしょうね。彼はそういう人です。一つの技からいろんな形に発展させ、いくつもの技を使っているかのような錯覚を与えてきたり、相手の技を利用して大技を作り出したりするトレーナーなんです』

『一つの技からいろんな形に………、それに相手の技を利用した大技だなんて……………』

『さっきの噴火がいい例ですよ。あれは先に円を描き、その隙間に炎を流し込む。これで技の仕掛けは終了です。後は地面を盛り上げるストーンエッジを相手が使ってくるのを待つだけ。描いた円のライン上で地面が盛り上がれば、同時に炎も吹き上がり、勢いで小規模の爆発が起きて噴火活動が次々と始まっていく。恐らくこのような感じかと。ま、加減が分からずヘルガーにユイを守りに行かせるような思いつきの技でしょうけど』

『…………思いつきだけでそんなことをやってのけてしまうなんて、私に勝ち目があるのかしら…………』

「いくよ、マロン!」

「んじゃ、お次は誰だ」

「カイッ!」

 

 次はジュカインが行くのか。

 昨日のリザードンを気遣ってのことかもしれない。自分も結構がヤられてたってのに。

 残りは伝説のポケモンしかいないし、さすがに出すわけにもいかないと思ったのだろう。

 なら、なおさらこっちもジュカインの力を引き出してやらないとな。

 

『次はくさタイプ同士だぁぁぁああああああッッ!! さあ、どうなるこのバトル!!』

『そう言えば、以前コルニに聞かれた時、ジュカインが挙げられていたわ。本当にほのおタイプ以外のポケモンも使うのね』

『ただ使うだけではありませんよ。ポケモンたち自身も高い能力を持っています。例えばジュカインはくさタイプの技を全てマスターしているといいます。加えて他のタイプの技も覚えていますから、技の選択肢が多く、多彩な攻撃を仕掛けてくることでしょう。ユイにとっては新たな試練になるでしょうね』

「………なんかすげぇプレッシャーかけられてんな。」

「カイ………」

 

 ジュカインもやれやれって感じなようだ。

 当のユイはブリガロンに何か指示を出しているようだ。早速仕掛けてくる気なのかもしれない。

 

「マロン、ゴー!」

 

 まずは一直線に走りこんでくる。

 さて、どうしたものか。

 何の考えもなく突っ込んできているとは思えないし。

 

「取り合えず躱せっ」

 

 意図が読み取れないので、技を使わずに躱すことを選択。

 ジュカインは割と動きが重たい方に位置づけられるブリガロンの腕を掴み、足を引っかけて宙で一回転させた。

 

「マロン、ミサイルばり!」

「っ、ジュカイン離せ! つばめがえし!」

 

 なるほど。

 今のはこれをするために近づいてきたってことか。

 ジュカインがどう躱そうがどう受け止めようが、ミサイルばりで狙う算段であり、近距離からの攻撃ならば素早いジュカインといえど、躱せないと踏んだのだろう。しかもジュカインには効果抜群だ。いい策と言えよう。

 

「今だよ、突っ込んで!」

 

 背中から無数の針を飛ばして、地面に倒れたブリガロンがすぐさま起き上がり、またしてもジュカインへと突っ込んでいく。

 ジュカインはというと白い手刀で次々と針を落としていた。

 

「ウッドハンマー!」

 

 ブリガロンが大木の纏った腕を振り上げ、ジュカインへと一気に駆け寄ってくる。

 

「逃げ場がない、か……。ジュカイン、くさむすび!」

 

 ミサイルばりのせいで躱している暇もなさそうなので、次の技を使わせた。

 ブリガロンの足元から草が伸び、絡みついていくと、ブリガロンを宙吊りにしていく。

 

「つばめがえし!」

「マロン、ミサイルばり!」

 

 身動きが取れない間に攻撃を、と思ったが器用にミサイルばりで足に巻き付いた草に切り裂き、残りの針をジュカインへと飛ばしてきた。

 それをジュカインは白い手刀で叩き落としていく。

 

「もう一度、ミサイルばり!」

「ジュカイン、このままじゃキリがない。こっからは全開でいけ!」

「カイッ!」

 

 思いっきり地面を蹴り上げたジュカインが、ミサイルばりの僅かなタイムラグを見切り、当たるギリギリのところで頭や身体を反らして躱していった。

 

「つばめがえし!」

 

 あっという間にブリガロンの正面に辿り着き、白い手刀を振り下ろした。

 

「ニードルガード!」

 

 両腕を合わせて壁を作り、防御態勢の姿勢をとる。

 そこに手刀が刺さると腕から棘が伸び、逆にジュカインを攻撃してきた。それと同時に首から下げた何かからエネルギーを放出し、ブリガロンの身体へと吸収されていく。

 

「今だよ、ドレインパンチ!」

 

 ジュカインが反射的に仰け反った瞬間に、右腕を掬い上げてきた。その拳は体力を奪う能力を宿しており、当たるわけにもいかない。いかないのだが、躱せるタイミングでもない。かと言って新たに技を使うのも今後の選択肢が絞られてしまう。どうしたものか………。

 なんて考えている暇はない。

 

「ジュカイン、くさむすび!」

 

 バク転で地面に手を付けた時に、自分とブリガロンの足元から草を生やし、一本を自分を投げ上げ、一方はブリガロンに絡みついた。

 拘束されていくブリガロンの拳は立ち上がった草に当たり、ジュカインを捉えることはなく、そのまま伸ばした腕も草に固定されていく。

 

「ミサイルばり!」

 

 宙に投げ出されたジュカインに向けて、針がミサイルのように飛んできた。

 

「空気を蹴りつけろ! つばめがえし!」

 

 エアキックターンの要領で空気を強く蹴り出すと、重力を合わせて一気に落下した。

 

「戻ってマロン!」

 

 白い手刀が刺さる直前、赤い光が ブリガロンを包み込み、吸い込んでいった。

 

「シュウ、いくよ!」

 

 ユイのポケモンの中では一番まともな名前だと思うルカリオが交代で出てきた。

 このタイミングでの交代。何か企んでいるのだろう。ユイもルカリオもそういう目をしている。

 

「って、ちょっ! だからスカート捲らないでっていつも言ってるでしょ!」

 

 と思ったら急にユイの元へいき、ミニスカートに手をかけた。幸い捲れあがる前に押さえつけたため中は見えなかった。誰にも見えなかったはずだ。見た奴の目は潰す。

 

「ヒッキー、シュウだからこそできる技、見せてあげる!」

 

 ルカリオだからこそできる技か。

 波導かな。

 

「シュウ、散らばった針でミサイルばり!」

 

 波導だな。

 ジュカインがさっきから何度も地面に叩き落としている針を波導で操り、ミサイルばりのように全方位から狙ってきた。

 ブリガロンがこれまで何度もミサイルばりを撃ち出していたのは、このためだったのだろう。

 

「ジュカイン、両手で回転斬り!」

 

 数が多いなら手数を増やすまでだ。これまで右手の手刀のみだったのを両手にし、腕を広げて回転斬りでミサイルばりを粉々に砕いていく。これでルカリオに利用されることもない。

 

「………やっぱり効かないか……。だったらシュウ! あたしを使って!」

 

 はい?

 ユイを使う?

 

「ルガッ」

 

 ユイの元へ行くと、豊満な胸に手を伸ばした。

 おいこら、何してやがる。羨まけしからん!

 

『こ、これはっ………!』

『カルネさん、何か知っているのですか?』

『え、ええ………でもまさか、あの子が………』

 

 ルカリオは一気に手を引き、棒状の…………いや骨と表現する方がしっくりくるな。ってことはボーンラッシュの応用か? けど、ならどうしてユイから出す必要がある?

 

「はあ………はあ………、シュウ! ヴォーパルストライク!」

 

 ルカリオは左腕を前に突き出し、右肩に骨を乗せ、構えを取る。すると、骨にエネルギーが溜まっていき、地面を蹴りだして一気に突いてきた。

 

「そのままホリゾンタル・スクエア!」

 

 ジュカインが怯んだところに右から斬り、左から斬り、脇に潜り込んで回り込むと背後からまら右から斬り、左から斬り、スクエア状の衝撃波が周りに現れた。

 

「よくその技を知ってるな。お前も見たのか?」

「やっぱヒッキーも知ってたんだね………。これはゆきのんが前に教えてくれたの。『私はあまり使わないというか使ったことないのだけれど。覚えたらハチマンが喜ぶんじゃないかしら』って言ってたよ」

「ユキノの入れ知恵か。だったら、こっちもそれ相応にやらないとな」

 

 ユキノの入れ知恵ならしょうがない。

 こっちも全力を出すまでだ。

 

「ジュカイン、メガシンカ!」

 

 二つ目のキーストーンとジュカインの持つメガストーンが共鳴し始め、ジュカインの姿を変えていく。

 

『な、なんとメガシンカを複数操れる者がもう一人いたぁぁぁああああああっっ!!』

「シュウ、りゅうのはどう!」

 

 メガシンカしたところに竜を模した波導が襲い掛かってくる。

 

「ジュカイン、ハードプラント!」

 

 地面を叩き、太い根を起こして波導を貫いた。根の先はそのままルカリオ突き飛ばし、フィールドの形を変えてしまう。

 

『ここでくさタイプの究極技だぁぁぁああああああっっ!! メガシンカといい、この四天王! 類を見ない実力の持ち主ですっ!!』

「シュウ、大丈夫?!」

「ル、ルガ………」

「あ、武器が………」

「ルガゥ!」

 

 真っ二つに折れた骨棍棒。

 それに気づいたユイが戸惑いの声を上げた。

 

「ルゥ、ガッ!」

 

 ルカリオは二本に折れた骨棍棒を拾い、構えなおした。すると骨が伸び、二本の武器へと変化していく。

 

『まさかあの方法で作った骨棍棒が折れるだなんて………』

『あの方法……とは?』

『さっきのルカリオの骨棍棒の作り方よ。詳しくは他言できないのが心苦しいわ』

「シュウ………」

「ルガッ!」

「……うん、いくよ! ダブルサーキュラー!」

「ルガゥ!」

 

 地面を蹴り上げると一気に詰め寄り、右手の骨棍棒を左下から掬い上げてきた。

 

「ジュカイン、躱せ!」

「カイッ!」

 

 一歩下がり棍棒の間合いから離れる。続く左手の突きを右脇に通し、逆にルカリオの腕を掴み、背負い投げで地面に叩きつけた。

 

「くさむすび!」

 

 地面からは草を伸ばし、起き上がる前にルカリオを地面に固定していく。

 

「シュウ、波導を解放して!」

 

 だが、波導が破裂するかのように衝撃波を生み出し、草を引き千切った。

 

「りゅうのはどう!」

 

 両腕で身体を起こし、宙で身体を捻って着地と同時に竜を模した波導を撃ち出してきた。

 

「ハードプラント!」

 

 地面を叩き、太い根を起こす。今度は三方向に分かれ、竜を貫く他に、両側からルカリオに襲い掛かっていく。

 

「スターバースト、ストリーム!」

 

 着地したルカリオは両手の骨棍棒で高速で斬り裂き、斬り込んできた。両側の根は方向を変え、ルカリオの背後から追尾していき、時折一回転して背後の根も斬り裂いている。

 十六連撃。

 本来の技と同じヒット数で太い根を食い止めた。

 だが、ルカリオに硬直時間はない。

 

「ヴォーパルストライク!」

 

 すぐさま突撃に切り替え、一気に詰め寄ってくる。

 

「つばめがえし!」

 

 それを右の白い手刀で弾き、左の手刀を突き刺した。

 ルカリオが失敗したダブルサーキュラーである。

 

「………知ってるだけじゃなくて、やっぱり使えるんだ………。シュウ、スターバーストストリーム!」

「全ていなせ!」

 

 すぐに態勢を立て直し、ルカリオは二本の骨棍棒を振りかぶってきた。

 ジュカインは二本の手刀をクロスさせて受け止め押し返すと、すぐに横から骨棍棒を振り回してくる。

 それを右の手刀で流し、ルカリオの背後に回り込んだ。

 ルカリオはバク転でジュカインの頭上を取ると右の棍棒を突き刺してきた。

 それをジュカインは二歩下がることで躱し、空を切った骨が地面に突き刺さる。

 ジュカインはそこを見逃さず、地面を蹴り草を起こすと、骨棍棒を絡め取っていき、一本の機能を奪った。そして草がルカリオの腕まで届く直前、ルカリオが左の骨棍棒を地面に突き刺し、クレーターを作った。

 当然、地面から生える草もろとも双方の骨棍棒の自由が回復し、すぐさま握りなおして猛攻を続けてくる。

 

「シュウ、もっと! もっと速く!」

 

 ユイからはさらなる命令が下され、それを聞いたルカリオの動きが加速し始めた。

 

「おいおい、まさかしんそくを覚えたのか………?」

 

 地面を踏み込んだと思いきや、一瞬にしてジュカインの目の前に詰め寄っており、どうやら今ここで新たにしんそくを習得したようだ。

 

「ジュカイン、草で自分を作れ!」

 

 今ある技の中でこの動きに対応できそうなのは、ない。ただし、ルカリオの目を誤魔化すことくらいはできるだろう。

 

「カイッ!」

 

 ジュカインはルカリオの猛攻を両手の手刀でいなし、徐々に草を絡め合わせて、自分を模した草の模型を作り出していく。それは一体だけにとどまらず、二体三体とルカリオを包囲していった。

 

「ジュカイン、加速しろ!」

 

 一瞬。

 ルカリオがジュカインを模した草に気をやった瞬間に、今度はこっちから懐に入り込んでやった。そして、最後の一撃を右の手刀で流すと、左側から掬い上げるように斬りつけた。

 後ろに倒れ込むルカリオをそのまま尻尾で撃ち飛ばし、地面を叩く。

 

「ハードプラント!」

「シュウ、切り返してヴォーパルストライク!」

 

 ルカリオは地面に骨棍棒を突き刺し、減速すると、地面を蹴り返し一気に詰め寄ってきた。

 二本の骨棍棒は真っ直ぐと前に突き出され、太い根を真っ二つに斬り裂いていく。

 

「リーフストーム!」

 

 出し惜しみしている暇もないので最後の技を選択。ジュカインは尻尾を切り離し、風を生み出しながらルカリオに向けて撃ち飛ばした。

 太い根を全て斬り裂いたルカリオは、続けて飛ばした尻尾も真っ二つにしたが、同時に骨棍棒も粉々に砕けてしまった。

 

「シュウ!!」

 

 だが、すぐにユイの呼びかけに応じ、首から下げていたネックレスを引き千切ると赤い結晶を砕いた。

 

「はどうだんっ!!」

 

 弾丸状に集められていく波導に砕けた結晶が吸収されていき、弾丸が巨大化した。

 

「ハードプラント!」

 

 恐らくこれが最後の攻防だろう。

 波導や技ではない技を取り入れ、最後には道具も使い、メガシンカと互角にやり合うようになるとは………。

 全く、恐れいったぜ。

 

「ジュカイン、ルカリオ、ともに戦闘不能!」

『な、ななななんとっ! このバトル引き分けに終わったぁぁぁああああああっっ!? ユイ選手、四天王の、しかもメガシンカしたポケモン相手に食らいついていましたっ!!』

 

 フィールドに残っていたのはメガシンカを解いて、地面のクレーターの真ん中で倒れているジュカインと、太い根で突き飛ばされ、隔壁にめり込んでいるルカリオの姿だった。

 

「お疲れさん」

「シュウ、ありがとう。ゆっくり休んでね」

 

 常識離れなルカリオ相手によくやったもんだ。これで次メガシンカを習得していれば、確実に負けていたのはジュカインの方である。確かに昨日のダメージが残っており、全快の状態ではないとしても、負けるとは到底思えない。それくらい、ユイたちの成長っぷりは目を見張るものがあったというわけだ。

 

「マロン、次お願いね!」

 

 ユイも次のポケモンを出してきたことだし、俺も出すとしますか。

 

「んじゃま頼むぞ、リザードン」

「………シャア………」

 

 まあ、あまり乗り気じゃないわな。昨日の今日だし。

 しかもメガストーンを奪われて。

 

『とうとう出てきたね』

『ええ、メガシンカしたポケモン二体が倒されましたからね。彼も本気を出さざるを得ないのでしょう。………昨日のこともあるので、あまり無理はしてほしくありませんが』

『彼の切り札はリザードン、ということ?』

『そうですね。彼の最初のポケモンですし。元々彼はカロスに来るまで、リザードン一体でいろんなところを巡り歩いてきた人です。そんな彼とリザードンが織りなすバトルは、いつ見ても目を奪われます』

 

 さて、どうしたものか。

 あまりリザードンに本気を出させず、かといってそう簡単に倒せるような相手ではなくなったユイをどう攻略するか。

 

『コウガ』

「ゲッコウガ、どうした………?」

 

 いきなり繋いでくるとか何かあったのか?

 

『コウガ、コウコウガ!』

「………なるほど、俺一人でダメならお前もってか。確かにお前なら出来るかもしれないな。頼むぜゲッコウガ」

 

 どうやらゲッコウガもこっちの状況が分かっているらしい。その上で提案をしてきたというわけだ。

 正直その発想はなかった。だが、俺とこうして繋がっているゲッコウガなら、そのまま俺の負担の半分を担うこともできるかもしらない。というかゲッコウガがやるというのだからできるはずだ。

 

『コウガ!』

「リザードン、昨日のアレは気にするな。また発動しようが、今度は俺とゲッコウガで受け止めてやる。全力で行け!」

「……………、シャア………、シャアッ!!」

 

 どうやらリザードンは後のことは俺たちに任せてくれたらしい。最初から俺にアクセスし、炎のベールに包まれていく。

 くっ………、またこの重々しい感覚。

 

『コウ、ガ………』

 

 ゲッコウガも重苦しい声を荒げている。

 頼むぜ、ゲッコウガ。

 

「ブラストバーン!」

「マロン、ニードルガード!」

 

 リザードンは地面を叩き割り、割れ目から炎柱を立たせた。ブリガロンが両腕を前に突き出し防壁を貼るも、その防壁ごと炎が呑み込まれていく。

 

「マロン!?」

 

 ユイが呼びかけるが、反応はない。

 炎柱の中でどうなっているのか、まあ焼かれているんだろうけど。

 

「ガ、ロッ………!」

 

 と、ブリガロンが炎柱を振り払い、中から出てきた。その身体には多数の火傷の跡があった。

 

「マロン………」

「………ガロ……」

 

 そして、バタリと倒れた。

 

「ブリガロン、戦闘不能!」

 

 あの炎を僅かでも耐え抜くとは、相当鍛えられているな。

 初めの頃は技を躱すこともできなかったのに、躱せない場合の耐久力もつけてきていやがる。

 

「マロンのガッツは無駄にはしないよ。ありがと」

『ブリガロン、一撃戦闘不能!! またしても強力なポケモンを出してきたぁぁぁああああああっっ!!』

『はあ……、まさか初手で究極技を出してくるなんて………。ユイの心でも折る気かしら』

『というよりあのリザードンの爆発的なエネルギーを放出したいんじゃないかな』

『………なぜこの二人は平静でいられるのかしら』

 

 それは見慣れてるからです、チャンピオン。

 

「いくよ、サブレ!」

「グラァッ!」

 

 五体目に出てきたのはグラエナ。

 リザードンを睨みつけ威嚇し、頭にはハチマキを巻いている。

 

「シャアッ!」

 

 おっと、リザードンが興奮してきたぞ。

 無駄に重圧がすごい。炎の勢いも増している。

 俺もゲッコウガもよく耐えてると思うわ。

 この有り余る力をどう発散させたものか。

 究極技でも無理だったとなると、やはり一撃必殺しかないのかもしれない。

 グラエナには悪いが、これで退場してもらおう。

 

「リザードン、じわれ!」

 

 リザードンが地面を叩くと大きく割れ、グラエナを呑み込んだ。

 

「今だよ、サブレ! カウンター!」

 

 だが、吐き出されたグラエナはハチマキを光らせていた。ピンピンとまではいかないが、一撃必殺に耐え、カウンターを仕掛けてくるくらいには元気である。

 やはりあのハチマキも持たせると効果がある道具だったか。

 一撃必殺を耐え抜く効果は…………きあいのハチマキかな。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 ハチマキからエネルギーを吸収し、口からはかいこうせんのように放出すると、リザードンを覆っていた炎のベールを貫通し、衝撃で消えてしまった。

 なおも勢いの止まらないグラエナの突撃を竜の爪で受け止め、弾く。

 

「ふいうち!」

 

 グラエナは弾かれた勢いを使い、体を捻るとリザードンの背後に回り込み、頭突きをかましてきた。

 リザードン、初のダメージである。

 

「かみなりのキバ!」

 

 続けて電気を纏った巨大な牙を作り出し、リザードンの翼を狙ってきた。しっかりと弱点もついてきてるし、ユイの成長に涙が出そうだわ。

 

「エアキックターン!」

 

 グラエナに体当たりされた勢いを利用し、反転して空気を押し蹴ると巨大な牙に向けて突っ込んでいく。

 

「トルネードドラゴンクロー!」

 

 おお、懐かしい。

 これ使うのいつぶりだ? 半年は軽く使ってないだろ。

 リザードンは両爪を前に突き出し、ドリルのように高速回転し始めた。

 

「サブレ、受け止めて!」

 

 いつぞやのヘルガーがほのおのキバで技を受け止めた時の要領で、グラエナも高速回転するリザードンを受け止めた。だが、勢いはこそ殺せていない。というか地面から吐き出されてからずっと空中にいるんだけど。いつの間にそんなバランス感覚を身に着けたんだよ。

 

「スイシーダ!」

 

 グラエナが押し負けたところにすかさず両爪で地面に叩きつけた。

 

「サブレ!?」

 

 めちゃくちゃなことになっているフィールドに新たなクレーターを作ってグラエナは倒れていた。

 

「グラエナ、戦闘不能!」

 

 いやはや、強くなってるよ。

 これでまだメガシンカもZ技も使ってないってんだから、案外イロハやコマチよりも強くなってそうな気もしてくる。

 

「やったね、サブレ。カウンター、使えるようになったね」

 

 はい?

 まさかさっきのが初成功だったとでもいうのか?

 確かにカウンターを決めるのは至難の技ではあるが、完成していない技をあえて使ってくるとか、並みの精神力じゃ無理だろ。

 ……………あのアホの子が、ねぇ…………。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 ぐぅっ!?

 お、おい、こら、リザードン! あんま興奮すんな!

 

『コウ、ガ………!?』

 

 お、重すぎだろこの圧力。

 頭がいかれそうだ。

 

『また炎に包まれたわね』

『ええ、ハチマンの顔色も随分と悪くなってます』

『………何かあったのかい? 彼もリザードンもいつもと様子が違うようだけど』

『………暴走、しかけているのを必死に抑えているのだと思います』

『『暴走?!』』

 

 ユキノめ、いらんこと言いやがって。

 

「暴走…………」

『と、止めなくてよいのでしょうか………?』

『ええ、大丈夫です。彼はポケモンの暴走に慣れてますから』

 

 ったく、好き勝手言いやがって。

 おかげでますます暴走させにくくなったじゃねぇか。

 

「マーブル、リザードンを倒すよ! ほごしょく!」

「ドブゥ!」

 

 ボールから出てきたドーブルは姿が見えなかった。本当に出てきたのか怪しいレベルである。

 

「ダークホール!」

 

 だが、ちゃんと出てきていた。グラエナが意図せず作ったクレーターの何もない上空に漆黒の穴ができ、吸引を始める。

 

「ブラストバーン!」

 

 あの穴の対処法は、莫大なエネルギーを吸い込ませることだ。

 逆に言えば、人やポケモンーー生き物を吸い込んだときは莫大なエネルギーを吸い込んだと換算されているということである。

 

「ハイドロカノン!」

 

 おっと、今度は背後に回りこんだのか。

 ほごしょくのおかげで姿は見えないし、タイプも何に変わったのか想像つかないし。

 やりにくいことこの上ない。

 

「ハイヨーヨー!」

 

 逃げるに越したことはない。

 急上昇し、一気に天へと翔け昇る。 

 

「空に逃げれば安全だと思ったら大間違いだよ。マーブル、へんしん!」

 

 ユイの指示通り、姿を見せたドーブルの身体が白い光に包まれ変化していく。

 その姿はまるで………。

 

「リザードン………」

 

 炎龍の姿がそこにあった。肩からは襷のようなものをかけている。

 

『ド、ドーブルの姿が変わったぁぁぁああああああっっ!! こ、こんなことまでできるのか、ドーブル!!』

『マーベラス!! ドーブルにへんしんをスケッチさせたのかっ!? まさかそうくるなんてね!』

『これが彼女の大本命ということでしょうか………』

『………まさかこんな形で対策を立ててくるなんて………。いろいろと質問された覚えはありますが、これは私も聞いてませんでしたよ』

 

 ユキノも知らなかったということは本当に最後の隠し球だということだろう。

 

「まだまだこれからだよ! マーブル、トルネードドラゴンクロー!」

 

 そっちも使えるのかよ。

 これはマジで『リザードン』と戦ってると思った方がいいな。

 

「こっちもトルネードドラゴンクローで急降下だ!」

 

 上昇してくるドーブルに対し、同じ技で迎え撃つ。

 本家を舐めるなよ。

 

『全く同じ姿で同じ技の交錯だっ!! どちらが押し通すのか見ものだぞぉぉおおおっっ!!』

 

 リザードンとリザードンが交錯した。地面に叩きつけられたのがどちらなのか、おそらくリザードンに意識を半分持っていかれている俺にしか分からないだろう。ユイも分かってるといいのだが。

 

「リザードン、じわれ!」

 

 地面に叩きつけたのは俺のリザードンであり、地面に呑み込まれてようとしているのがユイのドーブルである。

 

「マーブル、ブラストバーン!」

 

 裂けた地面に逆に炎を流し込み、リザードンへと押し返してきた。

 

「押し返せ、ブラストバーン!」

 

 負けじとこちらも究極技で対抗する。

 割れた地面から炎柱が勢いよく立ち昇っていく。

 

「ハイヨーヨー!」

「追え、リザードン!」

『ここで空中戦に突入だぁぁぁああああああああっっ!!』

 

 急上昇していく二体の炎龍。

 そして、先を行くドーブルが急下降に変わり、リザードンも向きを変えドーブルに追い縋っていく。

 

「マーブル、ソニックブースト!」

「リザードン、こっちもソニックブーストだ!」

 

 地面すれすれで向きを変えると超加速で二体が鬼ごっこを始めた。鬼は当然リザードンの方である。

 

「………あたしはずっと何もできなかった」

 

 切り返しに次ぐ切り返しで、どんどん上昇していく二体の炎龍。高速戦闘になっているため肉眼で見えている人たちはごく僅かだろう。かく言う俺も肉眼じゃ捉えられなくなってきた。

 

「コマチちゃんやイロハちゃんみたいにすぐにバトルができるわけでもヒッキーやゆきのんみたいにポケモンについて詳しくもない。ずっとみんなの背中しか見て来れなかった。けど、あたしコルニちゃんに言われて気づいたの。それだけたくさんのすごい人たちのバトルを見てきてるんだって」

 

 ユイ…………。

 確かにユイは誰よりもたくさんの人たちのバトルを見てきている。しかもレベルの高いものばかり。あるいは事件にも巻き込まれ、生死をさまよう戦闘を間近で見てきた数少ないトレーナーだ。トレーナーの経験としては十二分に培われている。

 

「だからいくよ、ヒッキー! これがあたしの旅の成果だよ! マーブル、メガシンカ!」

 

 これはいつぞやのメグリ先輩の戦法じゃねぇか。

 へんしんという技を最大限に生かしたトリック。メグリ先輩は最初から俺を嵌めるつもりで呼び方も変えていたけど。

 ただまあ、戦法の応用ってところか。あまり戦闘スタイルが変わるわけではないが、自分を相手にするという時点ではやりにくいことこの上ない。しかもあっちはメガシンカし、こっちはメガシンカができないという制約がかけられている。

 それにここでメガリザードンXを選んだということは、思い付きでメガシンカさせたわけでもあるまい。これまでを見る限り、使いこなせるようになった、あるいは多少の問題は有れど八割方完成しているところまでは来ているのだろう。

 

『ここでへんしんという技について説明をしておきましょう。へんしんはメタモンというあらゆるものに姿を変えることができる独特な技です。ポケモンに変身すれば姿から出す技までそのポケモンになります。であれば、メタモンは最強のポケモンということになりますが、実はそうでもありません。変身した姿のポケモンが覚える技自体を使いこなせなければ、技が使えない状態になってしまうのです』

『つまり………?』

『トレーナーもポケモンも実力がなければ使いこなせないというわけですよ。』

『………ついでにユイでいえば、ドーブルにへんしんをスケッチさせて覚えさせた。その上でリザードンに変身し、メガリザードンへと姿を変えた。彼女の実力が如何ほどなのか、もうお判りでしょう』

 

 ああ、分かるさ。

 技以外の技までも完全にものにしてきてるんだ。かなりの実力がなければそんな細かいところにまで手を出せるはずがないもんな。これはいよいよもってリザードンがピンチになってきたか?

 

『…………これは確かに四天王と言えど油断はできませんね。おっと、丁度ルールの確認が入りました。………なるほど、ドーブルがへんしんを使った場合、変身前にへんしんを含む四つの技、変身後の姿で新たに四つの技を使えるようです。まさか、こんな細かいルールまで設けられているとは驚きです!』

「マーブル、エアキックターンからのトルネードドラゴンクロー!」

「逆回転で受け止めろ!」

 

 メガシンカ後、反転して高速回転で突っ込んでくる偽リザードン。そこに逆回転で相殺し、動きを止めにかかる。

 

「ブラスターロール!」

 

 今度は上を取る気か。

 逆回転でも酔わなかったということは随分と体に覚えさせているようだな。

 

「ソニックブースト!」

 

 急加速でドーブルからの攻撃を躱し、そのまま上昇していき上を取った。

 

「マーブル、ローヨーヨー!」

 

 スカした体制が下を向いていたためか、偽リザードンは一度リザードンから大きく距離を取り始めた。だが、そこには背中がある。

 しかし、直接攻撃を仕掛けにいったとしても、急上昇してくる偽リザードンに押し返されるだろう。となるとここからでも撃てる技。しかも既に使った技でとなるともうこれしかない。

 

「口から吐き出せ、ブラストバーン!」

 

 あと一つ技を選択できるがユイが何か仕掛けてくるかもしれないし、選択肢を潰しておくのは心もとない。

 

「かわして急上昇!」

 

 ふむ、やはり届かないか。

 それよりも急上昇してくる偽リザードンをどうするかだ。

 

「マーブル、りゅうのまい!」

 

 上昇しながら水と炎と電気の三点張りからの竜の気を作り出していく。

 

「リザードン、上にいかせるな! ドラゴンクロー!」

 

 竜の気を纏うと一気に加速した。

 だが、竜の爪で弾きドーブルの動きを一瞬止めた。

 

「マーブル、ブラスターロール!」

 

 ドーブルはリザードンの背後に回り込もうとしてくるが、リザードンがそれをさせないように上を取り続ける。

 

「コブラ!」

 

 今度は急停止、一瞬後に急加速。

 先を行ってしまったリザードンにしてやったりの顔で加速時に上を狙うも、急加速と同時にリザードンが上昇し、中々思うように動けないでいる。

 

「………う、上にいけない……………はっ!? まさか………バードゲージ…………!!」

 

 ま、ローヨーヨーやらブラスターロールをマスターしてきてるんだから、当然かこの技も知ってるわな。

 バードゲージ。

 スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく飛行技。

 

「スイシーダ!」

「マーブル!?」

 

 そろそろ振り回されるのも面倒なので背中を叩き、地面に突き落とした。

 

「じわれ!」

「っ!? ブラストバーンを撃ち込んで!!」

 

 そして、急降下して地面を叩き割り、地割れを作り出して偽リザードンに襲いかかる。

 だが、それはユイの声に反応した偽リザードンによって究極の炎で押し返された。

 

「ハイヨー………ッ!?」

「グリーンスリーブス」

 

 地面から立ち上がる炎の陰に隠れて急接近。

 再度急上昇を図ろうしたドーブルを左の竜の爪で掬い上げ、次々と爪を入れていく。

 

「マーブル!?」

 

 突き上げたドーブルはまだ意識を保っていた。

 あれも襷のおかげなのか?

 

「いくよ!! 連続でエアキックターン!!」

 

 空気を強く蹴り出し、急降下してくるドーブル。

 それを躱すと今度は下からエアキックターンで急上昇してきた。

 

「あたしたちの新しい技だよ! グリーンスリーブス横バージョン!」

 

 ぐぅぅっ!?

 強い衝撃がっ?!

 

『コウガッ?!』

 

 これはリザードンが受けているダメージと見ていいのだろう。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」

 

 すでにもうかが発動するまでのダメージを受けたのか。

 リザードンを纏う炎が激しさを増していく。

 

「とどめだよ! ドラゴンダイブ!」

 

 それまで纏っていた竜の気を竜の形へと変化させ、突撃してくる。

 

『コウガ、コウコウガ!』

 

 はっ?

 いや無理だろ。リザードンが覚える技にそんなもんはねぇぞ。つか、誰の技だよ。

 

『コウガ、コウガコウガ!』

 

 リザードンができるって言ってるってか

 それは理解できるが……というかリザードンが言ってることが理解できることに驚きだが、だからって信じろと?

 ………ったく、どうなっても知らねぇぞ、お前ら。普通はあり得ないことなんだからな!

 

「あおいほのお!」

 

 どこの誰が使う技なのか知らねぇが、リザードンがそう指示を出せというのだからそうするしかあるまい。

 するとリザードンを纏っていた炎の色が蒼色に変わり始めた。

 そして、目の前まで迫り来るドーブルが変身したメガリザードンXを蒼い炎で包み込んだ。

 

『………リザードンが、あおい……ほのお………?』

『まさか、あの炎の中でメガシンカしているとでもいうの………?』

 

 いや、それが俺にもよく分からない。

 分からないが、可能性を否定することもできない。

 ただ言えるのは、リザードンがリザードンの域を超えたということくらいである。

 

「………マーブルッ?!」

 

 蒼炎の中からシューと煙を上げて落ちてくるドーブル。変身も解かれ、まさにドーブルの姿だった。

 やっと、終わったな………。

 

「マーブル、戦闘不能! よって勝者、四天王ヒキガヤハチマン!」

 

 審判にそう宣言され、ようやく一息がつけたという思いがただただ込み上がってくる。

 

「シャア………」

 

 それはリザードンも同じなのか、飛ぶ力も失い、真っ逆さまに落ちてきた。

 だが、今の俺にリザードンを受け止める術が思いつかない。まず頭が働かない。ゲッコウガも反応が無くなってるし、あっちでも姿が元に戻っていることだろう。

 

『勝ったのは四天王、ハチマン選手だぁぁぁああああああっっ!! 思わず実況を忘れてしまうほどの見たこともないバトル!! それによくついて行きました、ユイ選手!! 四天王に引けを取らない戦略や技の数々!! メガシンカポケモンを二体も続けて倒した選手は彼女だけでしたっ!! みなさん、大健闘したお二人に大きな拍手を!!』

「カメックスはリザードンを! ネイティオはドーブルを回収して!」

 

 この声はハルノか?

 

「はあ……はあ………、キツ………」

「おっと……」

「………ハルノ」

「お疲れ様。よく暴走を食い止めたわね」

 

 倒れそうになった身体に柔らかい感触が伝わって来る。

 倒れることもなかったため、ハルノに支えられているのが分かった。

 

「……ゲッコウガが協力してくれてな」

「あの最後のリザードンにも驚かされるけど、影でゲッコウガも支えていたなんて、ユイちゃんが聞いたら驚くでしょうね」

「俺が驚いたからな。色々と………だる………」

「今は私に身体を預けてなさい。こういう時くらいお姉さんを頼りなさいな」

「すまん………」

 

 呼吸を整える中、遠くに見えたのはオリモトがユイを支えて、ネイティオがドーブルをぶら下げて後ろをついていく姿だった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ヒッキーっ!!」

 

 ハルノと二人でみんながいる観客席に戻ると、観客席へのゲートでユイとばったり会った。その顔は負けたというのに満足そうである。そんな眩しい笑顔で出会って早々抱きつかれた。超柔らかい感触が俺の胸に伝わってくる。

 

「ありがと、ヒッキー。あたしにも全力で応えてくれて。嬉しかった」

「あ、や、その、全力で応えたっつーか、全力を出さざるを得なかったというか………」

 

 俺の胸に顔を擦り付けながら感謝の言葉を言われた。

 このまま抱きしめ返してもよかったのかもしれないが、取り敢えずお団子頭にそっと手を置いた。というか身体が思うように動かない。疲労が一気に回ってきたって感じだ。

 

「つか、お前こそ、ルカリオと何をしたんだ?」

「ユイさんは結構珍しい人だったみたいだよ、お兄ちゃん」

「コマチ………?」

 

 俺はユイに聞いたはずなのに、答えたのは帰る用意をして観客席から出てきたコマチだった。

 その後ろからはぞろぞろ連なっている。

 

「あ、ユイさん、お疲れ様です。残念でしたね、いろんな作戦を立ててたのに」

「うん、でも悔いはないよ。あたしは今出せる全力で戦った。ヒッキーもそれにちゃんと応えてくれた。だからあたしは満足だよ!」

「そうですか、その言葉が聞けてよかったです」

「そうだな、ここでユイガハマがトレーナーをやめるなんて言い出したら、ヒキガヤにどう責任を取らせようか頭を悩ませるとこだったな」

「………なんかユイちゃん、雰囲気変わった………?」

 

 確かにサガミの言う通りユイの雰囲気が変わった。それは恐らく自分のバトルに満足し、自信がついたのだろう。

 コマチやイロハに比べて成長速度は遅かったものの、ユキノやいろんな経験が彼女を育ててくれたのだろう。遅咲きの花であるが、その分手にした技術はコマチやイロハを超えていると言ってもいい。

 なんてったって、圧倒的な力の差を生み出すメガシンカポケモンを二体も倒したんだからな。しかもコマチやイロハのようにメガシンカもZ技もなしに、自分にできることを全てやってのけての荒技で。その集中力は何物にも代えがたいものである。

 

「先生、それは見込み違いってもんです。ユイはバトルに負けたくらいでトレーナーをやめたりするような打たれ弱い性格じゃないですよ。なんせあのユキノとの特訓にずっとついていってましたし」

「今思えばすごいことだよね。ユキノシタさんの特訓に初心者がずっとついていってたなんて」

「であるな。トツカ氏の言う通りである」

 

 ま、最初からユキノという鬼教官に鍛えられてきたからっていうのもあるのかもしれない。だが、中々身を結ばなくとも、特訓を続けてきたのはユイ自信なのだ。人一倍の努力家である。

 

「それじゃ、みんな一回戦を終えたことだし、パーティーでもしましょうか! 勝った人は明日からの英気を、負けた人はお疲れ様会をってね」

「お母さん、はしゃぎすぎ………」

 

 何故か全く参加していないツルミ先生が一番はしゃいでいる。ルミがすげぇ恥ずかしそうだ。

 

「なあ、ユイ」

「ん? どったの?」

「あー、その、なんだ………」

 

 各々がぞろぞろと会場を後にしていく中、きょろきょろと辺りを見渡して、誰も俺たちを見ていないことを確認。

 そして、全く視線を感じないうちに、ユイの顎に手をかけ、唇を重ねた。

 

「………がんばったな」

 

 さすがに目を合わせるのは躊躇われたため、視線を逸らし、代わりにポンポンと頭を撫でた。

 

「え、ちょ、ハッチー………いま、き、きききキス…………」

 

 その手の下では慌てる様子のユイの声が震え上がってくる。

 

「すまん、嫌だったか?」

「う、ううん、そ、そうじゃないけど…………。ずっとして欲しかったけど………。でもあたしは弱いからハッチーの隣に立つ資格なんてないと思ってたから…………」

 

 ユイがポツリポツリと呟く内容は、俺がなんとなくそうではないかと思っていたことと同じであった。

 

「…………俺もな、結構悩んでたんだ。ユキノが正妻と言い出し、ハルノが俺に甘えるようになってキスまでねだるようになって、そしたらユキノまでキスを迫ってきて。このままずるずる二人と変な関係を続けていくのかーって。しかもそれだけじゃ終わらなくて、ユイはユイで物欲しそうな目をしてるし、イロハはなんか放っておけないし、コマチはかわいいし」

「ここでもシスコンは健在なんだね………」

「ばっかばか、コマチはお兄ちゃん大好き人間だから仕方ないんだよ」

「二人とも悪化してない?!」

「で、な。思ったわけだ。いっそ全員俺のものにできないかなーって」

「ハーレム王にでもなるの?」

「ハーレム王ならもうなってるだろ」

 

 王かどうかは知らんが、ハーレムを築いていることは自覚している。というかそもそも姉妹で俺を取り合うというか責め合うというか、色仕掛けをしてくる時点でハーレムができてしまっていた。そこにユイやイロハという、俺の勘違いじゃなければという存在もあり、もうこれは逃げられないところまできていたのだ。

 

「………そうかも」

「じゃなくて、イロハが言ってたんだ。ユキ姉ハル姉ユイ姉、みんな大事な家族だって。ハルノも『私の大事な妹たちを守ってあげて』って言ってたし」

「みんな、家族………」

「ああ、だから俺は決めたんだ。この『家族』とやらを守れるように、誰も文句が言えないようにしようって」

 

 そして決定的だったのは、イロハとハルノの言葉だ。

 姉や妹と表現してきたときに、この『家族』とやらを守りたいと思ってしまった。

 

「ハッチー………」

「だから、その………、ユイも俺の側にいてくれるか?」

「……うん、………うんっ!」

 

 多分、恐らく、正直なところ、俺から告白するのは二度目である。一度目はそもそも勘違いだったし、ユキノやハルノはあっちから言われたようなもんだし、そういう意味では初と言ってもいい。

 後はイロハにちゃんと伝えないとな。

 

「ハッチー、大好き!」

 

 取り敢えず、俺は大事な『家族』を守れるようになろう。

 




大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。

仕事が忙しいということもあるのですが、ユイをどこまで強くするか、ハチマンをどこまで無双させるか、今後の展開にどう繋げようか、色々と纏めるのに時間がかかってしまいました。
なんか最終刊に近づいたラノベ作家の刊行速度が低下する気分を味わったような感覚です。

さて、この作品ついてですが、一応最終話までの目処は整っております。
ただいかんせん忙しく、内容を詰める時間が取れなくなってきており、またラストに向けて細かい描写もきにする必要ができてきましたので、更新速度が遅くなると思われます。
なので、今年からは更新を不定期にしたいと思います。まあ、おそらく月二回更新できればいいかなと考えている感じです。

楽しみにされている読者様には大変申し訳ありませんが、最後まで書くつもりですので、これからも当作品をよろしくお願い致します。


更新も話も謝辞も長くてすみません………。

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