カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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東京来てからもボチボチと書いてます。


27話

 ポケモンリーグ四日目後半。

 俺は会場で観戦しているというわけでなく、現在リザードンに乗ってコウジンタウンへと向かっていた。

 理由はコマチの敗退が決まった後、コウジンタウンの化石研究所から電話があったからだ。何でも緊急事態らしい。切迫した声色で、また面倒なことが起きていることがひしひしと伝わってきた。

 

「よりにもよってこんな時に………。どうしてあそこは狙われやすいんだか…………」

 

 カロスを旅していた時もフレア団に襲われたり、散々な目に遭ってきてるってのに。

 今度は何があったっていうんだよ………。

 やだなー、聞きたくないなー。絶対面倒事だぞ。

 

「リザードン、そろそろだ。下降してくれ」

「シャア!」

 

 山を越えて見えて来たコウジンタウン。空から何があったのか一目で理解できた。

 

「研究所が真っ二つやんけ………」

 

 いや、もうね。

 狙われすぎでしょ。

 しかも今度は人間技じゃない。こんなきれいに真っ二つとか、最終兵器でも撃たれたのかって感じだわ。

 

「あ、ヒキガヤ相談役!」

 

 やめろ。

 なりたくてなったわけじゃねぇよ。

 

「所長、無事、みたいですね………」

「この様だが何とかね」

「………一体何が?」

「私どもも何が何だか…………」

「ポケモンだよ」

 

 化石研究所の所長が俺に気づいたため、事の次第を聞いたが、返ってきたのは研究員の方からだった。

 

「はあ………ポケモン………?」

「突然襲われたんだ。触手のように伸び縮する赤いポケモンに」

 

 赤くて触手のようなポケモン…………?

 んなのいたか………?

 

「所長! 大変です! グラン・メテオの破片が! なくなってます!」

 

 グラン・メテオ………だと?

 グラン・メテオっていえば、あるポケモンのコアが引っ付きてきた隕石として有名だ。その破片がこの研究所にも…………確かにあったかもしれない。展示品なんかいちいち把握してないっつの。出入りすら何か月ぶりだって感じだし。

 

「グラン・メテオに赤い触手のようなポケモン………」

 

 グラン・メテオで大体の姿が見えて来た。いや、だがなぜカロスに?

 カロスでなくともグラン・メテオの破片は世界中にあるはずじゃ………。それこそホウエンやカントーの方がゆかりの地だろうに。

 

「デオキシス、か」

「デオキシス………?」

 

 あ、やっぱり知らないか。

 ポケモンのコアが引っ付いてきたグラン・メテオは有名でも、それがデオキシスと特定されたことは機密事項なんだな。ま、相手が相手なだけに公にすることもできないか。

 

「ッ?!」

 

 背後を取られた?!

 

「リザードン、ブラストバーン!」

 

 撃ってからしまったと思った。ここ、普通に人いるじゃん。

 

「そ、相談役?! い、一体何をっ!?」

「………ディフェンスフォルム。防がれたか」

 

 爆発が起きたところには両腕を広く交差させて炎を受け止めている赤いポケモンがいた。おかげで被害者はゼロ。

 

「所長、皆さんと安全なところに逃げてください」

「い、いやしかし」

「邪魔です。デオキシス相手にアンタらを守りながらとか無理だ」

「わ、わかった。全員作業の手を止めろ! 逃げるぞ!」

「「「「は、はいっ!」」」」

 

 だか、デオキシスは彼らの行く手を阻むように移動し、立ち塞がった。

 

「チッ、ジュカイン! ハードプラント! アーケードを作れ!」

「カイッ!」

 

 ジュカインをボールから出し、地面から太い根を掘り起こさせる。根は研究員たちを覆うように這い、アーチ型のシェルターを作り出した。

 

「ヘルガー、あくのはどう!」

 

 相手はエスパータイプ。

 あくタイプは有効だ。

 ま、あくタイプでいえば黒いのもいるし、炎の帝王だってこっちにはいる。いざとなったら出すのもやむを得ないだろう。

 

「………そもそもデオキシスはデルタの時にホウエンのバカップルがレックウザと倒したんじゃ………」

 

 いや待て…………。

 デオキシスが初めて公に姿を見せたのはロケット団が連れだしたから。

 その前まではトクサネ宇宙センターで研究されていたはず。

 そんなポケモンをロケット団が、サカキが復活させてナナシマの事件を起こした。しかも二体。

 それからデルタの時も奴が追っていたのはサカキ。サカキを倒すために宇宙まで戻り、隕石を落下軌道に乗せた。

 そして、今。生憎揃っている。サカキとデオキシスというカードが。先二つの事件を見てもデオキシスの数は合致している。

 つまりはそういうことだろう。

 

「で、カロスを選んだのは俺がいるからってか」

 

 先の二つの事件は図鑑所有者によって片づけられている。俺は全く関わっていない。

 だからこそ、今回こそは図鑑所有者の介入がないと踏んだのだろう。ただし、何かあっても対処できる戦力はそばに置いておきたい。絞った結果、適したのがサカキと面識のない図鑑所有者がいるカロス地方なのだろう。

 

「ジュカイン、メガシンカ!」

「カイッ!」

 

 今回、デオキシス相手に一番適しているのはジュカインだろう。あくタイプを持つヘルガーの方が有利ではあるが、それは技が当たればの話。フォルムチェンジもできるデオキシスにはジュカインのスピードじゃないとついていけない。あるいはジュカインでも無理かもしれない。

 

「くっ、消えたっ?!」

 

 くそっ、スピードフォルムか。

 俺の目が追いつかない。

 

「ジュカイン、リーフブレード!」

 

 どこからくるっ?

 いや、俺が見たところで反応できないのは今自覚したところだ。ここは実際に戦っているジュカインに任せた方が得策だな。

 

「ジュカイン、好きにやれ!」

 

 後はリザードンとヘルガーでジュカインを戦いやすくするしかない。

 くそっ、リザードンもメガシンカできればまだやれることがあったのに………。サカキ、俺を、俺たちをどうしたいんだよ。

 あれか? あの力をコントロールしろってことなのか?

 無理だ。あれは消耗が激しすぎる。ゲッコウガと二人で何とか耐えられたんだ。今俺一人ではどうしようもない。

 そもそも俺もリザードンもアレにもう一度足を踏み入れることにためらっている。できることならば、このまま使いたくはない。次やれば、俺もリザードンもどうなるか、想像すらできないからな。ただ言えるのは、何事もなくは終わらないということだけだ。

 

「ッ!?」

 

 マズッ!

 狙われてんの、俺かよ!?

 

「ライ!」

 

 ッ!?

 間一髪………。

 ダークライが黒い穴で、細い腕を受け止めていた。

 つーか、こいつ俺を刺し殺すつもりなのん。

 なにそれ、超怖いんですけど。

 

「ノーマルフォルムか………」

 

 スピードが速くなったかと思えば、すでに姿は別のものに変わっていた。

 ディフェンス、スピード、ノーマル。

 次に来るのは恐らく………。

 

「出て来たなら丁度いい。ダークライ、ダークホールを広げろ! ジュカイン、リザードン、ドラゴンクロ―!」

 

 瞬間、鋭利の効いた姿がダークホールを貫いた。

 初めて本物に遭遇したが、こいつも特殊能力を持っているっていうのか………っ?

 

「やべぇ、ヘルガー、だいもんじを波導で覆え!」

 

 アタックフォルムへと姿を変え、正面突破で黒い穴を貫いたデオキシスの背後にはジュカインとリザードンがそれぞれ竜の爪を振りかざしている。

 だが、間に合わない。

 俺は咄嗟にヘルガーに命令を出した。

 

「っぶねぇ………」

 

 またしても間一髪。

 炎がデオキシスの腕を受け止め、寸でのところで俺の腹を貫くことはなかった。

 やべぇ、今のはマジ死ぬかと思った。

 つか、異様に殺気だってね?

 

「しかもこっちの攻撃は上手く防がれるし……………」

 

 ジュカインとリザードンの竜の爪がデオキシスを捕らえたかと思うと、一瞬で丸みを帯びたディフェンスフォルムへと姿を変え、ガードされてしまった。これじゃキリがない。はっきり言って俺たちがピンチである。

 

「ッ!?」

 

 な、なんだっ!?

 ダークホール、だと…………?!

 いや、そんなはずはない。ダークホールはダークライが編み出した技。ドーブルとかのような特殊なポケモンじゃない限り扱えるとは………。いや、そもそも目の前のポケモンも特殊なポケモンだったな。

 もうなんだっていい。こいつはダークホールに似た何かすら扱える危険なポケモンだ。それだけで戦い方も変わってくるもの。

 

「ライ!」

「来い、ダークライ!」

 

 まずはダークライを呼び寄せ、黒いオーラで俺を包み込んでもらい、俺自身も戦えるようにしていく。

 これで何とかダークホール擬きに呑み込まれずに済んだ。

 だが、悠長にしている暇はない。

 仕方ない、まだ試したことはないがアレをやってみるか。

 

「ヘルガー、ジュカインを黒い波導で覆え! ジュカイン、今回はお前が主役だ!」

「ヘルゥ!」

「カイッ! カイカイッ!」

 

 ヘルガーは自身を疑似的にダークポケモンへと変えることに成功している。それを今度はジュカインにやろうってわけだ。

 今回鍵となるのはやはりジュカインのスピード。デオキシスのスピードに追い付き、かつあのフォルムチェンジを対処していくとなると選択肢が一つに絞られてしまった。

 

「…………ダークメガジュカイン………てな」

 

 メガジュカインの姿からさらに黒いオーラを纏い、目を赤くしたジュカインの完成。いかにもザイモクザが喜びそうな姿である。

 

「そんじゃ、いくぞ、ジュカイン!」

「カイッ!」

「こうそくいどう!」

 

 ジュカインは一瞬でデオキシスの背後を取った。デオキシスは振り返り樣にフォルムを変え、スピードを上げて草の刃を躱し、そのまま俺の方へと突っ込んでくる。狙いはあくまでも俺のようだ。

 

「そう簡単にくれてやるかよ!」

 

 俺が腕を前に突き出すと、そこから黒いオーラが円を描き、スピードフォルムからノーマルフォルムに変えて振り下ろしてきた拳を受け止めた。

 

「ぐっ?!」

 

 なんだこれっ!

 やっぱ無理あったか。オーラがあるからと言って生身の身体で衝撃を流すのはキツい。

 だが、やられたわけじゃない。伊達にリザードンやゲッコウガと感覚共有してきたわけじゃねぇな。耐性が出来てる。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 両脇からリザードンとヘルガーの炎がデオキシスを牽制し、押し返した。

 

「シャア!」

「カイッ!」

 

 あいつらいつの間に連携を取ってたんだよ。

 リザードンの合図でジュカインが飛び込み、両腕の刃でX時に斬りつけた。シザークロスだ。

 デオキシスは後退し、再度飛び込んでくるとアタックフォルムへと姿を変え、両腕を伸ばし、鞭のようにしならせて、ジュカイン、リザードン、ヘルガーを次々と突き飛ばした。

 そして立て続けにジュカインに向けて超強力なサイコパワーを撃ち出してきた。

 

「させるかよ!」

 

 今動けるのは俺ーーもといダークライのみ。

 地面を蹴り上げると、自分の身体とは思えない速さで移動し、ジュカインの前に立つと黒い穴を出して、サイコパワーを呑み込んだ。

 

「ジュカイン、ハードプラント!」

 

 物音でジュカインが起き上がったことを確認し、次の命令を出すと、俺の両脇を這うように太い根が走りだした。するとデオキシスはまたしても姿を変え、丸みを帯びていく。

 

「………なるほど」

 

 大体掴めた。

 奴のフォルムチェンジは一定の順番で行われている。ノーマル、アタック、ディフェンス、スピード。この順番でフォルムチェンジを行い、同時に展開もそのフォルムに適したものになっている。

 勝機、というかチャンスはここにある。

 

「リザードン、かえんほうしゃ! ヘルガー、あくのはどう! 攻撃の手を緩めるな!」

「シャアッ!」

「ヘルゥ!」

 

 これでいい。

 これでずっとディフェンスフォルムのままでいてくれる。

 あとはここからデオキシスが動くのを待つだけ。

 

「ーーきた」

 

 間もなく、デオキシスは両腕を大きく広げ、炎と黒いオーラを弾き飛ばし、同時にフォルムチェンジを始めた。

 

「今だ、ジュカイン! シザークロス!」

 

 この時を待っていた。

 今のジュカインであればスピードフォルムになる前に攻撃を仕掛けられるはず。仕掛ける技はシザークロス。一発当てれば、フォルムチェンジも中断されるはずだ。そこを狙って一斉攻撃を仕掛ければどうにかできる。

 

「なんッ!?」

 

 だが、策が最後まで行くことはなかった。

 真下から開いた黒い穴から赤く青い竜を模した波導が俺たちを撃ち抜いたのだ。

 

「ダークホール………いや、奴か………ッ?!」

 

 開いた黒い穴からは赤い目がこちらを見ている。

 …………どうやら、敵はデオキシスだけではないらしい…………………。

 

 

 

     *   *   *

 

 

 

『ただいま入ってきたニュースです。先程正午未明、コウジンタウンの化石研究所が何者かに襲撃されました。施設は全壊、他グラン・メテオ等の隕石破片がすべて盗まれた模様です。この事態に対し、対処に当たった一人のトレーナーが謎のポケモンと交戦中とのことです。………現場からの中継があるようです。現場のアケビさーん』

『はーい、現場のアケビでーす! 私は今コウジンタウンの化石研究所の前に来ていますが、ご覧の通り建物が倒壊しております。というか真っ二つです! 先ほど研究所の方に取材できたのですが、襲撃は突然だったようです。しかも謎のポケモンによる単独犯で、現在そのポケモンと研究所の相談役が交戦中との話をいただきました! またその相談役が謎のポケモンを見て、「デオキシス」と呟いたそうです! 有識者の方、情報の提供をお願ーーひゃあっ!?』

『ど、どうされましーーーッ!?』

『エンテイ、お前の力も貸せ!』

『……あれは…………忠犬……ハチ公………?』

『………あいつ………はっ! アケビ……! 仕事仕事!』

『あはっ、忘れてたっ。以上、現場よりお伝えしました!』

『……ふぅ、ありがとうございます。研究所の相談役が謎のポケモンと交戦中とは驚きですが、一体どういうトレーナーなのでしょうか。以上、臨時のニュースをお伝えしました』

『本日三戦目の最中でしたが、臨時ニュースということでお伝えさせていただきましたッ! カロスの西に位置するコウジンタウン。そこに化石研究所があるのですが、どうやらそこで事件が起きている模様です! 皆さんお近くへ行った際にはお気をつけください!』

『ちょっとよろしいですか? ポケモン協会のユキノシタハルノです。今回の事件に関しましてポケモン協会もたった今情報を認知したところでございます。ですが、ご安心を。現在対処に当たっているのは我がポケモン協会が誇る最強のポケモントレーナーです』

『………ポケモン協会が誇る最強のトレーナー…………? 理事長とかでしょうか』

『ふふっ』

「それでは、バトルを再開してください!」

「それじゃ、仕切り直しと行きましょうか」

「………はあ、んじゃエレク。メガシンカ!」

「アーケオス、もろはのずつき!」

 

 

 

     *   *   *

 

 

 くそっ…………。

 このタイミングで奴が出てくるとか、有り得ねぇだろ。

 出てくるならせめて一人で出て来いよ。

 

「泣き言言ってても仕方ないけどな。エンテイ、だいもんじ!」

 

 折角追い込んだというのに、裏側の住人さんにより邪魔をされた。おかげで仕切り直し、いや一度のチャンスを逃してしまった以上、一方的に不利といった方がいいか。相手はデオキシスだけではなくなったのだ。この黒くデカい翼を大きく広げた反物質の神も相手にしなきゃならねぇんだからな。

 以前、エックスが空に開いた穴から一瞬見えたという赤い何か。それはおそらくデオキシスなのかもしれない。こいつはダークホール擬きの穴を作り出すことができるからな。あの穴かはこいつが作り出した可能性が十二分にある。

 しかし、参った。デオキシスの穴のせいで、裏側へとゲートができてしまい、奴が来てしまったではないか。

 どうすんだよ、マジで。

 

「お前はお呼びじゃないんだよ、ギラティナ。ジュカイン、リザードン、ドラゴンクロー!」

 

 あん?

 鬼火………?

 

『ゲンインハアノトキノサイキョウダークホール』

 

 あの時…………?

 最強というからには特別なダークホールってことだよな………。

 となると………一度だけ使ったことがあるな。

 最終兵器を止めるための最後の手段としてダークライが俺に託した大技、ブラックホール(俺命名)。

 

「ッ!? ブラック……、ホール……………っ?!」

 

 そうか、そういうことか。

 デオキシスが使っているあのダークホール擬きはブラックホール。

 そして、あの時俺たちが進化させてできた技もこれと同じブラックホール。

 つまりはそういうこと。

 

「戦いの場をカロスにしたのはサカキでもデオキシスでもなく、俺ってことかよ………」

 

 俺たちがブラックホールを作ったことで、デオキシスのブラックホールとのゲートができ、こいつがカロスに来た。それを察知したサカキもカロスへと渡航。

 そして、もう一つ。ブラックホールはダークホールの上位互換。つまりはあれも世界の裏側へと繋がっている。だから神も来た。

 

「偶然にしても笑えなさすぎだろ。ジュカイン、くさむすび! ヘルガー、あくのはどうでジュカインを強化だ! エンテイ、リザードン、そのままギラティナを引き付けておけ!」

 

 いやもうほんとマジで。

 なんで次から次へと問題が起きるかね。

 胃がキリキリしてきたわ。

 

「消えた………、くそっ!? シャドーダイブかよ!」

 

 黒い穴から出てきたかと思えば、すぐに姿を消したギラティナ。

 あの巨体がいつどこから出てくるのか、ひやひやなんてもんじゃない。恐怖すら覚えるね。というかもう心臓バクバク。アドレナリンが出まくりんぐである。………なんかトベっぽくなった。

 デオキシスはデオキシスで、アシストと遊撃をしているヘルガーを突き飛ばし、同時にジュカインの尻尾を掴み上げた。

 

「ジュカイン、リーフストームで尻尾を飛ばせ!」

 

 メガジュカインになって変わったことといえば、リーフストームを尻尾を飛ばして撃ち出すことが一番大きい。あの尻尾、実は再生するんだわ。や、マジで。

 

「まあ、あっちはもっと再生してますけどね………」

 

 ドリルのように回転して切り離された尻尾はデオキシスの腕を貫き、切断した。だが、すぐに腕が生えてきた。自己再生、なのだろう。触手が無限に再生してくる感じで気持ち悪い。

 

「これじゃ、俺たちここで果てることになるじゃねぇか。んなの勘弁だっつの。何か、何か片方でも一撃で黙らせる方法を……………」

 

 一撃………。

 一撃………………………。

 ……………………一撃?

 

「ッ?! 試してみる価値はありそうだな。エンテイ、しばらくギラティナを主導で対処してくれ! ジュカイン、リザードン!」

 

 まずはあの触手ーーもといデオキシスを止める方が先決だな。神の相手はそれからだ。

 前衛として戦っていた二体に呼びかけると、リザードンはすぐに俺の考えを察知したのか、エンテイと前後を入れ替わった。ジュカインも尻尾を再生して、一度俺の元まで戻ってくると空を仰ぎ、デオキシスの出方を伺っている。

 

「ジュカイン、俺が合図を出したらリザードンと交代だ。ただし、その直前までデオキシスの意識をお前に向けさせておくんだ」

「カイ!」

 

 手短に指示を出すと再びジュカインはデオキシスの元へと走っていった。

 と同時にエンテイが地面に叩きつけられた。

 くそっ、ついに来たかシャドーダイブ。

 伝説のポケモン、しかも毛色の違う二体を相手にするのとか無理すぎるだろ。まだ三鳥と戦ってる方がマシだわ。

 

「リザードン、ローヨーヨー!」

 

 まずはリザードンを動かす。

 急降下し出したリザードンにギラティナが意識を向けるも、起き上がったエンテイが聖なる炎で包み込み、行動を制御した。ナイスアシスト。

 つか、今思ったがギラティナにはせいなるほのおは効くんじゃないだろうか。タイプ相性とかは別にして。だってあいつ聖とは真反対の奴だし。浄化とかできないのかね。

 

「ジュカイン、かげぶんしん! ヘルガー、れんごくで気温を上げろ!」

 

 ジュカインが作り出した影はデオキシスを取り囲み、一瞬の迷いを生ませた。というか、迷うことがあることに驚きである。

 いくら宇宙から飛来した謎のポケモンであったとしても感情がないとは言えないようだ。

 さらにヘルガーが煉獄の炎で下からじわじわと空気を炙っていくと、デオキシスの攻撃が外れた。影にすら届いていない

 ジュカインが作り出した影を温度上昇により陽炎へと持って行こうと思ったが、結果は上出来と言えよう。

 

「タネマシンガン!」

 

 狙うなら今だ。

 あいつのタネマシンガンの種はやどりぎのタネでもある。発動すればよし。そうでなくてもデオキシスは必ず何かしらの対処をしてくるはず。そして、それは俺たちにとっての貴重な時間となる。

 

「エンテイ、もう少し持ってくれよ」

 

 エンテイはほぼ一対一の状態でギラティナのヘイトを取っている。いや、マジで伝説様々だわ。

 

「来た………、ジュカイン! スイッチ!」

 

 グインと地面すれすれで急上昇していくリザードン。その身体は赤い炎を纏っている。

 そして、ヘルガーの補助の元リザードンと立ち位置を入れ替わった。

 急な展開にフォルムチェンジを加速させていくデオキシス。俺の目が合っていれば一周回ってディフェンスフォルムになったぞ。なんか焦っているのがすげぇ分かるんだけど。

 

「ジュカイン、ドラゴンクロー! ヘルガー、あくのはどう! リザードン、エアキックターンからのじわれ!」

 

 今度はデオキシスにリザードンがギラティナに三体がかりで攻撃を仕掛けていく。

 エンテイ?

 あいつは基本、俺の指示なしでいいんだよ。必要な時にだけ俺が指示を出す。それくらいの方があいつも自由に戦えるというもの。ま、だからといって俺の指示を無下にするようなことはない。一応俺のことはトレーナーとして認めてくれているようだし。

 

「さて、こっちも準備だ」

「ライ」

 

 リザードンがこれでデオキシスを黙らせられれば良し。ジュカインたちがギラティナに地を這わせられればなお最高。

 だが、そう簡単にいくほどこいつらは甘くない。

 だからこっちでも一発、用意しておく必要があるのだ。

 

「シャァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 …………上空で空気を蹴り返し、反転してデオキシスを地面に叩きつけ、地を割った。

 効いてない、か………?

 一方で、ギラティナもジュカインがその身を犠牲にして、地面に叩きつけた。ヘルガーがそれを黒い波導で固定し、エンテイがジュカインの回収に向かっている。

 全く、全員きっちり仕事してくれちゃって。ここで俺たちが失敗するわけにもいかねぇじゃねぇか。

 

「ダークライ、あん時よりは小さいが、ダブルでだ。ブラックホール!!」

 

 今回はあの黒いひし形の結晶はない。

 だからあの時のようなブラックホールは使えないが、それでも今俺たちに出せる全力を注げば裏側へとあいつらを押し込めるだろう。寿命が縮みそうで怖いけど。何ならもうすでに縮んでそうだけど。

 

「ぐぅ………、これもこれでキツ………」

 

 なんかもうね、頭がぐわんぐわんする。

 これアレだわ。ダメなやつだわ。ユイあたりはまた泣くんだろうな。自分でいうのもアレだけど、ユイってば俺のこと好きすぎるし。好きすぎるあまり俺の脱いだ服を…………おっとこの先はいくら心の中でも後ろ指刺される問題だったわ。あいつのためにも思い出すのはやめよう。

 でも仕方ないんだっての。呼ばれて飛んで来たら襲われるんだから。俺だって生き延びるようにしてはいるんだ。それであの様かと言われたら返す言葉もないけど。

 

「ヒッキー!」

「ヒキガヤ!」

「ハチマン!」

 

 あー、もうなんで来ちゃうかなー。これじゃこのまま押し切る以外の策が使えないじゃん。

 

「バシャーモ、ブレイブバード!」

「シュウ、はどうだん!」

「スイクン、れいとうビーム!」

 

 ったく、揃いも揃って。一体どこから聞きつけて来たんだか。

 

「ダークライ、一気に押し込むぞ」

「ライ」

 

 エンテイとスイクン、それぞれを主導に黒い穴へと二体のポケモンを押し込んでいく。

 それにしてもこの面子。ユイが先走ってそれを追いかけるように先生が、取り敢えずスイクンの力いるかもってことでルミルミもついて来たって感じだろうか。コマチがいないのは全員戦える状態じゃないし、運営に携わるあの三人も然り。ザイモクザとカワサキとトツカも動こうとはしたが、これが陽動で会場の方で何かあると対処の手がいるってことで残ったのだろう。あっちの指揮は………ツルミ先生かな。………あれ? 育て屋の三人は? 会場にいたはずだよな? あっちに残ったのか?

 

「「「全主砲斉射!」」」

 

 あ、来てた。

 しかもなんかトレーナーの数に対するポケモンの数がおかしい。

 アレか? 育て屋のポケモンたち…………だったわ。フラダリのギャラドスとかパキラのファイアローもいるし。

 

「「「撃てぇぇぇえええええええええっっっ!!!」」」

 

 ハイドロポンプ、はかいこうせん、フレアドライブ、ワイルドボルト。他にもいろいろな技がデオキシスとギラティナを襲い、黒い穴へと押し込んでいく。あと一息。あと一息でいける。

 

「スイクン、ぜったいれいど! エンテイ、せいなるほのお!」

 

 そしてルミが出した指示が決めてとなり、ついにデオキシスとギラティナを裏側へと送り込むことに成功した。いやほんとマジでルミルミ最強。

 

「はあ………、はあ………キツっ」

 

 やり過ぎた感が否めない。

 だが、ここまでしてようやくあいつらと対等に渡り合えるかどうかなのだ。

 マジで何なんだよ。

 もうね、キツくて膝から崩れ落ちて、四つん這い状態になっちゃったよ。

 

「ヒッキー!」

「ハチマン!」

 

 尋常じゃない汗が地面に染み込んでいく。

 脱水症状、熱中症、貧血。いろいろな症状が同時に出ている感じである。頭は痛いし、吐き気もある。やっぱ人間の身体には負担がデカすぎるってか。いやまあそうなんだけどさ。これくらいしてようやくあいつらと対等に渡り合えるかどうかなのだ。無理を承知でやるしかないだろ。

 

「………ヒキガヤ、今のポケモンたちは?」

「ははっ、先生でも知らない、か」

 

 俺は身体を支えられなくなり、地面に仰向けになった。

 ポケモン協会に所属するヒラツカ先生でもデオキシスのことは知らないか。やっぱあいつは特定機密事項のポケモンなんだな。協会でも幹部クラスの者しか知り得ない情報なのだろう。

 俺か?俺は理事直属だったからな。いやでも情報だけは入って来たさ。

 

「すごい汗………」

「先生、早くヒッキーを病院に………!」

「いや、それも意味がないだろう。違うか、ヒキガヤ?」

「その認識で合ってますよ………。時期に治る。何ならしばらく離れててくれると助かる」

「えっ?」

「………………」

 

 や、そんな悲壮感漂わせるなよ。別に突き放してわけじゃないんだから。

 

「………エンテイ?」

「よく分かったな………」

「今使えそうなのってエンテイの技くらいだもん」

「ま、さっきエンテイに指示を出せていたんだし、知ってるか」

「うん、知ってる。ホウオウのところまで案内してくれたのもエンテイだし」

「そうだったな」

 

 なんたかんだ言ってルミも伝説のポケモンたちに会って来てるんだったな。何なら今でもスイクンがいるし。さっきのぜったいれいど、今度は全員の技に掛けて急冷却して固体による重い一撃に変えてたくらいだし。

 

「エンテイか…………、なるほど。ではユイガハマ。私たちは少し離れているとしよう」

「えっ、でも」

「大丈夫だ。あとは二人に任せよう。なに、ヒキガヤが、私たちよりも遥かに伝説のポケモンたちの力をコントロールしてきた男が言っているのだ。何も心配はいらないさ」

 

そう言ってヒラツカ先生はユイを連れて、この場から少し離れたところに移動していった。

 

「それじゃ、エンテイ。よろしくね」

 

 ルミの言葉に無言で頷くとエンテイは炎を纏い始めた。その炎はやがて俺を包み込んでいく。

 ああ、これだ。この炎だ。いつかの空中戦でも味わった力が漲る炎。

 段々と落ち着きを取り戻し、頭痛や吐き気といった症状が治まっていく。

 だが、これは荒治療もいいところ。炎一つでこの身体が完全に回復するのであれば、毎日やっている。

 それができないからこんなことになってるんだし。まあ、だからと言って文句を言うつもりはない。俺はそれを承知の上でダークライの力を使っているのだから。これは記憶を食われることの合併症みたいなものだ。仕方がないことである。

 

「………ふぅ」

「どう?」

「ああ、バッチリだ」

「………不思議だよね。炎なのに服が、身体が全く燃えない。………それはスイクンの水も同じか」

「ああ、そうだな。ここにライコウの電気があれば、電気ショック治療になったかもな」

「あんまりやりすぎるとその内身体壊すよ? 文字通りの意味でも」

「大丈夫だ。もう壊れてる」

「ダメじゃん………………」

 

 この身体が正常な状態なわけなかろうに。

 酷使してるのよ。いやー社畜は辛い。

 

「なんとも神秘的な現象だな」

「先生………」

「ヒッキー、もう大丈夫なの?」

「ああ、取り敢えずな。ま、これでしばらくはどうにかなるだろ」

 

 俺の身体もあのポケモンたちも。

 いつまで保つかは判らないが。今夜かもしれないし、向こう一年かもしれない。いつ如何なる時でも対処できるようにしておかないといけないという、謂わば責任とプレッシャーは生まれたが、これで時間的猶予は稼げている。

 

「つか、どうやってこの事知ったんだよ」

「会場で臨時ニュースが流れて……」

「ニュース?」

 

 所長が情報提供したのか?

 

「いやー、見事に真っ二つだねー。ウケるんだけど」

「もうほんとなんなのよ、アンタって………」

 

 オリモト、それにサガミ………。あ、ナカマチさんも後ろでドン引きしてるわ。

 

「かおりん………」

「ヒキガヤ、あれデオキシスとギラティナでしょ。なんでいんの?」

 

 おおう、こっちがいたか。

 元シャドーなだけはある。伝説のポケモンとか、一通り頭に入っていそうだな。というか絶対入ってるよな。普段はあんななのに。

 

「…………よく知ってたな。お前の言う通り、アレはデオキシスとギラティナだ」

 

 こう言っても話についてこれるのはオリモトだけか。

 

「そっちは知らないんだな」

「………カオリほどポケモンに詳しいわけじゃないからね」

「そうか」

 

 ま、それはどうとでもなることだ。

 

「…………デオキシスってデルタの時に倒したんじゃなかったの?」

「倒した。だが、飛来したのは二体いる。倒したのはその内の一体だけだ」

「ということは今回のはもう一体のデオキシスによるものってわけか。じゃあ何でギラティナが出てきてたの。普通に考えて関係性は全くないでしょ。ヤバくない?」

「デオキシスとギラティナに直接的な関係はない。そもそもギラティナはシンオウの神話に出てくるポケモンだ。まがいなりにも神だ。邪神といった方が適切だろうがな」

「邪神………それある!」

「………それで? 間接的な関係はあるんだろう?」

 

 ったく、この人は………。

 そういうとこ目敏いですよね。

 

「………俺ですよ。正確には俺とダークライ。黒いのが使うダークホールは世界の裏側へと繋がっている。つまりギラティナの世界に繋がっているんです。………今回はフレア団による最終兵器起動を止めるために、ダークホールを強化させた。そしたら今度はデオキシスまで呼び寄せてしまったってわけです。最終兵器のエネルギーを自分に世界に送ってきたことにギラティナは怒り狂ってるんでしょうね」

「それはまたなんというか……………」

「ヒッキー………」

「ヒキガヤ、それでどうすんの? あたしが知ってる限りではあれくらいでギラティナがおとなしくなったとは思えないんだけど」

「なるようにしかならないだろ…………。ただ、面倒なことに今カロスにはロケット団が来ている。サカキの目的はおおよそデオキシス。一度手にした力をまた手にしようということだろう。その関係で俺を利用しようとしているんじゃないか………? 知らんけど」

「マジウケないんですけど………」

 

 なんかウケるの使い方がよく分からんなってきた。

 さっきといいどっちもウケないでしょ。

 

「今回ばかりは俺も同意見だ。だが、原因は俺にある。だからこの手でデオキシスと、ついでにギラティナも黙らせるだけだ」

「…………できるのか?」

「愚問ですね。できるできないの問題じゃない。やるんすよ、そのためのカードはすでに動いている」

「………それってイロハちゃん?」

 

 少し考え込んだかと思うと口にしたのはユイだった。

 うんうん、お前も成長したな。自分でも状況を整理できるようになったじゃないか。

 ま、あれだけのバトルが出来れば、自然と身につくか。シャラシティでの特訓はユイにとってかけがえのないものになったようで何よりである。

 

「いや違う。ゲッコウガだ」

 

 だが、残念ながら少し違うんだよなー。

 メインはこっち、ゲッコウガの方だ。

 

「イロハがあるポケモンを説き伏せに行くのにあいつを同行させたんだ。それが偶然にも『外』にいることになった。今あいつは事を構える準備をしてるはずです。………その内あいつ、本当に新しい伝説を作っちまいそうで怖いんですけどね」

 

 いやホント。

 マジであいつが恐ろしい。

 なんだよ、あいつ。俺の気のせいとかならまだ気を保てるんだが、どうやらこれが現実なのだから、もう訳が分からない。

 あいつーーゲッコウガはなんかポケモントレーナーに目覚めたらしい。

 いや、うん、何言ってんだって感じだけど、俺も何が起きてるのか分からないのだから仕方ない。

 

「ゲッコウガが伝説のポケモンとかウケる………!」

「………あ、だからゲッコウガはあたしとの時に出さなかったのか」

「そういうことだ。悪いな、ゲッコウガも入れた完成されたパーティーじゃなくて」

「でも、それでもみんな本気出してくれてたんでしょ?」

「逆に出さざるを得なかったってのが正しい。一体いないんだからな」

「そっか、よかった」

「ユイは胸を張ればいいと思うぞ。俺のヘルガーとジュカインを倒したんだからな。コマチもイロハもまだ俺のポケモンたちを本気にさせてないんだ」

「……………それって単に二人とバトルする機会がなかっただけだろう?」

「先生、それは言わない話でしょうに」

 

 折角ユイがパアッと明るくなったってのに、なに水差してるんですか。

 

「………さて、帰りますか。さっさと次に備えないと」

 

 それと報告もな。

 帰った時にあの姉妹がどんな顔をしているやら。

 泣きつかれるのか、抱き着かれるのか、冷たい目でくどくどと説教されるのか。……………全部いっぺんに来そうだな。

 だがまあ、これで敵は判明した。あとはやるべきことをやるだけである。

 




ようやく。
ようやく色々と動き出しました。

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