カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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28話

「カメックス、ハイドロポンプ!」

「いくぜ、ガオガエン! ハイパーダーククラッシャー!」

 

 コウジンタウンから戻ってくるとバトルも最終局面になっていた。四天王対ロイヤルマスク仮面。

 うん、やっぱり誰だか分からん。

 だが、あの仮面の男はZ技を使える実力者であることは分かった。

 

「流石です、カメックス。では、こちらもメインディッシュといきましょう! カメックス、メガシンカ!」

 

 まあ、それ以上に四天王のカメックスの方が上らしいが。メガシンカしてもいないのにZ技に耐えやがった。

 相手はほのおタイプなのだろう。不利な相手によく動いていると思う。

 

「りゅうのはどう!」

 

 メガシンカしたカメックスの巨大な背中の砲台と、両腕の小型の砲台から三体の竜を模した波導が放たれた。相手がほのおタイプならハイドロポンプの方が効果があると思うんだが。

 

「ガオガエン、DDラリアット!」

 

 ガオガエンというあの赤黒いポケモンが両腕を広げて回転し始めた。

 なんかプロレス技みたいだな。最もプロレスを見たことはないんだが。

 

「グロウパンチ!」

 

 いつの間にかカメックスがガオガエンの背後に移動していた。そして、拳を掬い上げた。

 

「ガオガエン!?」

「カメックス、とどめです! ハイドロポンプ!」

 

 打ち上げられたガオガエンに向けて砲台が照準を合わせていく。

 

「全てを干上がらせろ! フレアドライブ!」

 

 撃ち出された水砲撃に対し、自身を炎で纏い向かってくる水砲を蒸発させ始めた。

 まあ、だからといって効果抜群の技を受けているのだ。ガオガエンにもダメージは深く入っているだろう。それに相手はメガシンカしている。メガの力を侮っては自らやられにいくのと同じである。

 

「ガオガエン?!」

 

 うん、だろうな。

 さすがに無理があるって。

 

「ガオガエン、戦闘不能!」

「さすがにあれは無理あるよねー」

「………メガシンカは強い」

「で、でもあのポケモンも頑張ったくないっ?」

 

 オリモトとルミルミが辛辣なコメントを入れる中、ユイがフォローのコメントを入れてくる。

 

「よって勝者、四天王ズミ選手!」

「そうだな。あのトレーナーの方も負けたからといって落ち込んでる風でもない。満足のいくバトルだったのだろう。無論負けは負けだが、ポケモンバトルはそれだけじゃない」

「そうっすね。ポケモンバトルで生計を立てていくってんならまだしも、ただのトレーナーですからね。いちいち負けたくらいでうだうだ言う必要もないでしょ。や、まああのプロレスラー擬きがポケモンバトルで生計立ててるかどうかなんて知りませんけど」

「………でも、負けると悔しいよ?」

「ならその時落ち込んでるか?」

「…………どうだろ……」

「なるほどねー。要するに悔しいと思えてるならまだまだ次がくるってことか。うわ、ヒキガヤが言葉遊びとかウケるんですけど!」

「ウケねぇよ」

「でもやっぱり負けたら落ち込むかも………」

「ばっかばか、本当に落ち込むってのはもう絶望すら感じてその身を投げ出したくなるもんなんだよ」

「なにそれ、経験談?」

「………………」

 

 痛いところ突かれた。

 ルミルミってば鋭すぎ。鋭い目の持ち主なのん?

 

「バッカみたい」

「ルミちゃん………っ!」

「絶望的になろうが結局生きてるじゃん。そんな簡単に死ねるわけないし」

「…………ふっ」

 

 目を見張ったが同時にルミルミの頭をわしゃわしゃとしていた。うん、こいつも丁度いいサイズ感だよな。

 

「な、何するのっ」

「いやー成長したなーと」

「だからって撫でろなんて言ってない」

「………ポケモントレーナーってのは案外一番死ねない部類なのかもな」

「………どういうこと?」

「ポケモントレーナーなら必ずポケモンがいる。どれだけ絶望してもポケモンがいる。ポケモンがいる限りは死ぬに死ねないだろ。それでも死ねる奴は勇者だな」

「ほう、君の口からそんな言葉が出てくるとは。成長したではないか。撫でてやろうか?」

「遠慮しておきます」

 

 はいはい、頭から手を退かしますよ。そんな睨むなって。

 

「ルミ、何かあったら、その時はお前の母親を連れて回れ。そんで他のトレーナーを死ねない運命にしてこい」

「………?」

 

 小首を傾げるルミルミ。

 と、向こうから黒いスーツ男が歩いてくるのが見えた。俺は奴が目に入るとオートで空気を変えてしまった。

 

「………ふっ、どうやら生きて帰れたみたいだな」

「生憎、あいつがいる限り死ぬことはないんでね」

「明日が楽しみだ」

「そうだな。アンタ相手に手を緩める必要もないしな。こっちも散々な目にあってきたお返しをくれてやるよ」

「それは物騒だな」

 

 何が物騒だ。

 アンタがウロチョロしてる方がよっぽど物騒だっての。

 

「この人だれ?」

「怖い怖いおじさん。俺の次の対戦相手でもある」

「ほう、宣戦布告か」

 

 ある意味ではそうかもしれない。

 最も先生たちが想像してる程度の小さいことじゃないがな。

 

「………そうっすね。そんな感じです」

 

 今はそういうことにしておこう。下手にこいつがサカキだって教えても余計にやりにくくなるだけだろうからな。

 

「ふっ」

「ッ?!」

「先生………?」

「……トキワジムリーダー……………!」

 

 横を通り過ぎていく時の不敵な笑みに反応したのは先生だった。

 

「………ほう。まだその名で呼ぶ奴がいるとはな」

 

 足を止めたサカキは感心したように振り返ってくる。同時に黒いハットも取り、その顔を見せてきた。

 

「何故、ここに………?」

「オレはもうジムリーダーなどではない」

「ああ、そうだな。単なる指名手配犯だもんな」

「「「「「指名手配犯?!」」」」」

「なあ、サカキ」

「ふっ、いつまで経ってもオレを捕まえられない無能どもに今更オレを捕らえることなど無理な話だ」

 

 まごうことなきサカキであり、それに皆が言葉を失っていた。

 

「はっ、だったら自首をおすすめしてやるよ。カントーで悪さしてました、ごめんなさいって警察に出頭してこい」

「バカバカしい。なぜオレがそんなことをしなければならんのだ」

「そういうと思ってたわ。ま、俺はそこら辺はどうでもいいんだけどよ。協会側が本気で動くってんなら俺もそれに乗るってだけだし。つか、アンタを俺一人で捕まえるとか無理だろ。逃げ足だけは速いんだからな」

 

 結局いつもいつも引くタイミングだけはちゃっかりしてやがる。物的証拠も残さねぇし。年々隠蔽が上手くなってる気がするまであるな。

 

「なあ、そろそろ行ってくれねえか。さすがにこいつらがアンタの圧に押されて今にも吐き出しそうなんだわ」

「ふっ、この程度で根を上げるようじゃお前についていくのも無理な話だな。…………忠告だ。死にたくなければそいつから離れるんだな。でなければ近いうちに死ぬぞ」

 

 こいつの忠告は忠告で終わらないのがムカつくとこだよな。悪行やめて占い師になった方が儲かるんじゃねぇの?

 忠告を残してサカキはそのまま行ってしまった。………そういやあの二人は?今日は一緒じゃないのか?

 

「ふ、ふぅ………」

「は、はは………まさかこの私が足をすくませるとはな…………」

「………ヤバいよ、まだドキドキしてる」

「…………ハチマン、キモい」

「なんだよ、唐突に。マジで吐き気でも催したか?」

 

 ルミルミ、開口一番がそれって………………。ハチマン泣くぞ?

 

「そうじゃない。………なんでハチマンは平気なの?」

「なんだかんだ付き合いが長いからな。顔を見せれば俺を半殺しにしてくるような奴だ。嫌でも慣れてくる」

「はぅ~………」

「ああ!? チカ………!!」

 

 ついにナカマチさんがダウンした。

 まあ、この中じゃ一番耐性なさそうだもんな。

 逆にこういう時ユイの方がしっかり意識を持ってたりする。何故かは知らんが。

 

「…………慣れって怖いな」

「………カイリキー、運んでやってくれ」

「リキッ」

 

 先生が壁に寄りかかりながらモンスターボールを開いた。出てきたのはカイリキー。咄嗟に支えたオリモトからナカマチさんを受け取り、………お姫様抱っこかよ。

 

「にしても意外だな。オリモトまでやられるなんて」

「………さすがにあれはウケないよ。シャレにならない。ジャキラの方が何倍も楽だったよ」

「ジャキラ?」

「シャドーのナンバー2」

「………ああ、メタグロスかなんか育てた記憶があるわ」

 

 ナンバー2がジャキラというのは知らないがナンバー2のポケモンを育てた記憶ならある。

 

「通りであのメタグロスだけ強かったわけだ」

「へぇ、そんな強くなってたのか。なんかすまん」

「これがバトル山を制覇した男が育てたっポケモンかーって思ったなー。ほんとシャドーを抜け出すときはヤバかったよ」

 

 ということはナンバー2とやり合ったのか?

 みかけ以上にアグレッシブな奴だな。

 

「………どうやら少しは落ち着いてきたみたいだな。そんだけ過去の話に花を咲かせられれば大丈夫だろ」

「まあね。自覚ないだろうけど、半分はヒキガヤのせいでもあるからね」

「なんでだよ」

「ほら自覚ない。ユイちゃん、言ってあげな」

「ヒ、ヒッキー………あのね? さっきの、その、サカキ? と対峙してるときね。ヒッキーも同じくらい怖かった」

「……………………あー、うん、なんか、その、すまん………」

 

 まあ、空気を変えたしな。

 にしてもサカキと同じってのがなんか癪に触るな。

 

「ううん、いいの。だってヒッキーはあたしたちを守ってくれたから」

「若干一名意識失ってるけどねー」

「オリモト」

「アイテっ!」

 

 おお、こりゃ珍しい。

 ヒラツカ先生がオリモトにチョップとは。

 

「………ヒキガヤ。その、なんだ………いい大人が教え子に守られるというのも情けない話だが………、その、改めてお前がどういう世界にいるのかをこの目で見た気分だ」

「………なんすか? さっさと足を洗えとかそういう話ですか? それならもう手遅れっすよ。俺は最初から、こっちの世界に足を踏み入れる前からマークされてるんで。どう足掻こうが結局はここに帰ってくるんです」

 

 ほんと、全てはあの出会いから始まってしまったからなー。別に後悔なんてしてないけど。あそこで俺が家の中に入れなかったら、今頃こうしてポケモントレーナーなんてやってないだろうし。

 適当に働いて、適当にサボって。そんなつまらない日常にいるはずだ。

 

「いや、今さらどうこう言うつもりはない。君のおかげで私たちが救われてきたのは事実だ。ただ、その、なんというか、守られているだけではどうにも腹の虫が治らん。君は私の教え子だ。それは今も変わらない」

「………先生、人が良過ぎでしょ。自分から損な方を引こうとするとか、病院行った方がいいんじゃないですか?」

「医者に診てもらったところ、治らんそうだ。不治の病。与える薬もないらしいぞ」

「………ま、それは先生に限った話じゃないっすね」

 

 与える薬もないとはよく言ったものだ。確かにもう手のつけようがない。当事者の俺はもとより、こいつらの親ですら無理だろう。最終的に遅めの反抗期とでも言ってしまえば何もかもがすんなり行っちゃう年頃だし。

 

「サカキの忠告は忠告で終わらないってのに。死んでも文句言うなよ」

「大丈夫大丈夫っ!」

「…………スイクンいるし、そう簡単に死なないでしょ」

「あ、あたしだって強くなったもん! バカにするなし!」

「いや、してねぇけど」

 

 誰ももうお前を弱いだなんて思わないだろ。てか、スイッチ入るとヤバいまである。

 

「ヒキガヤ」

「はい? 今度はなんッ?!」

 

 え、ちょ………え?

 

「ぷはっ………、おまじないだ。今の私にしてやれるのはこれくらいだからな」

 

 ほんのり顔を赤くしながら、ヒラツカ先生が不敵な笑みを浮かべた。

 え………、マジ?

 

「ちょ、先生何してんですか?! てか、え、ちょ、先生もなの!?」

 

 ぽかーんとしていた中、最初にユイが口を開いた。

 うん、ほんと。何してくれちゃってんの?

 

「何って大人のファーストキスだ」

「や、そうじゃなくて………え? ファーストキス………?」

 

 ユイが固まるのに合わせて冷たい風が吹いたような気がした。

 ああ、やっぱり初めてだったか。

 

「………この歳で、な」

「だ、だからっていきなりヒッキーを襲わなくても! そんなにキスがしたいならいくらでもいるじゃん!」

「………ほう、君は私が誰彼構わずキスする女だと? 悪いがわ、私だって………………女の端くれだぞ。キス一つで夢見るような乙女なんだぞ………………」

「ッッ!」

 

 今度はユイの顔が赤くなっていく。

 まるで恋する乙女のように。いや、現在進行形で恋する乙女だったな。

 うん、なんというか新しい恋に落ちたと表現するのが一番しっくりくる。つまり、あれだ。浮気現場に遭遇してるというわけだ。

 

「………先生、それずるい……………」

「女はずるい生き物なんだろ?」

「そ、それは………そうですけど……………」

「まあ、別に君たちからヒキガヤを取ろうってわけじゃない。なんというか………けじめみたいなものだ」

「けじめ、ですか………?」

「私の直感が何か大きな災いを感じ取っている。だからこそ、今この身をヒキガヤに捧げるという誓いの証を立てたのだ」

「………俺、フラグ建てた覚えないんですけど?」

 

 ハルノやユキノなら分からなくもない。ああ、このシーンは建ったかもなっていうのがいくつも思い当たるが、事ヒラツカ先生に限って言えば全くそういうシーンが思い当たらない。実際、先生を助けることなんてなかったのだし。俺が手を貸す必要がないくらい、その場での判断を的確に下せる人だからな。

 

「ま、そうだろうな。実際私もいつどこでとか、そういうのは覚えちゃいない。ただ、『君の教師』という役目を終えても尚、私は君のことをずっと気にかけてしまっている。それはもうユキノシタやユイガハマとは比べ物にならないくらいにな」

「…………ま、こんな問題児、気がかりになってもおかしくないでしょ」

「そうだな。前例としてハルノもいる。だが、やはり私は君を特別視しているのは事実だよ。教え子としても、男としても」

 

 ッッ?!

 

「………ほんと、女はずるいっすね」

 

 今まで男の落とし方も知らなかった先生が。

 こんな胸の内を明かすとなるとこうもずる賢さが出て来るとは。ユイかイロハかコマチか。一体誰に影響されたというのだろうか。

 いや、考えるまでもない。あの三人であり、加えてユキノとハルノもだろう。あの二人が素直に胸の内を明かすなど、先生からしてみれば異例の光景だっただろうし。

 しかし、それが望まぬ姿ではなかった。むしろ喜ばしいことなのだろう。だから先生も彼女たちを真似て胸の内を明かしてくれた。

 

「………先生、いやシズカさん。俺の家族になってください」

 

 だったら俺がとるべき行動は一つしかない。

 

「っ?! はい、喜んでっ!」

 

 俺は初めて恋する大人の姿を目にしたのだろう。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 コマチたちと合流した後、プラターヌ研究所にて報告会となっていた。時間はもう夕食頃になる。

 

「それで、一体何があったというのかしら?」

 

 大広間で女性陣により創作された料理を口に放りながらの報告会。

 これまた上品にナイフとフォークばかり使う料理ですよ?

 やっぱユキノシタ姉妹の家事力やべぇ。

 

「ああ、なんか臨時ニュースも入ったらしいから知ってるかもしれないが、コウジンタウンの化石研究所が真っ二つになっていた。やったのはデオキシス。指定機密のポケモンだ」

「………なるほどね。だからデオキシスについて情報を求めていたのね」

「………それにしてもよく分かったね。ヒキガヤ君も直接遭うのは初めてなんじゃ………?」

「…………俺の元々の所属、覚えてます?」

「…………所属………あっ、理事直属の懐刀………………」

 

 ようやく気づいてくれたか。

 そもそもそんなところにいなければ、こんな情報通になっているはずがなかろう。

 

「そうです、俺が色々と情報を持っているのはそのおかげですよ。指定機密だろうがなんだろうが、大体の情報に目を通している」

「じゃ、じゃあ………」

「デオキシスについても知ってますよ」

「………なにそのチートな役職」

 

 未だにむっすーとしているルミルミ。どうやらさっきのヒラツカ先生のやり口がお気に召さなかったらしい。

 

「そこら辺は今更というものよ。この男、弱冠十三歳でその席にいたのだから」

「十三、歳………」

「ユキノシタ、アンタはヒキガヤのこと色々と知ってるみたいだけど」

「そうね、あなたたちよりは知っているわ。でも、知らないことだらけよ………」

 

 カワサキの質問に遠くに目をやりながらユキノが答えた。

 これはアレだな。フォローしておかないとスイッチが入りそうだな。

 

「ユキノ、俺はまだその時の記憶を思い出しちゃいない。ただ、今夜。多分思い出すと思う」

「い、意味が分からないわ。あなたの記憶が戻るのはダークライの気まぐれなのでしょうっ?」

「…………日常的な記憶は気まぐれで食ったり戻したりしている。だが、こういう緊急事態に繋がる記憶は、今日のような日に戻ってくるんだ。…………ようやくそれに気がついた」

 

 こっちに来てからというもの。

 重要な記憶は大体何か起きる前に、いや記憶に繋がる何かが起きる時に戻ってきているといった方が正しいか。

 ………ん? ちょっと待て。そうするとダークライって未来が見えてるんじゃ………………。

 

「………それはつまり………」

「ああ、明日何かが起きる。これは決定だ。だが、まだ記憶は完全じゃない。だから今夜その記憶を取り戻す」

「………ようやく………ようやく、なのね………………」

 

 おおう、涙腺が決壊した。

 そんなに俺の記憶って大事だったのん?

 

「そう喜んでもいられないわよ、ユキノちゃん。ハチマンが記憶を取り戻すということはつまり………、計画の全てを思い出すということなのよ。それにハチマンが耐えられるかどうか………」

「あー、計画なら全部思い出してるぞ?」

「へっ?」

 

 ハルノが素っ頓狂な声を上げた。

 あー、やっぱ気にするなと言っても気にしちゃうよなー。ハルノにとって俺に計画の全てを知られるのは相当不安なことだろうし。

 

「『レッドプラン』に『プロジェクトM's』。それと『レジェンドポケモンシフト計画』だったか?なんかまだヤバそうな計画があるってことも」

「っ?!あ、あ…………」

 

 こちらも涙腺が決壊。

 この姉妹、結構涙腺緩いよな。

 

「ま、ある意味サカキが出した答えは正しかったのかもしれないな。最終的に俺を利用しようとしているようだが、訳ありヒトカゲをパートナーにした俺に、使いこなせるよう計画を立てたんだから」

「………憎まない、の………?全ては私が元凶なのよ?」

「憎む? むしろ感謝してるまである。多分、あの計画がなければ俺はリザードンを暴走させて、街一つを破壊してたかもしれないからな。後はサカキが仕込んだ『レジェンドポケモンシフト計画』をどうモノにするか。それだけだ」

 

 ほんと、逆に感謝してるっての。

 俺はリザードンにーーヒトカゲに選ばれたんだ。選ばれた以上、俺はトレーナーになると誓った。だが、そのヒトカゲに難有りというのならば、俺一人ではコントロールするのに限界があっただろう。それこそ自力でチャンピオンになれる実力に至ったとしても、その先でやはり暴走させてしまう。そうなれば手のつけようのない大惨事になり兼ねないのだ。だからそうならなかったのは、計画のおかげということである。

 

「あ、あの………あんまり話についていけてないんだけど………、ヒッキーはハルノさんを見捨てたりしないってことだよね?」

「しねぇよ。悪いな、さすがに今の話は難しすぎるよな」

「ううん、いいの。分かんなくても、ハッチーの過去をちょっと知れたから。あたしたちが普通に生活してる裏でハッチーががんばってたってことが知れたから」

 

 ああ、ほんとこの嫁は抱擁力があり過ぎる。

 どうしてこういうことに関しては寛大なのだろうか。

 

「すまない………。大人の私たちが何も気づいてやれなくて………。一度スクールが襲われた時に助けてもらったというのに私はお前が危険なところに身を置いているだなんて気づいてやれなかった。本当にすまない」

 

 逆にこっちはまだ引きずってるし。

 

「シズカさん、アホですか? シズカさんたちがコマチを守ってくれてなかったら、俺は好き勝手に暴れることも出来ませんでしたよ」

「ヒキガヤ………」

 

 ぽう、と頰を染めるヒラツカ先生。

 まずったな。名前で呼ぶんじゃなかった。

 どんだけ呼ばれ慣れてないんだよ。分かるけど。

 

「ね、ねぇお兄ちゃん? なんかヒラツカ先生が恋する乙女になってるんだけど………」

「さっきキスされてた。んで家族になろうって」

「るるるルミ?! そそそそれは本当なの!?」

「本当。その証拠にハチマンの呼び方が名前呼びに変わってる」

「………違和感はそこかーっ!」

 

 コマチ、ようやく解に辿りつきました。

 ルミルミ怖い。ほんと怖い。何が怖いって目にハイライトがなくて怖い。

 

「あっははははは…………、やっぱり驚くよね」

「せせせ先輩! ようやく自覚したんですね! おめでとうございます!」

「つつつツルミ?! そそそそれはどういう意味だ!?」

「先輩、全然自覚してないんですもん。あんな一人の生徒に卒業してからも肩入れしてたら誰だって気づきますって! 気づかないのはなぜ自分がそうまでして動いているのか分かっていない先輩だけです!」

「~~~~!」

 

 なにこのかわいい生き物。

 すげぇ顔が赤いんですけど。

 

「あっれー? シズカちゃん、そういうことだったのー?」

 

 あ、魔王が降臨した。

 怖ぇ、魔王マジ怖ぇ。

 

「で、お母さんはいいの?」

「へっ?」

「………なんでもない。自分だって自覚ないじゃん………」

 

 んん?

 ルミルミ、今の発言はどういう意味なんだっ?

 ちょっと気になるから詳しく!

 

「でさー、ヒキガヤ。デオキシスとギラティナ相手にどう戦うの?」

 

 おっと、ここで新たな爆弾魔が現れたぞ。

 なぜ今このタイミングでいうかね。

 

「ハチマン、今のはどういう意味かしら?」

「い、いや………。だからその………デオキシス以外にギラティナまで出てきたといいますか……………」

「ハチマン? ギラティナって言った? あのシンオウ地方の神話に出てくるギラティナって言った?」

「い、イエスマム」

 

 魔王がこちらにゆらりゆらりとやってくる。

 超怖い。

 さっきのバトルがかわいいと思えるくらいには超怖い。

 

「は、ハッチーは! ハッチーはあたしたちを救うために使った力のせいで狙われてるの! 最終兵器を止めるために使った力のせいで狙われてるんだから!!」

「ゆ、ユイ………?」

 

 バンッ! とテーブルをたたいたかと思うとユイが立ち上がって激高した。

 

「ふふっ、それくらい知っているわよ」

「そそ、私たちはいずれ来るギラティナの脅威の対策も練っているのよん」

 

 だが、この姉妹。

 全くひるんでなどしない。

 まるで彼女がこう言うであろうと予測していたかのように。

 

「そう、なの………?」

「ええ、ハチマンが最終兵器を止めるためにダークライの力を使ったという時点で、大体のことは想定していたわ。そのうちの一つがギラティナの反撃」

「ダークライのダークホールは反転世界ーーギラティナの住む世界に繋がっているの。だから今回最終兵器の力がその世界に吸収された。そうさせるしか手がなかったからだけど、それでギラティナが快く受け入れるなんてことはないわ。必ずハチマンを狙ってくると考えていたの」

「でもまさか、それがこの惨事と同時くるだなんて予想だにしてなかったわ。デオキシスとギラティナ。どっちも厄介ね」

 

 ……………。

 なんでこの二人知ってるのん?

 俺話したっけ?

 

「え、ていうか、なんでそんな知ってるのん? 俺話したっけ?」

 

 話したかもしれないけど、俺の知らないところでそんな対策を立てていただなんて………。

 いや、本人交えろよ。

 

「あら、忘れたのかしら? 私にはクレセリアがいるのよ?」

「…………っ!? お前、クレセリアと対話できるようになったのか?!」

 

 忘れていた。

 そうだ、ユキノにはクレセリアがいる。

 まだまだ使いこなせていたにと言っていたが、それは半年も前のこと。

 半年もあれば、対話にまで持ち込めていてもおかしくはない。

 というか、なぜ今まで俺はそのことを忘れていたのだろうか。

 

「取り合えず、デオキシスね。ロケット団がいるということは必ず絡んでくるでしょうね。敵はデオキシスだけじゃない」

「姉さん、それだけじゃないわ。あの臨時ニュース、フレア団の科学者たちによるものだったわ」

「な、なんですって?!」

「ユキノシタ、どういうことだ?!」

 

 ロケット団が絡んでくるのは間違いない。というか引き金はサカキの可能性が大なのだからな。

 それよりもユキノの今の発言。フレア団の科学者だと? あいつらは今牢に放り込まれているんじゃ………。

 

『フンフフフ』

 

 ッ!?

 いた、奴だ!

 あいつならやり兼ねないし、できてもおかしくはない!

 

「ハルノ、今すぐフレア団の科学者が牢にいるのか確認してくれ!」

「わ、分かったわ!」

 

 まずい。

 これは非常にまずい。

 デオキシス、ギラティナ、ロケット団の他にもう一つ、敵ができてしまった。

 

「ヒキガヤ君、どういうこと?」

「今の話が本当なら、フレア団の科学者は表に出てきている。それも違法なやり方で」

「えっ………」

「で、でもそんなの誰が………?」

「当然中から上げることはできない。外から誰かが干渉するしかない。だけど、憲兵が見回りについている。というか重要案件だから見張りがついているといった方がいいかも。だけど、それを潜り抜けてフレア団を世に放った奴がいる。そういうことでしょ?」

 

 さすがオリモト。

 こういう話の読みは一番早いな。

 

「ああ、そしてそいつの名は」

「ハチマン! ダメ、やっぱりフレア団の科学者たちは揃いも揃っていなくなっていたわ! 見張りが全員やられていたみたい!」

「Saque……………、やってくれたな……………」

 




次回からは番外編の方にいく予定です。まだ製作段階ですが、まずは番外編の方から完結させていきます。

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