カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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八幡の誕生日が近かったので、更新遅らせました。

おめでとう、八幡。
そしてごめんね、ハチマン。

誕生日アップの内容がこんなので………。


32話

「「Saque………」」

 

 案の定、奇襲をかけて来たのはSaqueだった。それもフレア団の幹部五人を引き連れて。

 

『フレア団…………!』

 

 ユキノも奴らの姿を見てピンと来たようだ。

 ただ、マイクがオンになっているのを忘れてるぞ。

 

「ハルノ!」

「……ってる! メグリ!」

「はいっ!」

 

 どうやら伝わったらしいな。これで対応計画を発動させて、総員動かしてくれるだろう。後はあっちに任せよう。

 それよりもこっちを何とかしないと。

 

「意味がないとは、言ってくれるな」

「いえいえ、無意味じゃありませんか」

 

 サカキの言葉にニタァと不敵な笑みを浮かべるSaque。

 

「ーー貴様らはここで死ぬのだからな!」

 

 会場が一気に静まった。

 さっきまで歓声はどこへいってしまったのだろうか。

 つか、死ッ?!

 殺しに来たってのかっ?!

 

『死ッ?! チャ、チャンピオン!? 三冠王!? どどどどうーー』

 

 実況も現状に全くついていけてないか。

 まあ、無理もない。

 こんな展開に出くわすことなぞ、人生に一回あるかないかだろ。

 

『カルネさん、後はお願いします!』

『ちょ?! 今出ていったら………!』

「ヘルガー、かえんほうしゃ!」

「ユキメノコ、みずのはどう!」

 

 チャンピオンがユキノの飛び出しに静止をかけたが、そのままボーマンダに乗ってフィールドへと向かってきた。その背後からはヘルガーの炎が迫ってきているが、ユキメノコも繰り出し対処させ、フレア団を全く寄せ付けないでいる。

 

「クセロシキ、やれ」

「了解なのだゾ。カラマネロ、さいみんじゅつ!」

 

 チッ、狙いは誰だ。

 俺かユキノか? それともサカキか?

 

「「「「「………………………ッ!?!」」」」」

 

 違う!?

 狙いは大勢の観客どもか!

 

「やべぇぞ、これ」

「ハチマン!」

 

 ユキノのご到着。

 さて、どうする。

 さいみんじゅつはバトルでは眠らせる技であるが、それはバトル限定の効果。本来はその名の通りの催眠術だ。術にかかったものを操る技である。

 つまりは観客を操り、俺たちと戦わせるつもりなのだろう。

 

「動くな!」

「ッ!?」

 

 着地して俺に走り寄ってくるユキノをSaqueが静止させた。

 ま、この状況を見て、下手に動けるわけないわな。

 だって、俺ののど元にニダンギルの刃が当たってるんだもん。

 サカキはサカキでギルガルドに捕らえられてるし。

 

「………まさか俺が人質になるとは……………」

 

 心臓がね。

 もうはち切れそうなくらいバックンバックン言ってるのよ。

 超怖いんですけど。

 刃物向けられるとか、ポケモンの技を受けるよりも怖い。

 だって、もうそこに死を感じちゃうんだもん。

 

「動けば、分かっているだろう……?」

 

 これさ、一応テレビ回ってるんだけど。

 しかもカロス以外にも配信されてるんじゃなかったっけ?

 うわー、やだわー。俺たち世界中で人質として認識されちゃってるよ。

 なにこの辱め。

 ああ、そういやユキノも人質に遭ったことがあったな。向こうで人質になってる奴に。

 

「全世界に告ぐ! 我々はネオ・フレア団! カロスを、いや世界を変える者だ!」

 

 随分と大きく出たな。お前ら、前例を覚えてないのか?

 すでにフラダリが失敗してるじゃねぇか。

 世界を変えるとか一個人にできるわけないだろ。

 それはフラダリが身を以て、いやこれまでの悪の組織が証明して来ているじゃないか。特にホウエンのアクア団とマグマ団は利用した古代ポケモンの力に圧倒され、想像以上の結果をもたらしてしまった。望んだ未来などそこには全くなかったのだ。

 

「まずはその手始めとして、世界中で脅威とされてきたロケット団の首領サカキと、我々の脅威となるポケモン協会の犬『忠犬ハチ公』を今ここで処刑する!」

 

 俺やサカキを殺したところで世界なんて変わらないと思うんだが。

 まあ、俺の命でカロスくらいは変わるかもしれないが、それもポケモン協会の長が変わって政策方針が変わるって程度のことだ。激震が走るほどのことではない。

 

「さあ、目を開いて二人の首が吹き飛ぶのをその目に焼き付けるのだ!」

 

 だが、まあ死にたくはないわけで。

 俺だってまだまだやりたいことあるし。というか、まだ子供の顔見てないし。何ならまだ誰も妊娠というか、その行為にまで至ってないし。

 …………って、何考えてんだ俺…………。これはアレか? 死を感じると出てくるという生存本能ってやつか?

 ああ、ダメだ。志向が変な方向へ走って行ってしまう。

 

「まずは犬の方からだ」

「待って!」

 

 犬か。

 俺は犬扱いなのか。昨日まで我が主人とか言ってたくせに。

 結局、あれは何だったんだ?

 記憶が戻った今でも、あいつに主人だなんて呼ばれる理由がないんだが。約束とかなんとか言ってたが、それに該当するようなことも心当たりないし。

 やっぱりすべて俺に近づくための演技だったとか?

 オレオレ詐欺かよ。

 つーか、あれか。俺が記憶を失っているのを利用しようとしてたってところか?

 うわー、有り得る………。

 

「ハチマンを殺したところで世界なんて変わらないわ!」

「いや、変わる。こいつは我々にとっても世界にとっても危険だ。今はまだ、だがな」

「それって…………」

 

 うん、それってつまりアレだよな。

 俺の秘密を全て知ってるってことだよな。

 まあ、ロケット団に潜入していたギンガ団の幹部なんだし、調べていてもおかしくはないけど。

 つーか、それしか考えられんな。そこで俺の記憶がないってことも掴んだんだろうし。

 

「ふっ、そうだな。殺す前にこいつの全てを全世界に晒してやろう!」

 

 え、ちょ、マジ………?

 世界中に醜態を晒して死ぬのん?

 俺の人生ェ…………。

 

「さあ、聞くがよい! 忠犬ハチ公の全てを!」

「させないわ! ボーマンダ!」

「ぐっ!?」

 

 痛ッ…………くない?

 あれ?

 ……………あー、そうだった。俺、あいつがいる限り死なないんだった。自分で言ってたの忘れてたわ。でもね、怖いものは怖いのよ。

 

「ハチマン!?」

「動くなと言っただろう。次はないぞ」

「卑怯よ!」

「何とでも言え。全員妙な動きをしてみろ。こいつらの首が一瞬で飛ぶぞ」

「くっ………」

 

 はあ…………。

 俺的にはこのままサカキの首を飛ばしてくれちゃってもいいんだけどな。

 でもやっぱ知ってる奴が目の前で殺されるってのも寝覚めが悪いというか見たくないというか、そもそも誰かが殺される場面なんて見たくないわけよ。ロケット団の下っ端どもを散々葬ってきた俺が言うのもなんだけど。葬るって言っても直接殺してはないし。

 ま、そろそろ動きますか。

 

「はあ………、お前らほんとバカだよな」

「なんだとっ!」

 

 おお、乗ってきたな。

 

「そもそもこれくらいで俺が死ぬとでも思ってんのか? 思ってるんだったら、バカ中のバカ、大バカ野郎だな」

「貴様ァ! コレア!」

「ニダンギル、やれ!」

 

 挑発したらすぐに最後まで行っちゃったよ。

 もう少し、言葉遊びができるかと思ったのに。

 残念だ。

 

「ハチマン?!」

「ハッチー!?」

「お兄ちゃん?!」

「カラマネロ、奴らを止めるのだゾ!」

「させるか! エルレイド、テレポートからのインファイト!」

「トツカ君!」

「は、はい!」

 

 あ、ユイやコマチたちまで降りてきちゃったみたいだ。

 動くなって言われてるの忘れたのん?

 君たちの命も狙われちゃってるんですけど。

 まあ、ヒラツカ先生がフォローしてくれてるみたいだし、カラマネロに操られている観客もトツカとツルミ先生が対処しに行くみたいだから、心配はないか。

 

「ダン?」

 

 俺の首を刎ねようとしたニダンギルだったが、どう動いても斬れないことわけが分からなくなっている。

 

「何をやっている。さっさとやれ!」

「やっていますが、何故か斬れません!」

「ダークホール」

 

 ニダンギルには悪いが、ここで消えてもらおう。

 俺は黒いのに合図を送ると、背後に黒い穴が出来上がった。そして、ニダンギルを吸収し、呑み込んだ。

 

「ニダンギル?!」

「貴様!」

「なあ、Saque。やっぱお前バカだわ。忠犬ハチ公の全てを語れるんだったら、もちろん知ってるだろ? 忠犬ハチ公にはもう一体のポケモンがいることを」

『……………ライ』

 

 お呼びですか、と言わんばかりにぬっと黒いのが現れた。

 そして、俺を纏っていた黒いオーラが外へと広がり、目の前の悪党よりも悪党らしくなってしまった。

 やだ、俺の方が捕まりそう。

 

「ダークライ………!」

「それにちゃんと見せたじゃねぇか。お前の目の前で。俺とこいつの関係を」

 

 忘れたわけじゃあるまい。

 実際に、お前の目の前でお前から正式に俺のポケモンにしたんだからな。

 

『………な、なぜ彼がダークライを……………。それにあの人、選手のはずじゃ…………』

 

 選手でしたよ。

 選手として潜り込んでいましたよ。

 サカキにコテンパンにされてたけど。

 さて、今度はこっちのターンかな。

 

「すー、はー……………。ポケモン協会理事として関係者各位に告ぐ! テロ対策計画を発動しろ! 計画に従って観客の避難誘導だ!」

 

 結局、ハルノたちも動けなくなっていたからな。

 俺の首が飛ぶともなれば、動けなくのも仕方ない。

 だから代わりに俺が指示を出すのが、この場合は手っ取り早いだろう。

 

「………いいの?」

「いいも何も俺は協会の長だぞ。俺がやらなくて誰がやるんだよ」

「そうじゃなくて………うわっぷ」

「…………理事になった時から腹は括ってある」

 

 ユキノが心配しているのは、ここで俺が理事であることを明かしてしまったことだろう。

 別に明かすことに反対なわけではない。明かしたことで俺が大衆の目に晒されることを心配しているのだ。俺が慣れてないから。

 だけど、今はそんなことを言っている場合ではない。

 俺はポケモン協会の理事で最高責任者だ。今ここで動かなくては余計に話がややこしくなる。スポンサーのじじいとか特に茶々をいれてくるだろう。

 だったら、今ここで明かした方がちゃんと動いてましたよアピールにもなる。

 それに、四天王としてリーグ戦に出場してた時点で大衆の目には晒されてるんだから今更だっての。

 

「…………そう。ユキメノコ、お願い」

「メノ」

 

 俺が押し付けたマントとハットをはぎ取ったユキノはユキメノコに自分の唇を切らせた。

 え? 

 なに?

 これ、どういう状況?

 

「…………最後の仕上げよ」

「んぐっ!?」

 

 は?

 えっ?

 なんで、俺キスされてんの?

 

「ゴクっ、ッッ!!?」

 

 な、なんだ、これはっ!?

 キスされて、ユキノの血を飲まされたかと思ったら、急に俺の中の『何か』が開いたぞ。

 これってもしかして、もしかしなくても……………。

 

「ぷは…………、血が少ないから長くはもたないと思うけれど……………」

「…………そういうことかよ」

「ええ、そういうことよ」

 

 口を拭いながら不敵な笑みを浮かべるユキノの意図がようやく理解できた。

 これはハルノが用意した対抗策だ。

 ユキノに施したという計画だ。

 今ならあの力をコントロールできるかもしれない。いや、できるはずだ。

 

「…………それと、これも」

「ああ、そうだな。んじゃ、こいつを使ってくれ」

「ええ」

 

 追加でユキノがモンスターボールを渡してきた。

 誰のなんて聞くまでもない。

 だから俺も代わりの戦力としてヘルガーを渡した。

 

「全員出て来い」

「カイッ!」

「オダッ!」

「…………………」

 

 振り返りネオ・フレア団を見据えると、警戒の色を強めてきた。

 別に待っていなくてもよかったのに。

 あ、待っていたんじゃなくて動けなかったって方が正しいのか。

 悪党のくせに腰抜けどもばかりだな。

 

「ジュカイン、メガシンカ」

「くっ、お前たち、奴を止めろ!」

「キリキザン、レパルダス、つじぎり!」

「ライボルド、ワイルドボルト!」

「ヘルガー、れんごく!」

「ホルード、マッドショット! バケッチャ、タネばくだん!」

「クロバットたち、エアスラッシュ!」

 

 早速ジュカインをメガシンカさせると、ようやく奴らも動き出した。

 狙いは俺たち。一斉攻撃で仕留めようという算段らしい。

 これくらいの数、今の俺たちにはどうってことないな。

 

「ジュカイン、ハードプラント。オーダイル、ハイドロカノン。エンテイ、せいなるほのお」

 

 太い根と激流が女科学者たちのポケモンを押し返し、それをエンテイが焼き払っていく。

 さて、仕上げと行きますか。

 

「リザードン、リミットブレイク」

 

 今まで中途半端に力を開放してきたため、変に暴走してしまっていた。

 だが、過去に一度だけ力を全開させたことがある。といっても不完全ではあったが。

 で、その時の言葉がこれだ。

 リミットブレイクーー限界突破。

 要するにリザードンという域を超えろという合図だ。

 

「シャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 リザードンの域を超えた先にあるもの。

 それは恐らく三つ目の計画、『レジェンドポケモンシフト計画』が関わってくるのだろう。

 さっきのユキノと博士の会話から察するに、行き着く先はレシラムとやら。あおいほのおなんて技を使えるようになったのもその前兆だったと思われる。

 ……………そういえば、アルフの遺跡でアンノウンーーアンノーンーーが創り出したポケモンの中にリザードンとデンリュウがいた。あいつらは最後まで残っており、そして今のリザードンのように姿を変えた。

 またその姿っていうのがレシラムとゼクロムだったっていうね。偶然にしてはできすぎている話だ。考えすぎかもしれないが、もしかしたらアンノーンたちは俺たちに何か伝えようとしていたのかもしれない。

 それに、いるんだよな。相方が。この場にはいないけど。

 ま、あっちはこんな特殊なことできるはずがないんだけど。

 

「………姿が、変わった、だと……………?!」

「ど、どうなっているのだゾ!?」

「フンフフフ、やはり計画は最終段階まで来ていたようだな。やれ、スターミー!」

 

 黒い身体が一転、白い身体に代わり、高さも倍近くになっている。

 これがレシラム、これが伝説のドラゴンなのか。

 

「リザードン、いやレシラム! あおいほのお!」

 

 ほごしょくを使って隠れていたスターミーが水砲撃でレシラムに攻撃を仕掛けてくるが、蒼炎の熱により蒸発してしまった。

 やべぇ、超強ぇ。

 確かにこれはサカキが目をつけるのも頷ける。

 伝説のポケモンは扱いが難しいとされている。俺はそこまで感じたことはないが世間一般的にはそうらしい。そして、見つけ出すのも仲間になるのも難しいと来た。

 だったら、自分たちで最強のポケモンを造ってしまおう、それがロケット団の『ミュウツー計画』のコンセプトだったはずだ。そして、その廉価版として『レジェンドポケモンシフト計画』なる、既存のポケモンから伝説のポケモンを造り出すという新しいコンセプトを立てた。

 それも失敗に終わったかと思いきや、俺とリザードンという特殊な関係がいた。しかも全てが一本の糸に結びついていたとくれば、全ての計画を無事成功させて支配下に置いてしまえばいいと考えても道理と言えよう。

 迷惑な話だけどな。

 

「フン、ようやく完成か。ならそろそろオレも動くとしよう。マチス!」

「へい、首領。もういいのか?」

「ああ、やれ」

「了解」

 

 うわ、あいつずっと静かだなーと思ってたら、ただ静観してただけかよ。

 まあ、アレくらいで捕らえられるならみんな苦労してないもんな。

 

「ジバコイル!」

 

 マチスもそれが分かっていたから動こうとしなかったのか。

 で、ようやくそれも解かれたと。

 

「な、なにっ?!」

 

 マチスがジバコイルを出した途端、ギルガルド引き寄せられていった。特性のじりょくによるものだろう。

 そのおかげで無事サカキは解放された。

 うわー、檻から猛獣が出てきた気分だわ。

 

「ジュカイン、ハードプラント! オーダイル、ハイドロカノン! レシラム、ブラストバーン!」

 

 いくらレシラムになったからと言って、使える技が変わるわけでもない。というか、あれは一時的なものだろう。俺も呼び方は変えているが、ユキノの言葉通り長くはもたない。

 

「キリキザン、レパルダス!?」

「ホルード、バケッチャ?!」

「ライボルト!?」

「ヘルガー?!」

 

 今ので女科学者たちのポケモンは戦闘不能になったみたいだ。

 だが、クロバットたちに躱されてしまっている。

 やはり動きが素早いため、躱せてしまったのだろう。

 ま、数は減ったことだし、戦い方を変えますかね。

 

「スピアー、奴らを殺せ」

 

 あ、サカキがキレた。

 

「ぐぼぁ?!」

 

 けど、スピアーの攻撃が刺さる前に、Saqueが左脇腹を何かに貫かれた。

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 あの赤と青の触手は………!?

 

「デオキシス、貴様…………ぐぼぁっ?!」

 

 一気に腕を引き抜かれ、口から血を吐いて地面に落ちていくSaque。

 

「Saque様!」

「………デオキシス」

 

 やはり。

 貫いたのはデオキシスだった。

 背後にはブラックボールと思われる穴がまだ開いていた。

 が、次の瞬間、俺は自分の目を疑った。

 穴から次々と出てきたのだ。同じ姿の奴らが。

 数も数えきれないくらい無数にいる。

 

「まさか、仲間がいたのか……………?」

「いや、あれは影だ。確かに二体いたから他にもデオキシスが存在すると思われるが、目の色が違う」

「………アンタがそういうなら間違いねぇんだろうな」

「オレを信じるのか?」

「はっ、バカ言うな。単なる参考意見としてだ。影だろうが仲間だろうが、倒すことに変わりない」

「そうだな」

 

 ……………やはりサカキはデオキシスを捕まえるつもりではないらしいな。

 なら、結局何が目的だったんだ?

 

「デオ、キシス………!」

「えっ!? アレが?!」

「なんかいっぱい来ますよ!」

 

 湧くように出てきやがった。

 これでは会場の外へも普通に被害が出てしまう。

 一応、そっちも対策として計画を立ててはいるものの、戦力はすべて会場内に集中している。後は外で安全確保に努めているジムリーダーや四天王が対処してくれることを祈るほかあるまい。

 

「うわっ?!」

「きゃあっ!?」

 

 悲鳴………?

 それにしては聞き覚えのある声が……………。

 

「トツカ君!?」

「逃げろ、ユイガハマ! ヒキガヤ妹!」

 

 トツカっ!?

 

「ッ?!」

 

 …………………デオキシスの影はトツカを捕らえていた。

 そして、ユイとコマチの上方にも影がいる。ヒラツカ先生が注意を喚起しているが間に合っていない。

 

「ジュカイン!」

 

 咄嗟に素早いジュカインに指示を出して二人のところへ向かわせると、さらに影がやってきた。

 どうやら狙いは二人だけでなく、ジュカインも狙っているらしい。

 どういうことだ?

 一体デオキシスは何をしようとしているんだ?

 というか狙いは俺だったんじゃねぇのかよ。

 

「ハチマン!」

 

 いや、俺も狙われているのに変わりないみたいだ。

 となると…………さっぱり分からん。

 分からんが、取り合えず、こいつは消し炭にしてくれてやる。

 

「हुं(ウン)!」

 

 リザードンの覇気だけで近づいてきた影を一掃。

 ガッポリ、俺たちのところだけ穴が開いた感じになってしまった。

 それだけ影がいるということである。

 

「えっ……………?」

「ユキノ、どうしたっ?」

 

 ユキノが後ろでひどく驚いた声が聞こえてきたので振り返ってみると、ユイ達の方を見ていた。

 

「今、ユイに触れようとした影の腕が………消えたように見えて」

「はっ?」

 

 そして、訳の分からんことを口にしだした。

 ユイに触れようとしたら影が消えた?

 見えざる壁でもあるのか?

 

「あ、あれ? これ、どうなってんの?」

「ゆ、ユイさん?!」

 

 あ、マジだ。

 マジな奴だ。

 さっきから何体も腕を伸ばしてユイを捕らえようとしているが、その度に腕が消えて行っている。

 つーか、代わりにコマチを捕らえるな!

 ぶち殺すぞ!

 

「カイッ!?」

 

 コマチを助けようと腕を伸ばしたジュカインも捕らえられてしまった。

 あ、あの影スピードフォルムだ。しかもなんであいつだけ雁字搦めに捕獲してんだよ。

 

「サラメ、ルット、ラスマ、メガシンカ!」

 

 ………あいつら、逃げてなかったのか。

 ほんと、図鑑所有者ってのはこういうのに巻き込まれる体質だよな。

 ま、図鑑所有者でもないのにこんな狙われてる奴もいますけどね。

 

「ッ?!」

 

 ……エックスが三体同時メガシンカを果たした途端、影の動きが変わった。

 今までユイを狙っていた影や会場の外へ出て行った影が全てエックスの方へと向いたのだ。

 どういうことだ?

 一体に何がどうなってやがる。

 

「…………これだけ人がいるのに、襲われる人とそうでない人がいる。まるで狙う法則性があるみたいだわ」

 

 デオキシスが選り好みをしている、のか…………?

 ……………確かに、言われてみればオリモトやザイモクザは一切狙われているという感じではない。周りが狙われているから対処しているとも見て取れる。

 逆に捕らえられたのはトツカとコマチとジュカイン。

 そして、狙われているのは俺とユキノとユイとエックス…………ヒラツカ先生もか。あとは…………サカキも。

 

「……な、何がどうなっているのだゾ?」

「…………裂空の訪問者デオキシス。奴の力が…………我々には、必要………だ……………」

「Saque様!」

「こ、んな………、ところ、……終わって……………たまるかっ!」

 

 出血多量で青白い顔がさらに青白くなってきている。

 今にも死のそうな感じである。

 もういっそ、そのまま死んじゃえばいいのに。

 

「ペルシアン、だましうち! ジュペッタ、シャドーボール! スターミー、サイコキネシス!」

 

 Saqueは次々とポケモンを出して、影の対処をさせた。

 だが、影はその三体を捕らえようとはしていない。邪魔をしているはずなのに、それでも興味がないかの如く素通りしていっている。

 

「ミミロッ………プ、おね、が………い、くぅんっ!? ………メガ、シンカ……………」

 

 助けを求めて捕らわれながらもボールからミミロップを出したトツカはそのままメガシンカさせた。

 するとまたしてもデオキシスの影たちはミミロップの方へと意識を向け始めた。

 

「もしかして……………」

 

 もしかすると狙いはメガシンカに関係あるのかもしれない。

 ……………………いや、恐らくそうなのだろう。

 狙われているのはキーストーンを持っている者やメガストーンを持っているポケモンたち。

 俺もユキノも然り、ユイが狙われたのも俺がユイに渡すようにユキノ預けたキーストーンが行き渡っていたからだろう。

 そして、コマチもヒラツカ先生も、エックスやサカキもメガシンカを使える。

 

「となると…………」

 

 実況席の方を見やるとやはりいうべきか、チャンピオンと変態博士が狙われていた。

 あの二人もメガシンカさせることができる。博士は基本バトル事態好んでしないが、ガブリアスという切り札を持っていたりする。

 

「…………狙いは分かったが、狙う理由がさっぱりだな」

 

 だが、悠長に考えている暇などない。

 今にでもコマチやトツカの命が絶たれそうな、危険な状態なのだ。

 

「レシラム、炎と竜気を纏え!」

「ユキメノコ、シャドーボール! ボーマンダ、ハイドロポンプ! ヘルガー、はかいこうせん!」

 

 レシラムといっても中身はリザードンだ。

 これで俺が何を意図しているのか伝わることだろう。

 

「オーダイル、アクアジェットかき乱せ!」

「オダッ!」

 

 オーダイルにはアクアジェットで動き回ってもらおう。

 あいつは以前、アクアジェットで空飛ぶリザードンを追いかけてきたことがある。だから、しばらくの間は影だろうが本体だろうがかき消してくれるだろう。

 

「リロード・オン・ファイア」

 

 蒼炎と竜の気を纏ったレシラムは上昇していき、次々と影を消していく。数はオーダイルなんて比ではない。なんか近づいただけで消えて行ってるような感じだ。

 あ、それなんかユイに近いものがあるな。

 え、まさかあのアホの子はポケモンでしたって落ちじゃないよな。

 

「シュウ、いくよ!」

 

 そんなアホの子もたくましく育っちゃったみたいで、参戦するみたいだ。

 しかもルカリオで。

 

「………あの時のか」

 

 何となくそうなのだろうとは思っていたが、やはり俺とのバトルで見せた不思議な現象を再現してきた。

 ルカリオがユイの胸から骨の棍棒を造り出し…………………あれ? なんか前よりもくそ長くね?

 

「しんそく!」

 

 そして、一瞬で空中へ移動し、くそ長い骨を振り回した。

 当たった影は消滅。

 レシラムと合わせて一気に影の数を減らしやがった。

 いや、ほんと。

 ようやくどんよりした空が再度見られるようになったもん。

 

「まだメガシンカさせてもいないのに……………」

「プテくん、お願い!」

 

 今のでコマチも開放できたようだ。

 マジか、あいつら強くなりすぎだろ。

 

「って、プテラを出したら…………」

 

 くそっ、これじゃ何をやってもキリがねぇ。

 メガシンカなしでこの状況を打開するのはあいつらには難しすぎる。だからメガシンカに頼ってしまうが、それが逆に狙われてる原因ともなれば、使えない。

 

「ユキノ、本体を探してぶん殴ってくる。フレア団と、あいつらのこと任せていいか?」

「分かったわ。けど、あなたも気を付けて。さっきも言ったけど長くはもたないわ」

「ああ、分かってる」

 

 どれだけ今の状態が保っていられるのか知らないが。

 時間制限があるからといって動かないわけにもいくまい。

 俺たちが動かなかったら、さらに被害は拡大していく一方である。

 何より、トツカがまだ抜け出せていない。

 

「俺の大事なもんに手出した借りは返してやる」

 

 




Saqueっていったい……………。

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