カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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さて、今日から本格始動ですよー。


1話

 フレア団の事件も収束し。

 再び安息の地に戻ったカロス地方。

 そこに俺は居座ることになった。

 元々は愛しのマイリトルエンジェル、コマチの旅についてきただけだというのにフレア団の事件に巻き込まれ、なんだかんだ地位と権力とポケモンたちの力を使って、解決に至ったわけだが(主に他の人が解決したけど)。

 そんな俺にジョウト・カントーポケモン協会の理事長様からお達しがあったのだ。

 

『そのまま独立してカロス地方の再建をしてくれないか』

 

 と。

 これが意味するのは俺がカロス地方のポケモン協会を再建し、長になれってことである。つまるところ人事異動である。酷い………。

 まあ、文句を言いつつも引き受けたわけだけど。だって物入りなんだもん。

 で、そんな達しがあった日から四日後のミアレシティポケモン協会カロス支部にて。

 新たなポケモン協会の理事長就任式が軽く行われている。式といっても俺が前に座っているだけ。まあ、今日の主役ですからね。

 つか、朝からこんな集まらんでも。

 

「というわけで彼が新しい理事長に就任することになりました」

 

 淡々と説明しているのは、自称俺の正妻を名乗るユキノシタユキノである。

 独立するにあたって取引として引き抜いた人材だ。

 

「ジムリーダーや四天王のみなさんの中には彼のことを知っている人もいますし、問題ないかと思うのですが」

「本当にハチマンが理事長なんだ………」

 

 周りから(主にイロハから)現地妻と揶揄されているコルニが驚きの声を上げた。

 一応これでもシャラシティのジムリーダー。なのだが、フレア団の事件で割と散々な目に遭った少女である。一時期人間不信にまで陥ってたからな。重症だったぞ。

 それもどうやら俺たちがハヤマと一戦交えている間に目が覚めたらしい。イップス状態も解けたみたいで、元通りの快活さを取り戻している。スイッチがまだ残っているかもしれないから注意が必要だが、今のところは安心といったところか。

 

「いやー、話を聞いたときは驚いたけどねー。まさかハチマンがこんな大出世するなんてねー」

 

 けらけら笑うのは何を隠そう、ユキノシタハルノである。

 妹の方を抜擢したら勝手についてきた寂しがり屋。仕方ないので姉妹で俺の両腕になってもらうことにした。なにこれ、超最強過ぎじゃね?

 ああ、当然俺の部下ってことになってるザイモクザとカワ…………カワ……なんだっけ………? ま、まあ、取り敢えずカワなんとかさんも否応なく人事異動になった。

 一応聞いたら、「ふーん、あんたってやっぱすごいやつだったんだ。いいよ。帰る予定は立ってないから」と軽く了承。あんまり俺が理事長になったことにも驚いてなさそうだった。肝が据わってるというかなんというか。相変わらず動じない少女である。

 逆に弟のカワサキタイシとかいうコマチを付け狙うクズ虫は「お、お兄さん!? 大出世じゃないっすか!? はっ?! というかそもそもお兄さんってそんなすごい人だったんすか!? そりゃ、ヒキガヤさんも強いわけだ…………」と素直に驚いていたな。コマチはやらんぞ。

 

「んー、素質は十分だけど、大丈夫なのかなー?」

「何か問題でも?」

 

 ハクダンジムのジムリーダー・ビオラさんが心配そうな面持ちで俺の顔をジロジロと見てくる。

 

「んー、ほら、ハチマン君ってカントー出身じゃない? 中には余所者が、なんて思う人もいると思うの」

「んなの言わせておけばいいじゃないすか? そもそもしばらく公表する気ないし」

「えっ? 公表しないの?」

「どんだけ仕事に貪欲なんですか………」

 

 あんたも結構酷い目に遭ったんじゃねぇのかよ。少しは休もうとか考えろよ。ジャーナリストの血は騒ぎ出すと止まらないんだな、パンジーさん。

 

「んじゃ、基本的にパンジーさんの雑誌で情報公開ってことにします?」

「いいの?!」

「俺も少し手を加えさせてくれるなら」

「やったーっ。仕事がきたーっ!」

「よかったね、姉さん。あ、写真が必要なときは言ってね。というか撮らせて」

 

 ちゃっかりビオラさんまで仕事をこじつけてきやがった。

 いいけどさ。

 

「一気に専属のカメラマンまで揃えたわね………」

「これが今まで私達に発揮されていた力なのね………」

 

 俺の両脇に座る二人が頭を押さえているのはなんでだろうね。

 

「これはその………あれだよ、あれ。オレらはまだ実力を知らねぇのよ。バトルするなり見せてもらわねぇと」

「いんや、大丈夫だ。今回の騒動でハチマンはかなり強くなったみたいだからな。もう誰も手をつけられんところにいるよ」

「そんなにか? これはあれだな、最終兵器みたいなもんだな」

 

 ウルップという雪降るエイセツジムのジムリーダーの疑問にけらけらと軽い口調でコンコンブル博士が説明した。

 それ、前にも言われたな。誰か俺を最終兵器だって言ってたような気がする。

 というか、だ。

 ウルップさん、寒くないんですか? ふくよかなお身体ですけど、シャツ一枚ってあーた。

 

「それで、ですけれど。カロスのポケモン協会はフレア団騒動でも活動していなかったわけで、名誉は地に落ちているも同然。そのためにも一つイベントを開催しようという結論になりました」

「イベント?! どんな?!」

「ポケモンリーグ。ジムリーダー、四天王、チャンピオンと揃っているのにリーグ戦があった経歴がない。人材だけいてもその実力を見せなくては意味がないだろ? それにフレア団によってジムリーダーにはセキタイ爆破の嫌疑がデマで流されたんだ。フレア団を引っ捕らえたからそのデマも噂で終わったが、疑いの目が消えたわけじゃない。何ならパキラは四天王。同じ枠組みの四天王はもちろん、チャンピオンだって立場が危ういんだ。だからこうして俺が人事異動になったというわけだ。つーわけで、名誉挽回のためにもリーグ戦を開こうと思う」

 

 コルニが身を乗り出してきたので、答えてやった。

 

「それは構わないのだけれど。いえ、構わないというのにも語弊があるわね。色々と問題が山済みだもの」

「カルネの意見は最もである。第一の問題が貴公は一体何者なのだ? コンコンブル師匠は信頼できる者だと仰られていたが、貴公の言葉でそこを明らかにしてほしい」

「何者………ねー」

「「「そんなの決まってるじゃない」」」

「えっ? ちょ、なに?」

 

 どしたの、二人とも。それにコルニまで。

 

「「「忠犬ハチ公よ!!」」」

 

 ねぇ、そんな声張ってまで言うことじゃないと思うんだけど。

 まずそれで伝わる…………伝わったみたいだ。みんな固まっちゃってるよ。

 マジで広まってるのね、その名前。やだわー。

 

「それは真なのか? あの、カントーのロケット団を相手に暴れまわったとかいう………」

「そういえばグリーンさんが何か意味深なことを言ってたわね。『これからカロスには強敵が現れる。チャンピオンのお前の座も危うくなるぞ』って」

「絶対にハチマンだよ、それ」

 

 俺だな、それ。

 くそ、あの野郎。俺を危険人物に仕立て上げやがって。

 

「これは失敬。そのような経歴をお持ちだとは」

 

 でしょうね。

 だって、こんなのがそんな変な通り名の実物だもんな。

 誰も同一人物だなんて思わねぇよ。

 

「ルールはどうするのですか? 参加条件など、色々と取り決めなくては」

「そこに関してはカントーに則ってやりますよ。まず予選と本選に分け、本選出場者を選出。ただし、カロス地方のジムバッジを八つ揃えた者は無条件で本選へ出場可能。だからジムリーダーは負けてもいられないって話ですよ」

「これはこれは。同時にジムリーダーの実力を試してくるとは君らしい。我々も最初から全力を出さなければなりませんね」

 

 ザクロさんが涼しそうな顔で言い放った。

 そんないい笑顔してるけど、実際挑戦者に勝つのって大変だぞ?

 

「つーわけで、コルニ」

「へっ? なに?」

「お前が一つのターニングポイントになる。メガシンカの後継者として存分に力を奮え」

 

 カロスの西部周りだとすぐにメガシンカしたポケモンを相手にすることになる。生半可な挑戦者はここで心が折れるといってもいいだろう。

 そのためにもコルニにはしっかりと働いてもらわなければ。

 

「………ごほうびでもあれば頑張れるのになー」

「分かった。終わったら何か一つ言うこと聞いてやるよ」

「一つだけなの?」

「いいよ、もう。好きなだけ聞いてやる」

「やったー! あたし頑張る!」

「多分、三人くらいには負けると思うけどな」

「ウェ?! まさかの未来予知?!」

「すでにやる気満々の奴らがいてな。実力も申し分ない」

 

 お前の知ってるやつらだよ。

 フレア団の事件で以前よりめっきり強くなってるから覚悟しろよ。

 あーあ、トツカも帰っちまったし、コマチもこの後出て行っちまうし、しばらく帰ってこねぇからなー…………。

 ああ、天使が恋しい。最後に堪能しとこう。

 

「ねえ、ユキノちゃん。見た?」

「ええ、ばっちりと。まさかごく自然に現地妻の力を発揮してくるだなんて」

「現地妻の名は伊達ではないわね。ハチマンも甘すぎ」

「基本彼は歳下に対して甘いもの。仕方ないわ」

 

 二人とも、聞こえてるからね。今ちょっと天使を思い出してたからそっちの方がばれたのかと思ったじゃん。この二人タイミングとか計ってそうで怖い。

 まあコルニに関しちゃ、自分でも甘いとは思うぞ?

 ただコルニの場合は少し甘えさせないとまた閉じこもるかもしれねぇし。

 もうないことを祈ってるけど。

 

「あー、そのあれだよあれ。発言いいか?」

「どうぞ」

 

 手を挙げたウルップさんにユキノが先を促した。

 

「オレもあれでな、メガシンカ使えるんだわ」

「へー……メガシンカを………。これはあれだな、東回りも苦しい旅になるということだな」

 

 そりゃ初耳だ。コルニ以外にもいたのか。まあ、いてもおかしくはないか。

 そもそもコルニなんてジムリーダー初心者なんだし、他に誰かメガシンカ使いがいた方が自然である。

 

「ハチマン、口調がうつってるわよ」

「大丈夫だ。あれがあれしてるだけだから」

「そうね、いつも言い訳の時によく使ってるものね」

 

 ごめんなさい、私がバカだったわ、とユキノがこめかみを押さえた。

 

「あれだな、驚かないんだな」

「まあ、さすがにジムリーダーの中でコルニだけがメガシンカ使えるってのも疑問でしたから。こいつ一番年下だし」

「年下だからって何さ! ピッチピチの美少女じゃん!」

「尻がな」

「おじいちゃん?!」

「まあ、確かにピッチピチだな」

「ハチマンまで?!」

 

 スパッツなんてもんを穿いてるんだ。そりゃ当然ピッチピチである。

 

「ま、取り合えず、東から行こうが西から行こうが砦は用意されてるようだし。おいそれと負けないように気を引き締めておいてください。そんでもってリーグ戦には四天王も参加してもらいます」

「我々もか?」

 

 本業シェフ………名前なんだっけ?

 まあこの人も、というか四天王はパキラ以外がメガシンカの継承者らしい。その実力を生かして自分の店では裏メニューとしてメガシンカバトルをしてるんだとか。

 四天王で実力を晒してるのはこの人くらいだしな。

 

「盛り上げるためなのと、四天王の実力を見せつけるためですよ」

 

 他の二人も実力を見せつけないと。

 

「あらあら、私たちも負けられないのね」

 

 うわー、このおばさん緊張感ないなー。

 おかげで実力も未知数なんだけど。

 

「でも、それだとパキラが…………」

「ええ、問題はそこです。四天王の一人が除名された今、四天王は三人」

「ただの三天王だね」

 

 ユキノの説明にハルノさんが茶々を入れた。

 

「姉さん、茶々入れないで。というわけで誰か一人四天王を兼任してもらわなければならないのだけれど………」

 

 まあ、バッサリ切られたが。

 残りの四天王、一体誰にしようか。いや、マジで。

 

「決まったも同然じゃないのか? そこに暇そうなのがいるし」

 

 …………………。

 

「はっ? なに? 俺?」

 

 なんか全員が俺のことをじっと見てくるんですけど。

 おいこらじじい。勝手なことぬかすんじゃねぇ!

 

「問題はないかと」

 

 いやいや問題ありまくりでしょ。何言っての、ザクロさん。

 

「あの時の再現だーっ。またハチマン君のリーグ戦観たいなー」

 

 はしゃぐな、そこのカメラマン。

 再現っていうならハルノさんも出さないといけなくなるぞ。

 

「専門タイプもばっちりよ。炎のリザードンが切り札だし、むしろ他にほのおタイプ使いがいないんだ。これ以上ない人選だと思うんよ」

 

 だから、おいこらじじい。

 最もらしい言い分を並べるな。俺の首が締まるだろうが。

 

「ハチマン、今の手持ちって誰がいるの?」

「えっ、ここで教えろってか」

 

 手の内晒せってのかよ。

 しれっと言ってくれるな。

 

「したところで強いの変わらないじゃん。それとも教えるだけで変わるもんなの?」

 

 こいつ………。

 どこでそんな挑発テクニックを覚えてきたんだよ。

 いいよ、乗ってやるよ、その安い挑発。

 

「はあ………、リザードンにゲッコウガ、ジュカインにヘルガー、ボスゴドラ………は群れに帰ったがすぐ近くにいるし、後はお前らが保護してたディアンシーと………企業秘密」

「企業秘密って………、超気になるんだけど」

「やめとけ、知らない方が身のためだ」

 

 さすがにエンテイとダークライは言えないだろ。

 知ってるやつはそのまま心に閉まっておいてね。

 

「ゴジカ姐さん、何か見えたん?」

「………知らない方が身のためね」

 

 エスパー姐さんもどんどん顔が青ざめていく。

 一体何が見えたんだろうか。

 気になる。怖いけど、めっちゃ気になる。

 

「ええっ?! ゴジカ姐さんまで?! どないポケモン連れてはるんよ………」

「デスヨネー。チャンピオンより強い四天王ってどうなんだ………」

 

 そもそもすでにチャンピオンより強いと思われるやつを四天王に迎え入れるってどうなんだよ。ただのバカだと思うぞ。

 

「あら、やってないうちから私の負けにされたんじゃチャンピオンの名に置けないわね」

「カルネさん、やめた方がいいよ。ハチマンのバトルは鬼畜だから」

「全員メガシンカしたポケモンと思ってもいいくらいじゃよ。そこを差し引いてもハチマンとリザードンには何かあるからの。あれがメガシンカだったのかはわしにもわからんが、今のカルネが勝てるとは思えん」

「………師匠が言うのであればそうなんでしょうね」

 

 博士とコルニに諭され、チャンピオンもさすがに挑発をやめた。

 そんな言うほど鬼畜なバトルなんてしてないと思うんだけど。してるのはゲッコウガだから。俺は悪くない。

 

「一応私も三冠王の名を引っさげて参加するのだから、あなたも参加しなさい」

「や、俺が参加したら絶対勝っちゃうじゃん」

 

 ちなみにユキノは自ら客寄せヤンチャムを買って出た。

 三冠王が四冠王になれるかどうか、という広告を掲げて宣伝するつもりらしい。

 いいのかよ、俺が出て。

 勝ち目が低くなるだけだぞ?

 

「いいじゃないですか。私では君の実力を全て引き出すことは無理だったように感じます。そんな私からの頼みということで一つ……」

「はあ………分かりましたよ。フクジさんにそう言われては拒否できませんから。でも優勝しても知りませんよ?」

「それはそれで大いに結構。君の全力を見ることができるのだから、楽しみですな」

 

 結局、フクジさんに言われてしまっては折れるしかなく、俺がパキラの失脚により空いた四天王の枠を兼任することになった。

 うへぇ、面倒くさい……………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「それでは次へいきますが」

「あ、あの………」

「はい? どうかしましたか?」

 

 ユキノが次の議題に移ろうとしたら、水色の作業着を着た少年がおずおずと手を上げてきた。ミアレジムジムリーダー・シトロンとかいったか?

 

「開催場所がミアレシティになってるんですが、やはり運営費とか負担しなきゃいけないのでしょうか………」

「それについては大丈夫よ。今回はユキノシタ家が全面的にサポートする予定だから」

「二人とも籠絡されちゃったものねー。いち早くスポンサーに名乗り出て、資金繰りしちゃってるから、その辺は大丈夫大丈夫」

 

 いや、ほんとマジで。

 ユキノシタ家には感謝である。

 姉妹で両親を説得? ……………脅迫のような気もするが、二人のおかげで無事にポケモン協会にスポンサーがついた。そしてこれからハルノさんがあらゆる権力をフル行使して、フレア団をスポンサーしていた企業を脅し………契約を結びに行ってくれるらしい。

 

「では、何かシステム関係のことがあれば呼んでください。ぼく、これでも趣味が発明なんで」

「へー」

 

発明……俺とは真逆だな。数学なんかできるか。ダメージ計算もよく分からなかったってのに、それ以上のことなんか聞き取れすらしないわ。

 

「彼はミアレの発明王と言われているんですよ。防犯設備など、施設運営で必要になってくるでしょうからぜひ彼を使ってあげてください」

「ほー、ならそん時はよろしく」

 

 ま、適材適所。できないことはできるやつに任せればいい。

 

「はいっ」

 

 おーおー、やる気に満ちてんなー。

 これで何も頼まなかったら落ち込みそうだな。なら、いっそシステム関連、あるいは広報活動も手伝ってもらった方がいいかもしれない。俺にはさっぱりの世界だし。

 

「もっと愛想良くできないのかしら」

「淡々と説明してるお前に言われたくないわ」

「進行役が感情だけで話してたらグダグダになるじゃない」

「そりゃそうだ」

 

 ユキノの言う通り進行役が自分の感情任せに話していては、先へ進まない。だからユキノの態度があってはいるのだが、それにしたってちょっと淡白過ぎない?

 

「だからもっと愛想よくしなさい」

「本気を出したら何人落ちるかなー」

 

 俺が愛想よくとか想像できない。できても気持ち悪い絵面しか見えてこない。だめだこりゃ。

 それに、な。今の俺は自分の行動一つで人が右往左往することを理解している。立場的にも人間的にも、だ。そんな奴が変に愛想よくしたらどうなるかくらい、対人スキルの乏しい俺にだって想像できる。

 そして俗に人はこれを恋心と勘違いをする。オリモトに対しての俺がそうだったのだから間違いない。

 

「お口にチャック」

 

 ま、すでにその一言で心が右往左往してるのがいますけどね。どんだけ嫉妬深いんだよ。俺のこと大好きすぎでしょ。

 ………うわー、これただのナルシストだわ………。

 

「はい………」

 

 これ以上口を開けばさらなる爆弾が落とされそうなので、素直に従っておいた。

 

「うわー、ユキノちゃん露骨に嫉妬しすぎー」

「そういう姉さんこそ、彼の手をいつまで握っているのかしら?」

 

 それな。さっきからにぎにぎと指を絡めてきやがって。こそばゆいだろうが。

 

「いいじゃない。そこに手があるんだから」

「えっ? なに? 俺の手があればどこにいようと握っちゃう気ですか………?」

「そうだけど?」

 

 この人もこの人で何言っちゃってんの?

 一応ここ公共の場だから。

 少しは自重しなさい。

 

「なぜさも当然のように………。この人段々幼くなってないか………?」

 

 見た目完璧美人がこうも甘えてくると、もうね。しかもしっかりと胸を押し付けてくるという。おかげで俺の右腕はマッサージされている。

 

「そのまま身体も幼児化して仕舞えばいいのに」

「どことは聞かないでおくわ」

 

 ぽつりと呟いたユキノの皮肉に思わず反応してしまった。

 だって、ここだけ姉妹だとは思えないんだもん。

 

「ハチマン、その一言がもうアウトだよ」

「ねえ、今私の何を見ていったのかしら?」

「な、何でもないです」

 

 怖いよ怖い。一気に温度が下がったぞ。ぜったいれいど並みだわ。

 

「……まったく。さあ、次を説明してちょうだい」

「次ってなんだっけ?」

「育て屋よ」

「ああ、あれね。なんか、俺の周りに人が増えてポケモンの数も増えたんで、育て屋することにしたわ」

 

 ユキノに向けていた顔をジムリーダーたちの方へ回した。

 以前、冗談半分で話してコマチにやってみたらと言われていた育て屋。

 あの時はやる気の欠片もなかったのだが、こうして俺の周りには人が増えてしまった。つまり、世話しないといけないポケモンの数も増えたわけで………。

 結局、育て屋という名目でポケモンの世話をすることに落ち着いたのだ。予算外の出費だわ。もう貯金が尽きたと言ってもいい。

 

「かるっ?! もっと心込めて言いなよ」

「や、だって俺が育て屋とか色々と危険だろ」

「………どうして?」

 

 あれ?

 コルニって知らなかったっけ?

 俺の異常な体質。体質なのかどうか知らないけど。

 

「こういうことよ」

「メ〜ノッ」

「うん、今日も実に冷んやり」

 

 手っ取り早く状況を再現。

 ユキノのボールから出てきたユキメノコが俺の背中に抱き着いてくる。

 もう慣れたわ。この冷んやり感。

 

「…………?」

「この男、人のポケモンでも勝手に懐かれるのよ」

「……………それって」

「ああ、そうだ。預かっていたポケモンをいざトレーナーに返すとなった時に帰らないかもしれない」

「ポケモンホイホイ………」

 

 ようやく理解してくれたか。

 俺が乗り気じゃなかった理由。それはよく分からないが俺はポケモンに懐かれやすいからだ。一部の例外(主に兄貴分のゲッコウガ大好きマフォクシーやイロハ大好きヤドキングには敵視されている。こうしてみるとイロハのポケモンにはあまり好かれてないのかもしれない。だがコマチのカメックスも俺のことバカにしてくるし………)を除いての話だが、ユキメノコのように懐いているのだ。特にユキノのポケモンは異常だ。オーダイルなんかバトルでも言うこと聞くからな。

 

「営業どころの話じゃないのう」

 

 デスヨネー。だから無理があったわけだが、何も現場に俺が出ることに必然性はないのだ。こんだけ人が揃えば任せればいいだけの話。

 

「つーわけで、ひっそりとやるから広めないように。後から知られて変に広まるのが嫌だから先に言っただけだから。マジで誰にも言わないで。言わないでくださいお願いします」

「ちなみに場所は?」

「ミアレの南東付近」

「………君はこうしてミアレにいるわけですし、誰か他の人が?」

「暇そうな女子三人を捕まえて、今開拓させてます」

 

 というわけで暇そうな女子三人、サガミとオリモトとナカマチさんに育て屋を任せることにした。なんか話を切り出した時にサガミがギャーギャーうるさかったので、責任者にしてやった。ま、せいぜい四苦八苦することだな。

 

「レディに何させてんのよ」

「バカ言え。男女平等を重んじての見解だ。何なら金も出る」

 

 これもユキノシタ家がスポンサーについてくれたおかげだ。新たな事業拡大に向けてデータが欲しいということで、手助けしてくれるんだそうだ。

 

「あんさん、ほんといい性格してはるわ〜」

「そうね。でも案外、当たりかもしれないわ」

「ゴジカ姐さん、何か見えたん?」

「いえ、何も。ただそのユキメノコを見ている限り問題はなさそうと思っただけよ」

 

 フッと何かを見透かしたような笑みを浮かべるエスパー姐さん。この人いくつなんだろう。知りたいけどあまり知りたくない。

 

「…………本当は別の理由があるんじゃなくて?」

 

 その態度を代弁するかのようにチャンピオンが口を開いた。

 

「さすがチャンピオン。鋭いですね。……フラダリとパキラがああなってしまいましたからね。俺があの二人のポケモンを預かることにしたんですよ。更生も兼ねて一から育て上げるために場所を設けた。まあ最も、俺はコマチに色々なポケモンと触れ合って欲しいんでね。そのために連れ歩けないポケモンたちを世話する場所が必要だったってのが九割の理由ですけど」

 

 仕方なくではあるが、やるとなればいっそコマチにいろいろなポケモンを育てられるような環境を用意してやるのもいいかと思い、有り金ほぼすべてを投資することにした。フラダリたちのポケモンはただのついでだ。カツラさんに頼まれたからついでに世話をするだけだ。

 

「さすがシスコンだねー。ついで実家にいる私たちのポケモンもこっちで面倒見てもらおうかなー」

「見るのはあの三人ですよ?」

「大丈夫大丈夫。お姉さんのポケモンたちは賢いから」

「だからでしょうが。あいつら、萎縮しますよ」

 

 オリモトなら平気そうだが。あいつ、あれでも育て方はしっかりしてそうだし。ダークオーラの根強かったマグマラシーー今はもうバクフーンだがーーの暴走状態を普通に扱いきれていたからな。普段の世話が行き届いていなければ難しいことだ。

 

「また始まった。三人の世界を作らないでよ」

「えー、なにー? 混ざりたいのー?」

 

 ああ、もうだめだ。話し合いも飽きたみたいだ。

 

「うっ……、べ、別にそういうわけじゃ」

「へー、なら私は堪能させてもらうひゃっ?! ひゃ、ひゃひまん……んっ!」

 

 少し大人しくしていてもらうために、ずっと絡めて来ていた右手を動かしてみた。案の定、こそばかったのか変な声を上げている。

 

「ちょ、手、ダメ……ん」

「大人しくしないとハルノさんの恥ずかしい話、みんなにしますよ?」

「わ、分かったから………。その手、ダメ………んっ!」

 

 従順になったのを確認するとパッと手を放した。すると顔を赤くして息も荒くなったハルノさんがテーブルの上に蹲った。

 

「ま、色々面倒でしょうけど、こんなんがトップなんで気楽にやってください。名誉挽回だなんだってのは二の次でいい」

 

 ぷしゅーと煙を上げているハルノさんの頭を撫でながらみんなを見渡した。

 

「えっ、あ、や………その………」

「どした、コルニ。顔が赤いぞ」

 

 一人顔を赤くしている奴がいたので指摘したら、さらに真っ赤になった。

 

「ゴジカ姐さん。見はった、今の?」

「ええ、意識的か無意識的か、彼は色々と危険ね」

「いつの間にやら、プレイボーイになってしまったのう」

「いいじゃないですか。それが彼の魅力なのでしょうから」

「………いやはや、勉強になりますね。僕もビオラに………」

「これはあれだな、女難の相ってやつだな」

「…………姉さん、頭撫でられるのって気持ちいいの?」

「私に聞かれても………」

 

 酷ぇな、あんたら。言いたい放題じゃん。

 返して! 俺の締めの言葉を返して!

 

 

 これにてプチ理事長お披露目会は終了。

 ああ、この後コマチともしばらくお別れになるのか。なんか目に汗が流れてきたわ。

 




今作は前作よりも短くなると思います。
ただし、前作に比べて作品全体におけるバトル描写は多くなるかと。
一応最後まで見通しが立ったので、今後の展開をお楽しみに。

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