カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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33話

 デオキシスの本体を探すなんて言ってはみたものの。

 どう見分けたものか。

 確かサカキは目の色が違うとかって言ってたよな。

 けど、この中から一体だけ目の色の違う個体を探せっていうのも酷な話だ。

 そうなると違う方法を考えるしかあるまい。

 

「ハルノ!」

「私に命令しないで!」

 

 この声は……………?

 

「ハルノと………ナツメか?」

 

 何故あの二人が同時攻撃を仕掛けてるんだ?

 そんなに仲良かったか?

 どっちかっつーと悪かったと思うんだが。詳しくは知らないけど。

 

「み、ミミ、ロップッ…………!?」

「ミミィッ?!」

 

 トツカ?!

 

「数の暴力でやられたってか………」

 

 トツカを助けようと動いていたミミロップが、影の数に押されてすぐにメガシンカが解けてしまった。つまりは戦闘不能。

 

「ボーマンダ、メガシンカ!」

「サーナイト、メガシンカ!」

「ガブリアス、メガシンカ!」

 

 キーストーンを持っていれば狙われる。メガシンカすれば余計に狙われる。だが、メガシンカしなければ手も足も出せない。しかもメガシンカしたところで圧倒的な数にやられる可能性もあると来たもんだ。

 こんなの無理ゲーだろ。

 

「ドラゴンダイブ!」

「サーナイト、シャドーボール!」

「ガブリアス、はかいこうせん!」

 

 それでもユキノもチャンピオンも博士もメガシンカさせた。それはそうせざるを得ない状況という証である。

 

「ユイ!」

「な、なに、ゆきのん?!」

「今朝言ったこと、覚えてるかしら?」

「う、うん………でも、あたし………まだ………………」

「大丈夫、自分に自信を持ちなさい。あなたを鍛えた私が言うのよ? それに、あなたに『アレ』を託したのは他でもないハチマンよ。自分を信じられないというのなら、私を、ハチマンを信じなさい!」

 

「………………………」

 

 打開策。

 デオキシスはブラックホールらしきものを作り出す能力を持っている。そして、それがダークライの大技に反応した。

 つまり………………ッ!

 

「おい、黒いの。一発ドデカイの作って、あの影どもを呑み込むぞ」

「ライ」

 

 俺がそう言うとダークライは俺に菱形の黒い結晶を渡して来た。いつぞやの結晶と同じである。

 これで一発打てってことだな。

 

「ダークライ、ブラックホール!」

 

 これ使った後にぶっ倒れるなんてことないだろうな。前回確かしばらくしか保たなかったはずだぞ。一回目よりは猶予時間が伸びていることを祈るばかりだ。

 

「………な、ん、だ………あれ、は………」

 

 Saqueも知らない技、ということは本当に奥義らしいな。それを俺なんかに教えたってことは随分と懐かれてるみたいだ。

 悪い気はしない。俺もダークライには随分と世話になって来た。そんな俺が出来ることなんて記憶を食わせることか全力を引き出してやることくらいしかない。

 

「これが、ブラックホール………」

「どんどん影が吸収されていってる………………」

 

 ぐっ、やはり来たか。

 もの凄く頭が熱い。熱いし痛くてかち割れそうだ。

 だけど、これ一発で倒れてたまるか。

 俺にはまだまだやるべきことが山程あるんだ。

 

「……………アンタ、惨めだね」

「な、何者………だッ?!」

「元マグマ団幹部カガリ、とでも名乗っておこうかね」

「マグマ団、だと……………」

「気分はどうだい?」

「くぁっ?!」

 

 マグマ団、だと………!?

 なんでそんな奴が………。

 

「アンタも知ってるでしょ。マグマ団とアクア団がやったこと。結局は自然の力の前になす術もなくなった」

 

 くそ、次から次へと問題ばかり起きやがって!

 

「アンタも同じさ」

「違う! 私はお前たちとは目指す世界も利用するものも何もかもが!」

「違わない。アンタが利用しようとした男は古代ポケモンたちと同じ禁忌。アンタは禁忌に触れたのさ。そして、禁忌に触れた者へは鉄槌が下される」

「うあ、あああっ?!」

「コマチちゃん!?」

 

 コマチ?!

 身体が動かせないッ!?

 

「……………っ、シュウ! あたしに力を貸して!」

「ルガッ!」

「メガシンカ!」

 

 デオキシスの影とともにブラックホールへと流れてくるコマチを助けようと無理にでも身体を動かそうとするが、それでも動かない。

 やはり、相当の負荷が俺にもかかっているようだ。

 その間にユイがルカリオをメガシンカさせた。ユキノがキーストーンを渡していたのだろう。

 

「シュウ、しんそく!」

 

 メガシンカしたルカリオは一瞬でコマチの元へたどり着き、影を攻撃して救ってくれた。

 何とか間に合ったか。

 けど、まだトツカが……………。

 

「コマチちゃん!」

「ってて……、ユイさんありがとうございます。助かりました」

「………あたし、とうとうメガシンカできちゃった………」

「ユイガハマ、君は誇っていい。初のメガシンカでここまでルカリオの力を引き出せるなんて、普通は無理な話だ」

「それは、ゆきのんやヒッキーがいたから……………」

「あいつらは関係ないさ。最後は君とルカリオ自身の問題だ。そして見事、門を開いたのだ」

「コマチたちもいくよ! プテくん、メガシンカ!」

 

 ユイに続き、コマチもメガシンカさせてきた。

 もはや逃げ回ることの方が悪手のような気がしてきたわ。

 

「はかいこうせん!」

 

 プテラの攻撃はトツカを捉えている影とその周りの影を一網打尽に焼き尽くした。

 

「トツカさん!」

「クロバット、ブレイブバード!」

 

 空いた空間に流れ込んでくる影をクロバットが注意を引い、その間にトツカはトゲキッスに乗って態勢を立て直していく。

 

「ディアンシー、ダイヤストーム!」

 

 サガミの指示でディアンシーが巨大なダイヤモンドをデオキシスの大群に突き飛ばした。

 するとこれまでメガシンカポケモンたちに注意が向いていたのが、一斉にダイヤモンドの方へと向きを変え、集まり出した。

 シメた、これならポイントを絞れる!

 

「ダークライ、一気に、いくぞ!」

『ライ』

 

 ブラックホールを広げ、焦点をダイヤモンドへと集中させていく。

 こんな操作、どうやってやっているんだ、なんて問われたら答えようがないが、俺のイメージをダークライが再現している、とでも言えばいいだろうか。

 リザードンやゲッコウガのように視界も共有していなければ、テレパシーで繋がっているわけでもない。ただお互いの勘だけが頼りである。

 

「東海の神、名は阿明、西海の神、名は祝良、南海の神、名は巨乗、北海の神、名は寓強、四海の大神、百鬼を退け凶災を祓う!」

 

 巨大ダイヤモンドの上空からはザイモクザが作り出した五芒星が挟み込みにかかった。

 アレで押し返そうという魂胆らしい。

 

「今よ! 全員で一斉攻撃!」

 

 誰の合図なのか。

 聞き分ける前に各々の命令によってその声はかき消されてしまった。

 

「ボーマンダ、ドラゴンダイブ! ユキメノコ、ユキノオー、マニューラ、ふぶき! ヘルガー、だいもんじ!」

「マロン、ウッドハンマー! クッキー、インファイト! シュウ、はどうだん!」

「カーくん、サイコショック! カメくん、ハイドロカノン! キーくん、げきりん! クーちゃん、メタルバースト! プテくん、ギガインパクト!」

「ネイティオ、メタグロス、ハガネール、バンギラス、はかいこうせん! カメックス、ハイドロカノン!」

「全員でサイコキネシス!」

「フシギバナ、ハードプラント! エンペルト、ハイドロポンプ! サーナイト、ムーンフォース! グレイシア、ふぶき!」

「カイリキー、ハリテヤマ、ばくれつパンチ! バシャーモ、サワムラー、ブレイズキック! エルレイド、インファイト!」

 

 これが数の暴力というやつだろうか。

 いやはや恐ろしい。

 だが、もっと恐ろしいのは俺のポケモンたちだ。

 誰に命令されるでもなく、究極技を合成させ、三位一体の重い一撃を解き放ったのだ。

 

「スイクン、オニゴーリ、ぜったいれいど! エンテイ、せいなるほのお!」

 

 そして最も恐ろしいのがルミルミである。

 タイミングを見計らったかのようにトドメの一撃必殺で影も技も丸ごと瞬間冷却し、エンテイの炎で一気に燃やし、跡形もなく消し去ってしまった。

 俺のいる意味……………。

 

「…………やった、のか………?」

 

 いえ、影は無くなりました。

 でも無くなったのは影だけです。

 いるんですよ、まだあそこに。

 

「ダーク、ライ………」

 

 デオキシスの影も消え去ったことでブラックホールも用済みとなり、収束させた。

 穴を閉じた瞬間、俺もダークライもその場に倒れこみ、膝をついて息を荒くしている。呼吸が出来ていなかったのだ。それくらいあの技は負担が大きすぎる。

 

「はあ……はあ…………はあっ………」

「ハチマン!?」

 

 近くにいたユキノが何事かと駆けつけてきた。

 

「俺のことは、いい。それよりも、まだ奴はいる」

 

 足りない酸素を思いっきり吸い込みながら、デオキシスがいる方を指差す。

 そこは白い煙に包まれており、肉眼ではデオキシスを確認できなかった。だけど、いるのだ。

 

「………レシラム、ジュカイン、オーダイル。…………もう、一度、…………はあ………三位一体、攻撃だ………」

 

 静まりかえった戦場に再び怒号を鳴らす。

 三色の攻撃は一体となり、白い煙を消し去った。

 だがそれも、一瞬で消されてしまった。

 

「…………来るっ!」

 

 三位一体を呑み込んだ思われる黒い穴の横から、赤と青の触手が俺を射殺さんばかりに伸びてきた。咄嗟にガードに入ったレシラムを突き飛ばし、その後ろにした俺も一緒に巻き込まれてしまった。

 

「くっ………クレセリア! お願い、デオキシスの注意を引きつけて!」

 

 そう言えば、ユキノはクレセリアを連れていたな。

 クレセリアがデオキシスの注意を引きつけている間に立て直さないと。

 

「ハチマン、生きてる………?」

「あ、ああ………」

 

 生きてはいるが、正直今にもぶっ倒れそうだ。

 だが、前回よりは保っている。意識が遠のく感じがまだしない。疲労で寝たい気分だが、強制シャットダウンというわけではないから遥かな進歩と言えよう。

 

「今なんだゾ! カラマネロ、さいみんじゅつ!」

 

 ヤベッ!

 完全に存在を忘れてた。

 

「フフフなんだゾ。ようやくデオキシスを我が支配下に置くことが出来た。さあ、デオキシス。我がボールに入るのだゾ」

 

 カラマネロってさっき倒したんじゃなかったのか?

 

「チッ」

 

 見れば他の奴らも復活していた。

 薬でも使ったのだろう。

 

「フラダリさま、私クセロシキがカロスの、いや世界のリセットを果たしますゾ!」

 

 デオキシスを支配下に置いたことで世界のリセットなんてできるのか?

 いや、まあフレア団の研究チーム筆頭が言ってるんだし………。

 ええい、仕事を増やすな!

 

「だが、その前に。デオキシス、邪魔者を排除するのだゾ」

 

 おっと、とカガリと名乗る女性が触手を躱してSaqueはデオキシスに捕らえられた。

 アレ?

 これってひょっとして内輪もめって奴か?

 いいぞー、もっとやれー。

 

「………クセロシキ、貴様………貴様ァ!!」

「偉大なるフラダリさまを侮辱した報いなんだゾ」

 

 Saqueがフレア団幹部を利用していたようで、その実クセロシキが動かしていたのか。

 話を持ちかけられた時点で奴はここまで計画していたのかもしれない。

 このまま絞め殺すのかね。

 

「ダブルニードル!」

 

 だが、サカキはそうはさせなかった。

 スピアーの針が赤い触手に刺さり、締め付けが弱まったことでSaqueは解放された。

 まあ、デオキシスに刺されて大量に血を流してるから、地面に転がることしかできていないが。

 

「サカキ、さま…………」

「Saque、貴様が受ける報いはコイツからではない。このオレからだ!」

 

 要は人の獲物に手を出すなって奴か。

 どうでもいいけど、カガリと名乗る女性が上手く壁となり、コマチたちにはSaqueの様子が伺えなくなっている。地味に働きますね………。

 

「シャア………」

「お前、リザードンに戻ったのか」

「………シャア」

 

 限界が来たのか、レシラムは元の、いつものリザードンの姿に戻っていた。

 まるでメガシンカだな。

 でもメガシンカの先の力だし、ギガシンカとでもいうべきか?

 

「クセロシキ、準備ができたわよ」

「了解なんだゾ。デオキシス、サイコブースト!」

「ライ!」

 

 くそっ、この動けない時に……………。

 ダークライも無茶するな。

 

「させないわ! クレセリア、サイコキネシス!」

 

 クレセリアが防御に徹しているみたいだが、それだけでは足りないはずだ。アタックフォルムになっていればいくらクレセリアでも太刀打ちできないだろう。

 

「うそっ…………このタイミングで?!」

 

 ハルノの焦り声が聞こえてきた。

 何が起きている。起き上がれねぇからさっぱり分からん。

 

「ハッチー、どうしよう…………また新しいの出て来たよ………」

「新しい、の?」

「フレア団………………まだいたんだね……」

 

 つまりフレア団の再集結ってわけか。

 多分、囲まれてるんだろうな。

 

「ッ!? ハチマン! 黒い穴が!」

 

 ッ!?

 それはやべぇな。

 けど、リザードンは動けない。ジュカインもコマチを助けに行って、捕らえられたダメージがデカい。ヘルガーはユキノの下にいるし、呼び寄せられるのは…………。

 

「くっ、エンテイ!」

 

 仕方ない。

 また荒技でいくか。

 

「俺たちにせいなるほのおだ!」

 

 ルミのところにいたエンテイは、その場から俺に向けて聖なる炎を撃ち出してきた。

 こう、見える展開と見えない展開があるのは、何とももどかしいものだな。

 

「うわっ!? ヒ、ヒッキーィィィイイイイイイイイイッッ!!」

「落ち着け、ユイ。火傷するような熱さじゃないだろ?」

「ふぇ? あ、ほんとだ………。なんか、優しい温かさだね」

「せいなるほのおは攻撃に使えば、相手を火傷させるが、こうやって使えば治癒効果が発揮されるんだよ」

「…………………伝説のポケモンってスゴいんだね」

「ああ、けどな。今からやってくる伝説はエンテイの比じゃない」

 

 ユイはいきなりのことで慌てていたが、火傷するような熱さじゃないと分かると、炎に身を捧げた。

 ………俺の目がおかしいのだと思いたいが、炎はユイに吸収されていっているように見える。

 ほんとこの子なんなのん?

 覚醒でもするのん?

 

「サンキュー、エンテイ。今度はあっちに攻撃の炎だ」

 

 コクリと頷くと、エンテイは禍々しい濃いピンクの光線を撃ち出しているデオキシスに向けて突っ込んでいった。

 

「オダ!」

「カイ!」

 

 エンテイの炎により動けるまでには回復した身体をオーダイルとボロボロな姿のジュカインの支えで奮い立たせ、状況を把握していく。

 デオキシスから解放されたトツカとコマチをツルミ先生が手当てをし、そこをルミが守っている。ついでに逃げ遅れた観客もいるみたいだ。

 フレア団の残党どももナツメとマチス、ヒラツカ先生とチャンピオン、それにプラターヌ博士までもが参戦し、抑えている。

 科学者どもの方はエックスとコルニとこんこんブル博士が相手をしていた。

 そして、デオキシスとクセロシキにはユキノシタ姉妹が。

 デオキシスとクレセリアの対峙、そこにエンテイが炎を纏って突っ込んでいき、その90度左には巨大な黒穴が渦を巻くように開いていた。

 その奥には赤い目があり、俺を見つけるや否や青と赤の竜を模した波導を撃ち放ってきた。

 

「オーダイル、ハイドロポンプ! ジュカイン、リーフストーム!」

 

 奴を近づけさせるわけにはいかない。

 最悪魂を持っていかれるかもしれないんだ。

 そうでなくともあの暗い世界に引き摺り込まれてしまう。

 遠距離攻撃で押し返すのがベストといえよう。

 

「ヘルガー、ユキメノコ! 今よ!」

 

 あっちはあくのはどうとシャドーボールで背後からの不意打ちにかかったのか。

 だが、エンテイの突撃をディフェンスフォルムでガードしていたため、再度フォルムチェンジをされてスピードフォルムで躱されている。

 

「カイ!?」

「ジュカイン?!」

 

 黒穴とは別の方から攻撃を受け、ジュカインが吹き飛ばされた。

 

「オダ!」

 

 くそ、今ので奴が視界から消えやがった。

 オーダイルが警戒を強めているが、まるで分からない。

 どこだ、どこにいる………。

 

「シュウ、ボーンラッシュ!」

 

 ユイ………?

 お前まさか居場所が分かるのか…………?

 

「オーダイル、ルカリオのいる方へれいとうビーム!」

 

 まあ何でもいい。

 見えているなら使わせてもらおう。

 奴はドラゴンタイプを併せ持つため、こおりタイプの技は効果抜群だ。

 

「カイ!」

「ジュカイン、大丈夫か?」

「カイ………」

 

 ジュカインはまだメガシンカは解けていないものの、限界も近いだろう。

 休ませてやりたりところだが、手数が減るのも厳しい状況だ。

 どうする? どうするのが正解だ?

 

「ッ?!」

 

 なんか。

 なんか下から気配が…………。

 それにゴゴゴッ! と地鳴りがする。

 

「ゴラァァァアアアアアアアアアンンンンンンッッ!!」

 

 ッ?!

 こいつは………!

 

「ボス、ゴドラ………」

 

 地面が割れたかと思うとボスゴドラが飛び出して来た。

 ボスゴドラはそのまま垂直に飛んでいき、何かにぶつかった。

 するとラグが起きたかのように空気が乱れ、奴はーーギラティナは姿を見せた。アイアンヘッドが効いたみたいだ。

 

「そうだ………! ジュカイン、今は休め。まだまだお前が必要だからな。ここでくたばってもらっちゃ困る」

「カイ……」

 

 一つ、あることを思い出した。

 そのためにもジュカインにはメガシンカを解かせ、ボールに戻して休ませることにした。ついでにリザードンもボールに戻しておく。

 ジュカインには悪いが、生きるためだ。

 

「ボスゴドラ!」

「ゴラァ!」

 

 いつだったか博士から渡されたボスゴドラナイト。使うことはないだろうと思っていたけど、こんな形で使うことになるとはな。

 ボスゴドラもメガストーンを受け取ると、俺に頷いてきた。どうやらいけるらしい。

 

「力借りるぜ、ボスゴドラ! メガシンカ!」

 

 キーストーンとボスゴドラナイトが共鳴を始めた。

 鉄の鎧がさらに大きくなり、鉄の魔獣と化している。

 上手くいった。

 まずはギラティナを穴に押し返して、デオキシスを倒す!

 

「ロックカット!」

 

 まずは身体のツヤを上げ、素早さを上げていく。

 

「ユイ! ルカリオをこっちに寄越せ!」

「分かった! シュウ、ハッチーのところに行って! 何かするみたいだから!」

「ルガゥ!」

 

 ギラティナの背中の上を走り回っていたルカリオが、直滑降で落ちて来た。

 着地すると無駄にクレーターを作り、ボスゴドラでさえ、言葉を失っている。

 

「クッキー、マーブル、いくよ!」

 

 ユイはルカリオと入れ替わるようにウインディに乗って俺たちの前へと飛び出して来た。

 

「へんしん!」

 

 何に変身させるのかと思えば、蒼炎の黒いリザードンだった。

 ドーブルはウインディに対して炎を吐き出し、特性のもらいびを発動させ、ウインディはその炎を纏って突進を仕掛けていく。

 

「ルカリオ、ボスゴドラを天高く放り投げてくれ!」

「ル………ガゥ! ガゥガゥ!」

「ゴラ!」

 

 何やら二人でやり方が決まったようで、ボスゴドラに骨の先端部分を掴ませ、それをルカリオが振り回して回転を加えていく。

 遠心力が加わってくると、ボスゴドラの身体も宙に浮き、さらに回転を強めて、上空へと放り投げた。

 

「マロン、ニードルガード!」

 

 ギラティナのシャドークローをブリガロンのニードルガードでうまく防いでいる。

 

「ボスゴドラ、ヘビーボンバー!」

「クッキー、りゅうのはどう!」

 

 上空からはボスゴドラが、下からはウインディがギラティナ目掛けて技を撃ち出した。

 

「シュウ!」

「ダークライ!」

 

 ユイの声にルカリオはすぐさま反応し、ギラティナ目掛けて飛んでいった。

 俺もダークライを呼び寄せ、攻撃の準備を整えていく。

 

「「あくのはどう!」」

 

 左右両側から挟み込むようにして、黒い波導を送り込んだ。

 

「マーブル、いくよ! ダークホール!」

 

 ユイも随分と戦い慣れてきたもんだ。

 俺の意図をしっかり読み取って、対応してくれている。

 

「オーダイル………くっ………ハイドロ、カノン!」

「オ、オダッ!?」

「いい! 俺のことはいいから攻撃してくれ!」

「オダ!」

 

 急にフラついて倒れかけた俺を気にしてか、オーダイルは一瞬攻撃を躊躇ってしまった。

 そのせいでギラティナが防御態勢に入る隙を作ってしまったのだ。なんか俺のせいで悪いことしてしまったな。

 

「…………これでも足りない、の………」

 

 足りない、というよりは急所を外してしまったからだろう。

 さて、どうしたものか………。

 

「ハチマン! これを!」

 

 この声はトツカか?!

 手当ても無事終わったみたいだな。

 と、とと………、これは………。

 

「リザードンに使ってあげて!」

「サンキュー!」

 

 トツカが投げてきたのは黄色い結晶の塊、げんきのかたまりだった。

 こんなレアなアイテム、高かっただろうに。

 終わったら金払おう。

 

「リザードン」

「シャア…………」

「これを噛まずに飲み込むんだ」

 

 げんきのかたまりをリザードンに飲ませ、回復を待つ。

 その間、どんどんギラティナが態勢を立て直し始めた。

 

「ッ!?」

 

 また消えた。

 シャドーダイブか!?

 

「シュウ! ボスゴドラを投げて!」

「ガゥ!」

 

 ユイの指示でルカリオは、未だボスゴドラが持っていたルカリオの骨棍棒を掴み、ぐるぐる回して投げ上げた。

 

「ハッチー!」

「ああ、分かってるよ! ボスゴドラ、メタルバースト!」

 

 彼女がそう指示した意図。

 それはギラティナが出てくる場所にボスゴドラを投げ、返し技を使えということだ。

 そして、ボスゴドラが覚えている返し技はメタルバースト。

 カウンターやミラーコートより威力として劣るものの、攻撃技なら物理技だろうが遠距離技だろうが、返すことができる。

 今は別に威力を必要としているわけではない。いや、あるに越したことはないが、それはボスゴドラの役目ではないのだ。

 

「ダークライ、お前も穴を用意しとけ!」

 

 ダークライにはドーブル(メガリザードンX状態)と一緒に穴を開けて待機させることにする。

 なんだかんだあいつも限界が近いはずだ。無理をさせたくはない。

 

「いくぞ、リザードン!」

「シャアッ!!」

 

 全回復したリザードンの炎は燃え盛っていた。

 内から溢れ出る力を出し尽くしたくてウズウズしているのが伝わってくる。

 

「ブラストバーン!!」

「シャアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 リザードンの咆哮により、ギラティナが出てきた。

 だが、そこにはボスゴドラがいて、技を受けて地面へと落ちていく最中、メタルバーストを放ち、ギラティナのバランスを崩した。

 そして、ギラティナが怯んだところにリザードンの拳が叩きつけられ、直接究極の炎に包まれた。

 炎は段々蒼くなっていき、まるでメガシンカの時のような炎である。

 

「ガオガエン、ハイパーダーククラッシャー!」

「ダグトリオ、超絶螺旋連撃!」

 

 と、上空から二人の男性の声が飛んできた。

 何者なんか、今はどうだっていいか。

 取り敢えず、この危機的状況を脱しようと動いているなら、それはもう味方だ。

 

「………………押し返した………」

 

 割り込んで来た男二人の活躍により、ギラティナは再度黒い穴の向こうへと消えていった。

 

「デオキシス、サイコブースト!」

「きゃあっ?!」

「フッフッフッ、なんだゾ。お前たち、撤退するのだゾ!」

 

 あっちは逃げられたか………………。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 待てと言って待つような相手ではないのは分かっているが、やはり口に出してしまうものだな。

 

「あ、やべ……………」

 

 ひとまず戦う敵がこの場から消えたことで、俺のスイッチが切れた。

 身体を動かそうにも動かさず、そのままドサリ!と地面に倒れてしまった。

 超痛いんですけど。せめて痛覚も麻痺しててくれよ。

 

「ハッチー!」

 

 何事かと、慌てて飛んでくるユイ。

 いやー、大活躍だったなー。

 

「くそ、動けねぇ………」

「それは、そうよ……………。レシラムにダークライ、メガシンカって一度にやり過ぎなのよ」

「けど、やらねぇとやられてた」

「…………悔しいけど、また何も出来なかったわ」

 

 ボロボロなまま歩み寄って来たユキノがポツリと零した。

 

「いや、デオキシスを足止めしててくれたじゃねぇか」

「でも、倒せなかった」

「それは俺も同じだ。身体にガタが来て、迷惑まで掛けてた」

 

 相当悔しいのだろう。

 唇を切れちゃいそうなくらい噛み締めている。

 

「そうだよ、ゆきのん。ゆきのんたちがデオキシスを止めてくれてなかったら、あたしたちも何も出来なくなってたもん」

 

 何でもいいけど、君たち自分の姿を確認してくれると助かるんだが。

 こんな時に何考えてんだって話だが、いろいろとヤバい参上になってるぞ、布切れどもが。

 

「お兄ちゃん、大丈夫? 顔赤いよ?」

「ば、ばっかばか。これが大丈夫なわけないだろ」

「あ、口しか動いてない」

 

 口だけじゃないぞ、目も動かせる!

 

「なあ、コマチ。タイツが凄いことになってるな」

「なっ?! お兄ちゃん!? 例え血の繋がった妹でも、今のはセクハラだよ!」

 

 手で太腿辺りを隠す仕草が何とも可愛らしい。

 さすがコマチ。

 

「君たちも気をつけた方がいい。今度は男どもに襲われ兼ねんからな」

「……………そうですね。この変態が身動き取れないのが、不幸中の幸いでした」

 

 ヒラツカ先生は俺の意図を汲み取ってくれて、他の女性陣にも注意を促してくれた。

 正直、眼福ではあるが、それは俺の前だけにして欲しい。

 

「ハチマン、これからどうするつもり? 奴らがどこに向かったのか…………」

 

 鋭い口調で話かけて来たのはハルノだった。

 クセロシキたちに逃げられたのが、余程腹立つらしい。魔王が降臨している気分だ。

 

「それなら検討はついている。だろ、サカキ」

「ああ、奴らの目的は恐らく日時計だ」

「やっぱりな………」

 

 日時計と言えば一箇所しかない。

 カロスの北東、ヒャッコクシティにあるオーパーツと称されている物体だ。先のフレア団との抗争の後、ある一定の時間に特殊なオーラを放つのだ。

 博士曰く、それはメガシンカエネルギーに類似し、キーストーン、メガストーンにも影響及ぼしているらしい。

 

「よお、ハチ公。お前、分かってたのか?」

 

 マチス………。

 その担いでいるものは何なんだ?

 見たことのある髪が垂れてるぞ。

 

「なんとなくな。デオキシスが狙っていたのはキーストーンとメガストーン。そしてそれ以上に反応したのがダイヤストーム。んで、クセロシキが世界を終わらせるためにデオキシスを連れてどっか行った。なら、もう行き先は一つしかないだろ」

「キーストーン、メガストーン、ダイヤストーム………」

「全部、石が関係してるわね」

 

 そう、全部石が関係しているのだ。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 何人かはその共通点の意味が理解できたみたいだな。

 

「そういうことだ。だから狙いは日時計なんだよ」

「確か日時計は宇宙から来たオーパーツとも言われている。デオキシスが狙ってもおかしくないわね」

「しかもコウジンの化石研究所でグラン・メテオの破片を奪ったらしい」

 

 恐らくグラン・メテオを奪ったのはデオキシス自身がフォルムチェンジするためだ。

 俺の知っている限りでは、カントーの風土がアタックとディフェンス、ホウエンの風土がノーマル、スピードに変化させる力があり、その力でフォルムチェンジを行なっていたはずだ。

 それをすっ飛ばして全フォルムにチェンジしていたところを見ると、グラン・メテオがその全てのエネルギーを持っていたと考えるべきだ。

 

「…………何をするつもりなの?」

「………恐らく日時計をデオキシスに取り込ませるつもりなのだろう。そこから先はもはや想像すらできん」

 

 最終兵器が使えなくなった今、次に可能性のあるヒャッコクシティの日時計に目をつけていたようだ。これもSaqueがデオキシスの話をしたからなんだろうな。偶然にも最終兵器級の爆発を起こせると分かり、計画を密かに立てられていた。

 爪が甘いな。

 

「ッ!?」

 

 おっと、ようやくか。

 もう少し早く来てくれるとよかったんですけどね、ゲッコウガさん。

 

『………何があった……!』

「デオキシスだ。大量の影を投入してきてこの有様だ。しかもSaque率いるネオ・フレア団とかいうのも来てな。クセロシキって覚えてるか? あのデブ、デオキシスを捕獲しやがった。カラマネロの催眠術で支配下に置かれている」

『なるほど。それで奴らは?』

「そっち行ったぞ」

『やはり来たか………』

「つか、お前なんで俺と会話できてんの?」

『便利だろ?』

「まあ、便利だけどよ…………。はあ、まあいい。しばらく足止めよろしく。なるべく早く向かう」

『テレポートで一瞬だぞ?』

「そもそも身体動かねぇんだよ。せめて一息入れさせろよ」

 

 あ、切りやがった。

 あの野郎、終わったら一発叩いてやる!

 

「……………なんだよ」

 

 なんて、未来に誓いを立てていると、ユキノがとても怪しいものを見るかのような目つきで、見下ろしてきた。

 

「いえ、急に見えない誰かと喋りだしたものだから、とうとう頭がイかれたのかと思っただけよ」

「ある意味ぶっ壊れてるわ。あいつもうポケモンじゃねぇ」

「ねぇ、ハッチー。辛かったら言ってね」

「やめろユイ。そんな優しくされると余計に心が痛むだろうが」

 

 ユイは優しい。

 だが、その優しさが時には心を抉る凶器にもなる。

 

「さてと、ルミ、ツルミ先生、それとトツカ。三人でミアレシティを見回って怪我人の救護を。ディアンシー、お前の力で避難した人たちを元気付けてやってくれ。サガミ、ディアンシーを頼む。カワサキは………」

「チカと一緒に既に外だよ。こっちだけに戦力おいておけないし」

 

的確な判断だな。

そのまま避難所に詰めておいてもらった方が賢明か。

 

「そうか、ならオリモト。お前は残ってくれ。鼻が効くお前なら残党がいても捌けるだろ」

「言ってくれるね。けどいいよ。元々そのつもりだったし」

 

この中じゃ、悪党狩りは元悪党であるオリモトが適任だ。ここには悪党中の大悪党がいるが、逆に任せられん。何を仕出かすか分かったもんじゃない。

 

「それとハルノ、シズカさん。こっちの指揮は二人に任せます」

「ああ」

「分かったわ」

「メグリ先輩は戦力の確保を」

「うん!」

「ユイ、コマチ。お前らは残ってメグリ先輩を手伝ってくれ」

「え? で、でもあたしも………!」

「コマチだって!」

「二人の気持ちは有難いが、ただ乗り込むだけでは能がない。お前らは指揮官二人のタイミングでの導入だ」

「うー……」

「分かったよ」

 

 力をつけて自信も持てて、いざ戦いだって時だから、前線で戦いたいって気持ちも分からなくはないが、今の抗争でユイのポケモンもコマチのポケモンもダメージを相当受けている。それをこのまま戦場に送り込んで仕舞えば、足枷にしかならなくなるだろう。

 しかもまだまだユイたちはそういう時の対処法が身についていない。

 こればっかりは経験を積むしかない。

 

「サカキ、アンタはもちろん前線だ」

「オレに命令するのか」

「お前こそ、今のオレたちに逆らうのか……っ!」

 

 ゲッコウガに身体乗っ取られた。

 やべぇ、もうこいつアルセウスとか余裕で倒せそう。

 というか、さっき切ったんじゃねぇのかよ。おかげで起き上がれたけどよ。

 

「ッ、貴様………何者だ…………ッ!?」

「こいつは驚いたぜ! 瞳の奥に別の何かがいるなんてよ」

 

 サカキは戦闘態勢に、マチスはゲラゲラ笑っていやがる。サカキに警戒される日が来るなんて。

 

「…………青いポケモン………?」

「落ち着きなさい、ゲッコウガ。やるなら全て片付けてからよ」

「ふん! ハチも甘すぎる………」

 

 ねぇ、ちょっと怒りのボルテージMAXになってません?

 あーた、キレるとそんな感じなのね………。

 

「………ふぅ、やべぇなあいつ。本当にポケモンか?」

「さあね。ただここまで人知を超えた存在にしたのはあなたよ。その責任は取るべきじゃないかしら」

「や、俺もまさかこうなるとは思ってなかったからな? …………今思えば、技を三つしか使わないとか進化する気はないとか言ってた最初のアレって、自分の力を抑えつけるためだったとか、そういうオチじゃないよな……………?」

「パンドラの箱を開けちゃったんだね」

「ジュカインやヘルガーも何かあるのかなー?」

「ヘルガーのビックリ箱はダークオーラだが、ジュカインにそういう類のは特にないな」

「カイ………」

 

 いや、勝手に出てきて落ち込むなよ。

 お前もあれだぞ?

 くさタイプの技コンプリートしてるじゃん?

 地味だけど、それもそれでぶっ壊れてるからな?

 

「ユキノ、ザイモクザ。デオキシスを止めるぞ」

「え? 我も?」

「お前も来い」

 

 今のあいつらでデオキシスの足止めは出来るのだろうか。まあ、何にせよ時間はない。

 はあ………、先が重いな。

 

「…………それよりハチマン。立てるの?」

「…………………」

 

 ほんと先が重い…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッコウガ、どこに向かって…………ここって、ヒャッコクシティ………?」

『ここが鍵なんだとよ』

「鍵………? なんの………?」

『さあ、オレさまが知るかよ。ただ、やらなきゃ死ぬ。そういう未来が待っているんだそうだ』

「やらなきゃ死ぬ…………。また、先輩無茶なことしてるのかな…………」

「みゅーみゅー」

「コウガ………」

「………あのハクリュー、ゲッコウガに懐きすぎじゃない?」

『懐きすぎっつーか、そもそもあの光景自体が異常だぜ』

「………ポケモントレーナーゲッコウガ、か」


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