カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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随分と間があいて申し訳ないです。
九月入ってから仕事量が増えて、中々書く時間と体力が取れませんでした。

次回更新はまたしばらく空きそうです。


34話

「なあ、ザイモクザ。さっきの五芒星は何だったんだ?」

 

 クレセリアに回復してもらっている間、ザイモクザにさっきの五芒星について聞いてみた。

 

「む? あれはエーフィ以外のポケモンたちによるめざめるパワーの合わせ技であるぞ。お主も元ネタは知っておろう?」

「ああ、五行符を使った百鬼夜行避けだったか…………?おい、まさかお前のポケモンたちって…………」

「うむ、偶然か必然か、我の思い描く通りに各々がタイプの違う内なる力を秘めていたのである。具体的にはZがみず、ロトムがくさ、ジバコイルがほのお、ダイノーズがじめん、ギルガルドがはがね。そしてこの技の元となったのが五行を司る木火土金水。対応タイプがそろっていたがために際限ができたのである。やはり我のポケモンたちは優秀であるな」

 

 なんつー偶然だよ。

 けど、エーフィはそこに加われないんだな。

 ザイモクザにべったり懐いているのに、参加させてもらえないとか可哀想すぎるだろ。

 

「エーフィは必要ないの?」

「何を言う! エーフィがサイコキネシスで五色のめざめるパワーを操ってこそ完成する技なのだ! エーフィを抜きにして出来るわけがなかろう!」

 

 お、おう………。

 こいつもこいつでエーフィにべったりだよな。

 まあ、仕草とか可愛いとは思うけど。ユイがすげぇ引いてるぞ。

 

「けど、あんな呪文唱えるみたいな前置き、いらなくない?」

「喝ッ! これだから素人は! まず、あの詠唱はポケモンたちを配置につかせ、読み上げたタイミングでめざめるパワーを発動させていく、あれは全て必要なことなのである!」

 

 まあ、半分くらいはかっこいいからってのがあるだろうけど。

 でもザイモクザが前置きを入れるのには、技のタイミングなどを合わせるためでもあったりする。しかも言っていることはほとんどの奴が分からない。だから何をしようとしているのかも悟らせないというのが、ザイモクザの後付けの理由である。

 うん、後付けなんだわ………………。

 

「お主こそ、いつボスゴドラを呼んでいたのである。急に出てきて、我少しちびったぞ」

「汚ねぇな。んな情報いらねぇよ」

 

 段々と身体が自由に動かせるようになってきた。パキパキ音がなっているが気にしたら負けだ。

 ……………終わったらちゃんと検査しよう。

 

「俺は呼んでない。ボスゴドラが自ら来たんだ」

 

 というか何で来てくれたんだろうな。

 

「ゴラァァァンンッッ!!」

「え、ちょ、おい、いきなりどうしたっ?!」

 

 えっ? なに?

 何で急に雄叫びを上げてんの?

 気に触るようなこと言ったか?

 

「「「「ココッ!」」」」

「「「ドラドラッ!」」」

 

 うおっ!?

 

「な、なんだコドラたちか………」

「これは………どういう状況なのかしら?」

 

 マジビビるから普通に呼んで。

 地面から出てきたのはボスゴドラがリーダーを務める群れのポケモンたちだった。終の洞窟からミアレ近くに巣を移したらしく、俺も以前、そこにボスゴドラを返しに行ったことがある。

 

「ゴラ、ゴドゴド!」

「ゴラム!」

 

 ボスゴドラが指示を出したのか、群れは散り散りになり会場から出て行った。

 帰れ、というのなら群れ一帯で行動するだろう。となると、それ以外のこと。しかもボスゴドラはここに残っている。

 つまりは………………。

 

「お前、仲間たちに周辺警護にでも就かせたのか?」

「ゴラッ!」

 

 フレア団、いやネオ・フレア団の主幹どもは会場からいなくなっている。だが、下っ端どもが外にいる可能もあるだろう。

 もしそうなってくるとしたら、対応なんて俺たちの手だけでは不足しているのは明らかだ。

 あの群れの力を借りれるなら、是非とも借りたいところである。

 

「サンキュー、ボスゴドラ。俺たちもあいつらを倒す準備をするか」

「立てる?」

「よっこい、せっ! ととっ………」

「まだフラフラじゃん」

「ばっかばか。立てただけでも超回復してるっつーの」

「それ、かなり危険な状態だったって言ってるようなものじゃん」

 

 おうふ………、痛いとこ突かれた。

 

「ハチマン君! みんな! 無事かい!?」

「…………こんなフラフラな状態が無事なわけないだろ、博士」

「何とか命拾いしたという感じね」

 

 プラターヌ博士とチャンピオンが駆け足でやってきた。

 割とガチな方で焦っているのが分かる。

 

「おや、これはこれはプラターヌ博士」

「っ?! その声は………ククイ博士ですかっ?!」

「ええ、直接お会い出来て光栄です、プラターヌ博士」

「こちらこそ、ポケモンの技についていつも論文を参考にさせていただいてますよ」

 

 ククイとかいう博士がプラターヌ博士と握手している。何故上半身裸に白衣なのかは聞かない方がいいのだろうな。変態と変態の会合か。見たくなかったな……………。

 

「ククイ博士、そちらは?」

「マーレインという友人です」

「マーレインです、プラターヌ博士。ククイ君からはプラターヌ博士の研究について色々伺っています」

 

 …………見たことあるぞ、この二人。しかもつい最近。

 ………ああ……。

 

「………何日か前に研究所に来た二人だ………」

 

 裸に白衣とか珍妙な格好してる男をそう簡単に忘れることは出来なかったようだ。

 ああ、忘れていたかったな………………。

 

「お、プラターヌ研究所から出て来た青年じゃないか」

「ククイ君、彼は新四天王のハチマン君だよ」

「ああ、分かってる。今のバトルを見ただけでも、強さが未知数だったさ」

 

 バトル、なんて生易しいものじゃなかったけどな。

 

「改めて、俺はククイだ。アローラ地方でポケモンの技について研究している」

「僕はマーレイン。アローラ地方のホクラニ岳山頂にあるホクラニ天文台の天文台長を務めています」

「何でまだいるんすか。カントーの本部に話を通したでしょうに」

「いや……実は俺もこの大会に出ててな」

「…………いたっけ?」

「ロイヤルマスク。ククイ君が変装した姿だよ」

 

 ロイヤルマスク?

 誰だ、そいつ。

 

「あ、あの見たことのないポケモン連れたプロレスラー!」

「見たことのないポケモン…………?」

 

 俺、そのバトル見てないような気がする。

 だからユイがどのポケモンを指して言っているのかも分からない。

 

「カロスには生息しないジュナイパー、ガオガエン、アシレーヌのことだね。この三体はアローラ地方の初心者用ポケモン、モクロー、ニャビー、アシマリの最終進化形なんだ」

 

 いわゆるアローラの御三家ってやつか。

 んで、そのポケモンたちを変態博士二号が連れていると。

 

「それで、あれは何なんですか? 見たことのないポケモンたちがいましたが」

「それについては僕よりも彼の方が詳しいと思いますよ」

 

 じっと見つめてくるアローラの二人組み。

 腐った人がいなくてマジでよかった。

 いたら大変なことになってたと思う。主に彼女の頭の中と血の量が。

 

「いや、あのポケモンたちのことだったら、こっちの方がより正確かと………」

 

 かくいう俺もぐいんと首を回して、ユキノの方を見やった。特段驚いている様子は見受けられないが、代わりに恨めしそうな視線が突き刺さってきた。

 

「………はあ、仕方ないわね。まずあの触手のような身体のポケモンはデオキシス。かつて宇宙より降ってきた隕石に付着していたポケモンよ。そして、もう一体の黒い穴から出てきたのはギラティナ。シンオウ地方の神話に登場する世界の裏側の王よ」

「デオキシス………? 聞いたことのない名だな。マーレイン、知ってるか?」

「いや、僕も知らないよ。ギラティナについても神話のポケモンとしか知らなかったよ」

 

 アローラ地方には縁のないポケモンたちだからな。知らなくて当然か。

 

「…………それにしても何でまたシンオウ地方の伝説ポケモンがカロス地方にいるんだ? それにデオキシスだったか? 隕石に付着してっていうからには隕石が落ちたところで発見されたんだよな? カロス地方にそんなところあったか? どちらかといえば、隕石はホウエン地方のイメージなんだが」

「さすがポケモン博士、というべきかしら」

「だな。推察が的確すぎる」

 

 デオキシスやギラティナについては知らなくても他の要素から結びつけられるところはやはりポケモン博士といったところか。

 こんな見た目だけど。

 

「じゃあやっぱり………」

「ええ、デオキシスのコアが発見されたのはホウエン地方。ギラティナもカロスとは何のゆかりもないっすよ」

「となると原因は他にあるというわけか」

 

 振り出しに戻った、というため息を吐く変態博士二号。

 

「ククイ君」

「なんだ、マーレイン」

「原因かどうかは分からないけど、関係がないとも言えない要素ならあるよ」

「ほんとかっ?!」

「うん、ククイ君は今日だけで何体の伝説ポケモンを目にした?」

「伝説ポケモン………? エンテイにスイクン、黒い穴から出て来たギラティナ? にダークライと………クレセリアか」

「そうだね」

 

 どうでもいいけど、レシラムは見ても分からなかったんだな。

 

「この伝説のポケモンたちが何か関係しているのか?」

「エンテイとスイクンは可能性が低いと思うけど、同じシンオウ地方の伝説ポケモンであるダークライとクレセリアなら、可能性はあるんじゃないかな?」

「なるほど………、確かに同じ地方のポケモン、それに伝説ならあり得なくもない。けど、よく気づいたな」

「君の影に隠れガチだけど、僕はこれでもホクラニ天文台の台長だよ。当然、天文についても研究しているし、月や太陽に関連するポケモンに関しては調べてたりするからね。それとデオキシスについては知らなかったけど、何かが付着した隕石がホウエン地方に落ちたって話は聞いたことあるよ」

「………そうだったな。いや、忘れてたぜ」

「ひどい親友がいたものだ」

 

 ほんとだな。

 友人の、しかも割とアローラでは名の知れた方だろうに忘れてるとか…………。

 さすが変態博士二号。

 

「時に四天王と三冠王。そのポケモンたちはどうやって捕まえたんだい?」

「Saqueから奪った。ダークライがそうしろって言ったからな」

「う、奪った………っ?!」

「おいおい、どういうことだ? 確かにダークライ使いが出ていたが、そいつから奪ったっていうのか!?」

「六年間」

「「ん?」」

「それがダークライとともに過ごしてきた時間だ。それ以上のことは言えない」

 

 ボールに収めていなくとも六年も共に過ごしていれば、どちらのポケモンかなんて分かりきったことだろう。最後は黒いのの意志で決まったが、あんな道具としてしか見ていない奴のところにいくなど、バカげた話である。

 

「私はホウエン地方である島に迷い込んで、そこでクレセリアに出会ったわ」

「ある島?」

「地図にも載っていない幻の島です。クレセリアによって私はその島に引き込まれました」

「それはつまり………」

「クレセリアに選ばれたってことかい?」

「恐らくは。選ばれた理由も恐らく………………」

 

 ユキノがチラッと俺を見て来た。

 言いたいことは何となく分かる。

 何故ユキノなのかは俺にも断定できないが、推測だけでいうなら、ユキノは俺への対抗策として施されているらしく、それが関係しているのだろう。

 

「なるほど、ダークライとクレセリアは対をなすポケモン。つまりダークライに選ばれた四天王の相棒として三冠王が選ばれた」

「なあ、マーレイン。ダークライとクレセリアが持つ技とか特徴ってなんだ?」

「ダークライは眠っている相手に悪夢を見せると言われているよ。そして、クレセリアの羽がその悪夢を取り払う効果を持っているんだ」

「そりゃ確かに対極だな」

 

 他にも両者ともに月を司るポケモンでもある。

 ダークライは新月、クレセリアは満月や三日月の象徴とされているのだ。

 

「技もダークライは相手を眠らせるダークホール、クレセリアはみかづきのまいという人やポケモンを全回復される技があるんだ」

「ダークホールとみかづきのまい、か…………。ダークホールはアレだよな、名前からして黒い穴の…………っ?!」

 

 あ、変態博士二号が気づいたみたいだ。

 

「ククイ君?」

「そういうことか」

「何がだい?」

「ようやく原因が分かったぜ、マーレイン。ギラティナを呼んだのはダークライだ。関係があるとすればそれしかない」

「…………なるほど。つまり黒幕は…………」

「ああ、この四天王だ」

 

 二人は俺を警戒し、モンスターボールを構えた。

 いつでも応戦できるぞという合図なのだろう。

 

「お見事、さすがポケモン博士ですね。それでどうします? ここで俺を倒してネオ・フレア団とやらに世界を渡しますか?」

「なに………?」

「俺はあいつらを倒しにいくつもりなんで。アンタらがここで俺を倒していくっていうなら貴重な戦力を一つ削るってことなんですよ。そこんとこ、分かってます?」

「ネオ・フレア団の仲間、じゃない、のか……………?」

 

 俺をあんな奴らと一緒にするんじゃねぇよ。

 世界なんてもんに興味ねぇし。

 

「いろんな組織が世界征服だの宇宙の創造だの企んでましたけど、正直意味が分からないんですよね」

 

 世界を支配なんてできるわけがない。

 強い圧力はかけられても、それに反抗する因子だって存在する。そういう奴らを相手するのはただただ面倒なだけだ。しかも変に力をつけてこちらを脅かす存在にもなり得る。そんな状態で世界征服など目指して何が楽しいのだろうか。

 

「世界征服したところで絶対服従するわけじゃない。どこにでも反乱材料は転がっている。だったらやるだけ無駄だと思うんすよ。最初から反乱材料はいて当然と考えているロケット団が一番現実的でかつ分かりやすい組織ってくらいには」

「なら何故………」

「そもそも憶測でしかないし、証拠もないですけど、ダークライが原因でデオキシスもギラティナも出て来たってんなら、それこそフレア団のせいですよ。最終兵器なんざ、起動させるから、こちとら一世一代の大技を使う羽目になったんだし」

「…………つまり君は味方、なのかい?」

「味方も何も俺は最初からカロスを守ろうと動いてますけど?」

 

 つーか、敵対してるの見てたでしょうに。

 それともアレか?

 全て演技だとでも思ってんのか?

 いや、そうじゃないな。

 

「はあ………、俺の言ったこと忘れてんのか」

 

 何者だって聞かれたから答えたのに、それを忘れるとか………。

 ダメな大人だな。

 

「カロスポケモン協会理事、それが俺の肩書きだ」

 

 ………………………………………。

 

「「はっ?」」

 

 ………………………………………。

 

「「はあっ?!」」

 

 時が止まるの長くない?

 そんでもって、リアクションも大袈裟すぎ。

 

「いやいやいや、待ってくれ」

「君がポケモン協会の理事……………?」

 

 だからそう言ってるだろうに。

 耳穴塞がってんのか?

 

「前会った時に言ったと思うんですけど」

「いや、あの時はただ立ち去るための冗談だとばかり……………」

「でも、それならば色々と辻褄は合うよ。プラターヌ博士もチャンピオンも、三冠王も彼の側についている。咄嗟の指揮を出しても皆がそれに従って行動していたし………」

 

 あ、あの一瞬を見てたのね。

 パニック状態で誰も見てないと思ってたわ。

 

「彼はカントーポケモン協会理事の懐刀、忠犬ハチ公よ」

 

 驚く二人に追い打ちをかけるようにユキノが細く情報を呟いた。

 尤も、金髪メガネはピンと来ていないみたいだが。

 

「忠犬ハチ公?」

「………噂程度の話として聞いたことがある。カントー本部の理事は懐に刀を忍ばせており、そいつはロケット団をも追い詰める最強のトレーナーである、と」

「また尾ビレが付いてるな」

「噂だもの。仕方のないことだわ」

 

 実際はそこまで追い詰めたわけでもないのにな。

 誰だよ、こんな噂流した奴。

 

「彼は今まで機能していなかったカロスのポケモン協会を再興させたのです」

 

 プラターヌ博士が事の経緯を説明するとようやく信じたようだ。

 

「し、信じられん…………」

「まさかその歳でトップとは…………」

 

 なんで俺の言葉では信じず、博士の言葉は信じるんだよ。変態同士、シナジーが生まれたのか?

 

「ククイ君、僕たちは今とんでもない青年に会っているのかもしれないよ」

「ああ、カロス四天王にしてポケモン協会理事。しかもロケット団のボスでさえ対等の扱い。異例中の異例だ」

 

 あのー、サカキを刺激するような言葉ひ謹んでもらえますかね。

 このおじさん、怒ると街一つなくなるから。

 

「けど、なんで四天王なんだ? チャンピオンでもおかしくない実力を持っているというのに」

「四天王は暫定的になんで、これから新しく選出するんすよ。そのためのリーグ戦と言ってもいい」

 

 早くこの任解けないかなー。

 成り行きで就いたけど、やっぱ俺には合わねぇわ。

 

「…………あんまり実感なかったけど、やっぱりお兄ちゃんってポケモン協会のトップなんだね」

「今さらだな」

 

 コマチちゃん?

 半年以上やってるのに今更過ぎない?

 

「だってお兄ちゃんだよ? あの働きたくないでごさるとか言ってたお兄ちゃんだよ?」

「やらなくていいことはやらない。やらなきゃいけないことは手短に。省エネ人生の基本だろ」

「その割りには随分とエネルギーを消耗しているようだけれど、その辺はどう考えているのかしら?」

「やらなきゃいけないことの規模がデカすぎる」

「…………嫌ならやめればいいのに」

 

 はっ?

 

「はっ? 今なんつった?」

 

 ユキノがポツリと零した言葉に、妙に反応してしまった。反応してしまえばもう遅い。口は勝手に動き出してしまう。

 

「嫌ならやめればいいのにって言ったのよ。毎回心配する方の身にもなって欲しいものだわ」

「ふざけんな。俺に大事なもんを失えっていうのかよ! いくら働きたくなくてもな! 大事なもんくらい、自分で護りたいって思うのが普通だろうが!」

「ふざけんなはこっちのセリフよ! どうしてあなたはいつもいつも自分を犠牲にするのよ! こっちだって毎度毎度ハラハラして眠れなくなるし! 悪夢になって出てくるのよ! クレセリアでも治すのに時間がかかるくらいのね!」

「だからってこの状況で何もしないわけにはいかないだろ! 俺はカロスポケモン協会のトップなんだ! お前らを護るのと同時にカロスも護らなきゃいけねぇんだよ!」

「知ってるわよ、それくらい! 私が言いたいのはもっと自分を気遣えってことよ! それと、いつ私たちが護ってなんて言ったのかしらっ? 粋がるのも大概にしなさい、このバカ! ボケナス! ハチマン!」

 

 珍しく喧嘩? 言い争い? をした。

 今まで溜まってたものが次々と吐き出されていく感じだ。俺も、ユキノも………。

 

「………何なんだよ、いきなり………」

 

 プンスカと踵を返して行ってしまう背中を見て、余計にわけが分からなくなってきた。

 

「ゆきのんは怖いんだよ、きっと。ずっと無茶するヒッキーを見て来てるから。あたしだって怖いよ。また記憶を失うかもしれないし、それだけじゃ済まなくて、一生会えなくなっちゃうかもしれない。ヒッキーが無茶する分だけ、よくないことが頭に過ぎるの」

「ユイ………」

 

 いつもならユキノを追いかけていくユイであるが、何故か今回は俺を正面から抱きしめてきた。

 柔らかくて温かい。

 次第に昂った感情も落ち着きを取り戻していく。

 

「………俺だって怖ぇよ」

「うん」

「俺だって怖いんだ。ユイやユキノやみんなが危険な目に遭うのは想像すらしたくない……………」

「うん、あたしも一緒だ」

「一人で無茶するなって言われても、それしか方法を知らないんだっ。どうしたってそういう思考になるし、咄嗟の判断なんかは尚更なんだよっ」

「でもヒッキーは変わったよ。ちゃんとみんなを巻き込むようになった」

 

 ぎゅーっと抱きしめられた。

 力は強いのに柔らかいから抱くない。

 なんというか、抑えが効かなくなっている。

 口から全部溜めていたものが漏れ出ていく感じだ。

 

「ただ、ヒッキーは知らないんだよ。みんなを巻き込むことが終わりじゃない。巻き込んだ上でちゃんとツラい時はツラいって言うことが大事なんだよ」

 

 いい、のか…………?

 俺が持ってくるような案件なんて命の危機にさらされることばっかなんだぞ。だから俺はその言葉を誰にも言えないし、言わなかったんだ。

 口したらみんなが協力してくれるのは分かっていた。

 けど、俺のはいつも規模が違いすぎる。

 だから俺は…………。

 

「………いつ狙われるか内心怯えて暮らすのはもうツラい。怖いし、寝れないし、もうわけが分からない」

 

 一度開いた口は塞がることを知らない。

 どんなに言わないようにしても制御できない。感情のままに、思っていなくとも心の奥底で溜まっていた言葉が次々と出てきてしまう。

 

「……助けて、くれ」

 

 終いにはこれだ。

 もう無理だ。ほんと、いろんな意味で助けてくれ。

 

「……うん! 今度はあたしたちが助ける番だ!」

 

 過去最高の締め付けで抱きしめられた。

 あれ………?

 なんか身体が軽くなってきたような…………。

 ふわふわしている気分だ。

 チルタリスにでも乗ってたっけ?

 

「だからね、今はしっかり回復してね」

 

 な、んだ………?

 急に、眠くなって………きた………………。

 

「待ってるよ、あたしのヒーロー」

 

 意識が段々薄れてきた。

 俺、どうしたんだ………………?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「こ、こは………」

 

 目を開けると知らない天井だった。

 シミ一つない綺麗な白い天井である。

 

「…………あ? 起きたし………」

 

 ん?

 誰かいるのか…………?

 

「アンタ、あーしのこと分かる?」

「………………ミ、ウラ?」

 

 この話し方。

 俺の知っている限りじゃ一人しかいない。

 ミウラユミコ。

 スクールの同級生であり、ユイの友達。

 ただ彼女はカントーへ帰ったはずだ。なのに何故ここにいるんだ?

 

「今回は記憶が飛んでるわけじゃなさそうだね」

「え? マジでミウラ?」

「それ以外に何に見えるし」

「あ、いや…………」

 

 いやほんと、何でいるのん?

 襲われたりしないよね?

 身体が動かないから何されても抵抗できないぞ。

 

「またアンタ、無理したらしいじゃん」

 

 他に声が上がることがない。

 となるとミウラ以外は誰もいないというわけか。ユイ辺りは徹夜で看病とかし出してもおかしくないし、いないということはそういうことなのだろう。

 

「……………仕方ない、だろ………。やらなきゃ、やられる相手だったんだから………………」

 

 くそ、寝たんだからしっかり回復しろよ、俺の身体! 

起き上がるので精一杯じゃねぇか。

 

「ちょ、まだ安静にしてろし!」

「ダメだ、俺は行かなきゃいけないんだ。ユイたちがいないってことは、まだ終わっちゃいないってことだろ。だったら…………」

「今のアンタが行っても邪魔になるだけだし…………」

「っ?! くそっ!」

 

 分かってる。分かってるさ。

 こんな身動きもまともに出来ない身体で戦場なんかへ行けば、足手まといにしかならない。

 そんなのは俺自身が嫌ってほど分かっている。

 けど、それでも!

 

「珍しいね、ヒキオがそういう顔するの」

「……………そういう顔って、どんな顔だよ」

 

 ベットに再び倒れ込んだ俺に、ミウラが真顔でそんなことを言ってきた。

 

「不安、焦り、恐怖、後悔…………、いろんな負の感情が詰まった顔」

「………………………」

 

 俺は今そんな顔をしているのか。

 確かにそうかもしれない。

 まだ終わってないという不安感。

 行かなきゃいけないという焦り。

 俺やあいつらが死ぬかもしれないという恐怖。

 もっと事前に対処出来たかもしれないという後悔。

 そんな感情が俺の中で渦巻いている。

 

「あーしもさ、やっとハヤトのそういう顔が見られるようになった。不謹慎だけど、嬉しいと思った。けどさ、同時に不安にもなる。また一人で抱え込むんじゃないかって」

 

 何でいきなりハヤマの話が始まるんだよ。

 あいつの近況報告なんて聞いても嬉しくないぞ。

 

「ハヤトは変わった。こっちからだけじゃなくて、あっちからも近づいてきてくれる。今まで我慢してたんだって気付かされた。ハヤトは好きでやっていたなんて言ってたけど、やっぱり根本にあるのはヒキオとユキノシタとの三角関係だって思えた。なんか、ようやくハヤトの素顔を見れたって感じ」

 

 ハヤマの素顔か。

 多分、あいつは既に素顔を見せていた。感情的に、直感的に動いて、動かされていた。その結果がこれだというなら、あいつにとってフレア団は殻を破るためのきっかけになったんだな。催眠術で操られて仲間を敵に回し、好意を抱く女にも拒絶されたが、そこだけはいい結果になったと言えるだろう。

 

「ありがとう」

 

 とハヤマについて考えていると、突然ミウラが深々と頭を下げてきた。

 な、何事?!

 

「……………ヒキオには感謝してる。ハヤトのこともユイのことも、イッシキのことも」

「はっ? 何でユイとイロハまで出て来るんだよ」

 

 お、おう………。

 ハヤマはまあ、分かった。

 ユイもまあ、友達だから? なんかあったってのとだろう。けど、イロハだけはさっぱりだ。君たち仲悪いんじゃねぇのかよ。

 

「………ユイは、さ。あーしらの中じゃ一人だけずっとトレーナーじゃなかったんだ。そのことにどこか遠慮みたいなものがあったみたいでさ。ずっと見えない壁みたいなものを作ってた。ユイ本人は気づいてないだろうし、そんなことを意図してやってたとも思えない。無意識、だったんだと思う」

 

 いわゆるコンプレックスってやつか。

 旅に出た当初は、確かにそんな感じだったかもしれない。半年以上前のことだし覚えちゃいないが。

 

「ユイがトレーナーになるって話も聞かされてなかったし、あーしらには距離感があるように感じられた。けど、ユイはアンタと旅をするようになってトレーナーとしての自信がついたみたいでさ、さっきなんか『あたし、行ってくる! ユミコはヒッキーのことお願い!』なんて言ってさ。迷いなんか全くない真っ直ぐな目をしてたよ」

 

 これが半年前ならばユイとミウラは立場が逆だったんだろうな。

 それかユイが行こうとしても誰かが止めに入ってたはずだ。俺とて止めた。今回だって、あまり前線に立たせたくはなかったくらいだ。

 いくら強くなったからといって、こっちの経験は少ないんだし、立ち回りも初心者だしな。

 でも、そうも言ってられない。

 今の俺たちには戦力が必要だし、ユイは何故かギラティナを捉えることができる。喉から手が出るほど欲しい戦力なのだ。

 

「……………そうか。けど、あいつが自信を持てるようになったことに俺は関係ない。何もしてないんだ。あいつに自信をつけてくれたのはシャラジムのコルニとコンコンブル博士なんだよ。あいつの潜在能力とやらを引き出して、切り札を作ってくれた。だから今まで護られる側にいたのに、先陣切って護る側に立とうとしてるんだ」

「………それでも、やっぱりヒキオの影響だし。ユイはアンタを目指して、ずっと何かをやっている。バトルだってアンタから得たものを全部自分のものにしようとしている。なかなか出来ないことだし………」

 

 ま、リーグ戦では驚かされたからな。

 まさか、俺の使ってる飛行技までものにするだけではなく、新しく取り入れて来たんだ。しかも俺も知っているネタを。

 それだけ見てもユイが俺の後を追っているのなんて疑いようがない。

 

「………それで? ユイのことは分かった。けど、イロハはさっぱりなんだが。あいつのことこそ、礼を言われるようなことなんて何もないと思うんだけど?」

 

 そもそも、イロハとミウラってハヤマを挟んだ三角関係みたいものだったろうに。

 

「あーしからしてみれば、ユイよりイッシキの方が重要だし」

「お前ってそんなにあいつのこと好きだったのか?」

「なっ?! す、好きとか、そういうんじゃないし! ただ、あの子はずっとハヤトじゃない誰かを見てた、気がする。なんてーの? ハヤトに詰め寄る時に、上っ面というか薄いというか、本気さを感じられなかったし」

 

 ペルシアンを睨み散らすキュウコンって感じだったが、それ以上に発展しなかったのはそこが要因みたいだな。

 まあ、ほとんど見たことないけどな。ハヤマに詰め寄るイロハなんて。

 

「アンタといる時のイッシキは、絶対に人前では見せないような顔を平気でしてる。腹黒さを全く隠す気もないし、素のあの子でいる。ハヤトにすら見せたことのない顔をしてた」

 

 腹黒さって言っちゃったよ。

 やだよ、そんなの俺に向けられても。

 ドロドロしたのとかごめん被りたい。

 

「ハヤトがさ、前に言ってたんだ。『もう一人のリザードン使いがいなくなってから、雰囲気が変わった』って」

「誰だよ、そのリザードン使いって」

「アンタ、それ本気で言ってる?」

「………やっぱり俺なのかよ」

「しかいないでしょ。あーしらの学年でリザードン連れてたのはハヤトとヒキオだけだし」

「へぇ」

 

 他人のポケモンには一切興味なかったからな。

 

「…………イッシキに連絡は取ったん? 四天王に負けて修行しに行ったって聞いたけど」

「いや、取ってない。取らなくても、分かる」

「………意味不明なんだけど。アンタ、超能力者?」

「どうだろうな」

 

 超能力者だったら、もっと先が見えて対処も出来ていただろうな。

 けど、俺にはそんな力はない。俺にあるのは優秀なポケモンたちがいるということと、大事な奴らがいるということくらいだ。

 

「ライ」

「………どうした、黒いの」

 

 ミウラと話していると、ぬっと黒いのが現れた。

 こいつも行かなかったのか。

 まあ、行けなかったの方が正しいな。

 

『クレセリアガチッタ』

 

 ポウっと鬼火を出したかと思うと、文字を浮き出し始めた。

 俺との会話でよく取る手段だが、いきなり何なんだろうか。

 

『オンナシンデ、クレセリアガイキカエラセタ』

 

 はっ?

 女死んで、クレセリアが生き返らせた?

 女って………。

 

「っ?!」

 

 クレセリアが身を投げ出すくらいの相手は自分のトレーナーくらいだろう。

 つまり、女っていうのはユキノのことか?!

 

「なあミウラ。これでも今の俺に戦うなっていうのか?」

「どういうこと?」

「ユキノが、死んだ……………そしてあいつを生き返らせるためにクレセリアが散りになった」

「ッ!?」

 

 話についていけていなかったミウラも、俺の通訳により事の次第を理解したようだ。

 

「アンタの周りって何でそんな危険だらけなんだし………」

「知るか」

「ハヤトは………」

「それこそ知るか。動揺してるんじゃねぇの?」

 

 今はどう思っているのかは知らないが、あいつが動揺しないとは思えない。逆に数少ない弱点ともいえるだろう。

 

「…………どうする気? ユキノシタだけじゃなくて、ユイやイッシキまで危険な目に合わせる気?」

「はっ、悪い冗談はやめろ。これでも腹わたが煮えくり返ってるんだ」

 

 イロハは既に布陣している。

 ユイもみんなと向かったっていうし、恐らく俺がいないことでできた戦力不足を総動員でカバーしようとしているのだろう。

 

「ライ………」

 

 そんなことを考えているとダークライが右手に黒い剣を作り出した。

 その刃先は俺に向けられている。

 

「………何の真似だ、ダークライ」

 

 スッと剣を構えるダークライに、俺もさすがに危険を感じてしまい、動きの鈍い身体を無理に動かし、ギギギッとベットから降りた。

 

『ワガチカラハ、スデニゲンカイニキテイル。ダカラ…………』

 

 ガクガクと両脚が震えている。

 バランスを崩すのも時間の問題だ。

 早く何かに捕まらなければ………。

 

『ココデ、サヨナラダ』

 

 だが視線は動かすことができなかった。

 そんなことよりももっと重要な、それでいて含みのある言葉が入ってきたからだ。

 

「おい、ダークーーーッ!!」

 

 咄嗟に制止をかけたが間に合わず、俺は黒い剣で胸を貫かれてしまった。

 

『アリガトウ』

 

 その言葉を残し、ダークライは黒いオーラに姿を変え、俺を呑み込んでいく。

 視界は真っ暗であり、突然のことで頭も追いついていないはずなのに、特に何の恐怖も抱かなかった。

 恐らく俺自身、頭のどこかで分かっていたのだろう。

 いずれ来る未来を俺は記憶の奥底にひた隠しにしていたに過ぎない。

 だが、これが現実だ。

 とうとう来てしまった現実なのだ。

 

「バカ野郎が………」

 

 黒いオーラは次第に俺の中へと消えていき、視界も元通りに戻って来た。

 

「…………何が、起きたし………?」

「…………薄々分かってはいた。俺の記憶が戻れば戻る程、あいつは空っぽになっていってたんだ。それでも俺に記憶を返してくれた」

 

 記憶があいつの力の根源。

 だけど、俺のために全てを俺に返してくれたのだ。代償が自分自身であるにも拘らず。

 

「…………アイツのためにも、俺は今度こそ決着をつけに行く」

 

 それがあいつへの恩返しだ。

 この力、無駄にしてたまるか。

 

「待つし」

「止めても無駄だぞ? 邪魔するなら例えお前でも斬る」

「そうじゃなくて! あーしも連れてけし!」

「………死ぬかもしれないぞ?」

「ハヤトが戦ってる。ユイも向かった。あーしだけここで待つとかありえないし! それに………」

 

 それに、何だよ。

 含みがあって怖いんだけど。

 

「ユイが『あたしに甘えてくるヒッキー、超可愛かっ「よし行こう、今すぐ行こう!」た』って………」

 

 くそ、あれは結局夢で片付けてくれなかったのかよ、ダークライ!

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