カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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36話

「よぉ、ギラティナ。半日ぶりだな。お前、何が目的だ? デオキシスか? それとも、俺か? いや、それを含めた世界か?」

 

 エンテイもスイクンも随分と疲労している。そろそろこいつらも交代してやらねぇとな。

 

「っと、危ねぇだろ。リザードン、もう一仕事だ! さっさと片付けるぞ!」

「シャアッ!!」

 

 悠長に状況確認すらさせてくれないギラティナさん、マジパネェっす。危うく真っ二つになるところだった。

 

「リザードン、トルネードドラゴンクロー!」

 

 リザードンから飛び降り、まずは挨拶代わりに竜の爪で攻撃させた。一発入ったがそれほどダメージには至っていない。

 

「リザードン、ソニックブーストで加速しろ! それからペンタグラムフォースで動きを止めるんだ!」

 

 リザードンは急加速後、巨体な五芒星を描くように何度もギラティナに挑んで行った。

 その間に態勢を確立しないとな。

 飛行隊はデオキシス相手に既に疲弊している。それはザイモクザも同じだ。今動けるのはイロハとハルノとメグリ先輩か。と言ってもイロハのポケモンはフライゴンとガブリアスが戦闘不能になっている。ハルノとメグリ先輩のポケモンは一旦回復と言っていたため、まだ戦闘不能にはなっていないと考えていいだろう。

 まあきのみとかで回復させてるって手もあるが、それは身体的な面だけだ。心の方は疲弊が残ったままであり、こういう戦いにおいてはそれが一番ネックになるだろう。身体は動くのに頭が処理できない、なんてことになれば呆然と立ち尽くすオブジェでしかない。そうなるとはっきり言って邪魔だ。戦うことも逃げることもできない、なのに助けなければならない。

 それをここにいる奴らは理解しているはずだ。こんな展開は二度目なのだから。あの時でさえ、無理に戦わせようとはしなかったしな。

 

「は、ハッチー。あたしたちも、戦う!」

「ユイ………?」

 

 振り向くとユイがルカリオと一緒にやって来た。

 ユイのエースは健在だったか。

 

「ゆきのんは、あたしを守って…………ぐずっ………だがらっ!」

「生きてるよ、あいつは」

「えっ………?」

「ユキノは生きてる。今はまだ意識が戻らないだけだ」

 

 ああ、そうか。

 ユキノはユイを守って………。

 ユキノにとってもユイは大切な存在だからな。自分の命を賭けてでも失いたくなかったんだろうな。

 

「戦えない奴はボールに戻しておけ」

「っ、うん!」

「ユキメノコ、ユキノを頼む」

「メノ!」

 

 ほんと、オーダイルとユキメノコは俺の言うことに従い過ぎだと思う。一瞬俺のポケモンだったっけってなるぞ。

 

「リザードン、エアキックターンからハイヨーヨー! オーダイル、アクアジェットで挟み込め!」

『キリキザン、つじぎり! アギルダー、こうそくいどう!』

 

 時間稼ぎにはなったが所詮それだけに過ぎないか。

 なら、一旦距離を取らせよう。

 

「サブレ、マロン、クッキー、ショコラ、ありがとね。ゆっくり休んでて」

 

 この四体は既に戦闘不能になっていたようだ。サブレも最後は気力で保っていたようなもんだしな。

 手伝ってくれてありがとな。

 

「マーブル、あなたはユキメノコといて。デオキシスのふういんが解けないように頑張って」

 

 取り敢えず今の戦力はイロハとハルノとメグリ先輩とユイか。ミウラには防御に徹しろって言ってあるし、ハヤマやコマチのポケモンは全員戦闘不能状態のようだし、戦力としては数えられないな。

 

「リザードン、ブラスタロールで躱せ! オーダイル、れいとうビームで翼を凍らせろ!」

『キリキザン、アギルダー! 翼を狙え!』

「シュウ、あたしたちもいくよ!」

「ルガッ!」

「メガシンカ!」

 

 リザードンがギラティナを誘き寄せ、オーダイルたちが攻撃していく。だが、移動のために羽ばたく翼の一風により掻き消されてします。一応直接攻撃は通るみたいだな。

 その間にユイはルカリオをメガシンカさせた。

 なんかこうして見るとユイもとうとうメガシンカを使えるようになったんだなと感慨深くなってくる。そう感傷に浸ってる場合じゃないんだけど。

 

「ユイさん、警護はあたしがやるから。そっちに集中してて」

「あ、ありがとっ、コルニちゃん!」

 

 あ、コルニも戦力として数えてやるべきだったな。まあ、いいか。ボロボロだし。

 

「シュウ、あたしを使って!」

 

 ユイはルカリオと向き合うと両手を広げて抱擁のポーズを取った。それにルカリオは右腕を差し出し、ゆっくりと引いていく。すると金色の長い骨が出てきた。

 

「くそ、消えやがった。シャドーダイブか」

 

 突然ギラティナが姿を消した。またシャドーダイブだろう。

 

「リザードン、どこから来るか分からんぞ! 空気の流れを読め!」

「シュウ!」

 

 ルカリオは何を思ったのか後ろを振り向くと何もないところへ黒い影弾を放った。すると空気が揺らめいた。

 

「ッ、左後方上空70度! シャドークロー!」

 

 ルカリオのおかげで攻撃される前に見つけることが出来た。そういやルカリオはギラティナの位置が分かるとか昼間言ってたな。実際に反応して見せていたし。

 

『リザードンに続け! キリキザン、ヒトツキ! つじぎり!』

 

 影による爪撃は消えたギラティナを捉えた。段々と色濃くなる夜空にキリキザンとゲッコウガが追撃を加えていく。

 

「かえんほうしゃで距離を取れ!」

 

 あまり長居してもそれだけ反撃を受ける可能性が高くなるため、即離脱させた。ゲッコウガたちも一撃加えてそのまま通り過ぎていき、次の攻撃の警戒を強めた。

 

「ッ、リザードン、躱せ!」

 

 ギラティナは距離を取るために使った炎を竜を模した波導で押し返して来た。速度はおよそ二倍。

 

「トルネードドラゴンクロー!」

「シュウ、はどうだんで相殺して!」

 

 残弾はユイに任せよう。

 俺たちは今のうちに攻撃だ。

 

『アギルダー、バトンタッチ!』

 

 ゲッコウガがアギルダーとタッチした瞬間、ゲッコウガが消えた。

 はっ?

 まさかあいつシャドーダイブ使えるようになったとか?

 いやいやいや、それは流石に………さすがに…………ゲッコウガだしなー。

 

『ヒトツキ、シャドークロー!』

 

 うん、単に物凄く速くなっただけだったわ。

 ちょっと焦った。ゲッコウガだしやり兼ねないだもん。

 

「バンギラス、ストーンエッジ! メタグロス、コメットパンチ!」

「エンペルト、グレイシア! れいとうビーム!」

 

 おっと、二人とも戻ってきたか。

 こっちも旋回して追撃に移そう。

 

「リザードン、ハイヨーヨーからのもう一度ドラゴンクローだ!」

 

 俺の指令に移すためかギラティナを蹴り、距離を取ってから上昇していった。

 あいつ、ギラティナに恨みでもあるのか?

 いやないこともないか。折角平和に暮らしてたのにいきなり出てきて襲いかかって来たんだもんな。しかもデオキシスと戦ってる最中に。それで暴走だろ? そりゃ恨みもするわ。

 

「ハチマン! スイクンとエンテイ、回復させといたよ!」

 

 おお、それはありがたい。いつの間にそんなことしてたんだ。休ませるつもりではあったけど回復まで俺の手は回せなかったし、ほんとにちょっと休憩のつもりだったんだがな。

 これは嬉しい誤算だ。

 

「ルミ、コマチ! お前ら、まだいけるかっ?」

「コマチはキーくんなら!」

「私はオニゴーリだけ!」

「ならお前らはジュカインと交代してデオキシスを見張っててくれ!」

「「分かった!」」

 

 取り敢えず、ジュカインを戻して………次は…………。

 

「ユキメノコ、ユキノのキーストーンを貸してくれ!」

 

 今の俺では出来ないかもしれないがやるしかない。無茶をしなけりゃ勝てない相手なのだ。それに時間だけが過ぎ、全員疲弊しきっている。そろそろ決めにいかないと。

 

「メノメノ」

「サンキュー、ユキメノコ」

 

 ユキノのキーストーンを持って来てくれたユキメノコの頭を撫で、再び目を覚まさないユキノの警護へと就かせた。

 

「カイ!」

「ジュカイン、頼むぞ」

 

 コマチたちと交代し、俺のところに戻ってきたジュカインにキーストーンを見せると意図を理解してくれたみたい。

 なら早速やりますか。

 

「ジュカイン、メガシンカ!」

 

 ユキノのキーストーンとジュカインのメガストーンが共鳴し、ジュカインが白い光に包まれた。

 今のところ俺の方への負荷はかかっていない。だが油断は禁物だ。

 

「まずはなやみのタネを自分に使え」

「カイ」

 

 メガジュカインの特性はひらいしん。でんきタイプの技を全て引きつけてしまう。普通のバトルではそれでもいいのだが、今回に限ってはマイナスでしかない。

 さすがにレールガンを引き寄せてしまっては意味がないからな。

 

「こうそくいどうからのドラゴンクロー!」

 

 俺が命令を出すと地面を蹴り上げ、ゲッコウガの方まで一瞬でジャンプしていった。二人は視線を交わすとゲッコウガの方がみずしゅりけんを投げ、それを足場にジュカインが加速し、そのままギラティナへと斬りかかった。

 

「スイクン、オーロラビーム!」

 

 ジュカインに向いた意識を今度はスイクンで上書きしていく。その間にジュカインは距離を取り、走るエンテイに着地。

 

「ジュカイン、足下を狙え!」

「カイ!」

 

 エンテイが走りながらだいもんじで壁を作り防御に徹し、ジュカインを乗せてギラティナへと近づいていく。

 

「フシギバナ、つるのムチ!」

「メタグロス、サイコキネシス!」

 

 ハルノとメグリ先輩はギラティナの動きを封じにかかった。今のうちに攻撃しろってことだろう。

 

「リザードン、ペンタグラムフォース!」

『ヒトツキ、キリキザン! つじきり! アギルダー、はたきおとす!』

 

 リザードンは五芒星、ゲッコウガたちはあくタイプの技で弱点を突きながらダメージを加えていく。

 

「エンペルト、グレイシア! れいとうビーム!」

「バンギラス、ストーンエッジ! ハガネール、かみくだく!」

「デンリュウ、りゅうのはどう!」

 

 ようやく動きが安定してきたな。これならいけるか…………?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 くそっ、ダメだ。

 かれこれ十五分は同じことーー動きを止めては攻撃ーーを繰り返している。このままでは先にこっちがやられてしまう。

 何か、何か決定打となる攻撃が欲しい。

 効果抜群技、究極技、一撃必殺…………。効果抜群の技は既に使っている。一撃必殺はギラティナの方が格上だ。となると究極技。それも同時に、集中的に狙う奴。今使えるのはリザードン、オーダイル、ジュカイン、ゲッコウガ、マフォクシー、カメックス、フシギバナ、エンペルト………。ユイのブリガロンは戦えないし、コマチのカメックスも戦闘不能だ。あとは………ハヤマのリザードンは使えるのだろうか。いや使えたとしても草が足りないな。ドーブルが使えたが…………無理だろうな。下手に戦わせてデオキシスのふういんを解かせてしまっては最初からやり直しだ。というか水だけ多くないか? 俺たちの編成偏りすぎだろ。

 

「サーナイト、メタモン! サイコキネシス!」

「ッ!」

 

 いるじゃねぇか、メタモンが。

 

「ハヤマ! リザードンはまだいけるかっ?」

「………何か策があるのかい?」

「お前のリザードンが究極技を使えるかどうかによる」

「見くびらないで欲しいものだね。これでも君に勝つために色々試しているんだ。当然究極技も習得済みさ」

「なら手伝え。イロハ! お前はでんじほう! ハルノはハイドロカノン! メグリ先輩はハードプラントを! それとメタモンをフシギバナに!」

「分かったわ!」

「分かったよ!」

「分かりました!」

 

 これでくさ、ほのお、みずに加えでんきタイプも揃う。後はタイミングを合わせて集中攻撃に移すだけ。

 

『ヒトツキ、ラスターカノン!』

「ゲッコウガっ!」

『オレが相手する。その間にハチの指示をこなせ!』

「うん!」

『ボルケニオン、手を貸せ』

 

 ただその準備というのが割と大変だ。なんせこんな戦場で移動するんだからな。必要人材を必要な場所に集まるというのも一仕事である。それにその移動中のヘイト稼ぎも必要だ。集めたけどそこで全員やられましたじゃ意味がない。

 それをイロハのところはゲッコウガたちが引き受けるようだ。ならハルノのところにはスイクンを、メグリ先輩のところにはエンテイを行かせよう。こっちはどうとでもなる。

 

「スイクン、お前はハルノを。エンテイ、お前はメグリ先輩を頼む」

 

 二体は首肯するとそれぞれのところへと向かった。

 さて、あとは………ほのおタイプを集めるとするか。

 

「リザードン、マフォクシー、こっちに来い!」

 

 攻撃陣にいたリザードンとマフォクシーを呼び戻し、ハヤマのリザードンと並ばせた。他も隊列は整っているようだ。

 こうしてみると圧巻だな。迫力が凄まじい。

 

「ユイ、これから一斉攻撃を仕掛ける。これのキーマンはルカリオだ。次にギラティナが消えたら真っ先に場所の特定をさせてほしい。できるか?」

「任せて!」

 

 緊張を隠しきれていないユイの頭を撫でるとそれも消えていった。全く、頑張り屋なのも考えものだな。可愛すぎるじゃないか。

 

「コルニ」

「な、なに?」

「ちょっとの間、お前らも時間稼ぎに付き合ってくれ」

「い、いいけど。邪魔にならない?」

 

 こっちはユイ以上に緊張してるな。

 

「邪魔どころか手が足りないくらいだ。それに、お前も負けたくないんだろ?」

「それは、そうだけど」

「………何だよ、怖くなったのか?」

「こ、怖くなんかないし!」

「アホ、俺は普通に怖いわ」

「えー………」

 

 何だよ、普通に怖いだろ。相手はあのギラティナだぞ?

 しかもお前らが殺されるかもしれんわ、かといって俺たちだけじゃ戦略が足りないわ、その俺たちもいつ暴走するか分からないわでハラハラドキドキだっつの。心臓がずっとうるさいままだわ。

 

「だからまあ、怖いと思うのは普通だから安心しろ」

「………そこは俺が守るから安心しろとか言うところじゃ」

「俺だぞ?」

「そりゃそうだけど」

 

 俺だという理由だけで納得されちゃったよ。

 それはそれで悲しいかな。

 でも事実だし。

 

「さて、一発やりますか。ルカリオ、お前が使える技ではギラティナに攻撃できない。だから新しい技でいくぞ」

「ガウ?」

「まあ俺の言う通りにしてみてくれ」

「ガウ」

 

 久々にアレやりますか。

 

「まずは波導を感じろ」

「……何するの?」

「その中の竜気だけを意識するんだ」

「え、ちょ………」

「あったか? なら今度は竜気を竜の形に練り上げていけ」

「ま、まさか………」

「………放て!」

 

 ルカリオは上手くりゅうのはどうを発動できたみたいだ。ちょっと形は歪で勢いが足りないが初めてにしては上出来だな。

 ついでに俺もそれに合わせて黒いオーラーーあくのはどうを撃った。

 

『なるほど』

 

 空ではゲッコウガがそれに反応してみずのはどうを合わせてきやがった。あいつ、ほんとこういうの好きだよな。

 結果として三種類の波導がギラティナへと飛んでいった。

 

「りゅうのはどう………」

「ルカリオ、今の感覚を覚えておけ」

「ガウ」

「こんな時でも新しく覚えさせちゃうんだ………」

「こんな時だからこそだ。手がないなら自分で作るしかない。例え戦場だろうが打開策になるなら覚えさせるぞ」

 

 ッ!?

 来たか。

 ルカリオの一撃がギラティナの注意を引いたようだな。

 

「ユイ!」

「シュウ、ギラティナの方へ骨を投げて!」

 

 消えたギラティナに対して、ユイのルカリオは意識を集中させ感じたところへと骨を投げた。

 骨は丁度俺たちの頭上で何かに当たり、空気が歪んでいく。

 そこか!

 

「デンリュウ、ヤドキング、ラプラス! レールガン!」

「フシギバナ、メタモン、ジュカイン! ハードプラント!」

「カメックス、オーダイル、エンペルト! ハイドロカノン!」

「リザードン、マフォクシー! ブラストバーン!」

「リザ、ブラストバーン!」

 

 でんき、くさ、みず、ほのおタイプによる高威力の集中攻撃。今のメンツでこれ以上ない威力のはずだ。だから畳み掛けるなら今なのだろう。

 

「いくぞ、リザードン! リミットブレイク!」

 

 究極技を撃ってすぐだしそもそも本来は使いたくない力ではあるが、今ここで決まるのであれば暴走する前に終えられる。反転世界の神とされる伝説の中でも伝説には同じ伝説ポケモンを、それも数体充てがう必要がある。それがギラティナというポケモンだ。

 

「あおいほのお!」

 

 リザードンからレシラムへと姿を変え、メガシンカ時の蒼い炎をそのままにギラティナへと走らせた。究極技と超電磁砲をさらに押し込む形で包み込み、技同士を暴発させ反撃の隙すら埋め尽くしていく。

 

「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 だが、ギラティナは、耐えてみせた。

 しかも白い光に包まれて。

 

「は………っ?」

 

 嘘っ…………だろ…………………。

 あれだけの攻撃を耐えたとかあおいほのおですら効かなかったとかそういうのは折り込み済みだ。それよりも…………。

 

「何で、姿が変わってんだよ…………」

 

 今までは脚が六本で翼が二枚の陸上生物系だったのに、何故か全体的にトゲトゲしい姿に変化した。脚も全て尖り、翼は六枚に分かれている。

 これはあっちの世界での姿だ。ギラティナ本来の姿と言ってもいい。あっちの世界では常に飛んでいる。しかも攻撃力が高く、一撃で伸される可能性もある程。

 

「全員気をつけーーー」

「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 打ち上げ花火…………りゅうせいぐんかっ!?

 

「ッ、レシラム、だいもんじ!」

 

 大量の流星が降り注ぐ寸前、大の字の炎を黒いオーラで覆い円形の壁を作った。だが、それは俺たちのところへの攻撃に対してだけだ。他の奴らへの攻撃まで防げていない。守れたのは俺の側にいたユイとコルニだけである。

 

「………ボル、ケニオン」

「ハルさん、大丈夫………ですから」

「え、ええ、何とかね。でもみんな、もう戦えそうに、ないわ…………ッ」

「わたし、もです、…………」

「ハヤト………ッ!」

「………ユミコ、間に合って、よかった、よ………」

「ハヤト、しっかりしろし! 今手当てして」

「ユミコ、まだ終わってない…………から」

「何バカなこと言ってんの! アンタ、それじゃ死ぬよ!」

 

 くそっ、今のでかなりやられてしまったかっ。イロハはあの紅いポケモンが守ってくれたおかけで何とかなっているが、他は散々な状態。あのハルノでも今のは不意打ち過ぎたらしい。少し離れていたコマチたちでさえ泥だらけである。オノンドが咄嗟に進化してオノノクスになり守ったようだが、死んでないのが奇跡と言っていいくらいだ。

 

『心配ない。気を失っているだけだ』

 

 ゲッコウガが紅いポケモンの様子を伺い、イロハへと安否を伝えた。生きているなら一安心だな。イロハも安堵の息を吐いているし。

 

「………ははは、ユミコは心配性だな」

 

 ハヤマ、お前はまだやる気なのか。恐らくこの中で一番重傷だぞ。

 

「ったく、ハヤマ。お前は全員を安全な場所に避難させろ」

「ヒキガヤ………」

「時間がない。早くしろ!」

「っ、すまない。絶対に死なないでくれよ!」

 

 死。

 ハヤマも今ので死を感じてしまったらしい。

 いつもはどこか達観した、全てを知っているような振る舞いをするハヤマハヤトでさえ、恐怖には抗えないようだ。

 まあそれは仕方のないことでもある。相手はあのギラティナだ。一番死に近く一番死のイメージをしやすい。「死」や「恐怖」そのものと言ってもいいだろう。

 それとなハヤマ。死にそうなのはどっちだよ。お前の方が血だらけなんだぞ。

 

『キリキザン、アギルダー、今は休んでろ。あとはこいつがやる』

 

 ゲッコウガの方もあいつ以外は一旦離脱か。だがまだ一体いるようだ。

 

「レシラム、全員の避難が終わるまでヘイト稼ぎを頼む。エンテイ、戻れ」

 

 もうほとんど戦力が残っていない。エンテイもスイクンもやられてしまった。捕獲しておいてよかったと改めて思う。ボールに入れていなければエンテイもスイクンも回収ができず、さらなる追い討ちを受け、最悪に死においやってしまっていたかもしれないのだ。

 

「マフォクシー、サイコキネシスでギラティナの動きを止めてくれ」

 

 ヘイトを稼ぐリザードンのために、少しでも追いつかれないようマフォクシーにサポートを頼んだ。

 

「ヒキガヤ!」

 

 全員避難出来たか………。怪我の応急手当ても各々始めたようだし。

 さて、ここからどうするか。

 

「ッ?!」

 

 ここで消えるんじゃねぇよ!

 

「レシラム!」

「レィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」

 

 レシラムも雄叫びを上げながら無理矢理身体を捻り、これまでの動きくら推測して何もないところへと飛んでいく。

 だが思ったより早く姿を現し、竜の爪を突き刺してきた。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 負けじとこちらも竜の爪で応戦。

 だが、返せない…………。

 どうする…………。本来ならカウンターで返せるのにギラティナには効果がない。かえんほうしゃでは火力不足。かといってブラストバーンでも押しが足りなかった。あれは三位一体だからこそ何とかなっていただけ。ならばレシラムが使えるあおいほのおか? いや、あれはそういう技じゃない。くそっ、今の状態では一番使いたくないのにやはりあの技を使うしかないのか………?

 

「ダメッ! 逃げて!」

 

 ギラティナが口を開いた。

 くそッ! 迷ってる暇はないってか!

 

「レシラム、げきりん!」

 

 一番暴走しやすそうな技が唯一確実に返せる技になるとは………。

 こうなったら短期決戦だ。

 今動けるのはマフォクシーとゲッコウガたちだけだろう。

 

「マフォクシー、ギラティナの動きを止めろ! サイコキネシス!」

 

 ふと、何故かサカキたちの方へと目がいってしまった。

 ………そういえば俺はさっきスピアーにさいみんじゅつを使い操ったな。上手く成功してたし、今の俺はさいみんじゅつも使えるということだ。

 なら………。

 

「あ、オイ、エレキブル!」

「フーディン!?」

「………お前たち、どこへ」

 

 汚い手だがそんなことを言っていられる状況じゃない。ポケモンたちには申し訳ないが付き合ってもらうぞ。

 

「スピアー、ニドキング、パルシェン、エレキブル、フーディンか」

 

 思い出せ。

 こいつらが使ってきた技を思い出すんだ。

 

「フーディン、重ね掛けだ! サイコキネシス!」

 

 ナツメのポケモン全員が覚えている技。

 

「ニドキング、がんせきふうじ!」

 

 じわれを叩き込まれた時に何度も使われた技。

 

「パルシェン、れいとうビーム!」

 

 あまりバトルには参加しないが、それでも使ったところを見たことがある数少ない技。

 

「エレキブル、押し返せ! ワイルドボルト!」

 

 初のジム戦で挑んだクチバジムでエレブーの時に使ってきた技。

 

「スピアー、ダブルニードル!」

 

 そしてサカキのスピアーの代名詞と言っていい技。

 

『そろそろお前も手伝えハクリュー!』

「みゅうみゅう!」

 

 ゲッコウガも追撃へと動いてくれた。

 ただ、ハクリューが姿を変えたのだが、理由を詮索している暇もないか。

 

『つじぎり!』

 

 二体のゲッコウガが黒い手刀で追い討ちをかけた。

 

『しまっ!?』

 

 技を打ち込んだはずのゲッコウガが驚愕の声を出し、レシラムの方へと駆け出した。

 

「レィィィイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!」

 

 と、突如レシラムが吠え、突き上げられた。地面からは黒い爪が飛び出ている。

 ………シャドークローかッ!

 

「レシラ……ぐぅッ!?」

 

 やべぇ。

 とうとう来やがった。

 力の制御が出来ねぇ。

 

「あ……く……、ぐあああああああっ?!」

 

 脳が焼ける!

 いきなり過ぎて抑え込む力すら入らねぇ!

 俺、今度こそ死ぬぞこれ!

 

「ヒッキー?!」

「先輩!?」

「お兄ちゃん!」

「ハチマン!?」

 

 くそっ、今ここで呑まれるわけにはいかないんだっつの!

 

「がッ?!」

 

 か、はっ…………息が……………。

 それに、痛い………ッ。

 

「………え、ゆき………のん?」

 

 ………な、んだ…………何が………?

 冷たい………?

 水………なのか?

 てことは海に落ちたのか………?

 てか突き飛ばされたってことか?

 くそ、何も見えない。何も聞こえない。

 ただ冷たいと感じるだけだ………。

 ………また、俺は失敗した、のか…………?

 俺を選んでくれたリザードンをまた助けられないのか………?

 何が元チャンピオンだよ。何が忠犬ハチ公だよ。力の前では何もできないじゃないか。

 クソったれが!

 何だっていつも俺の邪魔ばかりするんだよ!

 力ってのはこんな時にこそ使うもんだろうが!

 それが何でピンチをさらにピンチにして引っ掻き回すんだよ!

 俺たちに死ねってかっ!

 ふざけるなっ!!

 俺にはまだやることがたくさん残ってるんだ!

 リザードンだってまだまだやりたいことがあるはずだっ!

 俺はリザードンのトレーナーなんだぞ!

 あいつのやりたいことを叶えてやるのがトレーナーってもんだろうがっ!

 だからこんなところで、こんなところで負けてたまるかっつのっ!!

 動けよ俺の身体!

 動いて足掻けよ!

 カッコいいのとかいらねぇんだよ!

 俺は所詮俺なんだ!

 どんなに力を持っていようが俺であることに変わりねぇんだよ!

 ボッチを愛し、人の裏を読んでーーー

 

 ーーー人の子よ。我の声が聞こえるか。

 

 あ? 誰だよ、テメェ。

 

 ーーー我は我だ。

 

 分かるわけねぇだろ。

 

 ーーーいや、知っているはずだ。我はずっとお前とともにいたのだからな。

 

 はっ? ずっと?

 

 ーーーああ、ずっとだ。お前が人の子であった時のことも兵器であった時のことも全て見てきた。

 

 ストーカーかよ。

 

 ーーーストーカー………。言い得て妙だな。強ち間違いではない。お前は昔から我をそう認識してきたのだからな。

 

 ますます分からん。

 

 ーーーまあいい。人の子よ、今一度問おう。お前は何者だ? 人の子か? それとも兵器か?

 

 はっ? そんなもん決まって………。

 

 ーーーなら何故お前の目の前には人の子がいる? 何故庇う? 何故捨てない?

 

 それは………。

 

 ーーー受け容れたのではなかったのか? 人の善意を。人の好意を。

 

 う、受け容れたに決まってるだろ。俺はあいつらが大切だ。失いたくないと心から………。

 

 ーーーなら何故そんなに焦っている。何故そんなに戸惑っている。

 

 知るか! お前がわけの分からん話をするから恐怖で怯えてるんだよ!

 

 ーーーそれは本当に我に対してか?

 

 ッ?!

 

 ーーー人の子よ。いい加減目を逸らさず現実を見よ。変化に戸惑うな。受け容れろ。さすればそれがお前のーーー

 

 

『大好きですよ、せーんぱいっ!』

 

 イロハは変わった後輩だ。普通なら俺のような人間に見向きもせず、それこそハヤマのような奴らといるのが当たり前。なのに卒業前の数日しか接していないのに俺のことを覚えていた。繋がりなんてその数日間だけで卒業試験の時にたまたま助けて、綺麗な石ーー今イロハが持っているキーストーンーーをあげたくらいだ。それだけで俺のことを覚えているとか普通ならあり得ないだろう。ましてや好意を持ってくれているなんて、想像すらしなかった。

 

『たまにはお姉さんに甘えてくれてもいいんだぞっ☆』

 

 ハルノはチグハグな女性だ。チャンピオンに上り詰める強さや気高さを持つ反面、かつて自分の興味本意で作った計画のせいで、俺たちの人生を壊したと思い込んでしまった。諸悪の根源はサカキたちロケット団であり、ハルノには何の責任もないというのに。ユキノシタの長女としての仮面の内側に全てを閉じ込めてまで自分を犠牲にし、最愛の妹すら利用して俺を助けようとしてくれていたのだ。

 

『これだからごみぃちゃんは。手のかかる兄を持つと大変だよ』

 

 コマチはずっと俺の心の支えだった。記憶が失くなっていく中、唯一消えることのないコマチとの思い出は、俺が俺であり続けるための最後の砦だったと言っていい。時にはコマチの元へ帰るため、時にはコマチを護るため、何かにつけてコマチを理由にすることで俺は今日まで生き抜いて来られた。

 

『ハッチー、だーいすきっ!』

 

 ユイは俺がスクールに入って初めて話しかけて友達になった奴だ。今ならそのことをしっかり思い出せる。学年が上がるにつれて徐々に回りと距離を置くようになってからも、ずっと俺のことを気にかけてくれていた。あまつさえその記憶すら失くしてしまったというのに、ユイはずっと俺を見てくれていたのだ。こんな俺には勿体ないくらい優しく、それでいて力強い。だから俺はそんな彼女の笑顔を護りたい。俺を好きだと言ってくれたその笑顔を崩させたくはない。

 

 

 ーーー我にも気を向けてくれる奴がいる。素直じゃないが。我をお前とするならば、其奴はお前の目の前にいる人の子なのだろうなーーー

 

 はっ?

 何言って………ユキ……ノ……………?

 

「んむっ!?」

 

 いきなり唇を奪われた。

 見開いた目に映ったのはボヤけたユキノのシルエットで、熱を感じる。まわりが冷たいから余計に熱い。

 

 ーーーハチマン、あなたは独りじゃないわ。最初はコマチさん。それからリザードン。そして私。あなたはもう色んな人やポケモンたちに囲まれているわ。そしてみんないつでも側にいるわ。だから、早く戻って来なさい!

 

 そう言われているような気がした。

 ユキノは………、本当にバカな奴だ。俺がオーダイルの暴走を止めただけで、先に卒業した俺を探し、身の丈に合わない危険なところにまで来やがった。姉には利用されサカキにも利用され、全ては俺が関係しているのに嫌な顔一つしない。俺が全ての記憶を失くしたところを目の当たりにしても、やはり俺の行くところにいる。そしてまた事件に巻き込まれる始末。バカを通り越してただの大バカ野郎だ。

 それだけじゃない。ヒラツカ先生や色んな人が俺を気にかけてくれていた。こんな、黒く染まってしまった俺のことを。

 ーーああ、俺は逃げてたのか。記憶を取り戻す度に知らず知らずこいつらを巻き込まないようにと、言葉と心を乖離して。

 その結果がこれだ。周りの奴らを巻き込まないようにしたところで結局は傷付けちまうんだ。

 だから俺はこうして傷付けないためにも、それで俺が傷付かないためにも人と関わろうとしなかった。傷つくのは俺一人だけでいいと、いや俺はこんなことで傷つかないと自分に言い聞かせて。

 けど、それももう俺には取れない手段になっちまってたんだ。俺はこいつらなしには生きられない。それこそ、兵器にはなれないのだ。

 

 ーーだったら、どうせ傷付けちまうのなら、一緒に傷付こう。

 

「んむっ!?」

 

 今度は俺の方からユキノの唇を奪ってやった。

 ようやく冷静になって来た気がする。

 ああ、そうか。結局原因は俺にあったんだな。自分をさながら兵器と揶揄し、蔑み、忌み嫌い、人を遠ざけて。なのに、一方ではユキノたちを受け容れたと頭では言い聞かせ、身体も言葉もそれに従い。ただ心だけがずっと揺らいでいたんだ。そこを突かれて力に呑まれた。反応こそリザードンに出たものの、呑まれたのは俺の方だ。

 

「ぼんばびばばぼぼびびばべべばばぶばっ!(こんな力如きに負けてたまるかっ!)」

 

 水中で吠えても何言ってるのかさっぱりだな。

 そんなどうでもいいことを発見しながら黒いオーラで俺たちを包み込み一気に上昇した。

 ザバンッ! と水が弾ける音がし、前髪が目にかかった。それを左手でかき上げ視界を取り戻す。

 どれだけ海の中にいたのだろうか。まあ、俺が息を止めていられるのなんて一分もない。そんな些細な時間にギラティナはさらに戦況を悪化させていた。逆にキスを二度もして息が続いた方がおかしいと思うくらいだ。だがそれはダークライの力のおかげで半ポケモンになっているからということにしておこう。

 

「………あなたもダークライに力をもらっていたのね」

「ああ」

「その力使い切るのよね」

「当たり前だ。あいつがその身を代償にくれたんだ。存分に使ってやらねぇと失礼だろ」

「なら、私も使い切ってあげるわ」

 

 ユキノもクレセリアから力をもらっていたからあれだけしても息ぐ続いてたんだろうな。

 

「こっち向きなさい」

「ん? んむ!?」

 

 またですか。

 あなたキス好き過ぎない?

 力の関係上、仕方がないことではあるけど。

 

「うおっ?!」

 

 なんか急に黒いオーラが活性化した。

 これは………?

 

「てだすけって技よ。それとつきのひかり。キスをすることであなたも対象になるの」

「繋がってるからってか。エロいな」

「バカなこと言ってないでさっさと片付けなさい」

「はいはい」

 

 つい顔がにやけてしまう。

 やっぱり俺は昔からどこかでユキノのことが好きだったのだろう。暴走したオーダイルを止めたのも然り、シャドーで助けたのも然り、その後も何度も助けて。関係ない奴を助ける程昔の俺は優しくないし、余裕があったわけじゃない。だから、そういうことなのだろう。

 

「ぬぅ、なんだゾ! どいつもこいつも役立たずばかりなのだゾ! こうなったらお前たちだけでも殺すのだっ!」

 

 あいつ………。

 声のする方を見るとクセロシキが拳銃型の何かを取り出し、俺たちに向けて撃ってきた。傍にはサカキがニヤついている。

 あいつ、何か吹き込んだだろ。

 全くバカにも程がある。今の俺たちは普通じゃない。他の奴らを狙うならまだしも、俺たちを狙ったところでその程度の代物じゃ意味がないと思うぞ。しかもサカキに乗せられてまで。

 

『させると思ってるのか?』

「ぐぁぁぁあああああああっっ!!!」

 

 左手を前にかざしたところで、先にゲッコウガが真っ二つにしてしまった。そしてそのまま俺たちの横に降り立ち、両手を払った。腰には一丁前にモンスターボールの付いたベルトを巻いている。

 当のクセロシキはヘルガーに焼かれた。死にそうで死なない、意識すら失わない程度に。

 

「よぉ、ゲッコウガ。随分と人間らしくなったじゃねぇの」

『ふん、この方が便利だからな』

「ま、俺は別にお前の好きにしてくれて構わないんだが」

『………それで、どうするつもりだ?』

「今のお前なら俺が考えていることくらい分かるんじゃねぇの?」

『ただの確認だ。来い、ハクリュー!』

「みゅうー」

 

 ……………おいちょっと待て。

 今なんつった?

 ハクリューだと?

 俺には全く別の奴の気を感じるんだが。

 

「ハクリューって、そいつ仲間にしたのか?」

『見た目はな』

「どういうことだよ」

『それこそ今のハチなら分かるだろ』

「だからどういうことかって聞いてるんだろ」

『ただ懐かれただけだ』

「そうかよ。まあ、何でもいい。リザードン!」

 

 うん、もう何でもいいよ、お前は。今更過ぎて言葉もないわ。

 だって、このハクリュー………。

 

『キリキザン、アギルダー。そのまま引きつけといてくれ!』

「メガシンカ!」

 

 俺が海に落ちている間に解けていたメガシンカ。それを再度使用した。キーストーンとリザードンの持つリザードナイトXが共鳴し結び合っていく。何気に今までとは光の量が全く違う。目が痛いくらいまでに眩しい。

 

『さて、ハチ』

「ああ、一発叩き込むぞ」

 

 ゲッコウガは既に俺の考えが分かっているようだ。というか同じことを考えているのだろう。

 

「リザードン!」

『ミュウ!』

 

 そのためのミュウなのだろうから。

 

「リミットブレイク!」

『へんしん!』

 

 リザードンは白い竜に。ミュウは黒い竜へと姿を変えた。レシラムとゼクロム。対をなす二体の伝説のポケモンである。

 

「クロスフレイム!」

『クロスサンダー!』

 

 レシラムとゼクロムの特殊な技。文献で読んだだけだが、交互に撃ちつければ威力が上がるらしい。

 

「リザードン、この力を全部捨てる勢いでやってやれ! あおいほのお!」

 

 今まではこの姿の時にはリザードンをレシラムと呼んでいた。見た目がそうだし、イレギュラー進化でレシラムになるもんだと思っていた。

 だがそれは違ったのだ。リザードンはリザードン。姿が変わろうがあいつは変わらない。その小さな一つが制御出来ない所以だったのだろう。

 

『ミュウ、らいげき!』

 

 リザードンは綺麗な青白い炎を、ミュウは雷を纏いその炎の中へと突っ込んでいく。掛け合わせてギラティナに向かっていく算段だ。普通のポケモンたちじゃ危険行為だが伝説のポケモンであればそうでもない。だからこそ伝説と呼ばれているまである。

 

「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 深くダメージが入ったみたいだ。

 ギラティナは怯んで後退している。

 

「な、何なのよアンタたち!」

 

 焼かれて黒い煙を上げているクセロシキの隣で緑髪の女が戦慄いた。怯えているのが伺える。知ったこっちゃねぇけど。

 

「俺たちが何なのか、ね」

 

 俺はゲッコウガと視線を交わした。どうやらこれも考えていることは同じなようだ。

 

「俺たちは」

『二人で一人の』

 

 なぁ、そんなの決まってるってな。

 

「『ポケモントレーナーだ!』」

 

 ゲッコウガの進化は止まらない。いっそ神化と言ってもいいだろう。こいつは自分の強さをポケモンとしてだけでは終わらせる気がないのだ。俺のポケモンでありながら俺と並んで指示も出す。意識を共有出来るところからこの発想に至ったんだろう。俺の背中に立つことで360度敵なしのトレーナーを作り上げる。流石の俺にもこの発想は全くなかった。

 

「ゲッコウガ、終わらせるぞ」

『はいよ』

 

 二体の竜によって消えることも出来なくなったギラティナにトドメを撃つため、ゲッコウガは水を集めていく。

 

『みずのはどう、アルセウスバージョン』

 

 これまた凄い勢いで水を唸らせ、アルセウスの形へと作り変えていった。相手がギラティナだからこその遊び心なのだろうけど、今それいる?

 あとね、一回の瞬きで目の前にいるのよ。ちょっとビビったからね?

 

『ハイドロカノン!』

 

 それを一閃にしてギラティナへと放射。アルセウスの形であるのが関係しているとは思えないが、以前よりも格段に水の勢いが速い。貫通出来ないものはないんじゃないかと思えるくらいだ。まあ出来ないんだけどね。ギラティナさん堅いし。

 

「ギィィィィナァァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 だが、それでも再度怯むわけで。

 

「『トドメだ! みずしゅりけん!!』」

 

 右手を掲げると同じようにゲッコウガも右手を掲げ、頭上に特大サイズの水手裏剣を作り出した。なんか赤いけど気にしない。沸騰してるってことにしておく。

 俺が右手で投げる動作をするとゲッコウガも同じように手裏剣を投げた。消えることも躱すことも出来ないギラティナに直撃し、爆発した。

 

「…………やった、のか……?」

 

 いや、まだだ。

 まだ一発撃てる技がある。

 

「あくのはどう」

 

 俺もダークライがくれた力を全て使い切るイメージで黒いオーラを弾丸へと圧縮し、撃ち込んだ。

 すると大きくノックバックし、煙の中からギラティナが現れた。

 そしてそのまま地面を転がっていき、まだ残っていた建物を壊してようやく止まった。

 

「………………」

 

 のそり。

 ギラティナは姿をこっちの世界のものに変え、立ち上がりじっとこちらを見つめてくる。

 

「ギィィィィナァァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 先程とは違い、ただの雄叫びに聞こえる。殺気を感じないからだろうか。

 するとギラティナの背後に黒い穴が現れた。あっちの世界とのゲートが開いたようだ。

 つまり、戦いは終わったのだろう。

 

 

 ーーーそれがお前か、いやお前たちか。しかと受け止めたぞ。

 

 ーーーやればできるじゃないか、ハチマン。

 

 

「………サンキュー、ギラティナ、ダークライ」

「いいえ、私もよ。ありがとう、クレセリア」

 

 ギラティナが広げた黒い穴に帰っていく時、あいつらの声が聞こえたような気がした。ユキノもクレセリアの声が聞こえたらしい。

 案外ギラティナは俺を試していたのかもしれないな。何故このタイミングでだったのか疑問ではあるが。お膳立てはダークライとクレセリアといったところか。

 

「またな、ダークライ」

 

 ま、全てはあいつらのみぞ知るってことなのだろう。

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