カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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2話

「………あなた、いつの間にあんなテクを身に付けていたのかしら?」

「別に………。ただハルノさんは責めるのは好きでも責められるのは苦手みたいだから」

 

 ジムリーダーたちも解散し、部屋には俺たちだけになるとユキノが口を開いた。

 未だ俺の右側には机に突っ伏しているハルノさんがいる。はて、いじけてしまったのだろうか。怖いので頭はずっと撫で続けている。

 

「へぇ、よく見てるのね」

「………見てるというより見えてくるんだよ。こんな寂しがり屋」

「ま、姉さんが殻を破ればこんな寂しがり屋だとは思わなかったけれどね」

 

 実の妹ですら知らなかった一面か。一体何がきっかけなんだか。

 

「………たまにはいいんじゃねぇの。こんな無防備な姿、俺たちにしか見せないんだし」

「そうね。今まで家のことはすべて姉さんに任せっきりだったし。あなたに関しては大目に見てあげるとしましょう」

 

 ただ、そんな一面を隠さなくなったってことは、それだけ信頼を置いてくれている証拠なのかもしれない。

 それか今まで溜め込んでいたものが一気に吐き出されているか。

 何はともあれ、こんな顔を見せているときは他の人に会うわけにもいかない。さっきはすぐに突っ伏してくれたからある意味良かったのかも。

 

「なんか強気だな」

「そうかしら? 私はいつでも強いわ。だって、私はあなたの正妻だもの」

「いや、だから俺ら結婚してないから。誰も側室ですらないから」

 

 名前呼びの発言と言い、どうしてお前はそう突拍子もないことを口走るんだよ。おかげで心臓がうるさいんだけど。

 

「あなたも頑固ね。さっさと認めてしまえばいいことを」

「バカ言え。どこの世界にハーレムなんか築けるやつがいるんだよ」

「現にここにいるのだから探せばいくらでもいるんじゃないかしら?」

「ハーレムを築いた覚えはないんだが」

 

 誰がそんなどこぞの主人公みたいな真似をしてるっていうんだよ。

 それにハーレムメンバーは誰なんだよ。

 

「でも、私たちのことは受け入れてくれた」

「ッ………、ただの気まぐれだ」

 

 そこへ不意を突かれたかのようにユキノの言葉が俺の胸に刺さった。

 恥ずかしいというかなんというか。こんな気持ちを他人に抱いたのは初めてだし、オリモトに対してのあの時の感情がそういうものではなかったと改めて実感している。ただ、あの時間違っていたからこそ、この感情を受け入れられたのかもしれない。

 

「ハチマン、膝枕……」

「はいはい」

 

 ユキノから顔をそむけた先にはゆら~りとした動きで倒れ込んでくるハルノさんがいた。しなだれてくる体を受け止め、膝の上に頭を落ち着かせる。まるで小さい時のコマチをあやしているような気分だ。

 

「あなたと出会って何年経つのかしら………。ずっとあなたを見ていたから時の流れがあっという間だわ」

 

 で、それだけならまだしも今度はユキノが体を寄せてきやがった。そして、遠くを見るような呟き。俺の心臓が保たん。

 

「ストーカー………」

 

 辛うじて出した言葉がこれである。

 未だすべての記憶が戻ったわけではない。だが、本人たちから聞かされた話ではユキノはずっと俺に忘れられながらもしがみついていたようで。

 その情景を浮かべての一言である。

 

「そうね、そう言われても仕方ないわ。だって、あなたにもう一度会いたくて旅に出たようなものだもの。この高揚感はなんなのか、なぜあなたに会いたいと思うのか、会ってみなくちゃ分からないことだらけだったのよ」

 

 なのに、一切の否定が返ってこないという。

 あっさりと認めやがって。嬉しいとか全然全くこれぽっちも思ってないからな!

 

「………それで、再会した感想は?」

 

 感情を隠すように視線を膝に落とした。

 ハルノさんの頭が俺の腹の方を向いているから、顔は見えない。ただ、頭を撫でていた手を掴まれ、遊び始めやがった。

 こそばゆいからやめいっ。

 

「心が躍ったわ。でも同時に怖くもなった。あなた、いつも何かに巻き込まれているんですもの」

「………へー、やっぱり俺は昔からそんな感じなのか。手帳に書いてあっても信じがたい話だな」

 

 これはあれだな、知りたくもなかった情報だな。

 結局、今も昔もやっていることは変わらない。違うのは周りに人がいるかいないかの違い。

 ああ、もう一つあるか。今の俺には守るものが一気に増えてしまったもんな。

 

「あなたの交友関係をたどれば自ずと見えてくるんじゃないかしら? なんて危ない人たちの連絡先があるのかって」

「………それ、サカキのことだろ」

 

 サカキ。

 ロケット団のボス。

 手帳には俺の旅にしばらく同行したり、リザードンにじめんタイプの技を教え込んだ師と書いてあった。

 もうこの時点でいろいろとアウトな気がするが、これでもまだまだ序の口なのだろう。

 

「シャドーに潜入した時は驚いたわ。当時まだ捨て駒だった私は協会の命令で潜入捜査に行ったけれど。まさかあそこにあなたがいるなんて思いもしなかったもの」

「…………ああ、帰れって言ったのに人の忠告を無視してのこのこ戻ってきてサカキに人質にされてたな」

「思い出したの!?」

「ちょっと前にな。今はまだそこくらいだ」

 

 ほんと、バカだよな。

 いくら探していた相手が見つかったからって、自分の実力を見誤ってまで残る必要ないってのに。それで捕まってしまうとか、素人にもほどがあるっての。

 

「そう………。私、ずっとあなたを追いかけていたけれど、足しか引っ張っていなかったわ。背中を伸ばしていたのでしょうね。あなたがロケット団殲滅に動き出した時にも傍で見ていたいがためだけに実力に見合っていない戦場に志願したくらいだもの」

「そりゃ、また大きく出たもんだ」

 

 何がそこまで、なんて聞くのは野暮だろう。言ったら睨まれるのがオチだ。

 

「………結局、私はあなたがいないと何もできなかったのよ。そう、何もね」

 

 どこか遠い目を向けるユキノ。

 だが、一つだけ間違っていると思うぞ。

 

「そうか? お前、俺なしでも何でもできてると思うんだが。クレセリアとか、捕まえたのはユキノの実力だろ」

「違うわよ。クレセリアはただ私を選んだだけ。それもあなたと旅をするためによ、きっと」

「でも、選ばれるのだって実力のうちだと思うぞ。伝説のポケモンってのは気まぐれで、警戒深くて、用意周到だ。実力が伴わなければどいつも寄って来やしない」

 

 ダークライはよく分からないが、ディアンシーを例に挙げてみるか。あいつは一度俺と会っていて実力を知っていた。だから協力してくれたし、記憶がないことも受け入れてくれた。エンテイも俺がリザードンを使い手にしているから今でも認めてくれていると考えていい。逆にスイクンはルミルミに浮気しちまったしな。みずタイプはあくまでもゲッコウガとオーダイルしか使えなくて、みずタイプの使い手じゃないってことだろ。

 

「………根拠がなくてもあなたに言われるとそうなのだと思えてしまうのだから、不思議ね」

「………なあ、クレセリアには何も代価を払わなくてもいいのか?」

 

 ふと、ダークライを思い浮かべて疑問に思った。

 対となすクレセリアには何も代償を支払わなくていいのか。

 あのハルノさんですら、未来や過去を見るのに代償を払わされている。それはまあ、ネイティオだからなのかもしれないが。伝説のポケモンでもないネイティオでは逆に負担がかかるため、代償を支払う必要があるとも考えられるからな。

 

「今のところは、ね。あなたや姉さんみたいにクレセリアの力を私が使えるようになったら、代価を払う必要が出てくるかもしれないわ」

 

 ああ、なるほど。

 そもそもクレセリアの力をまだ引き出せてないということか。

 

「それにしても少し好き勝手し過ぎじゃないかしら、姉さん。狸寝入りなんて趣味が悪いわよ」

「………ふーんだ」

 

 俺の手で遊ぶのも止まってたからマジで寝たのかと思ったんだがな。

 いじけた子供かよ。かわいすぎだろ………。

 思わずわしゃわしゃと撫でちまったじゃねぇか。

 

「ハチマンもハチマンよ。姉さんばかりずるいわ」

「そう、拗ねるなって。ほら」

 

 こっちもいじけてしまいそうだったので、同じように頭を撫でてやる。

 

「ん」

 

 すると、一瞬で蕩けた顔になり、体を預けてきた。

 何、このチョロインたち。

 

「………全く、この姉妹はいつから甘え上手になったのやら………」

 

 しばらく、俺の体はこの姉妹によって占領されていた。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 しばらくユキノシタ姉妹に巻き付かれた後、プラターヌ研究所に戻った。すでに三人の準備は済んでいたようでヒラツカ先生もメグリ先輩もお茶を飲んでおり、博士が何やら三人と話している。

 

「あ、おかえりなさい」

 

 うん、さすがめぐりん☆パワー。超癒される。

 

「今日も相変わらずはるさんがべったりだね」

「デスヨネー。そろそろ歩きたくなくなってきましたよ」

 

 あはは、と苦笑いを浮かべるメグリ先輩。

 ねえ、ちょっと。さすがに離れてくれませんかね。段々、重たくなってきたんですけど。それと痛い。何がって色々と。視線とか視線とかユキノの視線とか。

 ふっ、背後から氷の刃が飛んできそう。

 

「えー、いいじゃん。減るもんじゃないんだし」

「俺の精神がすり減ってるから。氷の女王が凍てついてるから」

「ぶーぶー」

「ったく」

「にょわっ?!」

「………どっちが上なのか分からなくなってきたよ」

「わ、わしゃわしゃするなー」

 

 荒く撫でて髪を逆立たせてみる。

 お仕置きだ。しばらく髪直すのに時間を費やしていなさい。

 

「お。お兄ちゃんが無敵になってる………」

「いつの間にかはるさん先輩まで敵わなくなってるなんて………」

「ヒキガヤ、ハルノのあしらい方にだいぶ慣れたようだな」

 

 むすーっとしたハルノさんをユキノが回収していく。

 そこにヒラツカ先生が現れて、声をかけてきた。

 

「おかげさんで。あの人、今は根が子供ですから」

「いやまさかあのハルノがこうなるとは。君はあいつにとっていい刺激だったらしいな」

 

 ユキノに髪を整えてもらっているハルノさん。

 どっちが姉なのか分からなくなってきた。

 

「ただ、一つ気になるのは力を行使し過ぎた影響かもしれないって可能性がなくなってないんですよね」

「そうだな。一体何を見たのかは知らないが、いきなり幼児化されるとな」

 

 目が覚めてからというものずっとあの調子。時折、お姉さん風が吹いてくるが基本的には幼児化している。意識的にやっているのであれば、まあ安心くらいはできるのだが、どうにも腑に落ちない。どうしても頭のどこかでネイティオの力を行使し過ぎた影響の可能性をぬぐい切れないのだ。

 先生も何かしら思うところがあるようで、ため息をこぼしている。

 

「………あれはあれでいいんじゃないですか? あんな強化外骨格に覆われていたんだ。たまにこうして甘えつくすのも必要だと思いますよ」

 

 ま、これが一年も続けば問題だが、しばらく好きにさせておいても問題はないだろう。

 あの人のことだ。何かしら手を打っている可能性もある。

 

「なら、やはり君がいいカンフル剤だったというわけだ」

「はっ? カンフル剤?」

 

 どういうことだってばよ。

 

「………そうだな、試しに名前で呼んでみたらどうだ?」

 

 答えてくれねぇのかよ。

 はいはい、そういう人でしたね。ハルノさんの名前なんてきききキスされて強制されてますけど?

 

「もう呼んでますよ?」

「いや、そうじゃなく呼び捨てでだ」

「先生………、なんか楽しんでません?」

 

 なんだろう、このアラサー独身。自分のことじゃないからかすごく楽しそうだ。

 

「そりゃな。なんせあのハルノだからな。君と同じくらい手のかかる子だ」

「なにその現在進行形感。一緒なくくりとかやめてくださいよ」

 

 あの人の方が数倍手がかかるでしょうに。基本的に手の付けようがないのだから。完璧魔王、恐るべし。

 

「………ハルノもな、色々背負っているものがでかくてな。母親がちょっと癖があって、妹を守るためにも『ユキノシタハルノ』を作り上げたんだ。妹をハヤマとバトルさせていたのもトレーナーとして強くするため。あいつなりの守り方だったらしい」

「あー、なんかスクール時代でしたっけ? ハヤマとバトルしてたって言ってましたね」

「………今の君はまた記憶をなくしているんだったな」

「みたいですね。たまに話についていけませんし」

 

 記憶がないやつに、記憶喪失なのか聞かれても困るんだけど。

 一応、ここ一か月の記憶とシャドーの記憶があって、手帳と一致するからいいものの、他の奴だったら返答できないからね。

 …………あんたら記憶があるということをありがたく思いなされ。

 

「記憶喪失ってのは、その………どんな気分なんだ?」

「そうっすね、知識はあっても実際に使った映像がないって感じですかね。例えば包丁とか」

 

 包丁を猫の手で持たないと危ないだとか、そういう知識は無駄にあるが、実際に使った記憶がないため包丁を持つのが怖い。

 そんな感覚なのである。

 

「ふむ、つまり今の君はただの知識の塊ということか」

「ま、端的に言えばですけどね。経験の欠けた使えない知識の塊ですよ。宝の持ち腐れと言ってもいい」

「このちぐはぐさに耐えられるものなのか………?」

「なんか言いましたか?」

 

 ちょっとー、ぼそぼそ言わないでくださいますー?

 気になっちゃうでしょうが。

 

「いや、それよりもそろそろあの三人の出る時間じゃないか?」

「えっ? まだ俺コマチを堪能してないんですけど」

 

 なんですと?!

 アラサーと話してる場合じゃないじゃん。何引き留めてくれちゃってんだよ。

 

「ああ、それを聞くとやはり君は君なのだと感じさせられるよ。このシスコン」

「酷い言われようですね」

「それじゃ、お兄ちゃん。コマチたちは行ってくるであります!」

 

 敬礼をしたコマチの元へ速足で向かう。

 

「俺が渡したカプセル式のやつ、ちゃんと持ったか?」

「もちろん!」

「タマゴを落とすなよ」

「分かってるよ。もう、過保護だなぁ、お兄ちゃんは」

「んじゃ、最後は俺とのハグだな」

 

 バッと両手を開いて待ち構える。

 

「しないよ。もう、大丈夫かなー。コマチがいない間に変なことしないでよ!」

 

 だが空振りだった。

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 コマチエナジーが足りないのがいささか問題ではあるが。

 

「怖いよぉ、お兄ちゃんが絶対変態さんになってるよぉ」

「誰が変態だ」

 

 …………ハグはなしか……………。ハグ………ハグ…………………。

 

「あ、妹ちゃんにはこれ渡しておくね」

「は、ハルノさん………、これ………って」

 

 てててっとどこぞのあざといろはすのような小走りでハルノさんがやってきたかと思うと、コマチに何かを渡した。

 計算されたように俺からは見えないという。

 この人ほんとは正気なんじゃないだろうか。

 

「今の私じゃ使い切れないからね。どうせなら使っておいで」

「ありがとうございます! これでお兄ちゃんを倒せるように強くなって帰ってきますね!」

「期待してるよんっ」

 

 絶対あの幼児化は意識化だ………。

 はあ………、そんなに窮屈な思いをしてたってことか………。

 やはり社会は厳しくて苦い。だからマッ缶くらいは甘いのがちょうどいい。

 

「ゆっきのーん!」

「あ、暑苦しい………」

 

 それか、ああいう百合百合しいの。

 甘ったるくて和む。

 

「あたしも強くなってくるからねー。またバトルしようねー」

「そんな遠い日のことみたいに言わなくても………。遅くとも半年後にはバトルできるでしょうに」

「半年だよ、半年! あたし、半年もゆきのんに会えないんだよ?!」

「あら、一度も帰ってくる気ないのね」

「え?! 帰ってきてよかったの?!」

「別にだめだなんて誰も言ってないじゃない」

「ゆっきのーんっ!!」

「…………」

 

 あいつはやはりアホの子だったな。いつから帰ってきてはいけないルールができたんだよ。帰ってこいよ。半年とか俺が無理だわ。コマチ成分が足りなさすぎて自分から会いに行くまであるぞ。だから帰ってこい。というかコマチだけは帰せ。

 

「せーんぱいっ、私には何もないんですか?」

「くっ、出たなあざといろはす」

 

 上目遣いで俺の顔を覗き込んでくるくりんとした双眸。

 相変わらずあざとかわいい。

 

「もう、だからあざとくないですよぉ!」

 

 プンプンと頬を膨らませるいろはす。

 うん、今日も平常運転で何よりである。

 

「ま、お前はそうだな。じわれでも使えるようになって帰ってきたら最強なんじゃね?」

「なんですか、嫌みですか、そうですか」

「なんでだよ。お前課した課題終わってないんだぞ? 後新しくポケモン捕まえて育てることくらいじゃん」

 

 結局、俺が出した課題は一撃必殺以外は完成させちまったんだし、こいつならそのうち一撃必殺も使えそうな気がする。

 

「………そうですねー。新しいポケモンを捕まえて、フルバトルで先輩を倒さないといけませんもんねー」

「あくまでもそのスタンスなのね………」

「そ・れ・に!」

「な、なんだよ」

 

 ウインクするな。かわいいじゃねぇか。

 

「私、もう新しい仲間の候補は決まってるんですよねー」

「ほう、上手く捕まえられるかが見物だな」

「………私が失敗することでも想像したんですかー? 超失礼ですね」

「や、お前も俺と似てるところあるじゃん」

 

 ナックラーとか、過去の実例もいるじゃん。

 なんかまたあんな感じなのを引っかけてきそう。

 

「はっ?! まさかお前は俺と似てるんだから考えてることも同じだろだから結婚しようとか突拍子もないことを言い出す気ですか?! そうですかそうですか、残念ですがまだ私が結婚指輪を用意できていないので出直してきてくださいごめんなさい」

「突拍子もないのはお前の頭の中だ。なんだよ、結婚って。話が飛びすぎだろ」

 

 いきなり結婚なんて単語が出てきたからびっくりなんだけど。これがヒラツカ先生なら問題ないんだがなー。しょっちゅう言ってるし。

 それがイロハ、とか他の奴らに言われると変に意識してしまう。なんか、恥ずかしい。

 

「なんですか、もう」

「………またやってるよ、あの二人」

「………ユイさんはお兄ちゃんとお決まりのやり取りってないですよね」

「はっ! 確かに?! あ、あたしも何かやった方がいいのかなー」

「やめろアホの子。お前がそれ以上アホな発言をしたんじゃ俺が対処できない」

 

 なんてことを言いだすんだ。そんなことしてみろ。スルーという名の無視しかできないからな。

 

「アホってなんだし! アホじゃないし!」

「あ、すいません。ユイさんにもありましたね」

「ええっ?! これなの!? これがお決まりなの!?」

「そうね、昔からあなたたちのやり取りはこんな感じだったものね」

「覚えてるんだ………。そんなところまで覚えてるんだ………」

 

 昔からって……昔からこいつはアホだったのか。

 ユキノが認めてるのだから間違いない。

 

「お兄ちゃん、とにかく変なことしちゃだめだからね! あと無作為に女の人を引っかけちゃだめだよ」

「誰だよ、そのイケメン。ハヤマよりも質が悪いな」

 

 ハヤマですらあのイケメン力を使いこなせてないってのに。どこのどいつだ、そんなハーレム作れちゃう奴は。

 

「女の子はね、好きになっちゃえばどんなに目が腐っていてもフィルターがかかってイケメンに見えちゃうんだから!」

「えっ? なにそれ、初耳。そんな能力を身に付けていたのか女子の目ってパネェ」

 

 あ、違ったみたいだ。悪いのは女の方だった。俺は悪くない。………自分が原因だと自覚してますね。

 

「お兄ちゃんだってそうなんだよ? 好きだと自覚すれば、見える景色も変わってくるでしょ」

「ん? うーん? ………さっぱりわからん」

 

 知らねぇよ。好きってなんだよ。どんな感情のことを言うんだよ。そりゃ確かにみんなのことは、こう、なんというか失いたくはないって思ってはいるけどよ。

 

「トツカさんとか」

「あ、うん理解できたわ。トツカはいつもキラキラしてるな。目をこすってもそれは変わらん。眩しい。太陽のようだ。眩しすぎて目が痛いまである」

 

 なるほど。

 つまりはあの感情が好きという感情だったんだな!

 よし、後でプロポーズしよう!

 

「先輩、目が血走ってます。どんだけトツカ先輩のこと好きなんですか」

「三食すべてトツカでもいいくらいだ」

 

 おいおいイロハさん。チミは一体何を言ってるんだ?

 三食トツカとか、もう最高じゃねぇか。

 

「手遅れだ………。さいちゃんに勝てないあたしたちって」

「ばっかばか、トツカとか超天使だろうが。ポケモンセンターに就職でもしてみろ。毎日通って告白して振られるまであるからな」

 

 あ、プロポーズしたら振られちゃうんだ。ああ、でもトツカなら振るときの顔もさぞかわいいだろう。

 

「振られちゃうんだ………」

「というかトツカさんがいつの間にか女の子に………」

「だったら、早く玉砕してくれることを祈るばかりね」

「だねー。ハチマンは私たちのものなんだから。他の子に目移りしちゃうとか、ちょっといただけないなー」

 

 お、この背中が刺されそうな声。ようやく帰ってきたか。これに乗じて話を変えよう。

 

「………おかえりなさい魔王様。随分長い幼児化でしたね」

「…………………つーん」

 

 気抜きすぎだろ。そんな反応するくらいならもう少し貫けよ。

 つか、自分でつーんとか言うなよ。

 

「はあ………」

「うぎゃ?! だからわしゃわしゃするなーっ」

 

 いやー、実にいい反応だ。

 なんか一段と顔がだらしないことになっている。

 写真に残しておきたいくらいだわ。

 

「………何気に気に入ったのね」

「反応が面白いからな」

「まあ、これが自分の姉だと思うと頭が痛くなってくるわ」

「残念ながら、こんなんでもお前の姉貴だ」

 

 頭にのせた俺の手を押さえつけようと躍起になっているハルノさんに、ユキノはため息がこぼれ出るだけだった。

 

「はあ……、こりゃ先が思いやられるよ。大丈夫かなー」

「たはは………、どうだろ…………」

「というかはるさん先輩、本当にどっちなの………? 素……?」

「なんかはるさんがかわいい」

「それはそうなんですけどねー。ああなるのは先輩の前だけっていうか」

「うんうん、いやーほんとヒキガヤ君はすごいなー。よかったー、はるさんもちゃんと女の子の顔してるよ」

 

 なんかハルノさんの話になっているようだが、俺と彼女の取っ組み合いはまだ続いている。力がありそうで、その実軽い。腕の力とかコマチよりは強いくらいだ。

 

「そっちがその気なら! とおっ!」

 

 両手を押さえつけたらタックルしてきやがった。思わず俺は尻餅をついてしまう。

 

「ちょ、待っ、ぐふっ」

 

 そのまま柔肉が二つ俺の胸に押し当てられてくる。

 

「ハチマン、生きてる………?」

「お、おう……なんとか、なっ………?!」

 

 ユキノがスカートのまましゃがんで覗き込んできた。

 そうか……………、今日も白ですか。

 合掌。

 

「あれって素なんだ………」

「そうだよ。初めてだよねー。私の髪で遊ぶ時もあんな感じだよ」

「うりゃー」

 

 まだやるのか。

 

「はあ………こうなったら………」

「ひゃうっ?!」

 

 背骨に沿って指を這わせる。ゆっくりと、触れるように。

 

「ほー、やっぱり背中は弱いか」

 

 ……………あれ?

 背中にあるはずの女性特有の固い衣服の感触がないんですけど。それに指が引っ掛かる感触もない。

 

「いっ、ひっ、ちょ、ハチ、まっ、こそばっ、い、から、ひゃあ!」

 

 ま、さか……………?

 

「………あんな感じ、なんですか………?」

「ごめんねー、ちょっとちがうかも。あれはもっと、なんていうかヒキガヤ君に強制的に素を引き出されてる感じだなー」

「……あの、聞いてもいいのか分かりませんけど、ハルノさんってどんな人だったんですか?」

「はるさんはねー、いつでも強かったよー」

「……いつでも?」

「うん、いつでも。だから初めてだったんじゃないかなー。ヒキガヤ君に負けたの」

 

 すみません。いろんな意味でこの人、俺に勝てなくなってます。もうなんかトロンとした顔になってきてるし。

 

「姉さん」

「ユキノ、ちゃん………?」

 

 すると突然ユキノがまさかの顎くい。

 

「彼の上で馬乗りになって暴れてるといかがわしいことしてるみたいよ」

「~~~」

 

 とどめ刺しやがった。

 女の子同士で耳つぶとか、余計いかがわしいんですけど。

 

「ふぅ、これでしばらく大人しくしてるでしょう」

「俺は解放されてないんだけど」

「シスコンはそのまま拘束されてなさい」

「あ、おい、こら、抱きつくな。締め付けるな」

 

 妹にとどめを刺されたハルノさんは顔を真っ赤にして煙を上げながら、俺の体を締め付けてきた。なにこれ、みちづれ?

 

「姉さんは昔から強かったわ。ユキノシタの長女としてそれ相応の実力を見せてきた。私はそんな姉さんと比較されるように見られるのが嫌だったのだけれど、結局心のどこかでは追いかけていたのでしょうね」

「……ゆきのんはハルノさんのこと」

 

 ものすごく大好きだと思うぞ。

 この姉妹、シスコンだから。

 

「好きよ。血のつながった姉だもの。今まで家のことは姉さんに任せっきりだったから、これを機に私も向き合っていくつもりよ」

「………無理、しちゃだめだよ?」

「昔の私なら無理をしてでも姉さんの代わりをやろうとしたでしょうね。でも、今はそんな気はないわ。どこかの誰かさんの影響かしら。面倒なことは一人でしたくないわ」

 

 誰だよ、それ。俺を見るなよ。

 

「完全に影響されてるよ………」

「だから大丈夫よ。でもそうね、あまり遅いと無理するかもしれないわね」

「わぁん、分かったよ! すぐに強くなって戻ってくるから!」

「ええ、期待しているわ」

「では今度こそ、行ってくるであります!」

「ええ、気を付けて」

 

 くっ………俺とコマチのハグは次回に持ち越しかよ………。仕方がない。今回はこの柔肉で勘弁しておいてやろう。

 こうして、同じ日にプラターヌ博士からポケモンをもらった三人は新たな旅へと行ってしまった。

 

 

 

「あの、なんでブラつけてないんですか?」

「えー、なにー? 揉みたいのー?」

「くっ、狙いはこれか………」

「ほれほれー」

「どうなっても知りませんよ?」

「えへへ~、ハっチマーンっ!」

「くそ、やっぱり俺の方が踊らされてるんじゃねぇか。魔王恐ろしい人……」

 




進み具合でスピンオフ3話分のタイトルが変わると思います。
やはり予定よりも進まないですね。



ついにポケモンの続編? マイナーチェンジ? が発表されましたね。
これでウルトラビーストやウルトラホールについて完結するのか、楽しみです。
個人的にはDPリメイクでウルトラビースト完結だと面白いんですけどね。
アルセウスを模したポケモンもいることだし、何よりパルキアとかギラティナとかの空間に関するポケモンもいるし、ダークライとクレセリアの新月満月の月関係もいますし。何かしら絡めそうな気はするんですよねー。



ま、一番は新作の読みを間違えたことでこの作品のダークライがオリジナル技を使ってることになるというね…………。

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