カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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遅れて申し訳ないです。
しばらく日曜投稿にしようかと本気で思い始めてきました。
それくらい平日に考える余裕がなくてつらいです………。
もっと、面白い展開にしたいんですけどね。


6話

「負けたよ。やっぱりあんたは強いね」

 

 ゴウカザルをボールに戻したカワサキが戻ってきて早々、そう口にした。

 

「ま、今日はけーちゃんが見てたからな。負けるお前の姿も見せるべきかと思って張り切っちまったわ」

「張り切らなくてもいいのに」

 

 ぶっすーと不貞腐れた顔がちょっとギャップがあって、面白い。

 

「で? 俺に聞きたいことがあるんだろ?」

「………分かってるでしょ」

 

 今度はそっぽを向いてきた。

 今日はやけに表情がコロコロ変わるな。

 

「………通称御三家と言われているポケモンについて、どこまで知ってる?」

「各地方に生息するポケモンの中でもくさ、ほのお、みずのタイプ相性が循環する組み合わせで、かつ初心者でも扱いやすいポケモン、よく最初のポケモンとして用意されていたりするポケモンでしょ」

 

 さすがだ。しっかりと勉強してきたことが身についているようだ。見た目が怖いだけに、マジで損してるよな。普通に秀才だぞ。

 

「ああ、そうだ。で、そいつらの特性は?」

「しんりょく、もうか、げきりゅう。滅多に見ないけど、もう一つの特性があったりするってことくらいじゃないの?」

「そうだな。しんりょく、もうか、げきりゅうの他にあるとすれば他は一つだけ。ならゲッコウガはどうだ?」

「なんかタイプがコロコロ変わる特性………、げきりゅうじゃないね。でも今日はタイプの変化が見られなかったような気がするんだけど?」

「こいつの特性はもうへんげんじざいじゃないからな」

 

 すげぇな。

 あのバトルでもうそこまで見極めてたのかよ。

 前は何戦かしてようやくへんげんじざいを見破ったってのに、今の一戦だけでゲッコウガの特性の違いを気づくとは。

 熱いようでいて冷静さを持ち合わせているようだ。

 

「はっ? ………えっ? ちょ、ちょっと待って! それじゃげきりゅうに…………いやでも、あれはげきりゅうの効果とはまったく違うし………まさか、そんなこと………」

 

 どうやら気づいたみたいだな。

 

「ゲッコウガにはさらにもう一つの特性があったんだよ」

「っ!? そ、そんな、マジ………?」

「マジだ、マジ。大マジだ。かつてあの姿になったゲッコウガがいたっていう記録も残ってるらしい」

 

 コンコンブル博士がゲッコウガのあの姿を見て、かつてあの姿になったゲッコウガがいた、なんて言ってたんだし、まああんな感じにフォルムが変わったんだろうな。

 本当に手裏剣が八枚刃だったかは怪しいけど。あいつのことだからハチマンに賭けてきててもおかしくはない。それくらいには芸を挟むような奴だ。

 

「でも、最初はそのへんげんじざいって特性だったんでしょ。そもそも特性が変わることなんて有り得るの? 進化の過程で変わったっていうなら分かるけど」

「ゲッコウガに進化しても最初はへんげんじざいだったぞ。ただ、周りのメガシンカに感化されたみたいで、特性で姿を変えられるようにしやがったんだ」

「………あんた、なんかしたでしょ?」

「そりゃ、もちろん。その片鱗を見せてきたからな。完成させる手助けはしたぞ」

 

 だからこそ、過去のゲッコウガとそのトレーナーがどういう風に特性を変えたのかが謎である。あるいは最初から『きずなへんげ』だったか。

 

「………で、その特性の名前は?」

「俺たちの間では『きずなへんげ』って呼んでる」

「『きずなへんげ』………、タイプが変わるへんげんじざい………メガシンカ………絆………。ねえ、片鱗って言ってたけど、どんな感じだったの?」

「視界・感覚の共有といったところか。俺も実際にバトルしてる気分が味わえた。あと、会話とまではいかないが意思の疎通はできるようになったな」

「なるほどね、だから絆なのか」

「今はもう視界も感覚も共有することはなくなったがな。ただ、あの姿の時は俺の頭の中に直接見たもの聞いたものを流せるらしい」

 

 ゲッコウガとしても便利性を感じていたのかもしれない。だから超能力まがいの力を残したってところだろう。

 

「………その顔は何か分かったみたいだな」

「まあね、仮説にしか過ぎないけど」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべてくるカワサキ。正直怖い。

 

「へぇ、聞かせてくれよ」

 

 なんとか噛まずに対応できた。俺も成長したな。うんうん、マジで成長したわ。

 

「いいけど」

 

 いいけど何だよ。

 あ、こいつらか?

 集まってきたユキノたちのことを気にしてるのだろう。

 別に言っても構わんぞ。すでに話してあるし。理解できてるかは別として。

 その意を込めて手を仰ぎ、先を促せる。

 

「ん、まずゲッコウガはあんたの言う通り周りのメガシンカに影響されて、自分もメガシンカしたいと思った。だけど、メガストーンを持っていなかった。だから今あるものでメガシンカのプロセスを組み立てようとした。メガシンカは出会ったばかりのポケモンでは上手くいかない。ある程度信頼……この場合絆って言った方がしっくりくるね。絆が芽生えてなければできない代物だって聞いたことがある。それを踏まえるとあんたと視界なり感覚なりを共有することで、メガシンカのプロセスの足りない要素を補うことができたんじゃない? で、実際の進化のプロセスにはへんげんじざいのタイプが変わるという習性を使った。こんなところでしょ」

 

 おおう、まるっきり同じかよ。こいつも実はこっち側の人間なのかもな。あ、やべ、これだよ俺も含まれるような言い方になるからやめよう。

 

「………す、すごい……」

「まさか一発で先輩の仮説を言い当てるなんて………」

 

 まあ、驚くよな。俺も驚いてるもん。

 

「ただ二つだけ分からない」

「なんだ?」

 

 二つ。

 こんな複雑怪奇な話で疑問点が二つだけって。マジでこいつ研究者向きなんじゃ………。

 

「ゲッコウガという種族がなせる業だとしても、特性を書き換えるのに限界はなかったの?」

「おお、そんなところにまで気がついたのか。さすがだな」

 

 で、一つ目が特性の書き換えの限界か。

 普通、そんなところにまで理解が追いつかないと思うんだがなー。

 まさか、心当たりがあるとかそんなんじゃないだろうな………。

 

「で、どうなの?」

「答えはイエスだ。普通に考えて特性を書き換えるなんざ無理な話だ」

「でもゲッコウガの特性は変わった」

「企業秘密の薬を飲ませた。それだけだ」

 

 特性カプセル。

 まだ開発段階の代物。

 一般社会に普及される日が来るのだろうか。あまり来て欲しくはないな。

 

「…………あんたが裏の世界にいることはよく分かったよ」

「や、まあ一応ちゃんとした人が開発したものだから。闇取引とかから取ってきたものじゃない」

 

 闇商売とかしてないからね。俺はいたって健全だから。ちらほらと闇の人たちが周りにいるだけだから。アウトですね………。

 

「まあ、そこはあんただからってことでいいや」

「ひどい………」

 

 その納得のされ方をすると、それはそれで来るんだけど。

 

「もう一つ。最後のみずしゅりけん。あれはきずなへんげの効果なの? それだったら、もう一つ追加の仮説があるんだけど」

「どうなんだろうな。あの姿になったことで使えるのは間違いないが。そこにも一応仮説は立ててあるけど」

 

 おやおや?

 これはまさかのそっちのシステムも知ってたりする口ですか?

 

「Z技。アローラ地方に伝わるポケモンに全力の技を使わせるシステム。あんた知ってる?」

「………お前すごいな。ユキノでも理解が追いついてなかったってのに。まさかここまで言い当てられるとは」

 

 いやもうね。完敗だ完敗。今の話でここまで理解されちゃ、俺の立つ瀬がないわ。俺ですら何度かあの力を使って、博士に聞いて、カツラさんと仮説を立てて、覚醒して初めて納得がいったってのに。

 

「じゃあ」

「ああ、俺たちもそのZ技と関係があるんじゃないかって仮説を立てた。Z技については俺もよくは知らん。ただ、こっちも絆が関係してくるんだとか」

「なるほど、同じ絆が関係するシステムか。メガシンカを成り立たせる過程で、そっちにも手を出したってわけだね」

「あるいは偶然出来てしまったか、だが。何にせよ、技を強化してるのは間違いない」

「ふぅん。ほんと、不思議なやつだね、あんたってのは」

 

 不思議なのは俺ではなくゲッコウガの方だろ。

 くいくいと服を引っ張られたので見やると、けーちゃんが手を伸ばしてきた。俺も自然と体が動き、そのまま抱き上げる。

 

「あー、技を強化するで言えばあの時のアレもそうなのかもしれんな」

「なに急に」

「や、最終兵器のエネルギーを吸収する時にダークホールを巨大化させたなーと」

 

 あの時、黒いクリスタルをもらったしなー。あれのおかげでダークホールが強化されたんだし、Z技に近いものがあるように感じる。

 

「なんかいろいろと突っ込みどころ満載なんだけど。ダークホールって、あんたまさかダークライを」

「あ、知ってるんだ。お前、ユキノより物知りだったりするんじゃ………」

「あら、それはあまりにも酷い言われようね。否定できないから悔しいのだけれど」

 

 ユキペディアのプライドをもってしても、敵わないらしい。

 すげぇ悔しがってる。そんなに悔やむことでもないだろうに。

 知らないなら知らないでいいじゃないか。

 

「あたしは噂程度の話しか知らないよ。実証された研究データのことだったらユキノシタの方が知識あるでしょ」

「ああ、なるほど。確かにユキノは噂話に疎そうだもんな」

 

 うん、そう言われると色々と納得したわ。要はカワサキの情報源が噂であり、その信憑性を確かめているから自然と知識も増えていってるってところだな。ユキノの場合は研究結果から入るため、知識も偏ってくるってわけだ。

 

「ふん!」

「いでっ! おま、踵落としはないだろ。足の甲がめっちゃ痛い」

 

 カーンとユキノの踵が俺の足の甲に落ちてきた。しかも今日に限ってヒールを履くなよ。刺さってる。刺さってるから。

 

「はーちゃん、だいじょうぶ?」

「だ、大丈夫だ。いつものことだから」

 

 心配そうに俺の顔を覗き込んでくるけーちゃんの頭を撫でながら靴の中で足を動かし、避難場所を探す。だが、いかんせん上から押さえつけられているので言うことを聞かない。

 

「いつものことなんだ。一体何をやらかしてんだか」

 

 これもユキノなりのスキンシップなのだと思えば、可愛いもんだ。今までは散々な口撃だったからな。それだけ俺とユキノの距離も近くなった証だろう。

 

「おや、お揃いのようだね」

「ぷ、プラターヌ博士!」

 

 ユイの声につられて見ると青色のシャツを着た変態が現れた。両手には華、ではなく重そうなカバンがをぶら下げている。

 

「久しぶりだね」

「何しに来たんだよ」

「いやー、実は警察の方から事件で押収したメガストーンを押し付けられてしまってね。数が数なだけに一度君にどうするべきかを相談しようかと思ってね」

 

 どうやらあのカバンの中身はメガストーンがあるらしい。

 なんでこんなところに持ってきてるんだよ。言ってくれればそっちに行ったってのに。

 

「用済みになった証拠品を研究に使えってことなんじゃねぇの?」

「まあ、そうなんだろうけどね」

「言ってくれればそっちに行ったってのに」

 

 こんな研究し甲斐のありそうなもんを放置しておく方が勿体ないもんな。そのせいで研究が何十年も遅れるようなことになったら、非難を浴びるのは警察の方だし。

 

「ほんとかい? 君のことだから面倒だなんだ言い出すと思ってたよ」

「ばっかばか、メガストーンだぞ。しかも一個や二個じゃない。そんなもんを持って歩く方が面倒なことになりそうだわ」

 

 ひでぇ。

 俺をなんだと思ってるんだよ。

 しょうもないことでの呼び出しならまだしも、さすがにメガストーンとなれば、安全第一に考えるっての。

 

「心配性だなー。一応僕もバトルはできるんだよ」

「初心者のイロハに負けたしな。まあ、エックスには勝ってるか。つっても、あれはタイプ相性もあったし、エックスが本気を出していなかっただけだし」

 

 おそらく残ったカントー御三家のどちらかを使ってイロハたちとバトルしたんだろうけど、それでもイロハには負けてるんだからな。トレーナーとしての実力はそんなに高くないのだろう。

 あれ? ていうかイロハって、みずタイプのゼニガメまで倒したってことなのん?

 よくよく考えてみたら、こいつ最初からやばそうなトレーナーになる兆候が出てたんじゃ………。

 じっと見ていると「せーんぱいっ」と今にも言いだしそうなあざとい笑みを返してきた。なんだこいつ、かわいいじゃねぇか。

 

「見られてたのか………」

「たまたまだ」

「ま、僕の相棒はガブリアスなんだけどね。あ、そうそう、残ったフシギダネがフシギソウに進化したんだ」

「へー、育ててたのか」

 

 マジで意外。バトルは強くないって自分で豪語してたくせに。育ててたのかよ。そして、何気にエックスのあのリザードンがコマチの前に出された御三家の一体だったとは。

 

「まあね。フレア団事件で僕も出歩いてたから、ちょっとはね」

「それで、メガストーンを持ってきて、はい終わりってわけじゃないんだろ?」

「さすがハチマン君。察しが良くて助かるよ」

「で、誰のがあるんだ?」

「サーナイト、ガルーラ、ハッサム、ヘラクロス、ヘルガー、チャーレム、ボスゴドラ、ユキノオー、メタグロス、ハガネール、オニゴーリ、プテラ、そしてクチート。こんなところだよ」

「あいつら、どんだけかき集めてるんだよ」

 

 俺たちのところにあるメガストーンと比較してみると………、リザードンXにジュカイン、ボーマンダにデンリュウ、カメックスにバンギラス、そしてフシギバナとエルレイドか。半分ちょっとだな。ハヤマたちのを合わせると追加でリザードンYにギャラドス、ミミロップか。それでも追いつかないとか、フレア団のヤバさがよく分かるわ。

 

「プテくんの………」

「ん? ああ、そうか。化石研究所で盗まれたとか言ってたな。プテラはそのせいで外に出てコマチの元へ来たんだし」

 

 コマチを攫ってまでピンチを伝えたかったんだもんな。それくらいプテラにとってメガストーンは大事なものだったのだろう。そうならばやはり元の持ち主に返すのが一番なのだが………。

 

「そうなのかい? だったら、コマチちゃんにはプテラナイトを渡しておいた方がいいのかもね」

「いいんですか?!」

 

 カバンを開いて、一つのメガストーンをコマチに手渡した。

 

「持ち主に返すのが一番だろう? それに実際に使ってくれた方がデータが集まってこちらとしてもありがたいんだよね」

「そ、それなら、お言葉に甘えて………」

「………メガストーンがあってもキーストーンがなければメガシンカできないだろうに。そこら辺のことはちゃんと準備してるんだろうな?」

 

 キーストーンがないとメガシンカできないからね?

 メガストーンだけあっても意味ないんだぞ?

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。コマチはもうキーストーン持ってるから」

「はっ? お兄ちゃん聞いてないぞ?」

 

 いつの間に?

 そういうことはお兄ちゃんにちゃんと報告しなさいよ。や、まあ言いたくなかったってならいいけどよ。そんな縛りつけるような真似はしたくないし。お兄ちゃん泣くけど。

 

「あれー? 言ってなかったっけ? でもお兄ちゃんの前でもらったしなー」

「三人がミアレを出る日に、姉さんがあなたに見えないように渡してたわ」

「あの人、地味な嫌がらせをしてくるな………」

 

 あの、なんかコマチに渡してるような気がしたあの時だな。

 くそ、地味な嫌がらせをしやがって。帰ってきたらお仕置きだ確定だな。

 

「大方、コマチさんがあなたとバトルをした時にでも驚かそうなんて考えてたのでしょうね。我が姉ながら幼稚よね」

「ってことは何か? カメックスナイトでももらったのか?」

「何でそこは知ってるの………」

 

 けーちゃんが動き出し、さーちゃんを呼んだ。

 手を差し出してくると、さーちゃんの方へと乗り移っていく。

 うわー、結構体重あるんだな。抱っこしてる時は軽いなーと思っていたが、いざなくなると重さが急に抜けて、バランスが崩れそうだ。

 

「俺がキーストーンをもらった時にそこの危機管理のなってない男が言ってたからな。カントーの御三家にはメガシンカがあり、メガストーンが研究所にあるって」

「言ったねー、そんなことも。まあ、ハチマン君のはメガストーンが元々君のだったんだけどね? キーストーンもメガシンカおやじに託されたものだったし」

「変なカマかけやがって。普通に言えばいいだろうに」

「言ったところで混乱されても困るじゃないか。君なら心配ないだろうけど、僕は君がメガシンカについてどこまで知っているかなんて知らなかったからね。下手に扱われても困るのさ」

 

 こら、急にそんな真面目な顔になるなよ。調子狂うじゃねぇか。

 こう言われてしまうとどうしても俺よりも大人で、ポケモン博士なのだと感じてしまう。嫌だー、なんか気持ち悪い。

 

「もういいけどよ。それよりヘルガーもあるんだな」

「ん? なんだい? まさか君がヘルガーを連れてるとか言わないよね?」

「そのまさかだけど?」

「いつの間に捕まえたんだい?」

 

 眉がピクピクしてる。なんて器用なんだ。

 それとも無意識なのか? 変な能力持ってんな。

 

「えっと………四年位前になるのか?」

「そうね、あなたがシャドーにいたのはそれくらいになるわね」

 

 そうか、もうそんなに経つのか。記憶がなくなってるから時間の感覚がさっぱり分からん。取り敢えず、当時の年齢だけで割り出したが、やっぱりこういう時に記憶がないと不便を感じてしまう。

 

「シャドー?」

「まあ、そこはいいとして」

 

 シャドーん話なんかし出したら、俺の黒歴史が再更新されそうだ。それだけは何としてでも避けたい。

 

「何ならジュカインもいますしねー」

「………君ってポケモンを捕まえる方だったっけ?」

「いや? 全部、懐かれただけだぞ?」

「やっぱり、ハチマン君を研究する方がこの先いいような気がしてきたよ」

「人を実験動物にするなよ」

 

 俺はポケモンかよ。どんな珍種だよ。まあ、人間の中でもこんな目は珍種だけどよ。

 

「リザードンはヒトカゲの時にお兄ちゃんが手当てして、オーキド研究所で預かってもらったのに、結局もらってきてますねー」

「あの黒いポケモンもスクール卒業する時にはいたし………」

「ヘルガーはシャドーの方で渡されたダークポケモンだったのよね?」

 

 なんかそれぞれが俺のポケモンのことを語りだしたんだけど。

 

「「「「…………ジュカインは?」」」」

 

 で、行き着くのはそこになるわけだ。

 誰も知らないのかよ。ユキノあたりなら知ってると思ってたんだがな。

 

「………えっと? ホウエン地方のトウカの森出身の小生意気なキモリとしばらく同行………だってよ」

「結局捕まえてはないんだ………」

「ああ、あの時の」

 

 なんだよ、知ってんのかよ。こいつ、どんだけ俺を追いかけてたのん? ストーカーに近いものあるよね?

 俺やだよ? ヤンデレとか萌えないからね?

 

「うーん………ああっ、いるな、ボール投げて捕まえた奴」

「「「えっ?」」」

「……まさかエンテイ、なんて言わないでしょうね」

「…………」

 

 首がぐいんと勝手に回った。

 あっれー、すぐにバレちゃったぞ?

 

「えっ? まさかの初ゲットがエンテイ?!」

「あ、っと、その、実はスイクンも、一緒に………」

「そういえばダークオーラから解き放ってたわね………」

「「「はぁぁあああっ!?」」」

 

 まあ、そうだよな。エンテイだけならまだしもスイクンとまで関わりがあるとか絶対に思わないもんな。

 

「はーちゃん、エンテイってだーれ?」

「……出てこい、エンテイ」

 

 初めて聞くポケモンの名前に興味深々なけーちゃん。興味を持ったのならその時点で見せておくのがいいだろう。

 

「うわーっ」

 

 出てきたエンテイに感嘆の意を荒げる。カワサキに近づくように促してエンテイに手を伸ばすが、若干カワサキが冷や汗をかいている。子どもの興味は怖いもん知らずだな。相手は伝説のポケモンだというのに。

 

「ねえ、ヒッキー。ボスゴドラは?」

「ん? あいつはあれだ。洞窟の案内を頼んで、しばらくついてきてただけだ」

「…………やっぱり君は規格外のトレーナーだね」

 

 いや待て。ポケモンレンジャーなるものがこの世にはいるだろうが。あいつらは野生のポケモンたちの力を借りてミッションをクリアしていくんだぞ? そう考えると俺はそれに倣ってポケモンの協力を得たと考える方が自然だろうが。それに………。

 

「いやいや、今ホウエンには初めてのポケモンがスイクンって奴がいるんだ。それに比べたらよくてイーブンだろ」

「………それって、先輩よりも下ですよね?」

「下? ……あー、歳か? この前特例でスクールを卒業した新米トレーナーだぞ」

「なんかもう一人ヒッキーが増えた!?」

「ばっかばか、あいつのおかげでルギアを何とか正常に戻せたようなもんなんだぞ」

 

 虹色の羽がなかったら、今頃ルギアをスナッチだけして考えあぐねているだろう。

 マジでルミがいなかったらどうしようもなかったような気がする。ジョウトかオーレに行くこともあったかもしれないし。

 

「具体的に、何をしたのかしら? ホウエン地方にいるのよね?」

「まずジュカインがこっちに来ただろ。んで、虹色の羽を取ってきてくれた。その流れでエンテイとヘルガーが戻ってきたって感じだな」

「ほぼ増えたポケモンばっかだ………」

「………あの、その子の名前は?」

「ツルミルミ」

「「「「……………」」」」

 

 あ、なんか固まった。

 

「………どんな子なの? あたしは実際に会ってないよね? それにハヤマと敵対してた時にもあたしはいなかったから、どんな状況だったか報告見ただけだし。結局何があったの?」

「どんな子………見た目スクールのユキノ、中身スクールの俺」

「うわ………」

 

 ドン引きしてやるなよ。かわいそうだろうが。

 

「ちなみにメガシンカしたリザードンと戦って一撃必殺で相打ち」

「一撃必殺………」

「………え? あれ? 一撃必殺って、一撃必殺ですよね?」

「そうだけど。スイクンにぜったいれいどを使わせてたわ」

「………………負けた………」

「や、あれはスイクンだからだろ。他のポケモンで使えるかは知らんぞ」

 

 あーあー、魂が抜け出してるぞ。

 帰ってこーい、いろはすー。

 

「………あんたからしてみれば、楽しみなんだろうね」

「はっ? どういうことだよ」

「初めてでしょ。自分と同じような人間に出会うの」

「……………」

「あれ? ちがった?」

「い、いや、その、なんというか、よく分かったなーと」

「ば、バカ! べべべ別に特に深い意味はないからね! あんたの武勇伝を聞いてたら、そうなのかと思っただけだから!」

「さーちゃん、お顔まっかー」

「けけけけーちゃん?!」

 

 おう、いつの間にエンテイの背中に乗ってるのん?

 ほんとこの子の将来が怖いんだけど。トレーナーになったらどうなるんだよ。ルミよりもすごそうなのは間違いない。

 

「と、取り敢えず、そういうことならヘルガナイトとボスゴドラナイトを渡しておくよ」

「ボスゴドラは今はもう群れに帰ったし、いないぞ」

「ポケモンリーグやるんじゃないのかい?」

「やるけど………」

「ボスゴドラを呼び戻す可能性だってあるんじゃないかい?」

「無きにしも非ずだろうが………、今絶対これでメガストーンが手元からなくなって万々歳、研究のデータも取れて万々歳とか思ってるだろ」

「な、なんのことだい?」

「やっぱりか………」

 

 目が泳ぎまくってんぞ、こら。

 嘘つくにしてももっと上手くなれよ。下手すぎるだろ。

 

「さすがにこれだけあると身の危険を感じちゃうからね」

「だったら、最初からそう言えよ。いつもの強引さはどこへ行ったんだよ」

「いやー、フレア団事件で痛い思いをしたからねー」

「さいですか………」

 

 はあ、面倒な人だ。どうしてこう、俺の周りにはこんなのばっか集まるんだろうか。誰か引き寄せてるのかね。

 

「あ、それと僕も質問だけど、ジュカインもメガシンカできるのかい?」

「知らないのかよ。確かにザイモクザ経由でもらったリストにはホウエン御三家の名前がなかったが」

 

 リストにはなかった。つまりは博士が知らないということなんだろう。

 

「ホウエン、というとオダマキ博士か。よし、後で聞いてみよう」

「まあ、全員できると思うぞ。ラグラージもメガシンカできるようだし」

「確かにそうだね。ジュカイン、ラグラージがメガシンカできるとなるとバシャーモもできるだろうね」

「………確かに、そこも考えるとゲッコウガは特に異質だね」

「な? 俺もな、不図思うんだわ。どうしてゲッコウガだけなのか。マフォクシーとかには何もないのかってな」

 

 次の課題はそこになるだろうなー。

 マフォクシーを連れているイロハとブリガロンの進化前を連れているユイのデータが鍵となってくるだろう。まずあんな現象が起きるかどうかから調べないとな。

 

「ん? ゲッコウガがどうかしたのかい?」

「あれ? あんたには話してなかったっけ?」

「何をだい?」

「ゲッコウガのメガシンカについて」

「はっ? メガシンカ?! ゲッコウガに?!」

「そうそう」

 

 分かったからそんなに顔を近づけないで。

 どこかしらからか愚腐腐と聞こえてきそうだ。

 

「き、聞いたことがないね………。あ、でも以前コンコンブルさんが何か………」

 

 仕方がないのでこの後、博士にもゲッコウガの現象について説明してやった。

 きずなへんげについてはすごい興味を示してきて気持ち悪かった。ドン引き生であったな。

 


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