ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず 作:nasigorenn
改めて言いますが…………。
『ネタバレなので映画を見てない人は絶対に見ないで下さい』
それでもみたい人は………後悔しても知りませんよ?
これは本来あり得た物語ではない。
予め皆には言っておこう。これは悲劇にあらず、喜劇にあらず。
強いてあげるのなら…………一方的な惨劇だ。
それでも見たいというなら………見るがいい。
劇場版『ダンジョンで手柄を求めるのは間違っていないはず』
極端に端折っていこう。今回のヒロインがある目的を果たす為に友神に助けを求め、それを受けた者はその救援を実行すべく、実行者を選ぶべくあることを世界の中心たる『オラリオ』で行った。
「この伝説の槍を抜けるものはいるか! 抜ける者は真の勇者となるだろう!」
よくある伝説の~~~とやらだ。槍には特別な術がかけられ、その条件に見合う者にのみ抜けるという代物だ。
それを見た観客は盛り上がりを見せ我こそはとお祭り騒ぎで挑戦していく。その悉くが失敗し、それが尚更場を盛り上げるわけだが、そこに通り掛かったのは我らが手柄馬鹿であるベル・クラネル。
何かやっているなぁという程度に眺めていた彼等ベル一行。そのメンバーはサポーターのリリルカに友人のヴェルフ、それにベルの主神であるヘスティアだ。
彼等は今宵、このオラリオで開いている祭りに参加していたわけでこうしているわけであり、祭りを楽しんでいる最中であった。まぁ、ベルとしてはそれよりダンジョンに行き手柄を立てたいのだが、それをリリルカがNOと言ってこうして連れてきた次第である。
そして面白そうな催しだと槍のやつをみつけたのが現在。ベルはやる気は無かったのだが、祭りの熱気に当てられたヴェルフとベルの格好いい姿が見たいリリルカはベルに受けるよう勧める。
勧められたベルは紳士らしく仕方ないなと苦笑しながら受け、軽く済ませようとした。失敗しても問題ないしっと簡単に考えながら。
そして槍を抜こうとして力を入れたのだが…………抜けない。
どうやら『このベル』は条件に見合わなかったらしい。だが………そんな条件など知らないベルは面白いと思い全力解放。
結果槍は抜けた。ただし、槍を固定するように固まっていた水晶のようなものを粉砕して。まさに無理矢理強引にぶち抜かれたというのが正しいだろう。
これに驚いたのは主催者だ。条件を満たさないものがこれを強引にぶち破るとは思えなかったからだ。しかし、やってしまったからにはしょうが無いとベルはここで勇者だと持ち上げられることに。それを見たヘスティアはこんな物騒な勇者がいてたまるかと胃の痛みに顔をしかめた。
そして今回のヒロインであるとある女神との邂逅。
だが彼女はベルに難色を示す。彼女としては槍を正規の方法で抜いた者にこそ用があるのだから。
そんな彼女に主催者はこう言うのだ。
「まぁ、抜いちゃったからには仕方ない。でもな………もしかしたら君の予想以上に凄いことが起るかも知れない。俺は知ってるんだ………『薩摩兵子のヤバさ』を」
そう語る主催者の顔は冷や汗と脂汗で一杯であった。
そして物語は始まった。
女神曰く、
『世界を滅ぼしかねないモンスターが封印を破って復活しようとしてる』
それを再封印、もしくは討伐してくれというのが今回の目的であった。その為に他のファミリアの協力もつけてそのモンスターがいる場所までの足も確保されているらし。
そんな話を聞かされたのだ。ベルはそれはもう殺る気全開であった。
退屈な祭りなんかよりも余程面白い。何よりもそんなヤバい相手なのだ。
『これほどの手柄など早々にない』
世界の危機なんかよりも手柄が欲しい、首が欲しい。それが薩摩兵子というものだ。
殺気に満ちてギラギラと輝く目、ニヤリとつり上がる口元。まさに薩摩兵子。毎度お馴染み戦狂いの馬鹿がそこにいた。
そんなわけで始まった旅だがここは置いておこう。世界が違えばそこには初々しいラブコメがあったかも知れないがここにいるのは薩摩兵子。出くわしたモンスターもなんのその、全部美味しく頂きました。
語るべきことが色々あるだろうが割愛し、やってきました目的地。
綺麗な森は瞬く間に如何にもな場所に早変わりしており、そこから湧き出すモンスターに苦戦する冒険者達。
そんな彼等にそこは任せ、ベル達一行はボスのいる遺跡へと突入する。
そこでそれなりに何かあったがこれも放置。触れようものなら神すら恐れる『ナニカ』によって消されるだろうから。
そうしてやっと出てきましたラスボスであろう蠍型のモンスター。そういうにはあまりにも見た目が違いすぎて虫と人をくっつけたものが巨大化した印象を与える。
そのモンスターはダンジョンにいる階層主もビックリな程の大暴れをしてベル達を追い詰め………。
「いいぞいいぞ、いい力だ! それでこそ大将首! よこせよ、なぁ、お前の首置いてけ!!」
おい…………。
「ベル様大歓喜ですね、子供みたいで可愛いですぅ!」
お………。
「おいおい、そんなものか! そんなんじゃぁその首、すぐにその身体からもげるぞ」
まったく追い詰められてなかった。
ベルは一人でボスに立ち向かいお馴染みの大太刀で足やら身体やら鋏やらをぶった斬りまくり、それを見ているリリルカは目をハートマークにしてベルに熱中、ヴェルフは慣れた様子で自分達に被害が行かないように退避、そんなベルの暴れっぷりを見ているヘスティアと主催者は薩摩兵子のヤバさに恐怖で震え上がり、唯一不安そうにオロオロしているのがヒロインというグダグダっぷり。
ボスの光線なんかの直撃を受けて服が吹き飛ぶがそこまでダメージを受けないベル。多少の怪我はする。血は出るし火傷だって負う。だがベルはそんな程度では止まらない。薩摩兵子は行動不能にしない限りは絶対に止まらないのだ。足の一本腕の一本程度では止まることなどあり得ないのだ。
怪獣大戦争もかくやという暴れっぷり。英雄のようにとても綺麗なものではない。寧ろ野蛮で汚らしく凄惨で酷いとしか言い様がない戦い。そんな酷く泥臭い戦いにラスボスは逆に追い詰められる。
そこで怒りに燃えるラスボスは自ら肉体の一部を開放する。そこにあったのは大きな水晶体。その中にあったのは一人の女性であった。
服を纏っていない身体は美しく見る者を魅了する。その身から放つのは人にはない力。その力は神こそが持つ物であり、それこそが彼女が神である証明であった。
目を閉じていることから意識がなく、如何にも封印されていることが窺えた。そしてその力を真逆の存在であるモンスター……ラスボスが振るい始めたのだ。
これは周りが動揺する。力は勿論だが、何せラスボスに取り込まれているのは………ヒロインだからだ。
そこで明かされる真実。面倒なので簡単に言うと、ヒロインがラスボスに取り込まれる前になけなしの力で救助を呼ぶために槍にそれを託した。このラスボスは槍でしか倒せなくて、倒すためにはヒロイン諸共殺さなくてはならない。
世界を救うために神殺しをしろということに周りは酷く動揺するのだが、ここで動揺しない者が幾人いた。
「おいおい、勘弁してくれよ。何、あのモンスターはベルに何か恨みでもあるのか?」
ヴェルフが疲れた溜息を吐き、
「ベル様可哀想です。ここはリリが慰めてあげねば!」
リリルカが一瞬だけシュンとして直ぐに立ち直り、
「何て言うか、本当に台無しだね、これ」
「あぁ、だから薩摩兵子って奴は……」
ヘスティアと主催者は先が見えているだけに凄く疲れた様子を見せる。
そんな奴らに悲壮な感じだった者達は何でと言わんばかりであり、ヒロイン(今まで一緒だった方)は主催者やヘスティアに食いついた。
『早く槍を使って奴を私諸共討ち滅ぼしてくれ』
そう必死に言うヒロインに主催者は呆れた顔でこう語る。
「いいかい、この物語は変わっちまった……いや、最初から彼が関わった時点で別のものになってしまったんだ。これは一人の少年が世界の為に一人の女神を犠牲する物語じゃない」
そしてその後の答えをベルが言った。
それまで楽しそうに殺し合っていたベル。だがヒロインが取り込まれているとしった瞬間からその表情は消え去った。恐怖に戦いたのではない。その顔にあるのは侮蔑に満ちた怒りであった。手に入らなくなってしまった手柄への後悔、それが唯一のベルの悲しみだ。
「なんだなんだ、お前、そんな奴なのか? 女の人を人質にして辱めて調子に乗ろうとする奴だったか? なんだ、お前? ただの恥知らずの下衆じゃないか………せっかくの手柄だとおもったのに、せっかくの大将首だったのに。これじゃ師匠に顔向けできないじゃないか。もういい………もういいよ。お前の首なぞ、いらん。命だけ置いてけ」
呆れ果てた怒りを乗って冷水のようにベルはボスにそう告げる。
「これは薩摩兵子によって手柄にならない奴への粛正にしかならなくなっちまったんだ」
主催者はそう語った。手柄にならない恥知らずの首なぞいらない。そんな恥首なぞいらんとベルはそう語るとラスボスに一気に襲いかかった。
ぶった斬られる足は彼方此方に斬り飛ばされ、体中に深い斬傷が刻まれる。
その激痛にラスボスは苦痛の叫びを上げ再生するが、再生する端からベルに斬られ潰され砕かれていく。
再生する能力は恐ろしいものだが、この場にいるのもは皆こう思うかも知れない。
『寧ろ治る方が可哀想だと』
ずっと続いていく激痛なんてものは地獄でしかない。馴れるわけがないのだ。何せ痛みというのは本能で感じるものだから。モンスターとて生物ある以上痛みを感じる。それを凄まじい破壊による激痛を永遠に感じさせられるのだ。モンスターの生物としての本能が壊れないわけがない。
治る側から斬り飛ばされるラスボス。ベルは血塗れだがまったく怯む様子は見せない。
そんなベルから主催者に少しだけ言葉がかけられる。
「あの女の人を彼奴から剥ぎ取るから、あとよろしくお願いします」
そしてベルはラスボスの懐に飛び込むと女性が囚われている水晶を………。
「オォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
根元からぶった斬った。
綺麗に切れたというよりも強引に斬り裂いたというべきか、水晶の彼方此方に罅が入り今にも砕けそうな感じになる。
それをベルはリリルカ達がいる方へと蹴り飛ばした。
砲弾よろしく吹っ飛んできた水晶は見事にリリルカ達の前に着弾し、ヒロインは自分の本体が目の前にいるという状況に何とも言えない気分にさせられる。
「取り敢えずこれ、解くか」
「そうだね。ベル君もそろそろ終わりそうだし」
ヘスティアと主催者がそう言いながら水晶に封じられているヒロインの救助に取りかかる。
ヒロインを取り戻されてしまったラスボスは急激なパワーダウンの所為でより激痛にのたうち回ることになり、再生能力も落ちていく。
そんな姿にベルは呆れながらこう言った。
「見苦し過ぎる。さっさとさぱっと死んでしまえ!」
そして大太刀を背から平行に構え、前のめりに突進する。
「イヤァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
気合いを込めた咆吼を上げながらの真正面からの唐竹割り。それによりラスボスの身体が真っ二つになり、中にある魔石も真っ二つになる。
「これで終わりだ恥知らず。次はもっとちゃんとした首になってこい」
そう告げると供に回し蹴りを魔石に叩き込む。
その威力は凄まじく、魔石が見事に粉砕された。モンスターの心臓部である魔石、それを粉砕されてはいくら再生能力があるモンスターであろうとも生き延びられる術はない。
断末魔をあげるラスボスにベルは心底下らないと吐き捨てながら大太刀をしまう。
その巨体を灰に変えて砕け散るラスボス。それを背にしながらベルはリリルカ達がいる所へと歩いて行く。
その際にこの遺跡を覆っていたラスボスの肉体の一部が全て消滅し、周りの雰囲気も以前のものに治っていく。
静かになった遺跡の内部、そこでヒロインの本体は囚われていた水晶から解放されてその身を空気に晒す。ヒロインのコピーは大本である彼女に戻り、今ベル達の前にいるのはヒロインのみだ。
そんな彼女が目覚めると最初に目に入ったのはベルであった。
既に戦闘は終わり大太刀を背中に閉まったベルの顔に薩摩兵子の目はない。そこにあるのは慈愛に満ちた紳士の優しい笑みであった。
「よく……頑張りましたね。立派でしたよ」
そう言ってベルはヒロインの身体を優しく抱きしめてゆっくりと頭をなで始めた。
その行動に普段のリリルカならキーと唸りながら睨み付けるところであったが、今回ばかり見逃してやると言わんばかりにそっぽを向いた。
自分が裸でいることよりも、ベルに優しく抱きしめられているヒロインは胸がドキドキするのを感じながらその温もりに身を委ねながら今までの困難と死んでいった眷属達の無念、そして救われたことへの嬉しさから涙を流した。
こうしてこの物語は終わり、世界の危機は恥首になる奴の首はいらん、根切りだと言わんばかりに斬り捨てられて終わりを迎えたわけである。
締まらない、あまりにも締まらない終わり。悲劇でも喜劇でも何でも無い。大手柄になるはずだったのが手柄にならなくなったために八つ当たりとばかりに斬り捨てられた、これはただそんな話であった。英雄もクソもなにもないのである。はっきり言おう、ベルにとってこれはただの骨折り損のくたびれもうけであると。無駄であったとしか言えない。
だからこそ、この物語は大層なものではない。
強いてあげるのなら、
『手柄を求めた少年の骨折り損』
それだけの物語であった。本当に何でも無いくらい、無駄でしかなかった。
ただ……………。
「ベル………私と一万年分の恋をしよう! 大好きです」
ヒロインにとってこれは、
『一人の少年に救われた女神の恋物語』
になったのだった。