ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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今回でるのはあの幼女。
そしてベルは変わらずに島津ぅっっっっっっっっっっっっ!!


第12話 ベルは女の子を助ける

 エイナにステータスをバラしたことで晴れて無罪を勝ち取ったベル。元から異常なステータスを公開しただけでこれから先も問題なく行動できるのならそれに越したことはない。

それが例え相手が放心状態になろうとも、ベルはまったく気にしない。

ヘスティアとしては共犯者を仕立てるとともに少しでも精神的負担を減らせるということで喜ばしいようだ。まぁ、秘密を共有し共に振り回されることに負担が振り分けられるなんていうことはないのだが………それでも精神的にはマシらしい。

 そんなわけで改めて冒険者として活動を出来るようになったベル。

本来あるべき未来なら、ここでベルを心配したエイナが彼を誘って一緒に防具を買いに行くという青春真っ盛りなデートイベントを行っていたはずである。

しかし、残念ながら………この男にそれは不要。

紳士的なのが通常だが、防具が必要なことに紳士的な所は一切必要なく、そういうものが必要な場面では得てして彼は『薩摩兵子』。一撃に全てを込め、死ぬときはさぱっと死ぬ。その信念を持っている彼に防具など不要であり、またステータスで見て分かる通りベルの「耐久」はSS9780、既にぶっ飛んだ数字であり並大抵の攻撃では特に効果はないだろう。

つまり防具要らず。本人も不要だと思っているし、ステータスでもそれを証明している。

そう見せられてはエイナも防具が必要だとは言えず、甘いデートなどというものは発生しない。彼女はただ、それでも無理はしないようにと言う以外何も言えなかった。

 

 

 

 さて、そんなベルが今日も殺る気満々でダンジョンに行き、かなり手柄を立てたことに満足することはないが、それでもまぁまぁ充実した手柄を立ててそれなりのヴァリスを稼いで喜びながらホームへと帰る途中で裏路地を歩いていたら…………。

 

「ぎゃうッ!?」

 

曲がり角から飛び出してきた人がぶつかってしまった。

結構は速さで走っていたのだろう。ベルにぶつかった人はまるで壁にぶつかったかのように

地面にうずくまってしまった。顔面を強打したのか顔を両手で押さえながら実に痛そうに呻いている。

 

「大丈夫ですか?」

 

ぶつかられたのはベルだが、ダメージを負ったのはぶつかった人。だからというわけではないが、普通目の前で痛そうに唸っている人がいるのなら心配するのは当たり前のことである。

ベルはそう声を掛けながらぶつかった人を改めて見ることに。

小さな身体は子共のように見えるがその身に纏う雰囲気は子共というのは少しばかり違和感を感じる。その違和感は過去にも感じたことがあり、それがロキ・ファミリアの団長と会話をしたときだと思い出したベルは目の前の少女の種族を口にした。

 

「小人族?」

 

小人族は亜人の一つであり、その特徴はある一定の歳になってから一切外見的な歳を取らないこと。そのため小人族は皆小柄な子共のような外見をしている。その中身は歳それぞれであり、十代の子供に見えるロキ・ファミリアの団長は実年齢40代である。

そんな小人族であるが、こうして身近で見るのは初めてかも知れないと少しだけ思うベル。

目の前にいるのは女の子だ。ぼさぼさとした栗色の髪をしていて呻いてはいるが甘そうな声をしている。顔を押さえているので美人かは分からないが、総じて可愛らしいということが何となく感じられる。

そんな彼女を心配して手を差しだそうとしたが、そこで別の方向から叫び声が飛んできた。

 

「追いついたぞ、テメェッ!!」

 

その声の方向を向くと、そこにいたのは長剣を振りかぶりながらこちらに向かって駆けてくる男。その顔は怒りに染まっていて殺気に溢れている。

 

「この糞小人族がぁ! もう逃がさねぇ!!」

 

どうやら側で呻いている小人族の女の子に用があるらしい。それも明らかに物騒な用が。

男はベルが目に入っていないのか、ベルを気にせずに女の子に一気に駆け寄って手に持っている長剣を振り下ろそうとする。

が、目の前でそんな凶行が行われようとしているのを『紳士』が見逃すはずがなく、ベルはその剣が女の子に触れる前にその持ち手を掴んで止めた。

振り下ろした剣を途中で止められ男はやっとベルの方へと殺気に塗れた顔を向けた。

 

「んなっ!? 何なんだテメェ!! そいつの仲間か!」

「いや、初対面ですけど」

 

しれっと答えるベルに男は苛立ちを露わにしつつベルに警戒しながら問いかける。

 

「じゃぁなんで庇う?」

「目の前で凶行が行われそうなときに止めない理由がどこにありますか? それに………女子供の首は恥だ。恥知らずをしようとする馬鹿を止める理由にそれ以上の理由などないですよ」

 

ベルの答えを聞き馬鹿にされていると判断した男は怒りをより燃やし、その凶刃の矛先をベルにも向けることを決めたようだ。

 

「まずテメェからぶっ殺す!」

 

殺気を込めて掴まれている手を振り解き、そして目の前にいる巫山戯た事を抜かすガキをぶった切ってやろうと、そうしようと男はした。

だが、現実は思う通りにはいかない。

 

「っ!? う、動かない、放せ!!」

 

男の手は一切動かない………何故ならベルが掴んでいるから。

まるでその場所だけ固定されてしまったかのように一切動かないその手。振り払うどころか身体の方が逆に痛めてしまいそうだ。

 そんな風に掴んでいたベルは顔を変えた。

先程までは紳士だった。社交的で女性に優しい紳士だった。だが、己に殺気と刃を向けてくる者がいるならそれは別だ。

そこから現れるのはみんなお馴染み殺気に満ちた瞳をギラギラと怪しく輝かせ、ニヤリと口元に笑みを浮かべる『薩摩兵子』。

ベルは目の前にいる男を『対象』と認定し話しかける。

 

「向けたな、刃を向けたな? なら貴方は僕の敵だ、敵なら手柄だ。なら………首置いてけ! なぁ、その首置いてけ!!」

「「!?!?」」

 

まるで急に人が変わったかのように周りからは見えるのだろう。ベルの急変に男も、足下辺りでベルと男の様子を見ている女の子も驚いた。

そんな周りにベルは気付かない、いや気にしない。この男はそういう空気なぞ読まない。

あるのはただ、敵対者の首を取ることだけ。

当然男はその変わり様と殺気にビビった。自分も殺気立っていたが、目の前のガキはその比ではないと。自分の首に刃がめり込んでいるような、そんな絶体絶命状態を幻視するくらい、男はベルに恐怖した。

だが、ここで引くわけにはいかないとベルに噛み付く。

 

「巫山戯んなッ!! こんなところでビビってられるかってんだ! このガキ、ぶっ殺してやるッ! んでもって次は糞小人、テメェだ! ぶっ殺すだけじゃすまさなねぇ! ガキだろうと容赦なく嬲って…………」

 

ベルに向かってそう吠える男。未だに手は一切動かないがこの場でそう吠える事が出来る辺り、気概はあるのだろうだが、怒りの方向を小人族の女の子に向けたのは間違いだ。それも明らかに過剰なまでに女性に生理的嫌悪を持たせる罵詈雑言を吐く辺りが。

その様子にベルは我慢が出来なかったのだろう………目の前にいるのが手柄ではなくなってしまったから。

 

『ビキッッッッッッッッッッッッ!!』

 

そんな音が男の中に響き渡った。

そして襲いかかる激痛に男は叫び声を上げる。それは獣の咆吼のようだが、負け犬の遠吠えのようにも聞こえた。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!?!?!?」

「吠えるな」

 

叫ぶ男にベルは静かに、しかしはっきりとどっしりとした声音で言う。それは絶対強者の声だ。その声を聞いてそれまで叫んでいた男は声が出なくなる。それこそ今の激痛の比ではない、確実に殺されるであろうという予感を感じ取ったからこそ、肉体が本能的に声を止めた。本人の意思は関係ないようで、男は何故声が出なくなったのかを混乱しながらベルに目を向ける目が離せなくなる。その一点のみを見ろと身体が男の視点を固定した。

 何故男が叫んだのか? 答えは一つ…………長剣を持っていた男の腕がおかしな方向へと折れ曲がり、掴んでいた長剣を地面に手放していたから。

関節でもない部分から力なくくたりと垂れ下がる手。その曲がった部分は真っ青に腫れ上がり、手としての機能を完全に失っていた。

何故そうなったのか? 決まっている、ベルが男の持ち手の掴んだ部分を『握り潰した』からだ。握力を一気にかけ、肉も骨も一気に握った。その結果がこれである。相手も冒険者であるというのにこれはもう、ベルが異常と言う他ない。

 そんな風に相手の腕を潰したベルはというと……若干悲しそうな顔をしていた。

手柄ではなくなってしまった男は首を取っても意味がない。だからベルは殺気を込めつまらなさそうに、歯がゆさを感じてそれでいて苛立つように男に告げる。

 

「やっぱり貴方の首などいらない。その首に価値などない。命だけ置いてけ!」

 

そして背に差している大太刀へとゆっくりと手を伸ばす。

それが男には死刑執行へと差し迫る時間に感じられた。怖くて逃げ出したくてしょうがない。でも、それが肉体に通わない。意思は逃げ出したいと思っているのに、肉体はもう死ぬことに絶望しきって一切の抵抗を辞めている。その所為で呼吸すら満足できなくなり男の顔は真っ青になっていた。

その手が大太刀の柄に触れるその時、また別の方から声がかかった。

 

「そこまでです」

 

静かな空間に響いたのは美しい声。

その声の方に顔を向けると、そこには見知った人物が立っていた。

見覚えのあるウェイトレスの服装、綺麗な薄緑の髪に青い碧眼をした美女。特徴的な尖った耳をしているのはエルフである証拠。彼女はベルが良く行く『豊穣の女主人』の従業員である『リュー』だ。

どうやら買い出しの途中らしく、両腕で紙袋を抱えていた。

彼女がそう告げた相手はベルのようで、ベルに向かって話しかける。

 

「私はやり過ぎてしまう性分ですが、クラネルさんも同じようですね。あまりやり過ぎてはいけない」

 

そう言われ、それまで殺気を出していたベルはそれを納めてリューにいつもの笑顔を向けた。

 

「こんばんは、リューさん。買い出しですか?」

 

その場では少しばかり場違いな声だが、リューはそれに動じることなく普通に返す。

 

「えぇ、そうです。その帰りに裏路地を通ったら何やら凄まじい殺気がするので何事かと思い来たらこうなっていたと」

「それは申し訳ないです。まだ仕事中なのに」

「少し時間に余裕があるから大丈夫ですよ。それよりも………こんな往来で物騒なことですね。何があったのですか?」

 

そう聞かれベルはそれまであったことをリューに言うと、リューは深い溜息を吐いてベルを見つめた。

 

「クラネルさん、それ以上は駄目です。それ以上すればシルが悲しんでしまいます。それに私も悲しい。クラネルさんは凄く強い。それはその佇まい、その身に纏う雰囲気から分かります。だからこそ、このような雑魚相手に些事で手を汚すような事はしないで欲しい」

 

リューは正義心が溢れる女性であった。だからこそ、悪は許せない。

人の命に手を掛けることは良いことではない。だが、それを悪を断ずることは決して出来ない。何故なら………。

 

『過去にそれをした自分が言えた道理ではない』

 

彼女はそう考える。

だからこそ、自分の友人の『大切な人』が手を汚すような事などさせたくない。例えその身が既に『自分以上に血に塗れて』いようとも。

悲しさを感じさせるその声に、ベルはリューに向かって笑いかける。

 

「そう言われてしまったら無理ですね。シルさんを悲しませたくないし、それに………リューさんも悲しんで欲しくない」

「クラネルさん………」

 

そうリューに告げると掴んでいた手を放す。

腕を放された男はやっと金縛りが解け、止まっていた呼吸が戻り急激な酸素に噎せ返る。そして急いでその場から逃げた。少しでも止まったら自分の命が消えると確信しているからこそ、今まで止まっていた分を取り戻すかのように。

必死な形相で逃げる男の後ろ姿を見送るベルとリュー。もう危険が去ったと判断し、ベルは小人族の少女に話しかけようとしたが、その姿はもうなかった。

それを見てどこかに行ったのだろうと判断すると、ベルはリューに話しかける。

 

「そうだ、よかったら今から『豊穣の女主人』に行こうと思ってるんですが、行っても大丈夫ですか?」

 

完全に紳士に戻ったベルに対し、リューは内心ホッとする。

彼女は今まで修羅場を幾度となく潜ってきた。そんな彼女でさえ、ベルの戦う時の姿というのは恐ろしいのだ。その在り方に畏怖し、その感性に忌避を覚え、その性質に正気を疑う。さっき見ただけなのにそう感じた。

それだけベルは『濃い』のだ。戦うことに特化していると言ってもよい。

それは彼女が最も嫌うものでもあった。それはぱっと見悪にしか見えない。だが、それが悪だというにはあまりにも尊い。神聖にすら思える程に純度が高いのだ。

それにそれはベルの片面でしかない。いつものベルはもっと紳士的で優しい好青年だ。

それを踏まえてリューはベルを嫌いにはなれない。親友の想い人だと言うことを考えれば尚更に。

何よりも自分自身、ベルのことは気に入っている。何故だと言われると分からないが。

だから彼女はベルに少しだけ微笑みつつこう答えた。

 

「えぇ、大丈夫です。シルが毎日クラネルさんに会いたいと愚痴を漏らしていましたから」

 

そう聞いてベルはリューに笑い返しながらその場を去って行った。

尚、約束した通りこの後ベルは『豊穣の女主人』に行き、そこでシルと楽しく会話をしながら夕飯を取った。

 

 

 

 

「あの強さ、背中に差した大太刀………噂のあの人かもしれない。ならきっと凄いお宝を持ってるに違いありませんね。あれだけ強いですから、きっとレアアイテムや業物なんかを持ってるはず……………」

 

闇夜の中、一人の少女がそう悪知恵を働かせる。

それが………それが己の身を滅ぼしかねないということを分からずに………。

 


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