ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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書いてみたくなって書いちゃいました。


第1話 ベルはオラリオへと来た。

 その男は死ぬつもりだった。

自殺する気があったのではない。目の前の戦場において、死んでも守ると決めたからこそ、死ぬことへの恐怖など微塵もなかった。

自分も周りの兵達も、皆同じ気持ちで戦った。

戦況は不利で、戦力差が圧倒的に負けていても、それでも彼等は戦った。

生きるためではない。ただ、この戦うに不足のない相手に対し、自軍たちの最終的な勝利のために、皆死を受け入れて。

結果は見ての通り全滅だろう。だが、それでも、その男は将として敵の大将を討ち取った。全滅したが、それで敵は撤退した。自分がもう助からないほどの負傷を受けながらも、男はそれを成したのだ。

後はどうするかなど考えてはいなかった。血を失いすぎた体はまともに考えることが出来ず、男はひたすらにとあることだけを考えた。

ただ自分の故郷に帰るのだと。

その体では絶対にたどり着けない故郷へと。

血塗れで止まる気配をまったく見せない流血を垂れ流しながら男は体を引きずっていく。

無我夢中だった。だから周りのことなどまったく目に入らなかった。

故に気がつくと、そこは見たこともない場所だった。

真っ白な空間でどこまで続いているのかまったくわからない。両側に壁があるのだが、そこは様々な扉が付いており、それが延々と続いている。

その空間の目の前に一つだけ、その男では知らないものが置いてあった。それは所謂作業用デスク。上には書類が置かれており、そのデスクには一人の男が座っていた。

西洋の人間のような顔立ちに金髪碧眼の眼鏡をかけた男は、書類に目を通しながら作業をしている。まさに事務仕事といった様子であり淡々としていた。

その男の様子と周りの光景に男は取り乱しながら問う。

 

「ッ………何だ、ここはッ……どこだ……ここはッ……誰だ……ッ」

 

動揺しつつも目の前の男に警戒を露わにする男。

そんな男に対し、デスクに座る男は目を向けることもなく、気にもとめることもなく、まるでいないかのように書類に何か書いていた。

 

「野郎……ッ俺(おい)は帰るのだ、薩摩へ!!」

 

まるで反応しない男に対し、男は飛びかかろうとした。

しかし、その行動は次にデスクの男がした行動によって不発に終わる。

 

「………次……」

 

書類にはその男の名……『島津 豊久』の名が書かれ、それにより飛びかかった男……豊久は壁にあった扉の一つへと吸い込まれてしまった。

ただし…………。

 

「あ、間違えた………」

 

デスクの男は先程豊久の名を書いた書類を見て、そう呟いた。

それは本来豊久が向かうはずの場所とは違う場所の名が書かれていた。

 

 

そして物語は始まった。

訳のわからないところで死にかけの豊久をとある少年が見つけ、大慌てで祖父を呼び豊久を助けた。

助けられた豊久はその恩義に礼を言い、どういうわけか少年の家にやっかいになることに。そして時間は少し過ぎ、少年が外に遊びに行っている時にそれは起きた。

突如として現れたゴブリンの群れ。数は15匹ほどであり、普通の一般人ではまず助からない。英雄に憧れる少年ではあるが、まだ幼い彼は戦えるわけもなく、そのまま殺されてしまうはずだった。

泣きながら必死に逃げるが、それでも追いつかれてしまう。

もう終わりだと思ったとき、それは現れた。

彼が憧れる『英雄』との出会いであった。

 

『……ぞんッッッッッッッッッッッッッ!!!!』

 

「よぉ、べるぅ。随分と手柄になりそうなことしとるのぅ。主等が何かなど知らんが、首があるのならそいつは手柄じゃ。なら………首を置いていけ!」

 

そこからあったのはあまりにも刺激的で一方的な虐殺。

本来大の大人が何人も組んで初めて戦える相手である相手に対し、豊久は身長と同じくらいある長い太刀でゴブリンの体を切り裂いていく。

首を刎ね、上半身と下半身を分離させ、頭から真っ二つに唐竹割りにする。

その一撃は絶対の死をゴブリン達に与えていく。

そしてすべてのゴブリンが血を撒き散らしながら地面に倒れ伏せる中、豊久は不満そうに立っていた。ゴブリンの手応えに不満があったのだろう。不服そうな顔をしていた。

そんな豊久に駆け寄った少年………ベルは豊久の顔を必死に見ながら叫んだ。

 

「お願いします、弟子にしてください!!」

 

 

 

 少年は目の前に広がる広大な町、そしてその中央に天高くそびえ立つ巨大な塔『バベル』を見て感嘆の声を漏らす。

 

「うわぁ~、やっぱりすごいな~! ここがオラリオ……迷宮都市オラリオ。冒険者が活躍する町。英雄になる一番の場所……」

 

彼の目は輝きに満ちていた。

それは幼い頃から憧れていた町に来たこともそうだが、それ以上にここから始まる『英雄』への道に期待に胸を膨らませていることが大きかった。

彼は幼い頃から『英雄』に憧れているのだ。

それ自体は幼子には良くある話。寝物語として聞かされ続けてきただけに、その物語は今でも鮮明に覚えている。

その物語のような『英雄』に彼はなりたい。

他の町ではそのような存在になれることは殆どないが、この町では別だ。

ここには『冒険者』と呼ばれる者達がおり、そして彼等が挑む『ダンジョン』がある。

ここで冒険者になり、そしてダンジョンで大きな功績を残す。そのような存在になれば、確かにそれは『英雄』なのだ。

この場所でなら、彼は『英雄』になれる。憧れ夢に焦がれたものを、現実のものとして叶えられる。

だからこそ、彼………ベル・クラネルはここに来た。

見た目は初雪のような真っ白な短髪に赤い瞳というウサギを思い出させるような印象を抱かせる。体は細身であり、見ようによってはひょろひょろしていると取られるかもしれないだろう。

ただし、それは外から見ただけの姿であり、服の下に隠されている肉体は年齢に不釣り合いなほどに鍛え抜かれ絞り込まれ、まさに鋼と評するに値する筋肉をしていた。

これから始まるであろう冒険のために、今日までベルが鍛え抜いてきた証である。

ベルはこれからのことに期待で胸を膨らませつつ、故郷にいるであろう祖父、そして彼に『手柄を立てる』ための思想などを教え込んだ『師』へと言葉を贈る。

 

「師匠、やっとオラリオに来ました。これで僕は……手柄を立てられます」

 

 そう呟いたベルの瞳は、それまでの夢に憧れ輝いていた瞳と違い、危険で怪しギラギラとした輝きに満ち、背にした身長と同じくらい長い太刀を片手に笑みを浮かべていた。

彼は英雄になるために、まず最初に『薩摩兵士(さつまへご)』となった。

これから始まるのはダンジョンに出会いを求める物語ではない。

 

ダンジョンに『手柄』を求める物語である。

 

 

 

 




上手くかけるかわかりませんが、なんとか………。

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