ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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THE HUNTERの最新版を買って絶賛狩り中です。やはり狩りはいいですよねぇ~(それで文章が遅くなることへの言い訳にはならない)

すみませんでした!


第20話 ベルは彼女の願いに応じる

 夕暮れの黄昏時、茜色に染まる室内にて膨大な数の本棚を背に彼女は優雅に玉座に座る。

その身に纏うのは露出面積が大きく服としての機能を半分ほど捨てた淫靡なドレス。そしてそれを纏う彼女は美の化身たる女神『フレイヤ』である。

彼女はその美しさもさることながら着ているドレスよりも更に淫靡で恍惚な顔をしながら目の前にあるものを見ていた。それは空間に出来上がった鏡のようなもの。そしてそこに映し出されているのは白髪をした十代前半の男の子。男の子はダンジョンでモンスターと戦っていた。その顔は普段浮かべる優しいものではなく、殺意と闘気で漲った怪しいギラギラとした笑みだ。そして男の子はその笑みに違わず猛威を振るう。手に持った大太刀でモンスターを次々と切り裂いていく姿はまさに鬼。その姿は誰が見ても戦慄するだろう。

だが彼女はそうではなかった。

 

「はぁぁ…………」

 

熱の籠もった艶息を吐き出し、まるで発情した雌のような潤んだ瞳で男の子を見つめていた。まさに娼婦のような顔だが、その瞳には恋に焦がれる乙女のような輝きを満たしている。

 

「やはりいいわぁ、ベル………貴方の輝きはいつも私の胸をときめかせてくれる」

 

目の前に映る男の子………ベル・クラネルにフレイヤはそう語りかける。別に聞こえるわけではない。だがそう言わずにはいられないくらい彼女はベルに夢中だった。ベルの容姿も性格もそうだが、何よりも彼の魂の輝きにフレイヤは惹かれている。一級の冒険者でも神々でも持ち得ない、危険なまでにギラギラとした輝き。白に近いが輝きが凄すぎて何色か判別できないくらい素晴らしいそれは彼女にとって初めてのものだった。

欲しいと本能が叫ぶ。だが同時にそれはいけないと理性が律する。自分がもし仮に彼を手に入れたとしたら、きっと彼の輝きはなくなっていると分かってしまうから。

だから見つめ続けるのだ。もっと彼の輝きを見ていたいから。

そして………『もっと彼の魂の輝きを見たい』。

自分が彼の魂をもっと輝かせたいと、そう思うようになったのだ。その為に手段を選ぶ気はない。

だからこそ、彼女は側に控える自分の愛にもっとも真摯な子に話しかける。

 

「ねぇ、オッタル。私、もっと彼の輝きを見たいわ。彼を輝かせて」

 

その言葉に反応したのはフレイヤの側にいた獣人『猪人』。彼の名はオッタル、フレイヤ・ファミリアの団長にして冒険者ナンバーワン、唯一絶対無二のレベル7『猛者(おうじゃ)』の二つ名を持つ最強の男である。

オッタルは主神の命を受け、静かに、しかしはっきりとした声音で答えた。

 

「御意」

 

そしてオッタルはフレイヤのいる部屋から離れる。

主神の主命を果たすべく、彼はこれからダンジョンへと向かう。自分が考えつく限りの最強を持って主神を夢中にさせる男の魂をより輝かせるために。

 

 

 

 それはダンジョンに潜り終えてリリルカと別れた後にあった。

ホームまでの帰り道の最中、偶々出会ったとしか言い様がない。彼女はベルの姿を見て目を見開きながら驚いたようだ。それに対し、ベルは特に気にした様子もなく普通に微笑む。

 

「べ、ベル…………!?」

「あれ、アイズさん?」

 

久しぶりに会ったような気がするベルは『紳士的』に彼女へと歩み寄ると、朗らかに笑いながら挨拶をする。

 

「こんばんは、アイズさん」

「うん、こんばんは……ベル」

 

ベルに挨拶されアイズもまた返す。それは至って普通のこと。だから何かあるというわけでもない。

 

「お元気そうで何よりです」

「う、うん…………君もそうだね」

 

 ベルは軽く会話でもして直ぐに帰ろうと思ったのだが、アイズはそうではなかった。

実は彼女、ベルを探していた。

彼女はベルの強さを知っている。それを間近で見ていたからこそ分かる。アレは圧倒的な強さだと。自分と同じレベル5のベートを一方的に打ち負かし、武器なしとはいえ苦戦していたモンスターを一刀の下倒した。レベルは知らないが、その力は自分達に勝るとも劣らない程に凄まじい。だからこそ知りたくなったのだ。ベルのことを。ベルがもつ力の事を。それがあれば自分はもっと強くなれるのではないかと思ったから。

だから探した。ファミリアの皆には知られぬように目立たないよう心掛けながら。しかしこのオラリオの中で一人の人間を探すのは中々に苦労する。特徴的とはいえどこに住んでいるのかも知らず、ベルの行動を予測するほどの情報も得られない。だからひたすら足を使って探していた。じゃが丸くん片手にひたすら歩き回っていただけであり、決してサボっていたわけではない。見つからない日々であったが、今日やっと見つけた。

だから少しばかり感情的になりつつもアイズはベルに話しかけた。

 

「そ、その! 君にお願いがあるの!」

「僕にお願い………ですか?」

 

会話を切り上げ帰ろうとしたベルはその言葉にアイズの瞳を見つめる。これが本来あるべき歴史の『ベル・クラネル』ならドキドキしていたところだろうが、ここにいるのは薩摩兵子。相手が美人であろうとドキドキはしない。

瞳を見つめるベルはアイズが何を言うのかを待ちつつアイズの瞳に宿すものを見る。

綺麗な金色の瞳。だがその中には渇望があった。それは絶望に近い渇望。それを追い求めていることがわかる。薄れている形跡を見せてはいるが、それは未だに残っている。

そんなものが彼女から見て取れた。相手がどんなものを宿しているのかはその瞳を見ればわかるものだ。下衆な人は瞳が腐っているように、心が美しい人の瞳は美しい。

だからベルはアイズが何を言うのかをじっくりと待つ。まるで彼女を見定めるかのように。

そしてベルに全てを見透かされるような視線に若干緊張しつつアイズは告げた。

 

「私と戦って欲しい」

「断ります」

 

アイズの決死のお願い、それに対しベルは速効で断った。

まさかこうも早く断られると思わなかったのだろう。アイズは驚きのあまり口を開けたまま目を見開いてしまっていた。

美少女の呆け顔というのはある意味新鮮ではあるが、そういつまでもしているわけにもいかない。アイズはハッとしてベルにもう少し食らいつく。

 

「そこを何とか」

「駄目です」

 

アイズの嘆願を一蹴するベル。そこまで頑なに断られてはどうしようもないと思うが、それでもアイズは食い下がった。

 

「どうしても?」

「絶対にです」

「なんで?」

 

アイズは断られ続け流石にむっとしたのか、若干不機嫌になりつつそう問いかけた。

その問いかけにベルは当然のように答えた。

 

「貴方が女性だからです」

 

紳士的な答えではあるが、一級冒険者であるアイズにとってそれは失礼極まりないものであった。

 

「女だからって見くびってるの? 私はこれでもレベル5だよ」

 

怒気を滲ませながらそう言うアイズ。そんなアイズにベルはそれまであった紳士的なものがなくなり『薩摩兵子』の顔を見せた。

 

「そういう問題じゃないですよ。それは法度だからです」

 

瞳をギラギラと殺気で輝かせ不適な笑みを浮かべるベル。それはこの場に於いて明らかに異端で在り、この場の雰囲気が一気に変わって皆呼吸がおかしくなり始める。直にその殺気を当てられたアイズは流石は一級冒険者と言うべきか、若干怯みはしたが堪えた。

 

「法度?」

 

法度の意味が分からないのかそう口にするアイズ。そんなアイズにベルは堂々とドヤ顔をかました。

 

「はい、そうです。先程戦うと言いましたね」

「うん」

「つまりそれは……………」

 

そこで言葉を途切れらせたベルは殺気を更に深め、そのギラつく目をアイズに向けた。

 

「首の取り合いだ。戦うと言うことは僕にとって手柄の取り合いに他ならない。つまり殺し合いだ、手柄の奪い合いだ。つまり貴方は僕と殺し合えと、そう言っているんです」

「ッ!?」

 

これまで冒険者として生きてきた彼女ではあるが、人間同士の殺し合いというのはしたことがなかった。だからこそ、生々しい殺気を向けられて彼女は冷たい汗が頬を伝うのを感じた。

 

「だからこそ、僕は貴方とは戦えない。戦場の掟に於いて女子供の首は恥首です。それを取る外道はいません。だから女の子である貴方とは戦えない。恥首を取る恥知らずにはなりたくないですから」

 

ベルはそう語る。殺気は収まることはなく噴き出し続け、場合によっては周りにいた人の中では呼吸困難等体調不良を訴え始める者達が続出していく。

 

「僕はまだ師匠みたいにはなれません。師匠みたいに女の子は化粧してオシャレして街で楽しそうにして戦場に顔を出すな、とは言えませんから。僕は戦場に女性が出るのは良くないとは思いますけど、それでも冒険者なら仕方ないって思う。でもだからこそ、絶対にその首は取らない。僕が欲しいのは手柄だ、恥首じゃない!」

 

ベルのその言葉を受けてアイズはビクッと身体を震わせた。

初めて怖いとも思ったが、だからあんなに強いのかとも思った。初めて同世代の子供に抱いた感情は新鮮である意味彼女と似てもいた。

だからこそ、アイズはベルにこういうのだ。

 

「なら………私の稽古をつけて。戦うわけじゃないなら首の取り合いじゃない。だから私に稽古を付けて欲しい。君とそうすればもっと強くなれるような気がするから」

 

その申し出にベルは最初こそ考えたが、ジッとこちらを見つめるアイズにやがて折れた。

 

「分かりました。ならとりあえず明日の早朝、市壁の上に来て下さい。あそこはあまり人が居ないですから」

「わかった、ありがとう、ベル」

 

ベルに許可され嬉しそうなのか微笑むアイズ。本来のベル・クラネルなら赤面する威力のあるものだが、このベルはそんな事なく別れを切り出す。

 

「あぁ、そうそう。アイズさん、これだけは言っておきますね」

「?」

「『殺す気』で来て下さい。僕は手加減が苦手なんです」

 

 そう言ってベルはアイズと別れた。

アイズはこの言葉の意味を理解出来なかった。手加減が苦手ということがどういうことなのかも。それを知ることになるのは明日の朝だろう。これから始まるのがどういうものなのかを知ることが…………。

 

 


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