ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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リアルの忙しさに筆がまわらないです。いや、投稿遅れて申し訳ありません。


第24話 ベルはオラリオ最強と戦う

 彼はこの日のことを忘れない。忘れることは絶対にない………初めてここまで恐怖を感じたこの日を。

冒険者になってもう十年以上経つ。これまでの冒険で大怪我をすることなど幾度となくあった。だがこれほど屈辱的でありながら誇らしい負傷は初めてだ。自分を脅かす存在など早々にいない。現在唯一のレベル7は自分だけ。レベル6は幾人かいるが、総じて彼等は重要な地位に就いている者達だ。大きな理由がなければ戦うということはない。互いに軽々に戦える身分ではないのだ。だからこそ、こうも自分を追い詰める相手に恐怖し戦意を高揚させられた。そして認めた…………あぁ、まさにこれこそが自分の求めし『猛者』なのだと。だからこそ、負けたくないと。

そう思わされたのは彼の冒険者人生に於いて『彼』が初めてだった。

 

 

 

 薄暗いダンジョンの洞窟の中を轟音が幾度となく轟いた。

それは何かが激突する激突音。音が響く度にダンジョン内を衝撃が走り壁や岩などが崩れる。

その現象を引き起こしている大本の直ぐ側に彼女……リリルカ・アーデはいた。その被害に遭わないように大きな岩に身を隠すようにして『それ』を見つめる。

その前に信じられないものを見た彼女ではあるが、更に目の前で起こっていることは更に信じられない。いや、もう驚き過ぎて逆に何も感情が出てこないくらいだ。

彼女をそうさせているのは目の前で行われている剣戟であった。

 

「さっさとその首を置いてけ、オッタルッッッッ!!」

「そうはいかない、俺の首はあの方の物だからな」

 

ベルの大太刀と『猛者』オッタルの大剣が火花を散らせながらぶつかり合う。

その激突は重く、ただ武器同士がぶつかり合うだけなのに発生した衝撃でダンジョン内を破壊している。通常ではまずありえない光景だ。

だが当人達にそんなことを気にすることなどなく、特にベルは目の前にいる『大将首』いや、もはや『大名首』と言っても良い大手柄を前にして殺気全開で殺し(取りに)きていた。それを相手にするオッタルも当然それ相応の力を出さなければならないのだ。

ベルが肩に構えた大太刀からの袈裟斬りに対し、オッタルは大剣を普通の剣の如く軽々と振り回して防ぐ。

オッタルが信じられない速さで大剣を振るうとベルはそれを真正面から受け止めて見せた。

レベル差が信じられないような攻防。その度に発生する衝撃に二人の足元は放射状に罅が入る。とても冒険者同士のぶつかり合いではない。

そんな重すぎる剣戟が幾度となく続く。それはまるで先程のミノタウロスとの戦いの再来のようだが、その質はミノタウロスとの戦いなど比較にならない。先程のミノタウロスとの戦い、ベルは余裕が見て取れた。だが、今回に限りそれがない。いや、追い詰められているわけでもないし押されているわけでもない。それまであった『遊び』がないのである。オッタルを前にしてベルは今まで『押さえていた』であろう力を全開に振るっているのだ。それまでの相手がそれに値しなかったのか、もしくは、無意識に押さえていたのか。いや、どちらにしても今のベルにはそれがないのだ。ただ純粋に最大の力を振るってオッタルの首を取る。それだけが今のベルの全てだ。

だからこその猛攻。今まで相手にしてきたどのモンスターとも人間とも違う、最高にして最強の相手に対しベルはまさに『本気』で首級を取りに来ていた。

故にその顔は凄惨たる笑みを浮かべる。瞳はいつも以上に怪しく輝きオッタルへと常に向けられている。最高の手柄を前にしてベルはまさに薩摩を体現する男になっていた。

だからこそ、何度も続く剣戟の中で気付きオッタルに怒りを込めて吠えた。

 

「逃げるなよ、オッタル。抗うなら戦え、逃げるならその剣を置いてけ。無様を晒すならその首置いてけ、なぁッ!」

 

幾度となく合わされた剣から伝わる相手の意思にベルは怒る。

目の前にいる男はオラリオ最強の称号を持つ偉大な男だ。それがこの首の取り合いという殺し合いにおいて自分を殺さぬように力を抑えて斬り合っている。闘気はあれど殺気はなくこちらを殺そうという意思が感じられない。

そうされれば当然気にくわないだろう。特に本気で首を取りに来ているベルからすれば、それは明らかに嘗められているようにしか思えないのだから。

だからこそ更に大太刀に膂力を込めて更に過激に苛烈に攻める。

それは攻撃を受けるオッタルも感じ取っていた。一撃一撃に感じる重さが最初の頃とは桁違いに重くなってきているのだ。最初の時はまだ多少の余力はあった。

だが今はそれがもうない。こちらも本気で受けなければ斬られると本能が察し、それが主神の本意とぶつかり合う。目の前にいるのはレベル1などではない。このレベル7に刃を届かせるに十分な力を持った『化物(けもの)』だ。

本音で言えば殺しておいた方が今後の為にも絶対に良い。目の前にいる男は明らかにこの街の平穏を脅かす存在だ。相手が高位な存在な程、その首を求める狂人だと。

だがそれは主神の本意に逆らうことになる。オッタルの主神たるフレイヤはベルの謂わば『ファン』だ。彼の活躍を胸をときめかせながらみる事が何よりも今熱中している事である。その彼女がベルにはできる限り機会は与えるが干渉はしないと決めているのだ。殺すなど論外である。ならばどうするのか…………何とかこの場から離脱するしかない。

だからオッタルは本気でベルの相手をしつつ離脱を計ろうとするのだが、それをベルが拒む。

苛烈な斬撃は受けるのに集中しなければ押し切られそうになり、こちらの攻撃に殺意がないことを察してなのか普通に弾き飛ばされ更に怒りを燃やす。

別にオッタル自身ベルを殺す気がないだけで『腕の一本や二本は斬り飛ばす気』で攻撃を繰り出してはいた。だが、『その程度の温い攻撃』ではベルを止めることなど出来ない。それを察せられてしまうからこそ、ベルがより怒るのだ。

幾度となく続く剣戟はやがて嵐のように激しくなり、そしてついに…………。

 

「あ………………」

 

リリルカの目の前でベルとオッタルが落ちた。

二人の激突についにダンジョンの地面が耐えられなくなったのだ。砕け散った地面は下の階層へと落下し、その崩落にベルとオッタルも巻き込まれる。

普通の冒険者ならそれだけで大怪我、下手をすれば死亡するだろう。だがこの二人はそんなことはない。ベルが落っこちたことに少ししてハッとしたリリルカは慌ててその穴を覗き込んだ。ベルが怪我を負ったと思いたくないからこそ確認したいのだ。

だがそれは杞憂で終わる。

下の階層に落ちたベルとオッタルだが、両者の姿はそこにはない。だがしっかりと聞こえる金属同士の激突音に二人が生存、未だに戦っていることが窺える。

だからこそ、リリルカは急いで下の階層へ向かうべく駆け出した。

 

「ベル様を止めないと! あの方は絶対に無理するし、それにあれが本当に『猛者』ならいくらベル様だって危ない!」

 

ベルを止めることがどういうことなのかを分かった上でリリルカは行動する。ベルが心配なのが凄く占めているが、それ以外にもオラリオにおけるパワーバランスに影響が出ることを危惧してもであった。最悪ヘスティア・ファミリアの解散もあり得る。入ったばかりだがソーマ・ファミリアに比べれば明らかに居心地の良い場所で、それにベルとの唯一といって良い『繋がり』なのだ。それを守りたいからこそ、彼女はベルを止めるのだ………何よりも大好きな人の命を思って。

 

 

 

「いい加減その首置いてけ、オッタル!」

「貴様にくれてやるような安い首ではない。貴様こそ諦めて去れ。今ならまだ見逃してやる」

「言ったな、臆病物の腑抜けが! 『猛者』の名が泣くぞ!」

「そんなものなどフレイヤ様の前では意味などない」

 

下の階層にてベルとオッタルは併走しながら攻防を続けていた。

足場が崩落したことにより一旦仕切り直しになったため、オッタルはその隙をついて撤退するために駆け出した。それに気付いたベルは尚も逃げようとするオッタルに怒りながら大太刀で斬りかかった。その際に少しでもオッタルの足を止めるべく挑発するも今のところは空振り。

 

「どちらか選べ、オッタル! この場で首を取り合うか、大人しくその首を差し出すか!」

「断る。俺は死ぬわけにはいかない。俺の命はあの方のものだ。あの方がいらぬと仰らない限りはこの命、くれてやるわけにはいかない」

 

ぶつかり合う剣戟の轟音と共に駆けていく二人。一合一合の度に言葉が交わされるがまったく引かない二人。そして戦いは更に苛烈していき更に下の階層に飛び込むベルとオッタル。リリルカはそんな二人を後から必死に追いかけた。

 そして二人の戦いは11階層へと到達。周りの景色は真っ暗な洞窟から白い霧で覆われた草原へと変わる。

 

「オォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

「ぬぅんッ!」

 

ぶつかり合う轟音にベルの咆吼が混じり合い木霊する。その咆吼に比例していくかのようにベルの攻撃は熾烈さを増し、オッタルも次第に力を押さえてはいられなくなっていく。互いの攻撃に籠もっている殺気、それを感じ取りベルはニタリと凄惨に笑う。

 

「やっと少しは殺る気になったみたいだな」

「貴様相手に手を抜いている場合ではなくなった。貴様こそ、その首が落ちないように注意しろ。でなければ本当にその首落ちるぞ」

「抜かせよ、この阿呆」

 

日頃の紳士な部分が完全になくなった百パーセント薩摩兵子のベルは口調がかなり荒くなる。それはその分殺意が濃いということだ。それだけオッタルの首級が欲しい、大手柄が欲しいという証明でもある。

またオッタルももう押さえるのに限界を感じていた。今のベルの強さはレベル6よりも上かも知れないほどに凄まじく、油断できない。手加減していては本当に自分の首が刈られると理解させられるくらいにその実力差は逼迫していると言ってもいい。だからこそ、この男を止めるためには『本気』でいくしかない。その結果ベルを殺してしまったとしたら、その時はフレイヤの前で自害することも厭わない。彼女に自分の生殺与奪権は全て委ねているのだから。

そうなれば剣戟はより濃厚になり激しくなる一方になる。互いの攻撃の重さが致死量に達し、少しでも失敗すれば死ぬことが確定する。そんな油断できない決死の攻防を二人は併走しながら行っていく。それまで無傷だったが、こうなっては無傷とはいかなくなり、致命傷でなければ大なり小なりの負傷を互いに負っていく。躱しきれずに浅く切れ、防ぎ切れずに骨が軋む。互いに傷だらけになるがそれでも攻撃は怯まない。互いに相手の首を取ることだけが目的となった剣戟はまさに死合いと言って良いものとなっていた。

勿論回りにモンスターがいるのだが、二人の戦いに水を挿せない。寧ろ巻き込まれて一瞬で灰へと変えられる。その様子を見れば如何にモンスターとて容易には近づかなくなる。

このままでは互いに決め手に欠けるであろう接戦。だがベルは『剣士』ではない。だから攻撃をするのに絶対に『剣』でなければならないという固定概念はない。

併走しているベルは道すがらいたオークの首を一瞬にして斬り落とし、それが灰に変わる前にオッタルに向かって投擲。剛速球で投げられたオークの頭部はオッタルの顔面に向かって飛んでいくが、オッタルはそれを目にもとまらない速さで両断。首は真っ二つになると共に四散した。だがその際に飛び散った血がオッタルの顔を赤く染めた。

それ自体は大したものではないが、一瞬だけ視界が遮られる。その一瞬にベルは近くにいたウサギ型のモンスター『アルミラージ』を斬り飛ばし、手に持っていたネイチャーアーム……岩で出来た片手斧のようなものを奪い取りオッタルに向かって投げつけた。

回転してオッタルに襲いかかる片手斧。それは普通の冒険者なら気付くのが遅れ気付いた瞬間には斧の刃が肉体に深く食い込み致命傷に達するだろう。

だがオッタルは違う。飛んできた斧を片手で弾き飛ばした。弾かれた斧は空中で粉々になり原型を残さず地面に降り注いだ。

突如行われた搦め手にオッタルは平然と対応する。その様子を見ながらベルは更に笑みを深めた。もとよりこの程度で取れるような相手ではないと分かっている。だが少しは虚を突き焦らせることに成功した。その証拠にオッタルから話しかけられる。

 

「こんな手を使うとはな」

「卑怯かい?」

「いや、ただ貴様は刀を使う割にそれに執着しないのだと思っただけだ」

「当たり前だろ、これは首の取り合いだぞ。首の掻き合いに道理なんてない。使える手はなんだって使わなきゃそれこそ相手に失礼だ」

「まさに戦闘狂だな」

「僕は功名餓鬼だ、手柄にしか興味ない」

「余計に性質が悪い」

「それが僕の喜びだ」

 

ニヤリと笑いながら斬りかかるベル。その殺意と共に上がっていく剣速にオッタルは冷や汗を掻く。

やはり自分が危惧した通りの相手だと。そして主神がこの男を欲しいと言わなかったことを心底安心した。この男は危険過ぎる。

何せこのレベル7である自分でさえ今では『気が抜けない』のだから。レベル6の冒険者を相手にしたってここまで危機感を感じたことはないだろう。確かにこちらには殺せないというハンデがある。その差は実力が同レベルの相手なら圧倒的にこちらを不利にさせるものだ。だが、ベル相手の場合はそれよりも危険だ。同じレベルというよりも気を少しでも抜けばあっという間に死ぬかもしれない。不利な条件な上に『手が抜けない』という今の状況はまさに最悪と言って良いだろう。だがそれ以上にオッタル自身困惑していることがあった。

 

(俺はこの戦いを………楽しんでいる……のか?)

 

手が抜けない殺し合い。相手の命は取らないようにするがそれもギリギリ、既に瀕死にしても構わないとさえ考える程に揺るがされる信念。主神を裏切ってしまいかねないこの状況に戦々恐々としながらもオッタルはこのぶつかり合いを心のどこかで楽しいと感じていた。闘争本能の昂ぶりを、魂が激しく輝くその気配を感じ取った。

それは武人としての自分の本音なのかもしれない。今までにおいてここまで『窮地』に追いやられたことがないオッタルにとって初めて感じた死の予感。まさに『自分の天敵』と言っても良い存在。

そんな存在との殺し合いは死ぬかもしれないが心躍るものがあったのだ。

だからオッタルは自分で気付かないが口元を軽くつり上げて笑った。本人は自覚していない笑みだが、それは誰がどう見たって『殺意』に溢れていた。

 

「貴様が死ななければいいだけの話、ならば『死んでいなければそれ以外は許される』」

「やっと殺る気になったか。なら僕の首を取りに来い。僕はその首級を取ってやる」

「抜かせ、若造が」

 

そして始まったのは先程の死闘ですら嘘に思える程の激戦。

いつも寡黙なオッタルでさえ雄叫びを上げて大剣を嵐のように振り回し、ベルも雪崩のように全てを押し潰さんと剛剣を振るう。そのぶつかり合いは一太刀でこの階層を揺るがし足下の草木が吹き飛ぶ。それが絶え間なく連続でぶつかり合うのだ。あっという間に11階層の環境が破壊され荒れ地へと変わっていく。周りにいたモンスターは完全に逃げ出し、逃げ切れなかった者は二人のぶつかり合いの余波だけで灰へと変わっていた。

二人の叫びが激突音と共に二重に響き渡り、更に苛烈さを極めていった。

 

 

 

 二人がぶつかり合っている衝撃で揺れる足元を感じながらリリルカは必死に駆けていた。息が苦しくて心臓の鼓動を全身で感じ、全身から噴き出す熱と汗でぐしょぐしょになりながらも駆け続ける。

彼女はベルを助けるために必死だ。大好きな恩人が死ぬかもしれないと思うだけで心の底から凍りつくくらい怖いと思う。

だからこそ、そうならないためにも必死になって走り、誰でも良いから助けを求めた。

このダンジョン内でそれに応じる者などいないかもしれない。誰だって危険に自ら飛び込む物好きはいないだろう。普通に考えればそれぐらいわかる。彼女だってそう思うだろう。だが、それでも彼女は助けを求める。

 

『自分ではベルを助けられない』から。

 

知識や経験を使ってのサポートなら多少の手助けは出来る。だが、あんな化け物との戦いなどどう足掻いても助けなど出来ない。冒険者としての才能がない自分では絶対に無理だ。なら冒険者に助けてもらうしかないのだと、それ以外方法がないからと、それ以外考えられなかった。

そしてそんな彼女の願いをこの地上にいる神ではないどこかの神が聞き届けたのか、彼女の前に冒険者達が現れた。

その奇跡に歓喜と混乱が入り交じり、目の前にいる冒険者が『どこの誰』なのか分からないままに彼女は泣きそうになりながら必死に懇願した。

 

「お、お願いします! ベル様を……ベル様を『止めて下さい』!!」

 

突如として現れたリリルカの様子に困惑する様子を見せる冒険者達。それは年若い老若男女達であった。

 

「お、落ち着いて、小人族ちゃん?」

 

褐色の肌をもつアマゾネスの少女にそう言われても彼女は懇願を辞めない。

その様子に事態の重さを感じ取った一同。その中で美しい金髪をした少女が聞き覚えのある名前を聞いてリリルカに話しかけた。

 

「ベルに何か……あったの?」

 

それはロキ・ファミリアのレベル5『剣姫』の二つ名をもつアイズ・ヴァレンシュタインであった。

 

 

 

 リリルカのそんな懇願から少しだけ時間が経つが、二人の激戦は止まる気配を見せない。血飛沫によって紅く染まった嵐の中心点にてオラリオ最強と薩摩兵子が激突し合う。互いの身体は血で汚れており、それが自分のものか相手からの返り血なのか、もはや真っ赤に染まりすぎて判断が付かない。

そんなボロボロな二人だが、未だに決定打は打てていない。その為か。互いの傷に致命傷はなかった。

互いに殺気の籠もった壮絶な笑みを浮かべながら相手を斬らんと刃を振るいぶつかり合う。オッタルがどうかは知らないが、ベルの肉体はこれ以上ない程の疲労を感じていた。ここまで接戦したのは初めてのことだったので、その分消耗しているようだ。だが、その程度で薩摩兵子は止まらない。疲れていようが何だろうが、死なない限り薩摩兵子は止まらないのだ。

 

「いい加減にその首置いてけ、オッタル」

「何度も言うが絶対にやらん。貴様こそ諦めろ」

 

同じような問いかけを何度もするが、二人の答えは同じ。

そろそろ終わらせなければ色々と問題が出るであろうとオッタルは考え、そして無茶をすることに決めた。

 

「これで終わりだ、ベル・クラネル」

「それはこっちの台詞だ、オッタル」

 

そして今までで一番の踏み込みを行う二人。その一歩だけで地面が砕けた。

 

「オォオオォオオォオオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」

「チィエオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

咆吼を上げながら互いに突進し仕掛ける二人。そして先に刃が届いたのは……………斬られる覚悟を決めたオッタルであった。

ベルの右肩から左下の腹へと斜めに斬線が走り、そこから血が噴き出した。その出血量から見て明らかに致命傷。それでも身体が半分しか斬れていないことはそれだけベルの身体が頑丈だったという証明でもあるだろう。何せレベル7の本気間近の斬撃を受けてこの程度で済んでいるのだから。

ベルの負傷を見れば誰もがベルの負けだと分かるだろう。その傷で助かるとは思えない。

だが…………………。

 

ベルの目は死んでなどいなかった。

 

その殺気でギラギラと輝く目は輝きを失うどころかもっと眩しく輝きを放つ。

その目を見てオッタルは若干ながら呆れてしまった。このレベル7の攻撃を『受けるつもり』でいたことがわかってしまったからだ。自分も覚悟を決めたつもりであったが、目の前にいる化物はそれを更に上回っていたのだ。

 

「阿呆が」

 

血を噴き出しながら立っているベルにそう告げるオッタル。

そんなオッタルにベルはニヤリと口から血を出しつつも笑う。

 

「阿呆はお前だ、『猛者』オッタル!!」

 

そしてベルは致命傷を受けた身体なのに信じられない速度で大太刀を振るった。

咄嗟に回避行動に移れたオッタルは流石と言えるだろう。それこそ彼の『レベル7』としての全力の回避といえた最高速度の動きといえよう。

だが、それでも…………ベルの動きはオッタルの速さを超えた。

 

「ッッッッッッッッッッッッッッッ!?」

 

激痛を感じ息を飲むオッタル。そしてその痛みの発生源を見ると、そこには本来あったはずの物がなかった。

本来あるはずである剣を持っていない方の…………左腕がなくなっていた。

そう認識した途端に身体が思い出したかのように血が噴き出した。

左腕の二の腕から下が綺麗に斬られており、オッタルの足下にそれが転がっていた。

その負傷にオッタルは驚くが、それ以上にそれをしたベルに驚き感嘆する。

何よりも感心したのは、それでも尚止まろうとしないベルのことだ。

 

「さぁ、その首置いていってもらおうか」

 

血が噴き出すのを気にした様子もなく、まさに首級欲しさだけで真っ直ぐとオッタルを睨み付けるベル。そしてベルはその発言を実行に移そうとして動こうとしたが…………。

 

「ベル、止まって!!」

「その傷じゃ死んじゃうって!!」

「流石にオッタルを殺されるのは不味いからね」

「チッ、何で俺がこんなマナー違反なんかしなきゃいけねぇんだ」

「うっさいわよ、駄犬。団長が決めたんだから命令は絶対なんだから」

 

身体が動かなくなった。

その原因は聞こえた通り、複数の人間に身体を取り押さえられているからだ。

それがリリルカの懇願を聞き入れたロキ・ファミリアの幹部メンバーであることをベルが知ったのは後日の話。今はそんなことを気にしている余裕などなかった。

ただ目の前にいるオッタルがこの死合いに水を挿されたことによって若干冷静に戻り、それによって斬り飛ばされた腕を回収していた。

そしてベルに向かって告げる。

 

「俺の首をやる気はまだない。もう少しその腕を磨いてから出直してこい」

 

そう言って全力で駆けベルの目の前から立ち去った。

その後ろ姿を見ながらベルは血が止まらないのを気にせず叫ぶ。

 

「待てぇ、オッタル!! ふざけるなよ、お前!! 首置いてけ!! 首置いてけ!! オッタルゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッッッッッ!!!!」

 

ダンジョン内をベルの悲痛な叫びが木霊した。

 

 

 

 

 こうしてベルは大将首を取れなかった。

後日談の一つとしては、ベルはその後力なく倒れると見事なまでのイビキをかきながら眠っていた。

 


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