ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

26 / 47
遅れて申し訳ないです。リアルの仕事がメチャクチャ忙しくて下手したら月一投稿になりかねない現状ですよ………。


第25話 ベルが戦ってる時に彼女達は

 ベルが叫び寝る前の一幕にて語ろう。

ベルがオッタルと死闘を繰り広げる中、リリルカは必死にベルを追いかけながらベルを助けてくれる冒険者を捜し回っていた。

そして見つけたのが遠征に向う最中であったロキ・ファミリアの一団。彼女はもう誰これ構わずに助けてくれと叫び集団に飛び込んだ。そんな彼女の必死な様子に周りの団員達もタダゴトではないと判断し、指示を仰ぐべく上位の者を呼ぶことに。最初は次期団長候補である『超凡夫(ハイノービス)』ラウル・ノールドが呼ばれリリルカの話を聞くことになり、彼女はベルを少しでも早く助けたい一心で若干早口で話し始めた。

その話の内容で分かったことがいくつかあり、その中に信じられないものもあった。普通ならまず信じないであろう話であるが、リリルカの必死な様子にそれがどうにも嘘には見えなかった。何よりもその情報が確かなら、レベル4であるラウルでは明らかに手に負えるものではない。ここで冷静な判断を下せる者ならばリリルカの願いを断っていただろう。同じファミリアの者ならともかく、他所の神の眷属を助ける道理はないのだから。

だが、ラウル・ノールドという男は根っからの『善人』であった。

だから彼はリリルカの話を親身になって聞き、その話を自身の判断と共に更に上位の者………団長であるフィン・ディムナに相談した。

そしてその話を聞いたフィンや幹部達はそこで奇妙な縁がある男の名を聞くことになる。

 

「ベルが……いるの?」

 

数日前に稽古を付けてもらっていたアイズ・ヴァレンシュタインが驚きながらそう呟いた。

彼女にとってベルはある意味特別だ。自身の目指す先にいる存在であり今尚その背中を追いかけている。異性としても…………気になる存在でもあった。

そんな相手がよりにもよってあの『猛者(おうじゃ)』と戦っているというのだ。いくらレベル5のアイズよりも強いかもしれないベルであろうとレベル7のオッタル相手では流石に危険過ぎる。レベルの差など気にしていないベルだということはアイズも知ってはいるが、それでも冒険者のレベルの差は絶対的なものがある。レベルの一つ差でギリギリ、二つ違えばほぼ絶望的。上位であればある程に顕著だ。つまりオラリオ最強のオッタルとベルとのレベル差はベルが冒険者を始めた時期から鑑みて、最悪でも6差があるのだ。まず勝てないどころか瞬殺、一瞬にしてベルが肉塊になるであろう。

そんな最悪な未来を想像してしまったアイズは直ぐに走り出した。

フィンや他の幹部達はまだ助けるか決めていないのに走り出してしまったアイズを見て驚き、慌ててアイズを追いかける。

 

「待て、アイズ!」

「ちょっ、アイズ!?」

「待ちなさいよ!」

 

幹部の女性3人がアイズにそう声をかけるが止まらない。そしてそんな様子を見ながら悪態を付きつつも狼人の青年は追いかけ、フィンはそんな幹部達を見つつも他の団員に指示を飛ばす。

 

「ガレスはここに残って他の団員達と待機していてくれ。僕は急いで皆に合流する。だから案内を頼むよ、小人族のお嬢さん」

 

その言葉と共に抱えられるリリルカ。思慕の念を抱くベル以外にそうされ本来不快感を感じるものだが、今は緊急事態であるためそんなことは気にならず寧ろベルの救助に応じてくれたフィン達には感謝しかないリリルカは今にも泣きそうになっていた。

 そうしてリリルカの案内の元、ベルがいるであろう階層に最速で到着したフィン達一同。そこで彼等が目にしたのは…………。

 

「嘘だろ………………」

 

そう思わず漏らしたのは口が悪いが実力者のレベル5であるベート・ローガだ。

彼にとってベル・クラネルという存在はある意味無視できない存在である。自身に泥を塗ってくれた屈辱があり、直ぐにでもぶちのめしたい相手だ。過去の因縁で一方的にボコボコにされたのは今でも忘れない。それぐらいに意識している。

そんな相手が最強の存在相手にどうなっているのか? 死なれては屈辱を晴らせないということも加味して彼はこの場に赴いた。あのレベル7を前にしてどれほどの大怪我を負っているのか、生きているのかが気になった。

だが、ベートの予想は目の前の現状を前に粉砕されたのだ。

フィン達率いる一団が見たものは、真っ白な霧に覆われつつある草原にて周りのものを何もかも巻き込んで破砕しつつ激突し合う二人の冒険者だ。

方や大剣を軽々と振り回して剛剣を振るうレベル7『猛者(おうじゃ)』オッタル。

そしてもう片方は防具らしい防具を一切身につけず自身の背と同じほどの長さを持つ大太刀を振るいオッタルに襲いかかるベルであった。

二人の剣戟がぶつかり合う度に衝撃が走り階層が揺れる。その衝撃に巻き込まれるだけでモンスターは灰と化し、周りの岩や木々が吹き飛んだ。

目の前で行われている激戦に言葉を失う一同。とても冒険者同士の戦いには見えない。寧ろ巨大なモンスター同士がぶつかり合っている印象を思い抱かせるくらい、その戦闘は激しかった。

そんな光景を見ながら各自感想を口から漏らす。

 

「あの猛者が決めきれないなんて……」

「団長でさえ戦うことを避けてる相手なのに………」

「チッ、あの野郎…………」

「何という人間だ!? あの猛者相手にこうも戦うとは………」

「え、あれって猛者が手加減してるとか、そういうことは……」

「僕の目からみてオッタルはあまり余裕がないように見える。彼は今、かなり力を出してるよ」

「ベル……………」

 

そんな感想を聞きつつもリリルカはベルを止めて欲しいと願った。やっと止めるための手段がとれたのだ。急いで止めて欲しいというのが本音だ。

だが、そう思いつつも彼女もまたベル達の戦いに魅入ってしまう。普段の紳士で優しいベルとは違い、今のベルは目の前の首級を欲しいと嬉々として狂気に染まった笑みを浮かべる薩摩兵子。これまでもそれは見てきたが、今回のそれは更に凄い。常人なら発狂して逃げ出すくらい恐ろしい。だが、そんなベルもまたリリルカは『素敵』だと思ってしまった。ある意味無邪気な様にも見え、それが母性本能をくすぐった。

だからこそ、魅入ってしまう………この戦いで輝くベルを。

正直もう彼女は救えないくらい染まっていた。自覚症状なしに。

そんな彼女と同じくアイズもまた魅入っている。

彼女は力を求める。それは昔からで今も変わらない。そして最近行き詰まりを感じ悩んでいたところでベルと出会い、彼の強さに惹かれた。そしてそれを学ぼうと思い彼に稽古を付けてもらい、少しでも学んだつもりだ。

だが、まだまだ先があることを今、彼女は知った。あのオラリオ最強にまったく引けを取らないベルの強さと、そしてその狂気を。

その姿に彼女は情景を抱いてしまった。あんな風に強くなれれば、きっと自分の願いも叶うと。あんな風になりたいと。

それと同時に顔が熱くなった。情景と同時に恋心が芽生えてしまったのだ。ベルが格好いいと、前から思っていたが今回のこれで決定打となった。その姿に憧れ、その精神に焦がれ、そのあり方に羨望する。

アマゾネス程ではないが、強い男に女性は惹かれる場合がある。まさにそれだろう。アイズはベルに魅入っていた。そう成ってしまっている辺り、彼女もまた『汚染』されているのだろう。きっとヘスティア辺りが知ったら胃痛を感じつつ同情するかもしれない。

そんな視線も含めて皆が注目する激戦も佳境へと入った。

お互い致命傷とまではいかなくても手傷が多く血で紅く染まる両者。

二人は互いに何か語り、そして殺気を噴き出す。その殺気に身震いしながらフィン達が見ていたところで両者が動いた。

その速さはレベル6には何とか、レベル5では見切れない程の速度だ。だからアイズ達が見たのは両者の攻撃が終わった後。

結果、ベルの身体から血飛沫が噴き出した。

 

「ベル様!?」

「ベル!?」

 

リリルカとアイズがベルの血を見て血相を変えて声を上げる。誰がどう見ても致命傷をベルが負ったから。

特にリリルカなんて目から涙が溢れ出してしまっていた。

二人を覗いたフィン達はこれで勝負が付いたと思った。あの傷ではもう戦う事など不可能だと分かるからだ。後は死にかけているベルを皆で回収し治療して死なせないようにすればいい。オッタルが相手でもこの人数で高レベルの者達だ。時間稼ぎや退避くらい出来るはずである。

だからフィン達はベルに向って歩こうとし、そして止まった。

その顔は驚愕し目を見開いている。

何せ目の前であり得ないことが起こったからだ。

確かにベルは致命傷を負った。もう戦える身体ではない。死んでもおかしくないくらいの重傷。だというのに、彼は……………。

 

立っていた。

 

自分の身体から夥しい程の血を噴き出しながら、それでも身体はまったく動じぬと言わんばかりに立ち、そしてその顔はギラギラと瞳を輝かしながら笑っていた。

そして次の瞬間、それこそレベル6であるフィンでさえ見切れない速度で動き、オッタルに斬りかかったのだ。

その結果、オッタルの左腕が地面に落ちた。

血を噴き出す左腕を見ながらオッタルはベルに目を向け、ベルは血を噴き出しながらもまったく殺気を衰えさせることなく戦おうとする。

これ以上は両者とも危険だ。

そう思ったからこそ、フィン達は飛び込みベルを押さえたのだった。

その結果、この死合いは終わり、叫んでいたベルは限界を迎えたのか豪快にイビキを掻きながら眠り始めた。

その様子を見て皆が異常ぶりに驚くしかなく、リリルカはベルの胸元で泣き始めた。

やっと穏やかになった雰囲気にて、ベートがあることを口にした。

 

「そいつのレベルを確認させろ。いくらなんでもあの強さはおかしすぎるだろ」

 

それは普通に考えてマナー違反の中でも特に禁忌なものであった。冒険者のステータスは同じファミリア内の団員であろうと見せて良いものではないのである。それを見られればその者のスキルや弱点なんかも判明するからだ。

当然そのことを周りの者達は嫌がった。だが、あの最強と渡り合う強さの秘訣を知りたいという気持ちもあり、治療の為にも着ているものを脱がせる必要があったため、『仕方なく』見ることにした。

そしてその場で衰えさせることなく驚きのあまり素っ頓狂な声が上がる。

 

「レベル…………薩摩兵子?」

 

それは彼等にとって初めて見た異端であった。

 

 

 

純白の室内にて、雌の色香を前面的に噴き出しながら身悶えしている者がいた。

その名はフレイヤ。美を司る女神にして、オラリオにいる神々の中で一番美しい者である。彼女は目の前にある鏡を恍惚とした表情で魅入り続けていた。目は潤みトロンとし、その快楽と興奮に耐えきれなかったのか両手は体中を愛撫する。きっとこの姿を見たら男だろうが女だろうが神だろうが欲情して正気を失うだろう。それぐらい今の彼女は妖艶で淫奔だった。

そんな彼女がいる部屋の扉がゆっくりと開けられる。

そこから出てきたのは左腕に包帯を巻いている猪人……彼女のファミリアの団長を務めるオラリオ最強の冒険者、オッタルである。

彼は包帯の先にある『左腕』の違和感を感じつつも敬愛なる主神に報告する。

 

「いかがでしたか」

 

その問いかけに今にも絶頂しそうなフレイヤはとろけそうな甘い声で答えた。

 

「最高だわ、オッタル。あまりの刺激に何度も気をヤッてしまったくらい」

 

恥も外聞もなしにそう答えるフレイヤにオッタルは静かに応じる。

 

「それは何よりです」

 

フレイヤはこの興奮の余韻をまだ感じたいと思いながらも今回の最大の功労者である眷属に労りの言葉をかけることにした。

 

「オッタル、ご苦労様。その左腕は大丈夫なの」

「はい。ディアンケヒト・ファミリアに行って接合していただきました。満足に動くのにしばらくはかかるかと。その間、フレイヤ様の護衛はアレンに任せたく」

 

自分の怪我よりもフレイヤの事を第一に考えるオッタルはそう告げる。彼らしい言葉にフレイヤは苦笑した。相も変わらず真面目だと。

オッタルがそういう対応を取ることはいつものことだ。だから彼女としても慣れている。

だが、ここで一つだけいつもと違うことが起こった。

 

「僭越ながらフレイヤ様、一つだけ申したいことがございます」

「あら、何かしら」

 

オッタルはフレイヤの目を見つめながらこう告げた。

 

「ベル・クラネルは俺の『宿敵』です。きっと貴女様を満足させられるでしょう。お気を付け下さい。あの男は神々であろうと躊躇せずに斬る、そういう男ですので」

 

そう語ったオッタルを見て、フレイヤははくすりと笑いながら答えた。

 

「まるで私よりもあの子の事を分かってるみたいね。妬けちゃうわ」

 

その言葉が室内に染み渡り、オッタルは無言でそれを肯定した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。