ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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あけましておめでとうございます。
今年も何とか投稿できました。今回も申し訳ないことに薩摩成分少なめとなっています。


第27話 ベルの二つ名は……

 オッタルとの激闘から少しだけ時間が経ち、向こうはどうだか知らないがベルは相も変わらず手柄を求めてダンジョン内で暴れ回っている。その暴れっぷりはそれこそ以前以上に磨きがかかり、雑魚であれば首が飛んでいることに気付かず終わり強い中層モンスターであっても一撃で大体殺しきる。酷い時なんてキラーアントの堅い鋼殻を素手で殴り砕き、大太刀なしで殴り殺して行ったくらいだ。それも一匹が殺されたことで本能的に死を感じたキラーアントが本来瀕死状態にならないと出さない危険信号を発し、途轍もない程の量のキラーアントが群れを成して襲いかかってきたのを狂気の笑いを上げながら飛び込んでいき一人で全部殺しきった程に。 

冒険者の常識ではまずあり得ないことを平然とやり、それを笑いながら蹴っ飛ばす。その光景はある意味爽快であり、リリルカは心配しながらもベルの凄さに感嘆していた。

そんなベルではあるが、まだまだ不満だらけのようだ。まぁ、無理もないだろう。何せオッタルという最上の首級を取り逃したのだから。だからこそより昂ぶるというものであり、ベルはオッタルとの再戦を待ち望みながらより薩摩兵子として磨きをかけていた。

斬っては斬って、斬りまくって…………大太刀が振るわれる度にモンスター達は灰と化す。その光景を見ながらリリルカはあることをふと思った。

 

「ベル様ベル様、リリはふとあることを思ったんですけど?」

「何がだい、リリ?」

 

若干殺気に輝く目をしつつも『紳士』らしく優しく反応を返すベル。そんなベルにリリルカはベルの背に装備されている大太刀を指しながらこう言った。

 

「その大太刀、凄い切れ味ですけどどう見たって普通のものですよね。ならそろそろ手入れとかした方がいいんじゃないですか?」

 

彼女は以前この大太刀を盗もうとしたことがあり、その結果この大太刀が業物でもなんでもない普通の物だということを知っている。(それでもベルの乱暴極まりない使い方をしてもまったく壊れない辺り、ある意味業物と言えなくもない)

そう言われベルは大太刀を背から引き抜くとリリルカに見えるように前に翳す。

 

「僕もそろそろしようとは思ってたんだ。こういうのは一応出来るけどやっぱり本職の人の方がいいからね」

「うわぁッ、なんですかコレ!? 刃こぼれだらけじゃないですか!」

 

彼女が見た大太刀はかなりの刃こぼれが見受けられ、下手をすればナマクラに見られても仕方ないくらい酷い状態だった。そんな大太刀を使って余裕でモンスターをぶった斬るベルの腕が凄いと褒めるべきか、ここまで酷く使っていることに注意をするべきか悩むところであるリリルカ。

ベルは剣の腕は確かだが師匠が師匠である。そこまで細やかな性格ではないので刀の手入れも大雑把にしか教わっていないのだ。だからベル本人が言う通り、こういうのは本職である鍛治師に任せることにしている。

 

「それじゃぁ明日はダンジョンに行かずにその大太刀を診てもらいに行きましょうか」

 

二人きりで街にデートだと考えたリリルカは嬉しそうに笑いながらそう提案した。

そう言われベルは少しばかり困ったような顔をする。

 

「いや、まだ使えるし明日もダンジョンに………」

 

しかし、それを彼女は絶対に許さない。

 

「いいえ、明日に絶対行くべきです! その大太刀が凄い物でもそんな状態なんですからいつ何時壊れるかわかりません! もし武器がなくなったりしたら…………」

 

明日のデートの為に強気に出るリリルカ。言っていることは正しく、もしダンジョン内で武器が壊れたりしたらその時は絶望的だろう。いくら冒険者とて武器ありで戦えるものだから。

だが、そう言いつつも彼女の脳裏に駆け巡るベルの肉弾戦。素手でキラーアントの群れを殴り殺していく様子を思い出し、こう言ってもベルなら普通に戦えてしまうと分かってしまう彼女は途中で言葉を変えた。

 

「相手の首を取る際に武器が壊れたら取れないじゃないですか。ベル様にとってそれは一番不本意になるんじゃないですか」

「確かにそれもそうだね。首を取るのに大太刀なしじゃ確かに困る。いくら僕でも相手の首は引き千切れないからね」

 

ホラー丸出しなことを平然とした顔で言うベル。少し前のリリルカならドン引きするところだが、ある意味振り切りつつある彼女はそれを平然とスルーした。

 

「そういうわけで明日は一緒にバベルのお店に行きましょう」

「うん、そうしようか」

 

こうして翌日二人は一緒にバベルの塔にある店に向うことになった。

 

 

 

 ベルが順調に回復していく中、ヘスティアは珍しく着込んであるイベントに参加していた。

そのイベントの名は『神会(デナトゥス)』………3ヶ月に一回のペースで開催される神々の会合であり、これにはランクアップした冒険者の報告とその冒険者への『二つ名』が決められるなど様々な話し合いが行われている。地上に住む子供達にとってまさに神々しく荘厳な会合だと思われているのだが………まぁ、その実態は暇を持て余している神々が3ヶ月に一回のペースでドンチャン騒ぎをするというだけの代物だ。確かにそれらしい話をしなくもないが、大概は自分の所の子供自慢かもしくは巫山戯合いといった暇神達の戯れである。

今まで参加してこなかった彼女であるが、何故今回参加することにしたのか?

それはベルの『異常さ』を少しでも和らげる為であった。

前回の一件でロキにバレた際、彼女は今後どうしたらよいのかをロキに相談した。普段の彼女なら犬猿の仲であるロキにそんなことなどまず話さない。だが、彼女の精神はもうかなり摩耗していたのだ。それは彼女が使用している胃薬の量を見れば分かる話。そんな彼女を見て宿敵でもあるロキは見ていられないほど痛ましい気持ちになり、若干だけ優しくヘスティアの話を聞いてあげた。

その結果が『神会』への参加。ロキは今回の件でベルのことを隠しておくのは不味いと判断したからだ。流石にあそこまで異常な存在を隠し切るのは不可能だし、何より本人自身がそれをまったく自覚していないのである。いつボロが出るかわかったものじゃない。ならばいっそのことバラしてしまい公にしてしまえば良いと判断したのだ。ヘスティアが『神の力』を使って違反をしたということはないということは証明出来る。故にベルがバグっているだけだと。

 その話をすべく彼女は『神会』に来たのだ。流石に今回の件は少しばかり危ないということであのロキでさえサポートをすると言ってきている。これは本人には絶対に言わないが心強い。

 そんな頼もしさを感じつつ、ヘスティアはここにいた。

周りにいるのは自分と同じ地上に降り立った神々。その中には見知った顔や友神もおり、会う度に色々言われながら挨拶していく。

そしてある程度歓談が終わったところでこの『神会』の本題である自分達の子供に関しての報告会が始まった。

 段々に決まっていく新たにランクアップした子供達への『痛い』二つ名。意見を出し合いより面白い名にしようという周りの神々はテンション高く馬鹿笑いし、自分の所の子供に酷く痛い名前を付けられた神は絶望し蹲る。そんな神々にあるまじきとしか言い様がない光景が目の前で繰り広げられ、毎度のことながら慣れている神達はそれを冷めた目で見ていた。

 

「狂ってる………」

 

初めて参加したヘスティアはそう小さく口にすることしかできなかった。仮にも子供の今後を左右しかねない大切な二つ名をこうして決めていることに正気を疑いかけた。

 

「こんなの毎度のことよ。慣れときなさい」

「ま、暇な奴らが娯楽を求めて馬鹿騒ぎするとこうなるもんやって」

 

この神会に参加していた友神のヘファイストスとロキが慣れた様子でそう語る。彼女達のような大所帯はもう何度も参加しているので、この異常な光景も見慣れていて既に常識になっていた。

そしてある程度話が進み、ついにヘスティアの番となった。

 

「皆に聞いて欲しいことがあるんや。ほれ、おチビ」

「う、うん……」

 

ロキに促されるように前に出たヘスティアは周りの視線を感じて萎縮しつつも何とか前を向く。

 

「実は僕の子供になった子なんだけど、その子のレベルがおかしくて。それでこのままにはしておけないってことで皆に聞いてもらおうと思ったんだ」

 

何とか決心してそう語り出すヘスティア。

そんな彼女を見て周りの神々は好奇心旺盛に注目する。そして周りからひそひそと囁くレベルの会話が出てくるが、その内容はそもそもヘスティアに眷属がいたのかということばかりであった。まぁ、出来たばかりのファミリアの知名度などこんなものだろう。

だがロキの次の言葉でそれは変わった。

 

「その子供の名はベル。ベル・クラネルっていうんや。真っ白い髪に紅い目、そして身の丈程ある大太刀使いって言えば聞き覚えもあるやろ」

 

「「「「「「「あぁ、あの噂の!!」」」」」」

 

オラリオの中で最近噂になっている白髪の大太刀使い。曰く、レベル5を素手で一方的にボコボコにしたとか、怪物祭の時に暴れるモンスターを笑いながら殺しまくっていったとか。どこぞのファミリアにたった一人で襲撃をかけたとか…………。

そんな噂話が出ていることを再認識したヘスティアはきゅうっと胃が痛くなるのを感じ手を添えて堪えた。

 

「その噂の冒険者が僕の子供なんだ。噂がどこまで尾ひれがついているのか分からないけど、その強さは本物だよ」

 

そう言うヘスティアはどこか疲れた顔をする。

そんな彼女の表情に周りの神々が疑問をもちつつも今話題の人物の方が気になり質問を投げかけた。そしてその中に今回の本題も当然来る。

 

「それでその子供のレベルはどれくらいなんだ?」

 

その質問に周りの神々が皆うんうんと頷いた。

冒険者の強さはレベルに起因するからであり、それを聞けば大概は納得出来る。要はレベルが高ければ強いの一言で済むのだ。

だが、ベルの場合はそうならない。

ヘスティアは意を決して発表した。

 

「聞いて驚かないで欲しい。そして先に言っておくけど、僕は一切の不正を行っていないことを今この場で宣言する。もし疑うのならロキに聞いてみるといい。普段犬猿の仲であるこいつにさえ僕は相談をしたんだ。それがどれくらいの覚悟か、天界での僕とこいつの仲を見てきた君たちになら分かるはずだ」

 

その言葉に息を吞む神々。ヘスティアとロキの間柄といえばロリ巨乳と無乳という犬猿の仲であり、水と油のような関係だ。絶対に混じらない。それがこうまで言うのだ。確かに異常事態なのだろう。

 

「僕の子供、ベル君のレベルは……………薩摩兵子だ!!」

 

もうどうにでもなれと言わんばかりにヘスティアは発表した。

そして場の空気が一瞬だけ停止し、次の瞬間に爆発する。

 

「「「「「「はぁぁあああああああああああ、薩摩兵子ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!?!?」」」」」

 

今まで聞いたことないレベルに神々が騒ぎ出す。

 

「最早数字ですらねぇぇぇえええええええええええええ!!」

「おい、言葉の感じからして極東の字だぞ。タケミカヅチ、何か知らないのか?」

「確か極東の更に南側のド田舎にそんな地名があったような気が…………」

 

騒ぐ神々を尻目にヘスティアの側にいたヘファイストスは彼女に問いかける。

 

「それ、本当なの?」

「嘘をいう理由なんてないし、何ならギルドのエイナってハーフエルフに聞けばいいよ。彼女にだけはベル君の本当のレベルを見せてるから」

「そこまでいけば決定的やな」

 

子供は神に嘘をつけないという特性を活かした証明。確かにそれならはっきりとするだろう。だが、それでも信じられないと言う者も出てくる。

そしてそれらに対しヘスティアは………………キレた。

 

「それが嘘だったら僕はこんなにもストレスで胃を痛めたりしてないんだよ、馬鹿野郎ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

ヘスティア、魂の咆吼。そして…………。

 

「ッッッッげふッ!?」

 

限界突破、吐血した。

突如血を吐いたヘスティアに周りは騒然とし、ロキとヘファイストスは慌ててヘスティアの背中を擦る。

 

「おチビ、無茶しすぎやで」

「あの図太い神経の持ち主の貴女がここまでなるなんて、相当ヤバイ子なのね」

「ふふふふふ、ベル君に振り回されるのは正気じゃいられないよ」

「あかん、目が死んどる」

「これこそ疑いようがないわね」

 

そんなヘスティアの様子に周りの神々もこれが真実だということを認めざる得ない。いくら面白いことが好きな神々でも自分の身を削ってまでそんなことは普通しないのだ。

 そんなわけでベルのレベルが発表され、そこから怪物祭での戦いっぷりからレベルが1ではないと見なし、二つ名を与えられることになった。

 

「真っ白い髪に紅い目ならやっぱり兎?」

「いや、見た感じだと可愛い系だがここは敢えて怖い物を付けてみよう」

「大太刀一本だけで戦ってるならある意味極東の侍と一緒だよな。なら………」

「確か良く『首を置いてけッ!』っていうんだよな」

 

様々な意見が上がりヘンテコな二つ名が上がっていく。

 

『殺戮する白髪鬼(ホワイト・ジ・オーガ)』

『侍兎(サムラーイラビッツ)』

『妖怪首置いてけ』

 

どれもこれもロクなものがなく、ある意味難航していく。

そんな中、ヘスティアは椅子に深くもたれかかりつつベルの二つ名が無難なものに成ることを祈っていた。

 

(まぁ、あのベル君ならどんな二つ名だろうが興味ないの一言ですませそうだけど)

 

普通の冒険者ならかなり気にする所だが、この男に限っては別問題。自分の身一つあればそれで良いと言わんばかりなので、周りからどう思われようが何だろうが関係ないと言い切り気にしないのだ。だから深く考えてこれ以上胃を荒れさせたくないヘスティアは深く考えるのを止めた。

そして最終的に『妖怪首置いてけ』にきまりかけたところで待ったがかかった。

それは今まで一言も発していなかった『美の女神』フレイヤ。彼女は皆の前に出ると恋する乙女のような顔をしながら話し出した。

 

「あの子は今一番私の心を惹いてやまない子なの。そんな子の二つ名がそんなのなんて私が許さないわ。それにウチのオッタルもあの子を気にかけているの。『猛者』に釣り合うような二つ名じゃないとね」

 

そう語り、周りはまた騒ぎ出す。

またフレイヤの悪癖が出ただの略奪愛だの色々な言葉が飛び交う。今までフレイヤの強引な勧誘は幾度とあったが、今回のようにその主神の前で明言したのは初めてのことだ。だからこそ、ヘスティアとフレイヤの間にて注目が集まる。

普通であれば巫山戯るなと怒るべきなのだが、その明言に対しヘスティアは疲れた顔で笑いながらフレイヤに答える。

 

「君のそういう話は良く聞いているから驚きはしないけど、一つだけ教えておくよ。ベル君は普通じゃない。君の思うようには絶対にいかない。もし彼を欲しいというのなら、その時は覚悟した方がいい。彼は神だろうが容赦なく殺すよ」

 

その言葉を受けてフレイヤは不敵な笑みを浮かべた。

その間に流れる妙な雰囲気に戦々恐々としてしまう男神達。ロキとヘファイストスは深い溜息を吐いた。

そして改めて釘も刺されたことで考えついた二つ名が…………。

 

 

 

 

「『首狩り(ヴァイスリッター)』?」

 

「そう、それが君の二つ名だ」

 

神会から帰ったヘスティアはベルに決まった二つ名の発表を行う。

それを聞いたベルの反応はといえば…………。

 

「まぁ、いいんじゃないですか。僕は何がどう決まろうとやることは変わらないわけですし」

 

実に淡泊な反応にヘスティアは予想通りだと思った。

そして彼女は今回の神会で疲れたのだろう。友神であるミアハにもらった胃薬を『大量』に飲んで眠りについた。

 

 

 

 こうしてベルの二つ名が決まったのがこの間の話であり、翌日バベルに出かけるベル達はそこで自分の二つ名が広まっていることを知ることになった。

 

 

 


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