ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず 作:nasigorenn
オラリオに付き、早速すべきことをベルは確認する。
「まずはどこかのファミリアに入らないと」
冒険者と呼ばれる者達は皆、ファミリアと呼ばれるものに所属している。
『ファミリア』……それはこの地上に降りてきた神々が自ら認めた人間に対し、恩恵を与えることによって眷属とすることによって作られた集団。神が与えた恩恵により、人間はより強靱な存在へとなり、レベルが上がるたびに強くなる。現在最高といわれているのはレベル7である。
地上に降りた神は様々であり、その特徴からも様々なファミリアが存在する。ダンジョンを攻略する攻略系ファミリアや鍛冶などを生業とするファミリア、農業と流通を主とするファミリアなど、それ以外にも色々なファミリアがある。
そのファミリアに所属しなければ冒険者になれず、ダンジョンに行くことも出来ない。
特にダンジョンで『手柄』を立てたいベルとしては、ダンジョン攻略のファミリアに入るべきなのだが、彼は特にそのことを気にしていない。
「まぁ、ダンジョンに入ればどれも一緒かな。入れば後は『手柄』を立てるだけだし」
師の教え故なのか、あまり深く考えないベル。彼の師である豊久は独特的な感性の持ち主であり、効率というものを一切考えない。自分のルールに則り行動するので、そこまで深く考えないのだ。
そんなわけでダンジョンに行くために、ベルはまずファミリアに入るべく行動を始めた……訳なのだが……。
「う~~~~~ん、まったく駄目だね。あはははは」
探し始めてから4時間が経過するが、未だにどのファミリアにも入れずにいた。
それというのも、ベルの見た目が問題であった。ベルのぱっと見の姿はよく言えば保護欲を掻き立てるかわいらしい少年。悪くいえば、ヒョロヒョロとして弱そうに見えるのだ。そんな見た目で戦闘系ファミリアに入れてくれと言っても、誰も受け入れてくれなかった。
『え、君、入りたいの? いや、君みたいな体の子供にはちょっと………』
『お前が冒険者? 冗談はよしてくれよ』
『弱そうなガキだな。お前じゃ絶対に無理だ。とっとと故郷にでも帰りな』
以上がベルを見ての感想。
そう言われては困ってしまうベル。もし腕試しが許されるのなら、そのときは師直伝の『タイ捨流』が炸裂しただろうが、残念ながらその出番は未だにこない。
そんなわけで実力も発揮できずに町を放浪するベル。
既に断られた数は30を超えるのではなだろうか? 普通ならそれでもう冒険者を諦めるものだが、ベルはそうではなかった。いや、それ以前の問題ですらなかった。
「このままじゃ冒険者になれない。そうなるとダンジョンにいけないわけだけど、そうなるとお金もない僕はすぐにのたれ死ぬことになるか……仕方ない。最悪……ダンジョンに潜り込んで手柄を立てればいいか。手柄を立てて魔石とやらを換金所に持って行けばお金はなんとかなりそうだし」
ベルは最悪、ファミリアに入らずにダンジョンに潜り込もうと考えた。
それは端から見たら自殺でしかない。冒険者と一般人は肉体能力そのものが違う。たとえ最底辺のレベル1でも、一般人と比較すれば子供と大人並みの能力差があるのだ。レベル1でも上層で命を落とす可能性があるダンジョンに、冒険者でもない者が入れるわけがない。入ればあっという間にモンスターの餌食になるだろう。
だが、ベルは気にしない。それは自分の能力を過信しているわけでもなく、レベル差を甘く見ているものでもない。ただ、単純にそうするだけなのだ。そこで死んだのならそれまで。手柄を立てるために戦うのみ。それがベルの考え方。
恐ろしいことに、そこに死への恐怖はない。結果を受け入れるのみという感情だけがあった。
この時点で既にベルの精神はおかしくなっている。だが、それを本人が気づくことはない。何せそれが当たり前だと教え込まれて来たのだから。
だが、まだ時間はある。元から時間は決まっていないし、泊まるところなどなくても良い。ベルは路地だろうが野原だろうが眠ることが出来るのだ。故に宿泊に困ると言うことはない。
故に時間を気にせずに再びファミリア探しを再開するベルだが、その前からずっと気になっていたことを解決することにした。
ベルは後ろを振り向き、それに向かって声をかける。
「いつまで尾行いてくるつもりですか?」
その言葉にそれまで気づかれていないと思っていたであろう者は驚き肩を震わせ、その様子が本人は隠れているつもりなのだろうが丸わかりなだけに笑えてしまう。
そして観念したのか、その者はベルの前に姿を現した。
それは身長の低い黒髪をツインテールにした女の子だった。
身長から見ればベルよりも年下の女の子に見えるが、見た目に反し胸部はかなり豊かで谷間が深く現れている。俗世に言うトランジスターグラマーを体現した女の子で、顔もとても美しく、まさに美少女だと言えるだろう。
そんな彼女はベルに声をかけられ、おずおずとしながらもベルの元へと歩いてきた。
「そ、その……どうして気づいたのかな……」
おっかなびっくりに問いかける少女に対し、ベルは普通に笑いながら答える。
「たぶん15件目のセト・ファミリアを駄目出しされたところからかな? そのときから君の視線を感じていた」
「それって最初のころからじゃないか………」
ばれていたのが最初からだと知り、その少女は落胆する。それは自己嫌悪からくるものであり、自分の間抜け具合に呆れ返る。
がっかりとする少女に対し、ベルは苦笑しつつも話しかける。
「それで、どうして僕を尾行けていたのか、教えてくれるかな?」
「そ、その………君はその………僕が分かる?」
問いかけに問いかけで返す少女。その質問の意味は端から聞いたら全く意味が分からない。少女が何かなど、見た限りでは少女としか言い様がないのだから。
しかし、ベルはそうではないらしい。
「それはどういう意味か、君の口から言って欲しいかな」
不適な笑みを浮かべながらそう言うベルの様子に、今度は少女が理解した。
この世界の極東にはこのような言葉がある。
『人に名前を尋ねる時はまず自分から』
それは名前だけにあらず。
それを知ってか知らずか、少女はベルの顔を見ながらた名乗った。
「僕の名前は……ヘスティア。これでも一応、神様だよ」
その名乗りは端から聞けば笑いものだろう。自分で自分を神と名乗る者はそうはいない。そして神と人間ではその気配が違うと言うが、目の前の少女からはその気配とやらが感じづらい。これが冒険者ならば分かるのかもしれないが、冒険者ではない存在では分からないことの方が多いのだ。
自分で名乗っておきながら、信じてもらえないと思ったのか少女……ヘスティアは俯いてしまう。
そんな彼女にベルはゆっくりと話しかける。
「顔を上げて」
そう言われ顔を上げるヘスティア。
その目の前にはベルの顔があった。それこそ、キスが出来るくらい近い距離に。
「な、な、ななな、なななななな………」
目の前にあるベルの顔に驚き慌てるヘスティアに対し、ベルは彼女の綺麗な瞳を覗き込む。
そして少しの間だけ見つめると、顔を離して笑いかけた。
「目に淀みがない。その目は嘘をついていない。だから信じますよ……神、ヘスティア様」
「……あはは……あははははは……まさか信じてくれるなんて思わなかった。今まで一度も信じてもらえなかったのに………」
今まで信じてもらえなかったのだろう。信じてもらえたことが嬉しくて、あまりの嬉しさに笑いながら泣きそうになるヘスティア。
そんな彼女にベルは今度は自分の番だと名乗る。
「神様、僕の名はベル。ベル・クラネルです」
こうしてベルはヘスティアに名を名乗り、二人は互いの名を知った。
そして改めてヘスティアがベルを尾行ていた理由を聞くと、ヘスティアは恥ずかしがりつつも答えた。
「僕はファミリアを作りたいんだけど、知名度が全くないから……だから誰も入ってくれなくて……。それで入ってくれそうな人を探していたんだけど、そのときたまたま君を見かけてね。もしかしたら入ってくれるんじゃないかと思って、それで………」
まるで恋する少女が意中の相手が気になって後をつけるような感じにそう答えるヘスティア。そんな彼女の言葉に、ベルはまさについていると言わんばかりに申し出た。
「なら良かった。神様、僕を貴女のファミリアに入れてくれませんか」
その申し出にヘスティアはまた泣きそうになりつつも笑顔で答えた。
「うん、僕こそよろしく………ベル君!」
こうしてベルは彼女、ヘスティアのファミリアに入ることになった。
これによってまた、ベルの『手柄』への道が近づいた。
その後ヘスティアが使っている廃協会の隠し部屋に案内されたベル。
ファミリアに入ったので、早速恩恵を与えステータスを見ることになったのだが……………。
「な、なんだ、これぇえぇえええええええええええええええ!!」
ベルに恩恵を与えたヘスティアはそのステータスを見て、あまりのことに驚愕し声を上げた。
そのステータスがこれである。
ベル・クラネル 種族 ヒューマン
レベル 薩摩兵子
基本アビリティ
「力」 S929
「耐久」S900
「器用」I12
「敏捷」S980
「魔力」I0
発展スキル
『武者働き』
スキル 『薩摩魂』
手柄(敵を殺す)を立てる度にステータスが上昇。経験値(エクセリア)にさらに上乗せされ、互いに引き上げより成長する。
死を常に考え、それに恐怖しない。故に自己防衛本能が薄くなる。その分より攻撃能力が上昇する。
効果は死ぬまでずっと続く。
次回はやっと『あれ』が出せそうです。