ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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前回のお話がかなり不評だたようで………うぅ、胃が痛い………。


第30話 ベルは鍛冶師とパーティーを組む

「あぁ~、もう………ベル様は正直過ぎるんですから……」

 

リリルカが目の前で起こった事態に呆れいた。

自分は正直に普通に常識的な事を言っていると堂々とした様子で語るベル。その言葉を受けて職人としてのプライドか何かを汚されたと感じているらしいヴェルフが殺気だっていた。

普通ならあわあわと慌てふためくものだが、ベルという破天荒な男の側にいるリリルカとしては予想済みですらあった光景に呆れる以外の感想をもたない。

そして口出ししたところで止まらないということが分かっているので彼女は口出しする気がないらしい。ベルとヴェルフの喧嘩を様子見することにした。

そんなわけでストッパー役がいないことにより、ヴェルフの怒りはより燃え上がる。

 

「テメェ、巫山戯たこと抜かしてるんじゃねぇぞ!」

「何を怒っているんですか?」

 

顔を怒りで紅く染めながら怒鳴るヴェルフ。そんなヴェルフにベルは何故こうも怒っているのか分からない様子。そして周りの客は厄介事に巻き込まれないようにその場を離れ店員はヴェルフの怒りをどう抑えようかとカウンターに隠れながら考えていた。はっきり言って役立たずである。

だからなのか、ベルと一対一のヴェルフはベルを射殺さんとばかりに睨み付けてた。

 

「アンタ、武器を何だと思ってるんだ! いいか、武器ってのは使い手の半身だ! それを使い捨てだと? アンタみたいな冒険者はいつだってそうだ。成り上がりたいから、強くなりたいから、だからもっと強い武器をよこせと言ってくる。違うだろ、そうじゃないだろ! 武器ってのはそういうもんじゃないんだ!」

 

ヴェルフは自分の中の確かな信念に基づいて叫ぶ。彼にとって武器というものはそういうものらしい。その意見は職人としては素晴らしいのかもしれない。端から聞けば自分の仕事に誇りをもって燃え上がる好青年の熱い主張である。

きっと他の冒険者ならその意見に賛同する者も多くいただろう。

だが……………この男、ベル・クラネルにとってはそうではない。ある意味に於いて、ベルはヴェルフの主張とは真逆の存在なのである。

だからヴェルフの意見にベルは正気を疑った。何を言っているんだ、こいつは? と本気で理解出来なかった。

だからこそ、ベルはその主張がおかしいと言うようにヴェルフに答えた。

 

「それの何がいけないんですか?」

「はぁ?」

 

ベルの言葉にヴェルフは間の抜けた声を出してしまう。その様子にリリルカは始まったと思い呆れ溜息を吐く。

 

「強くなりたいからより斬れる剣を求める、より手柄を求め成り上がりたいから強くなろうとする。その為に強い武器を求めるのは当たり前のことですよ。そして形ある物はいつか必ず壊れる。武器だって使い続ければ壊れるのは当たり前のことです」

「だからって使い捨てるってのか! アンタはそれまで一緒に戦ってきた相棒を使えなくなった途端に捨てるってのか!」

 

ヴェルフは殺気にギラギラと輝く瞳をしたベルを見て若干戦きながらそう返した。自分の言葉は間違っていないはずなのに、ベルの言葉には彼が今まで感じたことのない重みを感じさせたから。

その様子を察してなのか、ベルはよりドヤ顔をかます。

 

「捨てる」

 

はっきりとそう口にした。迷いもなく逡巡することもなく、きっぱりとベルはそう答えたのだ。そして言葉は更に続く。

 

「どんなに愛着を持とうが大切に扱おうが武器は武器です。愛情を持って使おうが普通に使おうが切れ味は変わらない。そして使えなくなった武器に意味はない。何せ使えない武器じゃ手柄なんて取れませんから。そんな物を後生大事に抱えて死ねと、貴方はそう言うんですか」

「そ、そうじゃねぇけど……」

 

ベルの殺気に当てられて言い淀むヴェルフ。レベル1のヴェルフと戦闘だけで考えればレベル6以上かもしれないベルではその殺気の質も量も桁違いである。何よりもベルの言い分は間違っていないということを嫌でも理解させられかけていた。

武器の本来あるべき形とは、対象を殺す為のものだ。そしてそれが使えなくなったらその存在価値はなくなる。持っていても邪魔なだけになる。ベルの考え方はまさに『実戦思考』であり、それは何も薩摩兵子でなくても同じだろう…………たぶん。

だが、そうですかと大人しく聞き入れる程ヴェルフは大人ではない。

 

「だ、だからって……それでもだ! 武器は大切に使えばその分長く持ってくれる。使い手の手入れが丹念ならより付き添ってくれる! 大切にすれば武器はそれに答えてくれるんだ! アンタみたいなのはどうせ大切に扱っていないから、だから直ぐに壊すんだ! そういう奴に限って武器が悪いって言うんだよ! それはお前等がヘタクソな使い方をするからだ!」

 

苦し紛れの言い訳のように聞こえるが、それもある意味心理であった。丁寧に使えば確かに長持ちするだろう。だが、それをベルは否定する。その証明をするかのように背に背負った大太刀をヴェルフにポンっと放って。

 

「そこまで言うんだったら僕の大太刀を見てから言ってもらいたい。さっき吐いた言葉、もう一回言えますか?」

 

そう言われながらヴェルフは飛んできた大太刀を掴んだ。そして苛立ちつつも彼はその大太刀を引き抜く。そして……………。

 

「!?」

 

驚きのあまり言葉を飲み込んだ。

別に名剣で何でもない、良く出来た普通の大太刀である。意匠が巧みでもなければ材質が特殊なわけでもない。

ヴェルフが驚いたのはそういう部分ではないのだ。彼が驚いたのはその刃。何故ならその刃はかなり摩耗し消耗ているから。

これがただの素人なら普通に痛みの酷い大太刀としか認識しないだろう。だが、ヴェルフは鍛冶師だ。武器や鎧を作るプロフェッショナルである。それらの物の全てに精通しているからこそ、それが分かった。

 

(こ、この大太刀………綺麗に摩耗してやがる!?)

 

そう、ベルの大太刀の摩耗具合を見てヴェルフは分かったのだ………この大太刀が無駄なく満遍に使われているということに。

先程ヴェルフが吐いた言葉を真っ向から否定する大太刀。それを見てベルはドヤ顔をしながら両腕を組み、仁王立ちでヴェルフの前に立つ。

 

「丁寧に使ったつもりなんてない。僕はただ手柄を取るために振り回していただけだ」

 

そう語るベルにヴェルフは息を吞む。その顔にあるのは嘘偽りが一切ない自信であった。

何よりも大太刀が語っているのだ。ベルはヘタクソではない。真にこの大太刀を使い切っている担い手なのだと。

ヴェルフとしては認めたくないものであった。武器を使い捨ての道具だと言い張る相手がここまで武器を使い切って見せているということに。

だからこそ………己の目を確かめるためにも、そして自分の為にも彼はベルに向って啖呵を吐いた。

 

「ここまでされたんじゃこっちだって収まりがつかねぇ。だからよぉ……俺をお前のパーティーに入れろ」

 

急な意見にベルはヴェルフの真意を探る為にその瞳を見つめる。その視線は鋭くヴェルフに突き刺さるが、それでもヴェルフは更に言葉を重ねた。

 

「そこでアンタの戦いっぷりを見せてもらう。それを見てアンタの大太刀の整備をするのかを考えさせてもらうぜ! アンタの事、見極めさせてもらおうか!」

 

その言葉にベルは笑う。それは薩摩兵子の凄惨な笑みだ。

 

「いいでしょう、なら僕の手柄取りに付いてきて下さい。ただし…………死にそうになっても僕は助けたりしませんよ。戦場でさぱっと死ぬのは誉れだ。その栄誉を僕は邪魔しない。僕はそれ以上の手柄をもってもっと多くの首を取るのだから。だから………生き抜いて下さいね」

 

こうして一時的にベルはヴェルフとパーティーを組むことになった。

そして…………。

 

「せっかくのベル様との二人っきりの時間を~~~~~~~~~!」

 

リリルカが怒っていた。

 

 

 

 


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