ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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久々の投稿で申し訳ない。最近スランプなので。


第32話 ベルの大太刀は整備される

 ベルへの怒りなどすっかり流れてしまい、今では一緒に戦えることが頼もしくて仕方ないとヴェルフは感じていた。

 

ベルの戦いを見ていて分かる。自身の命などまったく顧みない戦闘は見ていてヒヤヒヤさせられるが、どういうわけかベルが死ぬとは思わせない。そして一緒にいるだけでこちらも戦意を昂ぶらせられいつも以上に戦える。そこにあるのは妙な安心感。こちらだって命掛けだというのに、何故か恐怖を感じない。いや、怖いのは確かなのだがそれ以上に戦意が湧き上がってくるのだ。それもきっとベルと一緒だからということを本能的な何かでヴェルフは感じ取っていた。そこにあるのは将としての才覚。仲間を率いて死戦を幾度となく撥ね除け勝利してみせるカリスマ性だ。それを垣間見た彼は更にベル・クラネルという男のことを知っていく。戦いに対する姿勢、思考、そして武力。それらを見ると浮かび上がっていくのはベル・クラネルという異常性。その在り方はまさに戦うためにだけに特化されているといってもいい。そんな凄い相手にヴェルフは引き込まれている。そして思ったのだ。

 

 

『もっとこいつの行き着く先を見てみたい。こいつが俺の作った武器を使って戦う姿を見たい』

 

そう思ったからこそ、ヴェルフはダンジョンを出た後にベルにこう言った。

 

「なぁ、明日俺に付き合ってくれないか」

 

その言葉に先に反応したのはリリルカだった。彼女はヴェルフを異常者を見るような目で睨みつけながらガルルと警戒する。

 

「ベル様を狙うつもりですか。そんな異常者にベル様を取られる訳にはいきません! ベル様の貞操はリリが守ります!」

 

どうやら彼女はヴェルフがベルに『惚れた』と思ったようだ。ベルの容姿はある種の輩にはたまらないものらしい。ベルをそんな道に走らせる気などなく、彼女は自分こそがベルと『正しいお付き合い』をするのだとはっきり口にしたようなものだ。

 

その返答を聞いてヴェルフはブフォと吹き出し慌ててリリルカの言葉を否定する。

 

「そんな事言ってねぇ! 寧ろ俺はノーマルだ」

 

その言葉を信じられないと言いリリルカはヴェルフに問い詰め、ヴェルフはそれを全力で否定していく。その様子を見ていたベルは何のことなのかまったく分からず仲良いなーくらいにしか思っていなかった。この男に『そういった考え』はないのである。あるのは手柄を求める事だけだ。

 

そんなわけで二人の言い争いの内容などまったく分からないベルは二人が落ち着くまで待つことに。

 

そして待つことしばらく………やっと話が動いた。

 

必死に否定していたヴェルフは疲れた様子でベルに改めて話を振る。

 

「俺はただ、明日ベルの刀を診てやろうと思ってそう言ったんだ。決してそんな趣味はないからな。俺の好みは紅い髪が綺麗でスタイル抜群の…………」

 

ヴェルフの女性の好み云々はともかく、やっと言葉の真意を理解したベルは普通にヴェルフに笑いかけた。

 

「明日は大丈夫ですよ」

「あぁ、わかった。んじゃ明日の朝、バベル前の広場で待ち合わせだ」

 

 刀を診てもらうという本来の目的が達成出来ると喜ぶベル。そんなベルの様子に少しだけ驚かされるヴェルフ。そしてリリルカは未だに疑惑が晴れない相手とベルを一緒にいさせるわけにはいかないという事と勿論ベルと一緒にいたいということでリリルカもベルに同行すると言った。

 こうして翌日の予定が決まりその日は解散。リリルカがいつもよりベルの腕に抱きついてきたのに理由は分からないベルは何となく彼女の頭を撫でると、彼女は実に気持ちよさそうに頬を緩めていた。

 

 

 

 翌日の朝、昨日の約束通りにバベル前の広場に集合したベル達。

 

そこからヴェルフの案内で彼が使用しているへファイスト・ファミリアの鍛冶工房へと向った。

そこはオラリオの都市部から少し離れた所にある一件のあばら家だった。周りも特に人が住んでいるような気配を感じさせず、周りに置いて行かれ寂れたような雰囲気を感じさせる。

 

「うわ、ボロいですね」

 

ヴェルフの工房を見てリリルカが最初に言った言葉がコレ。その言葉にヴェルフはウッセーと返し、ベルはそんなヴェルフを見つつ側にいるリリルカの頭に手を乗せながら言う。

 

「そんなこと言わない。僕達のホームだって似たような物だよ」

「それもそうですけど…………」

 

寂れきった教会も人の事を言えないと窘めるように叱られたリリルカは少しだけションボリとするが、ベルに撫でられるとそれも直ぐに吹き飛んだ。

そんな二人を見つつヴェルフは二人を工房へと招く。

そして入ったところでベルは早速ヴェルフに大太刀を渡した。

 

「んじゃ、改めて診させてもらうぜ」

「うん、よろしく」

 

そしてヴェルフによる大太刀の整備が始まった。

柄から刃を抜き、その刀身の歪みを確認し歪んでいればゆっくりとハンマーで叩き歪みを矯正。そして刃の欠けた部分などを削り更に刃を研いでいく。作業はゆっくりとしているがヴェルフの顔からは常に真剣なことが窺える。

 そんなヴェルフの様子をベルは静かに見ていた。そんなベルにリリルカは自分の事を見てもらえないことに若干拗ね、そしてベルの膝の上に座りベルの身体にその小さな身体を預けていた。ベルに抱きしめられているかのように感じリリルカは顔を赤らめ自分の胸の鼓動を聞きながらその感触を堪能しているようだ。かなり幸せそうであった。

 そんなリリルカに気付かないベルとヴェルフ。静かな時が流れる空間の中、ヴェルフはベルに向って静かに話しかけてきた。

 

「俺はさ、武器を蔑にする奴が嫌いなんだよ。特に魔剣みたいな使い手を腐らせるようなものは特に」

 

 そこから始まったのはヴェルフの思い語り。彼が何故魔剣を打てるのか、どうして魔剣を打てるのに打たないのか、その葛藤と苦悩。それらをヴェルフはゆっくりと静かに作業しながらベルに語る。ベルはそれをゆっくりと聞いていた。

 

「だからさ……最初武器を蔑にすると宣言するお前のことが許せなかったんだ。俺にとって武器ってのは使い手の相棒だから」

 

 そう語りながらヴェルフは悪いなっとベルに軽く謝った。それが今は違うという意思の表れであることがベルには感じられた。

だからこそ、今現在平常時である『紳士的』なベルは優しい笑みを浮かべながら答えた。

 

「その考え方は決して悪いものじゃありません。自分が作ったものを雑に扱われて怒らない人はいないと思いますから」

 

その言葉にヴェルフの手が止まり驚きを露わにしていた。何せそんな風に答えられると思わなかったから。

 

「初めて会ったときとは随分意見が違いすぎて驚いちまったんだが、お前大丈夫か?」

 

ベルのことを普通に心配になってそう問いかけるヴェルフ。そんなヴェルフにベルはクスクスと笑いながら答えた。

 

「別に僕が言ったことが絶対というわけじゃありませんし、人には人の思いがある。それは人の数だけあるのだから、そこに正しいとか間違っているというのはないんじゃないかって、そう思うんです。だから僕はヴェルフさんのその考えを否定しません。何より………そんな風にしっかりとした信念があるということは、素敵なことじゃないですか。誇って良いと思いますよ」

 

そう言われヴェルフは柄にもなく頬が熱くなるのを感じた。

こうも真っ正面から褒められるとは思わなかったのだ。それも『あのベル』にこうも褒められるとは。

だからこそ、余計に心配になってきた。

初めて会ったときと今のベル。最早別人格じゃないのかと思えるくらいに違いすぎるから。

 

「おいおい、本当に大丈夫かよ。お前、本当にあの『首狩り』か? とてもじゃないが、今のお前じゃ『優しすぎる紳士』にしか思えねぇよ」

 

 その言葉にベルはそんなことはないと苦笑を浮かべる。そんなベルの空いている手を小さな指でちょんちょんと弄っていたリリルカは自分は知っていますと言わんばかりに胸を張ってヴェルフに言う。

 

「ベル様は戦う時とそうじゃない時とで性格が違うんです。戦う時は激しい程に怖いけど格好いいベル様ですが、普段は今みたいに優しいんです。特にリリとか、リリとか、リリには特に優しいんですよ」

 

そう言うリリはベルに少しばかり潤んだ瞳で上目遣いに見つめる。見つめられたベルはどう返して良いのか困り、仕方なく彼女の頭を優しく撫でてあげると撫でられたリリルカはムフ~と満足気であった。

 

「マジかよ。どんな性格なんだよ、そいつは…………」

 

最早別人じゃないかというくらい性格が違うベルの二面。その言葉にベルはそんなことないけどなぁと思う。本人が思っていないだけで実際かなり変わっているのは変えようのない事実である。自覚がないというのも困りようであった。

 

「んじゃ戦う時のベル………首狩りとしてはどうなんだ?」

 

その質問にベルの表情が変わった。

顔だけではない。その身体に纏う雰囲気も漲る殺気もなにもかもが先程の『紳士』なものとは違いすぎる。目は殺意でギラギラと怪しく輝き口元に不敵な笑みが浮かび上がった。

別人格なのではない。これもまたベルなのだ。ベルの戦う時の在り方なのだ。それに本物も偽物もない。紳士なベルも薩摩なベルも、その両方あって今のベル・クラネルなのである。

 

「同じですよ。人がどう思おうとそれは人の勝手だ。大事な物が違うように、大切なものが違うように。だから僕は貴方………ヴェルフの考えを否定はしない。だが、それを押しつけるな。それはヴェルフの思いだ。ヴェルフだけの信念だ。それを押しつけるなら、その時は僕の信念とぶつかり合う。どっちが正しいかじゃない。どっちが間違ってるんじゃない。ただぶつかり合って、そして比べ合うだけだ。だから僕はヴェルフの信念に賛同しない。武器はどこまで行っても武器だ。手柄を立てる為に必要なもので、折れればただの役立たず。ただそれだけだ。それでも手柄があるのなら、その時は素手でもその首を取るだけだ」

 

ギラギラと輝く瞳に気取られるヴェルフ。だがその言葉の真意に今度は気付いた。

だからこそ、ニヤリとこちらも笑い返した。

 

「そうか。だったら俺もお前に負けないようにしないとな。だから逆に言っておくぜ……俺が整備した大太刀、そう簡単に使い潰せると思うなよ」

 

 

 

 そうしてまたゆっくりとした時間が流れ、ベルの大太刀は最初にもらった時のように綺麗な姿へと戻った。


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