ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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久しぶりの更新で感覚がおかしく申し訳ない。


第36話 ベルは階層主と殺り合う

 中層進出一日目にして階層主討伐なんていう冒険者の常識をぶっ飛ばすような目標を平然と考え行動し始めるベル・クラネル。外では自分達が大事に巻き込まれ救出しようなんていう事態になっているなんてことを知るはずもく彼等は目的地である『17階層』へと向かっていく。道中勿論モンスター達に襲われるわけだが、目の前に迫る『大将首』を前にベルは『殺る気』満々。ミノタウロスの群であろうと一人で飛びかかり瞬く間に全滅させてしまった。その嬉々とした様子にヴェルフは驚きと関心を込めて軽く口笛を吹き、リリルカは目をハートマークにしてベルに見入っている。既にこの階層のモンスターなぞ相手にならないといった様子であり、ベルの姿を見たモンスターの中には即座に逃げ出す者も少なくない。

そして一同はついに第17階層『嘆きの大壁』に到着した。

そこは今までの階層とは一線を超えていた。今までの階層のような洞窟ではなく明らかに手が加えられ荒く整えられた岩壁に覆われた長方形に広大な空間。その壁の一枚だけが更に特殊であり、その壁だけが見事なまでに整えられた『大壁』であった。この壁こそがこの階層の名前の由来なのだろうということは見て皆が即座に察した。

 

「おぉ、ここがあの大壁かぁ!」

 

ヴェルフが最初にそう漏らしたのは、彼が今までのレベルでソロでは絶対に辿りつけない場所故なのだろう。感慨深いようだ。

そんなヴェルフと比べ、リリルカは周りを若干警戒していた。

 

「どうやら『ゴライアス』はいないようですね。ロキ・ファミリアの遠征と時期が被りましたから、どうやら先に討伐されてしまったようです。まぁ、ベル様の勇姿が見られないのは残念ですが………その分早く帰れますからね。ベル様、早く帰って一緒に晩ご飯を食べましょう! えへへへへ、ベル様と晩ご飯~、二人っきりで一緒に……そ、そんな、ベル様、はい、あ~んだなんて! で、でもベル様ならリリは……」

 

警戒していたのも少しの間だけ。安心すると共に顔を赤らめて妄想しクネクネし始めるリリルカは端から見たら怪しいの一言に尽きる。そこはまぁ、恋する乙女特有の病気だ。許せとしか言い様がない。

だが…………ベルだけは違っていた。求めていた『大将首』がいないことに気落ちすると思われるだろうが、そんな様子は微塵もなかった。

彼はただ、じっと目の前にある大壁を見つめ、そして不敵な笑みを浮かべる。その顔にあるのは確信だ。

 

「おい、いるんだろう………だったら置いてけ、その首を。出てこいよ、御大将」

 

その言葉に呼応するかのように大壁に罅が入りあっという間に亀裂と化す。そして壁は内側から崩され、そこから巨大な存在が姿を現す。

それは人型ではあるがその大きさは人の比にはならない程に大きく、全身はまさに筋肉の塊といった感じだ。その目は血走り殺気に満ちており、生えている真っ白い髪は伸ばし放題で美しくない。だが、それらによりこのモンスターがより獰猛であることが窺える。まさに『迷宮の孤王』の名に相応しい存在だ。

故にベルの口元がニヤリとつり上がる。

 

「良い殺気だ、さぁ、手柄を取り合おうか」

 

ベルのその言葉が届いたのか、ゴライアスがベル達に向かって咆吼を上げた。壁をその振動だけで粉砕しそうな程の叫びにヴェルフは耳を押さえリリルカは本能的にしゃがみ込んでしまう。

そんな二人とは違いベルはそれはもう嬉しそうに笑う。殺意によってギラギラと瞳を輝かせながら、目の前にいる大手柄を討ち取ることを楽しみにしながら。

そして相手の咆吼に対しこちらも同じように『吠えた』。

 

「オォオォオォオオォッッッッッッッッッッッッッッ!!!!」

 

猿のような叫びとでも言おうか。いや、そんな生やさしいものではない。剛猿とでも言った方が正しいだろう。そんな絶叫が雄叫びとぶつかり合いよりこの階層が震えた。

自身の雄叫びと同等かそれ以上の叫びにゴライアスが驚きを露わにして動揺を見せる。

そんなゴライアスにベルはしてやったりとニッカリと笑った。

 

「良い雄叫びだ。だが僕も負ける気はないぞ」

 

まずは最初の牽制を制したベル。その結果を理解したゴライアスはベルを完璧に敵と見なしたようだ。唸り声を上げながら足を振り上げベルを踏み砕かんと足を落とす。その一撃はレベル2の冒険者であろうと肉塊にされてしまう程の威力が込められている。その一撃をベルは大太刀を真上に構えて受け止めようとする。

この階層がズンッと揺れると共にベルがいる所の地面が砕けるが…………。

 

「中々の力だ。確かに階層主と言われるだけはある」

 

ベルにダメージは無し。既にレベル2の範疇にない彼にこの程度の攻撃は意味が無いらしい。そのままベルは力を込めて強引に足を払う。足を弾かれたゴライアスはベルの姿を見て更に怒りを燃やしベルへと襲いかかる。その全身が凶器であるゴライアスは思うがままに暴れ始めた。その豪腕でベルに殴りかかり、その巨大な足で踏みつぶそうとする。

だがそれらの攻撃をベルは受け止め逆に跳ね返す。回避など一際せず真っ向から受け止め切っていた。その所為で着ていた服がぼろ切れと化し上半身裸になるベル。その肉体は傷痕がかなり多くまさに歴戦の猛者を思わせる。そんな肉体を露わにしているベルだが勿論気にならない。彼は目の前の獲物を前にその力を計っているようだ。

戦闘狂ではないが、それでもこれが初の『階層主』なのだ。その力を感じたいらしい。

そんなベルと違いヴェルフとリリルカの二人は速攻でゴライアスの側から離れベルの戦いを見守っていた。

 

「強い強いとは思ったが、まさかここまでとは思ってなかったぜ…………」

 

ゴライアス相手に一歩も退かない……いや、それどころかその身に攻撃を受け続けても一切ダメージがないベルにヴェルフは改めてベルの凄さを思い知らされる。共に戦っている身としてはその強さを実感していたが、その力が最大だと思ってしまっていたのは失敗だった。見せていたのがまだほんの少しだということを知ったヴェルフはより自分が付いていこうと決めた男の凄さを知り、よりその男に見合う武具を作りたいと創作意欲を燃やす。

そしてリリルカと言えば…………。

 

「はぁぁぁあああああぁぁ………流石ベル様ですぅ………」

 

目をハートマークにしてうっとりしていた。

この場に於いて場違いとしか言い様がない様なほどふやけた顔でベルを見入るリリルカ。彼女の目は上半身裸のベルを捕らえて放さない。その歳と顔からは想像出来ないほどに鍛えられ引き締められた肉体は彼女の心を鷲掴みにしていた。彼女曰く、気を抜くと鼻血が出かねないのだとか。ちなみにこの光景を見ていたバベルにいる某美の女神はリリルカと同じような顔をしていたのだという。

そんな他所は置いておき、ベルの戦いは更に激しくなっていく。正確に激しくなっているのはゴライアスの攻撃だが。

その攻撃の嵐を受け止め防ぎ弾くベルは今度はこちらからだと攻撃を繰り出す。

 

「でかいだけに首が遠いなぁ。ならまずは頭を下げさせないとなぁッ!」

 

そう叫ぶと大太刀をゴライアスの足に向かって一閃。確かな手応えを感じながら振り抜くとゴライアスの足首から下が取れた。

足首から下が取れたことにゴライアスが気付いたのは一拍置いてからであり、その痛みに襲われ叫びを上げるのと血が噴き出すのは同時だった。

 

「まだこれからだろ、粗相するな」

 

そして始まるベル無双。

 

「オォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

雄叫びを上げながらゴライアスに斬りかかるベル。その攻撃を脅威と感じたゴライアスは最初は防御するのだが、その防御ごと骨肉を斬り裂かれる。

防御を取ったはずの腕からの激痛と噴出する血を感じ取りながらゴライアスの悲痛な叫びがこの階層に轟く。

ベルの攻撃をくらうことがまずいと判断したゴライアスは今度はベルの攻撃を回避する動きに変わる。だが避けるだけに限らずベルに仕掛けるチャンスを見つけてはその豪腕を振るい攻撃していく。

ベルは負けじと張り合うのだが、流石に空中での回避が出来ないので飛び上がった際に喰らった攻撃で嘆きの大壁に叩き付けられる。

壁を砕きめり込む身体。だがベル本人はそこまでダメージを感じていないようだ。

 

「大した力だなぁ。これは確かに……大将首に相応しい!」

 

そう言いながら更に笑みを深める。薩摩兵子らしい殺気に満ちた笑みだ。そんな物騒極まりない笑みを浮かべながらベルは更にゴライアスに挑みかかる。

ベルの攻撃が当たる度にゴライアスの肉が斬れて血飛沫が飛び散りゴライアスの攻撃が繰り出される度に壁や地面が砕けていく。

端から見たら互角に見えるかも知れない。だがその真実は残酷であり互角どころかベル優勢であった。何せゴライアスの攻撃ではベルに致命傷を与えることなど出来ないのだから。受けたダメージから判明しているのは精々レベル3相手に攻撃されている程度だろう。何せこの男を倒すにはそれこそレベル5は最低でも必要であり、彼の猛者でなければ今のところ互角に戦える相手などいないのだから。

故にベルにダメージはなく、精々服がボロボロになる程度。かすり傷や痣が出来なくもないが大きくはない。何より薩摩兵子はソレこそ四肢を切断でもしない限り止まることはない。だからベルに支障なし。

対してゴライアスは全身ボロボロだ。ベルに斬りつけられた身体は至る所から血を流し実に痛ましい。己の闘争本能だけで戦っている状態であり、失った血から考えても本来ならば立つことすら不可能であった。それでも戦うゴライアスはモンスターでありながらも立派である。それがベルも分かるからこそ敵大将に敬意を払う。

 

「流石は階層主、その戦における闘志、確かに素晴らしい。だからこそ欲しい………お前の首級が!!」

 

そしてベルは駆け出す。いつものように大太刀を水平に構え、身を低くしながら駆け出す。

 

「シャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッ!!!!」

 

殺気に溢れた咆吼を上げながら突き進みゴライアスの胸元に飛び込むベル。そこから繰り出される剛剣によってゴライアスの胸から血が噴き出した。

その激痛に叫びながらもゴライアスの負けじと平手を繰り出しベルを叩き落とす。

このまま地面に叩き付けられるベルであるが、それだけで退かない。

 

「壁、壁ぇええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

その叫びとともに出現する石壁。一つはベルの足元から迫り出し吹き飛ばされたベルの足場となるとカタパルトのようにベルを押し出す。

そしてもう一つの壁はゴライアスの背後、その後頭部に向かって高速で突出していた。

その結果、先にゴライアスの後頭部に石壁が強襲し激突。その威力にゴライアスは前のめりに倒れこみそうになる。そして若干下がった首に向かってベルは叫んだ。もういつもの決まり文句である。

 

「その首…………もらったぁあぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

そして首を落とすように横一閃。

その結果はゴライアスの叫びがないことから知らされる。声一つ無く崩れ落ちる身体。そしてそこからごろりと転がる大きなゴライアスの首。その結果を持ってベルは良しと笑う。

 

「大将首、取ったぞぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

その言葉と共にゴライアスの身体は灰となり、最後に残ったのはベル達が今まで見たことない程に大きな魔石。

それを見続けていたヴェルフは歓喜の声を上げながらベルを褒め称え、そしてリリルカはといえば…………。

 

「べるさまぁ、さいこうれすぅ~~…………」

 

まさに骨抜き状態であった。

 

 

 

 こうして初の階層主戦を終えたベル達は普通に18階層へと向かっていた。ちなみに理由はリリルカがベルと一緒にお昼が食べたいからだそうだ。

まさかこれが後によりベル達を『戦場』に向かわせるとは、このときは誰も思っていなかった。だが、もしかしたら………それの気配をベルは感じ取っていたのかも知れない。18階層の入り口前にて、ベルは確かに『薩摩兵子』の笑みを口元で浮かべていたから。

 


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