ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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申し訳ない。皆が期待する『アレ』にまではまだ届かなかったです……。


第3話 ベルはギルドに行く。

 ベルのステータスを見たヘスティアは驚きを隠せず動揺する。

初めてのファミリア、初めての眷属。初めて尽くしの状態ではあるが、それでもこのステータスがおかしいことは分かる。

 通常、レベルの欄には本人の現在のレベルが記載されているものであり、誰でも最初はレベル1なのだ。

 それに基本アビリティも最初は全て0からなのである。最初期はそれが当たり前であり、それから経験を積んでいくことによってステイタスは成長していく。

だというのに、ベルのステータスは最初から吹っ飛んでいた。

レベルの欄には良くわからない文字が書かれており、基本アビリティが既に限界近く上がっている。それは通常あり得ないことなのだが、それに更に輪をかけて酷いのは発展アビリティやスキルなどである。

発展アビリティは成長すると一緒に成長するものであるが、当然ながらレベル1の時から発現することはなく、更にこのスキルがベルの異常性をより際立たせていた。

 

『薩摩魂』

 

端から見たらとても良いレアスキルだが、その内容をよく吟味すれば不気味なことが良くわかる。つまりはモンスターを殺せば殺すほど強くなるスキル。それ自体は冒険者なら当たり前なのだが、後半の部分が奇妙で『死を常に考えている』と書かれている。勇敢なら『死を恐れない』と記載されるものだが、『死を常に考えている』というのでは似ているようでまったく意味が違う。それは自分の死を常に受け入れ、いつ死んでも気にしない。死ぬことを前提にし戦っているということ。そんな危険で不穏極まりないスキルが最初から発現しているのだ。驚くなという方が無理である。

 そんな異常過ぎるステータスを前に、ヘスティアはとりあえず本人に話を聞くために専用の用紙にステータスを写す。

そしてベルの背から離れ、若干震える手でベルにその用紙を渡した。

 

「べ、ベル君! これが君のステータスなんだけど………」

「これが……ですか?」

 

手渡された用紙を見ても何が書いてあるのか分からないベル。何せステータスで書かれている文字は全て『神聖文字(ヒエログリフ)』というもので書かれているからだ。この文字は神々だけが使う文字であり、それ以外の種族では基本読めない。だからベルは書かれている内容を理解することが出来ないのだ。

 そんなベルに驚き疲れたのか、力が抜けた様子でヘスティアが説明する。

 

「君のステータスなんだけど……初めてだから何とも言えないけど、それでも……おかしいよ」

 

そう言われ説明をベルは受ける。

そしてその話を聞き終えたところで特に気にした様子もなく普通に対応した。

 

「そうですか」

 

実に淡々と、興味なさそうとさえ思えるほどに普通。

その様子にヘスティアは別の意味で驚きベルに話しかけた。

 

「ベル君、随分と興味なさそうだけどそれってどうなの!? 自分のステータスがおかしいんだよ? もっと不安そうになったり困ったりしないの?」

「別に。僕としては冒険者になれれば良いだけなんで」

 

しれっと答えるベルに、驚きから怒りに変わりつつある感情を持て余すヘスティア。

本当ならそのまま怒り散らしてもう少し主神として冒険者のことを教えるべきなのだが、どうにもベルには冒険者としての熱意のような物がない。

 それは仕方ないことだろう。確かに冒険者にはなりたがっていたが、それは冒険者に憧れていたからではなく、目指すべき目標へと近づくために必要なことだからというだけの理由なのである。

英雄になるために必要なことであり、冒険者そのものには興味はないのだ。

そんな考えをベルから滲み出る空気から感じたのか、ヘスティアはベルに怒るのを諦めてとりあえずスキルについて聞いてみることにした。

 

「ところでベル君。君のこのスキル『薩摩魂』なんだけど、これに何か覚えはあるかな? それにこの『薩摩』って言葉だけど、君のレベルにも使われてる。これって何なの?」

 

その問いかけは少しでも自分の異常性を知ってもらいたいという思いを込めてヘスティアは問いかける。

それに対し、ベルは何かを思い出しながら答えた。

 

「確か薩摩というのは僕の師匠のいた国のことらしいですよ。僕も詳しくは知りませんけど」

 

その答えにヘスティアはベルのステータスがおかしいことに、ベルの師匠……つまり豊久が怪しいと考えた。それ以外に考えられないというのもある。何せ薩摩なんて言葉を今まで聞いたことがないのだから。

 

「その師匠っていうのはどんな人なのかな?」

 

その問いかけにそれまでそこまで興味がなさそうだったベルが、途端に目を輝かせた。

それはまるでヒーローに憧れる子供のようだ。

 

「師匠は僕の『英雄』です! あの人は最強のお人で、僕が目指す目標です!」

 

それまでの様子とは打って変わって年相応の様子にヘスティアは驚き、そして笑う。

 

(なんだ、そんな可愛い顔も出来るじゃないか、ベル君)

 

ベルの新しい一面が見れて喜ぶヘスティア。

しかし、それを喜ぶよりも先に聞かなければならないことがあるので表情を引き締める。

 これから聞くのはより真面目な話。何せそれはベルの今後に大きな影響を出すかもしれないことだからだ。

 

「ベル君。君のスキルなんだけど」

「どうかしたんですか、神様?」

「さっきも言ったけど、『薩摩魂』というスキルは異常なんだ。気をつけなくちゃいけないと思う」

 

少し勿体ぶった言い方にベルはどうかしたのかをヘスティアの目を見つめる。

その視線を受けてヘスティアは念を押すように言う。

 

「このスキルは強力だ。戦えば戦うだけ強くなるというのは凄いことだよ。でもねベル君………決して無茶なことだけはしないで欲しいんだ」

「無茶? それはどういう意味でですか?」

「……自分の命を捨てるようなことは考えないでくれ。どんな時でも自分の命を大事にして欲しい。危なくなったらどんなことをしても逃げてくれ」

 

途中からヘスティアの顔は真剣な顔になり、本気でベルのことを心配していた。

彼女にとってはじめてのファミリア(家族)なのだ。死んで欲しくないと思うのは当たり前のことだった。

しかし、ベルはそんなヘスティアの願いを察して…………。

 

「………くふ……ふふふ……あぁっはっはっはっはっは!!」

 

 笑った。

実に愉快そうに。それがあまりにもおかしかったのか、見事と言わんばかりに爆笑し始めた。

 

「べ、ベル君!? 何でそんな急に笑うのさ、こっちはとても真剣なのに!」

 

笑われたヘスティアは顔を真っ赤にしながら怒る。

そんなヘスティアの顔を見ながらベルは笑いを堪えようと頑張りつつ答える。

 

「それは無理ですよ、神様。だって、戦えば死ぬかもしれないのは当たり前で、手柄を立てるのに命がけなのは常識ですよ。死ぬことに怯えていたら手柄が立てられない。無茶というのはするのが当たり前で、それが無茶だという前提自体がおかしい。するしかないのなら、それを無茶とは言いません。僕はただ、それを成して相手を殺し手柄を立てるだけなんですから。手柄も立てられずに怯えて逃げ帰るくらいなら、いっそさぱっと死んだ方がマシです」

 

 そう答えるベルの瞳はヘスティアが今まで見てきたどの人間とも違う、危険な輝きを放っていた。

 それを見て、彼女は正直ベルが怖かった。

彼のその精神は人としておかしい。死を恐れないというのは生物としてあるべき本能の根本に反している。それがまだ強がりなのならまだ安心しただろう。よくこの手の話でそう答える人間は、実は寧ろ死への恐怖をより強く感じている。それを知られたくないからこそ、恥だと思っているからこそ、そのような虚勢を張るのだ。

 しかし、そういった嘘は神には通用しない。

人々は皆神々にとって我が子同然であり、子供は親に嘘がつけない。たとえ嘘を言っても、神々はそれを看破する。そういう能力が神々にはあるのだ。故に嘘は絶対にバレる。

だからヘスティアも当然ベルが嘘をつけば分かるわけなのだが、今のベルにはその反応が一切ない。

 

 つまり………『ベルは一切嘘をついていない』。

 

その言葉の通りであり、ベルは死というものを本当に恐れていないのだ。

いや、それどころではない。死という概念そのものを意識していない。それは食事の時にナイフやフォークを使うように、夜眠る時に目を瞑るように、生きるのに当たり前のことだと思っているのだ。つまり死ぬことも当たり前。

普通の精神なら絶対に耐えきれないであろう異常。それをベルは当たり前だというのだ。

そのあまりに歪な精神にヘスティアは背筋をゾクリと凍らせた。

 

 

 

 その後、そんな状態のベルをそのまま行かせて良いのかと思いつつも、ダンジョンに行きたがるベルのごり押しのお願いに仕方なく折れるヘスティア。

彼女はまず必要な手続きとして冒険者の登録をすべく、ベルにギルドへと向かうように言った。

 ギルド……それはオラリオの都市運営、冒険者および迷宮の管理、魔石の売買を司る機関であり、神ウラノスが長をしている。冒険者にとって切っても切れない付き合いのある組織だ。冒険者になる者は必ずギルドにレベルを報告し登録するのが決まりなのである。

ギルドに登録することによって正式に冒険者として認められると言ってもよい。

だからベルも意気揚々に向かうのだが、その前にヘスティアはベルに本気であることを念押しする。

 

「いいかい、ベル君。レベル申請の際には必ずレベル1だと報告するんだ!君のステータスは只でさえ異常だからね。どの冒険者も最初はレベル1が当たり前だから、レベルをそう報告すればとりあえずは疑われないはずだ。流石にずっとは無理だが、それまでの間に最もらしい言い訳を考えておくよ」

 

その言葉をそこまで理解していないベルではあるが、ヘスティアから感じる迫力に珍しく根負けしてく聞くことにした。

そんなわけでギルドへと出向き、早速受け付けで登録すべく声をかける。

 

「あの、すみません」

「あ、はい、何でしょうか?」

 

受付に出たのはセミロングのブラウンの髪をした綺麗な女性だった、かけている眼鏡から知的な雰囲気が漂い、耳がヒューマンに比べ少しばかり尖っていることからエルフであることが窺える。

ベルはその女性に冒険者として登録したいと言うと、彼女はベルの姿を見て少しばかり怪訝そうな顔をする。端から見たら荒々しさとは無縁にしか見えないベルには冒険者など向いていないと思っているのだろう。

当然の如く危険だから止めた方が良いと忠告を受ける。

だが、ベルはそれでも良いと答え、彼女は渋々それを承諾し、ベルに申請用の用紙を渡した。それをベルは受け取り、素早く書類に必要な所を書いていく。

そして渡したことで、ベルは正式に冒険者であることを認められた。

そのことにベルはやっとかぁと思う。無駄に遠回りをしたような気になり、早くダンジョンに向かいたくなった。

そんなベルの様子を見てなのか、彼女はクスリと笑いながら自己紹介をした。

 

「これから私、エイナ・チュールがベル・クラネルさんの攻略アドバイザーとして担当することになります。よろしくお願いしますね」

「はい、よろしくお願いします、エイナさん」

 

 

 

 こうしてベルはやっとダンジョンへと入る権利を得た。

この後エイナからダンジョンでの注意事項を事細かに教えられたが、ベルはそれを聞いて内心苦笑を浮かべる。

何せエイナは何度も無茶をするな、冒険者は冒険してはいけない等々と色々口を酸っぱくしていわれたのだ。そこにあるのは職員としてではなく、彼女個人としてもベルには死んで欲しくないという気持ちも確かにあった。

その気持ちは確かに嬉しい。誰からでも心配してもらえるのは嬉しいものだ。

だが、それではベルは満足できない。そんなことよりも………。

 

(手柄を立てるのに怖じ気づく必要なし。情けなく逃げるくらいならさぱっと死んだ方が誉れだ………そうですよね、師匠)

 

この男、既に手柄を立てることに夢中のようだ。

 


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