ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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久々の更新で感覚が少しおかしいです(笑)


第41話 ベルは謝罪される。

 ベルの救出という題目で連れてこられたヘスティアは今現在、目的であるベルを見つけた訳であるが、その顔は本来あるべき歴史であったような泣きながらも再会を喜ぶ乙女の顔ではなかった。ベルに向けられたのは酷いジト目。それもこれも全部お前の所為だと言わんばかりの被害者精神全開のものである。

 そんな視線を向けられたベルであるが、今は紳士な彼である。普通に心配すれども何故こんな目で睨まれているのか分らず首を傾げる。

 そんな主神と眷属であるが、周りはそんな二人を置いてけぼりにするかのように事態を動かしていく。

 

「君がベル・クラネルかい?」

 

 そう声をかけられて振り向いてみれば、そこには一人の男がいた。

誰が見ても分る美形であり、知的でありながらもその瞳にはどこか子供らしい無邪気さを宿していた。そしてどこか…………読めない曲者感を醸し出している。

 そんな男はベルに向かって笑顔を向けると手を差し出してきた。

 

「俺の名はヘルメス。会いたかったよ、どうぞ、お見知りおきを」

 

とても親切な対応である。その顔の美しさも合わせれば女性なら誰もが顔を赤らめてその手を取るに違いない。

 だが………………ベルはその手を取らなかった。

 

「えぇ、よろしくお願いします、神ヘルメス」

 

此方も紳士らしい笑みを浮かべるのだが、その目から滲み出すのは警戒心。いや、警戒するといよりも胡散臭いものを見るような目であった。勿論表情的には笑顔なのでわからないが、相手は神である。子供が嘘をついているのか分るような存在だ。特にヘルメスのような癖の強い者ならベルが何を思っているのかなどお見通しらしい。

 

「そんなに警戒しないでくれよ。俺が君に何かしたかい?」

 

苦笑を浮かべながらそう問いかけるヘルメスにベルは紳士な顔のまま中身が薩摩に変わっていく。

 

「今はしてない。でもいずれ何かを仕掛けてくる………そういう顔をしているよ、貴方は」

 

その言葉にヘルメスはやれやれといった様子を見せつつ内心冷や汗をかく。何故ならこのやりとり、彼にとって『二回目』だからだ。一回目は言うに及ばずである。言葉遣いや態度こそ若干違うがその本質はまったく同じ。その同じだということにヘルメスは戦々恐々とする。

 それを見抜かれているのだろうか? ベルの目は既に薩摩のそれに変わっていた。彼の身に纏う雰囲気が変わり、それまで和やかだったものが急に息苦しいものにかわる。息苦しいなんてものではない。一息吸うだけでもかなりの体力を使わなければならない程に重くなる。まるで戦場に放り込まれたかのように錯覚させられる程の緊張感を感じさせられるのだ。

 殺気に怪しく煌めく目がヘルメスを見る。

 

「貴方のその対応は不自然だ。まるで最初から『僕を知っていた』。だがそれを隠すかのように初見に見せる真似をした。勿論僕は貴方とは初めて会う。それはつまり僕のことを誰かに聞き、そして今回会いに来た………いや、その様子を見るに『見に来た』と言う方が正解だ」

「あ、あははははは………何をイッテイルノヤラ」

 

正直ヘルメスは笑うしかなかった。正直な話、今すぐ全力で逃げ出したくなった。

今までの神生でここまで怖いのは二度目である。一回目は彼の師匠と相対したとき、そして二回目は今回である。神の威厳などあったものではないが、それでもここまで平然と殺意を向けられるというのは今までに無い。オラリオのゴロツキ冒険者でさえ神には手を出さない。最低で犯罪なことも平然と行う最悪な愚か者である彼等でさえソレには戸惑うし踏み切らない。 

 だと言うのにだ……目の前にいる白髪の少年は勿論、この少年を本来あるべき『英雄』からねじ曲げた『師匠』はそれを躊躇しない。普通に斬り殺さんと当然のように考えるのである。嘘をついているのかどうかが分る神である。相手が平然とそう考えていることも分ってしまう。

 

(やっぱり会いたくなかったよ、チクショー!)

 

 本当は会いたくなんてなかった。だが言われたのだ、様子を見に行ってこいと。上司に当たる神物からの頼みでもあるが、それ以上のあの『師匠』にそう言われた。彼からしたら何てこと無い言葉だったのだろう。寧ろ彼はいつものように豪快に笑いながら

 

『べるぅはようやるやつだ。なら問題なか』

 

と言っていたが、それでも見てこいというのは分りきっていた。心配なんて全くしていない。精々親戚や家族が元気にやってるのかを見てこいくらいに思っているのだろう。別にこれだけだったら問題なかった。だが最初の出会い方が不味かったのだ。結果だけ言えば斬られかけて死にかけた。ただ胡散臭いというだけでだ。気にくわなかったので神威を少しだけ向ければ跪くと思って向けた結果がこうである。その恐怖、同じ神なら分るだろう。アレは最早人間じゃない。薩摩兵子という名の別の種族だ。

 そんな戦闘民族薩摩なアレの言葉をその通りに捕らえることなどヘルメスには出来なかったのである。裏を考えるのが当然の曲者であるヘルメスにとって真正面に平然と当たり前に殺すと言い切る薩摩とは相性が最悪なのであった。

 故に自分自身に妙な強迫観念に追い込まれ、こうして彼はベルに会いに来たのである。『いずれ英雄になる男』に会いに来るという自身の用事も確かにあるので仕方ないが、それでもやっぱり…………怖かった。

 そしてそんな内心叫んで震え上がるヘルメスにベルの猛攻は続く。

 

「貴方は今、怯えているな。その目は戦場で怯えた兵士の目だ。僕を怖がっている、恐れてる。僕に会いたくなどなかった。だが仕方なく会わざる得なかった。そう頼まれたから仕方なく」

 

 ギラつく瞳で見据えられ、嘘が見抜ける神が逆の立場になる。嘘など許さない、吐いた途端に斬るぞと言わんばかりの殺気を噴き出し、口元から滲み出るニヤリとつり上がった笑みは魂を恐怖で振るわせる。

 ヘルメスはもう泣き出したくなった。分りきっていたが、目の前にあるのは『偉大な神の孫』ではない。『手柄狂いの薩摩兵子』である。

 故にむ耐えられずゲロした。

 

「あぁ、もうわかったよ、わかったからその殺気を向けるの止めてくれ。年甲斐もなくちびりそうになるくらい怖いんだよ!」

 

神の威厳もクソもあったものではないその様子に周りも者達は何事かと視線を向ける。そんな視線が集中する中、ヘルメスはもう勘弁してくれと語り出した。

 

「君の言う通り頼まれたんだよ。俺は旅をよくしているからね。その道中立ち寄った村で君の祖父と君の師匠に出会ったんだ。そこで君のことを知って様子を見てくれって」

 

その言葉を聞きベルは感動…………しない。

 

「嘘ではない。でも少しばかり違うな。特に師匠は貴方にそんなことは言わないはずだ。何せ貴方は『胡散臭い』」

 

その言葉にヘルメスは顔を青くしながら項垂れた。

 

「その通りだよ、まったくこの師弟は………君の師匠確かに君なら大丈夫だと言ってたが、見てきたら様子の一つでも教えてくれとは言ってたんだよ。もうわかるだろ、アレと同じ君なら」

「師匠なら見抜く。見てこなかったのに見たなんて嘘をつけばバレて斬られると」

 

ベルは師匠であるあの男の思考をそのまま口にする。別に暴虐でもなければ独裁者のように冷徹でもない。ただそうある男なのだ。そして嘘は見抜く。本人曰く、目を見れば分るらしい。そしてそれはベルも一緒だ。だからこそ、目の前にいる『ヘルメス』という神を見抜いたのだった。

 

「だから俺は…………嫌だったんだよぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

感極まって叫ぶヘルメス。そんなヘルメスにベルはあぁ、納得といった様子で殺気を静める。そんなベルに胃痛で腹に手を添えつつヘスティアはジト目で二人を見ながらこう言った。

 

「そんなわけで僕は君の主神として拉致同然に連れてこられたってわけさ。君と関わってから毎日こんな目に遭ってばかりだよ」

 

ジト目でヘスティアにそう告げられるベル。ベルに振り回されている苦労を知る者ならば誰もが頷くであろう。だが当人にはそのような苦労などない。

 

「神様、別に僕は神様に何もしていないし、今回の件はそこにいる曲者の所為ですよ。僕はまったく悪くないのにその言われ様はあんまりだと思います」

 

その台詞にヘスティアの中の大切なナニカがぶちりとちぎれた。

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!」

 

声にならない叫びを放ち、その叫びがこの18階層に轟く供に…………。

 

「ぐふっ……………」

 

吐血して倒れたのであった。

 

 

 

 

 

 「申し訳ありませんでした!」

 

あの後ヘスティアをどこかのテントに放り込んだベル達はヘスティアと共に来た『救出隊』の面々と共に移動することになり、そこでロキ・ファミリアの団長が寝るのに使ってくれて構わないと用意してくれたテントへと案内することに。

 そして何やら話があると言うことで聞くことにしたところ、救出にきたタケミカヅチ・ファミリアの一人の女性が正座をしてその場で土下座をしたのであった。

 当然そんなふうに謝られても思い当たる節のないベルは困ってしまう。

 

「急にそんな事を言われても困るんですけど」

 

彼女達タケミカヅチ・ファミリアはそのことに対し、心底後悔した様子で謝罪の理由をベル達に告げるのだが、彼女達曰く『怪物進呈』したことらしい。

 本来冒険者としてあってはならない事をしたと謝る黒髪長髪の女性。それと同時に彼女の後ろに控える黒髪の少女もまた謝るのだが、唯一の男が恨んでくれて構わないが俺はこの判断を間違ったとは思わないと言う。正史であれば怪物進呈されたことで死にかけ、許せそうにないという雰囲気になるところだがここにいるのは薩摩兵子。

 あの程度で怒るも何もないのであった。

 

「別にいいんじゃないかなぁ、こうして無事だし。あの程度じゃ大した手柄にはならないしね」

 

 雑魚如きでは相手にもならないとベルは笑う。

 

「ベル様、でもあの時楽しそうでしたよ」

「それは勿論手柄が向こうから飛び込んできたんだよ。取らなきゃ勿体ないじゃないか」

 

リリルカにそう言われベルはそう返す。

 

「確かに冒険者として考えりゃぁアンタ等がこうして謝るのも分るんだが…………ウチの大将はこんな感じだしなぁ。寧ろベルからしたらおかわり一杯って感じだしな」

 

ヴェルフも常識とベルの考えで板挟みになりつつ悩む。

確かに常識的には怒っていい。仮にも此方は怪物進呈され殺されかけたという事実があるのだが、それを当人達があまり理解していない。あの時は結局ベルが嬉々として殺し回っていただけである。いつもの光景だ。最早普通過ぎてなんてことない日常でしかなかった。

 だからベルは土下座をする女性に笑顔でこう言うのだった。

 

「寧ろ今度はもっと一杯連れてきて下さい。僕はもっともっと手柄が欲しいですから」

 

おかわりの要求に今度は彼女達が絶句したという。

 


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