ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず 作:nasigorenn
ベル達の救助という面目でやってきた面々であるが当の本人は危険のきの字もなくのんびりとしている様子であり、そんな姿を見せられてはいくら何でも意気込んでいたものが抜けても仕方ない。
さて、ベルが無事ならもうするべき事など無いということで速攻帰ろうというのはヘスティアにとって当たり前のことであった。ただでさえバイトを無断で欠勤したのだ。大目玉を食らうことが決まっているだけに更に怒られたくない身としては急いで帰りたいのであった。ベルの身の安全? それこそ『レベル7(オッタル)』クラスの相手でもない限り大丈夫だろう。寧ろ階層主すらベルにとっては大将首だ。それ以上もそれ以下もない。付き合うだけ精神を摩耗させる。彼の主神であることはもう仕方ないとしても、これ以上ストレスを受けたくないのだ。身近にいるだけにヘスティアは何かしら巻き込まれると確信している。特にダンジョンなんていう危険な場所なら尚更に。
だから帰ろうとしたのだが、そこで待ったをかけたのは何とロキ・ファミリアの団長であるフィンであった。
「せっかくここまで来て疲れているだろうし、ここは少し休まれてはどうか」
実に思いやりに溢れた言葉であり、その人徳の高さが窺える。タケミカヅチ・ファミリアの面々はその言葉を喜んで受け入れた…………が、ヘスティアとヘルメスの二人は実に嫌そうな顔をする。既に碌でもない目に遭っているのだ。これ以上遭いたくないという本音がダダ漏れな、そんな顔。
しかし、悲しいかな………神とて民主主義には叶わない。タケミカヅチの3人、そしてヘルメスの眷属であるアスフィ、そして今回の助っ人として参戦した覆面の女性の計5人からの賛成により帰ろうという意見は封殺された。
そんなわけで一同はベルとの合流を果たし一泊することに。主にタケミカヅチ・ファミリアの3人やアスフィ、そして今回ベルの窮地?に参戦した彼女は各々その身体を休めることにした。ベルはまだまだ殺る気満々のようだが………。
そして翌日、やっと帰れるなんて思った神二人は再び民主主義によってその意見を殺される。
「せっかくだしリヴィラの街を観光してってはどうだい? 冒険者としては一度は足を運んだ方がいい場所だよ」
再びお節介さん(フィン)の発言によって決まった観光。その際にフィンがアイズに向かって意味ありげなウィンクを飛ばした辺り、本当に彼は家族思いだろう。その所為でアイズがその意味を察して顔を赤らめて俯いてしまう。そんな顔に気付き暴走小人族のリリルカが警戒心を露わにして火花を散らし、ヴェルフはまたやってらーと呆れながら見ていた。そして我らが薩摩兵子は紳士らしく笑っていた。
そんなわけでやってきましたリヴィラの街。この街はダンジョンの中にある特殊な街で冒険者によって作られた街である。その為なのか領主というものが存在せず、各々自由に店を開いている。そして最大の特徴がともかく物価が高いということ。それこそ地上とは比べものにならないくらい高すぎであり、酷ければ二倍三倍当たり前であった。それでもそんな商売が上手く回っているのは需要があるからである。ダンジョン内でこういった場所は此所しかなく、ここから下の階層に物資を補充する場所はない。だからこそ、こうして高くても売れるのだ。金で命は買えないが、命を少しでも安全に導くためには金はいくらつぎ込んでも足りないというわけである。
そんな街を練り歩く一同。といっても観光らしいことはあまりせず、ただ店を冷やかすことしかしないのだが。
特に今回初めて来たベル達やタケミカヅチの3人はその物価の高さに驚きの声を上げる。
「研石だけでこんなに高いのかよ!」
「ただのポーションに5000ヴァリス!? ぼったくりも良いところです!」
「この刀と同じものが地上で一万ヴァリスで売られてたぞ………」
「さすがはあのリヴィラ。噂で聞いていましたがここまでとは………」
「た、高すぎる………」
この物価の高さには流石のロキ・ファミリアも参ったらしく、最低必要な物しか買わず、後は地上で量を多く仕入れて持ち運んでいるらしいとアイズから説明を受けたベル。だからロキ・ファミリアはこの街の近くでキャンプしているのだとも。
まぁ、そんなわけだから買い物を楽しめるわけではないのだが、それでも楽しそうな者もいる。
「ベル、あっちのお店を見に行こう」
ベルをリードするように手を引きながら笑いかけるアイズ。普段のアイズよりも笑顔が20%増しといった様子に彼女を見知っている者が見たら驚くであろう年相応の可愛らしい表情をしていた。
「ベル様、ベル様、リリはあっちのお店を見たいです」
アイズとは逆の腕を引きながら甘い声でそういうのはいつもの通りのリリルカである。そんな二人に引っ張られたベルは困った顔で笑うのだが、二人にとってはそれではすまない。
「私が先にベルを誘った。君のは別に後でもいいんじゃない?」
アイズはいつのも物静かなしゃべり方であるにしても何故だか迫力がある言葉でリリルカにそう言うと、リリルカは負けじと不敵な笑みを浮かべながら返す。
「効率的に考えても先にこっちの店の方が先に行った方が良いんです。剣姫様はもう少しベル様に遠慮した方がいいんじゃないですか? ベル様が困っています」
「そんなことない。それよりも君はいつもベルと一緒にいるのだから、今回は私に譲って」
そして更にいがみ合う二人。そんな修羅場にタケミカヅチの女子二人は注目し男とヴェルフはドン引きする。レベル6に喧嘩をふっかけるレベル1、ただし異性の取り合いというのは変な雰囲気を醸し出す。レベル差とて意味は無い戦いなだけにかなりの火花をちらつかせていた。
そんな二人を見て正気かと疑うのはヘルメス。ヘスティアは既にリリルカのことを知っているだけにまたかと思い放置。アスフィは若干羨ましそうに二人を見ていた。
そんなふうに街を歩いて行くベル一行。その最中リリルカはが反対側を歩く集団とぶつかってしまったようだ。
「あ、すみません」
「あぁてめぇ、どこ見てやがる!」
ぶつかられた側………如何にもな冒険者の男がリリルカに向かってそう凄む。その様子はただのチンピラのようにしか見えない。
「あぁ、てめぇ、どこかで見たような…………」
リリルカに見覚えがあったらしい男は軽く周りを見渡し、そこでベルを見て顔を青ざめさせた。
「てめぇ、あの酒場の時のガキ…………」
「はて、誰でしたっけ?」
向こうは知っているらしい。それも表情からベルによって酷い目に遭わされた事が窺えるのだが、ベルはまったく覚えていないようだ。
「ベル様ベル様、この人中層に挑む前に『豊穣の女主人』で少し揉めた冒険者です。覚えてないんですか?」
「んぅ~、手柄にならないような相手はあんまりね。まだ手柄になりそうなら覚えていたかもだけど」
雑魚だと言い切るその言葉。普通なら怒っても当然だが、ベルの力を間近で見せられているだけに男は顔を青ざめさせたまま仲間に向かって急いで行くように言うとこの場を逃げるように去って行った。
「何だったんだろうね?」
「さぁ?あ、それよりもベル様、次はあっちに行きましょう」
「ベル、この先にジャガ丸くんのお店があるの。よかったら一緒に………どう」
そして再び一行は騒がしくも街を観光していく。その中の一人が抜けていることも気付かずに…………。
「やぁ、君達。実は君達にとってとっても良い話があるんだけど………聞くかい?」
胡散臭い神はそうして先程の男達に声をかけた。それが自爆だと知らずに………。