ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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仕事が忙しすぎてまったく書けない………。
しかし、へこたれずに頑張りたいです。


第7話 ベルはまったく反省しない

 ベートがボコボコにされたその後、当然の如く周りは騒然となった。

何せ有名なロキ・ファミリア、それもその幹部のレベル5が一撃も出さずに一方的に蹂躙されて敗北したのだから。

 当然遠征の祝賀会は中止。ロキ・ファミリアは気絶したベートをポーションで治療して自分達のホーム『黄昏の館』へと帰った。

 そして当然問題になるのはベートを完膚なきまでに叩きのめした冒険者。

ロキ達はホームの一室にてその冒険者について真剣に話し合う。

 

「まさかベートをこうもボコボコにする奴が現れるなんてなぁ」

 

そう言うロキだが、心なしか苛立ちが滲み出ていた。

 彼女は基本ちゃらんぽらんな神だが、その実自分の眷属(子供)への愛は実の親以上に深い。だから大切な子共を傷つけた存在を当然許せないのだ。

 まぁ、その理由がその子共にあることを分かっている。だが、それでも割り切れないところが本当に愛が深い所だろう。

 そんな彼女の言葉に自業自得だと分かっているので落ち着けと言うのは、ロキ・ファミリアの団長であるフィン・ディムナだ。

 

「悪酔いが過ぎたベートが悪いんだから、そう怒らないでよロキ。それにしても彼、いったい何者なんだろう?」

 

 その疑問にこの場にいる幹部は皆頷く。

何せ相手はレベル5を一方的に倒したのだ。それは同じレベル5であろうと不可能に近い。

 このオラリオに於いてレベルの差は天と地の差ほどある。だから基本レベルが一つ違うだけで勝機はかなり薄くなり、勝つには特殊なスキルの取得か特殊な訓練を積むなどをしなくてはならない。だが、それでも勝てる可能性は低く、絡め手などで何とか勝てる程度だ。

 それが冒険者の間における不文律。幼子であろうと知っている常識と同じレベルの話。

 だが、あの時のあの冒険者はそうではなかった。

レベルが同じでもあのような展開にはならないというのに、ベートを圧倒した。

つまりそれはベートのレベルより上の冒険者だということになる。

 しかし、そこまで高レベルの冒険者ならその名は有名になっていなければおかしい。

レベル2に上がる際に与えられる二つ名はその後もその冒険者の代名詞として使われる。高レベルの冒険者は二つ名と共にその知名度を上げるのだ。

 だが、彼のその見た目などからして出そうなあだ名が一つもない。レベル5を叩きのめす程の実力者なのに知名度が一切ない。それは明らかにおかしいのだ。

 

「あんなに強いなら、普通は誰でも知ってそうなものだよね~。なのに誰も知らない……う~~~~ん、良くわからないや」

 

頭を軽く振りながら悩むのは褐色の肌をしていて露出の激しい服を纏った『胸が残念な』少女。彼女はティオナ・ヒリュテといいベートと同じレベル5だ。

 彼女はあまりそういうことへの興味が薄いのか、あまり気にしてはいない様子である。

そんな彼女と見た目は似てはいるが、『胸が明らかに勝っている』少女はそんなティオナに注意をする。

 

「あんたねぇ~、もうちょっとは真面目に考えなさいよ」

「え~、だって~」

 

そう注意をしたのはティオナの姉であるティオネだ。彼女もベートと同じレベル5の冒険者でありその実力はこのオラリオにおいて有名である。

 

「あれほどの見事な体術、早々見られるものではないと思うが……。持っていた武器は刀のようだったし、タケミカヅチ・ファミリアの人間か?」

 

ベートを倒した腕前を思い出して関心するのは低い身長ながら巌のような肉体を持つドワーフの男。彼の名はガレス・ランドロック。ロキ・ファミリアに所属するレベル6の古参幹部であり、『重傑(エルガルム)』の二つ名を持つ。

その意見に対し、その場にいた美しい美貌を持つエルフの女性は否定する。

 

「いや、あのファミリアは極東の人間で構成されているはず……あの少年はどう見ても極東出身には見えなかった。それに彼の神はそこまで好戦的ではなかったはずだ。あんなことがあれば如何に神とて問題になることは分かっているはず……」

 

彼女の名はリヴェリア・リヨス・アールヴ。

ロキ・ファミリアの副団長にして『九魔姫(ナイン・ヘル)』の二つ名をもつレベル6の冒険者。エルフの中でも更に高位なハイエルフ……つまり王族だ。

そんな凄いエルフがいるだけでも如何にロキ・ファミリアが凄いのかが分かる。

 だが、そんな凄いファミリアを持ってしても、団員を倒した相手の正体が分からない。

未知の相手に対し、好奇と恐怖の入り交じった感情が周りに伝播する。

そんな中、その感情に支配されていない者もいた。

その彼女と言えば、唯一問題人物と会話をしていたことが思い出され、フィンがその事に対して問いかける。

 

「そういえば彼はアイズと会話をしていたね。アイズ、君は彼の事を知っているのかい?」

 

優しげな言葉だが、その言葉から滲み出る探究心に言わないというのは無理だと彼女……アイズ・ヴァレンシュタインは思った。

そして彼を初めて見たときのことを思い出しながら彼女は口を開く。

 

「私が知ってるのは二つだけ。ベル……ベル・クラネル………それが彼の名前。そして彼は………ミノタウロスを圧倒する程の実力を持ってる。一太刀でアレを倒した」

 

 こうしてベートを倒したのがベルだということがロキ・ファミリアに知れた。

その事に対し色々と思うところがあるが、ファミリアとしては勧誘したいという声が上がっており、その言葉にアイズは内心嬉しくなる。

 

(彼ともっと話せれば………きっともっと強くなれる。そんな気が……する。それに彼の事を……もっと知りたいな………)

 

その時のアイズの顔はとても『女の子』な笑みを浮かべていた。

 

 

 とある一室にて、世界すら跪く程の美貌を持った女神が恍惚な顔をして水晶玉を見つめていた。

 彼女の名はフレイヤ。美を司る天界でも随一の女神だ。

そんな彼女が見ている水晶玉に写されているのは一人の少年。

初雪のような真っ白な髪に紅い瞳をもった人間。彼女はその少年を見つめながら熱い情欲に満ちた溜息を吐く。

 

「あぁ、いいわぁ………実にいい」

 

フレイヤはまるで恋する乙女のように、それでいて色欲を掻き立てられる娼婦のようにその少年を見る。

見た目は勿論、その魂が彼女を惹いてやまないのだ。

 

「初めて見たときから震え上がった。なんて凄い魂をした子なの! 表面はとても無垢で真っ白なのに、その奥底にはギラギラとした凄まじい輝きを放ってる。それも無色の輝きを! それは神ですら持っていない、初めて見る魂の輝き………あぁ、欲しい! 彼が欲しいわぁ!!」

 

その言葉は彼女の本音。

魅惑的な表情で、しっとりとした声でそう言う彼女は淫奔な雰囲気を出しながら自らを慰めるように頬に手を添えながら水晶に映る彼を見つめる。

 

「だけど今はまだ、彼を見ていたい。彼の魂の輝きをもっと……もっとみたい! だから少しばかり『イタズラ』をしようかしら。うふふ、彼が喜んでくれるとよいのだけれど」

 

その時の輝きを思い浮かべながら、フレイヤは恋する乙女のように熱の籠もった瞳で水晶に映る少年……ベル・クラネルを見つめ続けていた。

 

 

 

「べ~ル~くぅ~~~~~んぅぅうううう!!」

「どうかしたんですか、神様」

 

ベートを思いっきりボコボコにしたベルではあるが、そんなことを周りに言いふらすような性格ではなく、当然歯牙にも掛けてなかった。

なので気にすることもなく、今日も今日とてダンジョンで手柄を立てるべくホームを出ようとしていたのだが、それは後ろでワナワナと怒りを燃やす主神によって止められた。

何故主神……ヘスティアがこんなに怒っているのかベルにはまったく分からない。

怒られるようなことをした覚えなど当然無く、朝食に嫌いな食材を入れた覚えもない。

だからこうも怒るヘスティアに対し、ベルは純粋に首傾げながら問いかける。

 

「いったい何でそんなに怒ってるんですか? 朝からそんな感じでは疲れちゃいますよ」

 

本当に分からないといった様子のベルを見て、ヘスティアは堪えられなくなり爆発するかのように怒っている理由をぶちまけた。

 

「僕はあれだけ目立つなって言ったよ! 君のステータスはとことん異常なんだから目立つと厄介事になるって。だというのに君はぁああああああああああああ!!」

 

言葉の端から伝わる怒気にベルは何なんだと本当に分かっていない。

これほど言われても察しない。空気を読めない……否、空気を読まないベルにヘスティアは怒りで顔を真っ赤にしているのに脱力感を感じてその場でしゃがんでしまう。

 

「君は本当に分かってないんだね………。はぁ、もう、君って奴は………」

 

その姿は哀愁すら感じさせる程に可哀想であった。

そんなヘスティアは愚痴を漏らすかのように説明し始めた。

 

「ここ最近この街である噂が流れてるんだよ。僕はバイト先で人気者だからね。そういう情報もよく入ってくるんだ。で、その内容が………『数日前の夜、とある酒場の前の通りで喧嘩があった。相手はなんとレベル5の狼人。対するのは白い髪に紅い目をした見たこともない男の子。誰もがその狼人が勝つと思っていたはずなのに、喧嘩が始まってみたら……なんと勝ったのは白髪の男の子の方だった。その子は身の丈ほどある大太刀を背に掛け、それ以外の武装は一切無かったらしい。そしてその子は持っていた大太刀を狼人に投げつけると、それを囮にして狼人に急接近し、そして地面に倒したあとには大太刀の鞘で一方的に殴り続けたとか………』それって明らかに君のことだよねぇ、ベル君!!」

 

脱力しながら怒りの籠もった目で睨み付けるという難しいことをやってのけるヘスティア。

そんなヘスティアに言われたことを少し考え、そして思い当たったものがあったようでベルはやっとわかったといった様子で答えた。

 

「あぁ、そんなことですか。たかがあの程度で噂になるとは………この街は案外暇な人が多いんでしょうか?」

 

いつも忙しない様子を見せる街の住民に対し、結構失礼な事を考えるベル。

別に暇人が多いわけではなく、ベルがしたことがそれだけ大事だということを言いたいヘスティアとしてはその感想はおかしいだろと突っ込みを入れる。

 

「そんなわけないだろ! 君がしたことが明らかに異常だっていうことを少しは自覚してくれよ!」

 

突っ込まれたベルはそれこそおかしいだろと言わんばかりにジト目でヘスティアを見た。

 

「自覚しろと言われてもなぁ。相手は酒に酔った間抜けで、関節を押さえれば動けなくなることは当然で、あんなのでもレベル5だというのなら拍子抜けもいいところだと言いたいくらいでしたよ」

 

寧ろこっちが文句たらたらだと言いたいベル。

そんなベルにヘスティアは今も痛む頭が更に痛むのを感じた。

 

「いったい君の常識はどうなっているんだ………」

「酷いなぁ、神様。僕は常識でものを言っているんですよ。非常識なのは師匠のことを言うんです」

 

そう言って語るベル。

その内容は彼の師である『島津 豊久』との修行の数々。その頭のぶっ飛んだ内容と常識外れの独特な価値観はヘスティアの頭痛を更に痛くした。

薩摩の兵子はその生き様からして常人とは違うのだ。それはたとえ神とて理解不能である。

これ以上頭が痛むのはごめんだと、ヘスティアは珍しく主神としてベルに命じた。

 

「これは主神命令だ。今日はダンジョンに行かず、僕と一緒に怪物祭(モンスターフィリア)を回ること。いいね、絶対だよ!」

 

主神からの命令というのはファミリアにおいて最重要なものであり絶対のものである。

そう命じられたのなら、それが如何に危険なものであろうとも団員は絶対に従わなければならない。

 たとえそれに強制力が無かろうと、ファミリアの根幹である主神の命令は遵守しなければならないのだ。

 なので本来であればベルはそれに従わなければならないのだが、この男はその命令を毛ほどの気にも思わなかった。

 聞く気などなく無視すればいい。とはいえ、目の前で涙目になりながら必死になっている主神に対し、そこまで大人げない行動を取るのもどうかと思い直した。

何よりも今日はいつも以上にしつこい。これ以上しつこいと更に面倒臭いことになりそうだと判断したベルは仕方ないと軽く溜息を吐いた。

 何、ダンジョンは逃げない。手柄は焦るものではない。

それに………たまにはこの主神の我儘に付き合うのも良いかと思ったのだ。

どうにも彼女は自分の所為で色々と気苦労しているようだしと。だからといってベルが自分の行動を自粛する気などサラサラないが。

 

「…………わかりましたよ。たまには神様に付き合うのもいいでしょう」

 

そう答えたベルを見て、ヘスティアは心が躍った。

決してベルとデート出来るからではない。

 

(これで今日は胃痛に悩まされずに済む! そして……ベル君にちゃんとした『常識』を教えるんだ。これ以上僕の体がおかしくなる前に!)

 

 

 だが、そう思っているヘスティアは……まさかそれ以上に酷い目に遭うなど、この時は考えもしなかった。


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