やはりダンジョンに出会いを求めるのは間違っている   作:雨時々飴

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初めから厨二病全開なので、苦手な方は最初は飛ばして下さい


始まりから間違っている

ある英雄譚に魅せられた少年がいた。

数多の階層に分かれる迷宮。凶暴なモンスター達の坩堝。

そんな危険が渦巻く場所で、可愛らしい女性と出会うのを目的とした少年がいた。

青臭い夢を見て、死を物ともしない馬鹿者達が集うギルドの門を潜った少年。

彼が抱く夢は正常な男なら一度は夢を見る願望。

斯く言う俺も青臭い夢を一度は抱き、叶わぬ望みと諦めた人間。彼の夢を嘲笑う事は出来ない。

そして、嘲笑う代わりに俺は彼に俺が諦めた夢を叶えて欲しいと願い、微力ながら力を貸していた。

男の夢の終結点。それを見届けるのは間違っているのだろうか?

結論。間違っていた。

 

 

 

 

「GUROOOOOOOO」

 

 

騒然たる雄叫びを上げて、巨腕を振り回しながら追い回してくるミノタウロスを背に自分の浅はかさを呪う。

この階層なら少しばかりのハンデを背負っても余裕と自分の力量に慢心を覚え、青臭い夢に浸る少年とパーティーを組んでしまった。

その慢心を嗅ぎつけたように目の前に現れたミノタウロス。

Lv.2に成長した冒険者でも時に屠られる化け物に、Lv.1の俺が勝てるわけがない。

余裕も慢心も飲み込む圧倒的な教者の登場に俺も少年も逃げる選択しか選べない。

幸い、巨体のミノタウロスはそこまで素早くはない。

俺は一撃粉砕の攻撃を回避しつつ、狭い通路をちょこまか逃げ惑えば逃げ切るのは不可能ではない。

しかし、それは俺のステータスでの話であって、今日冒険者になったばかりの少年には酷な話。

現にミノタウロスの攻撃を紙一重で交わしているものの、ミノタウロスとの距離は一向に離れる気配が見えない。

少年が逃げ切れる可能性は絶望的だろう。

そして、少年を見捨てれば俺は生き残れる。たった一つの命だけで助かるのだ。

そう、たった一つの命だけでーー。

回避に全神経を注ぎ、体力も集中力も限界に達しつつある少年。

少年の命は風前の灯。それを理解して助けを求める瞳を向ける少年。

俺が助けに向かった所で二つの命が散るだけだ。ならば、一つの命を散らすのが得策であろう。

得策であるはずなのにーー。

 

 

「あぁぁぁあああ、もうどうにでもなれ!」

 

 

ーー夢を追いかける過去の自分に重なる少年を見殺しには出来なかった。

俺は今まで向いていた方向とは逆側に向かって駆ける。

 

 

「【我は世界の理に打ち(ひし)がれた者よ。

世界の理に抱く邪心を身に纏い、世界を破壊を求む

世界の哭く刻は刻下であろうぞ】」

 

 

狭い通路を駆けながら行われる高速詠唱。

一言口にする度に吸い上げられる膨大な精神力(マインド)

視界が歪み、身体に不調を齎すが構ってはいられない。

 

 

「ーー『ーー』」

 

 

詠唱完了と同時に発生した吐き気を催す匂いを振り撒く深黒の霧。

深黒の霧は俺の身体に纏わり、身体の一部のように思った通りに動かせる。

 

 

「ちっ、今の状況じゃこの程度か」

 

 

纏う霧の薄さに悪態の一つを零すが、今の俺で発動出来たこと事態不思議なので文句はない。

 

 

「GUWALAAAAAAAA」

 

 

獣としての本能か、危険を察知したミノタウロスが少年から俺に目標を変更する。

幾多の人間を散らせた血に濡れた斧を振り上げ、脳天目掛けて振り下ろす。

ミノタウロスの全力の一撃。速さも威力も一級品の攻撃。

 

 

「避けて!」

 

 

少年から悲鳴にも似た叫びが飛ぶ。

 

 

「言われなくてもそうする!!」

 

 

振り下ろされた斧をくぐり抜け、ミノタウロスの懐に潜り込む。

ガコン、と斧が地面を粉砕する音を背にガラ空きのミノタウロスを見る。

筋肉の鎧で全身を武装するミノタウロス。

ミノタウロスの肉は俺の安っぽい剣では倒すことはおろか、傷を付けることも敵わない。

 

 

「けど、この霧ならいける!」

 

 

膨大な精神力(マインド)を必要とする俺の切り札。

いつもなら発動条件が厳しく発動出来ないが、条件が厳しいだけに威力だけはぶっ壊れている。

ガラ空きになったミノタウロスの筋肉質な腹。

そこに全力を叩き込むべく、全身を覆う薄い霧の全てを右手に集結させる。

格下と舐めきっていたミノタウロスの瞳に焦燥が宿る。

視界の端では少年がこちらにゆっくり駆けてくるのが見える。

いや、少年がゆっくりなのではない。俺がゆっくりに見えるまでに集中しているのか。

全てがスローモーションの世界。

ミノタウロスの焦燥感に駆られた表情も、少年が必死に助けに向かう勇敢な姿も詳細に見える世界。

その世界の中心の立つのはミノタウロスと俺。

 

 

「吹き飛べぇぇええええええ」

「GUOOOOOOOOOOO」

 

 

二つの荒々しい雄叫びが轟く。

一方は全ての力を一撃に込め、一方は襲いくる衝撃に備えて全力で耐え抜く姿勢。

この攻防が二つの命の生死が分かれる。

ズドンッ、と到底肉と肉が衝突し合ったとは思えない不協和音を鳴らし、拳がミノタウロスの腹部に滅り込む。

 

 

「GAAAAAAAAAAAAA」

 

 

痛みによる絶叫か、それとも敵の攻撃を受け切った勝ち時を確信した祝咆か。

敵の攻撃を受けたミノタウロスは猛々しい咆哮を上げる。

そして、ミノタウロスは防御から攻撃へと態勢を移行する。

ミノタウロスは腹部に込めた力を腕に移し、幾多の冒険者達を地に伏せた斧を持ち上げる。

敵は逃れようにも、拳を腹部に埋め込み抜け出せない状況。

繰り出される一撃粉砕の攻撃を躱す手立てを持たない。

ミノタウロスの口元に笑みが宿る。勝ちを確信した笑み。

しかし、まだーー

 

 

「まだだぁぁああああああああ」

 

 

ーー俺の攻撃のターンは終わってない。

拳を纏う深黒の霧が滅り込んだ腹部で蠢く。

深黒の霧は肉を引き千切り、肉を喰らい、徐々に相手の中を蝕む。

ミノタウロスは生きた状態で喰われる痛みに絶叫を轟かせるが、霧を防ぐ手立てはない。

霞む視界。精神力(マインド)の限界が近付いている。

 

 

(あれ、なんで俺って必死になってミノタウロスなんかと戦ってんの?)

 

 

よく回らない頭では格上の相手に挑むなんて、普段の自分では決して有り得ない行動に疑問を得る。

信頼の大半を寄せていた【ファミリア】に見捨てられ、裏切られないように生きてきて、ボッチでも死なない相手だけと戦って……。

なのに、馬鹿みたいに夢を見ている青臭い少年に魅せられて、裏切りを知る前の過去の自分に重ねて見えて、勝てるかも分からない強敵に無謀にも戦いを挑んで……。

俺は何をしているのだろう。

 

 

「加勢します!」

 

 

ミノタウロスの後方から少年の声が聞こえる。

彼は馬鹿なのか?

ミノタウロスが自分に意識が向いてない状況下だったのに、逃げる絶好の機会(チャンス)だったろうになぜ逃げ(裏切ら)ない?

あぁ、馬鹿みたいだ。

逃げる機会を捨てた彼も、彼に自分の夢を託す自分も馬鹿みたいだ。

 

 

「うおおおおおおおお」

 

 

少年のナイフがミノタウロスの背を一閃する。

荒削りな技術もクソもない無駄な一撃。

ミノタウロスに大したダメージも与えられない一撃を少年は繰り出し、自分の攻撃は通用しないと悟ったはずなのに幾度もナイフを振るう。

目の前で死にそうな人間を見捨てれない少年。

彼の夢を叶える為に手を貸していたら命がいくつあっても足りなそうだ。

再結論ーー

 

 

「吹き飛べぇえええ」

 

 

残り少ない精神力(マインド)の全てを注ぎ、霧をミノタウロスの身体中を駆け巡らせる。

精神力(マインド)が切れた事により意識が遠のく。

勝敗を見届けることなく、俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

ーーやはり間違っている




次回はガルパンとのクロスの後に投稿します

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