この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

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10.女神降臨

 ある朝の事、いつも魔法の実験を行っている荒地にて。

 

「━━━よし、完成だ!」

 

 ライト・オブ・セイバーを維持したままのカズトが、光を放つ自分の右手に視線を落としながら満足そうに頷いた。

 少し離れたところには、縦横十メートル近い大きさの、厚さは一メートル程度の壁が立っており━━━その壁には、拳ぐらいの大きさの穴が幾つも開いていた。

 

「やーっと完成してくれた。名前はどうしようかな……着想はあの漫画からだし、そのままマンティ……いや、もっと蛇みたいに動くから……蛇、蛇……スネーク……」

 

 ぶつぶつと独り言を呟くその様は完全に痛い人のそれだが、カズトはふと冒険者カードの事を思い出した。

 新しくスキルや魔法などが追加されると、カードは自動で更新される。基本的にはスキルポイントを消費して手動で覚えるものだが、中にはカズトがウィズに教えてもらった『瞑想』のスキルのように、覚えた時点で自動更新されるものもあるのだ。

 もしかしたら今回もそのように新しい魔法が出ているかもしれないと思い、カズトが冒険者カードを出して見てみると、それらしい魔法の名前はなかったが。

 

「……ん? 何だこれ……?」

 

 新しい、スキルと思しき名前は浮かんでいた。

 その名前は━━━

 

「……マナコントロール?」

 

 マナ。超自然的な力、霊力・呪力などの観念。この世界で考えるならば、魔力の事であろうか。

 コントロールは制御や統制を行う事。つまりは操る事が出来るという意味を指す。

 そう考えると、マナコントロールとは魔力を操る事の出来るスキルという事になるのだが。

 

「……瞑想と何が違うんだ?」

 

 瞑想も似たようなスキルだと言える。が、実のところこの二つのスキルは全くの別物だ。

 暫く考えていたカズトだったが、どれだけ悩んでも答えが出ないのでそのうち考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 それからアクセルの街へと戻ったカズトだったが、街に入った途端に胸の辺りがザワザワする感覚を覚えた。

 

「……何だ? 何か、変な感じが……」

 

 今まで感じた事のない、不思議な感覚である。言葉にするなら、自分の中の魔力が騒いでいる感覚、であろうか。

 だが、嫌なものではない。寧ろ、どことなく神聖な気配が漂っているような気さえする。

 更に街の奥へと歩を進めると、その感覚が強くなった。場所の特定も出来る。冒険者ギルドの方角だ。

 ウィズの店に帰るつもりだったが、この奇妙な感覚の正体がどうにも気になるカズトは、冒険者ギルドへと足を運んだ。

 扉を開けて、中へと足を踏み入れる。特にいつもと変わらない、冒険者達の喧騒がカズトを出迎えた。

 だが、辺りを見回してみると、隅の方の席に見掛けない二人組の男女が座っているのが目に留まった。

 片方はカズトと同じ黒髪黒目で、服装は緑のジャージというこの場において違和感満載の少年だ。年頃はカズトと同じくらいか。どこからどう見ても日本人である。

 もう片方はというと、水色の長い髪を持つ少女。脇を露出させたノースリーブの青い服にミニスカートというイケイケファッションで、こちらも年の頃はカズトと同じぐらいだろうか。

 カズトは少年の方に見覚えはないものの、少女の方には見覚えがあった。具体的に言うと、この異世界に来る前に見た覚えがある。女神アクアだ。

 

「……いやいや。あり得ない」

 

 そう、あり得ない。カズトをこの世界に導いた女神が、こんな場所で日本人と思しき少年と向かい合って椅子に座り、まるでお通夜のような空気を漂わせているなどという事はあり得ない。

 あれはきっと女神アクアのコスプレをしたアクシズ教のプリーストとかそんなところだろう。女神のコスプレとか、考えようによっては不敬な気もするが、きっとそうだ。そういう事にしておこう。

 そう思って見なかった事にしようとしたのだが、どうにも胸の内がザワザワと騒ぐ。何だか、あの少女を放っておいてはいけない、すぐに助けなければという使命感にも似た思いにかられるのだ。

 

「……はぁ。話だけでも聞いてみるか……」

 

 暫く迷っていたが、結局カズトは放っておく事が出来なかった。

 二人に近付き、話し掛けようとしたのだが、女神アクアのような少女が唐突に立ち上がる。そのままカズトの目の前を通り過ぎようとしたので。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 声を掛けたら少女は立ち止まり、こちらを振り向いた。

 

 ━━━嗚呼……マジで本物だ……。

 

 カズトは確信を得る。目の前の少女は女神アクアで十中八九間違いない。一月以上も前に一度だけ、それも三十分程度しか話していないが、それでも彼女の容姿はよく覚えている。美人の多いこの異世界においても、女神アクアは人ならざる美貌の持ち主と言っても過言ではない程に飛び抜けて美しい容姿をしていたからだ。

 まぁ、それでもカズトからすれば世界一美しい女性は誰だと聞かれれば、ウィズだと即答するぐらいには盲目的になりつつあるのだが。

 それはさておき。

 声を掛けられたアクアはカズトをじっと見つめたまま固まっており、顔中に疑問符を貼り付けたような表情を浮かべている。まさか覚えていないのだろうかと不安になるカズト。

 

「えっと、お久しぶりです、アクア様。……自分の事は覚えておいでですか?」

 

 流石に忘れてないですよね、という微かな希望を胸に尋ねてみるも。

 

「……えっと? あなた誰……?」

 

 見事に打ち砕かれ、思わず芸人のようにガクッと肩を落としてしまう。ものの見事に忘れられていた。仮にも女神なのに、その記憶力はどうなのか。

 

「えっと、あなたにこの地へと送られたスズキカズトです」

「…………?? 誰?」

 

 ━━━駄目だこりゃ。

 女神アクアの記憶からスズキカズトという人間の記憶は完全に抹消されていた。この様子だと思い出す事もなさそうだ。

 だが、それも仕方ない事である。

 例えばコンビニで働いていたとしよう。毎日何十人と接客する中で、全ての客の顔をいちいち覚えている奴などいない。

 アクアの女神としての死者の案内もそれと同じで、一度しか顔を見ない死者の事などいちいち覚えている筈がないのだ。

 仕方ないので、とりあえずもう一度自己紹介をするところから始めるか。そう思って口を開こうとしたカズトであったが、

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

 カズトと同じ日本人と思しき、上下共に緑のジャージ姿の少年が話し掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

 それからカズトは女神アクアと日本人の少年、サトウカズマと軽く自己紹介をし、二人がこの世界に来た経緯を全て聞いたのだが。

 

「━━━あっははははははっ!」

 

 爆笑していた。

 

「とっ、特典として、女神を選んで! こ、この世界に、引きずり込んだって……! あはっ! あっははははっ! はははははっ! だっ、駄目だ、腹がよじれる……っ!」

 

 そう、サトウカズマは女神アクアに自分の死の原因をからかわれ、その挙句『ひきこもりのゲームオタクに期待はしてないから、さっさとして』という暴言に腹を立て、女神アクアをこの世界に持っていく特典として選び、引きずり込んだという事だった。

 

「なぁ、流石にそんな笑われると腹が立つんだが」

「そうね、何か私まで小馬鹿にされてるようで腹立つわ」

「いっ、いやいや……! べ、別に、馬鹿にしてる訳ではないんだ……んふふ……っ!」

 

 そうは言っても、端から見ればカズマのやった事を馬鹿にしているようにしか見えない。無論、カズトにそのような気持ちはこれっぽっちもないのだが。

 

「じゃあ、何でそんなに笑ってるんだ? 言っちゃなんだが、馬鹿にされてるとしか思えないんだが」

「くふっ……んんっ! い、いやなに、カズマの発想力の高さに驚かされてね。ぶっちゃけ天才だと思う。マジで」

「褒められてる筈なのに、なんでか馬鹿にされてるように感じる」

「いや、本当にすごいなと思っているんだよ。だって、これ以上にすごい特典はないだろう? 女神様が味方とか、最強無敵じゃないか。もう何も怖くない」

 

 言ってみれば、歩く神龍(シェンロン)こと、未来からタイムマシンでやってきたネコ型ロボットを仲間にしたようなものである。若しくは、何でも三つだけ願いを叶えてくれるランプの魔人に『今後自分に付き従い、一生願いを叶え続けろ』という図々しい事この上ない願いで魔人を従えるようなもの。どんな神器も使い放題だ。

 そう考えていたカズトだったが、

 

「ふふん、あなたなかなか見る目あるわね。でも、私は天界に居ないと癒す力ぐらいしかないから、あんまり過度な期待をされても困るわ」

「えっ……あ、えっと……神器とかは……?」

「そんなもん、全部天界にあるに決まってるじゃないの。天界に行かなきゃ取り寄せられないわよ」

「あ……そうなんですか……」

 

 女神の価値が大きく下がった瞬間である。例えて言うなら、持っている株価が暴落したようなもの。もしかしたら、自分の体質を何とかしてもらえるかもしれないとかひっそりと考えていたカズトは、テンションが著しく下がった。

 まぁ、世の中そうそう旨い話はない、という事だ。

 

「ま、まぁそんな事よりも。登録料が足りなくて、冒険者登録が出来ないという話でしたね」

「そうなんだ。すまないけど、ちょっとだけお金を貸してくれないか?」

 

 状況が状況だっただけに、アクアとカズマは一文無しの状態でこの世界に来てしまったらしい。二人を送り出した天使の翼を持つ女性とやらは知らなかったのだろうか。転生者には、異世界でやっていく為の最低賃金を渡さなければならないという事を。

 

「…………異世界へ行くに当たっての最低賃金は一万エリス、でしたね」

 

 カズトは財布から二万エリスを取り出し、カズマとアクアに一万エリスずつ差し出す。

 

「それは俺からの餞別です。返さなくても良いですよ」

「いいのか?」

「ああ。情けは人の為ならず、ってね」

「ありがとう、助かるよ」

「あなたって実は良い人だったのね。とても良い心掛けです、汝に私の加護があらん事を……」

「はは、ありがとうございます」

 

 女神アクアの加護。何とも碌なものではないように思われるが、現段階ではカズトもカズマもそんな事は知らないのだった。

 それからカズトは二人の冒険者登録に立ち会う事にしたのだが。

 

「━━━これだけの幸運があるのでしたら、冒険者稼業はやめて商売人になる事をお勧めしますが……」

 

 ギルドの人気ナンバーワン受付嬢こと、ルナさんがカズマにそう言った。遠回しに冒険者の適性がないと言っている。……事実、カズマのステータスは知力と幸運以外、至って平凡であったのだが。

 

「え、えっと、その……基本職の冒険者でお願いします……」

「ま、まあ、レベルを上げれば転職が可能ですし……! それに、冒険者は全てのクラスのスキルや魔法を習得して使う事も出来ますから!」

「その代わり習得の為のスキルポイントは他のクラスと比べて割高だし、クラス補正も付かないから本職に比べて威力や効果は到底及ばない、ただの器用貧乏なクラスだけどね。ププーッ!」

 

 ルナのフォローを即座に打ち砕くアクア。何という無慈悲。これでも女神である。

 仕方ないのでカズトがフォローに回る事に。

 

「まぁ、そんなに悪いもんでもないさ。実は、俺もクラスは冒険者なんだぜ」

「そうなのか? 実はお前もステータスが低かったり━━━」

「あれ……でも、カズトさんは既に上級職であるアークウィザードになれるほどの高ステータスだとお聞きしましたが……まだなられていなかったんですか?」

「…………」

 

 無言で睨んでくるカズマから目を逸らすカズト。今度はルナがフォローの言葉を打ち砕いてきた。なんという無自覚。

 それからアクアの登録に移り、その潜在能力の高さにちょっとした騒ぎとなったのだが、特に重要でもないので割愛する。

 

 

 

 

 

 

 ウィズ宅にて。

 

「━━━という事があったんですよ」

 

 カズトは先ほど冒険者ギルドであった事をウィズに全て話した。そんな彼女の反応はというと。

 

「……アクシズ教団の御神体、女神アクア様ですか……そ、そうですか……」

 

 なんとも言えないような表情を浮かべていた。

 

「えっと……女神アクアが何か……?」

「いえ、アクシズ教団の方って、その……アレじゃないですか……ちょっと自由奔放に過ぎると言いますか……」

「……ま、まぁ、そうですね」

 

 カズトは既にアクシズ教徒と接触済みである。と言うのも、回復魔法を教えてもらう為にこの街のアクシズ教会を訪ねた事があるのだ。

 ハッキリ言って、エリス教会の方に行けばよかったと全力で後悔したものだが、今ではなんだかんだと慣れた。と言っても、出来れば関り合いになりたくないと思っていたりするが。

 

「その元締めである女神様と言われると……」

「あー……まぁ、気持ちは分かりますが、アクア様は常識ある方ですよ。話も普通に出来ますし」

 

 カズトの中ではそういう認識である。アクアの事をそれほど知っている訳ではないので、まぁそんなものであろう。……今のところは。

 ふと、カズトは今朝の事を思い出した。

 

「あ、そうだ。ウィズさんにちょっとお聞きしたい事があるんです」

「私にですか? 何でしょう?」

「えっと、マナコントロールっていうスキルについて、何か知っていますか?」

「マナコントロール、ですか……? うーん……すみません、ちょっと聞いたことないですね」

 

 カズトの冒険者カードにいつの間にか発現していたスキルであるが、ウィズも知らないようであった。という事は、アークウィザードのスキルではないのだろう。彼女ほどの実力にもなれば、アークウィザードのスキルなど網羅していて当然だ。

 まぁ、そもそもカズトは冒険者なのだが。

 

「名前のニュアンスから察するに、魔力を操作するタイプのスキルだと思いますけど……」

「俺もそうだと思いますけど、瞑想と何が違うんだって感じですよね」

「そうですね……そのスキルがどうかしたんですか?」

「ええ、実は……」

 

 カズトは懐から冒険者カードを取り出し、スキルの欄をウィズに見せた。そこには確かに『マナコントロール』のスキル名が記載されている。

 

「今朝見たら、いつの間にか追加されていたんですよ。昨日見た時は無かったので、恐らく今日の朝に追加されたのだと思うんですが……」

「今日の朝ですか……因みに、朝は何をされていたんですか?」

「朝ですか? えっと、魔法の新しい撃ち方を模索していて、それがちょうど完成しました」

「新しい魔法の撃ち方、ですか?」

「はい。ライト・オブ・セイバーを、こう…………うーん、見せた方が早いか。すみません、ちょっと外へ……」

 

 そうして二人は店から出て、人通りの少ない路地裏の先にある開けた場所へとやって来た。

 そこでカズトはその辺にあった手頃な岩を二つ、直列に並べて木箱の上に乗せると少し離れたところに立ち、ライト・オブ・セイバーを起動。カズトの右手に光が宿る。

 

「━━━シッ‼︎」

 

 そして、右手で鋭く突いた。手の先からまるで蛇のようにうねる光の閃光が走り、木箱の上の()()()()()()()()()()()に直撃。岩が粉微塵に粉砕され、光はシュルリとカズトの手に戻る。

 

「とまぁ、こんな感じで…………ウィズさん?」

 

 ウィズの方を振り向くと、彼女は惚けたように立ち尽くしていた。が、すぐにハッと我に返る。

 

「カズトさん⁉︎ なんですか今の⁉︎ ライト・オブ・セイバーがまるで意思を持った蛇のような動きで、手前の岩を避けて奥の岩を壊しましたよ⁉︎」

「えっ……えっと、ライト・オブ・セイバーの突きの軌道を弄っただけですけど……」

「いやいや……軌道を弄っただけでこんな精密な動きはしませんよ⁉︎ どういう術式を組んだんですか⁉︎」

「えっ……術式は特には……。ただ、ずっと魔法のイメージを頭の中で思い描いて、ひたすらに毎日魔法を撃ち続けていただけで……」

「術式を弄ってない? という事は、アレは普通のライト・オブ・セイバーという事……? でも、あれ程の精密な操作は術式を弄らないと……。いえ、魔力を多く注ぎ込んで、無理やり変質させれば……確かにカズトさんほどの魔力なら可能……でも変質をさせる為には……」

 

 ブツブツと呟き、自分の世界にトリップしてしまったウィズ。カズトは完全に置いてきぼりである。かなり真剣に考え込んでいるようで、どうにも声を掛けづらい。

 仕方なくウィズが戻ってくるまで待つ事にしたカズトは、木箱に腰掛けボケーっと空を眺める。青空の中を白い雲が泳いで行く。

 その中で、白いソフトクリームのような形の雲を見つけた。ただ、その雲の形は上のクリームの部分のみ。色を茶色に塗ったら巻きグソだな、などという余りにもくだらなさ過ぎる実にどうでもいい下品且つ馬鹿丸出しで益体のない事を考えていると、ウィズがトリップ状態から戻ってきたらしい。

 

「カズトさん、マナコントロールの効果が分かりました」

「えっ、本当ですか?」

 

 どうやら答えが出たらしい。流石は一級の腕を持つアークウィザードである。

 

「まず、マナコントロールというスキルは魔力を操る効果で間違いありません」

「そうなんですか? でも、それだと瞑想と何が違うんです?」

「内側と外側の違いです。つまり、瞑想は体内の魔力を操作する事が出来ますが、体外に出た魔力を操る事は出来ません。対して、カズトさんの発現させたマナコントロールは、体外に出た魔法や魔力を操作する為のスキルです」

 

 つまり、先ほどカズトがやったように放出した魔法を変化・変質させる事が出来る、という事らしい。ウィズ曰く、一見簡単なように見えるが実は相当難しい技術であるとの事。カズトからすれば、頭の中で思い描いたイメージを魔法を使う際に当てはめただけなのだが。

 それから、マナコントロールというスキルの凄さをイマイチ理解していないカズトに、ウィズは小一時間近く掛けてこのスキルの凄さを語るのであった。




でも絡むのはもう少し先です。二人の出番は暫くありません。……多分。
しかし、カズトとカズマってやっぱり見辛いですね。よっぽどアレな場合はカズマさんの方に漢字を適用するかもしれません。若しくは逆。
何か案とかあれば感想の方までお気軽にどうぞ。
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