この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

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一万字超えちゃった。


13.王都へ遊びに行こう 後編

 魔王軍との戦闘は、人類側の圧勝に終わった。

 やはりカズトの放った、極大まで強化された炎の上級魔法が決め手となったであろう。あれによって魔王軍は士気が下がり、総崩れとなったところを人類側に攻め込まれ、魔王軍は撤退を余儀なくされたのだ。

 その所為か、王都へ帰還する時に騎士達が寄って来て口々にカズトの魔法の事を褒め称えた。カズトとしても、人から持て(はや)されるのが嫌な訳ではないし、最初は悪い気はしなかった。

 だが、騎士達は余程興奮しているのか、それを何度も何度も繰り返すのだ。カズトは辟易しながらも騎士達の相手をしつつ、王都へ戻った。

 それから王城にて。

 

「カズト殿。この後、城で今回の防衛に携わった冒険者達を労うべく、宴が開かれるのです。是非ともカズト殿もご参加ください」

 

 帰路の途中、ずっとカズトにべったりくっついていた騎士隊長がそう言った。

 だが、カズトとしてはハッキリ言って面倒臭い。何が面倒と言うと、とりあえず騎士達が面倒臭い。帰路の途中でもそうだが、兎に角カズトを褒め称えるのだ。それだけカズトの魔法が認められているという事だが、何度も繰り返されると流石に鬱陶しい。

 そして、その宴には貴族も参加するらしい。それも面倒である。もしかしたら、何か因縁をつけられたりするやもしれないのだ。中世時代の文化ではよくある話である。

 もしそうなったら、最悪ウィズに迷惑を掛けてしまう可能性が高い。出来れば権力者との接触は避けたいところ。

 

「あ、いえ。自分はそろそろお暇しようかと……」

「何故です、カズト殿!? 何かご予定でもあられるのですか!?」

「えっ……えーと……」

「カズト殿は今回の戦のMVPと言っても過言ではありません! 宴の席では必ずや特別報酬が出される事でしょう!」

「えっ……うーん……」

 

 特別報酬は惜しい。それがあったら、またウィズにお金を渡す事が出来る。金額は分からないが、少なくともアクセルでクエストを受けるよりも多くもらえる事だろう。

 カズトは少し考え、

 

「…………分かりました。折角のお誘いですし、喜んで参加させていただく事にします」

「おおっ! それではその旨、クレア様にお伝えしておきます!」

 

 騎士隊長はクレアの方へすっ飛んで行った。

 ようやく解放されたカズトは、キョウヤを探して辺りを見回す。と、彼は騎士達に囲まれて何やら話していた。恐らく、先程までのカズトと同じく、キョウヤも持て囃されているのだろう。

 

「…………悪く思うなよ」

 

 キョウヤに話かけたら確実に巻き込まれると踏んだカズトは、潜伏スキルを使って周囲の景色に溶け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 それから人知れずこっそりと城から抜け出したカズトは、まず宿へと向かった。フィオとクレメアに今回の戦闘の報告をしておこうと思ったのだ。

 が、二人とも部屋には居なかった。出掛けてしまったのか、既に戦いが終わった事を聞き及んで城に向かい、入れ違いになってしまったのか。

 それは分からないが、それならそれで仕方ないと、カズトは王都の店々を適当に冷やかして回り、暫くしてちょっと疲れたので広場のベンチで休む事に。

 街行く人々を眺める。

 それぞれ髪色の違う人間、エルフのように耳の尖っている者、子供や老人など、様々な者達が街を行き交っている。

 つい先程魔王軍の襲撃があり、騎士と冒険者達が凱旋した際はあれだけ盛り上がっていたが、今の人々の様子は実に穏やかなものだ。慣れているからだろうか。魔王軍の襲撃はよくある事なのだろう。

 そんな事を考えながら街並みを眺めていると、カズトの頭がうつらうつらと揺れ始めた。眠くなってしまったようである。

 そのままカズトは目を閉じて━━━

 

 

 

「……ト! ……カズト!」

「んぁ……?」

 

 誰かに肩を揺すられ、カズトは夢の世界から現実に引き戻された。

 目の前には友人の見慣れた青い鎧。視線を上に上げると、見慣れた友人の顔。

 キョウヤがカズトの前に立っていた。

 

「……キョウヤか」

「全く……城に居ないから探してみれば、こんなところで寝こけているなんてね」

「ああ……すまん……ふわぁ〜……」

 

 大きな欠伸をして、ふと見上げてみれば、既に空は茜色に染まっていた。夕刻である。

 

「あー……もう夕方か……そろそろ帰らないと……」

「え? この後、城で開かれる宴に参加しないのかい?」

「え……? ……あー……そういやそうだったな」

 

 寝ぼけている所為か、すっかり頭から抜け落ちていた様子。

 

「夕刻からって言ってたな。もう時間か?」

「そうだね、そろそろ開かれると思うよ。それでなくても早く戻らないと。君が居なくなった後、騎士の人達が大騒ぎしていたからね」

「え? なんで?」

「騎士隊長さんがカズトの活躍をクレアさんに話してね。それがこの国の第一王女アイリス様のお耳に入って、アイリス様が是非カズトから話を聞いてみたいって」

「…………」

 

 カズトの頬が引きつる。

 第一王女。貴族よりも偉い王族である。しかも、国王と第一皇子は最前線で戦いに赴いており、不在であるという事はキョウヤから聞き及んでいる。という事は、必然的にこの城の最高権力者は第一王女のアイリスという事になる訳で。

 それはつまり、第一王女の言葉は絶対のものであり、無礼を働いて死刑宣告でもされようものなら、それを覆す事など出来はしない。カズトにとって絶対に出会いたくない人物だ。いっそ、テレポートを使って今すぐアクセルに帰りたいと思うぐらいには。

 しかし、そんな事は出来ない。一人で自由気ままな立場であったらカズトは間違いなくそうしていたが、彼はウィズの家に居候しているのだ。

 その事はアクセルの冒険者は殆どの者が知っている━━キョウヤは諸事情により情報に疎いので知らない━━ので、ここでテレポートを使って逃げるという無礼を働こうものなら、騎士達がカズトを追ってウィズの店までやって来るかもしれないのである。そうなったらウィズは間違いなく迷惑を被ることになるだろう。

 まぁ、特別報酬がもらえるという事なので、嫌な事だらけではない。願わくば、王女様が高飛車な性格ではない事を祈る━━離れた場所から顔を見ただけでなのでよく知らない━━ばかりだ。

 カズトは溜め息を吐きつつ立ち上がり。

 

「……んじゃ、行くか」

 

 キョウヤと共に城へ向かって歩き出した。

 

「……そう言えばカズト。レベルはどれくらい上がったんだい?」

「あー、そういや見てなかったな」

 

 騎士隊長の相手をしていたので、すっかり頭から抜け落ちていた。元々、王都へはレベルを上げる為に来ていたのである。

 カズトは冒険者カードを懐から取り出し、見てみると。

 

「……おおっ! キョウヤ、見ろ! レベルが二つも上がってる!」

 

 カズトのレベルが九から十一に上がっていた。

 彼はレベルが上がってはしゃいでいるが、キョウヤはカズトの冒険者カードに視線を落としながら静かに笑みを浮かべ、考え込んでいた。

 そんな彼を怪訝に思い、カズトが言葉をかける。

 

「……どうしたキョウヤ? そんな難しい顔をして?」

「ん……ああ、いや。何でもないんだ。レベルアップおめでとう」

「……? そうか? しかし、レベルが二つも上がるなんて、魔王軍の襲撃は美味しいな……って、こんな事を言うのは不謹慎だが」

 

 騎士団や街の人々からすれば、魔王軍の襲撃などたまったものではないだろう。

 そういえば、とカズトは思い出した。先程、キョウヤに起こされるまで夢を見ていたのだ。

 

「そういや、さっき━━━」

 

 それを口にしようとして、カズトは言葉を噤んだ。

 

「……? どうしたんだ、カズト?」

「あ、ああ……いや、何でもねぇ」

「……? そうか」

 

 カズトが見た夢とは、自分を含めた九人で魔王に戦いを挑むというものだった。他の仲間はキョウヤとフィオ、クレメア。他に知り合いの変わった性癖を持つクルセイダー、最近アクセルの街のギルドを騒がせている紅魔族の娘、女神アクア、その女神アクアを異世界に引きずり込んだ元凶の佐藤和真。……あともう一人、見覚えがあるような無いような誰かが居たのだが、その人物については特に思い出せない。

 兎も角、そんな夢をカズトは見ていたのだ。が、もしもそんな事をキョウヤに話そうものなら『そんな夢を見るなんて、これはきっと運命に違いない! さぁ、僕と一緒に魔王討伐の旅に出よう!』なんて事を言い出しかねない。キョウヤは本気で魔王討伐を考えているのだ。

 ……実際、カズトの冒険者カードを見た時、キョウヤはカズトのレベルの上がりにくさを見て『カズトも選ばれし人間に違いない。魔王討伐にはカズトの力も必要だ』なんて事を考えていたのだが、カズトは知る由もない。

 ふと、カズトは思った事を口にした。

 

「……キョウヤってさ」

「何だい?」

「ちょっとナルシスト入ってるよな」

「……!?」

「あと、厨二病も」

「ちょっ……何だいきなり!? どういう意味だ!?」

「そのままの意味だよ」

 

 キョウヤは自分が選ばれた特別な人間だと思っている節がある。魔王を倒す使命を持った人間だ、と。

 まぁ、女神によって魔王を討伐してこいと異世界に送り出されたので、あながち間違いでもないのだが。それでも、自分が特別な人間だと思ってしまうのはナルシストや厨二病にありがちな事だと思われる。

 隣でギャーギャー騒ぐキョウヤを適当にあしらいつつ、カズトは王城へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 それから宴が開催される事となったのだが。

 カズトは現在、城の魔道士と思しき者達に囲まれていた。会話の内容は魔法理論についてである。かなり高度な内容だが、カズトはウィズから色々と習っているので、会話について行けないという事はない。

 ……が、たまによく分からない単語が出たりと、怪しい部分もあったりする。アクセルに戻ったら、またウィズに色々と教えてもらうべきかと思うカズトであった。

 そんなこんなで既に数十分は経っており、そろそろ面倒になってきたカズトは解放されたいと望んでいるのだが、切っ掛けがないのである。

 適当にでっち上げてこの場を後にする、という事は出来ない。その後、結局は別の人物━━騎士団の人とか━━に捕まるのがオチだ。

 キョウヤに頼る、という案も却下。というか、彼は貴族の令嬢と思しき女性達に囲まれており、彼の近くに居たらその女性達の相手をカズトもしなくてはいけなくなる。現状より面倒だと言えるだろう。

 もういっそ、お手洗いを理由に離席し、人が居ない場所でライト・オブ・リフレクションと潜伏スキルを使って隅の方で大人しくしていようか。

 そんな事を考え始めた時だった。

 

「カズト殿、少しよろしいですか?」

 

 年若い魔法使い風の女性が声を掛けてきた。カズトはその人物に見覚えがある。確か、王女アイリスの付き人……と思われる人物だ。クレアと共にアイリスの後ろに控えていたので、恐らく間違いない。

 そして、カズトはふと思いついた。

 

「……これはこれは、お待ちしていましたよ」

 

 カズトは自然な動作で彼女の肩を抱き、

 

「すみません、皆さん。私は彼女と少し話がありますので失礼致します」

「あ、あの……?」

 

 困惑するレインを余所に、カズトはそのまま会場の隅の方へと移動。すぐ近くに人が居ない事を確認し、軽く溜め息を吐いた。

 

「あの、カズト殿……。こういうのは、その……困ります……」

「え? ……あ、すみません」

 

 慌てて肩を抱いていた手を離す。貴族相手にこのような真似をするなど、無礼にも程がある行為だ。もしもこれが温厚な目の前の女性ではなくクレアだった場合、激怒して剣を抜いていた可能性が高い。

 そして、カズトがなぜそのような真似をしたのかというと、単純にあの場を離れたかったからだ。ああ言えば、あの場に居た者達は自分を追ってくる事はまず無いだろうと踏んでの行動だった。

 が、目の前の女性はそんな事など知らない訳で。

 

「あの、先程お待ちしていたと仰ってましたが、私に何かご用件でも……?」

「あー……いえ、あの場を離れる為にでっち上げただけなんです。本当にすみませんでした」

 

 下手な言い訳をせずに頭を下げるカズト。単純に言い訳を考えていなかった、思い付かなかっただけであるが。

 

「頭を上げてください、カズト殿。私は特に気にしていませんので……」

「いえ、自分は身勝手な理由で貴女に不快な思いをさせてしまったのです。謝罪せずにはいられません」

「別に不快という訳でも……あの、何か注目されてますから、とりあえず頭を上げてください」

 

 そう言われて、カズトはスッと頭を上げた。注目されるのはカズトとしても不本意である。

 

「……えっと、ところで自分に何か用ですか?」

「あ、はい。王女アイリス様がカズト殿とお会いになられるとの事なので、私がカズト殿をお迎えに参ったのです」

「……あー…………成る程」

 

 カズトはうっかり顔を顰めそうになったが、何とか耐えた。王女が会うと言っているのに嫌な顔を見せる訳にはいかない。若干、頬が引きつっているのだが。

 というか、それならカズトは彼女を隅の方へと連れて行く必要はなかった。

 

「何というか、無駄な事をしてしまったようで……本当にすみません」

「いえ、本当にいいですから……。それよりアイリス様がお待ちですので、すぐに向かいたいのですが……」

「……はい、分かりまし━━━」

「スズキカズト」

 

 不意に背後から声を掛けられた。振り返ってみれば、そこには大柄な男性が一人。ホークアイであった。

 

「ホークアイさん、宴に参加してたんですね」

「うむ。基本的にこういった事は参加しないのだが、お前が参加すると聞いてな」

「……俺が、ですか?」

「まだスキルを教えていない」

「……ああっ! そうだった!」

 

 戦闘中は敵を相手取る事に専念しており、戦闘後は騎士隊長の相手に気を取られていてすっかり忘れていた。

 ホークアイは女性の方へと向き直り、

 

「レイン殿。少し練兵場をお借りしてもよろしいか?」

「それは構いませんが……どうされるのですか?」

「こやつに私の持つスキルを教えようかと」

「あ、待って下さい。俺、今から王女様に謁見する予定なんですよ」

「む、そうなのか。ならば仕方ない。私はここにいるから、謁見を終えたらここへ来い」

「その必要はありませんよ」

 

 と、またしても背後から別の声。振り返って、そこに立つ二人の人物にカズトはギョッとした。

 片方はクレアである。先程の声は彼女のものであった。

 こちらは別に問題ないが、彼女がここに居るという事は必然的にもう一人の少女は王女という事になる。というか王女で間違いない。

 彼女の姿に気付いたホークアイが跪き、カズトも慌ててそれに続く。

 それを見た王女がクレアに耳打ちし、

 

「お二人共、頭を上げてください。今宵の夕餐会ではそう堅くならずともいいですよ、とアイリス様が仰せです」

 

 クレアにそう言われ、ホークアイとカズトは立ち上がり軽く一礼する。

 

「ア、アイリス様……上のお部屋でお待ち頂いていた筈では……?」

 

 ホークアイにレインと呼ばれていた女性がアイリスに声を掛け、アイリスが再びクレアに耳打ちをする。

 

「上のバルコニーからレインがカズト殿に連れて行かれるのを見て、気になって降りてきたのよ、との事だ」

 

 クレアの言葉を聞き、カズトの身体がビクッと震える。やはり王女の付き人であるレインに肩を抱くという無礼な行いをしたのはマズかったのやもしれない。

 更に王女は続けてクレアに耳打ちをし、

 

「先程の話を聞かせて頂きました。冒険者が他の職業の方からスキルや魔法を教わるという話は聞き及んでいますが、実際に見た事はありません。良ければ見せて頂いても構いませんか? と仰せです。……私個人としても興味があります。是非ともお見せ願えませんか?」

 

 そんなクレアの言葉に、カズトとホークアイは互いに顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そうして、会場の隅の方でスキルの伝授を行うという流れになり、近くのテーブルなどを少し移動させてスペースを確保。今、カズトとホークアイは少し距離を置いて向かい合っている。

 軽い模擬戦のようなものを行い、スキルを教えるという事らしい。周囲には様々な者が野次馬のように集まっており、王女アイリスの近くには事情を聞き及んだキョウヤの姿もある。

 

「まずは自分に補助魔法を掛けろ」

「……分かりました」

 

 ホークアイに言われるまま、カズトはありったけの補助魔法を自分に掛けていく。その際、マナコントロールのスキルを使って魔力を溜めてから補助魔法を掛ける。これによってアークプリーストが使う補助魔法と遜色ない程度の強化が可能となる。

 ホークアイとのアームレスリングの際、キョウヤに掛けた補助魔法も同様の方法で掛けられたのだ。

 更に言えば、戦場で使った炎の上級魔法も同様の方法で威力を上げたのである。まぁ、あれは十数分にも及ぶ溜めがあったからこその威力なのだが。

 

「……よし、来い」

 

 カズトが補助魔法を掛け終えたのを見計らって、ホークアイが声を掛ける。

 

「……行きます!」

 

 カズトが応え、それが開始の合図となった。

 カズトはホークアイへと真っ直ぐ駆け出し、あっという間に距離を詰めると拳を突き出し━━━と見せかけて容赦のない蹴りを繰り出した。

 それは、キョウヤですら目を見張る程の一撃である。直撃すれば身体はくの字に曲がり、数メートル先まで吹き飛ばされるであろう。レベルがたったの十一しかないカズトでも、補助魔法を掛ければこれ程の動きが出来るのだ。

 しかし、蹴りが当たる直前、ホークアイの姿はカズトの前から掻き消えた。

 

「っ!?」

 

 驚きながらも、カズトは即座に後ろを振り返った。ホークアイの姿は見失ったが、敵感知スキルのお陰で位置だけは分かる。彼は少し離れた位置に立っていた。

 即座に攻撃を仕掛けるべく動こうとしたカズトであったが、それより先にホークアイが動いた。あっという間にカズトとの距離を詰めると、右の拳を繰り出し━━━カズトの顔に当たる直前で止めた。

 拳圧でカズトの髪がバタバタと揺れる。もしもホークアイが拳を振り抜いていたなら、カズトの顔は原型を留めておらず、酷い有り様になっていた事だろう。勝負ありである。

 だが、カズトはまだ狂戦士のスキルについて何も理解していない。この模擬戦の趣旨はカズトのスキル習得であって、勝敗に意味はないので戦いは続く。

 

「くっ!」

 

 カズトはホークアイの拳を払いつつ、回し蹴りを繰り出した。が、やはり当たる直前にホークアイの姿は掻き消え、虚しく空を切る。

 それでも敵感知スキルのお陰でホークアイの位置だけは分かるので、何とか追いかけようとするものの、ホークアイは右へ左へ素早く動き回り、捕捉する事もままならない。

 

「これは……これ程とは……」

 

 クレアがポツリと漏らす。

 筋骨隆々とした見た目からは想像も出来ない程の機敏な動きでカズトを翻弄するホークアイに、畏怖すら覚えていた。クレアやレインでは一対一で戦った場合、勝負にすらならない。それどころか、キョウヤですら相手になるか怪しいところである。

 王女アイリスは二人の模擬戦をハラハラと、しかしどこかワクワクしたような様子で見守っており、キョウヤは静かに勝負を見ている。

 

「うぉっ……」

 

 不意に、カズトが地面に手をついた。急に視界がグラリと揺れ、酔ったような感覚に襲われたのだ。

 気が付けばホークアイはカズトの目の前に立っており。

 

「……敵感知スキルを習得しているな?」

「っ、…………ええ、まぁ……」

「やはりな。後ろに回り込んでも私のいる位置が分かる訳だ。だが、敵感知スキルは感覚の目で相手を捕捉する。故に、私が今やったように周囲を動き回られると目を回す。気をつける事だ」

 

 とは言うものの、本来ならそんな事はあり得ない。敵感知スキルは盗賊のスキルであり、敵が盗賊を翻弄するべく動き回るという事態にはならないし、すぐ近くの敵を捕捉する為に使ったりもしない。

 そもそも、ホークアイほど素早く動き回る敵もそうそう居ないだろう。

 カズトは若干フラつきながらも立ち上がり。

 

「それは知りませんでした、ありがとうございます。そして、ホークアイさんの使っているスキルの効果がやっと分かりました」

「ほう」

「戦場で見た時は一撃の大きな必殺技みたいのかと思ってましたが……あなたが使っているスキルは、身体強化系のスキルですね?」

 

 カズトの答えを聞き、ホークアイはニヤリと笑う。

 

「その通りだ。バーサークは魔力を消費して肉体を強化するスキル。これを使えば素手で岩を破壊する程の攻撃力と、どんな攻撃にも耐えられる防御力を得る事が出来る」

「……聞いた事があります」

 

 と、口を挟んだのはクレアだ。

 

「狂戦士のスキル、バーサーク。一時的に一騎当千の強さが手に入ると……。ただ、魔力消費の燃費が悪く、たった数分程で魔力切れを起こすネタスキルとも聞きましたが……」

「ふむ。仰る通り、バーサークは燃費が恐ろしく悪い。それ故に人気がなく、狂戦士になりたがる者は殆ど居ない」

 

 更に言えば、狂戦士は他の前衛職と比べて必要なステータスが高い。よしんばそれをクリア出来て狂戦士に就く事が出来るとしても、そういった者の大半は魔力が少なく、ただでさえネタスキルと言われるバーサークが死にスキルとなってしまうのだ。

 

「ですがそれは、バーサークの使い方がなっていないのが原因です」

 

 ホークアイはバーサークというスキルについて語った。

 バーサークは魔力を消費して発動する、肉体強化系のスキルである。強化は全身に施され、素手で岩をも砕く力と、例え下から股間を蹴り上げられても難なく耐えられる程の防御力を得る。ただし、その魔力消費量は尋常ではなく、普通に使っていたら数分程で魔力が枯渇してしまう。

 

「だが、それは常時発動しっ放しだからこそ起こる現象だ。攻撃と防御の時のみに発動し、更に必要な箇所にのみ強化を施せばいい話」

 

 こんな風にな、とホークアイは拳をカズトに向かって突き出した。少し距離があるにも関わらず、カズトの髪や服が(なび)く程の風圧が巻き起こる。突きの瞬間のみバーサークを使い、即座に解除したのだ。

 彼は事も無しにやってのけているが、実はかなりの高等技術である。そんな事が簡単に出来るのなら、狂戦士のクラスに就いている者はもっと多くなっていたであろう。

 そんな事を知ってか知らずか、ホークアイはスキルの習得にカズトを促す。

 カズトは懐から冒険者カードを取り出してみると、バーサークのスキルが表示されていた。ポイントを消費して習得する。

 

「よし。ついて来い」

 

 と、ホークアイはそう言ってギャラリーの方へと歩いていった。それに合わせてギャラリー達がモーゼの奇跡の如く割れて、ホークアイに道を譲る。

 そんな彼の後にカズトはついて行くと、ホークアイはテーブルの前の椅子に腰掛け、右肘をテーブルにつけて右手を前に差し出す。どうやら腕相撲(アームレスリング)でバーサークのスキルを試そう、という事らしい。

 カズトはその誘いに乗った。

 

「キョウヤ」

 

 ピン、とカズトがコインを弾き、キョウヤがそれをキャッチする。

 

「合図を頼む」

 

 そう言って、カズトはホークアイの前に座り、手を組んだ。

 そんな勝手な事をしても良いのかと、キョウヤはチラリとアイリスの方に視線を寄越すと、アイリスはコクリと頷いた。許可する、という事らしい。

 

「……では、僕がコインを弾くので、コインが地面に落ちたと同時に始めの合図とします」

 

 キョウヤの言葉に、カズトとホークアイは頷いた。

 そして、キョウヤがコインを弾く。宙を舞うコインはやがて落下し始め━━━地面に落ちた。

 瞬間、カズトとホークアイは全力で右腕に力を込める。それと同時に、二人の身体から魔力の波が溢れ出す。それは、魔法の使えない者ですら感知できる、圧倒されそうな程に濃密なものであった。

 特にカズトの方など、身体から黒い(もや)のようなオーラが僅からながら滲み出ている。強すぎる魔力が視覚化出来る程に漏れ出ているのだ。

 そんな二人の腕相撲を、周囲の者達は固唾を呑んで見守っていた。特に魔法を扱う者━━━レインなどは、カズトの桁違いな魔力を肌で感じ取り、息を呑む。

 ……ところで、バーサークは肉体強化のスキルである。それによって強化された力は岩をも素手で砕く程であり、それは単純に力が何倍にも膨れ上がる事を意味する。つまり、怪力を発揮するという事だ。

 腕相撲を開始して数秒。テーブルはミシミシと嫌な音を立て始め━━━バコンと、真っ二つに割れた。

 

「うおっ!?」

「むぅっ!?」

 

 二人は勢い余って崩れ落ち、そのまま地面に肘鉄を入れる。ズドン、と周囲に振動が走り、地面が少し陥没した。

 岩をも砕く力を持った二人が腕相撲などすれば、普通のテーブルなどが耐えられる筈もない。真っ二つに砕けたのは当然の帰結であった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってウィズ宅にて。

 

「━━━とまぁ、そんな事があったんですよ」

 

 ウィズに王都であった事を語って聞かせていたカズトは、そう締め括った。

 ……テーブルを真っ二つにした後。二人はアイリスに謝り倒し、アイリスはそんな二人を笑って許した。面白いものが見れたので良しとする、との事である。

 それからカズトは是非とも王城で持て成したい、というような誘いをクレアから受けていたのだが、当然ながらカズトは外泊など魔力的な理由から出来る訳がないので、報酬だけ貰ってテレポートでさっさと帰ってきたのだ。

 そして今、ウィズにその話をしていたところである。

 

「そんな事があったんですか……。バーサークというスキルは私も耳にした事はありましたけど、実際に見た事はなかったですね。今度、見せていただいてもいいですか?」

「ええ、勿論。ただ、ホークアイさん曰く、始めの内は制御が難しいだろうから狭い場所や人が居る場所では使うなって言ってたんで、まずは性能テストを行ってからになりますけどね」

 

 バーサークは肉体強化率が補助魔法の比ではない。例えば補助魔法の掛かった者がジャンプした時に一メートル以上跳び上がるとして、バーサークを使用した場合は三メートルを優に超すだろう。

 何が言いたいかというと、制御が難しいという事である。特に魔力の強いカズトが使用した場合、何が起こるか分からない。なので、まずはいつもの場所で性能テストを行おうとカズトは考えていた。

 ふと、カズトは思い出す。

 

「そういえば、王都でちょっと小耳に挟んだんですけど、ウィズさんは氷の魔女っていう冒険者について何か知ってます?」

 

 カズトの言葉を耳にした瞬間、ウィズの肩がビクッと震えた。

 

「……ウィズさん? どうかしたんですか?」

「えっ……? な、何がですか……?」

「いえ、何だか顔色がいつも以上に悪いですけど……」

「だ、大丈夫ですよ、何でもありません……。そ、それより、その……氷の魔女という人がどうかしたんですか……?」

「ああ、いえ……何年も前に最前線で活躍していた凄腕のアークウィザードらしく、俺の友人が探してるって言ってまして。でも、ある日からぱったりと姿を見かけなくなったとかで、どうしたのかなーと俺も気になりまして……」

「…………そ、そうですか。……あの……その、氷の魔女という人についてはどの程度の事まで聞きましたか……?」

「え? そうですね、とても美人だけど氷のように鋭い目つきをしていて、かなり挑発的な服装を……それこそ、胸を強調させていたりおへそが出ていたりスカートがギリギリまで短かったりと、かなりイケイケなファッションセンスをした方だったそうですよ」

 

 ウィズさんとは正反対ですね、とカズトが笑う。ウィズは顔色が更に悪くなり、冷や汗までも流し始めていた。

 そんな彼女の様子に気付いたカズトは心配になり。

 

「あの、ウィズさん、本当に大丈夫ですか? 具合が悪いなら魔力でも分けましょうか?」

「い、いえ、大丈夫です! えっと……私、お風呂入ってきますね!」

 

 そう言い残し、ウィズはそそくさとお風呂場に向かって行った。

 

「…………」

 

 一人になった部屋の中で、カズトは考える。

 氷の魔女の話題を出してから、ウィズはどう見ても様子がおかしくなった。何というか、焦っている感じであった。という事は、氷の魔女について何か知っているという事になるのだが。

 

「……話してくれないって事は、何かあるんだろうな」

 

 人に言いづらい、何かが。

 それが何かは分からないが、無理に聞かない方が良いだろう。カズトはそう結論付けて、今後はウィズに氷の魔女の話題を振らないようにしよう、と心に決めた。

 

 ……まぁ、確かに人には言いづらいだろう。その氷の魔女本人のウィズとしては。

 彼女にとって、現役時代の自分は色々な意味で黒歴史(思い出したくない過去)なのだ。露出度の高い服装とか、切れたナイフのような性格とか。

 特に同居人であるカズトにはバレたくないと思っている。まさかその同居人(カズト)が氷の魔女について聞いてくるとは思わなかったが。

 

 

 

 

 尚、その後ウィズは氷の魔女(昔の自分)がどういう風に噂されているのか気になったらしく、お風呂から上がりカズトにアレコレ聞いた結果、いつかのように自爆して氷の魔女の正体が自分である事がバレた━━━というのは余談である。




長かった割にどうでもいい話。
今回の王都での話は幾つか目的があって書きました。
1、いずれ使うバーサークを覚えさせる為
2、次の話の為にキョウヤが邪魔なので、王都に行ってもらう
3、アイリス達とのコネクション作り(使うかは微妙)

大体1の為に書いてたんですが、書いてるうちに自分でもよく分からない方向に話が転がり始め制御出来なくなり、よく分からん事になりました。おかしいな。

さておき、次回は女神の盗賊と変態クルセイダーが出るよ。お楽しみに!
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