この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

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あ、ありのままこの話を書いていた時の事を話すぜ!
私は当初、今回の話は前編と後編に分けようと書いていたら、いつの間にか前編と中編と後編の三つに分かれていた!
な…何でそうなったのかわからねーと思うが、私も何でこうなったのかわからなかった…

とまぁ、そんな茶番はどうでもよくて。時系列は爆炎3巻に当たります。
……何の話か、分かりますよね?


14.悪魔退治 前編

 王都で新しいスキルを覚えてから、二日が過ぎた。あれからカズトはしばらく王都へは行かないと決めていた。

 何故か。━━━それは、王都で少し有名になり過ぎたからだ。

 魔王軍襲来の折、最大まで強化して放った炎の上級魔法(インフェルノ)が良くなかった。アレの所為でカズトの事が一気に広まってしまい、キョウヤと同じ━━━いや、それ以上に名が売れてしまった。

 しかも『黒の魔導士』などという厨二なセンスの二つ名をつけられる始末。カズトは魔法使い(ウィザード)ではなく冒険者だというのに。

 ……まぁ、カズト本人は二つ名に関しては満更でもない感じであったが。やはりこの男、厨二気質である。

 兎も角、権力者に顔を覚えられてしまい、姿を見られると騒がれる━━特にクレアには気に入られているようだ━━ので、ほとぼりが冷めるまで王都に近寄らないようにしているのだ。その事はキョウヤにも伝えてある。

 それはさておき。

 

「ライトニング!」

 

 いつもの場所で魔法の実験を行っているカズト。指先から放たれた雷が、近くの岩を穿つ。

 ……威力が弱い所為か、数十センチほど抉っただけであった。二メートルほどの幅がある岩だが、ウィズであれば中級魔法(ライトニング)であっても余裕で貫通した事だろう。

 更に何発ものライトニングを岩に撃ち込んでゆくが、やはり少し抉る程度でしかない。

 しかし、カズトにとってそんな事はどうでもいい。マナコントロールで魔力を練りあげれば、ウィズ以上の出力を出そうと思えば出せるのだ。まぁ、その場合かなり時間が掛かってしまうという欠点はあるのだが。

 なら、何がしたいのかという話であるが。カズトは胸の前で両手を合わせ、少し離した。すると、両手の間でバチバチと雷が迸り始める。

 

「よしよし……上手くいったぞ。後はこれを身に纏うだけ━━━」

 

 そう、カズトがやろうとしているのは、漫画の技の再現である。

 某ハンター漫画に出てくる暗殺一家の少年が使った『疾風迅雷』然り。魔法先生の使った『雷天大壮』然り。雷を身体に纏って能力を引き上げるのは、もはや王道とも言えるのではなかろうか。

 そんな訳で、カズトも漫画のキャラクター達に倣って同じ事をしようとしたのだが━━━

 

「━━━アバババババババーーーッ!!!」

 

 ━━━普通に感電した。

 当然である。人間の身体に雷を流して平気な訳がない。暗殺一家の少年は幼い頃から慣らされていたから出来た事だし、魔法先生は特殊な魔法によって体内に取り込んだから平気━━魔法の抵抗力、特殊な魔法の適性もあるかもしれないが━━なのだ。ただの人間であるカズトが同じ事を出来る筈がない。

 ぶすぶすと黒い煙を上げながら地面に倒れ伏すカズト。その姿は普通にアホだし間抜けだった。

 

 

 

 

 

 

「全く、酷い目にあった……」

 

 一人、ボヤきながら街中を歩くカズト。自業自得としか言いようがない。

 とりあえず家に戻ろうと考えていたカズトだが、急に感じたチクチクと胸を刺すような感覚に歩みを止めた。

 

「……またアクア様か」

 

 呟き、溜め息を吐く。

 女神アクアがこの地に降臨してから、度々このような事があった。というか、女神アクアの降臨初日に感じたザワザワとする感覚も同じものである。

 この感覚は何なのか。カズトは、女神の感情を受信しているのでは、と考えていた。恐らくだが、カズトの中の神器が影響しているのだろう。チラッと聞いた話では、その神器は元々さる女神に使われていた物だったらしいので、カズトの考えはきっと間違っていない。というか、それ以外に思い当たる節がない。

 そして、このチクチクとするような感覚は怒りだろう。何に怒っているのか知らないが、また和真(カズマ)が何かやったのかもしれない。

 

「……でも、ちょっと変だな」

 

 喜怒哀楽の変化が激しい女神アクアからいつも感情を受信しているカズトは、今回の感情が何かおかしい事に気付く。

 何というか、弱いのだ。いつもならもっと強く感じる筈なのだが、今回のはかなり微弱である。それほど怒っていないのだろうか。

 距離が離れている、という事もない。確かに距離が離れれば、伝わってくる感情も弱くなる。

 だが、女神の大まかな位置も把握出来るカズトは、寧ろ近づいて来ている事を感じ取っている。

 ……にも関わらず、伝わってくる感情がたいして大きくなっていない。これは一体どういう事なのか。

 

「……まぁ、会ってみれば分かるか」

 

 考えても答えは出そうにない。幸い━━と言っていいのか微妙だが━━こちらに向かって来ているようなので、会って直接確認すれば良い。

 ほら、もうすぐそこの曲がり角を曲がって来━━━

 

「……えっ?」

 

 ━━━現れたのは女神アクアではなく、盗賊のクリスだった。よく彼女と一緒に居る、美人だけど変わった性癖を持つ変態クルセイダーも一緒だ。

 何やら二人とも怒っているらしく、物凄い形相をしている。ちょっと怖い。

 クリス達はカズトに気付いておらず、そのまま目の前を通り過ぎようとしたので声を掛けた。

 

「クリス!」

「ん? あ、カズト! こんなところでどうしたの?」

「いや、俺は家に帰る途中だったんだが……というか、二人こそどうしたんだ? 凄く怖い顔してたけど……」

「えっ、あたしそんな顔してた……!?」

 

 言われて、クリスは自分の頬をムニムニとほぐす。そんな彼女の代わりに変態クルセイダーこと、ダクネスが興奮した面持ちで口を開いた。

 

「森に悪魔が現れたらしいんだ! それで、今からクリスと一緒にその悪魔をエリス様の名の下にぶっ殺しに行くところだ!」

「あ……はい」

 

 仮にも女性がぶっ殺すなどと宣うのは如何なものだろうか。そんな事を思いつつも、ダクネスの物凄い剣幕にビビって何も言えないカズトであった。

 それはさておいて、カズトはダクネスの言う悪魔とやらに心当たりがあった。最近、ギルドで噂になり始めたやつで間違いないだろう。

 闇夜を思わせるような漆黒の肌で、蝙蝠を連想する巨大な翼を持ち、オーガーすらねじ伏せそうな体躯の悪魔だそうだ。

 まだ調査が充分に済んでおらず、ギルドに討伐依頼は張り出されていない━━実は既に賞金を掛けられているのだが、現時点でカズトはまだ知らない━━が、時間の問題だろう。クエストが張り出されたのなら、難易度によりけりだが討伐してもいいかなー、なんて事をカズトは考えていたのである。

 

「……しかし、その悪魔って結構デカイ個体だって噂だが、二人だけで大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。敵に攻撃が当てられない私だが、流石に動いていないものを相手に外すような事はない。だから、クリスにバインドスキルを使ってもらって動けなくなったところを、剣でぶった斬ってやる」

「お、おおう……」

 

 何とも頼もしいダクネスの言葉。完全にやる気……もとい、殺る気である。

 いつもの彼女であれば「必死に剣を振り回すが力及ばず、魔物共に組み伏せられあんな事やこんな事を……んぅっ!」とでも言いそうなものだが、エリス教徒として悪魔の存在がよほど許せないのだろう。

 

「良かったらカズトも一緒に来てくれないかな?」

 

 と、顔をほぐし終えたクリスが声を掛けてきた。

 

「ダクネスが前衛を務めて悪魔の攻撃をブロック、あたしがバインドスキルで悪魔の攻撃を封じる。そして、カズトが魔法で攻撃する……完璧な布陣だと思うんだけど、どうかな?」

「ふむ……」

 

 実際のところ、カズトとしては悪魔の調査を待ってクエストが張り出されてからの方がありがたい。そうすれば討伐報酬だけでなく、クエスト報酬も加算されるからだ。そちらの方が明らかに美味しい。

 が、それはそれとしてクリスには盗賊スキルを、ダクネスには防御系のスキルを幾つか教えてもらった恩があるので、無碍にするのも憚られる。

 カズトは頷き、

 

「いいよ。俺でよければ力を貸すよ」

「そうこなくっちゃ! じゃあ、早速行こう!」

「ぅおっ」

 

 左手をクリスに、右手をダクネスに掴まれ、カズトは引きずられていった。

 

 

 

 

 

 

 そうして、カズト達はアクセル近郊の森へとやって来たのだが。

 

「わあぁっ! カズト、早く撃ち落として!」

「あいよ」

 

 慌てるクリスに対して、カズトは冷静な様子でライト・オブ・セイバーを発動し、木々の間を飛翔するブラッディモモンガを斬り裂いた。

 

「一丁上がりっと」

「うむ。終わったようだな」

 

 と、ダクネスが大剣を納刀しながら寄ってきた。

 いかにも『チームの勝利だな』みたいな雰囲気を醸し出しているダクネスだが、実際のところ彼女は空を飛ぶブラッディモモンガに向かって当たりもしない剣を振り回していただけで、実質何もしていない。

 それどころか、クリスが敵感知に反応があると言った時に、カズトとクリスの制止も聞かず敵に突っ込んで行ったのである。潜伏スキルを使えば敵をやり過ごす事も出来るのに、だ。

 まぁ、前に一度だけパーティーを組んだ事があり、その際もカズトの作戦を無視して敵に突っ込んで行ったので、今更何かを言おうとはカズトも思わない。

 

「やー、流石にカズトは頼りになるねぇ」

「煽てても何も出ないぞ」

「いやいや、ブラッディモモンガはある意味厄介だしさ」

「まぁ、小便が臭いしな」

「……や、そうなんだけどさ。もうちょっとオブラートに包もうよ……」

 

 呆れ声を出すクリス。

 ブラッディモモンガは獲物を逃さぬよう小便を引っ掛けてマーキングする習性がある。その臭いが強烈で、洗っても一週間は落ちないと言われているらしい。

 カズトはいつも引っ掛けられる前に瞬殺しているので、その臭いを嗅いだ事はないが。

 

「にしても、噂の悪魔とやらは一向に姿を見せないな」

「そうだねぇ。この辺りで見たっていうらしいんだけど……」

 

 地図を広げながら頭を突き合わせる三人。

 ━━━所詮は噂、当てにはならない。

 ━━━そうではなく悪魔が移動したのでは。

 そんな事を話し合っていると、カズトとクリスの敵感知スキルに反応があった。ゆっくりとだが、こちらへと近づいて来ている。

 カズトとクリスは互いに視線を合わせ、コクリと一つ頷く。

 

「ダクネス、敵が近づいてきている」

「何っ!? どっちだ!?」

 

 ダクネスの問いに、クリスが無言で近くの茂みを指差した。ダクネスは大剣を構え、クリスとカズトはそんな彼女の後ろで身構える。

 やがて、茂みがガサガサと揺れ、中から姿を現したのは。

 

「……ああっ! こいつは!」

 

 ダクネスが喜色の込もった声を漏らす。

 彼らの前に姿を現したのは、無色透明な粘液の塊━━━スライムであった。恐らく、ブラッディモモンガの死骸につられてやって来たのだろう。

 その姿を視認し、まず最初に動いたのはカズトである。後ろからダクネスの腰回りに抱きつくように腕を回し、スキルのバーサークを使用して踏ん張った。

 

「離せ、カズト! スライムが、スライムが!」

「アホか! スライムに突っ込んでいったら防御力とか関係無しに窒息死させられるわ! クリス、ダクネス抑えるの手伝って! この状態じゃ上手く魔法を発動させられないから早く手伝って!」

「わ、わかった!」

 

 そうして、スライムに突っ込んで行こうとするダクネスを二人がかりでなんとか抑え、その間にカズトがファイアーボールを詠唱。魔力を練り上げ放たれた、直径一メートルほどの大きさの火球がスライムに直撃。炎に焼き尽くされ、粘液状の単細胞生物は跡形もなく消滅した。

 

「ああーーーっ!! 私のスライムがぁーーーっ!!」

 

 ガックリと崩れ落ちるダクネス。あのスライムは野生のものであって、決して彼女のものではないのだが。

 カズトとクリスはダクネスから離れて立ち上がる。

 

「まったく、ダクネスってば……まさかスライムに突っ込んで行こうとするなんて。……それにしても、カズトもよくダクネスがスライムに突っ込んで行こうとしてるって分かったね?」

「うん? うん、まぁ……ね」

 

 以前、ダクネスは触手がどうこう、といった発言をしており、それを聞いたカズトの頭には『触手プレイ』という言葉が(よぎ)った。同人誌(薄い本)ではよくあるシチュエーションである。

 そういった異種姦の中には『スライムプレイ』なんてものもある。触手がイケると言うのなら、この変態(ダクネス)はスライムも守備範囲内なのでは。咄嗟にそう思ったカズトは、ダクネスを止めていた。それだけである。

 ……因みに、カズトはそれらの異種姦には別に興味など無い。ただ、知識としてそういうものもあると知っていただけである。

 

 

 

 

 

 

 そんなちょっとしたハプニングもありつつ、三人は遭遇したモンスターを狩りながら日が暮れ始めるまで森の中を探索していた━━━のだが、噂の悪魔を見つける事は出来なかった。

 夜の森は流石に危険なので、カズトのテレポートで街へ戻る事に。その際、外で野宿などという事にならなくて良かったと、カズトは一人胸を撫で下ろしていた。まぁ、そうなったなら無理にでもカズトは帰るつもりだったのだが。

 さておき、ダクネスが翌日も探しに行こうと提案したものの、クリスが別の用事があるとの事で、悪魔探しは明後日に行う事になった。

 ……のはいいが、当日に三人は森に再び入って悪魔を探しに行ったものの、悪魔は見つからなかった。

 そんな事を繰り返し、三人が悪魔を探し始めてから十日が経った頃の事。悪魔を見つける事も出来ず、ただ森の中を彷徨うならクエストを受けてから向かっても良いのではないか。そんなカズトの提案にクリスとダクネスは了承し、三人はギルドへ足を運んだのだが、何やら冒険者達は騒めいている様子。

 何かあったのかと、三人は適当な冒険者を捕まえて話を聞いてみると。

 

「何だと!? それは本当か!?」

 

 ダクネスが男性冒険者の胸倉を掴み、叫んだ。

 ……普段であればクリスも止めたであろうが、今は彼女も掴みかかりそうな表情を浮かべている。

 というのも、この男性冒険者が言うには、何と噂の悪魔を討つべく討伐隊が結成されたのだが、その討伐隊が返り討ちにあったという話だ。悪魔に対して殺意に近い感情を抱いているクリスとダクネスが興奮しているのは、そういう事だ。

 本来であればカズトはダクネスを宥めるところであるが、今は別の事が気になってそれどころではない。

 それは、以前感じたチクチクと胸を刺すような感覚。この街のどこかに居るであろう女神アクアではなく、あの時と同じく目の前のクリスから感じるという事実。その所為で、カズトは悪魔どころではなかった。

 ……のだが、ダクネスが急にカズトの右腕をガシリと掴み、数瞬遅れてクリスが反対の左腕をガシリと掴み、

 

「「悪魔殺すべし!」」

「ぅおっ」

 

 二人はそう叫びながら、カズトを引っ張ってギルドから飛び出して行った。

 

 ……それから少しして、とある紅魔族の少女がギルドに赴き、三人の悪魔退治を買って出た冒険者の話を聞いて『あと少し早く来ていれば』と後悔する、というのは余談である。

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