この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

15 / 16
15.悪魔退治 中編

 カズト達三人は、街から離れた山の麓の森近くへとやって来ていた。ギルドで冒険者から聞いた話では、この辺りに出没するらしい。以前は森に出没するという話だったが、移動していたようだ。だからこそ、三人が探し回っても見つからなかったのかもしれない。

 しかし━━━

 

「……見つからないな」

 

 カズトは小さく溜め息を吐いた。

 いざやって来てみたはいいものの、噂の悪魔とやらは見当たらない。既に小一時間ほど探索したにも関わらず、である。一体、どこに潜伏しているのか。

 

「なぁ、もう諦めないか? こんだけ探して見つからないなら、どうせ今日も見つからないと思うんだが」

「何を言っているんだ! この街の近くに悪魔が居るんだぞ!? 放っておける訳がないだろう!」

「そうだよ! 悪魔なんかにあの街が(おびや)かされてるんだよ!? 見過ごせる訳がないよ!」

 

 カズトが帰ろうと提案するも、二人はそれを良しとはせず。エリス教徒として、よっぽど悪魔の存在が許せないのだろう。無宗教のカズトにはよく分からない感性である。

 まぁしかし、二人の返答も予想通りではある。これは今日も帰りはおそくなるかな、そう考えていた時、カズトはふと思いついた。

 ギルドで話を聞いた冒険者の言っている事が確かならば、噂の悪魔はこの辺りに潜んでいる筈である。

 

 ━━━だったら、こっちから探しに行かなくても、向こうからこっちに来てもらえばいい。

 

 カズトは大きく息を吸い込み、

 

「やい、クソ悪魔ァーッ! 隠れてないで出てこいよ! それとも怖くて出てこれないかぁ!? 臆病者のクソ悪魔! とっとと姿見せて掛かって来いやぁっ! ……えっと……あと……バーカ! ハーゲ! お前のカーチャンでーべーそー!」

 

 と、大きな声で叫んだ。遠くの方から山彦が返ってくる程の声量である。

 そう、カズトの思いついた事とは、大声で悪魔の悪口を叫び、向こうから来てもらう事であった。

 ……ただ、後半の悪口はボキャブラリーが貧困過ぎて笑えるレベルの幼稚な言葉が飛び出したが。お前のカーチャンでべそは無いだろう。

 さておき、事情を知らないクリスとダクネスからすれば、カズトの行動は突発的な奇行でしかない訳で。

 

「……カズト? 何してるの……?」

「勿論、悪魔を呼び寄せてるんだよ。今みたいに大声で挑発すれば、向こうからやって来るだろう?」

「ああ、成る程!」

「カズト、頭良いな!」

「いや、本当に悪魔がこの辺りに潜んでるならの話だけどな……」

 

 正直、カズトはあまり期待していない。何しろ、ここ最近はずっと悪魔を探していたのに見つかっていないのだ。どうせ今日も見つからないんじゃないのか、そんな風に考えていたのである。

 ……が、カズトとクリスの敵感知スキルに反応があった。

 

「ダクネス、敵だよ! そっちの茂みの方角から物凄い速度で迫ってきてる!」

「何っ!? 本当か!?」

 

 ダクネスが大剣を構え、その後ろにクリスとカズトが控える。クリスはいつでもバインドが使えるようにロープを、カズトは戦闘に備えてダクネスに防御系の魔法を掛けた。

 そして、近くの茂みが揺れ、中から姿を現したのは、

 

「誰がクソ悪魔だクソ人間があぁ!!」

 

 闇夜を思わせるような漆黒の肌をしており、背中には蝙蝠を連想する巨大な翼。オーガーすらねじ伏せそうな体躯と、それを際立たせるような禍々しき角と牙。アクセルのギルドを騒がせている悪魔に間違いなかった。

 この悪魔を視認したカズトは、その威容に一瞬だけビビった。だが、ダクネスとクリスは違った。

 

「街を騒がせる不届きな悪魔め、ようやく姿を現したな!! 女神エリスの名の下にぶっ殺してやる!!」

「悪魔殺すべし!」

「うおぉっ!?」

 

 不意に現れた悪魔だが、場の状況を理解してはいなかった━━例えば誰が何人居るのか等━━ので、逆に不意を突かれた。いや、敵感知スキルを持っているカズトとクリスが居る以上、不意を突く事など出来ないのだが。

 兎も角、いきなり襲われるとは思っていなかったので、悪魔は不意を突かれたのだ。

 まず、ダクネスが大剣を振り上げて斬り掛かった━━━のだが、彼女は不器用にも限度があるだろというレベルで絶望的に不器用である。ぶっちゃけると、動いている敵に攻撃を当てる事が出来ないほどに不器用であり、そのくせ両手剣スキルも取っていない。

 何が起こったかと言うと、彼女の剣は悪魔の一歩手前の地面をガツンと抉った。威力だけなら見事である。しかし当たらない。

 これには悪魔の方も胡乱げな目を向けるばかりである。不意に斬り掛かってきておいて、一体何がしたいんだこいつは、と。

 しかし、クリスがその一瞬の油断を突いた。

 

「バインド!」

「うおっ!?」

 

 手に持っていたロープを投げ、盗賊のバインドスキルを使って悪魔を縛り上げたのだ。

 

「今だよ、カズト!」

「任せろ!」

 

 と、声を掛けられたカズトは既に駆け出していた。

 悪魔が現れた一瞬、カズトは確かに悪魔の威容にビビって硬直した。が、ダクネスとクリスが大声で叫びながら突っ込んでいき、その声でハッと我に返ったのである。

 そして、すぐに詠唱を開始し、間に合った。

 

「ライト・オブ・セイバー!」

「うおぉっ!?」

 

 カズトの右手から光の剣が放たれ、悪魔を真っ二つにせんと迫る━━━が、悪魔はこれを咄嗟に横へズレる事で回避。……しようとしたのだが、角が犠牲になった。

 カランカランと、甲高い音を立てながら地面を転がる悪魔の角。

 

「……っ! てめぇら、よくもやりやがったなァッ!!」

 

 角を斬り飛ばされた事により、悪魔が激昂。自らの身体を縛るロープを力任せに引き千切り、カズトに殺気の込もった視線を投げる。

 対して、初めこそはその威容にビビってしまったカズトだが、殺気の込もった視線を受けても怯む事はなかった。何故なら、ダクネスが間に入って立ち塞がったからだ。

 

「邪魔だっ!」

「ぐぅっ!」

 

 悪魔がダクネスの腹部を殴りつける。ズドンと衝撃が走り抜けるが、ダクネスは歯を食い縛って耐えた。しかも、ダメージをあまり感じていないかの如く、不敵に笑みを浮かべながら。

 これには悪魔の方も驚いた。二日前に討伐隊を組んでやって来た冒険者達であれば、一撃で戦闘不能に陥る程度の威力を込めた筈なのだ。だというのに、目の前の騎士の女はピンピンしている。

 だが、多少驚いただけだ。自分が本気を出せば、駆け出しの冒険者が集うあの街からやって来た冒険者など、取るに足らない存在である。

 そう思い、更に悪魔は目の前の女騎士を力任せに何度も殴りつけた。

 しかし━━━彼女は変わらず不敵な笑み湛えている。

 

「ふふふ……どうした、もう終わりか? 私はこの程度の攻撃で根を上げたりはしないぞ! お前の責めはこの程度か!? さぁ、もっと掛かって来い! どうした!? 早く来い!」

 

 いつもの悪い癖(ドMな性癖)が出たらしい。彼女はこんな時でも平常運転であった。頼もしいと取るべきか、アホらしいと取るべきか。目の前の悪魔も「何だこいつは」みたいな視線を向け、引き気味である。

 と、そんな隙を見逃さない者が居た。

 

「ぐぁっ痛……!」

 

 クリスがマジックダガーで悪魔の脇を駆け抜けざまに斬りつけ、そのまま疾風の如き速さで藪の中へと姿を隠した。ダクネスが悪魔を惹きつけている間にカズトが速度上昇の支援魔法をクリスに掛けていたので、元々素早い彼女の足は韋駄天の如し。更にクリスは潜伏スキルを使用して隠れており、こうなると気配を探知する類いのスキルが無ければ見つからない。

 故に、悪魔は振り返ったはいいものの、既にその姿を見失っており、クリスを追う事が出来ない。

 そして、その一瞬の隙を見逃さない者も居た。

 

「ヴァイパー!」

「ぐおっ!?」

 

 頭に衝撃が走り、視線を戻せば黒衣の男の手から伸びる閃光が、シュルリと男の手元に戻っていくのを視界に捉える。と、同時に━━━カランカランと、何やら聞き覚えのある甲高い音がした。

 音源の足元へ目を向けると、地面に転がる黒い角。それが二本に増えているではないか。

 

「テメェ……! 一度ならず、二度までも俺様の角を……! タダじゃおかねぇ!!」

 

 とは言ったものの、悪魔がカズトの元へ行くにはダクネスが邪魔である。だから、まずはダクネスを片付けねばならないのだが。

 

「━━━クッソが! 何なんだお前は!?」

 

 幾ら攻撃を加えても、目の前の女騎士を倒す事は叶わなかった。防御力が高すぎる。寧ろ、殴った悪魔は自分の拳の方が痛くなってきたところだ。鎧を纏っていない、服の部分をなるべく狙っているにも関わらず、である。

 かなり高レベルの冒険者であると、悪魔は警戒する。……その割に、向こうが反撃してきても全く当たる気がしないのだが。何故か剣の腕はからきしであり、何ともチグハグな印象を受ける。

 

「ふふふ、お前はなかなかやるようだが、その程度では私は満足しないぞ……!」

「……ダクネス、今お前満足しないって言ったか?」

「……言ってない」

「……言ったよな?」

「…………言ってない」

 

 興奮して自分の本性が出始めているダクネス。カズトのツッコミに対し、決して認めようとしないが確かに言った。悪魔もそれを聞いていたし、ドン引きもしていた。

 が、そこへ急に悪魔の右肩に激痛が走る。

 

「がああぁっ……!」

 

 見れば、どこから現れたのかクリスが悪魔の背に乗り、マジックダガーを右肩に突き刺していた。

 

「この……っ!!」

 

 咄嗟に腕で払うも、既にクリスは飛び退いており、再び近くの茂みに隠れて潜伏スキルを発動。悪魔はクリスの姿を見失った。

 

「カースド・ライトニング!」

「ぐがっ!?」

 

 すかさず雷の上級魔法を放つカズト。手のひらから漆黒の雷が走り、悪魔の脇腹へ突き刺さる。そこは、初めにクリスがダガーで斬りつけた部位だった。

 

「クソがぁ……!」

 

 駆け出しの街の冒険者にしては妙に腕が立つ。上級悪魔である自分がこうも手玉に取られるとは。

 そんな事を思いながら、悪魔は突破口を考える。

 現状、盗賊風の少女は捨て置くしかない。よほどレベルが高いのか、一度潜伏スキルを使われると、最早どこに居るのか見つけようがない上、確実に攻撃を当てられる時にしか出て来ないときた。だからどうしようもない。

 次に黒衣の男だが、コイツもコイツで厄介だ。目の前の女騎士を盾にして、安全圏から魔法を確実に当ててくる。普通、直線にしか魔法は撃てない筈だが、コイツの魔法は何故か()()()()くる。魔法が女騎士を避けて、自分に向かってくるのだ。どういう原理で魔法を撃ったらそんな事になるのか、全くもって意味が分からない。

 というか、女を盾にしながら戦うとか、コイツは男としてそれでいいのだろうか? 人間という生き物は、男の方が前に出てくる奴が多く、女は後衛を担当するのが普通だと思うのだが。

 さておき、最後に女騎士。コイツに至ってはどんな防御力をしているのか、どれだけ攻撃を加えても一向に倒れる気配がない。……というか、ダメージは本当に入っているのだろうか? 先ほどから頬を赤く染め、息を切らしながらも果敢に向かってくる。

 その様は勇猛果敢と呼ぶには……何かおかしい。特に表情がおかしい。何故、笑っているのか。それに何故、この女から喜びの感情を感じるのか。

 ……一言でぶっちゃけると、キモイ。

 兎も角、突破口は目の前の女騎士だろう。コイツは確かに防御力は高いが、それだけだ。後ろの男が盾として使っているところを鑑みるに、コイツが崩れれば後ろのアークウィザードであろう男はすぐに片付ける事が出来る。その後、コイツらを人質に使って盗賊の女を引きずり出す。完璧な作戦である。

 ━━━色々な意味で不可能だという点に目を瞑れば。

 しかし、そんな事など悪魔はつゆ知らず、上級魔法を詠唱し始めた。それを見てカズトも詠唱を開始。

 

「何をしようがもう遅ぇ! インフェルノ!」

 

 悪魔の手から、炎の上級魔法が放たれた。全てを焼き尽くす地獄の業火である。上級悪魔ともなれば、その威力は紅魔族にすら匹敵しかねない程だ。

 対するカズトは━━━

 

「リフレクト!」

 

 反射魔法でインフェルノを跳ね返した。

 

「あぢゃあああぁぁぁあぢぢぢぢっ!!!」

 

 自分の魔法で焼かれる間抜けな悪魔の図。とはいえ、流石に上級悪魔。その程度ではくたばったりしない。

 

「うぐぐ……っ! うがああああぁぁっ!!」

 

 遂にキレたらしい悪魔が叫びながらダクネスに襲い掛かった。某星の白金(スタープラチナ)が如き━━━とまでは言わないが、悪魔は拳のラッシュを放つ。

 それをダクネスは歯を食いしばって何とか耐える。耐えるが、このままいけば流石のダクネスといえど崩れるのは時間の問題だった。

 

「ヴァイパー!」

 

 カズトが光の手刀の突きを繰り出すと、閃光が蛇のように走り、ダクネスを避けて悪魔へと襲い掛かる。

 某漫画から着想を得た、マナコントロールのスキルを用いて撃ち出すライト・オブ・セイバーの変化技。蛇のような動きでシュルリと障害物を避けて進むところからヴァイパーと名付けたらしいそれは、先ほど悪魔の片角を斬り飛ばしたものである。

 が、悪魔は何と、これを裏拳で弾き飛ばした。

 

「嘘だろ……っ!?」

 

 思わず目を剥くカズト。

 アレコレ研究しながら使いまくっていた彼のライト・オブ・セイバーは、既にスキルレベルが六十を超えている。クラスが冒険者である所為でウィズ程の威力ではないが、それでも並みのアークウィザードよりは高い殺傷力があるのだ。それを素手で弾かれた事に驚きを隠せない。

 だが、それもその筈。彼らの前に立ち塞がっているのは、並みの上級悪魔ではない。最上級悪魔の一歩手前の力量を備えた上級悪魔である。並みのアークウィザード程度の魔法の一撃では致命打になり得ないのだ。

 加えて、カズトの放ったライト・オブ・セイバーの変化技であるヴァイパーは緻密な魔力コントロールが必要とされ、その分威力が少し落ちる。それも要因の一つであろう。

 とはいえ、全くダメージが無かったかと言えば、そうでもない。ヴァイパーを弾いた腕は確かに傷が付けられている。

 それはつまり、防がなくてはいけない程度には殺傷力がある攻撃であり、防いだら防いだでダメージにはなる事を意味する。

 

「ヴァイパー!」

 

 その事には当然ながらカズトも気付いており、気持ちを切り換えて再びヴァイパーを放った。

 

 ━━━だが、それは誤った選択であった。

 

 光の蛇が迫る直前、悪魔は一度素早くしゃがむと、すぐさま数メートルほど飛び上がった。カズトの放ったヴァイパーは当然ながら空を切る。

 そして、宙空にいる悪魔は何かをカズトに向かって投げた。凄まじい速度で迫るそれは、手の平におさまる程度の石ころであった。

 

「しまっ━━━」

 

 攻撃に意識を割いていて、相手からの反撃が来る事を予測していなかったカズトは、迫る石を避ける事が出来ず、モロに受けてしまった。

 石は左脇腹辺りに直撃。骨が何本か折れるような鈍い音が鳴り、カズトは血反吐を吐きながら数メートルほど吹き飛び、ゴロゴロと地面を数回転。

 

「━━━━ッッ!!!」

「カズト!」

 

 声にならない声をあげながら激痛に悶えるカズト。ダクネスが叫び、心配そうに一度だけ振り返ったが、すぐに悪魔の方へ向き直って油断なく大剣を構える。前衛として、目を放すわけにはいかない。

 

「カズト、しっかり……!」

 

 と、どこから現れたのか、クリスがいつの間にやらカズトの側で心配そうに顔を覗き込んでいた。

 

「ハハッ! いい気味だ! ようやく溜飲が下がったぜ!」

 

 笑う悪魔を、ダクネスとクリスがキッと睨みつける。

 

「おっと、そんなに睨むなよ。大体、話も聞かずに攻撃してきたのはそっちだろ?」

「当たり前だ! エリス教徒として悪魔なんぞの存在が容認出来るか!」

「チッ、これだから教会関係者はよぉ……まぁいい、とりあえず聞け。俺様は巨大な漆黒の魔獣を探してるんだ。まぁ、その件は少し前に他の奴と話が着いてる。そいつらがその魔獣を連れてきてくれりゃあ、それで俺様は手を引く」

「……それが何だというんだ?」

「取引と行こうじゃねぇか。お前らがここから立ち去って邪魔しねぇっていうなら、俺様はもうお前たちに手出ししねぇ」

「ふざけるなッ!! 悪魔なんかの言う事を聞く訳ないだろうが!!」

「おいおい、後ろの仲間は良いのか? どう見たって重症だろ? それこそ、ポーションの類いじゃすぐには治らない程度にはな。いいか、俺様は見逃してやるって言ってんだ。それが分かったら、さっさと━━━」

「ヴァイパー!」

「━━━!?」

 

 蛇のようにうねる閃光が走り、悪魔は慌てて拳で弾く。閃光はシュルリと辿った軌跡を戻って行き━━━その先には、悪魔が石を投げて重症を負わせた筈の男が立っていた。

 

「お前は……っ! 何でピンピンしてやがるんだ!? ポーション程度じゃ治らねぇ筈だし、アークプリーストが居る訳でもねぇのに……!」

「自分で治したんだよ。ヒール」

 

 カズトは回復魔法を自分に掛けてみせる。傷や骨折は既に治してあるので別に回復魔法を掛ける意味はないのだが、悪魔に見せる為に使っただけだ。

 ……因みに、自分で治したと言ってはいるが、その前にクリスからポーションをもらっている。あまりの痛みで魔法の詠唱もままならない程だったが、ポーションのおかげで何とか魔法を使える程度には回復し、魔力を練り上げ強めの回復魔法を掛けて完治させたのだ。

 

「攻撃魔法と回復魔法を使えるだと……!? そんな職業は……!」

「あるだろう? 一つだけ、どんな職業のスキルも魔法も覚える事が出来るクラスが」

「…………冒険者か!?」

 

 驚くと同時、悪魔はゲラゲラと笑った。

 

「お、お前はそんな強い魔力持ってるくせに、クラスは冒険者なのかよ! 傑作だぜ! なんだ、ウィザードやプリーストの適性が無かったのか!?」

「そのリアクション飽きたよ。ライト・オブ・セイバー!」

「うおっ!?」

 

 光の刃が悪魔を切り裂かんと襲うが、悪魔は間一髪で避ける。

 

「危ねえな……。なんだ、お前もまだやる気なのかよ?」

「当たり前だろう? さっきは油断しただけだ。今度はさっきのようにはいかんぞ」

 

 カズトがそう言うと、悪魔は溜め息を一つ吐き。

 

「そんなら、今度は二度と立ち上がれないようにしてやるぜ!!」

 

 叫ぶような声と共に悪魔が飛び上がり、先ほどと同様にカズトへ石を投げ付ける。

 同時、カズトは左へ、クリスは右方向へと跳んだ。標的を失った石は地面へと着弾。

 

「甘いんだよ!!」

 

 悪魔が叫び、二つ目の石を投げた。どうやら左右の手に隠し持っていたらしい。

 それはカズトが跳んで避けた方へと凄まじい速度で飛んでいった。確実に直撃コースであり、速度から考えても今から回避するのは不可能。

 そして、石はカズトの頭に直撃した。

 

「「カズト!!」」

 

 ダクネスとクリスが悲鳴のような声をあげ、悪魔はニヤリと笑う━━━が、その表情は次の瞬間、驚愕に変わる。

 石は確かにカズトの頭に直撃した。少なくとも一般人であれば、頭が熟れたトマトを地面に叩きつけるかのような状態になっているであろう速度で、だ。

 しかし、パァンという音を立てて砕け散ったのは石の方であり、カズトはその衝撃で背中から地面に倒れた。が、彼は次の瞬間には地面に手を着きながら足で虚空を蹴り、その反動でヒョイと起き上がった。

 

「……は?」

 

 悪魔は地面に着地しながら声を漏らした。まるで、何が起こったか分からないとでもいうように。

 いや、実際に悪魔は目の前で何が起きたのかよく分からなかった。

 その豪腕に任せて思い切り石を投げた。少なくとも、先ほどはこの男を瀕死の重症に追い込んだ程の威力であった筈だ。しかも先ほどと違い、胴体ではなく頭に直撃させた。

 だというのに、今は何事もなかったかのようにピンピンしており、頭に着いた石の破片を払っている。

 

「お、おい、カズト……? 平気なのか……?」

「ああ、大丈夫だ。……まぁ、歩いてたら柱に軽く頭をぶつけた、ぐらいには痛かったけど」

「そ、そうか……」

 

 ダクネスとクリスも目の前で起こった事がよく分からず、呆気にとられている。胴体に受けた時は瀕死の重症を負ったのに、頭に当たった時は何故ピンピンしているのか。

 まぁ、その答えは至極単純。石が直撃する直前、カズトはバーサークを使用したのである。それによって一時的にダクネス級の防御力を得たカズトは、石が頭に直撃しても「ちょっと痛かった」程度で済んだという訳だ。

 

「さて、それじゃあ反撃と行こうか」

 

 カズトは不敵な笑みを浮かべてそう言った。




魔法を使う時に「マンティス!」じゃ格好がつかない気がしたので「ヴァイパー!」にしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。