この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

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後編は4000字ちょいぐらいかなーって思ったら一万超えたでござるの巻。


16.悪魔退治 後編

「さて、それじゃあ反撃と行こうか。ダクネスはクリスの盾をしながら、隙を見て攻撃を加えてくれ。牽制するだけでもいい。クリスは援護を頼む」

「え? あ、ああ、分かった……」

「……いや、カズトはどうするの?」

 

 カズトは二人に指示を出し、ダクネスはまだ頭が若干混乱しているのか流れのまま生返事を返し、クリスは逆に質問を返す。今の指示だと、まるでカズトがダクネスの盾を必要としていないかのようだったので、心配になったのだろう。

 その返答は、普通に心配になるものであったが。

 

「俺はダクネスと一緒に前衛を担当するよ」

「それは……、……大丈夫なんだね?」

「ああ、心配要らない」

 

 先ほど瀕死の重症を負わされたばかりで心配だが、その後に同じ一撃を頭に受けたというのにピンピンしているし、何より短い付き合いではあるがカズトが無茶な作戦を立てたりしない事を知っている━━他の冒険者達の間でもそう評されている━━ので、クリスはカズトの言葉に頷いた。

 

「……分かった、それなら任せるよ」

「やれるもんならぁ━━━」

 

 悠長に会話していた三人だが、当然その会話を悪魔も聞いていた訳で。その間に精神を落ち着けた悪魔は、カズトに向かって襲い掛かった。

 

「やってみろやぁっ!!」

 

 叫ぶと同時、全力の左回し蹴りを繰り出す悪魔。対するカズトは、その蹴りを胴体で受け止めた。脇腹に凄まじい衝撃が走り、僅かにカズトの表情が歪むが歯を食いしばって耐え、両腕で悪魔の足をガッチリと掴んだ。

 

「このっ……離しやがれ!」

 

 叫び、今度は右の拳を繰り出すも、カズトは右腕で悪魔の足を押さえ込んだまま左腕で悪魔の拳を防ぎ、更に悪魔の右腕もカズトは左腕で押さえ込む。

 

「ダクネス! 今だ!」

「……っ! ああ!」

 

 普段から攻撃役を任されない事と、最弱職の冒険者であるカズトが悪魔を押さえ込むという目の前の事態に一瞬の間があったが、ダクネスはすぐに気持ちを切り替え、悪魔に向かって大剣を振りかざす。

 

「この……っ!」

 

 対する悪魔もダクネスの力の強さだけは知っているので、右腕と左足を拘束されている現状、ダクネスがいかに不器用であろうとも攻撃が当たってしまう可能性が高く、脅威である。

 そう思い、フリーの左腕でダクネスに反撃を入れようとしたのだが━━━

 

「うお……っ!?」

 

 その直前、カズトが押さえ込んでいた悪魔の腕と足をパッと離した。それによりバランスを崩した悪魔はタタラを踏んで後退し、結果ダクネスの剣は地面を抉るだけに終わった。

 だが、カズトが跳び上がり、身体を縦に一回転させつつ渾身のかかと落としを悪魔の脳天に叩き込んだ。あまりの威力に悪魔は地面に顔を打ち付け、頭の形に合わせて地面が少し陥没。

 更にカズトは間髪を入れずに悪魔の頭にサッカーボールキックを叩き込む。やはり凄まじい威力があり、悪魔は成す術もなく蹴りを受け、十メートル近く先まで吹き飛んだ。

 

「く、クソが!」

 

 悪魔は悪態をつきながらも受け身をとって着地━━━したのだが、そこへカズトの飛び蹴りが顔面に突き刺さる。悪魔は吹き飛ばされないようしっかりと踏ん張ったが、地面を削りながら数メートル後退。

 そして、カズトは自分が踏んづけている悪魔の顔から飛び退こうとして━━━右足を悪魔に掴まれた。

 

「しまっ━━━」

 

 悪魔は掴んだカズトを振り上げると、思い切り地面に叩きつけた。カズトの身体に凄まじい衝撃が走り、地面が砕ける。普通なら即死級の威力だが、バーサークで防御力が高まっているカズトはその程度で死にはしない。

 とはいえ、痛いには痛いのだ。カズトは脱出しようと焦り、自分の右足を掴んでいる悪魔の手を、フリーの左足で蹴って離させようと試みるも、体勢が悪くて力が上手く入らない。

 再び悪魔に振り上げられ、衝撃に備えようとしたが、今度は横にスイングさせられ、そのまま投げ飛ばされた━━━その先には、ダクネスが居た。

 

「あぐっ!」

「ぐぇっ!」

 

 カズトは人間砲弾の如く飛ばされてダクネスとぶつかり、二人は抱き合う体勢でゴロゴロと地面を数回転。

 

「いたた……すまん、ダクネス」

「……なに、気にするな。今のはちょっと気持ちよかった」

「……お前、こんな時でもブレないな」

 

 最早、自分の本質(ドMな性癖)を隠そうともしないダクネスに呆れ返るカズト。エリス教徒として悪魔は許さないのではなかったのか。

 カズトは心配するだけ無駄だったと悪魔の方へ視線を向け━━━

 

「やべ……!」

 

 悪魔がインフェルノの詠唱をしている事に気付いた。既に七割がた詠唱が済んでおり、今から詠唱を止めるのは不可能だ。魔法を反射するリフレクトの詠唱も間に合わないし、開発中の魔法を無力化するスキルも完成していないので使えない。つまり、防ぐ手立てがないのだ。

 また、どこかで息を潜めているクリスも今は動けない。彼女は基本的にカズトやダクネスが敵の意識を引いている間に補助や攻撃を行うのが役目である。悪魔は今、魔法の詠唱をしておりカズト達に意識を向けているように見えて、実はクリスの襲撃を警戒している。というか、クリスを釣り出そうとしているのだ。仲間同士の絆を大事にする冒険者であれば、向かってくる可能性が高い。

 だが、仮にクリスが釣れなかったとしても問題ない。その時はそのままインフェルノをカズトとダクネスに叩き込むだけなのだから。

 

「ダクネス、悪い」

「ひゃ……!? か、かかかかカズト!?」

 

 カズトが右手の半ばまでを、ダクネスの胸当ての中に下側から突っ込んだ。どういう事かと言うと、カズトの右手の指先はダクネスの豊満な胸と、その上から装備している胸当てに挟まれている状態である。完全にセクハラだ。

 そして、左手はダクネスの服の襟元を掴んでおり、カズトは無慈悲に告げる。

 

「俺の代わりにあのクソ悪魔に一発おみまいしてきてくれ」

「にゃに!?」

「それぇーい!」

「うわあああぁぁぁぁっ!?!?」

 

 投げた。背負い投げに近い要領で、カズトはダクネスを思い切り投げたのだ。悪魔の方へ向かって。

 

「━━━!?!?」

 

 対する悪魔は、物凄い速度で飛んでくるダクネスに目を剥き、あともう少しで放てる筈だったインフェルノの詠唱を思わず止めてしまった。まさか敵が自らの仲間を投げ付けてくるとは思わない。

 悪魔とダクネスは、両者共に頭からぶつかった。漫画的な表現をすれば、目から星が飛び出るような衝撃である。痛くない筈がない。まぁ、互いに血は出ていないので、精々コブが出来た程度のダメージであろうが。

 そんな、痛みに頭を押さえている悪魔の隙を、カズトが見逃す筈もなく。彼は素早く悪魔の側まで近づくと、正拳突きの構えを見せ━━━悪魔の方もカズトが寄ってくると予想していたのか、彼の接近に合わせて蹴りを繰り出した。

 が、これを見切っていたかのようにカズトは後方へ飛び退いて蹴りを回避。追い掛け、悪魔は追撃しようとしたのだが。

 

「ぐがぁっ!」

 

 背中に激痛が走った。クリスが悪魔の背に飛び乗り、マジックダガーを突き刺したのである。

 

「くっ……クソが!」

 

 振り向きもせずに腕で背後を払うが、クリスは既に離れており、虚しく空を切る。

 

「はああぁぁっ!」

 

 そこへ、更にダクネスが切り掛かった。

 悪魔は幾度かの攻防を経て、彼女の剣は目を瞑っていても避けられるんじゃないかと思うほどに下手くそだという事を知っている。知ってはいるのだが、下手くそな割に攻撃力が高いという事も知っている。

 故に、悪魔は両腕をクロスさせて防御の体勢をとった。特に何かを思ったわけでもない咄嗟の行動であったが、結果的にそれは正しかった。

 ダクネスは唐突に背後から軽い衝撃を受け、更に一歩前へと踏み出したのだ。カズトが後ろから軽く蹴ったのである。

 それにより、本来なら地面を抉るだけで終わる筈だった彼女の剣は、悪魔の腕に深々と斬り裂いた。もしも片腕だけで防御していたら斬り落とされていた事だろう。

 

「ぐうぅ……っ! この━━━」

「ヴァイパー!」

 

 悪魔がダクネスに蹴りを入れようとしたが、カズトはその隙を突いてヴァイパーを走らせた。蛇のように走る閃光が、悪魔の腕に食い込んでいるダクネスの剣を更に押し込み━━━右腕を斬り落とした。

 

「ぐおぉっ……! ……づあぁっ!!」

「あぐぅっ!」

 

 悪魔は激痛に耐えながらも、ダクネスを蹴り飛ばした。吹っ飛んできたダクネスを、カズトが受け止める。

 その間に悪魔は翼を広げて飛翔。

 

「クソが、もう頭に来たぜ!! これから街を襲撃してきてやる!!」

「なっ……!?」

 

 ついにキレて我慢の限界に達してしまったらしい悪魔の言葉に、ダクネスは焦った。

 この悪魔は強い。この場に居る三人以外で冒険者達が討伐隊を結成したが、それらをたった一体で返り討ちにする程に。それはつまり、今街に居る冒険者達ではこの悪魔に対抗出来ない事を意味する。

 

「お前らが悪いんだぜ? 俺様の言葉に耳を貸さず、素直に退かなかったお前らがな! あばよ、クソッタレども!」

 

 悪魔がそう吐き捨て、飛び去ろうとした、その時。いつの間にかカズト達のところへ戻ってきていたクリスが叫んだ。

 

「カズト、撃ち落として!」

「分かっている!」

 

 そう答えながら、カズトは右手を左の腰辺りに置き、やや腰を落として居合のような構えを取る。

 そして━━━

 

「旋空!!」

 

 カズトが右手を勢い良く振り抜き、しかしすぐに引き戻した。

 それにより光の刃が波打ち━━━半ばから()()()()()()

 その刃はグルグルと回転しながら悪魔を目掛けて飛んでゆき、

 

「━━━っ!?」

 

 それに気付いた悪魔が体勢を変えて回避━━━しようとしたが、片翼を斬り落とされてしまった。
 そのまま墜落し、地面に激突する悪魔。好機である。

 それをカズト達が見逃す筈もなく、三人共が悪魔に向かって走り出した。特にバーサークを使っているカズトと、速度上昇の支援魔法を掛けられているクリスは速い。

 しかし、凡そ十メートル程の距離を詰めたところで、カズトが足を(もつ)らせたかの如く派手にすっ転んでしまった。

 

「カズト!?」

 

 それに気を取られ、クリスが足を止めてしまう。そんな仲間思いの彼女の性分が仇となった。

 

「俺の事はいい! それより悪魔を!」

 

 カズトの叱咤にクリスはハッとして悪魔の方へ視線を戻すも、時既に遅し。悪魔は片翼だけであるにも関わらず飛翔し、グラつきながらも飛び去ってしまった。

 クリスが全力で走れば追いつく事は出来るだろう。しかし、クリス一人で追っても意味がない。空を飛ぶ敵に攻撃する手段が無いし、仮に悪魔が地上に降りてきたとしても、クリスでは悪魔を仕留めるだけの攻撃力が無い。

 

「……カズト、大丈━━━」

 

 仕方なくクリスはマジックダガーを納刀しながらカズトの下へ駆け寄ろうとして、異変に気付いた。ダクネスも同様に。

 

「カズト!? その髪どうしたの!?」

 

 カズトの髪色が、白と黒が入り混じった状態になっていたのだ。割合は半々といったところか。

 それを聞いたカズトは胸ポケットから小さな手鏡を取り出し、自分の頭を見て。

 

「……ああ、これは魔力が枯渇してる合図だな」

 

 冷静にそう返した。

 カズトがこの髪の事を知ったのは、ほんの数日前である。クリスが用事で悪魔探索に行けなかった日、カズトはいつもの場所で魔法の実験を行い、魔力が枯渇したのでそのまま帰路に着いたのだ。

 いつもなら魔力が枯渇したら瞑想である程度回復させてから戻るのだが、枯渇状態でどれぐらい動けるかの実験をしておこうと思い、そのまま帰る事にしたのだ。

 そして、門番である守衛に声を掛けられ、始めて気付いたのである。自分の頭が白くなっている事に。

 それからウィズに相談して、色々調べていく内に魔力が枯渇すると何故か頭髪が白くなる、という事が判明したのであった。

 因みに、どこかの爆裂魔法を操る紅魔族の少女は爆裂魔法を撃つたびに倒れて動けなくなるが、カズトがそれぐらい魔力を振り絞ると頭髪は全て真っ白になる。今の半々の状態は、その一歩手前だ。……と言っても、上級魔法を一発か二発撃てる程度の魔力は残っているのだが。

 

「……それは元に戻るのか?」

「ああ、魔力が回復すれば元の黒髪に戻る」

「そ、そうなんだ……。変わった体質だね……」

 

 全くである。カズトはあまり気にしてはいないが。……いや、これが原因でハゲたりしないかという心配は少しだけしていたりするが。

 

「それより、街に急いで戻らなきゃいかん……のだが、テレポートを使うには魔力がちょっと足りないんだ」

 

 テレポートは上級魔法の中でもダントツで魔力消費量が多い。それこそ、他の上級魔法の数回分に匹敵するので、今のカズトの魔力量では使えないのだ。

 

「なら、私がカズトを背負っていこう。クリス、すまないが剣を持って行ってくれるか?」

「わかった」

「ああ、いや待ってくれ。瞑想というスキルがあってな、それを使うと魔力の回復速度が早くなるんだが……そうだな、数分待ってもらえればテレポートが使えるぐらいには回復すると思う」

 

 瞑想だけではそれほど早くは回復しないが、カズトの身体には無限の魔力を司る神器がある。そのおかげで魔力の回復速度が普通の人よりも飛び抜けて早く、瞑想と組み合わせれば相乗効果により回復速度が更に加速するのだ。その辺りの事情はカズト本人とウィズ以外知る者は居ないが。

 

「そうなのか?」

「ああ。だから、少しだけ時間をくれ。ダクネスとクリスはその間に身体を休めて━━━」

「待って。それだとテレポートを使った後、カズトは動けなくなっちゃうんじゃない?」

 

 クリスの指摘は尤もである。テレポートを使えばアクセルの街まですぐに帰還出来るが、その場合カズトは魔力がスッカラカンになり、完全な役立たずになってしまう。

 

「……それはそうだが、今は一刻も早く街へ戻る事を優先するべきだろう?」

「確かにそうだけど、あたしとダクネスだけじゃ悪魔を討伐するのは無理だよ」

 

 戦闘前は悪魔殺すべしと意気込んでいたクリスだが、実際に戦ってみてカズト抜きでは討伐する事が出来ない事を彼女は悟った。二人だけでも負けはしないが、如何せん攻撃力が足りず、討伐にまでは至らない。

 

「……だが、幾らあの悪魔が片翼を失っているとしても、俺たちが走って追いつけるような速度じゃなかったぞ。仮に走っていったとして、その間に街で被害が出る」

「あの悪魔はかなりの手傷を負ってるから、街の冒険者達でも時間稼ぎは出来ると思う。なんでか分からないけど、レベル三十超えてるのにアクセルの街に居着いてる人もいるし」

「……いや、だが走って行ったら二人が疲れてしまうだろう? それによる戦力ダウンも━━━」

「それなら大丈夫。疲労回復のポーションをあたしが持ってるから」

 

 そう言ってクリスがカバンからポーションを二本取り出した。その名の通り、飲むと疲労が回復するポーションである。

 ただし、疲労は回復しても眠気までは取れないので、どこかの才牙を五つ持っているバスターのように三日三晩戦い続けるような真似は出来ない。

 さておき、疲労による戦力ダウンが無いとはいえ、やはり走って行けば街に何かしらの被害が出る可能性が高い。

 ぶっちゃけてしまえば、街にどんな被害が出たとしても━━━それこそ人死にが出たとしても、カズトとしては多少の罪悪感が湧く程度だろう。彼にとって大事なのはウィズであり、あの悪魔が幾ら強いとはいえ、ウィズに勝るとは思っていない。

 が、もしも人死にが出ようものなら、ウィズはきっと悲しむだろう。例えそれが、自分とは無関係な人であったとしても。

 だからこそ、カズトは渋る。

 

「……いや、やっぱりテレポートを使って戻った方がいいと思う。瞑想を使ったとしても、ここから街までの距離では今さっきの戦闘のように立ち回れるほど回復しないだろうし、どの道俺は役に立たないと思う」

「それなら、私を盾にして攻撃魔法を撃ってくれ。どうせ私の攻撃は当たらないからな、カズトが攻撃魔法を撃ってくれれば悪魔にダメージが与えられる」

「……いや、しかしな」

「というか、さっきもクリスが言った通り、私とクリスだけでは悪魔の討伐は無理かもしれない。カズトの力が必要なのだ」

「……うーむ」

 

 渋ってみたが、二人の意思は固いようだった。他の言い訳も特には思いつかない。

 どうしたものかと悩んでいると。

 

「━━━ぅおわ!?」

 

 カズトの身体を、ダクネスが抱き抱えた。俗に言う『お姫様抱っこ』という奴である。……完全に男女の立場が逆だが。

 

「問答をしている時間が惜しい。悪いが、このまま連れて行かせてもらうぞ」

「よし。じゃあ行こうか、ダクネス」

「いや待って。よしじゃない何も良くない。二人の決意が固いのは分かった行くのはもう構わないからこの状態で連れて行くのはやめろください」

 

 もはやテレポートで行くのは諦めたカズトは、ダクネスに背負われる形で連れて行かれる事になった。

 

 

 

 

 

 

「━━━街が見えてきたよ!」

 

 街道を走りながら、クリスが声を掛けた。彼女の隣では、カズトを背負ったダクネスが並走している。

 一応、ダクネスもカズトに速度上昇の支援魔法を掛けられているので、それなりの速度で走っているものの、クリスはダクネスに合わせて速度を抑えている。それだけクリスは速いのだ。

 背負われているカズトはダクネスの首に腕を回し、目を閉じて瞑想に集中していた。魔力がそれなりに回復したおかげで、白くなっていた髪は全て黒に戻っている。

 そして、アクセルの街並みを見て、ダクネスが首を傾げる。

 

「……何か変じゃないか?」

「……そうだね」

 

 二人が感じた違和感。それは、街の人々が特に慌てている様子もなく、いつも通りな点である。あの悪魔が街を襲撃していたら、街の人々はもっと慌てているだろう。

 

「どういう事だ……?」

「わかんない……けど、とりあえず守衛さんに話を聞いてみよう」

 

 二人は門番である守衛のもとまで駆け寄り、話を聞いてみる事に。

 

「あの、すみません。最近街を騒がせている悪魔が来ませんでした?」

「悪魔? いや、そういう話は聞いていないが……あー、そういえばさっき、あっちの工事をしている方が何か騒がしかったが……」

 

 クリスとダクネスは守衛が指差す方を見る。少し距離があり、ここからよくは見えないが、外壁の拡張工事をしているようだった。

 と、ここでずっと黙っていたカズトがダクネスの肩を叩き。

 

「俺が話を聞いてくるよ。疲れてるだろうし、二人はここで休んでてくれ」

「ん、私はまだ平気だが?」

「んー、あたしはちょっと一息つきたいかな」

 

 体力バカのダクネスは兎も角、クリスの方は汗だくだった。加減して走っていたとはいえ、向こうからここまで休まず走りっぱなしだったのだ。無理もない事である。

 ダクネスはまだ平気だと言っているが、クリス一人だともしも悪魔が襲撃してきた時、盾役が居なくて困ってしまうだろうと説得し、二人をその場に残してカズトは一人、工事を行っている場所へと歩いて行った。

 

「……うん?」

 

 そして、何やら見覚えのある水色の髪をした女性が、ガテン系のおっさん達に混じって外壁の工事を行っているのを見つけた。

 

「……アクアさん?」

 

 どう見ても女神アクアである。

 ……少し前までは様付けで呼んでいたカズトだが、彼女のあまりにもアレな態度に様付けからさん付けに変わってしまった。何というか、ファンだったアイドルや芸能人の残念な一面を知ってしまったような感じである。彼女は女神なので、信仰心が薄れたと言うべきかもしれない。

 さておき、何故このような場所で彼女が働いているのか。カズトは話を聞いてみる事にした。

 

「アクアさん」

「ん? あら、あなたこの間の……えっと…………良い人じゃない! どうしたの?」

「…………」

 

 名前を覚えられていないらしい。自己紹介はキチンとした筈なのだが。

 

……まぁいいですけどね。お久しぶりです、アクアさん。えっと……何で工事の仕事を?」

「そんなの、お金を稼ぐ為に決まってるじゃない」

 

 彼女曰く、和真(カズマ)がまず装備品を揃えようと言い出したのだが、カズトから貰った一万エリスでは碌な装備品が買えず。働いてお金を稼ごうという事になって飲食店や売り子のバイトを始めたが、向いていなかった為かクビになり。最終的に、この工事の仕事へ行き着いたとの事である。

 ……彼女は見栄を張って『向いていなかった為』などと言っているが、大体はアクアの所為でクビになっていた。そんな事まではカズトの知る由もないが。

 

「……そうですか。そういえば、少しお聞きしたい事がありまして」

「なにかしら? 私で良ければ何でも答えてあげるわよ。あ、でもスリーサイズとかは流石に秘密だからね? 女神である私にそんな邪な感情を抱いちゃダメよ?」

「…………」

 

 ━━━微塵も興味ないです。

 ……などと言おうものなら彼女は拗ねてしまうので、口にはしないが。

 

「……えっと、守衛さんに聞いたんですけど、さっきこの辺りが少し騒がしかった、と」

「あー、それはアレね。さっき悪魔が襲撃してきたのが原因ね」

「……!?」

「浄化してやろうと思って破魔魔法を撃ち込んでやったんだけど、逃げられちゃったのよね」

「……!?!?」

 

 あの悪魔は既に街へ辿り着いていたのか。

 いや、悪魔は悪魔でも別の種類かもしれない。悪魔がそんなにポコポコ湧くとは思わないが、万が一という事もある。念の為に確認しておくべきだ。

 

「えっと、その悪魔ってどんな奴でした?」

「ん? そうね、身体は大きくて何故かそこら中傷だらけで、腕と翼が片方ずつ無かったわね」

「━━━━」

 

 間違いない。あの悪魔は既に街へ辿り着いていたようだ。が、アクアの破魔魔法によって追い払われたらしい。カズト達が手傷を負わせたとはいえ、あれだけ強大な悪魔を一人で追い払うとは、流石女神と言うべきか。

 

「あー、思い出したら腹が立ってきたわ! あんのクソ悪魔、次に見かけたら絶対浄化してやるんだからっ!!」

「…………」

 

 地団駄を踏むアクアを見ながら、カズトは顔を顰める。彼女が怒ると、その感情を受信してカズトの胸の辺りがチクチクと痛むのだ。特に、今は目の前に居るのでチクチクどころかズキズキ痛む。耐えられない程ではないが、やめてほしい。

 カズトはアクアを適当に宥めつつ礼を述べ、その場を後にした。

 それからクリス達の下へ戻ると、彼女達は門の近くの木陰に座って休んでいた。

 

「あ、カズト。どうだった? 何かわかった?」

「あー、うん。えっと、悪魔は既に街へ来ていたみたい」

「えっ!?」

「なんだと!?」

 

 驚きにあまり、思わず跳び上がる二人。特にダクネスなどは、今にも掴み掛かりそうな雰囲気を醸し出している。

 

「街への被害は!?」

「全く無いってさ」

「なに……? どういう事だ?」

「んー……聞いた話では、たまたまその場に居合わせたアークプリーストの女性が追い払った……らしいよ」

 

 嘘は言っていない。とある日本人によってこの世界に特典として連れてこられ、お金を稼ぐ為に外壁の拡張工事のバイトをしていた元女神であるが、アークプリーストでたまたまその場に居合わせたのは間違いないのだ。

 

「アークプリーストねぇ……あたし達が手傷を負わせたとはいえ、あの悪魔を追い払えるなんて、かなり力の強い人なんだね」

「そうだな。因みに、どのような人だったのだ?」

「ん? んー、と……そ、そうだなぁ……」

 

 ダクネスの質問に視線を泳がせながらも、カズトは女神アクアの特徴を語った。

 

・水のように透き通るような水色の髪と瞳をしている

・青色の服とミニスカート着用

・某巫女さんの様に脇出しルック

・とっても美人

 

 以上。女神アクアの普段着姿である。

 とてもじゃないが、ノースリーブの白シャツに作業用ズボンの工事のおっさんスタイルだった、などとは言えない。一応、アクアは女神様なので沽券に関わるし、そもそも正直に話したところで信じてもらえるとは思えない。

 ……とても楽しそうに仕事をしていた彼女が、女神の沽券とかそういった事を気にするのかどうかは分からないが。

 

「ふーん……水色の髪に青い服、ねぇ……。そんな目立つ人が居たらとっくに気付いてると思うけど……あたし達が知らないって事は、どこかから流れてきた人なのかな?」

「んー、そうなんじゃない?」

 

 適当に相槌を打っておく。主に天界とかから流れてきたのだろう、などと心の内で思いながら。

 

「それより、あの悪魔はもう街に寄り付かないと思うし、解散しないか? 多少は魔力を回復させたとはいえ、俺はまだまともに戦えない」

「そうだな、今から探してももう見つからないだろう。また明日、探しに行くのがいいと思うが……」

 

 カズトとダクネスが、チラリとクリスに視線を送る。

 

「……ごめんね、明日はちょっと外せない用事があるから、付き合えないんだ」

 

 クリスは申し訳なさそうにそう言った。

 ここしばらくは悪魔を探索していた三人だが、クリスだけはいつも一日か二日置いてから探索に加わっていた。何やら他にやらなければならない仕事があるとの事だが、聞いてもはぐらかされるだけなので二人は何も言わない。

 

「構わないよ、別に」

「私もだ。クリスが居ない間、私が悪魔を警戒していよう」

「ありがとう、二人共。ごめんね」

 

 こうして話は纏まり、三人は解散した。

 ……しかし、カズトだけは二人と別れ、人混みに紛れた時点で潜伏スキルを使って周囲に溶け込み、路地裏に入って光の屈折により姿を眩せるライト・オブ・リフレクションの魔法を使って透明化。そこまでしてから来た道を戻り、クリスの跡を尾行しだした。

 カズトが何故、クリスの跡を追うのか。それは、カズトが感じたクリスからの感情が原因である。

 カズトは神器を身体に入れた影響からか、女神であるアクアの感情を受信する体質になっている。

 それはアクアが女神であるからであり、他の有象無象の一般人━━━ましてや、この世界に来てからずっと一緒に居るウィズからも感情を受信した事は無いというのに、クリスからは何故かそれを感じた。

 どう考えてもおかしな事である。だからこそ、カズトはクリスの事が気になり、ライト・オブ・リフレクションと潜伏スキル、更には足音を消すスキルまで使って彼女の跡を尾けているのだ。

 人を避け、建物を曲がって路地裏へ入り、奥へ奥へと進んでゆく。やがて、何度目かの曲がり角を曲がった時の事。

 

「━━━なっ」

 

 カズトは思わず声を漏らしてしまった。

 そこは、行き止まりになっている場所である。周囲は三メートル以上の壁に囲まれており、他に横道などは無い。

 だというのに、クリスの姿はどこにも無かった。

 

「…………」

 

 カズトはもうクリスに見つかる覚悟でその場を調べる事にした。壁や床に細工は無いか、魔法やマジックアイテムの痕跡は無いか。

 十数分ほど徹底的に調べ尽くした後、これ以上は無駄だと思ったカズトは諦めて帰路に着く事にしたが、クリスの謎が深まっただけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。バーサークを使って肉体を酷使した反動で、カズトの身体は凄まじい筋肉痛に襲われ、彼は一日中寝込む事になった━━━というのは余談である。




ウィズ「私の出番が全く無かったんですが……」

━━━次話まで! 次話までお待ち下さい! 次話になれば出番が増えるハズです……!!(パラ○ス風)



因みに『旋空』もワールドトリガーから取ってます。未完成なのでディスガイア(無印)の風車斬りみたくなってますけどね。
あと、今更ですがカズマさんは漢字とルビを合わせて和真(カズマ)と表記する事にしましたのでご了承くだサイヤ人m(__)m

あっ、あと王都編の話を投稿して二日後?にこの小説がランキング入りしていました。
これも読者の皆さんのお陰です。ありがとうございます。
これを活力に引き続き執筆を頑張りたいと思います。(投稿が早くなるとは言ってない)
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