この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

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3.心優しい不死の王

「……んっ……」

 

 路地裏で倒れた後、再びカズトが意識を取り戻した。

 

「……ここは……?」

 

 彼の視界に映ったのは、見覚えのない天井である。身体を起こして周囲を見渡せば、やはり見知らぬ部屋の中。

 しかも、何だかかなり気怠い感じがある。まるで二十キロのフルマラソンを完走した後のような状態だ。

 

「あ、目が覚めましたか?」

 

 部屋の入り口から姿を現した、妙齢の女性が声を掛けた。

 二十歳ぐらいであろうか。腰辺りまで届こうかという長い髪は少しウェーブが掛かっており、色は明るめの茶色。服装は魔法使い然とした地味めの出で立ち。出るところは出ていて、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる、女性の誰もが羨むであろう体型をしているが、少しばかり顔色が悪いように見受けられる。

 

「……えっと……、……すみません、自分はどうしてここに居るのでしょうか?」

 

 目の前の女性は誰だとか、ここは何処だとか色々と聞きたい事はあるが、意識を失う前の記憶がどうにも曖昧である。それに妙な倦怠感もあって頭がちっとも働かない。

 それ故か、第一声にそのような言葉が出てきた。

 対して、彼女は柔和な笑みを浮かべながら答える。

 

「ここは私の経営しているマジックアイテムを取り扱ったお店で、私の家でもあるんですけど、あなたが道端に倒れているのを偶然発見しまして。それで、急いでここに運び込んだんです」

「そ、そうだったんですか……すみません、お手数お掛けしてしまいまして……」

「いえいえ、無事で何よりですよ。それで、あの……えーっと……」

 

 彼女が言葉を詰まらせ、カズトはすぐにその意味を悟った。

 

「あ、自分はカズトと言います。スズキカズトです」

「カズトさんですね、私はウィズと申します。それで、カズトさんはどうして()()()()()を起こした状態で倒れていたんですか?」

「……え? 魔力の暴走、ですか?」

 

 全く聞き慣れない単語に、カズトは首を傾げる。何となく自分の中にある神器が関係しているのであろう事は察しているが、暴走とはどういう事なのか。

 女神アクアの『ボンッとなっていまう』という発言を思い出すが、見たところ彼の身体にはボンッとなったような形跡は見られない。

 そんな事を考えていると、ウィズが説明してくれた。

 

「えっとですね、カズトさんの身体に普通ではあり得ない量の魔力が溜まっていたんですよ。それが原因で、溜まりすぎた魔力が暴走を起こして発熱や意識の混濁といった症状が現れたのだと思うんですが、何故そんなにも魔力が溜まっていたのか気になりまして……」

「あ……そ、そうなんですか……」

 

 ━━━完全に神器が原因である。

 

 だが、それを馬鹿正直に話すのも憚られた。この世界での日本人の立ち位置という物が把握出来ていないし、そもそもどこまでの事が知れ渡っているのか━━━例えば、日本人は女神によって異世界から送られてきているという事などをこの世界の人々が知っているのかどうかが分からないのだ。

 もしも迂闊な事を言えば、異邦人として指名手配される可能性も━━世紀末的な格好をした人に聞いた感じでは限りなく低いではあろうが━━絶対にないとは言えない。

 なので、ここは当たり障りの無いようにスッとぼける。

 

「えっと……すみません、自分にもよくは分からないんです」

「そうなんですか……それは困りましたね。一応カズトさんの魔力を吸い出しておいたんですが、またいつ暴走するか分からないぐらいの魔力が体内に残っていますから、早めに原因を探って対処しないと……」

 

 再び発熱と意識の混濁を起こし、またもや気絶━━━最悪、女神アクアが言っていたようにボンッとなってしまう可能性もあり得る。それを思うと血の気が引く思いではあるが、それよりもカズトはウィズの言葉に一つ気にかかる点があった。

 

「あの、一つお聞きしても?」

「あ、はい。何でしょう?」

「ウィズさんは魔力を吸い出しておいた、と仰っていましたけど、それはどのような方法で、でしょうか?」

「えっ……あ、えっと……その、ですね……」

 

 途端に(ども)りだすウィズ。彼女は他人に言えない秘密を抱えているのだが、そんな事など知らないカズトは首を傾げるばかりである。

 暫く吃り続けていたウィズだが、やがて観念したかのように話した。

 

「……私がドレインタッチのスキルを使って、カズトさんの魔力を吸い出したんです」

「……ドレインタッチ?」

 

 聞いた事のない言葉に眉をひそめる

カズト。

 だが、ウィズはそんな彼の表情の意味を読み違えてしまった。

 

「そ、そうですよね、人間がドレインタッチを使えるなんておかしいと思いますよね。ですけど、実は私は……リッチーなんです! ちょっと事情があって、人間からリッチーになってしまったんですが……あ、あの、この事は他の方には内緒でお願いします! でないと私、この街に居られなくなってしまいますので……」

 

 そこまで言って、ウィズはカズトの表情を窺う。彼の表情は無表情であり、それはウィズから見れば拒絶や否定の念が込められているように見えた。

 だが、実際は違う。数秒ほどの沈黙━━ウィズには数十秒もの長い時間に感じられた━━を経て、カズトは口を開いた。

 

「あの……リッチー、って何ですか?」

「……えっ?」

 

 思いもよらぬ返答に、ウィズは思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。

 だが、この返答はカズトからすれば当たり前である。何せ彼は今日、この世界に降り立ったばかりなのだ。ドレインタッチがアンデッドにのみ使えるスキルである事や、リッチーが最上位に位置する最強角のアンデッドである事など、当然ながら知っている訳がない。

 しかし、ウィズからしてみれば、学生服という珍妙な服装をしているとしても、カズトが異世界人であり、それ故にこの世界における一般的な常識が著しく欠如している事など知る由もないのだ。

 だからウィズはカズトがアンデッドやドレインタッチの事を知っており、魔力を吸い出したという話をしてしまった時点で誤魔化しが効かないと思い込んで、自分の最大級の秘密を話してしまったのである。

 

 まぁ、つまり何が言いたいかというと━━━ウィズは勝手に自爆した。

 

 

 

 

 

 

 それから小一時間ほど経過して。

 

「━━━という訳なんです」

「……なるほど、そうだったんですか」

 

 カズトの話を一通り聞き終えたウィズがそう言った。

 カズトが何を話したかと言えば、全てである。日本人が異世界人である事、女神の導きによってこの世界に送られてきた事、その際に無限の魔力を持つ神器を自分の身体に入れてもらった事、この世界に来てまだ一日目である事等々━━━本当に全てを包み隠さず話した。

 何故なら、ウィズもまた全てを話したからである。彼女が元は人間であり、ある悪魔と取引きをして禁術を教えてもらい、アンデッドのリッチーとなった事や、この世界におけるアンデッドの認識などだ。

 そうしてウィズの秘密を知り、尚且つ彼女が命の恩人であるからこそカズトも包み隠さず話そうと決意したのである。

 

「日本人の方がどこからやって来るのか不思議でしたが、そういう理由だったんですね……」

「ええ。というか、俺としては日本人って結構昔から居るっていうのが驚きなんですが……」

「少なくとも、私が子供の時から見掛けていましたから」

「子供の時からですか……そう言えば、ウィズさんって何年ぐらい生きられているんで」

「二十歳です」

 

 ウィズが食い気味にそう言った。

 

「……えっと、それってリッチーになった時の年齢ですよね? それから何年」

「二十歳です」

「……あの」

「二十歳です」

「あ、はい」

 

 ウィズの言葉には有無を言わせぬ凄みがある。

 

「もう、駄目ですよカズトさん。女性に年齢を聞くなんて」

「はい……すみませんでした……」

 

 ウィズに年齢の話は禁句。カズトはしっかりと心に刻み込んだ。

 まぁ、ウィズの言っている事はあながち間違いでもない。彼女はアンデッドなので、既に死人であると言っても遜色ないのだ。年を取らない死人に対して何歳もクソもないだろう。

 更に突っ込んで言えば、カズトの「何年生きているのか」という言葉もおかしい。死人なのに生きているとは、これ如何に。

 

「そう言えば、カズトさんは冒険者なんですよね?」

「えっ……あ、はい。そうですけど……」

「よろしければ、私が魔法をお教えしますけど」

「えっ、いいんですか⁉︎ ……あの、でも俺、今は持ち合わせが余り無いんですが……」

「お金なんて要りませんよ。でも、あの……代わりと言ってはなんですが、私の事は秘密にして下さいね」

「も、勿論です!」

 

 ウィズの申し出はカズトにとって願ってもない事であった。元々はお金を払ってギルド側にクエストを貼り出してもらい、他の職業の人にスキルや魔法を教えてもらおうと考えていたのだ。

 それを、上級職であるアークウィザードの━━━しかも、リッチーとなる前は冒険者として第一線で活躍していたウィズに無償で魔法を教えてもらえるとなれば、飛びつかずにはいられないだろう。

 

 それからカズトとウィズは街の外に出た。そしてカズトは初級魔法と中級魔法、それとリッチーのスキルを幾つか教えてもらった。

 カズトはレベル一であるものの、初期スキルポイントが膨大であったので、まだまだポイントに余裕がある。そのポイントで上級魔法も、と思っていたカズトであったが、上級魔法を覚えるには魔法の詠唱や魔力の流れなどをきっちり覚えなければならないので、一朝一夕には覚えられないのだ。

 ついでに、何体かのモンスターがウィズの魔法やスキルの実験体となったのだが、それらの内死ななかったモンスター━━スキルや魔法の中には攻撃特化ではなかった物もあるので死に至らなかった━━をカズトがトドメを刺し、レベルが二に上がった。

 そして、全てがひと段落ついた頃。辺りはすっかり日が落ちていた。

 

「ウィズさん、何から何までありがとうございました」

「いえ、私も久々に楽しかったですから。気にしないで下さい」

「……クエストをこなしてお金が入ったら、ウィズさんのお店にお買い物に行きますね」

「……! はい、お待ちしています!」

 

 月の光に照らし出された彼女の笑顔はどこまでも美しく。そんなウィズの事を、カズトは綺麗だと思った。

 

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